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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科44巻11号

1990年10月発行

雑誌目次

カラーアトラス

特異な臨床像を呈した局所型多発性グロムス腫瘍

著者: 小林孝志 ,   松本光博 ,   飯塚一

ページ範囲:P.1038 - P.1039

患 者 17歳,男性
初 診 昭和63年11月24日

総説

皮膚免疫電顕の基礎と臨床—ペルオキシダーゼ法から金コロイド法へ

著者: 清水宏

ページ範囲:P.1041 - P.1050

 皮膚科領域の研究において免疫電顕は不可欠な方法である.なぜならある蛋白の微細局在部位を調べたり,モノクローナル抗体の微細反応部位を知るには免疫電顕が唯一の方法だからである.しかし,免疫電顕の手法に関する研究は最近急速に進歩し,従来私たちが頻用してきたペルオキシダーゼを標識抗体とする手法はすでに旧式なものとなりつつある観がある.金コロイド法やpostembedding法などの新技法の導入により,これまで解明しえなかった新しい事実が少しずつ明らかとされるようになってきた.本稿では,まず皮膚科臨床医が知っておくと役に立つ免疫電顕の基礎知識を用語を含めてわかりやすく説明した.次に金コロイド法,postembedding法,Lowicrylなどの新しい技法や材料を免疫電顕に応用することにより,実際の皮膚科学の研究面においていかなるメリットがあるのかについて,これまでに筆者が実際に撮影してきた電顕写真を例にあげながら解説した.

原著

皮膚B細胞性リンパ腫—症例報告および本邦症例の検討

著者: 中川八重 ,   竹松英明 ,   高井良尋

ページ範囲:P.1051 - P.1055

 症例は,83歳,男性.初診約半年前に,右側胸部の結節に気づいた.右側胸部の腫瘤は,6×7cm,半球状に隆起しており,右腋窩には,7×7cmの腫瘤を触れた.組織学的には,真皮から皮下組織にかけて,核分裂像の多い,多数の中型のリンパ球の浸潤を認め,LSG分類によるびまん性中細胞型の皮膚B細胞性リンパ腫に相当した.総線量50.4Gyの放射線治療で腫瘤は触知できなくなった.最近8年間の本邦の,LSG分類で報告された成人皮膚B細胞性リンパ腫28例のうち,びまん性大細胞型が全体の約2/3を占めた.初診または治療開始1年後の生存率は,生死不明例を含めても75%であった.すなわち節性リンパ腫や胃,甲状腺,ワルダィエル輪,および眼を原発巣とする節外B細胞性リンパ腫の治療開始1年後の生存率が85%であるのに比べて,皮膚B細胞性リンパ腫の予後は悪い傾向を示した.

リンパ管腔内に腫瘍細胞の塞栓像を認めた有棘細胞癌

著者: 佐藤俊樹 ,   新沢みどり ,   真家興隆 ,   高橋伸也

ページ範囲:P.1057 - P.1061

 リンパ管腔内に腫瘍細胞の塞栓像を認めた有棘細胞癌の1例を報告した.症例:78歳,女.初診1年前より左耳介に浸潤性紅斑・結節出現,糜爛形成を繰り返した.病理組織像では角化傾向を示す腫瘍細胞が真皮のリンパ管内で増殖し,塞栓を形成している像が認められた.電顕による観察でも腫瘍細胞は有棘細胞の性質を有していた.転移性皮膚癌も考え検索を行うも他臓器に異常を認めなかった.切除後2年半を経過するが局所ならびに全身に異常を認めない.本症例を局所皮膚に原発し,主としてリンパ管内で増殖をみた有棘細胞癌と考え,その発症機序について若干の考察を行った.

今月の症例

Tubular Apocrine Adenomaの1例

著者: 大槻マミ太郎 ,   小林容子 ,   川口早苗 ,   日野治子

ページ範囲:P.1063 - P.1067

 38歳男性.5年前に気づいた左上腹部の褐色,拇指頭大の硬い半球状腫瘤.組織学的には真皮から皮下にかけて腫瘍塊が存在.大小の管腔構造と嚢腫形成がみられ,大部分の管腔壁は2層の細胞で構成,外層は立方形ないし扁平な細胞,内層は円柱状で断頭分泌所見あり,絨毛状ないし乳頭状増殖を示す部分もある.免疫組織学的には腫瘍細胞はCEA陽性を呈するがS−100蛋白は陰性.自験例ではeccrine originとされているpapillary eccrine adenomaとの鑑別が問題となったが,断頭分泌所見およびS−100蛋白の染色態度からtubular apocrine adenomaと診断し,主としてアポクリン導管部への分化を示す腫瘍と解釈した.

症例報告

水銀肉芽腫の1例

著者: 中野和子 ,   原洋子 ,   川津友子

ページ範囲:P.1069 - P.1073

 28歳,男性.初診,昭和62年1月27日.昭和61年12月,視力低下のため,近医に精査入院中,病室で水銀体温計が破損し,水銀を拾った.昭和62年1月22日,背部圧迫感を主訴に当院内科受診,胸部X線上,両肺野末梢に均一な顆粒状陰影多数存在.1月下旬,左前腕屈側に2個の有痛性紅色硬結が出現し,1個が自壊したため,当科受診.切開により銀色粒子が排出し,水銀と同定.生検にて,真皮から皮下に出血,膠原線維の壊死を認め,好中球,リンパ球を中心とする細胞浸潤,異物巨細胞を認めた.左前腕X線上,硬結部に一致して顆粒状陰影を認め,水銀粒子を周囲組織を含め切除し,植皮した.切除標本では,皮下に水銀粒子や,水銀粒子が脱落したあとの大小の丸い空隙とこれをとり囲む好酸球や異物巨細胞を認めた.血中,尿中水銀値の増加を認め,BAL投与.水銀の自己注入により生じた肉芽腫と推測している.

急性腎不全とびまん性肺出血を合併した全身性強皮症の1例

著者: 鈴村泰 ,   平真理子 ,   大橋勝

ページ範囲:P.1075 - P.1079

 27歳,男性.PSSの経過中,急速な腎機能不全と肺出血を呈し死亡した症例を経験したので報告した.腎生検では,膜性腎症の所見に加えて多数の半月体形成が認められた.強皮症腎に特徴的な血管病変は存在しなかった.蛍光抗体法では糸球体毛細血管係蹄にIgG,IgM,C3,Clqの沈着を認めた.電顕では糸球体上皮下にdensedepositを認めた.血液検査では,高力価の抗DNA抗体が認められたが,補体は腎機能悪化時においても低下しなかった.レニン活性は低下していた.ループス腎炎,強皮症腎,他の腎症について鑑別し,考察を加えた.腎症と肺出血との関係についても考察した.

硬性下疳と梅毒性乾癬を併発した症例

著者: 石倉多美子 ,   岡田芳子 ,   川島篤弘

ページ範囲:P.1081 - P.1083

 硬性下疳と第II期梅毒疹である梅毒性乾癬を併発した57歳,男性例を報告した.陰茎冠状溝を中心に包皮内板と亀頭にかけてびまん性浮腫と硬結があり,表面には痂皮をつけた小びらんないし潰瘍が数個みられた.なお陰茎根部下面に接した陰嚢表面に浸潤のある紅いびらん面がみられた.鼠径部に無痛性横痃があった.両下腿から足背にかけて梅毒性乾癬と思われる皮疹を認めた.梅毒血清反応はガラス板法64倍,TPHA320倍.下疳部の組織像では,表皮欠損,真皮のリンパ球・形質細胞の稠密な浸潤,真皮小血管の拡張・増殖・内皮細胞腫大がみられた.スピロヘータ染色(Warthin-Starr染色)では,表皮下層および表皮真皮境界部の細胞間にTreponemapallidumと思われる螺旋体が多数認められた.治療としてAM-PC1日1.0gを8週間内服させた.皮疹はすべて消失し,梅毒血清反応抗体価は低下した.

皮膚病変と腫瘤型の筋病変を呈したサルコイドーシス

著者: 塩浜敬子 ,   光戸勇 ,   羽場利博

ページ範囲:P.1085 - P.1088

 45歳,男.左内眼角部に米粒大結節が出現し,生検組織像にて類上皮細胞肉芽腫を認めた.初診時より眼病変を認め,胸部X線にてBHL陽性,ツ反陰性,血清ACE高値,および67Gaシンチグラフィーでの異常集積像よりサルコイドーシスと診断した.初診より1カ月後,右下腿に無痛性の腫瘤に気づき,筋生検標本よりサルコイドーシスの筋病変と診断した.サルコイドーシスにおいて臨床上,筋病変を呈する症例は少ない.自験例の筋病変を腫瘤型と考え,本邦報告例の文献的考察を加えて報告する.

大型環状紫斑を主症状としたアナフィラクトイド紫斑

著者: 東裕子 ,   上田純嗣 ,   古江増隆 ,   土田哲也 ,   中川秀己 ,   石橋康正

ページ範囲:P.1089 - P.1091

 症例は36歳男.四肢,臀部に小豆大より鶏卵大までの大型の環状紫斑が出現し,一部に小水疱を認めた.皮疹の生検像では真皮浅層を中心にleukocytoclasticvasculitisの像を認め,一部皮下脂肪組織にも著明な好中球の浸潤を認めた.皮疹は,diamino-diphenyl-sulphone(DDS)50mg/日の内服により消退したため,3カ月後にDDS内服を中止したところ,再び皮疹が出現,DDS再投与により皮疹はほぼ消退した.本症を,大型環状紫斑を呈した特異なアナフィラクトイド紫斑(anaphylactoidpurpura)と診断した.

Pigmented Soindle Cell Nevusを思わせたSpindle Cell Malignant Melanoma—腫瘍マーカーとしての尿中5-S-CD値

著者: 鈴木公明 ,   竹内美奈子 ,   兼松秀一 ,   花輪滋 ,   森嶋隆文

ページ範囲:P.1093 - P.1096

 結節型黒色腫の稀な病型であるspindle cell malignant melanomaの37歳,女性例を報告した.臨床的には右前腕に生じた直径8mm,類円形,扁平台状に隆起した黒色色素斑で,病理組織学的には表皮〜乳頭下層にかけて紡錘形細胞が流れおちるかのように配列し,maturationも認められ,pigmented spindle cell nevusと診断した.全身転移で死亡したことから,原発巣は悪性黒色腫そのものであったと考えられ,HE標本を再検討したところ,pigmented spindle cell nevusと異なって,spindlecell malignant melanomaの特徴とされる所見を具備していた.

難治性潰瘍性局面に電子線の局所照射が奏効した菌状息肉症の1例

著者: 朴木久美子 ,   村松勉 ,   白井利彦

ページ範囲:P.1097 - P.1100

 81歳,女性.20年前より全身に瘙痒性の紅斑が出現し,当科で菌状息肉症と診断されている.約半年前より,右膝蓋部に雀卵大の腫瘤が出現し,腫瘤の中央部に潰瘍性病変を生じた.潰瘍はステロイド剤などには反応せず,難治性であったため,電子線の局所照射を施行した.計40Gyの照射で皮膚潰瘍病変は著明な改善を認めた.従来より菌状息肉症の治療においては電子線全身照射の有効例が報告されているが,難治な皮膚病変のみに限局した電子線の局所照射療法は全身照射と比較し副作用が少ないことより試みられるべき治療法の一つと思われる.

成熟脂腺の増生・肥大を伴う角質嚢腫状腫瘤—Sebaceous Folliculomaの一型か

著者: 木村俊次

ページ範囲:P.1101 - P.1104

 19歳女子左上腕に1年余り前から生じて炎症性腫脹を繰り返した胡桃大腫瘤が,組織学的に層状の結合織増生を伴う成熟脂腺の増生・肥大とかなり大型の角質性嚢腫とを示した.脂腺の増生・肥大と角質性嚢腫との両面についてこれまでの報告例と比較・検討したところ,sebaceous folliculomaの範疇に属し,かつ角質嚢腫様構造が目立つものと考えられた.

外傷後に生じた血管腫

著者: 高野美香 ,   林紀孝 ,   利谷昭治 ,   曽爾彊 ,   西村正幸

ページ範囲:P.1105 - P.1108

 58歳女子の右こめかみに生じた海綿状血管腫の1例を報告した.1年前同部を打撲,その部に一致して生じたことから,外傷後組織修復過程で生じた局所の循環動態の変化によって引き起こされたものと考えられる.外傷後に海綿状血管腫を生ずることは非常にまれであるが,外傷に続発する腫瘍性病変の診断にあたり忘れてならない疾患の一つである.

粘液腫の1例

著者: 原田玲子

ページ範囲:P.1109 - P.1112

 41歳,男の背部に認められた粘液腫の1例を報告した.腫瘍は境界明瞭で,暗赤色,薄い線維性被膜に包まれ粘液様の物質を豊富に有し,組織学的にも豊富な粘液様matrix内に紡錘型ないし星芒状の細胞が散見された.脂肪腫,神経系腫瘍等の関連や移行を思わせる所見は得られず,Stoutの定義にほぼ一致する.文献的検討も加えて報告した.

正中下顎嚢胞,仙尾部の瘻孔を伴う先天性頬部瘻孔の1例

著者: 原田玲子 ,   磯貝豊 ,   藤野豊美 ,   永井哲夫

ページ範囲:P.1113 - P.1116

 4歳,女児の頬部下方に認められた先天性瘻孔の1例を報告した.自験例では下顎骨体の変形が認められ,正中下顎嚢胞や仙尾部の瘻孔も伴っていた.瘻管は病理組織学的に,開口部に近い皮膚側では正常皮膚とほぼ同様であったが,深部の口腔側では粘膜上皮に近い所見を示し,その内容は豊富な角質と毛成分であった.このような症例は渉猟し得た限りでは報告例は見いだせず,稀な症例と思われた.

Palmar Fibromatosisの2例

著者: 山本俊幸 ,   森田恭一 ,   古井良彦

ページ範囲:P.1117 - P.1119

 Palmar fibromatosisの2例を経験した.症例1は43歳の男性で,約1年前より左手掌に結節が出現した.症例2は11歳の男性で,左手掌の硬結にいつ気づいたかははっきりしない.2例とも病理組織は,線維成分の増生と大小種々の紡錘形の核を有する線維芽細胞よりなる境界明瞭な腫瘍塊で,典型的なpalmar fibromatosisと考えられた.どちらも拘縮はなく,また糖尿病などの基礎疾患も認めなかったが,症例2の,11歳という若年発症例はきわめて稀と考えられた.

研究ノート・10

Charge!!

著者: 宮地良樹

ページ範囲:P.1079 - P.1079

 研究所の教授という職は55歳が能力の限界だから,という理由で京大ウイルス研究所を辞められた市川康夫先生の本,「山なみ遠に—僕にとって研究とは」(1990年,学会出版センター刊)をとても面白く読んだ.小児白血病に興味を持ち,京大病理の天野研究室に飛び込んで,大変な努力の末,白血病ウイルスを発見された先生が,目覚ましい生物学の発展の中で,「刀折れ矢尽きて」女子大の教授に転身されるまでを描いたものだが,先生の正直な人間性がとてもよく表れていた.もちろん,全く面識はないが,基礎研究の厳しい現場で分秒を競いながら,はたからみれば,きわめてスマートに教授となられた先生が,その悩みや弱さをさらけ出し,結局,自分にとって研究とは何だったのかと自問する謙虚さに感銘を受けた。それとともに,経験を積み重ねることが力となる臨床とは違って,基礎の世界は厳しいものだと思った.しかし,われわれ凡人が抱くのと同じような研究に対する悩みや不安を,レベルの差はあれ,こういう人たちも抱くのだと知って,少しホッとした.「生き恥かきたくない」から「研究生活から敗走する」のだと自嘲めいて述懐される先生も,逆から見れば,研究に自らを燃焼しつくしたわけで,ある意味では,幸せな人だとも思った.その先生が,「すぐお腹が空くくせにすぐ満腹する」ような粘着性のない研究はいけない,といわれると,まるで自分のことを見透かされているようで,小粒な自分の研究を反省することしきりである.
 きょうもたまたま同僚の先生が「免疫学をもう一度勉強しようと思って学生の講義を聴講したけど,遺伝子ばかりで全然判らなかった」というのを聞いて,市川先生の場合とスケールは違っても,徐々に研究の最前線との距離が開いていくのかと少し淋しい気がした.その市川先生が,静かな余生を過ごそうと移った女子大でも,「dischargeだけでは余生といえども生きてゆけないこと,chargeしつづけることの喜びを知った」と書かれたくだりが印象に残った.「笑わば笑え,僕にとって研究とは,結局生きてゆくことなのだ」—私にも,またファイトが湧いてきた.是非ご一読をすすめたい一冊である.

印象記

第89回日本皮膚科学会総会・学術大会に参加して

著者: 井階幸一

ページ範囲:P.1120 - P.1122

 第89回日本皮膚科学会総会・学術大会は,日本皮膚科学会始まって以来,初めて鳴門のうずしおを越えて,四国の地に渡り,平成2年5月10日より3日間,徳島市の徳島郷土文化会館において,例年を上回る多数の応募演題(症例報告195題,一般演題179題ワークショップ応募演題67題)を得て武田克之会頭(徳島大学)により開催された.
 今回の学術大会では,会員による会員の学会という武田会頭の方針から,出題数を制限することなく,学術展示を多くして会員の意欲的な発表と十分な討議がなされるよう配慮された.また,学術大会のテーマとして「臨床と基礎とのクロストーク—臨床から基礎へ,基礎から臨床へ—」と「機能と形態との関連」が選ばれた.会期の前半は基礎的研究成績から新しい臨床応用への道と臨床症状の基礎的解明を考え,後半は明日の診療に役立つべき講演・演題というように配置された.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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