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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科48巻5号

1994年04月発行

雑誌目次

特集 最近のトピックス Clinical Dermatology 1994 I 最近話題の疾患

Atopic red face—アトピー性皮膚炎顔面の潮紅病変

著者: 菅原信

ページ範囲:P.7 - P.11

 成人型アトピー性皮膚炎の顔面病変は皮脂分泌が活発となる思春期頃に好発する.思春期は小児期のアトピー性皮膚炎が自然軽快ないし消褪する年代とされるが,顔面では症例により皮脂の分泌が過剰になり,皮脂や脂肪酸成分の量的および質的変化が刺激因子となり,刺激に対し過敏な反応性を有するアトピー性皮膚炎患者皮膚に一次刺激性皮膚炎を形成する結果となる.この状態にステロイド外用剤を連用すると,徐々に習慣性を獲得し,酒皶様皮膚炎の発症を誘発する結果となる.患者はステロイド外用剤の中止により反跳現象をみるため,医師の適切な指示がないとさらにステロイド外用剤を続けることとなる.この顔面のアトピー性皮膚炎と酒皶様皮膚炎の合併がatopic red faceといわれるものであろうと考える.Atopic red faceが考えられた場合,まず顔面からのステロイド外用剤の使用を中止することが必要である.治療およびスキンケアについても言及した.

日光角化症

著者: 本間眞

ページ範囲:P.12 - P.15

 83歳の女子の頭部,顔面に多発する日光角化症の1例を報告した.3個の病巣を組織学的に検査した.右額の1つは日光角化症Bowen型,他は癌化しており,明調細胞型有棘細胞癌,左額のものは異型性のある明調細胞よりなり,従来の分類のいずれのタイプにも属さず,明調細胞型と提唱し,外毛根鞘腫などと鑑別診断した.明調細胞型有棘細胞癌はこのタイプと関連して生じるものと考えた.

Sjögren症候群の皮膚症状—Giant mucoceleを含めて

著者: 片山一朗

ページ範囲:P.16 - P.20

 Sjögren症候群においてはその経過中に多彩な皮膚症状が見られ,早期診断,早期治療を行う上で皮膚科医の果たす役割は大きい.これらの皮膚症状は大別して,①腺症状に基づく皮膚症状,②ポリクローナルなB細胞の活性化に基づく皮膚症状,③合併する他の免疫異常による皮膚症状,④感染症,⑤現時点で因果関係不明の皮膚症状に分けられる.これらの皮膚症状のうち,特に重要なものとして環状紅斑,紫斑,凍瘡様皮疹,眼瞼炎,アミロイドーシス,mucoceleなどが挙げられ,その発症機序,鑑別診断を簡単に紹介し,併せてSjögren症候群の発症機序につきその最近の知見を概説した.

後天性表皮水疱症

著者: 田中俊宏

ページ範囲:P.21 - P.24

 後天性表皮水疱症(7型コラーゲン)の分子生物学的性状について,1)7型コラーゲンをコードするcDNAの単離が,7型コラーゲンに対する単クローン抗体と患者血清を用いて行われ,それぞれ同一のmRNAに由来するクローンが単離された,2)塩基配列から求められたアミノ酸の一次構造の特徴として,7型コラーゲンN未側非コラーゲン領域には,フィブロネクチンと類似の構造を持つ領域があることが明らかとなった,3)患者血清によって認識される部位の特徴として,全患者血清によって共通して認識される部位(コモンエピトープ)はなく,患者によって多様な部位が認識されることが明らかとなった,の3点を中心に述べた.

黒色癬

著者: 楠原正洋 ,   熊野修治 ,   蜂須賀裕志

ページ範囲:P.25 - P.29

 黒色癬は手掌,足底に黒褐色の自覚症のない色素斑を生じる疾患で,黒色真菌による表在性真菌症である.熱帯・亜熱帯に多い疾患であるが,本邦においては1983年に名嘉真らが第1例目を報告し,以後九州,四国,本州から症例が追加されている.今回福岡県で第1例目となる18歳の左手掌に生じた黒色癬を報告し,自験例を含めた本邦18例の統計的観察を行った.18例中14例は九州地方に発症し,9例は沖縄県の報告例であった.男女比は4:5で,発症年齢では10歳以下の小児に多かった.発症部位は13例が手掌に,3例が足底に,手指,趾間が各々1例ずつであった.全例健常者で誘因となる基礎疾患は認めなかった.治療はイミダゾール系抗真菌剤によく反応し,およそ2〜4週間の外用で治癒していた.

旋尾線虫幼虫による線状爬行疹

著者: 中本千尋 ,   中川浩一 ,   八代典子 ,   濱田稔夫 ,   井関基弘

ページ範囲:P.30 - P.33

 48歳,女性に生じた旋尾線虫幼虫による線状爬行疹の1例を報告する.皮疹は腰背部右側に蛇行する線状紅斑で,典型的な線状爬行疹の臨床像を示した.先進部の楔状切除による虫体の除去により症状は速やかに消失した.切除切片標本中に虫体断面を認めた,その形態学的特徴からHasegawa(1978)の分類による旋尾線虫のX型幼虫と同定された.旋尾線虫のX型幼虫と同定された.旋尾線虫幼虫による線状皮膚爬行疹の症例は1991年に初めて報告されたが,それ以来8例が追加され最近注目されている.人体への感染経路はまだ明らかではないが,ハタハタやスケトウダラ,ホタルイカ,スルメイカから本幼虫が検出されており,これらの生食による感染が強く疑われている.

夏期に増悪し四肢に好発する紅斑角皮症—先天性LDH-Mサブユニツト欠損症

著者: 田上八朗

ページ範囲:P.35 - P.38

 先天性乳酸脱水素酵素(LDH)M—サブユニット欠損症は,Kannoらにより本邦で患者がはじめて見いだされた疾患で,それにより欠損が起こるLDHのアイソエンザイムの5型が主体をなす臓器を中心とした臨床症状があらわれる.これら臓器にストレスが加わると,たとえば筋肉では激しい運動で傷害が起こり,ミオグロビン尿症を生じる.一方皮膚では,特徴的な,夏に増悪し辺縁に鱗屑を伴う,環状,地図状,蛇行状など種々の形態をとる紅斑角化性局面を,外傷を受けやすい四肢伸側に生じる.このような皮疹を見た場合,つねに本症を念頭においた生化学的検査が必要である.

皮膚好酸球性血管炎

著者: 陳科栄

ページ範囲:P.39 - P.43

 皮膚血管炎では組織学的に好中球性,リンパ球性および肉芽腫性血管炎が知られているが,皮膚好酸球性血管炎は文献的に記載されていない.筆者は米国メイヨークリニックの皮膚血管炎症例を検討し,過去30年の血管炎総計1086例中の19症例にアレルギー性肉芽腫性血管炎以外の好酸球性血管炎の存在を証明した.組織学的に真皮の細静脈を中心とした小血管が好酸球を主体とする炎症性細胞により障害される.蛍光抗体法では血管壁に著明な好酸球顆粒蛋白の沈着が認められ,細胞毒性を有する好酸球顆粒蛋白による血管壁の破壊が示唆された.皮疹は多発性瘙痒を伴う紅斑性,紫斑性丘疹および蕁麻疹様紅斑を特徴とする.その病因より,1)再発性皮膚好酸球性血管炎,2)膠原病に伴うもの,3)悪性腫瘍に伴うもの,の3グループに分類した.グループ1)は長期問にわたって皮疹の再発および顔面と手指の血管浮腫を認め,長期間の副腎皮質ホルモン投与を必要とした.

II 皮膚疾患の病態

スーパー抗原と皮膚疾患

著者: 古川福実

ページ範囲:P.47 - P.52

 スーパー抗原はT細胞レセプター(TCR)のVβ鎖の一部を介してアクセサリー細胞上のMHCクラスII分子と結合する特徴を持っ.しかし,MHCクラスII拘束性はなく,特定のVβエレメントを表現するT細胞が反応する(したがって,一般抗原にはT細胞の1万分の1以下が反応するのに対し,スーパー抗原は5〜15%が反応する).内因性と外因性スーパー抗原が存在し,前者はトレランスと自己免疫に深く関与している可能性があり,後者は細菌あるいは細菌外毒素が関与する疾患との相関が注目されている.皮膚疾患では,アトピー性皮膚炎,乾癬,皮膚T細胞リンパ腫,川崎病などでスーパー抗原の関与が示唆されている.

Heat shock proteinと皮膚疾患

著者: 伊崎誠一 ,   後藤佳子

ページ範囲:P.53 - P.57

 ストレス蛋白(熱ショック蛋白,HSP)のうちあるものは微生物から哺乳類に至るまで相同性が良く保存され,しばしば抗原性が交叉する.近年この,種間共通抗原エピトープに対する免疫反応が注目されている.われわれはELISA法を用いて,分子量65kDのヒトらい菌由来のHSP(HSP65)に対する抗体価を種々の皮膚疾患で測定した.その結果,らい菌あるいは抗酸菌と全く無関係に,掌蹠膿疱症および乾癬患者のうち病巣感染が発症原因と考えられる患者で抗HSP65IgGの上昇を見いだし,感染病巣のない患者に比し明らかな差(p<0.01)を示した.ベーチェット病,アトピー性皮膚炎,蕁麻疹,帯状疱疹でもそれぞれ上昇がみられ,細菌性あるいはウイルス感染を受けた宿主細胞のHSP65による免疫変調作用が,種々の炎症性皮膚疾患の病態生理に何らかの形で寄与する可能性が示唆された.

癌遺伝子/癌抑制遺伝子と皮膚疾患

著者: 橋本公二 ,   小林照明 ,   吉川邦彦

ページ範囲:P.58 - P.62

 癌遺伝子/癌抑制遺伝子の研究は正常細胞の増殖の制御に重要な働きを担う遺伝子が何らかの異常をきたしたために癌の発現に作用するようになったことを明らかにし,癌の発生機序のみならず,正常細胞の増殖制御機構の解明にも大きな貢献を果たすこととなった.本稿では,癌遺伝子のc-mycと癌抑制遺伝子の網膜芽細胞腫遺伝子(RB遺伝子)の表皮ケラチノサイトの増殖制御に果たす役割と癌抑制遺伝子p53と皮膚悪性腫瘍との関連について最近の知見を報告する.

光アレルギー性接触皮膚炎における不応答

著者: 戸倉新樹

ページ範囲:P.63 - P.67

 光アレルギー性接触皮膚炎は光感作物質の塗布と紫外線の照射によって起こる遅延型過敏症の一つである.テトラクロロサリチルアニリド(TCSA)に対する同過敏症のマウスモデルにおいて,1)マウスの主要組織適合抗原複合体であるH−2がkハプロタイプの場合,2)毛色が黒または濃い色である場合,3)感作が中波長紫外線(UVB)を予め照射した皮膚で行われた場合,過敏症反応は起こらない.これらの不応答性のメカニズムはそれぞれ,1)H−2kマウスでは抗原提示細胞土のIEkが抗原特異的CD4陽性サプレッサーT細胞(Ts)を誘導しやすいため,2)表皮内メラニンが過敏症成立の最初のステップであるUVAによるTCSA—表皮細胞結合体形成を抑制するため,3)UVB前照射皮膚を経た感作ではたとえ高応答マウスでも抗原特異的CD4陽性Tsを誘導するため,である.1),3)のTsはTh2であることが示されつつあり,Th1に対してTh2が優位な状態になることによって抑制が起こると考えられる.以上からヒトのアレルギー性光接触性皮膚炎においてもHLAのハプロタイプ,表皮内メラニン量によって不応答を示すことがあると推察される.

しわとエラスチン

著者: 桜岡浩一 ,   多島新吾

ページ範囲:P.69 - P.72

 しわとエラスチンとの関連を検討するために2つの実験系を用いた.特殊老化ヘアレスラットでは老化に伴い顕著なしわ形成を認めるがこの現象は真皮内のイソデスモシン(エラスチン)含量の低下と平行していた1).このことはエラスチンの量的減少としわ形成が関連していると考えられた.培養平滑筋細胞の培地にはエラスチン分子(65kD)の他に45kDのフラグメントが認められた.このポリペプチドは培地中でエラスチン分子がすみやかに分解を受け特異的な45kDのポリペプチドに低分子化され,切断単位はN末から15kDの部分が除かれるためと考えられた.この分解物は安定であり組織中でもそのまま保持され互いに架橋を形成するか,あるいはintactなエラスチン分子と架橋を形成し,正常なエラスチン分子同士の架橋とは異なり異常なエラスチン線維を形成する可能性が考えられた.以上よりエラスチンの量的,質的異常はしわの形成と密接に関連していると考えられた.

Epstein-BarrウイルスとGianotti-Crosti症候群

著者: 森嶋隆文 ,   森嶋智津子 ,   山口全一

ページ範囲:P.73 - P.78

 Epstein-Barrウイルス(EBV)の初感染によるGianotti-Crosti症候群の1歳2カ月男児例と再活性化によると思われる本症候群の5歳6カ月男児例を報告した.自験6例の臨床統計の結果,EBV初感染によるGianotti-Crosti症候群の特徴は,1)好発季節は春〜初夏,好発年齢は1歳台,2)前駆症状として軽度の発熱や上気道症状がみられ,3)皮疹の性状はGianotti病に類似するが,体幹や耳介に皮疹の出現する頻度が高く,皮疹の持続期間は3,4週で,4)肝炎の頻度は50%で,Gianotti病と異なり,ピークは病初期で程度は軽く,5)白血球増多やリンパ球増多がみられるが,10%以上の異型リンパ球の出現頻度は低いなどである.EBVの再活性化疑診例は初感染例と異なり,年長児であり,四肢の皮疹は肘頭,膝蓋や手足に限局し,白血球やリンパ球の増多も認められないなど非定型的であった.

ヒト乳頭腫ウイルスと発癌

著者: 本田まりこ ,   新村眞人

ページ範囲:P.79 - P.84

 ヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma—virus,以下HPVと略す)は現在少なくとも75型に分類されているが,そのうちの約1/3は皮膚や粘膜の悪性腫瘍から検出されている.HPVの発癌機構はおもに子宮頸癌の原因ウイルスとされているHPV−16について精力的に研究されており,特にトランスフォーム活性のある初期遺伝子E6,E7が癌抑制遺伝子(p53,Rb)の作用を抑制することが明らかになっている.一方疣贅状表皮発育異常症に発生する皮膚癌もHPVが重要な役割を果たしていると考えられているが,その機作については明らかにされていない.我々のデータでは増殖細胞核抗原PCNAが皮膚癌だけでなく良性皮疹においても異常発現がみられ,p53よりもPCNAの異常発現が本症における癌化への重要な鍵を担っていると考えた.

III 新しい検査法と診断法

制限酵素断片長多型を用いた連鎖分析—先天性表皮水疱症を例として

著者: 沢村大輔 ,   野村和夫 ,   橋本功

ページ範囲:P.87 - P.91

 制限酵素断片長多型restriction frag—ment length polymorphism(RFLP)を用いた連鎖分析はreverse geneticsのはしりとなり,遺伝性疾患の異常遺伝子のマッピングを可能にした.我々もこの方法を用いて,本邦の優性栄養障害型表皮水疱症家系について異常遺伝子のマッピングを試みた.当初18種のプローブを使用し検討したが,連鎖を認めなかった.またプローブによっては欧米人と日本人のRFLPのデータにかなりの相違があることが明らかになった.次にVII型コラーゲンのcDNAをプローブとして用いた連鎖分析をこの家系について行った.その結果ロッド値が2.1で連鎖を示唆する所見を得,欧米人について行われた報告と一致した.この結果は欧米人また本邦患者においても優性栄養障害型表皮水疱症の病因遺伝子はVII型コラーゲンあるいはその染色体上の近傍にあることを示すものである.

強皮症における抗ヒストン抗体

著者: 佐藤伸一 ,   竹原和彦

ページ範囲:P.92 - P.97

 限局性強皮症(LSc)は多彩で高度な免疫学的異常を伴うことが知られている.このうち抗核抗体はLScの46〜80%に検出されるが,その対応抗原は現在までほとんど明らかにされていなかった.そこで我々はELISA,免疫ブロット法を用いてその対応抗原の同定を試みた.ELISAにて抗ヒストン抗体(AHA)はLSc全体の47%に陽性で,特にGMでは87%に陽性であり,吸収試験の結果も併せてLScで検出される抗核抗体の主要対応抗原はヒストンであることが示された.また全身性強皮症(SSc)におけるAHAの臨床的意義はこれまで検討されておらず,今回我々は併せて検討した.AHAはSScにおいても29%に検出されdiffuse cutaneous SSc,抗トポイソメラーゼI抗体,肺線維症と強い相関がみられた.さらに肺線維症を有する症例の中でも重症の肺線維症と相関していたことより,AHAはSScにおいて肺線維症の重症度を示す血清学的な指標と考えられた.

ファンギフローラYによる真菌の染色

著者: 松田哲男 ,   濱田学 ,   太田浩平 ,   堀嘉昭 ,   松本忠彦

ページ範囲:P.99 - P.103

 近年その増加が著しい日和見真菌感染症は早期診断が困難であることが知られている.ファンギフローラYは直接塗沫標本などの臨床材料や病理組織切片内の真菌を検出する目的で開発された蛍光染色液キットであり,真菌の細胞壁の多糖類,キチンやセルロースなどに高い親和性を示す.我々は蛍光染色液の有用性を検討するため病理組織標本,鱗屑などの臨床材料,および真菌の掻き取り標本とスライドカルチャー標本を用いて真菌の染色を試みた.いずれの材料においても菌要素はファンギフローラYにより鮮明に描出された.手技は従来の染色より簡単で所要時間も短い.ファンギフローラYによって原因菌は分類学的位置に関係なく幅広く検出されるが,組織内の真菌の同定には利用できない.菌要素を容易に検出する方法の一つとして真菌症の確定診断に有用であると考えられた.

皮膚弾性測定の実際

著者: 西村正広 ,   辻卓夫

ページ範囲:P.104 - P.108

 高性能皮膚弾力測定装置を用いて,正常皮膚および皮膚疾患患者に測定を施行した.その結果,正常人の皮膚弾力性に関して,老若間では老人のほうが有意に低下していること,同一年齢群では男女間に差はなく部位によって異なることが証明された.また皮膚疾患として全身性強皮症(PSS),Ehlers-Danlos症候群および弾力線維性仮性黄色腫の皮膚弾力性を測定し,それぞれ興味ある結果を得た.さらに臨床応用としてPSSの皮膚硬化度を弾力性の面から経時的に測定した.最後に皮膚弾性測定の実際と本装置の有用性について若干の考察を加えた.

ビデオマクロスコープによる色素性病変の観察

著者: 斎田俊明 ,   大久保幸子 ,   小口真司 ,   石原八州司

ページ範囲:P.109 - P.113

 色素性病変の表面に鉱物油を塗布し,角層,表皮の透光性を高めた上でビデオマクロスコープにて100倍にまで拡大し,所見を観察した.生毛部の色素細胞母斑では境界部型は規則的な網目状の色素沈着(pigment network)を示し,真皮内型はびまん性の淡褐色色素沈着の上に褐色小斑(brown globule)を伴う.足底の母斑の多くはparallel,lattice-like,fibrillarの3つの定型的パターンのいずれかを呈する.悪性黒色腫では不規則に走行する濃淡差の目立つ樹枝状色素沈着と大小種々のbrown globuleおよび乱雑に散在する黒色小顆粒(black dot)がしばしば見いだされる.足底の悪性黒色腫の色素斑部では,皮溝部よりも皮丘部に色素沈着の目立つ傾向がある.その他の色素性病変でも各疾患ごとにかなり特徴的な所見が認められた.ビデオマクロスコープによる検索は色素性病変の無侵襲な補助診断法としてきわめて有用と思われる.

MED,MPD測定用照射時間自動変更装置

著者: 佐藤健二 ,   吉川邦彦

ページ範囲:P.114 - P.117

 近年,皮膚科関連分野において有望な機器や自動化された機器の開発が急速に進行している.光皮膚科学に関連した機械についてはPUVA用紫外線照射装置がその代表である.我々も,自動化の一助としてMED/MPD測定操作自動化のための装置を開発した.光線通過用の窓孔の10個付いた多孔板本体上に,いくつか選択できる時間間隔毎に電動式移動遮光板が自動的に窓孔を順次閉じていく構造となっている.これによって,照射時間の正確化,照射率の安定化,照射部位の固定化,検者の紫外線からの保護が可能となった.MED/MPD測定に要求される精度と製作に要するコストとを考えれば,現時点において本装置は皮膚科診療に求められる自動化機能を満たしたものといえるので紹介する.

共焦点レーザー走査顕微鏡の皮膚科学への応用—ジューリング疱疹状皮膚炎のIgA沈着の3次元解析を中心に

著者: 川名誠司

ページ範囲:P.119 - P.122

 共焦点レーザー走査顕微鏡(confocallaser-scanning microscopy,以下CLSMと略す)は,コントラスト,分解能の点で優れた顕微鏡システムとして,最近,多方面で注目されている.この研究では,CLSMを用いた皮膚免疫蛍光法における至適観察条件を調べ,その結果に基づいてジューリング疱疹状皮膚炎患者皮膚のgranularIgAとfibrillar IgAの沈着様式を観察した.その結果,granular IgAとfibrillar IgA沈着の3次元構築は明らかに異なり,それぞれが完全に独立したものであることが証明された.CLSMは画像がきわめて鮮明で,高倍率による細部の観察や3次元解析が可能であり,通常の落射型蛍光顕微鏡と比較して多くの情報を提供するものであった.今後,CLSMは皮膚科領域で有用性のきわめて高い顕微鏡システムになると考える.

IV 治療のトピックス

アトピー性皮膚炎の低アレルゲン米による治療

著者: 池澤善郎

ページ範囲:P.125 - P.129

 東京大学農学部農芸化学科の荒井・渡辺らと共同開発した低アレルゲン米(HRS-1ファインライス®)は,米アレルギーが疑われるアトピー性皮膚炎(AD)患者43例の多施設共同臨床試験により,有用性があると評価された.これに14例を加えた57例の臨床試験例を米アレルギー診断の信頼度別に群別してその成績を比較し,米アレルギー診断の信頼度が最も高い両試験陽性のAD患者群で最も高い有用性の評価が得られた.長期臨床試験の有効群では,米RAST値が顕著に低下し,HRS-1が米アレルゲン除去の適切な代替食となることが米特異IgE抗体の低下として示された.塩不溶性と塩可溶性の米蛋白特異IgE抗体価を測定してその比を求めると,HRS-1の無効悪化群では,有効群に比較してその比が高く,HRS-1に残存する米の塩不溶性分画がアレルゲンになっていることが示唆された.

血清成分除去療法の進歩—特に免疫吸着療法の尋常性天疱瘡への応用について

著者: 高森建二 ,   小川秀興

ページ範囲:P.130 - P.134

 血液中に存在する病因となる物質を除去する療法は,古代ギリシャの潟血療法という全血除去に始まり,血漿成分のみを除去してその分を他者血漿で補充する血漿交換療法,そしてγ—グロブリン以上の高分子物質のみを比較的選択的に除去する二重濾過療法へと進展し,近年では病因物質のみを選択的に除去する免疫吸着療法が行われるようになった.本稿では,従来から行われている遠心分離法,二重濾過法,冷却濾過法について簡単に述べ,最後に最近行われるようになった免疫吸着療法について,我々の経験を詳述した.

新しい抗潰瘍剤

著者: 今村貞夫

ページ範囲:P.135 - P.139

 これまであまり関心の払われることの少なかった皮膚潰瘍に対し,近年多くの治療薬が開発されてきた.その主なものは,塩化リゾチーム軟膏,精製白糖・ポビドンヨード配合軟膏,アルクロキサ外用薬,トコレチナート軟膏,ブクラデシンナトリウム軟膏,カデキソマー・ヨウ素外用剤,アロアスクDなどである.従来,皮膚潰瘍の治療は壊死組織を除去し,抗菌剤により細菌の増殖を抑制しつつ患者の自然治癒力により,肉芽の形成,表皮の再生を期待していたが,上記薬剤は,アロアスクD(創傷保護剤)を除いて,肉芽形成や表皮形成を積極的に促進する作用を有する点が大きな特徴である.

新しい抗真菌剤

著者: 西本勝太郎

ページ範囲:P.140 - P.143

 1991年以降に市販,または市販される予定のいくつかの皮膚科領域における抗真菌剤につき,それぞれの特徴を紹介した.経口剤であるイトラコナゾールおよび近々市販予定のテルビナフィンはグリセオフルビン内服不能の皮膚糸状菌症患者や皮膚糸状菌以外による爪真菌症患者に対して有用である以外に,外用剤以上のコンプライアンスを期待することもできる.外用剤に関しては,いずれも抗菌価の改善がみられ1日1回以下の使用で十分の有効率が得られるようになったが,一方抗菌スペクトラムに関しては一定の傾向はみられず,的確な診断とそれに基づく抗真菌剤の適切な選択はやはり治療の第一歩と言える.

PUVA療法の長期的副作用

著者: 小林仁 ,   大河原章

ページ範囲:P.144 - P.148

 PUVA療法はわが国においても水野らによっていち早く導入され,乾癬,類乾癬,白斑などの治療に欠かせない治療法の一つとなっている.当科においても1982年以来,大型紫外線照射装置を用いて,主に尋常性乾癬の治療にあたってきたが,症例数の蓄積とともに最近では多くの患者において,色素沈着を主体とする副作用を多くみるようになった.このため長期にわたりPUVA療法を継続している205名の患者について,詳細に皮膚変化を観察したところ,PUVA lentiginesが94例に,脱色素斑が6例,青色母斑様色素沈着が3例に認められた.また5例には,有棘細胞癌,基底細胞癌,Bowen病,日光角化腫が認められた.PUVA lentiginesは明らかにPUVA療法の同数に比例して多発する傾向が認められたが,腫瘍の発生には相関はなかった.

硬化療法による下肢静脈瘤の治療

著者: 磯ノ上正明 ,   小塚雄民 ,   浅田裕司

ページ範囲:P.149 - P.154

 Saphenous type 6例,segmental type 1例,reticular type 1例の一次性静脈瘤に対して硬化療法を施行した.全例で静脈瘤の良好な消失と自覚症状の改善が得られた.施行上の合併症として注入時の疼痛,有痛性の血栓,小皮膚壊死,水疱が頻度の多いものであった.治療方針の決定には超音波断層およびドップラー検査が有用で,大伏在静脈起始部において逆流が認められる例では同部位の高位結紮術を加える必要がある.また施行にあたっては患者に合併症,後療法の必要性を十分説明すべきであるが,適応を選べば本法は皮膚科医が外来で施行可能な安全で有効な治療手段である.

糖尿病性浮腫性硬化症の低周波置針療法

著者: 清水正之 ,   南川光義 ,   水谷仁

ページ範囲:P.155 - P.158

 糖尿病性浮腫性硬化症の女性の2例に低周波置針療法を行い,背部皮膚の硬化が2例とも軽快した.組織学的に真皮膠原線維間に沈着する酸性ムコ多糖体は消失し,皮膚症状は消失した.従来のビタミンE,プロスタグランディンE1の血行改善作用に基づく作用機序とともに低周波置針療法は血液循環の増大のみでなく,リンパ液の輸送増大まで,局所の新陳代謝の活性化をみることが皮疹の改善につながったと考えた.

太田母斑のレーザー療法

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.159 - P.163

 今まで有効な治療法のなかった太田母斑に対しQ-switched ruby laser(波長:694nm,照射時間:30nsec)を使用し,その有効性を検討した.対象となった太田母斑患者は,男25名,女89名で年齢は8歳から63歳であった.レーザーの照射エネルギーは6J/cm2で3〜4カ月おきに照射した.効果判定は,治療前の病変部皮膚色を100%として,不変は±10%未満の改善,やや有効は40%未満,有効は70%未満,著効はそれ以上の改善のみられたものとした.その結果,有効以上を有効率として計算すると,1回照射で13%,2回照射で72%,3回照射で97%,4回照射で100%となり,5回以上レーザー照射を受けた患者18名はすべて著効を示した.なお,数例の患者で治療後一過性の色素沈着がみられたが,瘢痕などの副作用は1例もみられなかった.

爪下グロムス腫瘍の手術法

著者: 大原國章

ページ範囲:P.164 - P.168

 爪下グロムス腫瘍は周囲の結合組織との境界が鮮明であり,腫瘍だけを摘出することが可能である.爪母下の場合は後爪郭皮膚を挙上,爪母を切開することによって摘出でき,爪甲下の場合は爪甲を一部抜爪して視野を確保すれば腫瘍だけを摘出できる.この方法であれば術後に爪の変形を生じることはない.手術の準備,具体的な術式について論述,図示した.

皮膚悪性リンパ腫の最近の治療法

著者: 石原和之

ページ範囲:P.169 - P.172

 皮膚に発生する皮膚悪性リンパ腫の主なものは皮膚T細胞リンパ腫であり,菌状息肉症によって代表される.本腫瘍は現在でも古典的分類が利用され,紅斑期,扁平浸潤期,腫瘤期に分けられる.本症の特徴として免疫不全を招来し,腫瘍死以外に日和見感染によって死亡することが少なくない.したがって,化学療法を早期から適用すると却って死期を早めることがある.また,従来のPUVA療法,外用療法,放射線療法では免疫不全に対し改善に働くとは考えにくい.したがって,インターフェロンの本腫瘍に対する効果は全身投与で60%前後の効果を示すだけではなく,本腫瘍の免疫不全に対する調節作用も有すると考えられる.本腫瘍に対するインターフェロンの適用は治療効果と予後を改善する一石二鳥の役割を発揮すると考えられる.現段階ではインターフェロンはαもγも優れた効果が見られ副作用も少なく有力な武器と思われる.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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