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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科33巻10号

1979年10月発行

雑誌目次

図譜・444

脂腺上皮腫

著者: 犬井三紀代 ,   木下正子 ,   寺由勇

ページ範囲:P.870 - P.871

患者74歳,女性
初診昭和53年4月5日

綜説

皮膚におけるリンパ細網系細胞の腫瘍性増殖(Malignant Lymphoma)について(Ⅰ)

著者: 山田瑞穂

ページ範囲:P.873 - P.881

 非上皮性(間葉系)悪性腫瘍の大部分を占め,リンパ肉腫,細網肉腫と呼ばれていたものが,悪性リンパ腫(malignant lymphoma)と称されるようになったが,腫瘍個々の性格等に関してはなお議論も多く,いくつかの分類も次々に訂正されている.かつて細網細胞性とされていたもののほとんど大部分が,リンパ球性であると考えられるようになり,リンパ球についての免疫学的研究に伴い,その由来,分化程度,機能が論じられるようになっている.
 新らしい免疫学的技術が開発され,免疫学の概念も更新されて行くので,この領域における現在の知見も,いずれ陳腐となり,改変されることであろう.筆者らの経験した症例は数も少なく,検索も不十分であるが,これを参考に,現時点におけるmalignant lymphoma,lymphoreticular cellproliferationをめぐる,いくつかの問題点をとりあげてみたい.

原著

脂腺母斑上に発生した皮膚附属器腫瘍—Syringocystadenoma papilliferum, Basal cell epithelioma, Sebaceous adenoma, Sebaceous epitheliomaなど多種の腫瘍発生の認められた症例について

著者: 泉谷一裕 ,   鈴木伸典 ,   桜根弘忠 ,   長濱万蔵

ページ範囲:P.885 - P.889

 症例は45歳,男性.生下時より左側頭部に脱毛斑があり,20歳頃より同部が疣贅状となり最近急激に増大し手拳大に達する.鈴木—Binet式IQは26と知能が低下している.組織学的所見では大きく3つの部分に分かれており,まず疣贅状を呈する典型的脂腺母斑と脂腺腺腫,次にひょうたん型の脂腺上皮腫及びapocrine duct adenoma,さらに小指頭大のsyringocystadenoma, basal cell epithelioma (adenoid type)等の所見が得られた.脂腺母斑に発生する腫瘍に関しての報告は多数認められており,その発生起源について,primary epithelial germ, pluripotential cellなどの説が考えられている.今回われわれの経験した症例は,脂腺母斑上に組織学的に明らかな4種の腫瘍を認め,同一個体から発生している点で発生学的に興味深いものと考えられる.

特異な皮疹を主徴とする形質細胞増多症

著者: 北村啓次郎 ,   田村晋也 ,   籏野倫 ,   外山圭助 ,   三方淳男 ,   渡辺昌

ページ範囲:P.891 - P.899

 32歳男.生来健康であったが,約1年半前に誘因なく左後頭部の有痛性リンパ節腫脹を生じ,1年前より前胸部よりはじまり下肢を除くほぼ全身皮膚に自覚症状のない赤褐〜紫褐色,不正形大小不同の浸潤性紅斑あるいは結節が多発拡大.全身の表在性リンパ節は有痛性に触知.TP 9.6g/dl,IgG 4,900mg/dl, IgA 590mg/dl (polyclonal gammopathy),血沈1時間値92mm.
組織学的に,皮疹は濾胞様構造を伴う小血管周囲性の強い形質細胞浸潤を,リンパ節は皮質から髄質に及ぶ形質細胞浸潤を認めた.全身症状はない.
以上本例は皮疹及びリンパ節の組織所見と検査データからは単純なreactive plasmacytosisとしか診断し得ないが,将来多発性骨髄腫,plasmacytoid lymphocytic lymphomaあるいはimmunoblastic sarcomaなどへの進展の可能性が否定できず,今後厳重な経過観察を要すと思われた.

Solitary Trichoepitheliomaの3例

著者: 斉木実 ,   井上隆美 ,   山路和彦 ,   二条貞子

ページ範囲:P.901 - P.905

 3例のsolitary trichoepitheliomaを報告した.3例とも家族には同症の発生はなく,臨床的には単発の表面平滑の半球状腫瘤で,組織学的には基底細胞様細胞,棚状配列,角質嚢腫,毛球部様構造,豊富な間質の発達がみられた.本腫瘍は定型例(症例2)のほか一部に分化度の高いtrichofolliculoma様構造をもつもの(症例1),そのほか基底細胞上皮腫様構造を示すもの(症例3)などがあり,症例により一様の分化がみられなかった.すなわち毛嚢組織への分化の過程に成熟度の異なる種々の段階の上皮性腫瘍構築が認められる.したがって毛嚢への分化の程度を腫瘍の全貌より判断してtrichoepitheliomaと基底細胞上皮腫との鑑別点としたい.

Adenoma of The Nipple

著者: 佐藤則子 ,   菅原信 ,   北村啓次郎

ページ範囲:P.907 - P.910

要約 52歳,主婦.10ヵ月来,右乳頭に糜爛,出血を伴う硬結出現.圧痛・瘙痒あり.臨床的にPaget病などを疑い生検の結果,adenoma of the nippleと診断された1例を報告した.病理組織学的には,乳頭先端より導管を介して主として真皮中層に多数の管腔様構造を認め,境界は比較的明瞭である.一部では充実性増殖をみる.本症は臨床的にはPaget病と鑑別不能であるが,病理組織学的にはPaget病とは全く異なり非浸潤性乳管癌などとの鑑別が問題となる.治療として単純乳房切断術を施行した.

転移性皮膚癌—微細構造について

著者: 下田祥由 ,   梅沢明 ,   福原俊子 ,   内田博子 ,   千葉紀子

ページ範囲:P.911 - P.917

 転移性皮膚癌の光顕組織より原発巣を的確にきめることは比較的困難とされている.今回おれわれは光顕的にはいずれも腺癌,単純癌の像を示した胃,大腸,乳腺からの皮膚転移巣計7例の微細構造を検討した.胃癌からの皮膚転移巣では微絨毛構造,粘液分泌顆粒,副細胞,壁細胞,印環細胞など胃粘膜の特徴がみられ,大腸癌からの転移巣には粘液分泌顆粒が豊富な細胞,乳癌からの転移巣には同じく乳腺特有な分泌顆粒および小胞体が豊富でありかつ筋原線維,小胞などが認められた,それぞれ原発臓器の特徴ある微細構造を皮膚転移巣においてもとどめており,より的確に原発巣を推定し得た.今後さらに原発巣不明の転移巣における症例の検討が必要かと思われる.

限瞼の悪性腫瘍に対する放射線療法

著者: 佐藤昭彦 ,   野口知子 ,   舛真一 ,   小幡正明 ,   塩野貴

ページ範囲:P.919 - P.923

 1937年から1978年の11年間に東北大学皮膚科及び同眼科を受診した14例の眼瞼部悪性腫瘍(基底細胞癌7例,有棘細胞癌2例,脂腺癌3例,ケラトアカントーマ1例,悪性黒子1例)にデルモパンを用いて軟レントゲン線療法を行った.照射後,基底細胞癌の1例は,外反症に対して形成手術をうけ,脂線癌の1例は残存した腫瘍の切除をうけたが,有棘細胞癌の1例に転移が起こった以外,残りの13例に再発はみられず,機能的,ならびに美容的に良好な状態であった.

色素性痒疹の3例

著者: 山崎玲子 ,   出来尾哲 ,   森安昌治郎 ,   高垣謙二

ページ範囲:P.925 - P.931

要約 色素性痒疹の3例(47歳男子,53歳男子,47歳男子)を報告した.いずれの症例も3月〜6月に被覆部に発作性瘙痒性紅色丘疹を繰り返して生じ,その後該部に粗大網目状色素沈着を残し,DDSあるいはスルフィソメゾールが著効を呈した.本症の病因あるいはサルファ剤の作用機序について若干の考察を行った.

色素性痒疹—dyskeratotic cellの存在と組織学的色素失調の形成について

著者: 富田靖 ,   舛真一 ,   斉藤信也

ページ範囲:P.933 - P.938

要約 長島らの記載した色素性痒疹に合致した3例を報告し,若干の考察を加えた.症例は19,17,18歳のいずれも女性.第2例のみ項部と背部に,他2例は前胸部と背部に瘙痒性皮疹と紫灰色斑を来す.病理組織学的に第1,3例の色素斑部は真皮上層の血管周囲性の細胞浸潤と組織学的色素失調を呈していたが,第2例の色素沈着を伴った紅斑部は真皮上層の組織学的色素失調のほかに表皮基底層周辺にdyskeratotic cellが認められ,また第3例の紅色丘疹は表皮内の大型多房性水疱と水疱内外にdyskeratotic cellを多数認めた,これらdyskeratotic cellは本症の組織学的色素失調の成立に何らかの関連を持っていると推測した.

講座

SLE (Ⅰ)—I.はじめに/II.SLEでの帯状庖疹ウイルス感染

著者: 大橋勝

ページ範囲:P.940 - P.947

I.はじめに
 全身性エリテマトーデス(SLE)は,多くの異なった臓器を浸す原因不明の慢性炎症性疾患である.この疾患の臨床所見は非常に多彩であり,皮膚病変のみならず,発熱,多関節痛と関節炎,多発性漿膜炎(主として胸膜炎と心包炎),貧血,白血球減少症,血小板減少症,腎症状,神経症状,心症状がみられる.
 SLEは圧倒的に女子に多くみられ,男子の10倍以上1)である.特に思春期および成人期初期の女子に多くみられる.厚生省特定疾患疫学調査報告によればSLEの平均発症率は100万人当り37.1±14.62)である.この数字はニューヨーク市での白人女子の100万人当り25.7人,黒人女子75.4人3)のほぼ中間の数字をとっていてSLEの発症に人種的な有意差があることを示すと考えられる.また地域別の統計で,日本の都道府県別補正有病率では特に高い都道府県はみあたらない2).現在の日本でのSLEの推定患者数は7,000〜9,000人である2).しかしSLEの診断は難かしく,日本での疫学調査ではSLEの診断基準はアメリカリューマチ協会の診断基準(ARA)(表1)による調査であるので,SLEの診断の感度は84%4)であり,疫学調査では高い感度ではない.またLE細胞現象陽性のみがARAの基準に入っており,その他の重要な免疫学的検査:抗DNA抗体,抗核抗体,C'H50,表皮真皮境界部の免疫グロブリンと補体の沈着,microtubular-structures(MTS)等が入っていないので,多くの早期例,非典型例や特殊例での診断の特異性は低く82%である.したがって実際の発症率は以上の数字より高いものと推定される.

連載 皮膚病理の電顕・10

皮膚結合織の病変(X)—皮膚ヒアリノーシス(3)〜(5)

著者: 橋本健

ページ範囲:P.948 - P.952

皮膚ヒアリノーシス(3)
 図26 図の左右に血管が切れている.左側の構造を毛細管と同定するのに困難はない.すなわち周皮細胞(P),2〜3コの内皮細胞(E),管腔内の赤血球(R)などが区別でき,その大きさを考慮に入れれば皮膚の毛細管の特徴を具えている1).ただ基底板(B)がこのクラスの血管にしては異常に肥厚している.これは血管周囲に沈着したヒアリンが基底板にも浸潤したものか,血行を介して運ばれた異常物質が内皮細胞の間隙(曲矢)を通過して血管外に排出されつつある像なのか不明である.
 このようなヒアリン物質が血管周囲を完全に取り巻き,遂に内皮細胞の壊死を惹起したのが右の血管と考えられる.この構造が血管であった証拠として,多数の同心円状の基底板(矢尻)が内皮細胞の消失した中心部へ向って陥凹しているからである.この像は内皮細胞の破壊と再生が起こる度に1枚ずつ増えて来た基底板が,遂に再生しなくなった内皮細胞の占めていたスペースへ陥入したのか,再生しつつある内皮細胞が未だ現れないのかのいずれかであろう.

印象記

第3回ESDR/SID Joint meetingに参加して

著者: 西川武二

ページ範囲:P.954 - P.955

 1975年6月の欧州皮膚科研究学会(The European Society for Der—matological Research)ならびに米国皮膚科研究学会(The Society forInvestigative Dermatology, Inc.)の合同会議から4年ぶり,1979年6月10日から14日にかけて第3回の合同会議が,第1回,第2回と同じくアムステルダム市(オランダ)の国際会議場(RAI)で行われた.筆者は前回に続いて発表の機会に恵まれたので,簡単に本学会のアウトラインを述べその印象を記すことにする.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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