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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科43巻5号

1989年05月発行

雑誌目次

カラーアトラス

Clear Cell Acanthoma

著者: 斉藤昭 ,   新井春枝

ページ範囲:P.412 - P.413

患 者 60歳,女性
初 診 昭和62年8月22日

総説

分子生物学の皮膚疾患への応用

著者: 木花光

ページ範囲:P.415 - P.418

はじめに
 近年の分子生物学の急速な発展と各方面への普及は目を見張るものがある.高品質の試薬が容易に入手できるようになり,手技が標準化された実験キットが市販され,さらにアイソトープを使用せずに可能となった技法もあり,それらがさらに普及を促進している現状である.医学においても,すでに分子生物学的手法が種々の疾患の診断,病因の解明,治療に採用されており,米国の大学病院では中央検査室レベルで分子生物学的検査を実施しているところもあるほどである.皮膚科領域においても,最近この大波が押しよせ始め,分子生物学的手法を川いた研究の報告が見られるようになり,漸増傾向を示している.光学顕微鏡と比べて格段に性能のすぐれた電子顕微鏡で,種々の新知見が得られたごとく,今までの蛋白レベルまでの研究が分子生物学によりDNAレベルでなされることで,皮膚科学においても今後新発見が続々となされるであろう.
 本稿では分子生物学が皮膚疾患の診断,病因の解明にいかに応用され始めているか,さらに今後の展開について疾患例を挙げて記載することにする.まず分子生物学でよく使われる用語,手技について以下に若干の説明を加える.

原著

日光蕁麻疹—皮膚明度と誘発の関係

著者: 宮元千寿 ,   佐藤吉昭

ページ範囲:P.419 - P.423

 32歳,男性の日光蕁麻疹の1例を報告した.露光中は皮疹が出ず露光を中止すると膨疹が出現することから,抑制波長を持つ日光蕁麻疹と思われた.作用波長は400〜500nmの可視域にあり,血清照射試験が陽性であったことよりHarberのIV型に属すると考えた,550nmより長波長可視光線の後照射により照射中に抑制効果がみられたが,照射中止後は反応がむしろ増強して出現した.これらの効果は前照射ではみられなかった.自験例は臨床的に膨疹の出易さに部位差があり,スライド・プロジェクターによる誘発でも同様に部位差がみられた.そこで皮膚色に着目し,皮膚明度と皮疹誘発の関係を調べたところ,色が白い,すなわち明度が高い部位は誘発され易く,色が黒く明度が低い部位では誘発がより困難であった.これはメラニン色素がフィルターの役目をして,膨疹惹起因子へ到達する可視光線量を減弱させる結果であろうと推測した.

症例報告

Mycobacterium chelonei皮膚感染症の1例

著者: 藤田真由美 ,   遠藤顕子 ,   荻野篤彦 ,   久世文幸

ページ範囲:P.425 - P.428

 44歳,主婦の右臀部に生じたMycobacterium chelonei皮膚感染症を報告した.初診の約半年前より右臀部に圧痛を伴う紅色浸潤局面が生じ,徐々に拡大してきた.外傷・注射等の既往はない.昭和61年1月,当院受診.右臀部に紫紅色の浸潤性局面が存在し,波動を触れる.穿刺にて血性あるいは透明な漿液を多量排出する.ツ反37mm×48mm.一般検査所見異常なし.病理組織所見では真皮にリンパ球,好酸球,組織球,類上皮細胞などの混在する肉芽腫性反応を認める.一般細菌培養陰性,真菌培養陰性.小川培地に培養した滲出液および組織片から集落形成を得,同定検査成績より,Mycobacte—rium chelonei subsp.cheloneiと同定された.外科的切除後,大鼠に出血したが次第に滲出液は減少し,略治した.

ヒトヒフバエによる皮膚蠅症の1症例

著者: 滝潤子 ,   久保桂子 ,   尾口基

ページ範囲:P.429 - P.432

 南米パラグアイ居住中に罹患したDermatobia hominisによる皮膚蠅症を報告した.近年,海外との交流が増え,今まで他国の風土病と見過ごした疾患が,帰国ないし来日者と共に本邦へ上陸してきている.今後も,このような疾患が漸増すると思われるので,中南米特有の疾患である本蝿症をあえて本邦5例目として報告した.

テガフールによる薬疹

著者: 関太輔 ,   檜垣修一 ,   諸橋正昭

ページ範囲:P.433 - P.438

 症例1:77歳,男.胃癌のためテガフール800mg/日内服,内服約3カ月後から手指爪母部に紫紅色変化,糜燗出現.その約2カ月後には亀頭にも糜燗出現.内服中止約1カ月後には軽快.症例2:50歳,女.右乳癌のためテガフール600mg/日内服.内服約14カ月後から足趾に紫紅色変化,糜燗出現.その約3カ月後には右拇指球部にも紅斑が出現.内服中止約1カ月後には軽快.テガフールは経口投与が可能であることから現在よく用いられている抗癌剤の一つであり,その薬疹もそれほど稀なものではないが,実際に報告されているものは1977年の都留らの報告以後約90例にすぎない.今回我々はテガフールの長期内服後に生じた薬疹の2例を経験したのでここに報告するとともに,これまでの報告例について文献的に考察を加えた.

一過性に両下肢の腫脹を呈したHypereosinophilic Syndromeの2例

著者: 鶴町和道 ,   櫻井美佐 ,   禾紀子 ,   中山秀夫 ,   杉俊之

ページ範囲:P.439 - P.443

 一過性に両下肢の腫脹と関節痛を生じ,著明な好酸球増多を示した2例を報告する.両者とも何ら誘因なく,上記症状が出現するも,その他の全身状態は良好で,検査的にも各種臓器には異常は認めなかった.1例では,骨髄像で成熟好酸球系の過形成を確認し,12種の寄生虫に対して血清反応を行ったが,いずれも陰性だった.他例では,下腿腫脹部の一部を生検したが,病的な所見は得られなかった.治療は,いずれも消炎鎮痛剤および利尿剤を用いた.症状は薬効によるものか否かは不明だが,約1カ月後に消退した.好酸球数も減少し,以後,再発も認められない.Hypereosinophilic syndrome (HES)は,未だ十分に確立された疾患概念でなく,症状や病態も明確に固定されていないが,それ故,本症はその多様性を特徴とする.自験例は,主に下肢の脈管系および関節を侵襲したHESとして診断するのが妥当と思われる.

精神症状,網状皮斑,血小板減少を認めた小児男子全身性エリテマトーデスの1例—抗カルジオリピン抗体と臨床症状との関連性について

著者: 音山和宣 ,   片山一朗 ,   上塚真理 ,   近藤滋男 ,   川名誠二 ,   西岡清 ,   西山茂夫

ページ範囲:P.445 - P.448

 14歳男子,12歳時顔面・手足の紅斑と白血球減少にて全身性エリテマトーデス(SLE)発症.2歳年上の姉に同症あり,ほぼ全身に一部潰瘍形成を伴う著明な網状皮斑が存在した.経過中血小板減少,精神症状出現,脳CTスキャンにて脳実質萎縮を認めた.ステロイドのパルス療法にて,臨床症状,臨床検査成績の改善が見られた.経過中測定した抗カルジオリピン抗体抗体価は,臨床症状改善と平行して低下傾向を示した.

IgA腎症を伴ったBehçet病の1例

著者: 天野佳子 ,   栗原誠一 ,   尼ケ崎安紘

ページ範囲:P.449 - P.453

 33歳,男性.再発性口腔内アフタ,結節性紅斑様皮疹,毛嚢炎様皮疹,関節炎症状,尿異常所見を認める不全型ベーチェット病の患者に対し,腎生検を行いIgA腎症の所見を得た.ベーチェット病における腎病変は,比較的稀とされていたが,近年少数ながら報告されつつあり,自験例のごときIgA腎症との合併は,これら2疾患の病因の関連性を考察する上で示唆に富んでいると考えられた.

皮下型疹および末梢神経障害を伴ったサルコイドーシスの1例

著者: 田中勝 ,   小松威彦 ,   原田敬之 ,   西川武二

ページ範囲:P.455 - P.458

 52歳,女性.上腕・臀部の皮下型疹および主として下腿に生じた結節型の広範な皮疹,肺病変,眼病変,脊髄神経病変など多彩な臨床症状を伴い,ACE高値を示した症例を報告した.神経症状は,サルコイドーシスの約5%に合併するが,本例のように脊髄神経症状のみを示した例は少ない.また,皮下型疹についても,若干の考察を加えた.

再発性シリカ肉芽腫の1例

著者: 山中克二 ,   加茂直子 ,   白浜茂穂

ページ範囲:P.459 - P.461

 28歳,女,3歳時にガラスで切った瘢痕部が何ら誘引なく盛り上がってきた.生検による組織像は肉芽腫の所見を示し,組織内には異物が認められ,この異物は偏向顕微鏡にて重屈折性を示した.サルコイドーシスの疑いで,全身検索を行ったが,皮膚以外に所見はなかったため,本症例をシリカ肉芽腫と診断した.当科初診の3年前にも同部位が盛り上がり,摘出術を受けており,組織学的所見も同様であったので,3年間に2回発症した稀な症例であり,サルコイドーシスへの移行に注意して,今後も経過観察する必要がある.

乳児線維性過誤腫

著者: 勝俣道夫 ,   佐藤貴浩 ,   大滝倫子 ,   梅田整 ,   野崎清恵

ページ範囲:P.463 - P.468

 1歳9カ月,男児の右肩甲下部に生じた60×8mmの表面やや茶褐色調の皮下腫瘤につき報告した.組織像は皮下脂肪織内に不規則に交錯する成熟した膠原線維束と線維芽細胞様細胞よりなる索状の線維性組織,線維芽細胞様細胞と未分化間葉系細胞の集塊,成熟脂肪組織の3成分からなる病変であることより乳児線維性過誤腫と診断した.本症の概要につき言及し,本邦既報告28例につきまとめ,男児が74%と優位で,発症部位は腋窩,背部,大腿,上腕発生例が多いとの結果を得た.なお自験例の特徴としてS—100蛋白陽性を示す末梢神経線維を病変中の随所に認め,神経線維束も病変の1成分と考えられた.電顕的検索では,線維性組織には主に線維芽細胞様細胞を認め,線維芽細胞様細胞と未分化間葉系細胞の集塊の部分では線維芽細胞および筋線維芽細胞に類似した細胞,未分化間葉系細胞,血管内皮細胞様細胞が混在し,本症の過誤腫的性格を示すものと考えられた.

Trichilemmal Cystの6例—壁の増殖性変化と苔癬様組織反応を呈した各1例を含めて

著者: 木村俊次

ページ範囲:P.469 - P.473

 最近5年間に6例のtrichilemmal cyst (TC)を経験した.いずれも日本人で単発し,年齢は36〜59歳,男女比1対5,発生部位は大腿・前額が各1例で,他の4例はすべて頭頂部であった.組織学的に嚢腫壁はいずれも外毛根鞘性角化を示し,内容物は密な層状のものが多かった.最近圧痛を伴った1例は嚢腫壁の半周が波状を呈し,その一部はproliferating TCに一致する増殖性変化を示した.また最近発赤と圧痛・自発痛を伴った1例は壁のほぼ全周に亘って苔癬様組織反応を示した.TCにおける増殖性変化と苔癬様組織反応について若干の考察を加えた.

肝細胞癌の皮膚転移の1例

著者: 櫻井美佐 ,   禾紀子 ,   中山秀夫 ,   森永正二郎

ページ範囲:P.475 - P.478

 60歳,男性の左頬部に多発した肝細胞癌の皮膚転移の1例を報告した.組織学的には,肝細胞索類似構造を呈する癌で,剖検時に確認された肝原発巣の腫瘍組織と同様の像であった.また,血中AFP (α-fetoprotein)の上昇が認められていたが,皮膚転移部位においても免疫組織化学的に,AFP陽性腫瘍細胞を認め,診断の一助となった.

食道癌皮膚転移の2例

著者: 井出瑛子 ,   浦亜紀子 ,   桜岡浩一 ,   早川和人 ,   仲弥 ,   多島新吾

ページ範囲:P.479 - P.483

 食道癌より皮膚転移を生じた2例を報告した.2例とも初診時顔面に単発の結節として認められた.組織学的には症例1はmucoepidermoid carcinoma,症例2は腺癌であり,いずれも食道癌としては稀な組織型であった.症例1では原発巣発見に先立って,また症例2では原発巣を摘除して9カ月後に皮膚転移を認めているが,ともに皮膚転移出現時には他臓器への転移は明らかではなかった.食道癌の皮膚転移は稀であるが,過去20年間の本邦皮膚科領域報告例9例の統計からみると,40〜60歳代,男性の頭部,顔面に単発の結節として生じ易いものと考えられた,中高年者の皮膚に増大傾向の強い結節性病変を認めた場合,悪性腫瘍の既往がない症例においても転移性皮膚癌を疑い,生検等を含めた積極的な検索が必要と思われた.

紅斑型転移性皮膚癌—Borrmann4型胃癌を原発とした1例

著者: 野田佳子 ,   漆畑修 ,   武田朋子 ,   西川律子 ,   西脇宗一 ,   日野治子 ,   新井功 ,   若山恵

ページ範囲:P.485 - P.489

 ①70歳,女性.胃癌(Borrmann4型)を原発として,胸,腹,腰部に自覚症状のない軽い浸潤を伴った紅斑を生じ,組織学的には真皮リンパ管の拡張と管腔内腫瘍細胞の栓塞像を認めた転移性皮膚癌の1例を報告.②紅斑を主体とする転移性皮膚癌の本邦報告例を集計し統計的考察を行ったところ,原発臓器は従来いわれているように乳癌が最も多いが,胃癌も20%と乳癌に次いで多く,胃癌の病型の記載のあるものは全例Borrmann4型であった.また胃癌を原発とする症例は原発巣に近い体幹,しかも左側に多く発生しており,これは胃からの解剖学的なリンパ経路と何らかの関係があるのではないかと推察された.③紅斑を主体とする転移性皮膚癌はその臨床症状の多彩さから,さまざまな分類がなされ,さまざまな名称で呼ばれており,統一された見解が確立していないため論議が重ねられている.我々は,紅斑を主体とするものを紅斑型と一括し,転移性皮膚癌を結節型,紅斑型,硬化型の3型に分類し,さらに紅斑型を丹毒様癌,紅斑癌と分類することを提唱したい.

CUSA(キューサ)で効果的に切除できた海綿状血管腫の1例

著者: 浦田裕次 ,   野田徳朗 ,   鷲見烈 ,   柳原誠 ,   森俊二

ページ範囲:P.491 - P.495

 CUSAはチタニウム製のチップが23KHzで振動し,そのチップに接する軟部組織を血管・神経を除き,選択的に破壊・吸引する機能を有する新しい手術機器である.他の外科領域では,すでに積極的に利用され,その有用性は高く評価されている.今回,我々は6歳男子の右肘関節尺側の海綿状血管腫の切除に当たり,出血の予防,尺骨神経の温存を目的としてCUSAを使用した.その結果,CUSAはその機能・安全性が予想以上に優れていることが痛感された.また切除標本の病理組織を検討し,CUSAは周辺の組織にはほとんど損傷を与えないことが確認された.著者らは,CUSAの歴史,構造,性能,利点・欠点,使用方法を紹介するとともに,術中の詳細な経過を含めて,症例を供覧し,若干の考察を加えて報告した.

これすぽんでんす

CTCLという言葉の使い方について

著者: 山田瑞穂

ページ範囲:P.496 - P.497

 「コレスポンデンス」なる欄への投稿が求められているので,言わずもがなのことながら一文をお送りする次第である.臨床皮膚科43巻1号,p.85〜,稲富徹氏らの「初期にはサルコイド反応を呈し,その後自然消退傾向を示したCutaneous T Cell Lymphoma (CTCL)の1例」なる論文を読ませていただいたが,若干の疑問と私見を述べたい.
 まず第一に,この症例は菌状息肉症(以下MFと略す)であるのか,違うのかを明らかにしていただきたいと思う.キイワードでCTCLとあるが,内容を読んで,この症例の本体がいかなるものか理解できない.いま,皮膚のリンフォーマについて苦労しているわれわれは,MFをどのように理解すべきかについて真剣に悩んでいる.歴史的に特異なこの疾患の考え方について,最近大変な混乱があり,われわれはこれを明らかにしようと努力しているところであるが,CTCLという言葉がこの混乱に大きく関与している.

山田先生の御意見に対して

著者: 稲冨徹

ページ範囲:P.498 - P.498

 今回は私共の症例に対し,貴重な御意見をありがとうございました.現在アメリカ留学中のため,御返事が遅れましたことを紙面を借りてお詫び申し上げます.
 はじめに自験例の診断について.臨床的に主たる皮疹は多発性の結節であり,組織学的にepidermotropism,Pautrier膿瘍を欠くことなどから菌状息肉症(以下MF)は考えませんでした.経過中,播種性に粟粒大丘疹が出現しましたが,組織学的に同部には異型細胞を認め得ず,湿疹様変化と考えられました.これらと併せ,組織学的,免疫学的な検索によって異型性のあるhelper/inducer T cellのmonoclonalな増殖を認めたため,MF,セザリー症候群(以下SS)とは異なるT cell由来のlymphomaと自験例を考え,CTCLと診断致しました.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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