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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科43巻8号

1989年07月発行

雑誌目次

カラーアトラス

小児の拇指球部に生じたGranular Cell Tumor

著者: 岡崎美知治 ,   楢原進一郎 ,   緒方克己 ,   高森通夫

ページ範囲:P.792 - P.793

患 者 4歳,男児
初 診 昭和61年7月4日

総説

発汗の生理機構に関する最近の進歩

著者: 佐藤賢三 ,   武村俊之 ,   嵯峨賢次

ページ範囲:P.795 - P.799

 発汗は体温調節のために人体にとり必要不可欠な現象である.体温調節以外にも皮膚の物理,生理的機能に発汗現象は関与していると推定され,また各種の皮膚疾患においても直接的あるいは間接的に疾患の発症,経過に発汗現象は関与していると考えられる.発汗機構に関する研究は生理学的・生化学的・分子生物学的手法を用いて最近著しく進歩した.本稿は皮膚科医にとり最低限必要な発汗機構に関する最近の知見をまとめたものである.

原著

南アフリカ紅斑熱群リケッチア症—本邦第1例

著者: 石井則久 ,   小松平 ,   石井晴美 ,   中嶋弘 ,   須藤恒久

ページ範囲:P.801 - P.804

 45歳,男.1988年2月7〜9日南アフリカ,キンバリーに滞在.2月18日有痛性の左鼠径部リンパ節腫脹に気付く.数日後,高熱と全身多発性紅斑性丘疹ないし小水疱出現.初診時(2月24日),左臀部に黒色の刺し口が存在していた.ミノサイクリン投与にて24時間後に解熱し,臨床症状軽快.血清学的に恙虫病に対する抗体価は陰性,Weil—Felix反応も陰性であった.紅斑熱群リケッチアに対する抗体価は上昇を示した.臨床経過,旅行歴,血清学的検査より,本症例は南アフリカにおいて感染し,帰国後に発病した本邦初の南アフリカ紅斑熱群リケッチア症と診断した.

悪性黒色腫初期病変の臨床所見—スナップ写真による検索

著者: 斎田俊明

ページ範囲:P.807 - P.811

 悪性黒色腫原発巣部が撮影されている過去のスナップ写真を患者に持参させ,これをもとにして先行病変の臨床所見を検討した,手掌原発の結節型悪性黒色腫症例では,初診の4年前に,大きさ約7×14mmの不整三角形状の濃褐色斑が存在していたことが確認された.顔面の悪性黒子症例では,初診の14年前に,直径約5mmの淡褐色斑が存在していた.2症例とも病歴上,先行病変は約30年前より存在していたと推定された.悪性黒色腫に先行して,しばしば認められる色素性病変について文献的考察を加えた上で,これらの先行病変の多くはdysplastic nevusなどの色素細胞母斑ではなくて,悪性黒色腫の初期病変そのもの,すなわちmalignant melanoma in situであろうとのわれわれの考え方を提示した.もし多くの悪性黒色腫がmelanoma in situの状態でかなり長期にわたり存在しているものとすれば,この段階での早期発見が不可能ではないことになる.悪性黒色腫の先行病変の本熊の解明が待たれる.

症例報告

ACバイパス手術時の輸血によるGraft-Versus-Host Disease

著者: 筒井清広 ,   川島愛雄 ,   高田実 ,   関雅博 ,   金谷法忍 ,   太田五六

ページ範囲:P.813 - P.816

 51歳,男性.体外循環装置を用いたACバイパス手術時に多数の供血者からの新鮮血3lを輸血された.術後12病日に38度台の発熱,翌13病日に風疹様紅斑が出現し全身に拡大した.これに引き続き血清トランスアミナーゼの上昇と黄疸,汎血球減少症が出現し,24病日に呼吸不全のため死亡した.皮膚の病理組織像は表皮基底層の空胞変性と表皮内リンパ球走入を示し,一部の表皮細胞にsatellite cell necrosisが認められた.免疫組織学的には浸潤リンパ球のほとんどがcytotoxic T cellで,表皮Langerhans cellは完全に消失していた.剖検所見では骨髄で骨髄芽球と赤芽球が消失し,脾のリンパ濾胞と全身リンパ節が高度に萎縮し,肝では小葉の巣状壊死と胆管の蛇行および胆管上皮の腫大が認められた.以上の所見より本症例は手術時の輸血によるgraft-versus-host diseaseと考えられた.

歯科金属アレルギーによると思われる手足皮膚炎の1例

著者: 杉山朝美 ,   林正幸 ,   池澤善郎

ページ範囲:P.817 - P.821

 金属アレルギーが原因と思われた手足皮膚炎の1例を経験した.症例は38歳の女性.34歳頃より,手掌および足蹠に瘙痒性皮疹が出現し,ステロイド軟膏の外用で軽快増悪をくり返していた.歯科金属シリーズにてパッチテストを行ったところ,全身倦怠感気分不快,全身の散布疹ならびに足雛の皮疹の悪化を伴って,塩化第二水銀,塩化金および塩化第二スズに対して明らかな接触アレルギー(遅延型アレルギー)によると思われる貼布反応が認められた.以上より,本症例における難治性の手足皮膚炎の原因として歯科金属に対する遅延型アレルギーの関与を考えた.

多彩な皮膚症状を呈したサルコイドーシス—無作為骨格筋生検による確定診断

著者: 兼松憲子 ,   森嶋隆文

ページ範囲:P.823 - P.827

 多彩な皮膚症状を呈し,皮膚生検で類上皮細胞結節を証明しえたが,BHLや眼病変を欠き,Kveim反応陰性であった52歳,女例を報告した.自験例で興味あることは,(1)背部の丘疹が黄色腫様外観を呈していたこと,(2)皮膚病変は瘢痕浸潤+結節型+皮下型という稀な病型であったこと,(3)2臓器以上にわたる病変の確認に腓腹筋生検が有用であったことなどである.

皮膚腺病と考えた腹壁結核の1例

著者: 中川八重 ,   照井正 ,   田上八朗

ページ範囲:P.829 - P.832

 結核性胸膜炎の既往歴がある67歳男性の左下腹壁に膿瘍が出現した.穿刺液の塗抹および培養でヒト型結核菌を検出し,腹部単純X線写真でも腹壁に多数の石灰化像を認めた.抗結核剤投与を開始後,膿瘍は皮膚に破れ潰瘍を生じたが,抗結核剤投与6カ月後には潰瘍は治癒した.3カ月後,その瘢痕の下部の腹壁に軟らかな腫瘤が生じ,超音波検査で膿瘍の存在が疑われた.現在抗結核剤の内服を継続中で,腫瘤の増大傾向はない.本症例は胸部結核病変がリンパ行性に腹壁に波及し,さらに皮膚に及び皮膚腺病となった稀な症例と考える.

尋常性狼瘡—増殖肥大型の1例

著者: 林久 ,   藤本篤夫 ,   重見文夫

ページ範囲:P.833 - P.836

 77歳の女性の左頬部に生じた尋常性狼瘡を報告した.約20年前に左頬部に数個の小丘疹として始まり,75歳頃から徐々に増大してきたので当科を受診した.初診時左頬部から下顎にかけて慢性肉芽腫様腫瘤を認めた.組織の塗抹抗酸菌染色標本で抗酸菌陽性を示し,組織ではラングハンス型巨細胞を伴う類上皮細胞結節を認めた.INH,RFPの2者併用療法にて4週目より扁平,縮小化が始まり,18週目には萎縮性瘢痕を残すのみとなった.治療は約6カ月間で終了し完治したと思われる.最近6年間の尋常性狼瘡の本邦報告例48例について若干の考察を加えた.

分裂病患者の昏睡状態に認められた水疱性発疹の1例

著者: 佐藤則子 ,   木村俊次

ページ範囲:P.837 - P.841

 19歳,女性.初診の約2カ月前より接枝分裂病にて某精神科病院に入院中であったが,突然39.0℃の熱発と共に皮疹が出現した.左頬部,左臀部には巨大な紅色腫脹とその上部に水疱の集簇を認め,また右手小指球下端部と左足内側縁に水疱様外観を呈する浮腫性紅斑,両側下腿伸側に虫刺様紅斑,両側足趾の爪廓部,趾背,趾間部に発赤を認めた.また眼脂,口唇粘膜の厚い鱗屑,口蓋垂に白い粘膜疹も認められた.組織学的に,壊死性血管炎の像はなく,表皮内汗管と真皮中・下層の汗管の壊死像が認められた.類似疾患との鑑別を試みたところ,汗腺壊死像とdiazepamの摂取歴より,自験例はdiazepam昏睡に伴う水疱疹が最も考えられた.

Necrobiosis Lipoidicaの1例

著者: 櫻井真也 ,   宮川幸子 ,   村松勉 ,   白井利彦 ,   坂本邦樹

ページ範囲:P.843 - P.846

 50歳女性の両下腿伸側部に発症したnecrobiosis lipoidica (granulomatoustype)の1例を報告した.約3年半に亘る治療,経過観察中に頻回に糖尿病の検索を施行したが,異常所見は認められなかった.臨床的には典型像を示し,組織学的にはlipoidicaの所見に乏しかったが,necrobiosis,リンパ球や多核白血球の浸潤巣を認めた.巨細胞による弾性線維の貪食像は認められなかった.自験例では,観察中に糖尿病を認めなかったことより,副腎皮質ホルモン剤の局注療法や内服療法を施行し良好な治療結果を得た.

砒素治療が誘因と考えられた多発性ボーエン病の1例

著者: 古家良 ,   市橋正光

ページ範囲:P.847 - P.850

 砒素製剤が誘因と考えられた多発性ボーエン病の69歳男子例を報告するとともに,1980年以後の本邦の慢性砒素中毒による皮膚腫瘍の報告例を検討した.集団発生例を除く報告例の約半数は砒素製剤によるもので,サルバルサンとフォーレル水が大半を占めた.砒素製剤は現在でも歯科領域で使用されており,他剤も比較的最近まで使用できたことと発癌までに15〜30年を要することから,今後も新患の発生は十分に予想される.また,多発性ボーエン病の診断に当たっては,砒素摂取の可能性に関する問診を十分に行うことが重要と考える.

熱傷瘢痕部に生じた悪性線維性組織球腫の1例ならびに文献的考察

著者: 佐藤典子 ,   高橋伸也 ,   斎藤謙 ,   李力行

ページ範囲:P.851 - P.855

 62歳,男性の右耳前部熱傷瘢痕部に発症した悪性線維性組織球腫の1例を報告した.腫瘤の初発から受診までの期間は半月と短く,大きさは18×23×8mm,真皮内限局を示した.光顕像では,storiform patternをとる線維芽細胞様細胞とシート状に増殖する組織球様細胞が主体をなし,ともに異型性が強く核分裂像を多数認めた.Bizarreな核を有する巨細胞,多核細胞も多数混じていた.電顕像ではいろいろな程度に線維芽細胞と組織球の性格を持ち,fibrohistiocyteと呼ばれる腫瘍細胞形態をとっていた.さらに,自験例を含め6例の熱傷瘢痕部上に生じた本症の特徴につき考察した.

角質嚢胞の著明であったいわゆる皮膚混合腫瘍の1例

著者: 樋口理恵 ,   磯田美登里 ,   楠部滋

ページ範囲:P.857 - P.859

 51歳,男性の右内眼角部に生じた1例を報告した.組織像は毛嚢への分化を示す角質嚢胞様構造とエックリン腺への分化を示す腺管構造が主体をなしていた.自験例を毛嚢への分化傾向を伴った,いわゆる皮膚混合腫瘍と考えた.

脂漏性角化症と誤診した悪性黒色腫の2例

著者: 工藤和浩 ,   熊坂中 ,   谷田泰男 ,   加藤泰三

ページ範囲:P.861 - P.863

 脂漏性角化症の臨床診断で単純切除を行った後,組織学的に悪性黒色腫と診断された2例を報告した.症例1は68歳の女性で,左上腕伸側に黒褐色斑とドーム状に隆起する黒色結節がみられた.結節の表面は蝋様で鱗屑を伴っており角質を詰めた小陥凹が点在するように見えるなど,脂漏性角化症を思わせる外観を呈していた.組織学的に表在拡大型悪性黒色腫であった.症例2は50歳の男性で,左眉毛部に扁平に隆起する黒色結節がみられた.境界明瞭な正円形の結節で色素のしみ出しはみられず,表面は細顆粒状を呈していた.組織学的に結節型悪性黒色腫であった.悪性黒色腫の臨床診断・鑑別診断,特に脂漏性角化症との鑑別について考察した.

Acquired Fibrokeratomaの2例

著者: 福田知雄 ,   木花光

ページ範囲:P.865 - P.868

 60歳男の右環指および52歳男の左足底に生じたacquired fibrokeratomaを報告した.後者では発症より受診までの期間が1カ月と本症にしては非常に短かったが,組織学的にも真皮は軽度浮腫性で,正常よりもやや細い膠原線維が増殖しており,幼若な組織を思わしめ,本症の初期病理像を呈しているものと考えられた.自験2例を含む本邦報告76例の統計処理の結果,本症は圧倒的に男に多く,また外傷,刺激を受けやすい指(特に右手),趾(特に第I趾)に好発することが確認された.ただし明らかな外傷の既往のある例はわずか4例で,一時的な外傷よりも慢性の軽度の刺激が誘因ではないかと推察された.

多彩な皮疹を呈したミベリ(Mibelli)型汗孔角化症

著者: 加茂直子 ,   玉森嗣育 ,   白濱茂穂 ,   滝川雅浩 ,   山田瑞穂

ページ範囲:P.869 - P.872

 77歳,男,大工.臀部,大腿部,外陰部および日光露出部に環状の皮疹を17歳頃より認めていた.顔面,頭部,肩甲部,前腕伸側には,播種状表在性汗孔角化症dis-seminated superficial actinic porokeratosis (DSAP)様の淡褐色の角化性小色素斑が多発しており,辺縁の隆起は極めて軽微であった.一方,臀部,大腿部,外陰部にはDSAP様の皮疹に加えて,大型で辺縁の隆起した境界明瞭な角化性環状色素斑も混在していた.組織学的にこの皮疹は,cornoid lamellaを認め,ミベリ型汗孔角化症と診断した.本症例を多彩な皮疹を呈したミベリ型汗孔角化症の稀有な1例であると考えた.

印象記

第88回日本皮膚科学会学術大会印象記

著者: 上出良一

ページ範囲:P.874 - P.877

 年号が平成に変わって初めての日本皮膚科学会学術大会は,平成元年5月11日から3日間,加賀百万石の城下町金沢市において,広根孝衛会頭(金沢大)により開催された.金沢での総会は大正9年の第20回(会長:土肥慶蔵教授),昭和23年の第47回(会頭:並木重郎教授),昭和40年の第64回(会頭:福代良一教授)についで4回目であり,伝統ある金沢大学皮膚科学教室の足跡がうかがえる.今回の総会開催に当たり広根会頭は,21世紀を間近に控え,転換期に立つ医学と医療の中での日本皮膚科学会の立場を,臨床応用を目指した研究の促進と,生涯教育の充実を目指した学会ととらえ,その実現のために基礎と臨床の結合を目指して,主要行事のテーマを選ばれたという.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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