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特集 基底膜
Ⅲ 血管基底膜
著者: 大橋勝1 池谷敏彦1
所属機関: 1名古屋大学医学部皮膚科教室
ページ範囲:P.689 - P.698
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基底膜(Basal Lamina)は表皮では真皮との接合部に存在する他,真皮内では筋肉,神経,血管の外側に存在している。この内で血管基底膜はその機能として組織や器管との間にO2,CO2,栄養分,老廃物その他の物質を直接交換するさいのbarrierの一つと考えられている1)。第1のbar-rierは内皮細胞であつて,血管基底膜は第2の存在ではあるが,皮膚の血管のごとく小孔を有しない血管ではその役割が解析しにくく,むしろ腎糸球体のごとく内皮細胞間に間隙形成があり内被細胞層の影響の少ない血管では70〜90A以下の粒子が基底膜を自由に通過している。しかしながらこのさい選択的な透過が行なわれるかいなかは不明な点が多い。また基底膜では酵素の存在が認められていないので,選択的な透過がもし行なわれるとすれば,基底膜を構成している物質にその基盤を求めなければならない。皮膚における基底膜の物質的構成のデーターは,はなはだ少なくこの点でも解明されなくてはならない。基底膜がコラーゲンまたはレチクリンのごとき物質より成れば一度作られてしまえば永久にかわらないのではなく,ある時間の間に代謝が行なわれ,この代謝回転は年齢により異なつてくるはずである。このような生理的な変化を血管基底膜の形態異常としてとらえうるとの報告もある2,3,4)。皮膚では日光に露出する部またはstasisを生じ易い部では,この現象は他の要素のために修飾されるので,これらの影響の少ない部位を選択する必要がある。病的状態での血管基底膜の変化は糖尿病4,5),その他の炎症性疾患6),腫瘍7,8)などで認められるが生理的状態以上に不明な点が多く検討を必要とする。特に血管性腫瘍の場合には,その発生病理とからんで血管基底膜の状態が問題となる。
以上のように血管基底膜の問題をながめてみると形態学的立場から見ただけでも生理的変化時の状態すら十分記載がなく,疾患時ではとくに目立つた変化を示す疾患に注意がむけられて記載されているのが現状であるといえる。したがつてその意義については,実証から離れた仮説が横行している。たとえば,機能と関連した問題である基底膜のbarrierとしての役割は仮説的な段階であつて実証的なデーターに欠けている。物質的な基盤では皮膚の基底膜の分離ができないためデーターにとぼしく,他の臓器たとえば腎糸球体基底膜のデーターより推測されている程度にすぎない。このような時点での基底膜への形態学的なアプローチは仮説を作つてその内に埋もれることよりも,むしろ現象を単純な条件下で行なつてできるだけその解析を行ない現在の仮説を吟味することにあるといえよう。ここでは1)基底膜の物質を探すためルテニウム赤染色を用い,2)透過性の問題はデキストリン鉄の局注,3)組織発生ではstrawberry Markの経時的変化,4)年齢による変化および 5)疾患時の基底膜の異常を検討した。
基底膜(Basal Lamina)は表皮では真皮との接合部に存在する他,真皮内では筋肉,神経,血管の外側に存在している。この内で血管基底膜はその機能として組織や器管との間にO2,CO2,栄養分,老廃物その他の物質を直接交換するさいのbarrierの一つと考えられている1)。第1のbar-rierは内皮細胞であつて,血管基底膜は第2の存在ではあるが,皮膚の血管のごとく小孔を有しない血管ではその役割が解析しにくく,むしろ腎糸球体のごとく内皮細胞間に間隙形成があり内被細胞層の影響の少ない血管では70〜90A以下の粒子が基底膜を自由に通過している。しかしながらこのさい選択的な透過が行なわれるかいなかは不明な点が多い。また基底膜では酵素の存在が認められていないので,選択的な透過がもし行なわれるとすれば,基底膜を構成している物質にその基盤を求めなければならない。皮膚における基底膜の物質的構成のデーターは,はなはだ少なくこの点でも解明されなくてはならない。基底膜がコラーゲンまたはレチクリンのごとき物質より成れば一度作られてしまえば永久にかわらないのではなく,ある時間の間に代謝が行なわれ,この代謝回転は年齢により異なつてくるはずである。このような生理的な変化を血管基底膜の形態異常としてとらえうるとの報告もある2,3,4)。皮膚では日光に露出する部またはstasisを生じ易い部では,この現象は他の要素のために修飾されるので,これらの影響の少ない部位を選択する必要がある。病的状態での血管基底膜の変化は糖尿病4,5),その他の炎症性疾患6),腫瘍7,8)などで認められるが生理的状態以上に不明な点が多く検討を必要とする。特に血管性腫瘍の場合には,その発生病理とからんで血管基底膜の状態が問題となる。
以上のように血管基底膜の問題をながめてみると形態学的立場から見ただけでも生理的変化時の状態すら十分記載がなく,疾患時ではとくに目立つた変化を示す疾患に注意がむけられて記載されているのが現状であるといえる。したがつてその意義については,実証から離れた仮説が横行している。たとえば,機能と関連した問題である基底膜のbarrierとしての役割は仮説的な段階であつて実証的なデーターに欠けている。物質的な基盤では皮膚の基底膜の分離ができないためデーターにとぼしく,他の臓器たとえば腎糸球体基底膜のデーターより推測されている程度にすぎない。このような時点での基底膜への形態学的なアプローチは仮説を作つてその内に埋もれることよりも,むしろ現象を単純な条件下で行なつてできるだけその解析を行ない現在の仮説を吟味することにあるといえよう。ここでは1)基底膜の物質を探すためルテニウム赤染色を用い,2)透過性の問題はデキストリン鉄の局注,3)組織発生ではstrawberry Markの経時的変化,4)年齢による変化および 5)疾患時の基底膜の異常を検討した。
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