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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科46巻13号

1992年12月発行

雑誌目次

カラーアトラス

下口唇粘膜に生じたVerruciform Xanthoma

著者: 神久美 ,   南光弘子

ページ範囲:P.1070 - P.1071

 患者 57歳,女性
 初診 平成2年11月26日
 既往歴 歯肉炎,C型慢性肝炎
 現病歴 平成2年10月,歯科受診時に指摘され,当科を初診した.
 現症 下口唇に11×5mm大,淡紅色で一部黄色調を混ずる表面細顆粒状の扁平隆起性局面が認められる(図1).

総説

ケラチノサイトにおける細胞特異的転写調節

著者: 石地尚興

ページ範囲:P.1073 - P.1078

 ケラチノサイトにおける転写調節の研究は表皮細胞の分化,癌化のメカニズムの基本に迫るものである.また,遺伝子治療のターゲットとしてケラチノサイトを考えるとき,その細胞特異的転写調節の理解は必須のものである.最近ケラチン遺伝子等で研究が始められてはいるものの,肝細胞,リンパ系細胞等に比べてその研究は遅れている感は否めない.一方,ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)16型のupstreamregulatory region(URR)に見いだされたkeratinocyte-dependent enhancerは細胞遺伝子と比べれば単純であり,HPVによる発癌のみならずケラチノサイト特異的な転写調節のモデルとして恰好の材料である.このkeratinocyte-dependent enhancerはtranscriptional enhancer factor(TEF)−1などの細胞特異的因子やnuclear factor(NF)—Iなどの普遍的因子により複雑な調節を受けていると考えられ,その細胞特異的な転写調節のメカニズムは解き明かされつつある.

原著

糖尿病に合併したClear Cell SyringomaとScieredema

著者: 後藤田浩三 ,   河内山明 ,   三好薫

ページ範囲:P.1081 - P.1085

 46歳,女性.Clear cell syringomaとscleredemaを合併した糖尿病の1例を報告した.20歳頃より両眼周囲に1〜3mm大の常色の小丘疹を認め,この数年間多発傾向にあった.また1年前より項部,上背部,上腕部に比較的境界明瞭な板状硬結局面が出現し,上背部の着甲感を主訴に来院した.眼角部の丘疹の組織像は,真皮内にclear cellから成る胞巣が散在しその胞体内にPAS陽性,ジアスターゼにて完全消化される分泌物を認めた.上背部の組織像は,真皮上中層の膠原線維の膨化および真皮中下層の膠原線維の離開,断裂を認め離開,断裂した膠原線維間は,アルシアン・ブルー染色pH2.6およびコロイド鉄染色で青染しトルイジン・ブルー染色で異染性を示した.また,糖負荷試験は糖尿病型を示した.糖尿病にclear cell syringomaとscleredemaを合併した報告例はなく極めて稀な症例と考えられた.また,ビタミンE内服がscleredemaに対し有効と考えられた.

ケラトアカントーマから扁平上皮癌に移行した2症例の検討

著者: 秋山真志 ,   和泉達也 ,   海老原全 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.1087 - P.1093

 ケラトアカントーマは,病理組織学的に扁平上皮癌に類似の悪性像を示すことが多いが,一般には自然退縮する良性の腫瘍と考えられている.最近我々は79歳,男性の左耳介,および,78歳,男性の左頬部に生じたケラトアカントーマで,経過中に扁平上皮癌へ移行した症例を経験した.近年,欧米においては,扁平上皮癌へ移行したケラトアカントーマの症例が,その数は多くないものの報告されている.しかし,本邦では未だケラトアカントーマよりの癌化の報告はみられず,自験例が最初の報告である.既報告例および自験例を検討した結果,放射線照射あるいは抗癌剤投与の後の悪性変化例が目立った.ケラトアカントーマは,その確率は低いものの癌化する可能性を有する腫瘍であるという認識をもって,治療あるいは経過観察に当たるべきであると考えられた.

広範な転移を認めたメルケル細胞癌

著者: 板村論子 ,   三原一郎 ,   井上奈津彦 ,   原田鐘春 ,   新村眞人 ,   佐野全生

ページ範囲:P.1095 - P.1100

 63歳,男性.左下腿に原発し,急速な増大とともに,胸腹部,両側腋窩などに広範な転移を認めたメルケル細胞癌の1例を報告した.放射線療法,化学療法を試み,当初腫瘍の著明な縮小を認めたが,腫瘍の進展をコントロールするまでには至らず,呼吸不全で死の転帰に至った.全経過約3年であった.メルケル細胞癌に対する化学療法の有効性について述べ,本腫瘍に対する標準的化学療法regimenの早急な確立が必要と考えた.また,腫瘍量に相関して血清NSE値の変動を認め,メルケル細胞癌の腫瘍マーカーとして血清NSE値が有用であった.

免疫電顕および免疫ブロット法にて確診し得た後天性表皮水疱症

著者: 稲積豊子 ,   石河晃 ,   小野寺有子 ,   清水宏 ,   橋本隆 ,   西川武二

ページ範囲:P.1101 - P.1104

 59歳,男性.昭和59年に食道癌の根治術施行され,tegafurを1日600 mg内服中.初診の3カ月前より口腔内,四肢に難治性のびらんが出現し,特に下腿伸側には瘢痕,色素沈着,稗粒腫の集簇も散在性に認めた.爪甲変形(+).組織学的には表皮下の列隙,真皮上層の軽度の細胞浸潤を認めた.病変部の免疫蛍光抗体直接法で,基底膜部にIgG,C3の線状沈着,間接法で抗基底膜部抗体は40倍陽性,1M-NaCl剥離皮膚を基質とした場合は血中抗体は真皮側のみと結合した.血中抗体(IgG)は免疫電顕ペルオキシダーゼ法ではlamina densaとその下部に,金コロイド法ではanchor—ing fibrilの上下両端のみに結合性を認めた.また患者血清は正常皮膚真皮抽出蛋白を用いた免疫ブロット法では分子量290 KDのVII型コラーゲンを認識した.後天性表皮水疱症と類天疱瘡群は鑑別困難な場合があり,免疫電顕および免疫ブロット法は両者の鑑別ならびに診断確定に重要であることを述べた.

今月の症例

皮膚筋炎に続発した皮膚限局性アミロイドーシスの1例

著者: 森健一 ,   武田孝爾 ,   植木宏明

ページ範囲:P.1105 - P.1109

 58歳,男性.10年前に両下腿のアミロイド苔癬が出現して半年で消退した.その数年後に同様の皮疹が再発し,初診の3週間前より日光露出部の多形日光疹と両上腕外側の手掌大の紅斑局面が出現した.上腕の紅斑の生検像と血清中の筋原性酵素(CPK,アルドラーゼ,ミオグロビン等)の上昇より,皮膚筋炎と診断.同時に真皮乳頭部と毛包周囲にアミロイド沈着を認めた.十二指腸粘膜生検ではアミロイド沈着はなく,皮膚限局性アミロイドーシスと診断.皮膚筋炎に続発した皮膚限局性アミロイドーシスの報告は調べえた限りで自験例が第1例目と思われる.

原発性胆汁性肝硬変に合併し,下腿に多発した黄色ブドウ球菌性ボトリオミコーシス

著者: 下江敬生 ,   鳥越利加子 ,   藤本亘 ,   荒田次郎 ,   米井泰治 ,   東俊宏 ,   辻孝夫

ページ範囲:P.1111 - P.1115

 原発性胆汁性肝硬変に合併したボトリオミコーシスの症例を報告した.臨床的には,両下腿に多発した丘疹,膿疱の集簇病変であり,真菌感染症を疑わせたが,特徴的な組織学所見,グラム染色像と病変部よりの黄色ブドウ球菌の検出により,黄色ブドウ球菌性ボトリオミコーシスと診断した.ミノサイクリン点滴にて約1カ月で略治した.原発性胆汁性肝硬変を基礎疾患にもち,それによる白血球減少,免疫異常が関与していると思われた.過去に両疾患の合併の報告はない.

連載 皮膚科医と写真撮影・6

顕微鏡写真の撮り方(つづき)

著者: 木村俊次

ページ範囲:P.1115 - P.1115

3)モノクロ撮影時に特有の事項
 ①染色法とフィルター:染色の色と補色の関係にある色のフィルターを使うと写真のコントラストが強くなり,鮮明な像が得られる.HE染色の場合,緑フィルター(図左)とLBフィルター(図右)とで写り方に差がある.エオシンのピンク色とヘマトキシリンの紫色に対して,緑はともに補色に近いのでコントラストがつく.しかし密な角層などは強染して細かい構造がみえにくくなる.こんなときはLBフィルターのほうがよい.その他の染色についても,PASは赤紫色なので緑フィルターが良く,トルイジン青の異染性も紫ないし青紫であることから緑フィルターでよい.コロイド鉄は青緑色調なのでオレンジ色のフィルターがベストである.エラスチカや鍍銀は黒く染まるのでフィルターは何でもよいが,周囲とのコントラストの差を考えるとLBフィルターが良さそうである.
 ②フィルム:銀粒子が細かいネオパンFや非常に細かいミニマックスはより鮮明な写真がとれるが,通常は手札かせいぜいカビネの大きさに拡大する程度なので,ネオパンSSで十分である.

診断

当科における皮膚皮下腫瘍診断のためのプロトコール

著者: 高柳健二 ,   中村雄幸 ,   柏英雄 ,   木村久美子

ページ範囲:P.1117 - P.1124

 各種検査技術の発展により,皮膚皮下腫瘍の診療においても問診,視診,触診などの基本的診断技術もさることながら,画像検査,血液検査など各種検査の比重は以前に増して大きくなってきている.我々はこれらの検査を有効に活用し,診断手順を定式化する試みとして,各種検査を併用した皮膚皮下腫瘍診断のプロトコールを作成した.これは検査の効率的な活用,診断の客観性の向上,診療態勢の一貫性,医療技術の進歩に対する柔軟性などの点で有意義であると思われた.

症例報告

内臓悪性腫瘍に伴って発症した環状紅斑の2例

著者: 和泉達也 ,   八木宏明 ,   海老原全 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.1125 - P.1128

 内臓悪性腫瘍に伴い発症した環状紅斑の2例を報告する.1例目は,74歳の女性で全身に滲出傾向の強い環状紅斑を生じたため当科受診.肝細胞癌を合併しており,病巣摘出にて皮疹の消失をみたため,この症例を内臓悪性腫瘍に伴い反応性に生じた環状紅斑と診断.2例目は,約4年前にボールマン2c型胃癌にて胃亜全摘術を受けた既往のある51歳の女性で,頸部と腹部に浸潤の強い環状紅斑を認めた.皮膚生検にて病変部に印環細胞を含む腫瘍細胞の増殖を認めたため環状紅斑型の皮膚転移癌と診断した.これらの2症例および過去の文献から内臓悪性腫瘍に伴う環状紅斑および皮膚症状の発生機序につき考察を加えた.

Transitory Menstrual Erythemaの1例

著者: 馬場直子 ,   相原道子 ,   中嶋弘

ページ範囲:P.1129 - P.1132

 29歳,女.初潮12歳,月経不順,平均32日型.2年前より,毎回月経開始2週間位前になると,顔面に熱感と瘙痒を伴う浮腫性紅斑が出現し,月経開始とともに消退することを繰り返す症例を報告した.一般検査,内分泌学的検査で異常を認めず,即時型および遅延型プロゲステロン皮内反応はともに陰性であった.病理組織像は,表皮内の軽度細胞浸潤と,真皮上層の浮腫,血管周囲性のリンパ球を主体とする細胞浸潤であった.免疫組織染色にて,浸潤細胞の主体はLeu 3a,4 B4陽性のhelperinducer T細胞であった.従来から月経疹と呼ばれてきたうちのtransitory menstrualerythemaと診断し,最近報告されているautoimmune progesteron dermatitisを含め,月経と関連して増悪する疾患を検討し,自験例の発症機序について考察した.

遺伝性腸性肢端皮膚炎の長期観察例

著者: 中沢朗子 ,   姉小路公久

ページ範囲:P.1133 - P.1137

 27歳,女.乳児期に下痢,定型的発疹,脱毛で発症した遺伝性腸性肢端皮膚炎の1例.11歳までキノホルム,それ以後15年間硫酸亜鉛内服.硫酸亜鉛1日50mgでは,血清亜鉛値は20μg/dl前後まで下降し,再発疹を生ずる.最近8年間は硫酸亜鉛1日200mgを内服し,血清亜鉛値,アルカリフォスファターゼ値正常.再発疹,下痢,脱毛なく,硫酸亜鉛長期内服による副作用も認められない.近年亜鉛療法の定着によって,成人に達した症例が散見され,妊娠,出産に遭遇する可能性も出てきている.母体の亜鉛欠乏による胎児の奇形発生が示唆されており,今後の展望として遺伝性腸性肢端皮膚炎患者の妊娠,出産について考察した.

Herpetiform Pemohigusの1例

著者: 菊池新 ,   桜岡浩一 ,   橋本隆 ,   西川武二 ,   塩谷千賀子

ページ範囲:P.1139 - P.1142

 82歳,女性に発症したherpetiform pemphigusの1例を報告した.辺縁に小水疱を伴う瘙痒性紅斑をほぼ全身に認め,また口腔内には疼痛を伴うびらん性局面を認めた.検査所見にて末槍血好酸球増多を認めたが,ニコルスキー現象陰性であった.病理組織にて表皮中央部に水疱の形成を認めたが,eosinophilic spongiosisは不明瞭であった.免疫組織学的検索では,直接法にて表皮細胞間にIgGおよびC3の沈着を認め,間接法にて天疱瘡抗体160倍陽性を示した.またこの患者血清のウシ鼻デスモゾームおよびヒト表皮抽出液を用いた免疫ブロット法の結果は,本例が落葉状天疱瘡に近いことを示唆した.

妊娠中に発症した線状強皮症の1例

著者: 長田和子 ,   清島真理子 ,   森俊二

ページ範囲:P.1145 - P.1148

 35歳,女性.10年前,第1子妊娠4カ月頃より左半身のつっぱり感を自覚し始めた.徐々に左下腿後面の皮膚硬化,淡褐色の色素沈着がみられるようになった.さらに第2子妊娠中に同様の症状が左下腿から左大腿,左腰部,左背部,左上腕と拡大した.検査所見では,抗一本鎖DNA抗体陽性,LEテスト陽性,血中好酸球上昇を示した.軽い筋肉症状を認めるが,その他自覚症状はない.現在ヘパリノイド軟膏外用にて経過観察しているが著変を認めない.

著明なムチン沈着を認めたNevus Lioomatosus Cutaneous Superficialisの1例

著者: 松本博子 ,   山田晴義 ,   清水宏 ,   西川武二

ページ範囲:P.1149 - P.1152

 14歳,男.幼少時より左腰殿部に自覚症状を伴わない小結節を数個認め,漸次大きさと数が増加した.臨床的には淡黄色弾性軟,表面平滑な小結節が2列に列序性配列を示して多数集簇していた.組織学的には真皮乳頭層直下にまで成熟脂肪細胞が増殖し,一部で皮下脂肪織との連絡も見られた.また,真皮上層,脂肪塊の表皮側に著明なムチンの沈着を認め,特殊染色による検索の結果,それらは主としてヒアルロン酸であった.Nevus lipomatosus cutaneous superficialisに伴って著明なムチン沈着を認めたとする報告は文献的に稀である.本症におけるムチンの沈着および真皮内脂肪細胞の由来についても若干の文献的考察を加えた.

治療

刺青(装飾性)の治療経験

著者: 松賀一訓 ,   秦維郎 ,   矢野健二 ,   古市浩美 ,   伊藤理 ,   松田秀則 ,   芝本英博 ,   前田文彦 ,   吉田有香子

ページ範囲:P.1153 - P.1156

 当院開院以来8年間に当科を受診した装飾性刺青患者は42例(全新患数の1.3%),男35例,女7例で,初診時年齢は20歳未満7例,20歳代10例,30歳代19例,40歳代3例,50歳以上3例であった.部位は1側上肢に限るもの14例,上半身(胸部,肩,背部,両上肢に及ぶもの)22例,眉毛部4例,鼠径部1例,大腿部1例であった.28例(男性22例,女性6例)に治療を行った.治療法は単純切除術11例,皮膚剥削術14例,皮膚剥削術+切手状植皮術2例,皮膚剥削術+酵素処理表皮移植術1例,分層植皮術1例,頭皮島状皮弁による眉毛再建術2例である.当科における刺青の治療方針をまとめると,切除できる小さいものは単純切除術,切除できない広いものは皮膚剥削術,そのうち色素の入った層が深い刺青は刺青皮膚剥削術+切手状植皮術,色素の層が深く健常皮膚のきわめて少ない色彫の刺青は皮膚剥削術+酵素処理表皮移植術である.

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臨床皮膚科 第46巻 事項索引

ページ範囲:P. - P.

臨床皮膚科 第46巻 人名索引

ページ範囲:P. - P.

臨床皮膚科 第46巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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