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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科45巻11号

1991年10月発行

雑誌目次

カラーアトラス

面皰母斑

著者: 山本信二 ,   西本正賢

ページ範囲:P.830 - P.831

 症例 53歳,男子
 初診 昭和60年11月7日
 家族歴・既往歴 特記すべきことなし.
 現病歴 20歳頃,右耳介後面より右頸部にかけて,圧出により粥状物を排出する黒色点があるのに気づく.徐々に増数するも自覚症状ないため放置していた.
 現症 右耳介後面より右頸部にかけて,多数の粟粒大より半米粒大の面飽様皮疹が集籏した2.1×10.7cm大のほぼ常色,軽度隆起性帯状局面を認める.萎縮や瘢痕形成はない(図1).目,神経,骨格等の異常もない.
 組織所見 重積した角質を充満する漏斗状に拡張した毛嚢様の陥凹,あるいは嚢腫を多数認める.一部にはその中に毛の断面を見る.脂腺は著しく増殖しており陥凹腔内に開口するものもある(図2).嚢腫下端には未発達な小脂腺の付着している像もみられる(図3).陥凹と陥凹の間の表皮には味蕾状に不規則な肥厚を示す部もある(図4).電顕的にはランゲルハンス細胞の増加を認めた.

原著

露出部に多彩な皮疹を示した白皮症

著者: 熊坂久美子 ,   谷田泰男 ,   田上八朗

ページ範囲:P.833 - P.837

 多彩な皮膚疾患を生じた59歳,女性のチロジナーゼ陽性型全身性白皮症の1例を報告した.皮疹は日光露出部に限局しており,顔面に基底細胞上皮腫,色素性母斑,肉芽腫性口唇炎,項部に菱形皮膚,手背,前腕に日光角化症,下腿にボーエン病があった.腫瘍は切除し,他の皮疹はビタミンA酸クリームおよび遮光剤の外用で経過観察中である.全身性白皮症に生じる皮膚病変について若干の考察を加えた.

類上皮細胞肉芽腫を伴った菌状息肉症

著者: 大石祐子 ,   三橋善比古 ,   橋本功 ,   鎌田義正

ページ範囲:P.839 - P.845

 62歳,男性.組織学的に類上皮細胞肉芽腫がみられた菌状息肉症の1例を報告した.初診の2年前,右前腕に紅斑出現,次第に四肢・頸部・上背・臀部に浸潤性隆起性紅斑が多発した.組織学的検索で,真皮全層に瀰漫性の細胞浸潤が見られ,表皮内のポートリエ微小膿瘍およびfollicular mucinosisの像を認めた.表皮内および真皮上層の浸潤細胞は,リンパ球マーカー陽性の異型性を示す小円形細胞が主体で,真皮中〜下層では,リンパ球マーカー陰性で,S−100蛋白陽性,一部はCD 1の類上皮細胞が密に浸潤し,一部で肉芽腫を形成していた.電顕的観察では,類上皮細胞は組織球様で核の異型性はなく,少数の細胞にBirbeck顆粒を認めた.類上皮細胞肉芽腫を形成する菌状息肉症について,過去の報告をまとめ,自験例と比較した.さらにその位置づけおよび臨床的意義について考察した.

成人女性の手指に生じたSpitz母斑—症例の報告と他6例の免疫組織化学的比較

著者: 大沢薫子 ,   清水直也 ,   伊藤雅章 ,   伊藤薫 ,   竹之内辰也 ,   佐藤良夫

ページ範囲:P.847 - P.850

 37歳,女性.約2年前より,左手第Ⅲ指に常色丘疹が出現し徐々に増大した.直径4mmの弾性硬,表面平滑なドーム状腫瘤で,下床との癒着を認めない.組織学的に,表皮は軽度肥厚し,真皮表皮境界部から真皮上層に淡い好酸性の大型の胞体を有する類上皮細胞様の腫瘍細胞を多数認める.また,ジアスターゼ抵抗性PAS染色陽性の好酸性小体も散見された.免疫組織化学的に,S−100蛋白染色でほぼすべての腫瘍細胞が陽性を示したが,HMB45抗体染色では陽性細胞を認めなかった.当科における最近5年間のSpitz母斑の6例について,免疫組織化学的に同様に検討した結果,腫瘍細胞のほぼ100%がS−100蛋白染色で陽性所見を示したが,HMB45抗体染色陽性細胞は全体の0〜75%とばらつきが認められた.

今月の症例

Ki−1抗原陽性皮膚T細胞性リンパ腫の1例

著者: 浅田秀夫 ,   中野和子 ,   松井嘉彦 ,   奥村睦子 ,   八木啓子 ,   河敬世

ページ範囲:P.851 - P.855

 61歳,女.T細胞ならびにB細胞の一般的な表面抗原を欠き,DNA解析により起源が明らかとなったKi−1抗原陽性の皮膚T細胞性リンパ腫の1例を報告した.昭和61年春,左側頭部に浸潤性紅斑が出現.昭和63年秋より皮疹は後頭部,項部にかけて漸次拡大し,一部に腫瘤を形成.組織像では真皮に大小不同に富む異型単核球が浸潤し,浸潤細胞の表面形質はCD2(—),CD3(—),CD4(—),CD8(—),CD20(—),interleukin 2 receptor(IL2—R)(—),Ki−1(+),HLA-DR(+),epithelialmembrane antigen(EMA)(+)であった.サザンプロット法を用いたDNA解析によりT細胞受容体遺伝子の単一な再構成を認め,T細胞性悪性リンパ腫と診断した.多剤併用化学療法にて一時軽快を見たが,再燃し発症から4年後に死亡した.経過中,皮疹の増悪と並行して末梢血好酸球分画の増加,CA19-9値の上昇を認めた.

症例報告

果実によるI型アレルギー

著者: 玉置昭治 ,   石田としこ ,   清水良輔

ページ範囲:P.857 - P.859

 果実によるI型アレルギーの2例を報告した.症例1は巨峰,マスカットが,症例2はマカデミアンナッツが原因であった.原因検索には果肉によるスクラッチテストが有用であった.市販されているアレルゲンは種類が限定され,また,感度も高くないため,果実によるI型アレルギーが疑われた場合は,果肉によるスクラッチテストを行うことを推奨した.

サリドン®による多形滲出性紅斑様固定薬疹の1例

著者: 石田としこ ,   玉置昭治

ページ範囲:P.861 - P.864

 1989年9月,10月の2回にわたり,同一部位にほとんど色素沈着を残さず消褪する多形滲出性紅斑様の皮疹,粘膜疹を生じた29歳女性の固定薬疹の症例を報告した.サリドン®1/10錠の内服試験は陽性で,すべての皮疹,粘膜疹の再現をみた.サリドン®による固定薬疹と確定した.主剤3剤の成分別内服試験は陰性であった.固定薬疹と多形滲出性紅斑は,その臨床像において異なるが,急性期の組織学的所見が同様の像をとることより,同一スペクトラム上の疾患であると考えられている.自験例は,臨床的には多形滲出性紅斑様であった固定薬疹であり,上記の説を支持するものと考えられる.自験例で,成分別内服試験が陰性の理由についても若干の文献的考察を加えた.

2剤に薬疹を起こした全身性エリテマトーデスの1例

著者: 石田としこ ,   玉置昭治

ページ範囲:P.865 - P.868

 全身性エリテマトーデス(SLE),シェーグレン症候群に薬疹の出現頻度が高いことはよく知られている.しかし実際の症例報告は数少ない.今回,我々は1988年9月および1989年2月にグリセオフルビン,スリンダクの2薬剤に別個に感作を受け発症した44歳のSLE女性の薬疹例を経験した.皮疹は,2回とも播種状紅斑丘疹型を呈した.両薬剤の内服誘発試験は陽性.2度の経過中,臨床所見,検査所見上いずれも原疾患の増悪を認めなかった.抗核抗体40倍,抗SS-A抗体64倍陽性.抗SS-A抗体はSLE,シェーグレン症候群でよく検出されるが,その意義はいまだ不明である.本抗体と薬疹の関係につき若干の考察を加えて報告した.

アンギオテンシン変換酵素阻害剤により誘発された落葉状天疱瘡の1例

著者: 野本重敏 ,   勝海薫 ,   風間隆 ,   松村剛一 ,   伊藤雅章 ,   佐藤良夫

ページ範囲:P.869 - P.873

 69歳,男.高血圧のためカプトプリルの内服を開始し,8カ月後,全身に痂皮と糜爛を伴う紅斑を生じた.病変部の組織で有棘層上部の水疱形成,蛍光抗体直接法で表皮細胞間にIgG,C3の沈着を認めた.血中抗表皮細胞間抗体は陰性.症状,組織学的所見および経過よりカプトプリルにより誘発された落葉状天疱瘡と診断.ステロイドの外用で皮疹が改善した後,SH基を有さないアンギオテンシン変換酵素阻害剤であるデラプリル,エナラプリルの内服試験を行い,いずれも内服開始2日後に皮疹の明らかな増悪を認めた.その後プレドニゾロン40mgの投与で軽快したが,減量後皮疹の新生を認めた.デラプリル,エナラプリルで皮疹が誘発されたことより,その発症にはSH基の関与だけでなく他の要因が関与している可能性が示唆された.

Periarteritis Nodosa Zostericaの1例

著者: 角田孝彦 ,   湯田文朗 ,   村木良一

ページ範囲:P.875 - P.878

 80歳,女性の左側胸部に索状の皮下硬結がみられ,組織学的に結節性動脈周囲炎の像であった.血管壁にIgM,C1q,C3の沈着がみられたが,VZVのモノクローナル抗体は陰性であり,免疫複合体による血管炎を考えた.皮下硬結は左側腹部一背部の帯状疱疹の15日後に発症し,Feyrterの言うperiarteritis nodosa zosterica(PNZ)およびMondor病や皮膚結節性多発動脈炎と比較検討を行い,PNZと考えた.皮下結節はステロイド内服25日で消失した.

抜歯により改善した掌蹠膿疱症の1例

著者: 佐々木和江 ,   沼原利彦 ,   西本正賢 ,   高岩堯

ページ範囲:P.879 - P.882

 62歳女性.初診約8年前より掌蹠に小水疱・膿疱が多発.ほぼ同時期に,慢性歯周囲炎発症.皮疹は,軽快・増悪を繰り返し,歯牙病変悪化時に全身症状を伴うSchubがみられていた.何度か抜歯を施行し,皮疹は軽快した.今回残存歯2本の歯周囲炎悪化とともに発熱・全身倦怠感・関節痛を伴う掌蹠・掌蹠外皮疹の悪化がみられたため,当科入院のうえ,イミペネム/シラスタチンの全身投与・残存歯の抜歯による加療を行った.抜歯後,小さなSchubを繰り返した後に,皮疹の消褪をみた.

25年の経過で背部より大腿にかけて巨大な疣状病変を生じたクロモミコーシス

著者: 高橋和宏 ,   末武茂樹 ,   加藤泰三 ,   田上八朗

ページ範囲:P.883 - P.885

 80歳,男性.Amphotericin B局注療法により一度は治癒したと思われた後,25年の経過で再発し背部から臀部におよぶ巨大な疣状皮疹を生じたクロモミコーシスの1例を報告した.皮疹部皮膚より分離した原因菌はFonsecaea pedrosoiで,25年前のそれと一致した.Itraconazole内服,局所温熱療法,抗真菌剤の外用による治療で皮疹は徐々に扁平化したが,直腸癌のため治療を中止せざるをえなかった.

石灰沈着を伴った表皮嚢腫の2例

著者: 黒田真臣 ,   駒田信二 ,   工藤芳子 ,   高安進

ページ範囲:P.887 - P.889

 症例1:12歳,女性.右足底第2趾付け根部分にドーム状に隆起した.貨幣大,弾性軟,軽度圧痛を伴う皮下腫瘤を認める.皮膚および下床との可動性は比較的良好.摘出腫瘤のHE染色標本にて,大小4個の嚢腫様構造を認める.最も大きい嚢腫では約半周を層状の角質内容を伴った重層扁平上皮に被われ,残りの半周では上皮被膜は欠如し,周囲の結合組織には小円形細胞浸潤,異物巨細胞を多数認める.さらに,上皮被膜欠損部の巨細胞および嚢腫内容物の一部には石灰沈着を認める.症例2:43歳,女性.右膝蓋部に20×25mmの皮膚潰瘍を認め,潰瘍底には米粒大までの骨様硬の白色塊が点在している.HE染色標本では,無構造な石灰沈着塊を取り囲む形で軽度変性した上皮細胞が認められ,周囲の真皮内には小円形細胞浸潤および小型の石灰沈着塊を多数認める.

Clear Cell Syringomaの1例

著者: 中村嘉男 ,   末木博彦 ,   安木良博 ,   飯島正文 ,   藤澤龍一

ページ範囲:P.891 - P.895

 症例は46歳,女性.両下眼瞼に半米粒大までの扁平隆起性〜半球状隆起性の丘疹が10数個散在,75g OGTTにて境界型.病理組織学的にpyknoticな核を有し,やや大型で空胞状の胞体を有するclear cellの増殖よりなる,島嶼状の胞巣が多数認められたことから,clear cell syringomaと診断した.本症の本邦報告例18例中14例に糖尿病または耐糖能異常が認められ,全身的糖代謝異常との関連性が大きい疾患と考えられた.本症の病理組織学的特性はやや小型でchromatinの凝集した核を有し,明るい細胞質を持つ多数のclear cellが胞巣内で増殖融合傾向を示す点にあると考えられた.本症におけるclear cellの病理発生機序として,eccrine汗管およびそれに由来するsyringomaの組織には,高血糖によるphosphorylaseの抑制が生じやすい何らかの組織特異性があり,この部分にglycogenが貯留するのではないかと推定された.

Variant Type色素性乾皮症の1例

著者: 江口弘晃 ,   昆みゆき ,   森元洋介 ,   板東真弓 ,   松田三千雄 ,   嵯峨賢次 ,   高橋誠

ページ範囲:P.897 - P.901

 78歳,男性.幼少時より日光暴露部位の色素沈着が強く,初診の1年前より右鼻翼部位に黒色腫瘍が出現.さらに初診時,右頬部に小腫瘍,右下眼瞼に黒色斑が存在しており,それぞれ基底細胞上皮腫,悪性黒子であった.また,頬部には角化性の小丘疹が多発しており,組織学的には日光角化症であった.MEDはUVA,UVBともに正常であった.患者の培養線維芽細胞は,不定期DNA合成能(UDS)がほぼ100%であることが証明され,またカフェイン添加によりUV感受性の軽度増加が認められた.以上より,自験例はxeroderma pigmentosum(X-P)variant typeであると診断した.

慢性放射線皮膚炎上に生じた有棘細胞癌とPremalignant Fibroepithelial Tumor

著者: 碇優子 ,   徳橋至 ,   橋爪鈴男 ,   千葉紀子 ,   下田祥由 ,   関建次郎

ページ範囲:P.903 - P.905

 左手掌の放射線照射野に有棘細胞癌とその腫瘤の中に基底細胞癌の特異型とされるpremalignant fibroepithelial tumor(Pinkus)を生じた1例を報告した.症例は76歳,女.57年前に手足白癬のため放射線治療を受けた既往があり,1年前より左拇指腹側基部にびらんを伴う米粒大の丘疹が出現し,その後急激に増大した.病理組織学的検索にて慢性放射線皮膚炎上に生じた有棘細胞癌とpremalignant fibroepi—thelial tumor(Pinkus)と診断した.放射線皮膚炎上に生じたpremalignant fibroepi—thelial tumor(Pinkus)は稀少であるが,その関係は不明である.

偽腺性有棘細胞癌—大型腫瘤を形成した高齢者の1例

著者: 木村俊次 ,   小林都江

ページ範囲:P.907 - P.910

 97歳男子頭皮に単発した大型の偽腺性有棘細胞癌の1例を報告した.2年前外傷を契機に生じて漸次増大し,初診時8×7×2cmの大型腫瘤を呈したが,所属リンパ節や遠隔部への転移は認められなかった.組織学的には典型的な偽腺性有棘細胞癌の像を呈したが,初覆表皮の一部と連続性を有し,被覆表皮の下半には老人性角化腫を思わせる所見もみられた.臨床的にも周辺頭皮および顔面に老人性角化腫が多発し,そうした皮疹の一つからの由来が考えられた.本症例は年齢も高く,大きさも本邦最大級であった.本邦例について,転移をきたした例はそうでない例に比べて年齢が若く,より大型の腫瘤を呈する傾向がみられた.

研究ノート・22

研究者としての南方熊楠

著者: 宮地良樹

ページ範囲:P.868 - P.868

 植物分類学者の牧野富太郎,人類学者の鳥居龍蔵,民俗学者の南方熊楠,この三人の不世出の博物学者に共通するのは独学で学問を極めたことであるという.このところ,南方熊楠ブームだそうで,その生涯を描いた「縛られた巨人」(神坂次郎著,新潮社)もとても面白かった.和歌山に生れた熊楠は,単身渡米し,独学で粘菌類の採集研究をすすめ,中南米,西インド諸島などを放浪したのち,明治25年ロンドンへ渡り,大英博物館の嘱託研究員となった.極貧にあえぎながらも,Natureに50篇以上の論文を発表し,10数カ国語をあやつったという.超人的な業績で天才の名を欲しいままにしたが,在野の学者として終始し,人々の理解は得られなかったようである.熊楠ブームの背景には,管理社会の現代にあって研究者のスケールが小さくなり,研究も小振りになってしまったことへのアンチテーゼとして,熊楠がスーパースターとして捉えられているのではないかと思う.確かにわれわれ凡人にはとても熊楠のようなマネはできないが,ただ一つ彼に欠けていたことがあるとすれば,人々に研究を理解してもらう努力をしなかったことではなかろうか.天才につきもののアクの強さや体制への反発,コンプレックスの裏返しなどが彼をして独走せしめたと思うが,そのために後継者も少なく彼の研究は途絶えたも同然である.どんな難しい研究でも,易しく説明することは可能なはずであり,それも研究者の能力の一つだと思う.よく講演会を聴きに行くと,難解な話を判りにくくしゃべる人がいるが,学者としては失格だと思う.皮膚の話は,一般の人々との接点も多く,啓蒙すべきことも多々あるので,理解を得られるように話すことが強く求められる.これからの研究者は,自分の研究をアピールするためにも積極的に人々の前に出て行く必要があると思う.
 それにしても,熊楠の多彩な研究には目を見張るものがある.時代も違うのだろうが,いまの研究が細分化されすぎ硬直気味なのに比べ,彼の豪放磊落な,しかも統合的な仕事がひときわまぶしく感じられる.こま切れの研究に汲々としていないと研究費がとれない今日の状況と比べると羨しい限りであるが,彼もおそらくいろいろなものを犠牲にして自らの孤塁を守ったのだろう.熊楠のような天才には及ぶべくもないが,研究生活についていろいろ考えさせてくれた彼の生涯であった.

印象記

第52回米国研究皮膚科学会印象記

著者: 水谷仁

ページ範囲:P.912 - P.914

 ロッキー山脈の上に湧き上がる雲を抜けると一面の濃い緑の絨毯が目に飛び込んできた.着陸のために機がゆっくりと旋回すると左手に夕日に照り映える広大な湾が広がって見える.その一隅にビルの集まるシアトルのダウンタウンが灰色に見える.新緑のフリーウェイを走るタクシーの窓から吹く風は一昨日の初夏を思わす京都とは違ってカラリとした冷たさを持ち,北国を感じさせる.ダウンタウンの一角に聳えるタワーが今回の会場の一つであるシェラトンホテルである.
 5月1日から4日の会期で行われたこの研究皮膚科学会SIDは全米だけでなくヨーロッパや日本からの参加者も多い.今年は日本皮膚科学会総会に引き続き行われるという日程ながら,来る1993年に京都で行われるトリコンチネンタルミーティングの準備もあり,西川,今村,三島教授をはじめ多くの参加者がみえておられた.日本からの演題数も45と昨年を大きく上回っていた.最初のプログラムである第1日目の夕刻より始まるIrwin H.Blankレジデント/フェローフォーラムの前にはロビーのあちらこちらで久しぶりの再会を喜びあう姿がみられた.このフォーラムは名前はレジデント/フェローだが,いつもup todateな話題を提供している.今回のテーマはcell-matrix interac—tion in cellular differentiationであった.今日から明日へのトレンドを求めてくい入るようにレクチャーを聴いているのが決して若手だけでなく各分野の権威者が多いのが目を引く.多くの日本からのSID会員の参加者のもとにはプログラムが届いておらず,レジストレーションではじめてプログラムを手にする方が多かったようだ.これだけはエアメール料金を負担しても早く欲しいと思うのは私ひとりだけではないだろう.ちなみに私のところへは帰国後2週ほどして届いた.午後9:30から隣接するワシントン州立コンベンションセンターロビーでウェルカムレセプションが開かれた.いつもは賑わうレセプションだがワシントンDCとは異なり,さすがに時差と長旅の疲れのせいか皆早々に引き上げていった.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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