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文献詳細

雑誌文献

臨床皮膚科28巻7号

1974年07月発行

文献概要

一頁講座

Dermal back flow

著者: 大熊守也1

所属機関: 1医科歯科大

ページ範囲:P.523 - P.523

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 リンパ造影の際,注入された色素や造影剤が,注入部位以外の他の部位の皮膚に逆流する現象をいう.こねは,大きなリンパ管に通過障害があり,ここまで達した色素や造影剤が,障害部位のリンパ管に流入する他の末梢リンパ管へ逆流することによる.この際,この部位より末梢にあるリンパ節が正常であつたり1),弁機能不全がなければこの逆流現象はおこらない2,3).また,リンパ圧の上昇,リンパ管壁の透過性増大,リンパ浮腫がみられるのが普通であるが常にそうとは限らない4).原因として,腫瘍,外傷,奇形,細菌やフィラリヤによる感染等が考えられる.乳び管より中枢のリンパ系に通過障害があつた場合はchylous refluxと呼ばれ,その障害部位によりchylo-us ascites,chylothorax,chyloperi-cardium,chyluria,chylometror-rhoeaと呼ばれるが,皮膚まで逆流する場合は,白濁した水溶性内容を入れた水疱性病変として認められる.また外傷によりこの水疱が多数,長期間にわたつて破ける場合は,脂質並びに脂溶性ビタミンの欠乏症が現われる.脂質を取りこんだ組織球よりなる黄色腫も付随してみられることがある.治療は,その原因にもよるが,外科的に,拡張したmegalymphaticの結紮,リンパ管静脈吻合などが行われる2).写真は最近経験した症例で,72歳女子,右側に著明な両側のリンパ節,リンパ管が後腹膜,鼠径部並びに下肢の領域に溶いて広範におかされていることがリンパ造影により証明きれ,右趾に注入されたパテントブルー,並びにリピオドール造影剤が右下腿にdermat back flowをおこした際の右下腿のX線像である.この写真は皮膚に分布するリンパ管の立体像を示す点でも興味ある所見である,この症例のリンパ管の通過障害をおこす原因としてフィラリヤまたは細菌による感染が考えられている.右鼠径部リンパ節は組織学的検査により高度は線維化並びにヒアリン変性が認められた.皮膚科医にとつてdermal back flow または,chylous refluxに関して留意すべきことは,これらの現象が,全身のリンパ管疾患の際現われる最初の臨床的所見であることがしばしばであること,他臓器悪性腫瘍の皮膚転移や,スポロトリクス症のリンパ管型が必ずしも中枢の方向へと皮膚病変が拡がらず末梢方向へ逆もどりして皮疹があらわれることがある事などの事実は,この概念で説明ができるのではないかということである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1324

印刷版ISSN:0021-4973

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