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文献詳細

雑誌文献

臨床皮膚科21巻13号

1967年12月発行

展望

形態学

著者: 相模成一郎1

所属機関: 1大阪大学医学部皮膚科学教室

ページ範囲:P.1233 - P.1243

文献概要

はじめに
 生体を構成する組織や細胞の形態と生物学的機能との橋渡し,いいかえると,形態のもつ生物学的意義についてはVirchow以来多くの疑問が残されてきた。これらの疑問を解くためにいろいろの努力がなされてきたのである。細胞化学,位相差顕微鏡,紫外線顕微鏡,電子顕微鏡,X線顕微鏡,X線回析などの開発や応用がそれである。これらの形態学的手技は,それぞれの特長的形態を顕示すること以上に,形態のもつ生化学的知識や機能との関連性に重要な役割を果たしてきたのである。細胞の超遠沈分劃法が生化学と形態学との距離を短かくした功績も見逃すことはできないが一方,生化学からみた場合にも形態学がその進歩に貢献してきたことは大きい。例えば,角質や膠原線維の立体構造をX線回析像によつて決定しているのもその1つである1)
 さて,わが皮膚科学領域に於いても,いろいろの形態学的手技の導入によって新しい知見が加えられ,形態の記載が主である皮膚科臨床学にも影響が齎らされ,古典的皮膚科学における名称にも科学的裏付けがより強くなつてきている。鞏皮症が新しい観点から考えられるようになつた2)のもそのためであり,帯状庖疹と水痘との臨床的定義はなお存在していても,その原因は同一のウイルスに因ることを否定する者はない。19世紀末から本世紀はじめにかけての多くの紅斑を統一して命名したHebra3)の多形滲出性紅斑ですら,ウイルス疹,薬疹などの観点から見なおそうとの試みがなされている4)ことは,形態だけに依存している皮膚科臨床学の弱点を自ら露呈している証左ともとれ,同時に,形態のもつ生物学的意味を知ろうとする欲求のあらわれでもあるといえよう。更にまた,ヘマトキシリン・エオジン染色による有棘細胞癌の悪性度の判定や表皮内癌と基底細胞癌との鑑別診断の可能性だけで皮膚科医が満足していてよいのであろうかとの疑問は,癌の本態が明白でない事実に基因しているほかに,臨床治療学のみが皮膚科学のすべてでないとの命題からも当然であろう。この疑問がここに有棘細胞癌の一症例を中心にして,その組織形態を主に記載しながら形態学についての展望を試みる所以である。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1324

印刷版ISSN:0021-4973

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