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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科45巻5号

1991年04月発行

雑誌目次

特集 最近のトピックス Clinical Dermatology 1991 I 最近話題の疾患

色素性痒疹をふりかえる

著者: 長島正治 ,   大草康弘

ページ範囲:P.7 - P.11

 1989年末までの自験例並びに内外文献例227例を集計して,色素性痒疹の疫学,病変発生の誘因,臨床および組織学的所見,治療などについて考察した.性別は2:1で女性に好発し,発症年齢は10歳代が70%を占めた.国内での発生は北海道から沖縄に及び,発生頻度に大きな地域差はみられなかった.国外からは6例(白人4,黒人1,中国人1)の報告があった.病因はなお不明であるが,衣類の刺激など外的誘因に加えて,断食,ダイエット食また各種の全身性疾患が関係する症例があった.臨床的には水疱形成,組織学的には表皮内水疱,異常角化細胞の出現などが従来の記載に追加されている.治療ではDDSに代って,ミノサイクリンの有用性が強調されるようになった.

新生児エリテマトーデス

著者: 丹治修 ,   長谷川隆哉 ,   金子史男

ページ範囲:P.12 - P.17

 患児は生後2日の女児.出生時より顔面にDLE様紅斑を認めた.組織はDLEの像と一致.Lupus band test(LBT)陽性.抗核抗体(ANA),抗RNP抗体,抗SSA/Ro抗体は陽性を示し,LE test,抗DNA抗体,抗Sm抗体,抗SSB/La抗体陰性であった.心電図,心エコーで心異常はなかった.無治療にて,生後5カ月には血中の異常抗体は陰性となり,顔面の紅斑も消退した.その母親は,これまでに膠原病の診断を受けた既往はない.ANA,抗RNP抗体,抗SSA/Ro抗体は陽性であったが,LE test,抗DNA抗体,抗Sm抗体,抗SSB/La抗体は陰性であった.LBT陽性.Sjögren症候群(SjS)についての検査は陰性.現在はSLEとして治療を受けている.本症に関する全国160施設のアンケートによる59例(男児22例,女児37例)については,皮疹の出現は環状のものが72%と最も多く,部位は顔面が多かった.心疾患の合併は11%にみられた.母親はSLE37%,SjS23%の順に多かった.患児と母親の異常抗体の出現率では,両者とも抗SSA/Roおよび抗SSB/La抗体が高かったが,3例のNLEでどちらの抗体も陰性を示し,抗RNP抗体との関与が示唆された.NLEは母親からの胎盤通過抗体により,一時的に発症する疾患とされているが,われわれの調査では母親由来の異常抗体が一度減少あるいは消失した後に,自ら自己抗体を産生するようになったと考えられるSLE移行型のNLEが5例認められた.

成人Still病

著者: 臼田俊和

ページ範囲:P.18 - P.23

 成人Still病の典型的な3症例を報告した.3例とも定型的なリウマトイド疹が認められ,診断上有用であった.成人Still病は,1971年Bywatersによって提唱された疾患慨念で,sub—sepsis allergicaをはじめとする多数の同義語がある.病因は不明であるが,感染性因子によって刺激された生体の異常反応が関与していると考えられている.本症は発熱,関節症状,皮疹の3主徴のほか,咽頭痛,リンパ節腫脹,肝脾腫など多彩な症状を認める多臓器障害性の疾患であり,検査所見では赤沈値亢進,CRP強陽性,白血球数増加といった高度の炎症性所見が特徴的で,血清フェリチン高値も注目されている.診断は除外診断が基本であり,鑑別診断を確実に行う必要があるが,定型的な皮疹(リウマトイド疹)は特異性のある所見と考えられており,皮膚科学的には大変重要である.

Ki−1リンパ腫

著者: 田代研児 ,   中山樹一郎 ,   寺尾浩 ,   永江祥之介 ,   菊池昌弘 ,   大島孝一 ,   堀嘉昭

ページ範囲:P.25 - P.29

 Ki−1リンパ腫は,腫瘍細胞にCD 30(Ki−1,BerH−2)の発現する悪性リンパ腫の中の一群であり,その発生病理は未だ不明な点が多い.今回我々は皮膚原発Ki−1リンパ腫の1例を経験し,その免疫組織化学的所見,遺伝子解析,成人型T—細胞リンパ腫(ATL)との関連性などにつき興味深い事実が得られたので,それらに関する最近の知見も含めて述べた.

恙虫病の分布

著者: 加藤晴久 ,   辻卓夫

ページ範囲:P.30 - P.33

 大阪府下に発生した恙虫病につき報告し,本病の地域分布,発生件数の変化について検討を加えた.患者は11歳,男子.1988年11月12,13日,大阪府下生駒山麓へキャンプに出かけた.11月21日38℃台の発熱,頭痛,全身倦怠が出現し,28日には全身に軽度の浸潤を触れる紅斑が出現した.29日の初診時,左腋窩部に虫の刺し口が認められたため,恙虫病を疑い,テトラサイクリン内服にて治療を開始したところ,著効が得られた.経過中Weil-Felix反応は陰性,間接免疫ペルオキシダーゼ反応および間接蛍光抗体法の結果より病原恙虫病リケッチアの型はギリアム株と診断した.寒い季節の発生より,フトゲツツガムシかタテツツガムシによる新型恙虫病と思われる.大阪府下の恙虫病発生はきわめてまれであり,これを報告するとともに,地域分布の変化について検討を加えた.

プロトテコーシス

著者: 松田哲男 ,   松本忠彦

ページ範囲:P.35 - P.40

 プロトテコーシスは藻類の一種とされるプロトテカによる感染症である.稀ではあるが,本邦でも症例が増えつつある.臨床的に,1)皮膚,皮下,2)関節,3)全身のプロトテコーシスが知られている.80歳男子の両上肢屈側に生じた皮膚のプロトテコーシス,および15歳男子の小腸,肝臓,腹腔内リンパ節に生じた全身性プロトテコーシスの症例を報告した.プロトテカの微生物学的特徴,ならびにプロトテコーシスの疫学,臨床像,病理組織学的所見,治療についての近年の知見を混じえて論じた.

伝染性紅斑:最近の知見—ヒトパルボウイルスB19感染症

著者: 笠井達也

ページ範囲:P.41 - P.46

 伝染性紅斑は古くから知られた疾患でありながら,その原因ウイルスがhuman parvo—virus B19と判明したのは,ようやく1983年のことである.このウイルスに関する検索が進められた結果、伝染性紅斑以外に感冒様症状,溶血性貧血患者におけるaplastic crisis,関節炎ないし関節痛,紫斑あるいは水疱を主徴とする皮疹,さらには妊婦の感染時の胎児水腫による流産あるいは死産等の発症に関与していることが明らかになってきた.これらの症状はしばしば定型的な伝染性紅斑の皮疹を伴わない上,aplastic crisis以外は小児よりも成人に高頻度に出現する.また他のウイルス性疾患と異なり,成人の抗体保有率は加齢とともに上昇し、成人の罹患頻度が高い.わが国の年度を隔てた流行においては,ゲノムタイプの異なるウイルスの流行が証明されており,最近10年間の宮城県下の流行動態の変化もこれと関係づけた理解が可能と思われる.

Acral granulomatous dermatosis

著者: 宮川幸子 ,   北岡倫子 ,   小松満知子 ,   坂本邦樹 ,   白井利彦

ページ範囲:P.47 - P.50

 17歳男子,38℃程度の発熱とともに,左V指末節の発赤腫脹と膿瘍を生じ,各種抗生剤や抗菌剤の投与を受けたが軽快せず,次第に他指ついで額に同様の皮疹が新生した.組織学的には真皮から皮下組織にかけての壊死性肉芽腫性変化を主所見とした.副腎皮質ホルモン剤内服療法が有効であったが,炎症消褪後,患指の著明な屈曲拘縮と萎縮がみられた.以上,臨床像は通常の細菌性・真菌性爪廓炎またはacrodermatitis continuaof Hallopeauに類似するが,それらとは臨床経過あるいは組織所見の異なる病変を,従来記載されたことのない疾患と考え,acral granulomatousdermatosisと仮称して報告した.

II 皮膚疾患の病態

エイコサノイドと皮膚の炎症

著者: 井階幸一

ページ範囲:P.53 - P.57

 細胞が何らかの刺激を受けると生体膜中のリン脂質からアラキドン酸が遊離する.アラキドン酸は速やかに代謝されてプロスタグランジン,ロイコトリエンなどエイコサノイドと総称される生理活性物質を生成し,生体において多彩な機能を発揮する.皮膚においても,エイコサノイドは多種多様な,ときには全く相反する薬理作用を示すが生体内ではエイコサノイドは一般的に微量で不安定なものが多く,その実態をとらえることは容易ではない.本稿では,エイコサノイドの皮膚への薬理作用を概説し,アトピー性皮膚炎,蕁麻疹,乾癬などを含めた種々の皮膚の炎症にエイコサノイドがどのように関係しているかを最近の知見をもとにして考察する.

活性酸素と身近な皮膚疾患

著者: 宮地良樹

ページ範囲:P.58 - P.61

 皮膚科領域における活性酸素の生物学的意義について,身近な皮膚疾患(ポルフィリン症,肝斑,痤瘡)とそれに使われる治療薬(β—カロチン,ビタミンE,C,テトラサイクリン系抗生物質,DDS)および治療法(PUVA)を通して解説した.難解に思われる活性酸素,過酸化脂質も,思わぬ皮膚疾患で重要な役割を演じており,われわれ皮膚科医も知らず知らずのうちに抗酸化物質を投与していることに驚かされる.炎症,老化,発癌の各領域で,今後ますます活性酸素,過酸化脂質が注目されよう.

炎症性皮膚疾患と好酸球

著者: 津田眞五 ,   宮里稔

ページ範囲:P.62 - P.68

 好酸球増多を示す炎症性皮膚疾患を,好酸球のpro-inflammatomy cellとしての機能を中心に述べた.寄生虫症では,好酸球は標的(虫体,虫卵)の排除にeffector cellとして機能する.水疱性類天疱瘡においても,好酸球は自己の体組織(基底細胞)を異物と認識し,これを排除するeffector cellとして機能し水疱を形成すると考えられる.一方アトピー性皮膚炎では,末梢血中に活性型好酸球が認められるが,末梢血や皮膚組織中において排除すべき特定の標的は明確ではない.したがって気管支喘息における気道過敏性の亢進に関与するように、好酸球は既存の炎症をさらに増強するaccessory cellとして機能していると考えられる.今後このような観点から好酸球増多を伴う多くの炎症性皮膚疾患を分類し検討することは,病態の解明に重要と思われる.

疣贅の病型とHPVのタイプ

著者: 川島真

ページ範囲:P.69 - P.74

 ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)による疣贅(ミルメシア,尋常性疣贅,扁平疣贅,尖圭コンジローム,ウイルス性足底嚢腫)の臨床像を紹介し,組織像の違いを示した.またその臨床像,組織像の違いが,関与しているHPVの型の違いによることを述べた.

乾癬とサイトカイン

著者: 竹松英明

ページ範囲:P.75 - P.79

 乾癬の病変形成に,表皮細胞で産生されるサイトカインが,どのように関わっているかを,乾癬の病変部に作った水疱の内容液中および角層の抽出液中のサイトカインの量を測定し検討した.とくに,乾癬の組織の特徴的所見である,表皮の増殖および白血球の表皮内浸潤との関係に注目した.乾癬の病変部の角層中のIL−1は,正常に較べ低下しており,IL−1が乾癬の病変形成に積極的に関与しているとは考えにくい,正常および乾癬皮膚に作った吸引水疱内容液および角層抽出中には,TNFは検出されなかった.角層中のGM—CSFは,乾癬病変部で増加していた.一方,正常あるいは乾癬病変部の角層中にはG-CSFの量的差異は認められず,colony-stimulating factorの中ではGM-CSFがより重要な役割を果たしているようである.中等症以上の乾癬患者10例にTNFを全身投与したところ,3例で著効が得られ,うち1例では14カ月以上皮疹の再発がみられない.

アトピー性皮膚炎とIgE陽性ランゲルハンス細胞

著者: 田中洋一 ,   吉田彦太郎

ページ範囲:P.81 - P.85

 1986年,Bruynzeel-Koomenらはアトピー性皮膚炎(AD)患者の表皮ランゲルハンス細胞(LC)にIgEの結合がみられることを報告したが,その後,いくつかの追試がなされ,その事実が確かめられている.筆者らも二重免疫蛍光抗体法を用いて,AD患者16例,他の瘙痒性皮膚疾患13例,健常者2例について検討したところ,表皮の全LCに占めるIgE陽性LCの比率はそれぞれ,48%,16%,0%であり,ADに有意にIgE陽性LCがみられた.血中の単球についても同様に検討したところ,ADに多数のIgE陽性単球が認められた.ADの単球を分離し,抗ヒトIgE抗体,抗FcεR抗体(H107)による刺激を加えたところ,IL−1の比較的著明な分泌がみられ,細胞表面上のIgEを介するmediatorの分泌があることが明らかになった.LCにおいても表皮より浸入したダニなどのアレルゲンとIgEが反応し,同様なmediatorの分泌が起こる可能性があると考えられた.

ピロキシカム光線過敏症の発生機序

著者: 澤田俊一 ,   上出良一

ページ範囲:P.86 - P.90

 ピロキシカムによる光線過敏症は臨床症状,光パッチテスト,病理組織学的所見からは光アレルギー性を示唆するが,摂取から発症までの期間が通常数日以内であり単純な光アレルギー性では説明できなかった.最近,本症患者はチメロサールの抗原決定基の一つであるチオサリチル酸にすでに感作されており,それとの交差反応で発症することがいくつかのグループにより示された.自験9例の臨床像,チメロサール関連物質パッチテストの結果をまとめるとともに本症発症におけるチオサリチル酸との交差反応の関与について考察した.

III 新しい検査法と診断法

皮膚科に応用し得るME機器

著者: 高橋元次

ページ範囲:P.93 - P.98

 皮膚科領域で応用されうる測定機(皮表画像解析装置,皮膚粘弾性測定機,角層ターンオーバー測定機)について原理および測定例を示した.紫外線(320-400nm)を用いて皮膚表面を撮像し,画像解析するダイレクトスキンアナライザーによって顔面皮膚表面形態の加齢変化や鱗屑が捉えられた.皮表形態の加齢変化は皮溝,皮丘の不鮮明化,皮溝放射状の非対称化,皮溝数の減少を特徴とした.二重円筒強制振動式皮膚粘弾性測定機は皮膚の力学的性質を弾性,粘性に分けて測定でき再現性も良い.弾性は加齢とともに上昇し皮膚は固くなること,またコラーゲン,エラスチン量と密接に関係することが示された.ダンシルクロライドで染色された角層の蛍光強度を計るフルオロメーターを用いて角層ターンオーバーが精度良く簡便に測定されることが示された.

皮膚科領域におけるPCR法の応用

著者: 高橋英俊 ,   飯塚一

ページ範囲:P.99 - P.103

 近年,polymerase chain reaction(PCR)法が遺伝子の特定sequence増幅の有力な手段として脚光をあびるようになってきた.皮膚科領域においても,ras遺伝子などの癌遺伝子の解析,ウイルス感染症の診断,またHLAタイピングとその疾患感受性の解析など種々の目的に応用されつつある.今回,PCR法について,我々が実際にras遺伝子について行ったデータを交えて解説した.PCR法は簡便で,かつ少ない材料から短時間で解析が可能なlevelまで遺伝子増幅を行うことができるため,将来,診断面を含め臨床の場においてもその応用が急速に広まっていくものと思われる.

白皮症の遺伝子診断

著者: 富田靖 ,   松永純 ,   田上八朗

ページ範囲:P.104 - P.108

 チロシナーゼ陰性型白皮症の日本人患者に見いだされたチロシナーゼ遺伝子の二つの変異について,患者家族の遺伝子解析を行った.変異の一つはpoint mutationで,チロシナーゼ遺伝子のDNA塩基配列312番目の塩基グアニン(G)がアデニン(A)に置換したものである.この部位は正常遺伝子で制限酵素Hpa IIの認識部位であるが,患者遺伝子では制限酵素BstN Iの認識部位へと変わるので,この二つの酵素による制限酵素断片の鎖長多形の比較により,この変異の遺伝子診断が可能である.二つめの変異はitsertionmutationで,チロシナーゼ遺伝子のエクソン−2に一塩基つまりシトシン(C)の挿入があり,遺伝暗号のframe shiftを起こし,すぐにstop codonが出現するため,酵素蛋白の蛋白合成はエクソン−2で停止する.この変異部を認識する制限酵素がないので,変異前後の20個のヌクレオチドをプローベとして,dot blot hybridizationを行うことにより,この部位の変異についての遺伝子診断が可能である.

皮膚腫瘍における細胞核DNA量

著者: 豊島弘行 ,   堀真

ページ範囲:P.109 - P.113

 有棘細胞癌および,その前癌状態であるBowen病のパラフィン包埋標本を材料として,単離法による顕微蛍光測光を施行し,核DNA量パターンと組織学的悪性度,再発との関係を,切片法による顕微蛍光測光を行い,核DNA量パターンと深部浸潤との関係を検討した.その結果,有棘細胞癌のgrade 4(Leverの組織学的分類),grade 1〜3,Bowen病の順にhigh ploidyなパターンを示すことがわかった.再発例においては再発後の腫瘍巣のほうが再発前病巣よりもpolyploidcell出現率(>4C,>6C)が高かった.また,皮下脂肪織より深い部分に存在する腫瘍巣のほうが,真皮上層までの浅い部分に存在する腫瘍巣よりも,high ploidyなパターンを示した.

免疫ブロット法による自己免疫性水疱症の診断

著者: 橋本隆

ページ範囲:P.115 - P.120

 現在,蛍光抗体法を用いた検索により,種々の自己免疫性水疱症において各種の抗皮膚自己抗体の存在が明らかとなり,他方,その抗原物質の同定に関する研究も進んできた.免疫ブロット法を用いた検索により,水疱性類天疱瘡抗原は230kD蛋白と170kD蛋白の2種があり,そのうち170kD蛋白は妊娠性疱疹特異的であることが示された.また,尋常性天疱瘡抗原は130kD膜糖蛋白,落葉状天疱瘡抗原は160kD膜糖蛋白(デスモグレイン)であることが同定された.さらに,後天性表皮水疱症抗原は290kDのVII型コラーゲンの145kD C末端非コラーゲン部であることが明らかとなった.近年,線状IgA皮膚症およびIgA抗表皮細胞間抗体を有する症例についても,その抗原の検索が進められている.今後,免疫ブロット法を含めた抗原物質の検索は,自己免疫性水疱症の診断のみならず,正常表皮接着機構解明のためにも重要なものとなると思われる.

汎発性強皮症の早期診断

著者: 竹原和彦

ページ範囲:P.121 - P.126

 汎発性強皮症は,ほぼ全身の皮膚硬化を伴う重症例より手指等に皮膚硬化が限局する軽症例に至るheterogeneousな疾患であり,皮膚硬化を欠きRaynaud現象のみを有する症例の中にも本症の早期例が多数存在する.これら早期例の診断に際しては,詳細な病歴の聴取,注意深い全身皮膚の観察,抗核抗体をはじめとする種々の血液検査,肺・食道など早期内臓病変の精査,前腕伸側よりの皮膚生検などが重要である.われわれはRaynaud現象を主訴として当科に来院した50例につき詳細に臨床的検討を加えたところ,Raynaud現象のパターン,特異抗核抗体,爪郭部の出血点の3者が早期例の診断に重要であるとの結果が得られ,診断基準非適合例に対しても“scleroderma spectrum disorder”なる幅広い概念で診断すべきと考えた.また厚生省研究班により新たに作成された早期例診断基準を紹介した.

IV 治療のトピックス

保湿外用剤

著者: 服部道廣

ページ範囲:P.129 - P.132

 角層は乾燥条件下にあっても,自ら水分を一定に保つ機能を具えている.この水分保持機能については,①天然保湿因子(NMF),②皮脂膜,③細胞間脂質の役割が考えられている.角層の水分保持機能の機構を理解することは,臨床の場において乾燥性の皮膚に対する保湿外用剤の適用を考える上で有意義なことである.本項では,角層と水分との関わりあいや皮膚の乾燥性変化を臨床の場において検討する方法,ならびにそれによる外用保湿剤の評価につき,近年の研究報告をもとに概説する.また,入浴の場を利用した油性保湿外用剤の効果に関する最近の報告例を紹介し,皮膚科領域における入浴利用の有用性につき述べてみたい.

接触皮膚炎防御外用剤

著者: 東禹彦

ページ範囲:P.133 - P.136

 被膜性皮膚保護剤ハンドガードおよびハンドケアは70%イソプロパノールを基剤とし,メタアクリル酸・アクリル酸エチル共重合体とエチルセルロースを配合した速乾性溶液で,皮膚に塗布すると1〜2分で被膜を形成する.本剤の皮膚保護効果をコルチコステロイドの皮膚血管収縮能をどの程度減弱させるかにより検討した.ハンドガードまたはハンドケア塗布後に血管収縮試験を行うと,塗布しない場合に比較して,蒼白斑の形成は70%以上低下した.本剤は皮膚に付着した有害物質の経皮吸収をかなり阻止することが明らかで,臨床的にも手の接触皮膚炎の防止効果のあることが報告されている.

新しい経口抗真菌剤

著者: 中嶋弘 ,   高橋泰英 ,   黒沢伝枝

ページ範囲:P.137 - P.143

 新しい経口抗真菌剤,フルコナゾール,イトラコナゾールおよびテルビナフィンを概説した.フルコナゾールおよびイトラコナゾールはトリアゾール系抗真菌剤で,真菌膜のエルゴステロール合成を,チトクロームP450を阻害することにより抑制する.これに対してテルビナフィンはアリルアミン系抗真菌剤で,エルゴステロール合成を,スクワレン・エポキシダーゼを阻害することにより抑制する.これら薬剤の特徴,抗菌活性,適応,用法,用量,その他について解説し,これら薬剤はグリセオフルビン,フルシトシンなどに代りうる有用な薬剤であることを述べた.

新しい抗生物質—とくにMRSAに対する治療を中心として

著者: 荒田次郎 ,   秋山尚範

ページ範囲:P.145 - P.151

 Methicillin耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は,多剤耐性であることにより,その感染症に対する治療薬剤の選択の幅が小さい.軽症,中等症の場合には,経ロセフェム系薬剤+ホスホマイシン,ニューキノロン,ミノサイクリンなどが選択対象となる.やや重症ではミノサイクリン静注を用いる.そのほか,セフォチアム+イミペネム/シラスタチン,フロモキセブ+ホスホマイシンなども考えられる.重症ではアルベカシン,バンコマイシンを主体に治療を組立てる.

経口抗ウイルス剤

著者: 新村眞人

ページ範囲:P.153 - P.157

 ウイルスが誘導するチミジンキナーゼ(TK)は基質特異性が低く,宿主細胞のTKではリン酸化されないチミジン誘導体なども基質とすることができる.アシクロビル(ACV)はこの機序を利用したもので,薬剤の効果は,それがTKの基質としてどのくらいよくリン酸化されるか,3リン酸化体がウイルスのDNAポリメラーゼ活性をどの程度に阻害するかにより異なる.ACVに対するTK誘導能の高いHSVは低濃度でウイルス増殖が阻止されるが,TK誘導能の比較的低いVZVに対しては約10倍の薬剤濃度が必要である.ACVは腸管からの吸収率が低く200mgを1日5回経口投与した場合にはVZVに有効な血中濃度には達しない.したがって帯状疱疹を経口剤で治療する場合には大量を投与する必要がある.一方,最近わが国で開発されたBV-araUはHSV−2には無効であるがVZVに対してはin vitroではACVの1,000倍以上の効力を有し,腸管からの吸収率も高い.また,ACVに類似の構造をもち,ウイルス増殖抑制時間が長い前駆薬タイプの経口抗ウイルス剤famciclovirの開発も行われている.

プロブコールによる眼瞼黄色腫の治療

著者: 小玉肇

ページ範囲:P.158 - P.162

 高コレステロール血症の合併の有無を問わず,50例の眼瞼黄色腫患者にプロブコールを1日1,000mg投与したところ,40例(80%)に退縮効果を認めた.この効果は単に血清コレステロール値を低下させる作用のみならず,病変部への直接の作用によるものである.黄色腫病変部で形成される酸化LDLは,単球マクロファージの走化性因子となり,さらにマクロファージに取り込まれることにより泡沫細胞が形成される.プロブコールには抗酸化作用があり,リポ蛋白の酸化を抑制することにより泡沫細胞の形成が阻害される.さらに,本剤は泡沫細胞からのコレステロールの排除機序を促進することにより,泡沫細胞浸潤性病変の退縮を促進する.本剤は従来の抗脂血剤にない薬理作用により泡沫細胞浸潤性病変を退縮させることから,動脈粥状硬化症も退縮せしめる可能性が示唆された.

レチノイド長期投与の影響—骨・関節変化について

著者: 岡田奈津子

ページ範囲:P.163 - P.166

 エトレチナート長期内服加療を行った角化異常症の成人例3例の骨・関節変化につき単純骨X線検査にて検索し報告した.これら3症例はエトレチナートを3年から4年7カ月内服し総投与量は25.4gから36.4gであった.骨X線検査において,いずれの症例も骨棘の形成,靱帯の石灰化等の過骨症性変化を広範囲に認め,また,2例には長管骨の骨膜肥厚を認めた.踵骨に骨棘が高度にみられた1例を除いては自覚症状を全く認めず,また,全例において経過中検査値に異常を認めなかった.エトレチナート長期内服症例においては骨X線検査を定期的に施行し,骨・関節異常の有無を検索する必要があると考えられた.

皮膚形成外科の進歩

著者: 高田章好 ,   藤川昌和 ,   松本維明

ページ範囲:P.167 - P.170

 皮膚科診療において,軟膏療法,薬物療法と同様に手術療法も大切な治療法の一つである.形成外科治療は最近10年のあいだに,筋皮弁,筋膜皮弁,マイクロサージャリー,クラニオフェイシャルサージャリーと飛躍的な発展をしている.ここでは皮膚形成外科領域での診療に役立つと思われるレーザー装置,コラーゲン注射,tissueexpander,ディスパーゼを利用した刺青除去の治療について,それぞれの適応,手術手技,利点,欠点について述べた.

乾癬爪病変の凍結療法

著者: 内藤琇一

ページ範囲:P.171 - P.174

 乾癬爪病変に液体窒素による凍結療法を試み,有用性を認めた.また,爪病変を臨床的観察からI型からIII型まで分けて考えた.I型:爪郭から爪母に乾癬病変があり,その結果爪甲に変形をきたす.II型:爪床に乾癬病変がありその結果爪甲に変形をきたす.III型:爪甲原発と思われる爪甲の変形.I型,II型では有効な症例を認めたが,III型では効果に乏しいと思われた.副作用は処置後の疼痛で2例が脱落した.処置後の疼痛は乾癬皮疹に対する凍結療法後よりも強く,爪床に水疱を作らないように十分に注意して施行することが肝要と思われた.

アトピー性皮膚炎のPUVA療法—およびPUVA療法の適用基準について

著者: 吉池高志 ,   相川洋介 ,   小川秀興

ページ範囲:P.175 - P.179

 従来の治療法に頑固に抵抗し,ステロイド長期連用による副作用が生じるなど,治療法の選択に苦慮するような重症アトピー性皮膚炎(AD)が最近増えつつある.我々はこのような症例に対してPUVA療法を施行し,目覚ましい効果を上げてきた.その経験から,PUVAは治療抵抗性の重症ADに効果があり,しばしば寛解をもたらすため,従来の治療法に伴う副作用を除くことも可能であると考えた.しかし,その運用につては慎重であらねばならず,本稿ではADにおけるPUVAの適用基準を提唱した.ADに対するPUVAの作用機序については,局所的には,ケラチノサイトの増殖抑制・角層機能(水分保持能)の改善やマスト細胞・ランゲルハンス細胞の減少などによって皮疹の改善がもたらされる.また長期的作用としては,全身的な影響も与えるものと考えた.

フォトフエレーシスによる皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)および全身性強皮症(PSS)の治療

著者: 前川嘉洋

ページ範囲:P.181 - P.186

 フォトフェレーシスは,PUVA療法(photochemotherapy)に体外循環リンパ球採取(leukapheresis)を組み合わせた治療法である.1987年EdelsonらがCTCLに有効性を報告以来,本邦でもATLを含むCTCLに研究が進められている.フォトフェレーシスの効果のメカニズムについてはリンパ球系悪性腫瘍に対する直接的な抗腫瘍効果とともに,免疫増強作用による間接的な抗腫瘍効果が想定されている.ATLでは皮疹の改善度が治療効果判定のための一つの基準であるが,リンパ球膜抗原の変化を通しての有用性についても報告した.さらに免疫応答のmodifierという観点から,PSS,慢性関節リウマチや尋常性天疱瘡にも有効性が報告されている.PSSでは皮膚硬化,関節痛の改善などが認められ,CD4/CD8比が正常化した例があり,リンパ球を介しての治療効果が期待された.

IL−2による悪性血管内皮細胞腫の治療

著者: 増澤幹男

ページ範囲:P.188 - P.191

 悪性血管内皮細胞腫に対してのリコンビナント・インターロイキン−2療法の概要について述べた.投与法として1)局注法,2)動注法,3)筋注法,4)静注法とに分け,これらとの併用療法としてa)限局的外科的切除,b)養子免疫療法をあげた.悪性血管内皮細胞腫の臨床像は斑状病変,結節病変,潰瘍病変とに大別されるが,斑状病変に対しては著効する.一方,結節および潰瘍病変では病勢を抑制することは困難であるので,早期に病変部のみの小範囲外科的切除術の併用療法が必要である.この治療効果は組織学的に病変部の浮腫性,リンパ球の有無,腫瘍細胞の異型性と浸潤増殖形態に左右されると考えられる.投与法のうち局注法および動注法はその効果に加え同腫瘍が好発する高年齢者にとって,精神的かつ肉体的負担が少ない利点があり,他の療法に先立って積極的に実施されるべき治療法であると考える.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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