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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科45巻1号

1991年01月発行

雑誌目次

カラーアトラス

Soorotrichoid Nocardiosis

著者: 小林衣子 ,   高島巌

ページ範囲:P.6 - P.7

患者69歳,男,土工夫
 初診昭和59年7月16日
 家族歴・既往歴 特記すべきことはない.
 現病歴 昭和59年6月下旬,札幌近郊の温泉街で道路工事中に,左手関節屈側部に外傷を受けた.7月初め同部に膿疱が出現,しだいに発赤を伴う硬結となり中心部が潰瘍化してきた.その後,左上腕内側の皮下に結節,前腕屈側中央部にも発赤硬結が生じ,圧痛を伴った.

原著

Naphthol ASによる色素沈着性接触皮膚炎

著者: 河内繁雄 ,   川島忠興 ,   山崎自子 ,   斎田俊明

ページ範囲:P.9 - P.15

 綿のカジュアル・シャツ着用により,頸部・上肢に色素沈着性接触皮膚炎を生じた1例を報告した.貼布試験では着用していたカジュアル・シャツと,1%および0.1% naphthol AS-OLに陽性反応を認めた.臨床症状はネル寝巻による色素沈着性接触皮膚炎に類似したが,頸部全周に色素沈着を認め,掻痒は冬期に限定されない点で異なっていた.頸部皮膚生検組織では苔癬型組織反応を認め,表皮細胞の孤立性好酸性壊死と,これにリンパ球が接する像が認められた.このような組織学的所見はgraft versus host diseaseや扁平苔癬,苔癬型薬疹などのそれに酷似する.したがって本症は通常のアレルギー性接触皮膚炎とは異なるものであって,苔癬型組織反応が関与している可能性が考えられる.このような観点から本症の発症機序につき細胞免疫学的な考察を試みた.なお,naphthol ASの感作能をハートレー系白色モルモットを用いて検討したが,感作性を認めることはできなかった.

菌状息肉症類似の皮疹を呈した成人T細胞白血病・リンパ腫

著者: 大川幸三 ,   和田えみ ,   北川伸子 ,   小玉肇 ,   神崎哲也 ,   藤下雅敏 ,   田口博國 ,   岡剛史 ,   滝脇弘嗣

ページ範囲:P.17 - P.21

 68歳男性.全身に菌状息肉症類似の浸潤性紅斑が多発した.皮疹部病理組織所見ではPautrier微小膿瘍と真皮に異型リンパ球のびまん性増殖を認めた.浸潤リンパ球の大部分はLeu 3a陽性であった.末梢血液中の異型リンパ球は0-2%で,内部諸臓器への侵襲はみられなかった.Human T cell lymphotropic virus type I(HTLV—I)抗体は16,384倍(PA法)で,サザンプロット法により腰部腫瘤にHTLV-I proviralDNAを検出した.PUVA単独療法に比ベエトレチナート内服併用により皮疹に対する治療効果が増強した.2年目に急性転化したため少量CHOP療法を実施し,寛解状態となった.本症例における菌状息肉症類似の皮疹の発症には,ランゲルハンス細胞によるT細胞への抗原の持続感作およびT細胞へのHTLV-I感染が関与していると考察した.

研究ノート・13

Principles of Dermatology

著者: 宮地良樹

ページ範囲:P.21 - P.21

 “The Official M. D. Handbook”という医師を揶揄したパロディ本がアメリカにあって,著者も医師なので,実感がこもっていてなかなか面白い.Dermatologyの項を開くと,Principles of Dermatology If it's wet,dry it. If it's dry,wet it. If neither of these works,use steroids. If steroids don't work,do a biopsy. と,ひやかしてある.皮膚科医として考えてみると,確かに的を得ている面があって反省させられる.他科の医師からみたときに,われわれの実践している臨床とは,この程度のものなのかとも思う.なぜその程度の評価なのかと考えてみると,他科の医師にもアピールするような治療上の進歩が,1950年代のステロイド外用剤以降ないからだと思われる.なるほど,皮膚科学の基礎研究は免疫学や分子生物学の進歩をとり入れてめざましく発展したし,これは,誇れるものだと思うが,まだ第一線の臨床に直結するものとは言いがたい.シクロスポリン,抗ウイルス剤,抗アレルギー剤などは他科でも使われるので,皮膚科独特の新しい治療といえば,レチノイドと光化学療法の二つに集約される.photoagingに対するRetin-Aの効果も,sensa tiona1ではあったが,academicにアピールしたとは思えない.

症例報告

Majocchi型紫斑,補体のCold Activation現象を伴ったクリオグロブリン血症の1例

著者: 森田美佳子 ,   刀祢真理 ,   片山一朗 ,   西岡清 ,   西山茂夫 ,   舩渡忠男

ページ範囲:P.23 - P.26

 56歳,男性.44歳頃よりアルコール性肝炎あり.約10カ月前より足背部に鮮紅色調点状出血斑出現.しだいに増悪し,腹部にまで拡大.その特異な臨床像はangiodermatitisの中のMajocchi病と考えられ,組織像も同病に合致する.本症例では,IgG型クリオグロブリン血症と低補体血症が認められ,後者の原因として慢性肝機能障害に基づく補体のcold activationによると思われた.クリオグロブリン血症の皮膚症状は多彩であるが,Majocchi型紫斑の報告はなく,さらに本症例の病態について考察した.

腹壁遠心性脂肪萎縮症—成人発症例について

著者: 遠藤直樹 ,   赤坂俊英 ,   森康記 ,   昆宰市 ,   後藤尚 ,   萬谷嘉明

ページ範囲:P.27 - P.30

 39歳,女性の小児腹壁遠心性脂肪萎縮症の成人発症例と思われる1例を報告した.初診の約5年前より右側腹部に紫紅色斑が出現し徐々に皮膚の陥凹を伴ってきた.6年前からは両側遊走腎の診断を受けていた.従来の小児の報告例と比較して臨床像,組織学的所見ともに合致する点が多く成人発症例と考えた.さらに,遊走腎発症に本症が関与するものと考えた.

膜嚢胞性病変を伴う脂肪織炎の1例

著者: 佐藤千鶴 ,   藤田優 ,   三方淳男

ページ範囲:P.31 - P.34

 39歳,女性の左下腿に,皮表に変化のない拇指頭大の皮下硬結を認めた.組織学的に皮下脂肪織,および皮下に増生した結合織に「しぼんだ唐草模様」状の膜様構造物で被われた嚢胞が多発し,同様の膜様物で被われたoil cyst様の大きな類円形の嚢胞も認めた.その周囲には小円形細胞浸潤と,一部肉芽腫性変化もみられた.「膜嚢胞性病変を伴う脂肪織炎」と診断し,文献的に考察を加えた.

掌蹠の膿疱で初発した好酸球性膿疱性毛嚢炎

著者: 青山浩明 ,   竹松英明

ページ範囲:P.35 - P.38

 掌蹠に限局する膿疱で発症した23歳,男性の好酸球性膿疱性毛嚢炎の症例を報告した.掌蹠の皮疹出現の3年後,はじめて顔面に膿疱が出現した時点で好酸球性膿疱性毛嚢炎と診断し,インドメサシンを内服させたところ皮疹は治癒した.好酸球性膿疱性毛嚢炎の本邦報告例207例中,掌蹠に膿疱が出現した例は38例で,うち,掌蹠の膿疱で発症したものは16例で,掌蹠の膿疱の出現から他の部位の皮疹の出現までに平均26カ月を要した.その多くの症例で好酸球数増加があった.掌蹠に膿疱が限局している時期に好酸球性膿疱性毛嚢炎と診断された例はなかった.掌蹠の膿疱を見たときに,掌蹠膿疱症のみならず,好酸球性膿疱性毛嚢炎も念頭におくことが必要である.

足底に生じたCiliated Cyst

著者: 小林都江 ,   宮川俊一 ,   木村俊次

ページ範囲:P.39 - P.42

 14歳,女子中学生の右足底に生じたcutaneous ciliated cystの1例を報告した.本例は約2年前より右足底に腫瘍を認め,漸次増大したため当科を初診した.初診時,右足底に認めた嚢腫状青黒色の腫瘍を切除したところ,組織学的には真皮上層から下層にかけて単発する大型の嚢腫であり,かつその壁は内腔側に線毛を有する1層の円柱上皮からなる.その臨床・組織所見から,本例はFarmer & Helwig(1978)1)の報告したcutaneous ciliated cystと考えられ,現在までの報告例と比較するとともに若干の考察を加えた.

センチニクバエによるMyiasisの1例

著者: 加藤直子 ,   小梁川義則 ,   高橋健一

ページ範囲:P.43 - P.45

 59歳の女性の,直腸癌の肛門周囲皮膚への突出部に生じた,センチニクバエによるmyiasisの1例を報告した.末梢血好酸球数は上昇しなかった.ポピドンヨード液による頻回の洗浄により4日目に幼虫の排出は停止した.戦後のセンチニクバエによる本邦報告例として9例目,当地(北海道)では最初の報告である.衛生環境が整っている病院においても,付添いの介護が無く,悪臭を放つ状態の患者においては,本疾患の発生に十分注意が必要と考えられた.

Ki−1リンパ腫の1例

著者: 稲葉義方 ,   三原一郎 ,   内山浩志

ページ範囲:P.47 - P.50

 3歳4カ月男児で短期に死の転帰をとったKi−1リンパ腫を報告した.臨床的には頸部のリンパ節腫脹および発熱で発症し,治療中間欠的に浸潤性暗紅色丘疹が躯幹を中心に多発した.病理組織学的にリンパ節では被膜下洞および傍濾胞領域を主体として大型の多形性に富む組織球様細胞の増殖を認め,また皮膚においてもリンパ節と同様の細胞が真皮内に結節状に浸潤していた.免疫組織化学的検索ではこれら腫瘍細胞はKi−1,IL−2,EMA(epithelial membrane antigen)が陽性であったが,TおよびBリンパ球のマーカーを表現しなかった.

Malignant Clear Cell Hidradenomaの1例

著者: 森康記 ,   千葉純子 ,   松田真弓 ,   赤坂俊英 ,   昆宰市

ページ範囲:P.51 - P.55

 72歳,男性の左口角部に出現したmalignant clear cell hidradenoma(MCH)の1例を報告した.組織学的に腫瘍は,大型の明調細胞より構成される不規則な腫瘍塊で,上方ではsquamous eddyなど角化傾向を有し,さらに電顕像で,細胞内微小汗管および細胞間空隙を認め,eccrine poroductocarcinomaに相当するものであった.また,初回切除時の組織像に比較し,再発時の組織像がより異型性を増していたことから,MCHの一部は良性のclear cell hidradenomaからの発生,あるいはMCHが再発および転移により悪性度を増すことが示唆された.

Aneurysmal(Angiomatoid)Fibrous Histiocytoma of the Skinの2例

著者: 山本俊幸 ,   森田恭一 ,   古井良彦

ページ範囲:P.57 - P.60

 Aneurysmall(angiomatoid)fibrous histiocytoma of the skinの2例を経験した.症例1は17歳の男性で,右大腿部外側に,爪甲大の茶褐色の結節を皮下に触れる.症例2は32歳の女性で,左下腿部屈側に,小指頭大の半球状に隆起する黒褐色の結節を認める.組織学的にはどちらも,真皮内に皮膚線維腫と思われる腫瘍塊があり,その内に,壁に内皮細胞を欠く大小の空隙を認め,空隙の中には赤血球塊を入れていた.本症は報告例は少ないものの稀な疾患ではないと考えられた.

UEA-Iレクチン陽性を呈した限局性皮膚リンパ管腫の1例

著者: 二宮啓郎 ,   荒瀬誠治 ,   渡部泰守 ,   榊哲彦 ,   重見文雄 ,   佐川禎昭

ページ範囲:P.63 - P.65

 限局性皮膚リンパ管腫の19歳女性例を報告した.病変の臨床像と組織像は典型,免疫組織化学的には第Ⅷ因子関連抗原PAP法では陰性で,UEA-Iレクチンでは拡張した管腔のほとんどの内皮細胞で陽性を呈した.これまでの本邦における報告を集計し,発生年齢,発生部位について統計的観察を行うとともに,免疫組織化学について若干の考察を加えた.

Giant Cell Tumor of Tendon Sheathの1例

著者: 木花光 ,   野田淳子

ページ範囲:P.67 - P.70

 61歳女の右示指末節の伸側および屈側に計4個の皮下結節として生じたgiant cell tumor of tendon sheathの1例を報告した.伸側の2個の結節を摘出したが,下床とは容易に剥離可能で,また相互の連絡は認められず,1個の腫瘍が分岐発育して4個の結節として見られたのではなく,腫瘍が各々独立して多発したものと推測された.本腫瘍は一般に単発性であり,多発例は稀であるが,自験例は結節の多発以外は臨床的にも組織学的にも典型例であった.最初に出現した大きな結節では泡沫細胞を認めたのに対し,後から出現した小さな結節ではこれを認めず,腫瘍発育中二次的に腫瘍内で脂質代謝障害が生じ脂質が沈着するものと推測された.

平滑筋母斑の1例

著者: 清水忠道 ,   加藤直子 ,   熊切正信 ,   大河原章

ページ範囲:P.73 - P.76

 2歳,女児の右臀部に生じた平滑筋母斑の1例を報告した.本症例は鶏卵大の境界やや不明瞭な淡褐色斑で軽度の浸潤を伴っていた.組織学的には真皮に種々の方向に束状に走行する平滑筋束が増生する所見を示した.抗デスミン抗体,抗ビメンチン抗体による免疫組織化学的検索を行った結果,抗デスミン抗体にて陽性,抗ビメンチン抗体にて陰性を示したことから,増生している平滑筋束は立毛筋に近い成熟した構造であることが確かめられた.本例のような,局所の多毛を伴わない淡褐色斑の臨床像を示す平滑筋母斑は日常診療において見過ごされやすいので,色素斑の診断に際しては一応本症を念頭におくことが大切である.

耳介部に発生したEpithelioma Cuniculatum

著者: 足立厚子 ,   松林周邦 ,   谷昌寛

ページ範囲:P.77 - P.80

 80歳男性の耳介部に発症したepithelioma cuniculatum(EC)の1例を報告した.Airdらが足蹠より発症した疣贅状low grade squamous cell carcinomaをECとして報告して以来,現在までに約150例の本症の報告が見られるが,ほとんどの症例が足部に発症したものであり,耳介部に発生したECは我々が調べ得たかぎりでは自験例が2例目であった.鑑別診断としてはケラトアカントーマ,有棘細胞癌,尋常性疣贅などが挙げられるが,その臨床的および病理組織学的特徴により鑑別可能と考えられる.

印象記

「日本皮膚科学会第54回東日本学術大会」に参加して

著者: 溝口昌子

ページ範囲:P.82 - P.84

 第54回東日本学術大会は平成2年9月22日(土)と23日(日)の2日間にわたり,杏林大学皮膚科長島正治教授を会長に京王プラザホテルで開催された.プレジデンシャルアドレス,記念講演,特別講演2題,教育講演6題,一般演題と展示が199題あり,4会場に分かれ,約1200人が参加した.実に盛会であった.
 東部支部と東京支部が合同で行う東日本学術大会は今回が最後で,次回からは両支部が分離独立して行われることになっている.この最後の学会を記念する企画がいくつかあったが,その第一は籏野倫慶應義塾大学名誉教授による記念講演「東日本学術大会を回顧して」であった.今回の分離独立に関しては「東部が言い出した」,「いや東京支部が先に決めた」など様々な説が流れた.学会が大きくなりすぎたために分離を歓迎する声や,現在でも多すぎる学会が分離によりまた増えることを憂慮する声もあったが,籏野名誉教授はこの学術大会が始められた状況とその後の学会の経過,今回の分離のいきさつ等を丁寧に話された.様々な意見の人々を納得させる説得力に溢れたお話だった.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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