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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科44巻10号

1990年09月発行

雑誌目次

カラーアトラス

第二期顕症梅毒の女性例

著者: 加藤直子

ページ範囲:P.946 - P.947

患 者 42歳,女性
初 診 平成元年7月27日

原著

Hair Casts—走査電顕的観察

著者: 高橋クニ ,   勝海薫

ページ範囲:P.949 - P.953

 8歳女子とその妹に生じたhair castsを報告した.Hair castsはシラミの卵に似た白色の角質小片が毛に付着しているもので,管状になった角質小片の真中を毛が貫通する形で出現する.走査電顕的観察では角化した内毛根鞘小皮,内毛根鞘細胞,外毛根鞘細胞が認められ,正常毛組織中の毛根鞘角化細胞と比較して形態的変化は認められなかった.乾癬等のように錯角化をきたす皮膚病変が頭部に存在する場合にもhair castsはしばしば出現するが,それは病変部位の鱗屑が毛に付着したもので,本症とは異なる.本症は正常皮膚から出る毛に毛根鞘角化細胞が付着して生ずる比較的稀な型であり,その発生原因は不明である.しかし女性例に限られていること,家族的発生があることから,機械的要因,遺伝的素因が関与すると考えられている.

皮膚悪性リンパ腫,特に菌状息肉症細胞の超微計測

著者: 田端英之

ページ範囲:P.955 - P.964

 菌状息肉症のリンパ球様細胞の超微構造について計測し,他の皮膚悪性リンパ腫腫瘍細胞と量的比較を行うとともに,対照疾患として非腫瘍性紅皮症皮膚浸潤リンパ球と比較検討した.その結果,菌状息肉症リンパ球様細胞は平均値で他の皮膚リンパ腫腫瘍細胞と異なった計測値を示した.しかし,非腫瘍性紅皮症リンパ球とは顕著な差を認めなかった.さらに,菌状息肉症の特徴とされているmycosis cellsないし高nuclear contour index細胞,およびblast-like cellsと計測上類似する細胞は非腫瘍性紅皮症でも認められた.また,これら細胞の菌状息肉症病期の進行に伴う形態学的変化もなかった.以上の所見は菌状息肉症が炎症性変化の強いリンパ腫であり,他の皮膚リンパ腫と異なるリンパ腫であることを示唆する.

研究ノート・9

英文で発表を!

著者: 宮地良樹

ページ範囲:P.964 - P.964

 英語が外国語であるわれわれにとって,英語で発表したり,論文を書くことは決してcomfortableなことではない.頭の中で余分な思考過程が要るし,微妙なニュアンスを伝えたり,軽妙な言い回しなど,もとより出来ない.しかし,数値としてdataを見せられると英文で発表せざるを得なくなる.まず読者の数である.日本語は読めないが,英語なら理解できる読者の数は膨大だと思う.これは逆を考えれば容易に理解できる.フランス語やスペイン語でいくら優れた論文があったとしても,少なくとも私にとっては無に等しい.日本語はさらにminorな言語である.次に引用の頻度である.Impact factorといって,あるjournalに載った論文が翌年平均何回引用されるかというindexがあるが,皮膚科領域では,J Invest Dermatolが3.3, Br JDermatolとArch Dermatolが1.8, J Am AcadDermatolが1.7と続き,ドイツ語のHautarztは0.5である(1989 Year Book of Dermatologyより).Hautarztは英文抄録がなければもっと低くランクされると思われる.数年前,ウィーン大学のDr.Stinglが京都へ来たときに,ドイツ語圏の彼に「私はドイツ語が出来ないのでHautarztを読めなくて残念だ」とお世辞のつもりで言ったら,「Hautarztを読む必要はない」と逆にたしなめられた.その是非は別にして,私は,彼にドイツ語圏の新しいgenerationを感じたし,日本人ももっと英語に貧欲でなくてはならないと思い知らされた.そういえば,Dr.ChristophersとDr.Wolffもとても流暢な英語を話す.実験結果に自信があればあるほどより多くの人に読んでもらいたいし,より多く引用されたいと思うのは研究者として当然の欲求だと思う.実験の労苦を思えば,英語で書く労力を惜しむべきではないし,慣れが大切だと思う.ここ数年の研修医の先生をみていると,研修1年目に日本語でも論文を書かなかった人は,そのあともほとんど書かないし,卒後数年以内に英文論文を書かなかった人は,そのあとも英文で発表しないという法則が成立することに気づく.研修医のときから英文で発表するクセをつけることが肝要だと思う.私が研修医のころ,京大にはそうそうたる先生たちがおられ,IBMのタイプライターも順番を待つほどだった.それが,駆け出しの自分たちに無言の圧力となって,英文で書かざるを得ない雰囲気を作っていた.今は,ワープロのおかげで打ち直しの苦労は減ったし,世の中も十分国際化してきている.だからこそ「英文で発表を!」なのである.

今月の症例

クローン病患者に生じた匍匐性紅斑

著者: 阿部佳容子 ,   稲垣安紀 ,   岡大介 ,   幸田衞 ,   植木宏明 ,   木原彊

ページ範囲:P.965 - P.968

 30歳,男性.クローン病患者に生じた特異な匍匐性紅斑の1例を報告した.昭和53年頃より消化器症状が発現し,クローン病と診断された.臀部に蛇行する線状,一部環状の匍匐性紅斑が認められ,約1ヵ月の経過で消失した.その皮疹は左臀部から右臀部へ遠心性に拡大し,旧皮疹はほとんど変化を残さず消失するため,あたかも匍匐していくかのように見えた.本症例では,同様の皮疹が同一部位にクローン病増悪期に一致して,現在までに3度くり返し生じている.いずれの時期にも皮疹に対する積極的な局所治療が行われていないにもかかわらず,クローン病の軽快に伴い消失した.組織学的には,superficial perivascular dermatitis with interface dermatitisの像のみであった.皮疹の性状より疑われた顎口虫症等の寄生虫疾患を思わせる所見はなく,真菌症,自損症も否定された.以上のことより本皮疹はクローン病に関連したものであると考えた.

症例報告

播種型若年性黒色腫を生じたチロジナーゼ陽性型全身性白皮症の1例

著者: 斉藤範夫 ,   細谷順 ,   鮫島俊朗 ,   森嶋隆文

ページ範囲:P.969 - P.972

 色素細胞母斑を播種状に生じたチロジナーゼ陽性型白皮症の1例を経験し,文献的に色素細胞母斑の特徴を検討した.臨床的には小児期からほとんど全身に多発性に生じ,通常の黒子と異なって淡紅色〜pinkish yellowと形容される円形ないし卵円形の扁平台状に隆起した丘疹ないし結節を特徴とする.病理組織学的には色素細胞母斑と単に記載されている例が多いが,自験例のそれは播種型若年性黒色腫に一致すうものであった.

Blue-Red Maculesを伴ったレックリングハウゼン病の1例

著者: 山口潤 ,   袋秀平 ,   儘田晃 ,   勝俣道夫

ページ範囲:P.973 - P.976

 Blue-red maculesを伴ったレックリングハウゼン病の1例を報告した.症例は40歳,女性.患者の母親と娘の全身に多数の淡褐色斑を認める.生来全身に色素斑が多発し,最近半球状の小結節が増加してきた.自験例で特徴的な所見として,右背部に胡桃大,やや陥凹した蒼紅色斑が1つ認められた.病理組織学的に,切除した3個の半球状の小結節はすべて皮膚型の神経線維腫であったが,蒼紅色斑は真皮中層から皮下組織にかけて神経線維極が存在し,皮下組織内の病変部に赤血球塊を入れた大きな空隙を認め,Westerhof&Konradが報告したblue-red maculesに近い病変と考えた.この皮疹の病理組織学的特徴ならびに成因について若干の考察を加えた.

Eruptive Pilomatricomaの1症例—当教室における過去13年のPilomatricoma 21症例の集計

著者: 麻生和雄 ,   橋本秀樹 ,   近藤慈夫 ,   渡辺修一

ページ範囲:P.977 - P.981

 34歳,男.左頬部に発生したeruptive pilomatricomaの1症例を報告するとともに,当教室での過去13年に経験したpilomatricoma 21例の臨床・病理像を要約した.症例のeruptive pilomatricomaは急速に増大12×12 mmに達し,腫瘍形態は半球状,紫赤〜暗赤色で初診時診断が困難であった.病理組織学的には主として好塩基細胞からからなる真皮腫瘍巣中には一部細胞形態の大小不同性と多数の核分裂像が認められ,pilomatricomaの注目すべき1 variant型と思われ報告した.

Trichilemmal Hornの2例

著者: 鈴木秀美 ,   松井新 ,   徳橋至

ページ範囲:P.983 - P.986

 症例1)77歳,女性.初診時,右頬部に28×24mmの紅斑を伴う扁平隆起性の局面上に,直径約13mmの花弁状の皮角様結節を認める.症例2)54歳,女性.初診時,左臀部に6×6mmの皮角様結節を認める.いずれも病理組織学的にtrichilem-mal hornと診断した.皮膚の周囲および他部位に尋常性疣贅は認められなかった.

血管石灰化を伴つた糖尿病性壊疽の1例

著者: 八木英一 ,   多田有平 ,   真家興隆 ,   高橋伸也

ページ範囲:P.987 - P.990

 43歳,女.3年前より生じた糖尿病性網膜症,糖尿病性神経障害,糖尿病性腎症にて入院加療中,左踵に潰瘍が生じ,感染を伴い急速に拡大する.足の動脈にX線上石灰化を認め,組織学的に中膜の著明な石灰化と内膜の増殖性変化が確認された.インスリン大量投与による血糖正常化により進行,拡大は停止したが治癒傾向は認められず,下腿上1/3で切断を行った.

Cutaneous Focal Mucinosisの2例

著者: 前岡仁哲 ,   柿沼寛 ,   本庄三知夫 ,   馬場俊一 ,   鈴木啓之

ページ範囲:P.991 - P.993

 症例1:58歳男.左下腿の扁平台状隆起性結節.症例2:43歳男.頭頂右側の有茎性腫瘤.2例とも自覚症状および甲状腺疾患なし.いずれも組織学的に真皮上層にわたり境界不明瞭な無定型物質に紡錘形,星芒形の線維芽細胞が疎らに存在.被膜形成なし.無定型物質はアルシャン青染色で陽性,トルイジン青染色で異染性を示す.この物質はピアルロニダーゼで消化されピアルロン酸が主体と考えられた.以上よりcutaneous focal mucinosisと診断した.

Sweet病様の皮疹を伴ったBehçet病の1例

著者: 古家良 ,   市橋正光

ページ範囲:P.997 - P.1000

 Sweet病様の皮疹を伴ったBehçet病の1例を報告した.本症例では,Sweet病を思わせる有痛性紅斑を全身に散在性に認めたが,中心部に壊死を伴う特徴があり,発熱や白血球増多も明らかではなかった.また病理組織所見でも,浸潤細胞の主体は単核球であった.さらに,口腔内再発性アフタ,外陰部潰瘍および結節性紅斑様皮疹を認めたことより,Sweet病とは考えにくく,Behçet病にSweet病様の皮疹が伴った症例と診断するのが適切と考えた.HLAタイピングの解釈は困難であった.最近,Sweet病とBehçet病の独立性が疑問視されてきており,これからも両方の疾患の観点から経過観察が必要と考えている.

Vesicular Variant of Bullous Pemphigoidの3例—湿疹様所見を呈しEosinophilic Spongiosisを認めた類天疱瘡

著者: 徳田安孝 ,   伊藤隆 ,   斎田俊明

ページ範囲:P.1001 - P.1005

 信州大学皮膚科における水疱性類天疱瘡(BP)症例の中から,3例のvesicular variant of BPと考えられる症例を見いだした.これらの3症例はいずれも発疹学的に湿疹やジューリング疱疹状皮膚炎様の皮疹を呈し,組織学的にはeosino-philic spongiosisの所見が主体で,また治療上も比較的少量のステロイド内服が速やかに著効を示した.このような症例は通常型のBPの不全型との見方もできるかもしれないが,他方,通常のBPからは区別しうる独特な亜型である可能性も想定されうる.

慢性骨髄性白血病急性転化にみられた汗腺壊死を伴う水疱性皮疹

著者: 石河晃 ,   木花いづみ ,   生冨公明

ページ範囲:P.1007 - P.1010

 65歳,男.慢性骨髄性白血病急性転化によるショック状態で入院した患者の圧迫部位に生じた水疱疹を報告した.組織学的に特異な汗腺壊死像が観察され,neutrophilic eccrine hidradenitisと鑑別を要したが,いわゆるsweat gland necrosisin drug-induced comaに近いものと考えた.両疾患の鑑別につき若干の考察を加えたが,組織学的共通点も多く,両者の中間に位置するような症例が存在し,その発症機序に類似点が推測されることから,両疾患は近縁関係にあるものと考えた.

続発性皮膚紅痛症の2例

著者: 上村知子 ,   南光弘子 ,   堀江良一 ,   山根至二

ページ範囲:P.1011 - P.1015

 続発性皮膚紅痛症と思われる2例を報告した.第1例は47歳男性で特発性血小板血症を伴い,第2例は67歳男性疑診例で高血圧・肝癌・爪白癬を伴っていた.2例とも疼痛発作時の皮膚の潮紅,皮膚温の上昇があり,アスピリン内服が有効であった.皮膚紅痛症は特発性,家族性のもの,基礎疾患を伴う続発性のもの,やぶしめじの摂食による中毒性のものの4つに分けられる.病因について定説はないが自律神経障害,血小板機能異常,プロスタグランジンの関与,動静脈吻合の開口等諸説が言われている.本邦では最近10年間に44例が報告されており,基礎疾患の有無や種類により重症度や予後に差がみられた.病因や臨床が多様であることより,皮膚紅痛症は一つの疾患というより症候群として捉えるのが適当と思われた.

手掌および口腔に限局した扁平苔癬

著者: 倉持政男 ,   斎藤学 ,   五味博子 ,   細川洋子 ,   堀川悦朗 ,   酉抜和喜夫 ,   三浦隆

ページ範囲:P.1017 - P.1019

 両手掌および口腔に限局した扁平苔癬の1例を報告した.51歳,男.フィルム現像業.両手掌に淡褐色で米粒から小豆大の疣状に隆起した小丘疹が多発,集簇.頬粘膜において,乳白色粘膜疹がレース状局面を形成.組織学的には角質増殖,顆粒層の肥厚,表皮突起の延長,乳頭層への細胞浸潤とその下端の帯状形態.現像液への接触禁止とステロイド剤外用により手掌の皮疹は約8カ月を要して消退,口腔内は不変であった.

手掌にも皮疹をみた顔面播種状粟粒性狼瘡の1例

著者: 河野正恒 ,   原田晴美 ,   高田善雄 ,   斉藤隆三 ,   蛇沢晶

ページ範囲:P.1021 - P.1024

 48歳,女性の顔面播種状粟粒性狼瘡と考えた患者で,顔面以外に手掌,指腹にも皮疹がみられた症例を経験した.組織検査にて,顔面の皮疹より抗酸菌と思われる菌体様物質がみられるとともに手掌の皮疹より壊死部の中心に血管の残存が認められた.以上の所見より次のように考えた.病理組織学的に壊死部の中央に血管の残存があり,血管を介して病変が起こっていると思われる.そして1個ではあるが顔面の皮疹に抗酸菌と考えられる菌体が認められたことにより,これが原因菌とすれば汎発したことも説明できる,しかし現在のところ菌の同定はできず,また結核を示唆する所見もないことより,人型結核菌以外の何らかの抗酸菌が関与している可能性もあろう.

印象記

第17回ヨーロッパ皮膚電顕研究会(Society for Cutaneous Ultrastructure Research:SCUR)に参加して

著者: 清水宏

ページ範囲:P.1026 - P.1028

 第17回ヨーロッパ皮膚電顕研究会(Society for CutaneousUltrastructure Research:通称SCUR)がイタリアのローマで1990年5月4日から5日にかけて開かれました.SCURの略称で親しまれている本学会を,私はすべての国際学会の中で最も楽しみにしています.
 私は1988年以来毎年出席しているので今年が3回目の参加となります.SCURは16年前,ヨーロッパを中心とした皮膚科研究者の中で,とくに電子顕微鏡を用いた研究に興味を持つ人達により結成されたものです.それ以来毎年5月か6月の気候の良い時期に,ヨーロッパの中でも特に美しく綺麗な都市で開催する決まりになっています.ちなみに1988年はフランスのニース,昨年はドイツのケルン,今年はイタリアのローマ,そして来年の第18回SCURはオーストリアのウイーンで開催されることもすでに決定しています.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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