icon fsr

文献詳細

雑誌文献

臨床皮膚科25巻6号

1971年06月発行

文献概要

原著

アトピー性皮膚炎様症状を呈した遺伝性粘液多糖類代謝異常症

著者: 小林健正1 落合靖夫2

所属機関: 1千葉大学医学部皮膚科教室 2千葉大学医学部小児科教室

ページ範囲:P.577 - P.584

文献購入ページに移動
 遺伝性粘液多糖類代謝異常症(genetic muco-polysaccharidosis:MPS)は結合織を構成する7種の酸性粘液多糖類のうちdermatan sulfate(chondroitin sulfate Bともいう:DS)とhe-paritin sulfate(HS)との2種の粘液多糖類(MP)—Morquio症は例外でkeratosulfate (KS)—の代謝異常を示す遺伝性疾患の総称であり,Brante1)(1952)がHunter-Hurler症候群患者の肝よりchondroitin sulfateを単離し,その本態をMP代謝異常としたことに由来する。もとより,それは臨床的にも,生化学的にも単一の疾患単位ではなく,いくつかの骨ジストロフィーを示す疾患の集合より成る。しかし,これらの疾患は怪異ともいうべき外貌を示すことがしばしばであり,重苦しい眼瞼,長く切れた日,扁平な鼻梁,突出した舌と口唇,間隔のあいた歯列,変形せる歯,狭い肩,制限された関節運動,骨畸型(Burke2)),さらに聾,角膜混濁,肝脾腫,心異常,知能障害(Hambrick & Scheie3))を示し,gargoylismとも称される。この名称は篠原4),小林5)らによると英国の学者R.W.B.Ellis, E,A. Cookayne (1936)の命名になり,本邦に初めて本症を紹介した伊藤6)もこれを用いたので,わが国でも頻用されている。Leiderら7)によると,元来gargoyleとは水路を意味するラテン語に由来し,ゴシック建築伽藍のグロテスクに彫られた顔の形をした放水口の意であるが,医学的には極端な顔面の醜さを意味する。したがつて,この術語は必ずしもMPSに限るものではなく,末端巨大症その他の醜形をも包括した可能性がある。その上,篠原4)はこの名称は日本語でいえば怪奇顔貌症とか,鬼瓦症といつているようなもので,さなきだに畸型による心理的打撃を蒙つている患者や家族に対して用いるべきでないと述べ,Dorfman8)もこの術語は家族にとつて不愉快きわまりないばかりか,gargoyleなる語は語原学的にも,二目と見れない怪物ということよりも,柱を伝う雨水を除くことを意味するので正しくないという。筆者もまつたく同感—ましてgargoyleな顔貌を示さないMPSをもこの名で呼ぶのはどうかと思われる—で,前述の理由もあわせて本論文ではgargoylismの名称を避けたいと考える。
 著者らは最近,いわゆる小児湿疹で発病し,屈曲部湿疹に移行して,遷延経過を辿る間に次第にMPSの諸徴候を具現し,4年10カ月の生命を終つた少年を観察する機会を得た。しかし,本症例における,アトピー性皮膚炎様の苔癬性皮疹は組織化学的に特異な様相を示し,類似の形態に関してはおそらく過去に記載もない。したがつて本例の紹介はMPSの皮膚所見に1項を加えるとともに,アトピー性皮膚炎の発症機序にも考慮すべき問題を投ずるものと考える。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1324

印刷版ISSN:0021-4973

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?