文献詳細
綜説
黒色癌前駆症もしくは悪性黒子
著者: 中山坦子1 今井清治1 水谷ひろみ2 池田重雄3 川村太郎3
所属機関: 1東京大学皮膚科学教室 2代々木病院皮膚科 3現在,埼玉医科大学皮膚科学教室
ページ範囲:P.185 - P.200
文献概要
悪性黒色腫の1つの成り立ち方として,本症の悪性化によるもののあることは既にDubeuilhの記載にある.彼は本症を3つの時期にわけているが,そのⅢ期は異型細胞(cellules metaplastiques)が真皮内に侵入(tomber dans le derme)した状態であって,既に(その病巣の一部が)悪性黒色腫に変つた状態(stade de degenerescence, Duperrat)であるとしている.因みに彼はこれを悪性黒色腫とはよばないでcancerとよび,滴落説におけるUnnaと全く同様に,表皮細胞の異型化→真皮内侵入を考えていた.彼のⅢ期はClark以来広く用いられる術語:lentigo maligna melanomaに該当する.Ⅲ期に先立つて,異型細胞が表皮真皮境界に沿つて拡がるが,真皮内には侵入しない時期(Ⅱ期)(stade de lentigo, Duperrat)がある.これはmelanoma in situという表現に該当するものとしてよかろう.本症はDubreuilhによれば,はじめ単純な色素沈着(pigmentation simple,Dub-reuilh;stade d'ephelide, Duperrat2))(DubreuilhのⅠ期)としてはじまり,後に本症に特徴的な異型細胞の離開(Segreg ation,Miescher3))がみられるようになる.単純な色素沈着は,『光顕的には普通の色素沈着と区別出来ない』といわれているが,電顕的知見4)を背景として注意深くみてゆけば,光顕的にもその特徴を或程度知ることが出来るのではあるまいか?悪性黒色腫の種々の対策5)のうち,本症の知見を詳かにし,未だlentigo malignamelanomaとならない時期に処置することも重要と考えられる.
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