展望
皮膚科領域における自己免疫疾患
著者:
皆見紀久男1
田代正昭1
島田勝彦1
児浦純生1
桑原淑子1
山口真吾1
所属機関:
1鹿児島大学医学部皮膚科
ページ範囲:P.855 - P.866
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自己免疫疾患とはBurnetらが提唱した抗体産生組織の変調を基とした自己免疫をもつて発病するもので,正常な体成分に対して免疫学的に活性な細胞または抗体の作用によつて生体が形態的または機能的に障害をうけた状態といわれている。そしてその疾患の血清中には種々の自己抗体が証明されている。しかしながら自己抗体が証明されたから自己免疫疾患であるとはいえず,また自己抗体が証明されなかつたからといつて自己免疫疾患でないとはいえず,現在では非常に混乱し,一種の流行語ともなつている現況である。Witebsky1)は自己免疫疾患としての条件を(1)体温で作用する抗体を直接あるいは間接的な方法で検出,(2)この抗体と特異的に反応する抗原を証明,(3)この抗原を用い,動物実験で抗体産生を証明,(4)免疫動物の組織に,人の疾患において,同じ臓器に認められると同様な組織学的変化を証明する。以上の条件を満足させるべきこととして,慢性甲状腺炎,すなわち橋本病をあげている。しかしながら現在幾多の自己免疫疾患とよばれているものの大多数は,Witebskyの条件を満足させえないために,診断上疑義が生じてくる。そこでMackay, Burnet2)のいう診断上の標識をもつてその基準とされている。すなわち(1)血清γ-グロブリン量が正常の上限を1.5g/dl以上越えていること,(2)生体の構成成分に対応する自己抗体を認めること,(3)変性γ-グロブリン,あるいはそれに由来する物質の沈着を病変の場,例えば腎の糸球体などに認めること,(4)組織学的に特有なリンパ球,形質細胞の異常な増殖あるいは浸潤を認めること,(5)副腎皮質ホルモンが一時的,もしくは持続的に著明な効果を与えること,(6)しばしば1つ以上の自己免疫疾患が同一個体に合併することをもつて1つの手がかりとしている。
現在,自己免疫疾患といわれているものには橋本病,全身性エリテマトーデス,後天性溶血性貧血,特発性栓球減少症,リウマチ様関節炎,その他の膠原病,多発性硬化症,多発性神経炎,糸球体腎炎,肝炎,重症筋無力症,肺線維症,特発性アジソン病,特発性睾丸炎,交感性眼炎,サルコイドージス,Behget症候群などがあげられている。皮膚科領域に於てはShelley3)がSLE,遠心性輪状紅斑(腫瘍に関連),悪性腫瘍に関係した皮膚筋炎,自家赤血球感作性紫斑症,自家感作性湿疹,剥脱性皮膚炎,汎発性鞏皮症,Sjogren症候群,水庖症群(天疱瘡,ジューリング疱疹状皮膚炎など),アトピー皮膚炎,寒冷蕁麻疹などをあげている。われわれも自己免疫疾患を研究する途上,まず自己抗体が認められるものを主として螢光抗体法を利用して追求し,また文献的に考察してみたいと思う。しかしながら,血清中に証明される自己抗体は病因的意義を見出すに至つていないので,自己免疫疾患と断定はできない。