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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科24巻3号

1970年03月発行

雑誌目次

図譜・310

アミロイド沈着を伴つた基底細胞上皮腫

著者: 中嶋弘

ページ範囲:P.212 - P.213

患者 60歳,主婦,小物店経営,特に日光に当ることはない。
初診 昭和44年2月20日。

図譜・311

2歳女児にみられた疱疹状皮膚炎

著者: 小宮勉 ,   山口淳子 ,   菊池礼子

ページ範囲:P.214 - P.215

患者 1歳11カ月(1967年12月生)の女児
既往歴 母親は妊娠7カ月目に切迫流産の徴候があり,入院治療を受けた。出産は満期正常分娩,乳児期栄養は混合栄養であつた。1歳11カ月頃,右頸部リンパ腺炎の切開治療を受けた。

綜説

癌前駆症

著者: 相模成一郎

ページ範囲:P.219 - P.225

Ⅰ、癌前駆症?
 われわれ臨床医は,"癌前駆症"・"前癌状態"・"前癌症"・"前癌性皮膚疾患",などの言葉を同義語として使つているが,これらはすべて,「癌に先行し,その領域に一定の規則をもつて癌が発生するところの皮膚疾患」をPräkanzeroseの定義としたDubreuilh1)によつているものである。Ellerら2)の定義,すなわち「他の皮膚疾患や一見健康な皮膚におけるよりも,より頻繁に癌のあらわれる皮膚疾患」もDubreuilhのそれからはみでたものではない。これらの定義に基づいて,慢性X線皮膚炎,日光性角化症,砒素角化症,色素性乾皮症などの皮膚疾患を診て癌前駆症と診断し,それぞれに対する治療を行なうことは,われわれ臨床医の仕事である。しかし,一歩すすんで,これらの前癌性皮膚疾患を構成する組織または,細胞と,それと場を同じくして発生した癌細胞との因果関係を考えてみるとき,臨床統計的な立場よりなされた上記のPräkanzeroseの定義──ないし,概念からは何の解答も得られないことに気付くのである。われわれ臨床医でも慢性X線皮膚炎からは,何故,より頻繁に癌が発生するのであろうかとの疑問をもつてよいはずである。
 一方,組織学的な立場よりなされたLund3)による癌前駆症の定義は,①正常細胞から癌細胞へ転化する過程,あるいは,その病変の総称,②不完全な癌細胞をもつ皮膚病変,である。この定義はDubreuilh1)やEllerら2)の定義とは独立したものとするのが妥当であるにもかかわらず,われわれ臨床医はしばしば混肴して考えがちである。これが誤りに導いて癌前駆症の理解を妨げたことは勿論のこと,むしろ,前癌性皮膚疾患に対して,"何故"という疑問を懐かせなかつた点にその罪が大きい。なるほど,in vitroにおいて,細胞にX線を照射することによつて癌性細胞化せしめ得ることから4),X線照射は発癌性因子の1つであると断定はできても,in vivoにおいては,X線照射のもつ発癌性作用は,ただ表皮細胞に対する直接的な影響のみによるものと断定することは困難である。いいかえれば,慢性X線皮膚炎において,表皮細胞がX線照射によつて脱酵素,脱分化をきたし,長い経過を経てついに癌転化(不可逆的な変異をもつ細胞)することも考えられようが,それよりも,血管,神経を含む真皮の病変が表皮細胞を癌性転化せしめるに必要な1次的因子となる可能性もある。この両者の発癌性因子はともにX線照射によるものではあるが,癌性転化をする表皮細胞を中心に考えれば,前者ではX線照射が直接に発癌性因子になつているのに反し,後者では真皮の病変が1次的な発癌性因子となつている。このことは,真皮の病変がX線照射によつてできたものでなくても,真皮の病変が発癌性因子となりうることを示唆しており,癌の発生に重要な場の概念が提起されることにもなる。この場,および,前癌性皮膚病巣における癌の組織発生を考えれば,癌前駆症などの用語よりも発癌性皮膚病巣6)carcinogenic skin lesionの方がよりよい表現である。

原著

皮膚悪性腫瘍のthymidine kinaseについて

著者: 武田克之 ,   佐川禎昭

ページ範囲:P.229 - P.235

はじめに
 thymidineはnucleosideの1つであり,DNAにのみ選択的に取り込まれることが知られ,DNAの合成あるいは分解過程の解明に主役を演じてきた。
 3Hで標識したthymidineがHughes, Vereleyらにより紹介され,細胞レベルでの分解能の高いautoradiogramの作製が可能となつてから,3H-thymidineは生化学的研究のみならず,細胞増殖または新生交代機序などの研究に広く利用されるようになつた。前川・土屋らは3H-thimidineを用いて骨髄細胞の細胞回転を検索し,梅沢らは新しい抗癌剤Bleomycinの作用機転ならびに抗細胞作用を,Hela細胞,エールリッヒ癌細胞,大腸菌などの3H-thymidineとりこみで検討している。著者らも皮膚悪性腫瘍の治療研究の一環として,腫瘍組織14C-thymidineのとりこみを追求しているので,これまでの成績を中心に,臨床医の立場から悪性腫瘍のthymidine kinaseについて言及してみたい。

舌に単発した神経鞘腫の1例

著者: 井上勝平 ,   菊池一郎 ,   坂梨洋 ,   大森廸

ページ範囲:P.237 - P.244

はじめに
 末梢神経系の腫瘍は,神経鞘腫(neurilemo-ma, neurolemmoma, schwannoma)と神経線維腫(neurofibroma, Recklinghausen病)に大別されるが,最近ではgranular cell myoblas-toma (granular cell schwannoma)もシユワン細胞に由来すると考えている学者1)2)がある。とくに神経鞘腫と神経線維腫との関係は光顕的,電顕的ならびに組織培養など各方面で種々論ぜられている。われわれは舌に発生した単発性神経鞘腫の1例を経験,電顕的検索を行なう機会を得たので報告する。

母斑細胞母斑におけるtrichostasisについて

著者: 石川謹也

ページ範囲:P.245 - P.247

はじめに
 Trichostasis spinulosa (Nobl)1)については今日まで多数の記載があり著者2)3)もさきに報告したが,母斑細胞母斑の組織中のtrichostasisについてはVakilzadeh&Rupec4)によつて注目されたのが最初である。著者もまた母斑細胞母斑の組織にtrichostasisが認められた3例を経験したのでここに報告する。

褐色色素斑が先行したボーエン病の1例

著者: 安江隆 ,   加藤廸彦

ページ範囲:P.249 - P.252

はじめに
 前癌症ないし前癌性変化の1つとして,皮膚腫瘍群中特異な位置をしめるボーエン病も,最近は単にその悪性化に関してのみならず,内臓悪性腫瘍の合併1)や砒素との関係2)において注目され,その早期診断のため,臨床的,組織学的にいかなる初期病変を示すかを知ることが重要となつてきた。最近われわれは,10年前に先行皮疹として褐色色素斑を生じ,3〜4年前よりその1部に疣贅様変化,痂皮形成をみた42歳男子のボーエン病症例を経験したので報告する。

多彩な症状を呈したBehçet病の1剖検例

著者: 熊坂鉄郎

ページ範囲:P.253 - P.259

はじめに
 Behçet病1)2)が3主徴(アフタ・陰部潰瘍・前房蓄膿を伴う再発性葡萄膜炎)以外に,他臓器に障害をきたすことはすでに諸家3〜7)によつて報告されている。すなわちNeuro-Behçet8)9)10),Intestinal Behçet11),Cardio-Behçet12)やAngio-Behçet13)3)等の名で呼ばれる,中枢神経系・消化器系・循環器系・血管系の侵襲をみても,本症の症状がいかに多様性を示すものであるかを物語つて余りある。
 皮膚における発疹も上記3主徴に優るとも劣らぬ発現がみられる所から,3主徴に皮膚を加えて4主徴とする考えがあり,皮疹は結節性紅斑型皮疹・血栓性静脈炎型皮疹および毛嚢炎ないし痤瘡様皮疹の3型またはその混合型で示される14)。上述したこれら多くの症状は再燃と寛解の反復を慢性遷延性にくり返し4),しかも大半が進行性の経過をとつて致命あるいは失明の終末を辿つている。

Wegener肉芽腫症—症例報告

著者: 島野晧三 ,   高須賀信夫 ,   河野恒文

ページ範囲:P.261 - P.267

 Wegener肉芽腫症の1例を述べ,若干の考察を加える。

尋常性天疱瘡の1剖検例

著者: 菊池滋 ,   木村瑞雄 ,   佐々木昭

ページ範囲:P.269 - P.274

はじめに
 さきに土井ら1)は舌,口腔,食道,咽頭部,外陰,肛門などに系統的びらん形成と口蓋扁桃部に扁平上皮癌を伴なつた尋常性天疱瘡の剖検例を報告し,さらに本邦剖検例を集計検討して各種内分泌器にみられた変化を2次的なものとしている。
 著者らも尋常性天疱瘡の1例を経験し,螢光抗体法によつて表皮細胞間物質に対する抗体を検索し得,さらに剖検する機会に恵まれたので報告する。

皮膚化膿巣由来のブドウ球菌のvirulenceに関する研究

著者: 中川雅明

ページ範囲:P.275 - P.281

はじめに
 皮膚由来のブドウ球菌(以下ブ菌と略す)は,病原菌としてのみならず常在菌としての性質についてもすでに多くの実験的研究が報告されている。
 ブ菌の病原性に関してはコアグラーゼ産生能,マンニット分解能の有無によつてそれら酵素産生の多いものを病原性ブ菌と定めているが,非病原菌といわれる表皮ブ菌がしばしば病巣より分離されることが臨床的にもみられ,この分類にも問題がもたれてきている。

印象記

日本皮膚科学会第21回西日本連合地方会印象記

著者: 谷奥喜平

ページ範囲:P.288 - P.290

 本年の西日本連合地方会は11月8,9日の両日にわたつて長崎大学医学部記念講堂で大学紛争というイメージとは別世界の様な静けさの中で,充分な討論が行なわれ,無事に終了した。参加人員は特に多いということはないが,本来の学会の名に相応しい会合であった。
 この両日の学会の印象記を記するに際してはまず前日の7日午後6時からグランドホテルで行なわれた地方委員会の感想を述べねばならない。1つの会を運営していく上では規則,会則,ルールは大切であるが,西日本連合地方会,ひいては日本皮膚科学会でも余りにも形式のみにとらわれ,評議員,理事の選出法がどうとか,学会の運営法がどうとかという公式論にとらわれ過ぎていないだろうか?学会の本質,学問というものを忘れてはいないだろうか?現在の定款を変更せず,社団法人としての性格から考えれば,現在の方法と余り変つた考え方はないのではないだろうか?私は日本皮膚科学会を研究会グループ(研究部門)と研修会グループ(臨床部門)とに2大別し,前者では基礎研究,臨床研究を主とし,現在の日本におけるその方面の最高のレベルの研究の発表,討論の場であるようにし,後者の研修会(皮膚科部会)では卒業研修,補修教育,教育講演,健保の問題,スライド供覧,臨床症例の検討等を取り扱う医師会的性格のものとし,両部会にはそれぞれ理事,評議員を置いて,その会の性格に従つて運営してはいかがかと考えている。

皮膚科学の流れ 人と業績・3

Ferdinand von Hebra Robert Willian/Robert Willan

著者: 高橋吉定

ページ範囲:P.292 - P.294

(前号から続く)
痒疹(Prurigo)7)
 痒疹のいずれの症例においても,最も早く現われるのは,表皮下の丘疹である。それは麻実大までの大いさを呈し,視るより触れてそれをよく知ることができる。この丘疹は皮膚面上に高まることが少なく,またその着色も正常皮膚色と変らないからである。丘疹は常に孤立性であり,全身何れの部にも出現するが,侵されない部位が常に存在する。著しい自覚症を生ずる結果,掻破によつてやがて丘疹は皮表に隆起し,紅色を呈することもある。絶えない掻破は,丘疹の頂上の表皮を破壊し,丘疹の内容は外部に露出する。このものはあるときは透明な無着色の滲出液であり,あるときは帯黄色の漿液であり,また真皮乳頭の損傷のため,毛細血管から,1滴の血液が溢出して,丘疹の頂上において針頭大までの黒色の痂皮に乾固する。丘疹は常に多数を発生し,それぞれが上記の経過を繰り返すが,発疹の範囲によつては,一般に痒疹といわれている外観を呈することになる。

外国文献

外国文献—専門誌から/外国文献—専門誌から

ページ範囲:P.295 - P.296

THE JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGY 53 : 2, August, 1969
Lysosomes and the Reactions of Skin to Ultraviolet Radiation : B. E. Johnson and F. Daniels 85
Ultrastructural Changes in Rat Vibrissae Follo-wing Irradiation. I. A General Survey : R. W. Pearson and F. D. Malkinson 95

〈原著論文抄録〉

皮膚悪性腫瘍のthymidine kinaseについて,他

著者: 武田克之 ,   佐川禎昭

ページ範囲:P.299 - P.299

 thymidineはnucleosideの1つであり,DNAの合成あるいは分解過程の解明に主役を演じる。thymidineからDNAに至る経路に多くの酵素があるが,thymidine kinaseは先ず最初に関与する酵素であり,細胞分裂と密接な関係が予測される。私らはPer Ekerの変法を用いて種々の悪性腫瘍のthymidine kinase活性を測定し,皮膚悪性腫瘍患者数例を対象に臨床経過を追つて本酵素の変動を追究した。本酵素は悪性腫瘍に特有の酵素ではないが腫瘍の細胞分裂・増殖を反映し,皮膚癌の臨床経過と明かな平衡関係が認められた。

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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