icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科43巻9号

1989年08月発行

雑誌目次

カラーアトラス

Pitted Keratolysis

著者: 佐山重敏

ページ範囲:P.886 - P.887

患 者 57歳,男,染色業
初 診 昭和62年6月8日

総説

皮膚科医のための発汗および汗腺機能の検査法

著者: 佐藤賢三 ,   武村俊之 ,   嵯峨賢次

ページ範囲:P.889 - P.896

 発汗は体温調節のために人体にとり必要不可欠な現象である.体温調節以外にも皮膚の物理,生理的機能に発汗現象は関与していると推定され,各種の皮膚疾患においても直接的あるいは間接的に疾患の発症,経過に発汗現象は関与していると考えられる.しかし,いわゆる「発汗検査」が実地臨床の場において重視されているとはいいがたい.従来の発汗検査法は煩雑さ・清潔さ等の点で問題があり,外来あるいは病棟で容易に行い難いということがその理由の一つであろう.著者らは長年にわたり発汗の生理機構に関する基礎的研究を行うのみならず臨床的発汗検査法に種々の工夫を加えてきた.本稿では発汗検査法の実際的方法について簡潔に述べる.

原著

尋常性乾癬と扁平苔癬の併発—発症機序に関する免疫組織学的考察

著者: 早川順 ,   塩原哲夫 ,   長島正治

ページ範囲:P.897 - P.901

 21歳,男性,尋常性乾癬に扁平苔癬を併発した稀な1例を報告した.10年来,ほぼ全身に尋常性乾癬の皮疹があり,近医にて加療を受けていた.昭和61年12月頃より,四肢を中心に扁平苔癬の皮疹を生じた.臨床および病理組織検査より両疾患の合併例と診断した.HLAは,A1,A2,B37,B39,Cw6,Cw7,DR2,DQw1であり,尋常性乾癬の罹患素因を認めた.扁平苔癬の皮疹は,約4カ月後自然消退したが,扁平苔癬の併発期間中軽快していた乾癬の皮疹は,むしろ増悪する傾向を示した.両疾患は共によく知られた疾患であるが,合併例の報告は極めて少なく,自験例も含め15例にすぎず,そのほとんどの症例は,尋常性乾癬の発症後,扁平苔癬を続発していた.合併例の報告が極めて少ないことは,乾癬患者では,扁平苔癬を発症しにくい可能性を有することを示しており,その機序について若干の検討を加えた.

今月の症例

胸部鎧状癌(粘液癌)の1例—乳腺の粘液癌の皮膚転移

著者: 檜山清水 ,   小野真理子 ,   吉田寛子 ,   後藤裕美 ,   小林伸子

ページ範囲:P.905 - P.910

 粘液癌(膠様癌)は特異な組織所見を呈する癌である.今回われわれは鎧状癌の症状を呈した乳腺の粘液癌の皮膚転移の1例を経験し,本邦の皮膚科領域での第1例と考えられたので報告する.症例:73歳,女性.8年前に乳癌のため乳房切断術を受けた.気管支炎様症状で入院したが,手術瘢痕部とその周囲に板状の硬結と多数の丘疹を生じた.丘疹には膠様稗粒腫様外観を呈するものがあった.左鎖骨上窩リンパ節が腫大.組織像で,真皮上層に多数の大小の嚢腫様構造が存在し,その中に見られる癌細胞はHE染色で淡紅色,Alcian-blue,PAS,ムチカルミン染色で陽性.真皮中・下層の膠原線維間に小型の嚢腫様構造と粘液変性細胞(癌細胞)を混在する帯状の細胞浸潤が認められた.この所見から,原発巣の乳癌の組織は入手できなかったが,原発巣の乳癌は粘液癌と推察された.患者は1年半後に死亡したが,剖検はなされなかった.胸部に発生した鎧状癌,乳腺の粘液癌と皮膚粘液癌について若干の検討を行った.

Necrobiotic Xanthogranuloma—M蛋白を証明し得ない1例

著者: 藤田和美 ,   荒木由紀夫 ,   菅原信

ページ範囲:P.911 - P.915

 64歳,男.初診6カ月前に顔面に皮疹出現し,増大.右眼窩外側から下方にかけて一部黄色腫様変化を伴う暗赤色の皮下硬結あり.自覚症状なし.病理組織学的には,真皮乳頭層から皮下組織にかけて膠原線維の類壊死および黄色肉芽腫性病変を認める.免疫電気泳動法にて血清中にM蛋白を認めず,皮疹が眼窩周囲に限局するが,自験例をKos-sard & Winkelmannにより提唱されたnecrobiotic xanthogranuloma with parapro-teinemiaの範疇に属する疾患と考え,報告した.

症例報告

Extensive Pityriasis Albaの2例

著者: 寺木祐一 ,   小粥雅明 ,   杉浦丹 ,   秋山真志

ページ範囲:P.917 - P.922

 Extensive pityriasis albaの2例を報告した.症例1は22歳,男.症例2は13歳,女.それぞれ10年前,および3年前より脱色素斑が出現し始め,漸次全身性に拡大してきた.両者ともほぼ全身に融合傾向のある類円形から楕円形の大小様々な不完全脱色素斑を多数認めるが,表面の粃糠様落屑ははっきりしない.アトピー性皮膚炎の既往や家族歴はなく,その他の先行する皮膚病変も存在しない.組織学的には部分的な軽度のspon-giosisと,真皮浅層の血管周囲に軽度の小円形細胞浸潤を認めた.また健常部と比較して基底層のmelanocyteの数はほぼ正常範囲であったが,melaninの量は減少していた.電顕的にはmelanosomeのmelanocyteからkeratinocyteへの移行は認めたが,mela-nocyte内のmelanosomeの減少を認めた.以上より症例1,2ともにpityriasis albaの汎発型,すなわちextensive pityriasis albaと診断し若干の知見を加えた.

Verruciform Xanthoma—特に発生および発生部位について

著者: 金森幸男 ,   中山恵二 ,   中村進一

ページ範囲:P.923 - P.927

 80歳,男子の陰嚢右側に生じたverruciform xanthomaの1例を報告した.表面細顆粒状,淡紅色の有茎性腫瘤である.表皮および真皮の乳頭状増殖,および真皮乳頭層には泡沫細胞が稠密に存在する.皮膚に生じたverruciform xanthomaの本邦および外国の既報告例につき,また陰嚢部においては,左側に多い原因につき若干の検討を加えた.

特発性副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症に合併したZumbusch型汎発性膿疱性乾癬の1例

著者: 斎藤すみ ,   相原道子 ,   佐々木哲雄 ,   池澤善郎

ページ範囲:P.929 - P.933

 病歴より,特発性副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症に合併したと思われる乾癬様病変があり,急性腎盂腎炎を引き金として汎発性膿疱性乾癬となり,低カルシウム血症補正と感染症の治療により著明に軽快した27歳の男性の症例を経験した.幼小児期より低カルシウム血症によると思われる症状があり,25歳頃から全身に瘙痒性皮疹が出現した.初診時,尋常性乾癬と診断し経過を見ていたが,初診1週間後に汎発性膿疱性乾癬となった.膿疱は抗生物質,カルシウムおよび活性型ビタミンD3投与開始10日後には消退し,全身状態も改善した.その後,血清カルシウム値が上昇して正常の範囲に戻るとともに,乾癬病変も徐々に軽快した.自験例の乾癬病変の発症,膿疱化,悪化に対して,低カルシウム血症による何らかの関与が示唆されたため,若干の考察を加えて報告した.

ニューモシスチス・カリニ肺炎を併発した水疱性類天疱瘡の剖検例

著者: 梶田哲 ,   飯塚一 ,   三代川斉之 ,   片桐一

ページ範囲:P.935 - P.938

 副腎皮質ホルモン剤にて治療中,ニューモシスチス・カリニ肺炎を併発し死亡した,水疱性類天疱瘡の症例を報告した.治療開始約2カ月後,突然高熱およびチアノーゼが出現した.胸部X線像で両肺野に瀰漫性顆粒状陰影を認め,著明な低酸素血症,血清LDH値の上昇を伴い,ST合剤を投与したが2日後に呼吸不全のため死亡した.剖検時の組織学的所見では,肺胞腔の拡大,破壊および硝子様膜の形成を認め,グロコット染色にて,黒色に染色されたニューモシスチス・カリニの嚢子を確認した.

Toxic Epidermal Necrolysisの1例

著者: 前川典子 ,   赤枝民世 ,   伊庭仁樹 ,   細川宏 ,   橋爪健二 ,   河村甚郎 ,   朝田康夫

ページ範囲:P.939 - P.942

 53歳,女性.頭痛のため近医(内科)を受診,高血圧を指摘されてアルダクトンA®,ブルフェン®等を処方された.服用後約2週間で顔面,上肢に紅斑が出現し,紅斑は瘙痒を伴って全身に拡大して水疱を形成,発熱も生じた.当科初診時には全身に暗赤色紅斑および水疱が存在し,特に背部は全体が水疱化していた.入院後ステロイド剤点滴,外用にて病態は順調に改善した.退院後貼布試験でアルダクトンA®(スピロノラクトン)に陽性であった.

痕跡的多指症の1例

著者: 岩瀬教子 ,   原喜久子 ,   瀬在由美子 ,   永島敬士 ,   尾形彰子

ページ範囲:P.943 - P.946

 4歳,男児.生下時から右小指基部尺側にみられた淡紅色,6×4mm大の柔らかい有茎性の小腫瘤.病理組織学的には真皮乳頭層の約半数にMeissner小体を,浅層から深層まで神経線維束の増生と真皮深層にVater-Pacini小体を認め,神経染色によりSchmidt-Lantermannの切痕,Ranvierの絞輪,神経軸索を認めたことから痕跡的多指症と診断した.症例を報告するとともに,自験例を含む本邦皮膚科領域の報告24例について概要を記載した.

Nodular Subepidermal Fibrosisを先行病変とし,粘液変性を伴った隆起性皮膚線維肉腫の1例

著者: 田中勝 ,   渡辺匡子 ,   山崎雄一郎 ,   倉持茂

ページ範囲:P.947 - P.950

 幼少時より存在したnodular subepidermal fibrosisと思われる病変が,約30年後に,隆起性皮膚線維肉腫に移行したと考えられる症例を経験したので報告する.隆起した部分は暗紅色で柔らかく,血管腫を思わせる臨床像であった.組織では粘液変性をその表層部に認めたため,生検ではmyxoid liposarcomaあるいは粘液変性を伴うneuro-fibromaが考えられたが,深部では典型的なstoriform patternを呈し,S−100蛋白陰性所見と合わせて,隆起性皮膚線維肉腫と診断した.

母斑細胞母斑に伴った続発性皮膚骨腫の1例—いわゆるNantaの骨性母斑

著者: 比留間政太郎 ,   大畑弘幸 ,   志水達也 ,   高橋洋文 ,   川田暁 ,   久木田淳

ページ範囲:P.951 - P.953

 母斑細胞母斑に伴った続発性皮膚骨腫の1例を報告した.症例は34歳,男.左頬部の3mm大の黒子を治療時に偶然発見された.組織学的には,毛包中心性の母斑細胞母斑の下方に,6〜7個よりなる骨様組織が認められた.わが国においては類似例の報告は無く,本例が第1例目である.その発生機序に関して文献的に考察した.

爪下有棘細胞癌の1例

著者: 田村敦志 ,   石川英一

ページ範囲:P.955 - P.958

 77歳,男性.左第Ⅰ趾爪床部にキノコ状に隆起した肉芽腫様腫瘤を認め,生検にて有棘細胞癌と診断した.本症例の組織学的特徴として,1)腫瘍底部,腫瘍細胞巣間の炎症性細胞浸潤がきわめて少なく,2)真皮,皮下への腫瘍細胞の浸潤は平等で,周囲結合織との境界は比較的明瞭で,また,3)個々の腫瘍細胞巣内に無構造の均質化した角化細胞集団を多数認め,顆粒層を経ず,また扁平化することなく角化し,類円形のhorn pearlを形成しないことなどが認められた.治療は左第I趾中足骨切断術と左鼠径リンパ節廓清術を行った.組織学的にリンパ節転移は認めなかった.

慢性円板状エリテマトーデスより生じた有棘細胞癌の1例

著者: 龍神綾子 ,   萩原民郎 ,   寺内雅美

ページ範囲:P.959 - P.963

 慢性円板状エリテマトーデス(以下,DLE)の瘢痕の病巣の1個から生じた有棘細胞癌(以下,SCC)の1例を報告するとともに,過去10年間に報告のあった瘢痕癌のうち,DLEの瘢痕癌16例と,熱傷瘢痕癌25例を比較して,癌発現まででの期間,発生部位,性差などの考察を行った.癌発現までの期間は,DLEが平均18.1年,熱傷が47.1年とDLEの方が早く発現していた.発生部位は,DLEは顔面に圧倒的に多く,熱傷は頭部,四肢に多くみられた.性別では,どちらも男性に多くみられ,いずれもこれまでの報告とほぼ一致する結果であった.発生機序は瘢痕を母地とする以外にも,光過敏性,慢性刺激などの問題も考えられるが,いずれにしても瘢痕を残さないようにすることが癌発現を防ぐために必要と思われ,最近の知見にもふれた.

Microcystic Adnexal Carcinomaの1例

著者: 小粥雅明 ,   寺木祐一 ,   海老原全 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.965 - P.969

 64歳,女性の額部に生じたmicrocystic adnexal carcinomaの1例を報告した.組織所見は真皮中層から皮下組織,筋層にかけて角化性嚢腫,島嶼状および索状の上皮性腫瘍巣,管腔形成を示し,神経周囲にも浸潤し,腫瘍巣の周囲は均質な結合織の増生が著明であった.腫瘍細胞には異型性はほとんど無く分裂像もみられなかった.CEA染色では管腔様構造部および角化部に陽性所見が得られた.

Trichilemmal Carcinomaの1例

著者: 木花いづみ ,   石河晃 ,   生冨公明 ,   岸本宏志

ページ範囲:P.971 - P.974

 90歳,女性.右頬部に生じたtrichilemmal carcinomaを報告した.初診時,10×12×4mm,弾性硬,淡紅色肉芽腫様結節を認めた.組織では,分葉した大小の胞巣からなる上皮性腫瘍で,一部で表皮および毛包と連続する.腫瘍細胞は胞巣辺縁から中央に向かい,basaloid cellからPAS陽性物質を含む,大型のclear cellに移行し,分裂像,核の異型性も認められた,多くの胞巣の中央部に,好中球を混じた好酸性無構造物質を認め,電顕学的には壊死の所見であった.真皮中層から深層にかけて浸潤性増殖を呈し,一部に角質嚢腫様構造を認めたことから,自験例のような症例は,外毛根鞘由来の悪性腫瘍として包括的にtrichilemmal carcinomaと呼ぶのが適当と思われた.

印象記

第1回三大陸合同研究皮膚科学会に参加して

著者: 伊藤雅章 ,   伊藤薫

ページ範囲:P.976 - P.978

 1989年4月26日から4月30日まで第1回三大陸合同研究皮膚科学会(The 1st ESDR-JSID-SID Tri-continental Meeting)が米国ワシントンD.C.にて開かれた.本学会はその名の通りヨーロッパ研究皮膚科学会(ESDR,The EuropeanSociety for Dermatologic Re-search),日本研究皮膚科学会(JSID,The Japanese Society for Investi-gative Dermatology)と米国研究皮膚科学会(SID,The Society forInvestigative Dermatology)の合同の学会である.本来この時期にはSIDのannual meetingが開かれるのであるが,今回はこの三学会の合同学会が催された.過去にもJSIDとSIDおよびESDRとSIDのjoint meetingがあったが,三学会が一同に会するのは今回が初めてであった.
 従来SIDはシェラトン・ワシントン・ホテルで開かれることが多いが,今回の会場はホワイトハウスに近いマリオット・ホテルであった.ここはワシントンのダウンタウンにあり,スミソニアン博物館などのあるモールが近く,観光には格好の場所にあった.各国からの人が集まることを意識して場所を設定したかのようであった.さらにsessionによっては近辺の他のホテルも使われた.

第5回日本皮膚悪性腫瘍学会総会に参加して

著者: 小林まさ子

ページ範囲:P.979 - P.981

 雨あがりのすがすがしい5月の27日,日本皮膚悪性腫瘍学会が大宮ソニックシティで盛大に開催され,2日間にわたり活発な討論が行われた.明日からの治療にすぐに役立ちそうなシンポジウムの演題や,72題に及ぶ全国各施設の発表演題の載ったプログラムを手にして学会の開催を心待ちにしていた筆者は,大宮の駅前に立って,こぢんまりした町ながら近代的に美しく整えられた駅前通りの高い歩道や花壇に目を見張りつつ学会場へ駆け込んだ.
 本学会は今年で5回目の総会を迎えた.昭和60年に川村太郎会長のもと,皮膚悪性腫瘍研究会として比較的小規模で発足,非常に親密な雰囲気で行われた記憶がある.第2回,金沢,第3回より日本皮膚悪性腫瘍学会総会と改め,熊本,第4回,岐阜と回を重ねるたび,会員数も増加し演題も増えて盛大な学会になった.本学会は悪性腫瘍の患者さんの治療をどうしたらさらによくすることができるか,診断から治療に至るまで日々力を尽くし,患者さんとともに心をくだいて診療にあたっている皮膚科医,形成外科医の集まりであるから,質問や討論は活発,時にsevereであっても目指すところは同じで,遠慮なく卒直な意見を出し合う.それが大変勉強になり,欠かさず出席して明日への治療に役立てたいという気持ちを駆りたててくれる.会員数の大きな学会になってもなお,初回の頃と同様のこのような雰囲気で盛り上がっていくことは大変うれしい.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?