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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科45巻12号

1991年11月発行

雑誌目次

カラーアトラス

腋窩に病変を伴った外陰部Paget病

著者: 三原一郎 ,   石川剛 ,   新村眞人

ページ範囲:P.922 - P.923

 患者 71歳,男
 初診 平成2年6月
 家族歴・既往歴 特記すべきことなし.
 現病歴 昭和63年11月頃より陰茎に自覚症状のない紅斑,びらんが出現.以後,徐々に拡大するも放置していた.
 初診時現症 陰茎基部腹面から陰嚢上方にかけて,地図状の紅斑局面が,さらに陰茎基部背面には拇指頭大の紅褐色局面が観察された(図1).なお,両鼠径リンパ節は触知しなかった.
 右腋窩には大豆大,境界鮮明な表面やや萎縮性の紅斑がみられたが,皮下に硬結は触知しなかった(図2).
 臨床検査所見ではCEAが3.3ng/mlとやや高値以外著変はみられず,胸部X線,腹腔,骨盤腔CTでも転移を示唆する所見は認められなかった.

原著

後天性第ⅤⅢ因子インヒビターの発生をみた水疱性類天疱瘡—同インヒビターの性質について

著者: 塩野正博 ,   林一弘 ,   本田千博 ,   谷昌寛 ,   橋本誠 ,   寮隆吉 ,   山口延男

ページ範囲:P.925 - P.929

 水疱性類天疱瘡の治療中に後天性第ⅤⅢ因子インヒビターの発生をみた症例を報告した.症例は65歳,男性.家族歴・既往歴に出血性素因はなく,常用する薬剤および過去の輸血歴もない.臨床像,病理組織像および蛍光抗体法による所見から水疱性類天疱瘡と診断し,プレドニゾロン(PSL)内服療法を行い,皮疹の消退をみた.しかし,PSLの漸減中に皮疹の再燃と同時に出血傾向が出現するようになってきた.凝固系の検査で,全血凝固時間の著明な延長,活性化部分トロンボプラスチン時間の延長,第ⅤⅢ因子凝固活性の低下および第ⅤⅢ因子インヒビターの出現を認め,同インヒビターがIgG分画中に存在することを明らかにした.PSL増量後,皮疹,出血傾向とも消退し,第ⅤⅢ因子インヒビター力価も徐々に低下し検出されなくなった.その後PSL漸減中であるが,現在に至るまで皮疹,出血傾向ともに再燃をみていない.

結節性紅斑が先行した頸部リンパ節結核—当教室13年間の結節性紅斑の統計も加えて

著者: 橋本喜夫 ,   川岸尚子 ,   松本光博 ,   飯塚一 ,   中野均

ページ範囲:P.931 - P.934

 47歳,女.初診の3週間前から両下肢に有痛性紅斑が出現し,関節痛,38度台の発熱も伴った.経過中に頸部リンパ節結核が発症し,結核由来の結節性紅斑と診断した.結節性紅斑の原因は多数あるが,結核によるものは最近稀であり,当教室13年間の結節性紅斑の統計もあわせて報告する.

今月の症例

原発性皮膚ノカルジア症の1例

著者: 宮川加奈太 ,   平井義雄 ,   高橋泰英 ,   中嶋弘 ,   伊藤章

ページ範囲:P.935 - P.940

 原発性皮膚ノカルジア症の1例を報告した.45歳,男.10年前,外傷後に左肘頭部付近に難治性の皮疹が出現した.初診時,左肘頭部付近に波動を触れる境界不鮮明な小結節が散在した.検査所見ではOKT 4/8比低下が認められた.病理組織像は強い炎症細胞の浸潤が見られたが,顆粒や菌糸様菌要素は認められなかった.菌学的所見は,生検組織の好気性培養にて表面白亜状,放射状皺襞のあるコロニーを得,血性分泌物の塗抹標本のグラム染色にて菌糸様菌要素を認めた.菌の生理学的性状から本菌をNocardia brasiliemsisと同定した.他臓器に所見を認めなかったため本例を原発性皮膚ノカルジア症の限局型と診断し,ST合剤内服で約10カ月で軽快した.自験例を含めて「原発性皮膚ノカルジア症」の50例について集計し検討した.

Exophiala jeanselmeiによるPhaeomyCotic Cystの1例

著者: 橋本健治 ,   金森正志 ,   清水正之 ,   内田幾代 ,   田中壮一

ページ範囲:P.943 - P.946

 81歳女性の左前腕に生じた,Exophiala jeanselmeiによるphaeomycoticcystの1例を報告した.皮疹は紫褐色隆起性,75×70mmの,膿瘍を伴う肉芽腫性病変であり,組織内に褐色の菌糸や円形細胞の他,縦横二面の厚い隔壁を形成しているように見えるsclerotic cell様構造も認めた.治療として,排膿に加えて総量200mgのアンホテリシンBの膿瘍内投与を行ったが,病巣は約3分の2までしか縮小しなかった.そこでミコナゾール投与に変更したところ,6回,総量120mgの膿瘍内投与で皮疹は完全に消退した.本分離菌に対する薬剤の最小発育阻止濃度(MIC)は,アンホテリシンBが100μg/ml以上,ミコナゾールは12.5μg/lであり,MICや臨床経過の点からミコナゾールが奏効した可能性が高いと考えられた.また,E.jeanselmeiの組織内寄生形態とsclerotic cellの関係についても若干の考察を加えた.

症例報告

結節性紅斑様白癬疹を伴ったケルスス禿瘡の1例

著者: 猿喰浩子 ,   伊藤裕子 ,   園田早苗 ,   川津友子

ページ範囲:P.947 - P.950

 6歳,女児.初診の8日前,頭部の瘙痒性紅色疹に気づく.近医にて抗生剤投与を受け増悪し脱毛局面となり,頬部,耳介に瘙痒性紅色疹を生じ,次いで両下腿に自発痛,圧痛を伴う硬結が生じた.初診時左頭頂部に毛包性膿疱と痂皮を伴う扁平隆起性脱毛局面あり,直接鏡検にて菌要素陽性.38℃の発熱あり,入院のうえグリセオフルビン内服.第3病日より解熱し排膿は著明に減少,第7病日にはほぼ痂皮となり両下腿の硬結もほぼ消退.毛髪の培養でTrychophytom mentagrophytesが同定された.組織で頭部は,毛包を中心に好中球,リンパ球の浸潤,毛包内に菌要素を認め,硬結性紅斑では真皮下層から脂肪織の血管周囲,葉間隔壁に好酸球,リンパ球を主とした著明な細胞浸潤を認めた.トリコフィチン反応陽性.結節性紅斑様白癬疹を伴ったケルスス禿瘡と考えた.

D群色素性乾皮症の1例

著者: 軽部幸子 ,   井上靖 ,   田嶋公子 ,   池田重雄

ページ範囲:P.951 - P.954

 症例は40歳,女性.父母がいとこ婚.弟の顔,上肢にも患者同様の色素沈着がみられる.乳児期より日光照射後に顔面や上肢などに紅斑が出現し,その後色素沈着が残った.15カ月前より左頬部に紅斑が生じ,8カ月前より同部が隆起し中央が潰瘍化した.6カ月前より鼻尖部に痂皮が出現.初診時,口唇を含む顔面,頸部,上肢伸側に半米粒大までの褐色〜黒褐色の色素斑と萎縮を伴う脱色素斑が散在し,左頬部に黒色小結節より成り,中央が潰瘍化した8×6mmの結節,鼻尖部に3×3mmの痂皮を伴う潰瘍が認められる.皮膚光線テストでMEDは低下し,紅斑反応のピークは72時間と遅延.細胞学的検索でUDS能45%,紫外線照射による致死感受性はD0値0.9J/m2,相補性テストでD群85 TOとのみ相補せず,D群色素性乾皮症と診断した.眼科・耳鼻科・神経学的検索で異常なし.左頬部・鼻尖部の皮疹は切除し,病理組織検査にて基底細胞上皮腫と診断した.

環状紅斑を主訴としたSjögren症候群の1例

著者: 東裕子 ,   実川久美子 ,   林葉子 ,   安西喬

ページ範囲:P.955 - P.957

 25歳,女性,2年前より浮腫性の再発性環状紅斑を認め,検査所見で抗核抗体陽性,RA陽性,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体陽性を示した.皮疹病理組織所見では一部表皮基底細胞層の液状変性および真皮上中層の血管,毛嚢脂腺周囲のリンパ球浸潤を認めた.耳下腺造影にてびまん性点状陰影,小唾液腺周囲にリンパ球浸潤を認めたことよりSjögren症候群(SjS)と診断した.自験例はsubacute cutaneous lupuserythematosusとSjSの環状紅斑の関連を示唆する症例と考えられた.

高度の色素沈着を呈したアジソン病の1例

著者: 加藤直子 ,   松原三八夫

ページ範囲:P.959 - P.963

 34歳,男.顔面,四肢および口腔粘膜を主体とする全身の,非常に高度の色素沈着を示したアジソン病の1症例を報告した.風疹罹患後から倦怠感を自覚,感冒罹患以来食思不振,脱力感等も加わるようになり,体重も半年間に6kg減少した.海水浴後から高度の色素沈着を呈し,種々の内分泌学的検索の結果から本症と診断した.本症における色素沈着とpro-opiomelanocortin(POMC)由来ペプチドとの関連について若干の考察を加えた.

光線白斑黒皮症の1例

著者: 藤岡彰

ページ範囲:P.965 - P.967

 77歳,女性に生じた光線白斑黒皮症の1例を経験した.自験例はβブロッカーを内服していたことより,これによって本症が引き起こされた可能性があった.しかし直接的にそれを証明できず,また調べ得た限りβブロッカーによる本症の発生の報告例はなかった.しかしβブロッカーにより本症が発生した可能性を文献的考察も混じえて行ってみた.近年非サイアザイド系降圧剤による本症の発生の報告も増えており,降圧剤の使用時には本症の発生に注意する必要があると思われ,自験例を報告した.

降圧剤による薬疹—パルス培養法によるリンパ球刺激試験で陽性を示した1例

著者: 相原道子 ,   堀内義仁 ,   家本亥二郎 ,   小松平 ,   池澤善郎 ,   中嶋弘

ページ範囲:P.969 - P.972

 カプトリルとアルドメットによる薬疹例を経験し,この患者について末梢単核細胞を用いたパルス培養法によるリンパ球刺激試験(LST)を行った.症例は全身の軽度の落屑を伴う紅斑で,カプトリルの貼布試験陽性,カプトリルとアルドメットの内服試験陽性であった.またカプトリル同様SH基を持つシオゾールとチオラの皮内試験で陽性であり,カプトリル,シオゾール,チオラ間の交叉反応と考えられた.この患者の末梢血単核細胞をresponderとstimulatorに分け,stimulatorを抗原と1晩培養した後マイトマイシンCで処理し,responderとともに培養した.抗原にはカプトリル,アルドメット,シオゾールを用い,それぞれSI(stimulation index)が4.0,3.2,2,8と強い増殖反応を得た.この方法は従来のLSTのように薬剤を直接respond—erの培養液に添加することがないため薬剤がresponderに及ぼす毒性を最小限に抑えられる.今後薬疹のin vitro検査法として本法は試みる価値があるものと思われた.

エテンザミドによる薬疹の2例

著者: 斎藤すみ ,   平井義雄 ,   宮本秀明 ,   池澤善郎

ページ範囲:P.973 - P.977

 解熱鎮痛剤エテンザミドによる5歳男児の固定薬疹と22歳男のMCOS(皮膚粘膜眼症候群)ないしTEN(中毒性表皮壊死症)型と思われる症例を経験した.症例1は典型的な固定薬疹であった.症例2は臨床症状より多発性の水疱形成を伴った大型固定薬疹ともみなせるものであるが,免疫組織学的検討を加えたところ,急性期の皮疹ではOKT 6陽性ランゲルハンス細胞(LAC)の著減および,HLA-DR陽性やICAM−1陽性の表皮角化細胞が見られた,これに対して慢性期の皮疹ではこれらの所見は消失していた.以上の所見は急性皮膚GVHR(graft versus host reaction)のそれに一致しており,固定薬疹よりもむしろMCOS/TEN型に近い薬疹と考えられた.

シンナーによる一次刺激性皮膚炎

著者: 伊藤裕子 ,   川津友子

ページ範囲:P.979 - P.982

 いわゆる「シンナー遊び」による中毒患者にみられた皮膚炎2例を経験した.閉めきったワンルームマンションで意識不明で発見され,重症治療室に収容された少年達で,症例1は24時間後,症例2は48時間後に意識回復し,7日後には,GOT,GPT, LDH, CRK値の異常高値は正常に復した.皮疹はシンナーで濡れていた床に接触していた頭部,背部,臀部などにみられ,浮腫状紅斑,緊満性水疱を伴う隆起性紅斑,びらん,痂皮を伴う隆起性局面など強度の一次刺激性皮膚炎の像であった.組織像は,水疱蓋が角層と変性した表皮細胞よりなる水疱形成があり,水疱内には多核白血球,フィブリン,変性表皮細胞がみられ,基底層よりの表皮再生像が認められた.真皮は,浮腫状で,毛包周囲,脂肪織細胞間に多核白血球の浸潤,脂腺の変性,脂肪織の一部融解が主な所見であった.

広範囲に皮疹を認めたリンパ管腫の1例

著者: 和泉達也 ,   八木宏明 ,   海老原全 ,   杉浦丹 ,   西村玄

ページ範囲:P.985 - P.988

 27歳,男の広範囲に皮疹を認めたリンパ管腫の1例を報告した.出生時より,右上肢,背部の一部に皮下腫瘤を認めた.8歳時より皮下腫瘤に一致して皮疹が出現,漸次拡大してきた.現在躯幹,四肢にいわゆる「蛙の卵」様皮疹を認める.臨床,病理組織学的所見よりリンパ管腫と診断した.自験例はRookの分類のlymphangiomacircumscriptum, Flanaganの分類においてはsuperficial lymphangioma circum—scriptumとdeep lymphangioma cavernosumの合併に相当すると考えられた.また,表面の水疱部より造影剤を注入してリンパ管造影を行い,表面の水疱部とともに皮下の腫瘤部まで描出し得た.一次病変はおそらく母斑性に生じた皮下の腫瘤であり,皮膚表面の水疱は皮下のリンパ管腫より二次性に生じたものであると考えた.また,この造影法は,同疾患の診断上有用であると考えた.

汎発性疣贅症が先行したリンパ腫型成人T細胞白血病の1例

著者: 黒木康雅 ,   江良幸三 ,   田尻明彦 ,   井上勝平 ,   外山望

ページ範囲:P.989 - P.993

 汎発性疣贅症が先行したリンパ腫型成人T細胞白血病の69歳,男性例を報告した.入院後VEPA-Bの変法とVP−16, VDS, PCZなどを使用した治療により2カ月足らずで完全寛解(CR)に入った.以後は各種抗腫瘍剤を用いたnoncross—resistant alternating combination chemotherapyで約3カ月半はCRが持続したが,その後再発し,VEPA-Pなどで再度CRに入るも,1カ月余で再び再発.中等量のMTXとFEPA療法で約4カ月間は比較的安定した状態が続いたが,急性増悪し,MOFも併発して死亡した.推定発症から約16カ月,初回治療から約15カ月の経過であった.なお,汎発性疣贅症に対しては約1年間は何も治療せず経過観察していたが,徐々に増悪し本人も気にし始めたためDNCB外用療法を行い若干の効果を認めた.

セザリー症候群—Photopheresis(体外循環式光化学療法)にも抵抗性であった1例

著者: 水谷美穂子 ,   今泉俊資 ,   富井直子 ,   岩月啓氏 ,   滝川雅浩

ページ範囲:P.995 - P.998

 63歳,女.全身の紅斑と瘙痒を主訴に来院した.紅皮症と頭部のびまん性脱毛があり,末梢血液所見では白血球,主に異型リンパ球が増加し,組織学的には表皮と真皮への異型リンパ球の浸潤と,Pautrierの微小膿瘍を認め,セザリー症候群と診断した.ステロイド軟膏外用,PUVA療法,ステロイド内服などの治療に抵抗し,photopheresisを施行したが明らかな改善は認められなかった.

Trichilemmal Hornの2例

著者: 徳橋至 ,   芹川宏二 ,   関建次郎 ,   高桑俊文

ページ範囲:P.999 - P.1002

 症例1:72歳,男性.前額部に円錐状に隆起する直径6mm,黄褐色の角化性丘疹が認められた.症例2:70歳,男性.左側胸部の有茎性腫瘤で直径1.5cmの黒褐色,弾性硬の腫瘤で表面粗糙,厚い角質塊で覆われている.いずれの症例も組織学的に外毛根鞘性角化,U字型の上皮増殖を認めtrichilemmal hornと診断した.特に症例2は脂漏性角化症と合併しており,文献的にもこのような症例は稀であり,本症の由来を考えるうえで興味ある所見と考え報告した.

メソトレキセートの少量間歇投与が奏効した関節症性乾癬

著者: 岩澤うつぎ ,   落合豊子 ,   本庄三知夫 ,   鈴木啓之 ,   森嶋隆文 ,   高野祐策

ページ範囲:P.1003 - P.1007

 約7年間尋常性乾癬の加療後,紅皮症に移行し,同時に関節の腫脹,疼痛,運動制限が出現し,リウマチ血清反応陰性で関節症性乾癬(PA)と診断された32歳,男子例を報告した.皮疹増悪時骨X線で仙腸関節炎が認められたが,四肢骨の変形はみられなかった.治療はメソトレキセート(MTX)7.5mg/日,週1回の内服を行った.MTXの少量経口投与は乾癬の皮疹のみならず,関節炎に対しても有効で,関節の腫脹,疼痛は変形を残さずに消褪した,PAにおいては,皮疹の程度と関節症状を検討した上で治療の選択を行う必要があり,MTXの適応と副作用につき若干の文献的考察を加えて論述した.

研究ノート・23

太藤先生流の研究

著者: 宮地良樹

ページ範囲:P.963 - P.963

 内科レジデントを終えて大学に戻ろうとしたときに,研修医の応募締切後なのに入局させて下さったのは太藤先生だった.あいさつに行ったとき開口一番に言われたのは,「君,授業に出とらんかったな」の一言であった.退官されるまで2年もなかったが,自分の研究を始めた時期でもあり,その影響は甚大だった.当初,私は,開業医の子弟の習性として,数年で開業するつもりで,郷里でビル診でもやろうかと考えていた.その人生計画の第一歩を躓かせたのも太藤先生だった.「研究は博打や」と公言してはばからない麻雀好きの先生は,回診の最中にも突飛とも思えるアイディアを出される.研修医のとき,主治医として受け持った血管炎の患者さんを前に「DDSは白血球の炎症に効くなあ」とつぶやかれた一言が麻雀を知らない私を博打のような活性酸素研究に走らせた一因となった.そのあとは何も言われないので結局自分で勉強するしかないが,そのほうが却って自由で気楽だった.論文を持って行っても「英文で書かなあかん」と言われるくらいで内容についてはあまり言及されなかった.気がついてみると,数年で開業の筈がどっぷりと研究室に入りびたりになっていた.開業するよううるさかった父も,数年前には隠居してしまった.
 先生がご退官後も私が関西電力病院に隔週出張していたこともあって,papuloerythrodermaやgroupingprurigoの英文論文の英語をcheckさせられた.70歳を過ぎられてもなお,ご自分で写真をとられ,生検され,英文論文を書かれる気迫には敬服するものがある.この前向きの姿勢が次々と新しい疾患概念を確立される業績につながるのだろうと思う.

治療

シリコンリングを用いたピアスによる炎症性合併症の治療

著者: 高橋知之 ,   高橋眞理子

ページ範囲:P.1009 - P.1012

 生活習慣の欧米化につれてわ国でも若い女性を中心に急速にピアスが普及している.それに伴って種々の合併症を併発して医療機関を訪れる患者も急増している.1989年3月から1990年6月の間に感染症や接触皮膚炎を主訴として当院を受診した1141例に対して,医療用シリコン製のリングピアスをドレナージ材として試作装着した.経過観察が可能であった827例全例が完全治癒し,ピアスの使用が可能となった.一方32例の希望者に対して,最初の穴あけ手術に本品を使用したところ全例何ら合併症を併発することなく1カ月後には穴の上皮化を確認した.我々のシリコン製リングピアスによる治療は穴を確保しながら合併症を治すことができる新しい方法であり,また最初の穴あけ手術にも安全に用いることができるので報告した.

印象記

第4回アトピー性皮膚炎国際シンポジウム(於ベルゲン)に参加して

著者: 杉浦久嗣

ページ範囲:P.1013 - P.1015

 第4回アトピー性皮膚炎国際シンポジウム(Fourth InternationalSymposium on Atopic Derma—titis)は,1991年5月27日から29日の3日間にわたり,ノルウェーのベルゲン市において開催された.
 参加者は約150名で,ヨーロッパからの参加者が主であったが,日本からも小児科から数名,皮膚科から青木敏之先生(羽曳野病院),田上八朗教授(東北大学),滝川雅浩教授・坂本泰子先生(浜松医科大学),清水正之教授・谷口芳記先生(三重大学),池澤善郎先生(横浜市立大学),手塚正教授・山田秀和先生(近畿大学),山本一哉先生(国立小児病院),加賀美潔先生(京都第一赤十字病院),上原正巳教授・佐々木一夫先生・杉浦久嗣(滋賀医科大学)らが参加した.

これすぽんでんす

八田尚人,他「致死型先天性表皮水疱症の1例」の論文を読んで

著者: 清水宏

ページ範囲:P.1016 - P.1017

 八田尚人先生他が報告された致死型先天性表皮水疱症の症例報告(臨皮45:703,1991)を興味深く読ませて頂きました.本例では兄も類似の皮膚症状を有し生後84日で死亡している点,また電顕的に明らかなlamina lucidaでの解離が見られることから,診断的にはまず致死型先天性表皮水疱症として問題ないと考えられます.しかしこの論文においてひとつ残念なことは,最近本症の診断において最も重要であり信頼性の高いとされているGB 31,2)というモノクローナル抗体について一言も言及されていなかった点です.
 GB 3抗原は正常ヒト皮膚基底膜部に存在する分子量60万ダルトンの蛋白で,表皮と真皮の結合に重要な役割を果たしていると考えられています.この抗原蛋白が致死型先天性表皮水疱症患者皮膚において特異的に欠如していることが,水疱形成の大きな原因であることも明らかにされてきました3).さらに,GB 3抗原は胎生10週の正常胎児皮膚ではすでに存在しますが,本症に罹患している胎児皮膚では欠如していることも確認されました3).したがって本症の胎児皮膚生検による出生前診断において,私たちは実際にGB 3抗原を電顕観察とともに併用しています4)

清水宏先生の御意見に対して

著者: 八田尚人

ページ範囲:P.1017 - P.1017

 我々の症例報告に対する清水先生の御意見を拝見させて頂きました.近年GB 3抗原が致死型先天性表皮水疱症の患者皮膚に欠如または減少していることが明らかになり,出生前診断に利用されていることは先生のご指摘のとおりです.今回は,電顕的な観察で水疱周囲および無疹部においてヘミデスモソームに異常が認められなかった症例を経験しましたので,致死型先天性表皮水疱症のヘミデスモソーム異常には不均一性があることを中心に述べました.GB 3抗原については言及しませんでしたが,本抗原がlamina lucida,lamina densa,およびヘミデスモソームに伴って存在すること1),また致死型先天性表皮水疱症のすべての症例で完全に欠如しているわけではなく,単に減少している例があること2)を考え合わせると,今回報告したようなヘミデスモソームの異常が認められない症例におけるGB 3抗原の態度についてはさらに検討する必要があると思います.
 次に出生前診断については,自験例では既に2子があり,次子の妊娠を希望しなかったためその話は具体化しませんでした.しかし,我々はこの症例の他に先天性幽門閉鎖症を合併した致死型先天性表皮水疱症の1例(投稿中)をほぼ同時期に経験しました.この例では患者が第1子であったことから,両親は本症の遺伝形式や患者の生まれる確率などを了承したうえで次子の妊娠を希望され,妊娠されました.その際に出生前診断のこともお話ししたのですが,本邦では未実施であったこともあり希望されず,妊娠を継続し出産されたようです.帰省出産のため連絡が途絶えてしまい,正常児かどうかも含めてその後の経過は残念ながら不明です.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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