原著
皮膚科領域における補体の研究—低補体価をきたした症例を中心に
著者:
白石聡1
居村洋1
重松正雄1
武田克之1
所属機関:
1徳島大学医学部皮膚科学教室
ページ範囲:P.883 - P.890
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この約10年間に,日本人のもつれた糸をほぐすような根気と器用さで,4つの成分からなると考えられていた補体が,次々と機能的に純粋な蛋白として分離・精製されてきた。現在では9つの成分からなり,反応順序に従つてC1,C4,C3,C2,C5,C6,C7,C8,C9と命名されている。これらの全成分が反応して,ワッセルマン反応に代表される溶血反応が起こることは,よく知られている。補体は,動物の血液,血漿および血清中にあつて,抗原・抗体結合物に一定の順序で反応し,酵素に類似した蛋白質ともいわれている。ヒト血清中の補体の存在は,Nuttallが体液,滲出液に殺菌力があり,その活性は55℃,45分あたためると失われることを発見したにはじまり,Buch-nerはAlexin(1885),Bordetが1a substancebactericide殺菌物質(1895),Ehrlich & Mor-genrothらはAddiment (1899)と名ずけたがその後AddimentがKomplementと改められ1いわゆる補体の語源となつた。現在,血清中の補体を定量する方法は少なくないが,Mayerらの開発した定量法1)が,最も正確であり,一般に広く行なわれている。すなおち感作ヒツジ赤血球5×108を含む全量7.5mlのgelatin veronalbuffer (GVB++)の系で,37℃,60分反応させ,50%の赤血球(2.5×108)を溶血させる補体量を1単位と定義するものである。この方法で血清補体価(以下CH50と略記)を測定すると,健康人でもかなり広い範囲に分布し,正常値をはるかに越えた値や,逆に低い値を示したり,まつたく溶血しない対象もあつて当惑する。しかし,補体が9成分に分離され,Cl-esterase, immune ad-herence, anaphylatoxin, chemotactic factorなどの生物学的活性も徐々に明らかにされるにつれ,かつて補体の持つていた神秘性はうすらぎつつあり,われわ控皮膚科医の手のとどく所にまで近よつた感がする。近年皮膚疾患と補体の関連性を示唆する報告も散見され,補体の関連において病態を解明し,さらに治療への進展が待たれる現状である。こうした臨床面への応用こそ,補体学は,もちろん皮膚科領域における病態生化学発展の1つの起点となろう。
ともあれ,著者らは,アレルギー性皮膚疾患の機序解明にその動態を活性のうえでとらえうる補体を利用しえぬかと考え,CH50を中心に検討してきた。最近,溶血活性の低い疾患に遭遇し,その詳細を検討して興味ある知見を得たので,自験症例を中心に若干の文献的考察を加えてみたい。