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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科46巻10号

1992年09月発行

雑誌目次

カラーアトラス

皮膚良性リンパ腺腫症

著者: 稲葉義方 ,   石地尚興 ,   上出良一

ページ範囲:P.778 - P.779

 患者 24歳,女
 主訴 眉間・下眼瞼・鼻背部の多発性丘疹
 初診 昭和49年1月7日
 既往歴・家族歴 特別なものはない.
 現病歴 3歳頃から眉間部に米粒大までの表面に光沢のある淡紅色の米粒大丘疹が多発し.徐々に下眼瞼部と鼻背部に拡大した.11歳時に当科受診しステロイド剤外用にて約3年間経過をみたが変化なく,以後約10年間放置していた.前額部と頬部にも皮疹の拡大を認めたため昭和62年4月当科に再来した.
 現症 初診時(11歳時)には眉間・下眼瞼部と鼻背部に米粒大皮疹を認めた(図1).再来時(24歳時)には下眼瞼部と鼻背部に存在していた皮疹の一部は瘢痕を残さず消退したが,前額部と頬部には皮疹が拡大していた(図2).

原著

血清サイトカインレベルを経時的に測定し得た膿疱性乾癬

著者: 佐川曜子 ,   塩原哲夫 ,   長島正治

ページ範囲:P.781 - P.785

 47歳,男性の膿疱性乾癬の1例を報告するとともに,種々の臨床症状の変化に応じてサイトカインがどのように変動するか血清中のサイトカインレベルを測定した.IL−1α,GM-CSFは必ずしも臨床症状との明らかな相関はみられなかったものの,TNF—αは膿疱の出現時期に一致して高値を示し,IFN—γはむしろ皮疹の増悪に先行して変動する傾向がみられた.IL−6は全体としては皮疹の程度に相関するものの,病勢に鋭敏に反応するものではなかった.乾癬において多種のサイトカイン(特にTNF—α,IFN—γ)を経時的に測定することにより病勢を客観的に判断することが可能となり,予後や治療の目安になるのではないかと考えた.

慢性甲状腺炎,白斑を合併した円形脱毛症

著者: 植木理恵 ,   今井龍介 ,   高森建二 ,   石原明夫

ページ範囲:P.787 - P.791

 円形脱毛症の病因は未だ明らかではないが,自己免疫説が有力な説の一つとなっている.今回我々は,各々その病態に自己免疫現象の関与が考えられている慢性甲状腺炎と尋常性白斑を合併した円形脱毛症の3症例を経験した.3症例ともに,脱色素斑部より生検しマッソン・フォンタナ染色では,表皮内にメラニンおよびメラノサイトを認めず,また,甲状腺穿刺吸引細胞診上,慢性甲状腺炎の像を示した.以上より3疾患の合併と診断した.これら3疾患の合併の報告は我々の調べ得た限りなく,円形脱毛症の病態を解明する上で興味ある合併と考え報告する.

環状肉芽腫の定型疹の中央に皮下型環状肉芽腫をみた1例

著者: 後藤裕子 ,   柳原誠 ,   浦田裕次 ,   加藤司津子 ,   森俊二

ページ範囲:P.793 - P.797

 3歳,男児の両足背に環状肉芽腫の定型疹を生じ,その後その中央に皮下型環状肉芽腫をみた症例を経験した.組織学的には,環状皮疹部では網状層下層に定型的なpalisading granulomaの像を認めた.また皮下結節部では真皮下層より脂肪織にかけて組織球に柵状に取り囲まれた類壊死巣を認めた.過去12年間の環状肉芽腫における本邦報告および自験例を含めた207例について統計的に検索した.定型疹と皮下型の合併は自験例を含め4例認めた.うち2例は皮下型皮疹を生じ,生検後,定型疹を,他の1例は定型疹の消失後,同部位の下部に皮下型皮疹をみた症例であった.自験例のように両型が同時期同部位に存在した報告はない.

皮下に生じた孤立性毛嚢上皮腫—皮下型の提唱

著者: 木村俊次 ,   小林都江

ページ範囲:P.799 - P.803

 皮下に生じた孤立性毛嚢上皮腫(STE)の2例を報告した.症例1:33歳女.左前腕の直径15mmの皮下腫瘤.症例2:68歳男.右眉毛部の直径17mmの皮下腫瘤.ともに上下と可動性良好で,真皮下層から皮下脂肪織にかけて存在し,容易に核出された.組織学的には被膜様のもので囲まれた境界明瞭な球状腫瘤で,基底細胞様細胞の胞巣状・索状・レース状増殖と周囲に豊富な線維性間質の形成をみる.角質嚢腫やsquamous eddy様構造も少なからずみられ,細胞が辺縁に柵状配列して毛芽様を呈する部分も存在する.表皮や毛嚢との連絡はない.STEには通常型の他に巨大型やdesmoplastic typeがあるが,今回第3の型として皮下型を提唱した.皮下型は臨床・組織学的に一定の特徴を有しており,trichoblastic fibromaやtrichogenictrichoblas—tomaを含んで,より多彩な組織所見を呈する一群のSTEといえる.また巨大型の一部のものは皮下型でもある.

今月の症例

Nodular Colloid Degeneration

著者: 小野雅史 ,   幸田衞 ,   植木宏明

ページ範囲:P.805 - P.808

 35歳,男性.初診1年前から下顎部に,自覚症がなく,瑞瑞しい紅色を呈し,弾力性軟の小指頭大の結節が発生した.組織像では,結節部の真皮全層に淡紅色,均質無構造物質が沈着していた.沈着物はダイロン,コンゴー赤に淡染性,偏光,螢光色は示さず,amyloid P-componentは陰性であった.電顕像で沈着物は,比較的短く,曲線状,分枝状で無秩序に交錯した線維成分と,電子密度の低い均質な基質成分から成っていた.これらの所見を総合して,自験例を非常に稀な疾患であるnodular col—loid degenerationと診断した.

多数の結節性病変を生じた正脂血性黄色腫症

著者: 紀平知香 ,   山上温子 ,   谷口芳記 ,   清水正之 ,   中村保夫

ページ範囲:P.809 - P.812

 75歳,女性.60歳頃より顔面,前胸部,四肢伸側に多数の黄褐色結節が出現し,徐々に増大した.血縁者に同症はなく,基礎疾患もみられない.組織では,真皮内の膠原線維間にTouton型巨細胞を混じる多数の泡沫細胞を認めた.血清中のコレステロール,中性脂肪,コレスタノールは正常であったが,HDLコレステロール,アポ蛋白AIは軽度の低下がみられた.本症例における黄色腫の形成要因として,その分布様式から,慢性機械的刺激,日光暴露による毛細血管障害などが考えられた.また他の要因として,HDLコレステロール,アポ蛋白AIの低下も考えられたが,皮疹の主体である結節性黄色腫に加え,腱黄色腫および眼瞼黄色腫も存在したことから,上記因子だけでなく,未知の異常脂質が存在する可能性も考えられた.

症例報告

丘疹—紅皮症の1例—特に紅皮症発症までの経過について

著者: 葉狩しのぶ ,   葉狩良孝 ,   三原基之 ,   島雄周平

ページ範囲:P.813 - P.816

 66歳男性の丘疹—紅皮症の1例を報告した.初診の5年前より四肢に瘙痒性丘疹が出現,以後軽快増悪を繰り返す.本紅皮症に特徴的な四肢の孤立性紅色丘疹,背部の敷石状局面に加えて新たに紅皮症状態が出現することが確認された.内臓悪性腫瘍の合併は見られなかった.

悪性組織球症様病変を呈した蚊アレルギーの1剖検例

著者: 五十嵐晴巳 ,   小粥雅明 ,   小川博

ページ範囲:P.817 - P.821

 18歳女性.蚊アレルギーより悪性組織球症様病変をきたした1剖検例を報告する.6歳時から蚊アレルギー症状が出現し,毎夏,蚊刺を繰り返し受けるうち,12年後の蚊刺を契機に,発熱,著明な肝脾腫,汎血球減少をきたし,死亡した.剖検所見で,皮膚,肝,脾,骨髄,リンパ節に貪食像を示す組織球の増殖と,大小不同で核小体の目立つ異型細胞がみられた.文献的にも,蚊アレルギー患者は悪性組織球症やそれに類似する疾患を続発する可能性があり,長期にわたる詳細な観察が必要であると思われる.

スリンダク内服によるStevens-Johnson症候群の1例

著者: 月永一郎 ,   熊切正信 ,   笠原直子 ,   細川吉博

ページ範囲:P.823 - P.826

 54歳,女性.変形性膝関節症のためスリンダク内服50日目に全身に多型紅斑型発疹,口腔内びらん,発熱,結膜炎を生じStevens-Johnson症候群と診断した.スリンダクを用いた貼布試験,リンパ球幼弱化試験が陽性で,かつ内服誘発試験も陽性でスリンダクによる薬疹と確診した.スリンダクは消炎効果が強く頻用される薬剤であるが,Stevens-Johnson症候群,TENの重症型の薬疹を生じた報告が散見されるため,長期間にわたり使用することの多いリウマチ性疾患の治療薬としての使用には十分な注意が必要である.

特異な臨床経過を示したAcrodermatitis Continua of Hallopeau

著者: 林伸和 ,   江藤隆史 ,   古江増隆 ,   中川秀己 ,   石橋康正

ページ範囲:P.827 - P.830

 64歳,女性.初診2年前より左第1趾爪甲が黄白色調となり,爪囲に発赤,腫脹出現.近医にて瘭疽の診断のもと抜爪.以後,爪は生えてくるが,しばらくすると排膿,爪が剥がれる状態を繰り返していた.細菌,真菌培養を繰り返すも陰性で,病状は不変.その後,四肢躯幹に膿疱と鱗屑を伴う紅斑が汎発,ステロイド外用にて再び左第1趾のみに限局した.汎発疹の生検像で,Kogojの海綿状膿疱を認めた.以上より,本症例をacrodermatitis continua of Hallopeauと診断.ステロイド外用剤にて全身の皮疹は略治したが,現在に至るまで左第1趾爪甲は生えてこない.Acrodermatitis continua of Hallopeauの汎発化したものの多くは1指趾より多指趾に移行後,汎発化しており,汎発時には熱発を伴うことが多い.また汎発例は女性では若年発症に多く,これらの点で自験例は稀な症例と考えた.

Herpetiform Pemphigusの1例

著者: 新関寛徳 ,   木花いづみ ,   生冨公明 ,   美田誠二 ,   橋本隆

ページ範囲:P.831 - P.834

 Herpetiform pemphigusの1例を報告した.病理組織学的な水疱の位置からはpemphigus vulgaris(PV)ないしpemphigus foliaceus(PF)の区別は困難であったが,免疫ブロット法,HLA typingの結果からはPFと考えられた.このような症例に関してはあえてherpetiform pemphigus vulgaris,herpetiform pemphigusfoliaceusと分類せず,それよりも検索した時期の状態がPV型,PF型のどちらであるのかを把握することが治療方針決定,予後予測に必要であると考えた.

Creeping Diseaseの3例

著者: 村田恭子 ,   秋元佳代子 ,   檜垣祐子 ,   川島真 ,   肥田野信 ,   松本克彦

ページ範囲:P.835 - P.838

 症例1は38歳男.鮎の塩焼き,牛生肉を食べ,数日後に背部に移動性の線状紅斑と下痢が出現した.症例2は46歳男.南米旅行中ピラニアの刺身を食べ,1年後に左腹部に蛇行状線状紅斑が出現した.症例3は41歳女.淡水魚などの生食をしていないにもかかわらず右大腿部に移動性の線状紅斑が出現した.症例1では組織学的に虫体を認めず,ドロレス顎口虫抗原皮内反応陽性,ELISA法でドロレス顎口虫抗原と剛棘顎口虫抗原に陽性を示し,顎口虫性creeping diseaseと診断した.症例2および3では免疫血清学的検査は陰性で,組織学的に虫体断面像の大きさと形態より顎口虫以外の旋尾線虫幼虫によるcreeping diseaseと診断した.

多彩な病理組織像を呈したBowenoid Papulosisの1例

著者: 菊池新 ,   桜岡浩一

ページ範囲:P.839 - P.841

 症例:60歳,男.20年前より外陰部に自覚症状を欠く黒褐色調皮疹が出現,漸次増数した.病理組織にて,これらは表在性基底細胞上皮腫様,ボーエン病様,basaloid cellの増殖よりなる乳頭腫などさまざまな組織所見を呈した.PAP法にてヒト乳頭腫ウイルス抗原はいずれも陰性であったが,これらの多彩な発疹はすべてbowenoid papulosisと考えられた.

間質に著明なヒアリン化を伴ったClear Cell Hidradenomaの1例

著者: 徳橋至 ,   森田昌士 ,   千葉紀子 ,   野崎恵美子 ,   長山百合子

ページ範囲:P.843 - P.845

 37歳,男性の下腹部に出現したclear cell hidradenomaの1例を報告した.組織学的に大型で空胞状のclear cellと小型で好酸性の胞体を持つepidermoid cellが種々の割合に混在,一部に腺管構造を示している.腫瘍下部で顕著なヒアリン化を呈した間質内に腫瘍細胞は索状,小塊状となって一見,周囲結合織内へ浸潤するような所見が見られた.細胞の異型性はなく悪性化の徴候は認められなかった.

眼窩部に生じた破壊型基底細胞上皮腫

著者: 新藤季佐 ,   古川雅祥 ,   染田幸子 ,   谷口彰治 ,   濱田稔夫

ページ範囲:P.847 - P.850

 77歳,男.約7年前より右下眼瞼部に潰瘍が出現し,種々の治療を受けたが再発を繰り返していた.初診時には,右眼窩部に深い潰瘍が存在し,眼球および眼窩を構成する骨をも侵していた.組織学的には基底細胞上皮腫であり,眼球,骨組織をも含めた腫瘍摘出術,植皮術を行った.その後も潰瘍の増大が認められたため,放射線療法をも行ったが明らかな軽快をみることはなかった.本症例は,臨床的には骨,眼球の破壊を認めるなど深く大きな潰瘍を呈し,治療に抵抗し,再発を繰り返した点で,破壊型基底細胞上皮腫と考えられた.また,組織学的には斑状強皮症型に分類されると思われるが,臨床像をも考え合わせるとより深く浸潤する硬化型といったほうがよいのではないかと考えられた.

Angiosarcoma of the Scalpの1例

著者: 小林孝志 ,   飯塚一 ,   水元俊裕 ,   近藤信夫

ページ範囲:P.851 - P.855

 76歳,男性.初診は平成元年9月7日.頭部に外傷の既往があり,その約2週間後に同部位の小豆大の腫瘤に気づく.組織学的所見では,真皮全層にわたり,核は大小不整で異型性の強い腫瘍細胞の増殖を認め,ところどころに,裂隙および管腔形成を有する.免疫組織学的所見では,第VIII因子関連抗原はごく一部で弱陽性,UEA−1レクチンは陽性,vimentinは強陽性,S−100蛋白およびdesminは陰性であった.電顕所見では,腫瘍細胞内にWeibel-Palade顆粒様物質,pinocytotic vesicleを認め,腫瘍細胞間ではdesmosome様構造を認めた.

連載 皮膚病の現状と未来・5

PCR法とSouthern法(2)

著者: 川島真

ページ範囲:P.821 - P.821

 パリのパスツール研究所に留学していた当時は,Southern法全盛のころであり,未知のパピローマウイルスDNAを求めて日夜オートラのフィルムの現像に明け暮れていた.ある朝,皮膚癌の数十検体のうちのボーエン病1検体にウイルスDNAと思われるバンドが現れてきた.それが後に,皮膚癌から初めて検出された新しいタイプとして認識されたHPV34型であった.その日の感動は今でも鮮明である.私にあの感動を与えてくれたSouthern法にどれだけ感謝したことであろう.しかし,その後数百検体をSouthern法で解析したが陽性に出たのは数検体にすぎず,Southern法の検出感度に疑問を持つこともあった.Southern法に裏切られたのであろうか.
 その不遜な疑問に答えを与えてくれたのがPCR法である.PCR法は原理的には,Southern法の数百万倍の感度を有する.そこで,先に陰性に終わった検体をPCR法で再度解析したところ,1例も陽性となった検体はなかった.私はこの膨大なnegative dataに落胆するどころか,逆にSouthern法の偉大さにあらためて感激した.

治療

イオントフォレーシスによる疱疹後神経痛および帯状疱疹の治療

著者: 森理

ページ範囲:P.857 - P.859

 イオントフォレーシスにより,疱疹後神経痛(PHN)および帯状疱疹の治療を行った.PHNでは発症後2カ月以上の群と2カ月以内の群に対象を分けた.その結果,早期に開始したほうが良好な成績が得られた.帯状疱疹に対しては早期より開始し良好な除痛効果を認めた.また,PHNの発症機序について若干の考察を加えた.

印象記

第53回米国研究皮膚科学会印象記

著者: 二村省三

ページ範囲:P.860 - P.862

 昨年の西海岸シアトルでの米国研究皮膚科学会(S.I.D.)meetingから早1年がたち,今年は4月29日から5月2目までの4日間,東海岸メリーランド州の古い港町ボルチモアで第53回目の学会が開かれた.会場はチェサピーク湾岸ぞいに美しく整備されたウォーターフロントのStouffer Harbor—place HotelとBaltimore Con—vention Centerが使われた.折しもロスアンゼルスでは警官の黒人暴行事件をきっかけに,激しい暴動が発生していた.しかし,東のメリーランド州ではテレビの報道以外,表面的にはその影響もうかがえず,梨の花や木蓮そしてチューリップが一斉に咲き競う美しい初夏のひとときを人々は満喫していた.このメリーランドは北にワシントンD.C,南に古くは合衆国の首都が一時期おかれ,現在は海軍兵学校のあるアナポリス,また我々にはおなじみのNIHやNCIがある政治学問の中心地のひとつである.またエドガー・アラン・ポウが一時期を過ごし,ベーブ・ルースの誕生地でもある.最近では映画化もされた『レッドオクトーバーを追え』の著者トム・クランシーは地元紙のBaltimore Sunの記者であった.何やら観光案内風になつた.
 私事で恐縮ですが,筆者にとってボルチモアは,当時Johns Hop—kinsにおられ,昨年WilliamMontagna賞を受けられたL.A.Dias教授のもとで仕事をし,長女が生まれた第二の故郷ともいえる場所でつい思い入れが強くなってしまったようだ.

これすぽんでんす

「太田母斑の色調と真皮メラニン量との関係について」の論文を読んで

著者: 滝脇弘嗣

ページ範囲:P.864 - P.864

 本誌第46巻第6号の東論文,「太田母斑の色調と真皮メラニン量との関係について」(臨皮46:419,1992)を興味深く拝読致しました.現在,皮膚の色調の定量評価を試みている者の眼から疑問点を2,3述べさせていただきます.
 まず,著者は太田母斑の肉眼的色調はメラニンの深さによって決まるのでなく,真皮上・中層でのメラニンの水平方向での密度により決められる,と結論づけておられますが,肉眼的色調を考える上で,反射型分光光度計測で明らかにされている皮膚の光学的特性を知っておく必要があると思います.皮面で反射した光と,皮内の色素(chromophore)で吸収されず,backscatterして外部に出てくる光の和が色として感じられるわけですが,真皮に入射した光は,短波長のものほど(つまり青)上層でback scatterし,深達しません1).次にメラニンは,可視光では短波長のものほどよく吸収する性質があります2).つまり,メラニンが皮膚の表層にあるほど青色光吸収し,相対的に黄色(緑+赤)っぽく見えます.一方,メラニンが真皮の深くにあれば,青色光はメラニンに吸収される前に外部にbackscatterし,より長波長の緑や赤だけ下方に到達し吸収され,その結果青く見えることになります.この現象は何もメラニンに限ったことでなく,皮膚のもう一つのchrolnophoreであるヘモグロビン(青・緑に吸収領域)でも同一で,真皮上層の出血が赤っぽく見えるのに,皮下出血が青く見えるのはこのためです.現在進行中で誌上には未発表ですが,私どものCCDカメラとコンピュータを用いた色調解析でも上述の現象が確かめられています.したがって,chromophoreが表皮下に存在する場合は真皮の光学的特性が影響してきます3).つまりchromophoreが同密度であっても真皮のどの深さに存在するかで色調が微妙に変化してきます.その意味で,著者の言われる真皮上中層という用語がいかにも大雑把で残念に思われました.さらに表皮内メラニンの多寡(無染色で決めたほうがよいと思います),毛細血管内の血液量も,多層構造をもつ皮膚では重要な色決定因子になることはいうまでもありません.

滝脇弘嗣先生の御意見に応えて

著者: 東久志夫

ページ範囲:P.865 - P.865

 極めて理論的な御指摘ありがとうございました.メラニンが真皮表在部にあれば,黄色っぽくみえ,深くなるほど青くみえるようになるのは,Leverの成書でも“Tyndall現象”などと記載説明しており,自明のことと思われます.
 しかし,私が本論文で申し上げたかったことは,従来,メラニンが真皮浅層にあれば褐色ないし黄色くみえ深くなるほど青くなるというのが,何となく既成観念のようになっている点を,青く見える母斑でもその色調のもとであるメラニンは真皮の意外に浅い層にあるという所見を述べさせていただいたわけで,その点,表現がかなり独善的な部分もあるやもしれません.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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