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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科47巻11号

1993年10月発行

雑誌目次

カラーアトラス

顔面に生じた大丘疹性梅毒

著者: 土橋英治 ,   小林裕明 ,   奥野哲朗 ,   中林康靑 ,   水岡慶二

ページ範囲:P.942 - P.943

患者 46歳,男
 初診 平成3年1月10日
 家族歴・既往歴 特記すべきことなし.
 現病歴 初診の約9カ月前に感染機会あり.3カ月前,両手掌の赤褐色円形斑に気づくも放置.1カ月前より顔面に小指頭大までの紅色丘疹が新生してきたため当科を受診した.
 現症 口囲,頬部を中心に小指頭大までの紅色丘疹および結節が散発している.個疹には痂皮が付着し,皮疹周囲には発赤・浸潤が見られた(図1).両手掌には落屑性紅斑を認めた(図2).陰嚢,陰茎,肛囲にはびらんを伴う扁平隆起性丘疹が見られた.

原著

抗SS-A抗体・抗SS-B抗体陽性環状紅斑—臨床的・組織学的観察

著者: 石川学 ,   玉森嗣育 ,   堀口大輔 ,   岩月啓氏 ,   戸倉新樹 ,   白浜茂穂 ,   滝川雅浩

ページ範囲:P.945 - P.951

 抗SS-A抗体単独陽性,あるいは抗SS-A抗体および抗SS-B抗体陽性を示し,皮疹形態からシェーグレン症候群(Sjögren syndrome;SjS)に伴う環状紅斑か,亜急性皮膚エリテマトーデス(subacute cutaneous lupus erythematosus;SCLE)かの鑑別に困難を要した6例を報告した.全6例とも抗SS-A抗体陽性,3例では抗SS-B抗体陽性を示した.皮疹部位は四肢および背部を中心に認められ,皮疹の形態は症例1,2,3では鱗屑を伴わない軽度浸潤を有する環状紅斑で病理組織像も含めてSjSに伴う環状紅斑と診断した.症例4の皮疹は病理組織像はSCLE様であったが,臨床的にSCLEの特徴を欠く融合傾向を示す環状紅斑で,subclinical SjSに伴うものと考えられた.症例5,6は皮疹形態は基本的に浮腫性の環状紅斑でSjSに伴う環状紅斑様であったが,組織学的には基底層の液状変性を特徴とし,SCLEを思わせた.両症例とも凍瘡様皮疹を併せ持ち,SLEの診断基準を満たしており,SjS/LE overlapと診断した.

今月の症例

特異な臨床像を呈した糖尿病性黄色腫

著者: 長谷川義博 ,   安原稔 ,   西村光

ページ範囲:P.953 - P.958

 35歳,男性.28歳時に糖尿病と高脂血症を指摘される.その頃より四肢,躯幹に皮膚色から黄褐色調の小丘疹が出現.徐々にほぼ全身に拡大,融合.縦横に走る皮膚面より隆起した樹枝状結節性の皮疹となる.病理組織像では,真皮内に多数の泡沫細胞を認める.血清脂質はⅤ型高脂血症パターンを示す.リポ蛋白リパーゼ活性は低値.空腹時血糖は高値.肥満型糖尿病に合併したⅤ型高脂血症に伴う糖尿病性黄色腫と診断.基礎疾患を治療することなく,自由な食生活が7年もの長期に及んだことが主たる誘因と考えられた.現在,節度ある食生活と運動により,血清脂質と血糖はほぼ正常値を示し,黄色腫も軽快しつつある.

連載

Clinical Exercises・7—出題と解答

著者: 宮地良樹

ページ範囲:P.958 - P.958

元気な皮膚科医であるために・5

生まれたときに黒子がないのは何故か

著者: 今山修平

ページ範囲:P.963 - P.963

 照らされた物体が特定の波長を反射すると,その波長の色に見えます.赤のスペクトルを強く反射する酸化ヘモグロビンのせいで血液は鮮かな紅です.逆にすべてが吸収されれば,(反射されて)眼に届く光の成分がありませんから「暗く」または「黒く」見えます.私たちの体を包む皮膚(表皮)にはメラニンがありますが,この色素は地上に届く太陽光を幅広く吸収する「黒い」色素です.言い換えれば,光を幅広く吸収できるからこそ,たぶん人は,体内へ光を侵入させないためのバリアーとしてメラニン色素を採用したのでしょう.とすると地上環境が今と違っていた時代には,メラニン以外の色素を用いていた(例えば青や赤や緑の)動物または人の祖先がいたかもしれません.しかしそのような動物は現代まで生き残れなかったでしょう.
 大地が形成され,永遠に続くかと思われるほど降り続く雨と嵐の時期が終焉し,雲が晴れて大地に光が降り注ぐとともに,メラニン以外の色素を採用していた動物は地上では生存できなくなったでしょう.あるいは全く逆に,(どちらかというとあまり冴えない色の)メラニンを採用していた動物だけが地上に出て繁殖できたのかもしれません.届く光が全く異なる海の中で,魚たちが思い思いに自由な色合いで泳いでいることは,その有力な証拠であるような気がしますが,これくらいの話は既に誰かが記載しているところでしょう.

臨床統計

皮膚科入院患者におけるMRSA感染

著者: 森口暢子 ,   石井則久 ,   奥山さなみ ,   伝寶憲一 ,   中嶋弘 ,   川口博史

ページ範囲:P.959 - P.962

 1991年7月(病院開設時)から1992年10月までの16カ月間における横浜市立大学医学部附属病院皮膚科入院患者のMRSA感染をまとめた.患者数は20名で全入院患者の7.7%であった.うち浅在感染症は80%と大部分を占めていた.腫瘍に伴う潰瘍,褥瘡など皮膚欠損部からの検出頻度が高かった.浅在性感染症の治療は消毒剤,外用抗生剤などにより比較的容易であったが,院内感染の有力な感染源となると思われた.易感染者では,皮膚病巣からの除菌が困難であり,また深在性感染症を併発したときには死因となる可能性が示唆された.感染源を同定すべく医療従事者の保菌調査を行ったが,MRSA感染患者との関連はみられなかった.医療従事者の努力によりMRSA感染は減少した.

症例報告

環状紅斑を主徴としたSubclinical Sjögren症候群の1例

著者: 真鍋公 ,   木ノ内基史 ,   筒井真人 ,   松尾忍 ,   飯塚一

ページ範囲:P.965 - P.969

 18歳,女性.顔面,上背部に浮腫性環状紅斑がみられ,検査所見で抗SS-A抗体,抗SS-B抗体陽性を呈した.皮疹部病理組織所見で一部表皮に液状変性が認められ,真皮の汗腺周囲にリンパ球主体の細胞浸潤が認められた.唾液腺造影ではappletree patternが認められた.自験例は自覚的乾燥症状を欠いたため,いわゆるsub—clinical Sjögren症候群と診断した.近年,免疫異常を伴う再発性環状紅斑として,Sjögren症候群に伴う環状紅斑とsubacute cutaneous lupus erythematosus(SCLE)が注目されている.両疾患は一応独立した疾患と考えられているが鑑別に苦慮する症例も存在する.両疾患の異同について,若干の考察を加えて報告した.

成人Still病の2例

著者: 梅田由美 ,   水谷仁 ,   清水正之 ,   中村保夫

ページ範囲:P.971 - P.974

 リンパ節腫脹と全身の蕁麻疹様皮疹が先行し,多彩な皮疹を伴った成人Still病の2例を報告する.症例1:37歳,女性.初診2カ月前右頸部リンパ節腫脹出現.1週間続く39℃以上の弛張熱,咽頭痛,多関節痛とともに瘙痒を伴わないわずかに隆起する淡紅色小紅斑が出没を繰り返した.アスピリン1000mg投与するも反応せず,プレドニン投与にて急速な症状の改善を認めた.症例2:38歳,女性.1カ月前より全身性の蕁麻疹様皮疹出現.抗ヒスタミン剤投与にて軽快せず,続いて弛張熱,多関節痛も出現した.発熱に伴い小紅斑が躯幹中心に出没を繰り返した.ケトプロフェン内服を開始し症状の寛解を認めた.

骨髄異形成症候群にWells症候群を合併した1例

著者: 水足久美子 ,   深水大民 ,   前川嘉洋 ,   高木一孝 ,   野上玲子

ページ範囲:P.975 - P.978

 10歳,女子.瘙痒と圧痛を伴った局所の発赤,腫脹,浸潤性紅斑,丘疹,浸潤のある青灰色斑などの様々な皮膚症状を呈し,組織学的に真皮から皮下組織に及ぶ著明な好酸球を主体とした細胞浸潤を認めたことから,Wells症候群と診断した.一方,末梢血では貧血,血小板増多症,骨髄は低形成で各血球系における形態異常,芽球の増生および7—monosomyを認め骨髄異形成症候群(MDS)と診断した.本症例はMDSにWells症候群を合併した稀有な症例であるが,ステロイドの全身投与で皮疹は改善したが,MDSはrefractory anemiaからrefractory anemia with excess ofblastsへの移行を認めた.

Haemophilus aarainfluenzaeの関与が考えられたPyaemid

著者: 高須博 ,   藤岡彰 ,   堀内保宏 ,   浅井俊弥

ページ範囲:P.979 - P.982

 Haemophilus(H.と略す)parainfluenzaeの関与によると思われるpyaemidを報告した.患者は,高熱と膿疱を伴う紅色結節が四肢,体幹に散在し,ASO, ASKの著明な上昇を認めた.細菌培養にて咽頭よりH.parainfluenzae,尿,便より常在菌,膿疱は無菌性であった.膿疱の病理組織所見では,真皮上層に好中球の浸潤,一部の血管周囲にも好中球の著明な浸潤を認め,また蛍光抗体法にて血管壁にC3が沈着していた.安静にて症状改善し,それに伴いASO, ASKが改善した.H.parainfluenzaeも咽頭より培養されなくなった.ASO, ASKの上昇は溶連菌のためではなく,H.parainfluenzaeとの交差性と考えた.H.parainfluenzaeとpyaemidの関連について若干の考察を加えた.

糖尿病患者にみられたLichen Myxedematosus

著者: 佐々木哲雄 ,   馬場直子 ,   中嶋弘

ページ範囲:P.983 - P.985

 糖尿病患者の下腹部にみられたlichen myxedematosus(LM)の1例を報告した.患者は41歳時に糖尿病を指摘され加療したが,54歳時から腎不全のため血液透析を開始した.56歳時下腹部に丘疹状隆起が索状に連なる局面が出現した.検査ではM蛋白は陰性で,GOT, GPTは正常範囲であった.組織では真皮は肥厚し,リンパ管の拡張と浮腫,膠原線維の不規則な離解と間隙の増大,線維芽細胞の増数と細胞突起の延長などがみられ,浮腫部はアルシャン・ブルー染色で青染し,ムチン沈着が示唆された.以上よりLMと診断した.LMを合併する疾患として,糖尿病はpara—proteinemia,肝障害に次いで多いとされ,糖代謝異常とLMとの関連も推測されるが,詳細はなお今後の問題である.

糖尿病に合併したサルコイドーシスの1例

著者: 林伸和 ,   鈴木寛丈 ,   蓮田美哉子 ,   実川久美子 ,   紫芝敬子 ,   太田達郎 ,   岩沢邦明

ページ範囲:P.987 - P.990

 61歳,女.糖尿病のコントロール不良にて他院入院中,両下腿,手背に浮腫性紅斑,顔面に円形の紅斑出現.その後右前腕に皮下結節,右鎖骨上窩リンパ節腫脹に気づく.皮下結節およびリンパ節生検組織像,CT上のBHL, TBLB所見,ACE・リゾチームの高値,ツ反陰性などよりサルコイドーシスと診断.顔面,手背,膝の組織像は一部に変性した膠原線維や弾性線維を貪食する異物型巨細胞を見るなどサルコイドーシスとnecrobiosis lipoidicaとの鑑別が困難な点もある.皮疹は糖尿病のコントロールおよび安静にて軽快傾向.サルコイドーシスと糖尿病,および糖尿病に合併することの多いnecrobiosis lipoidica, granuloma annulareにつき考察を行った.

一過性好酸球性血管性浮腫の1例

著者: 西井芳夫 ,   川津友子

ページ範囲:P.991 - P.995

 23歳,女性.一過性に両下肢および手指に腫脹を生じ,著明な好酸球増多を示した好酸球性血管性浮腫の1例を報告した.検査所見では,白血球数16,000/mm3,好酸球62.3%,血清中のeosinophil cationic protein(ECP)が70.0μg/lと著明に上昇.骨髄像で好酸球の過形成を認めたが,各種臓器に異常を認めず,免疫学的検査,寄生虫検査においても異常は認められなかった.組織学的には,真皮の浮腫,血管周囲,膠原線維間にEG−2抗体陽性の好酸球浸潤を認め,病変部組織への活性化好酸球の浸潤が示唆された.本例では,副腎皮質ホルモン未使用のまま1カ月後に症状が消退しており,以後の再発は認められていない.Gleichらの報告例に比べるとやや非定型的であるが,軽症例と考え報告するとともに文献的考察を行った.

ステロイド投与で誘発されたと考えられる壊疱性丘疹状結核疹の1例

著者: 佐瀬裕 ,   山崎啓二 ,   星智

ページ範囲:P.997 - P.999

 17歳,女性.9歳から進行性全身性硬化症(PSS)として治療を受けていた.PSSの増悪に対して少量のステロイドを投与され,その約20日後から四肢に皮疹を生じた.皮疹は一部に痂皮を伴う膿胞および丘疹であった.生検では真皮上層に結核様肉芽腫を認めた.その後肺炎の症状が出現したが喀痰からは結核菌は証明されなかった.しかし結核疹があったため行われた胃液培養で結核菌陽性となり,肺結核として抗結核剤の投与を受け軽快した.自験例ではステロイド投与により発症した肺結核の先行症状として壊疽性丘疹状結核疹が生じたものと推測される.ステロイド投与により不顕性の結核が増悪し顕性化することは知られているが,結核アレルギーによるとされる結核疹がステロイド使用により生じるのはまれである.患者数の減少とともにあまり注意されなくなってきている現在でも,結核はステロイド使用時には忘れてはならない疾患と考えられる.

ミノサイクリンによる固定薬疹の1例

著者: 笠松正憲 ,   辻卓夫

ページ範囲:P.1001 - P.1004

 22歳,女性.ミノサイクリン(ミノマイシン®)による固定薬疹の典型例を経験した.既往歴に抗生剤(薬剤名不明)内服後,左下腿屈側の紅斑が出現した経験がある.平成3年9月,ミノサイクリン50mgを内服したところ6時間後,同部の浮腫性紅斑が出現.炎症消退後に褐色色素沈着を残した.内服試験では6時間後に皮疹の再燃あり.同剤の固定薬疹と診断.貼布試験は色素斑部,健常部共に陰性.Lymphocytestimulation test(LST)は陰性.他のテトラサイクリン系抗生剤との交叉反応は陰性.病変部内皮細胞,表皮ケラチノサイトのintercellular adhesion molecule-1(ICAM-1)の早期からの発現が,皮疹固定化に大きく関与していると考えられた.

趾間部に生じたヒト乳頭腫ウイルス陽性Bowen病の1例

著者: 山中克二 ,   戸倉新樹 ,   平松洋

ページ範囲:P.1005 - P.1008

 33歳,男.初診の約3カ月前より気づいた左第4趾間の黒色扁平腫瘤を主訴に受診.組織学的に,表皮細胞全体の配列の乱れ,核の大小不同,核分裂像,多数の異常角化細胞,clumping cellがみられ,Bowen病と診断した,免疫組織化学染色により顆粒層の空胞化細胞に一致するヒト乳頭腫ウイルス抗原陽性所見が得られた.また腫瘍組織より抽出したDNAに対して32P標識RNA(HPV 6, 11, 16, 18, 31, 33,35各型のDNAに相補的なRNAの混合物)をプローブとして用いるDNA-RNAハイブリダイゼーション法を行い,HPV陽性所見を得た.抽出DNAはpolymerasechain reactionにて増幅し,制限酵素で処理後,対照として用いたHPV−16型感染細胞よりのDNAと一致した.臨床的には小黒色斑が融合拡大して局面を形成したと想像できるので,bowenoid papulosisからBowen病に進行した症例と考えられた.

Pigmented Fungiform Papillae of the Tongueの1例

著者: 平松正浩 ,   沈国雄 ,   加藤一郎 ,   向井秀樹

ページ範囲:P.1009 - P.1012

 16歳,女性にみられたpigmented fungiform papillae of the tongueの1例を経験した.小学生の頃より,舌尖〜舌背にかけて自覚症状のない黒褐色点状色素沈着に気づく.組織学的には,基底層のメラニン増加,上皮内への単核球のexocytosis,粘膜固有層の多数のメラノファージと中等度の小円形細胞浸潤がみられた.本症は,口腔内および舌の色素沈着症の中で黒人に多くみられるnormal variantとされているが,本邦での報告は6例と少ない.現在のところ本症は生理的色素斑として考えられているが,自験例のごとく,組織学的色素失調,粘膜固有層の炎症細胞浸潤像より,我々は舌に発生したmelanodermitis toxicaと考えた.

一部毛孔腫様組織像を呈したエクリン汗孔腫の1例

著者: 川口博史 ,   森口暢子 ,   中嶋弘

ページ範囲:P.1013 - P.1015

 59歳,男性の足趾に生じたエクリン汗孔腫を報告した.数年前よりみられた色素斑が徐々に増大し,角化傾向の強い黒褐色の腫瘤となっていた.臨床的には悪性黒色腫なども考えられたが,組織学的には,エクリン汗孔腫であった.腫瘍細胞塊の中に一部毛孔様の組織がみられ,エクリン汗孔腫の一部に毛孔腫様組織を呈したものと考えられた.また,腫瘍細胞に混じて,S−100蛋白陽性のランゲルハンス細胞と思われる細胞が多数認められ,特に毛孔腫様組織周囲において著しかった.エクリン汗管由来のエクリン汗孔腫と,毛孔腫様組織が同一の腫瘍内に認められたことは稀なことと思われた.また,本腫瘍内にS−100蛋白陽性ランゲルハンス細胞が認められた報告も今まであまりなく,比較的稀な所見と考えられた.

Proliferating Trichilemmal Cystの1例

著者: 浜岡秀爾 ,   高橋博之 ,   山本美保 ,   飯田憲治 ,   岸浩之 ,   杉山貞夫 ,   高橋誠

ページ範囲:P.1017 - P.1019

 増殖性外毛根鞘性嚢腫(proliferating trichilemmal cyst,以下PTCと略す)が時間を隔てて別な部位にそれぞれ出現した症例について免疫組織化学的所見を加えて報告する.症例は49歳時に左肩甲部にPTCが発生し切除され,5年後,あらたに左後頭部に同病変が生じた男性例である.両病変とも組織学的には腫瘍巣は大小様々な嚢腫および充実性増殖部より成っており,嚢腫壁には典型的なtrichilemmal keratini—zationが認められた.免疫組織化学的検索では両者ともMoAb anti-3 H-1, MoAbanti-EMA, MoAb anti-PCNAに陽性であった.しかしながら,免疫組織化学的検索の結果,左肩甲部の病変のほうが頭部に生じた新病変よりも増殖能が強いことが示唆された.発症部位と増殖能との何らかの関連性を示す症例と考えられた.

若年者に生じた基底細胞上皮腫

著者: 平松正浩 ,   沈国雄 ,   加藤一郎 ,   向井秀樹 ,   佐藤敏美

ページ範囲:P.1021 - P.1024

 基底細胞上皮腫(以下BCE)は,通常40歳以上の顔面に好発し,若年者特に20歳以下に発症することは極めて少ない.また20歳以下に発生する場合も,色素性乾皮症,基底細胞母斑症候群,類器官母斑など基礎疾患を持った患者の頭部や顔面に発生することが多い.今回我々は何ら基礎疾患をもたない16歳女性の背部に生じたBCEを経験したのでここに報告するとともに,本邦におけるBCEの統計的考察を加える.

頭部と顔面に難治性潰瘍のみられた母子家庭における児童虐待

著者: 外山馨 ,   飯沢理 ,   関口博久

ページ範囲:P.1025 - P.1028

 ある母子家庭(22歳の母親がシンナー中毒の父親と離婚している)で発生した児童虐待の1例を報告する.症例は10カ月の男児.生後2カ月頃より皮疹がみられたという.初診時,体重は7.5kg,軽度の発育障害があり,筋緊張の低下を認めた.皮疹は頭部に限局し,鼻尖部の欠損と鼻腔粘膜の糜爛・潰瘍,被髪頭部・前額部・左耳介に散在する皮膚潰瘍があった.末梢血および生化学検査では異常を認めず,血清梅毒定性検査も陰性だった.入院して保存的に治療したところ,一進一退ながら快方に向かった.母親の親族からの話および入院中の経過より児童虐待と診断した.児童虐待について若干の文献的考察を加えた.

治療

足底拇趾球部悪性黒色腫の術後再建例

著者: 荒浪暁彦 ,   佐々木裕子 ,   和泉達也 ,   秋山真志 ,   杉浦丹 ,   中嶋英雄

ページ範囲:P.1029 - P.1032

 症例:44歳男性.約2年前より左拇趾球部の黒色皮疹に気づくも放置.初診時皮疹は,21×10mmの黒色斑で,中心付近に小豆大ドーム状黒褐色結節を認め,辺縁にしみ出しを伴っていた.病理組織学的には,メラニン顆粒を含んだ明るい胞体を有する大型の腫瘍細胞が,表皮基底層を中心に大小の胞巣を形成し増殖.以上の所見より末端部黒子様黒色腫と確診.腫瘍の明らかな真皮内浸潤は認めなかった.黒色斑辺縁より2cm離し,深部は筋膜直上まで切除.組織欠損部は,足底から足背にかけての非荷重部に作成した外側足底動静脈を茎とし,内側足底動静脈の基部を含む足底筋膜皮弁により再建.術後2年を経過するが再発転移はみられず,皮弁の知覚は保たれ,歩行障害は生じていない.

印象記

「第92回日本皮膚科学会総会・学術大会」印象記

著者: 中山樹一郎

ページ範囲:P.1034 - P.1036

 第92回日本皮膚科学会総会・学術大会は平成5年4月9日(金)より11日(日)までの3日間,岐阜グランドホテルで岐阜大学森俊二教授会頭のもとに開催された.学会事務局より聞くところによると2,000名を越す学会参加者があったとのことで,私自身も本学会が大変に盛会であったことが何よりも印象として残った.以下に私自身が実際に拝聴したすばらしいいくつかの講演や最近の話題性のあるテーマ(例えばアトピー性皮膚炎など)のセッションにおける熱気あふれる会場の雰囲気,あるいは非常に快適に感じた学会運営などについてお伝えしたい.なお学会場は長良川に沿った風光明媚の地にあり,季節的にも桜がとてもきれいに咲いていた.
 プレジテンシャル・アドレスは森会頭により行われ,岐阜大学の歴史に始まり,その後本題である「強皮症の20年」について講演され,森教授の膨大なlife workの一側面を知る機会を得た.とくに私が感銘を受けたのは岐阜県内の強皮症患者の多年にわたる疫学調査についてであり,このような地道な岐阜大学の努力により岐阜県民の同症患者が医療受給の面で多くの恩恵があったのではないかと推察された.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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