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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科51巻5号

1997年04月発行

雑誌目次

特集 最近のトピックス1997 Clinical Dermatology 1997 1 最近話題の皮膚疾患

新しい遺伝性光線過敏性疾患「Uvs症候群」

著者: 伊藤寿樹 ,   山泉克 ,   市橋正光 ,   小野友道

ページ範囲:P.7 - P.9

 我々は,新しい遺伝性光線過敏性疾患「UVs症候群〔UVs(UV-sensitive)syndrome〕」を報告した.現在まで3例の報告のみであるが,これらの患者の特徴をまとめた.1)生後間もなくより急性日光皮膚炎を認めるが,臨床症状は軽微である.その所見として,露光部に一致した紅斑,色素斑,落屑,毛細血管拡張があげられる.2)精神神経症状は認めない.3)皮膚癌の発生は(現在までのところ)認めない.さらに,細胞生物学的な特徴は,色素性乾皮症(XP)で見られる不定期DNA合成能の低下は認められず(バリアントを除く),紫外線照射後のRNA合成の回復に遅延を認めた.これらの所見から,本疾患は臨床的に軽症型のXPに類似しているが,細胞生物学的にはCockayne症候群に類似していることが明らかになった.

ラテックスアレルギー

著者: 三家薫 ,   堀尾武

ページ範囲:P.11 - P.15

 ラテックスによる即時型のアレルギー反応は,接触蕁麻疹だけでなく全身の蕁麻疹,気管支喘息といった症状を示すことがあり,近年,特に手術中のアナフィラキシーショックの原因として問題になっている.日常的にゴム手袋を使用する医療従事者やカテーテルなどゴム製医療器具を常時使用するspina bifidaなどの患者には発生頻度が高い.ラテックスアレルギーの診断は,自覚症状,ラテックス特異IgE測定,プリックテストなどの皮膚テスト,使用テストなどより総合的に診断される.原因物質はラテックスに含まれている水溶性蛋白で,主要アレルゲンは,14,20,27kDなどと報告されている.また,バナナ,クリ,アボカドなどとのcross reactionが指摘されている.われわれはこの3年間に10例のラテックスアレルギー患者を経験したので報告する.

炎症性腸疾患と皮膚病変

著者: 狩野葉子

ページ範囲:P.17 - P.20

 潰瘍性大腸炎やCrohn病に代表される炎症性腸疾患には種々の腸管外合併症を併発することが知られている.この中で皮膚病変は高頻度に認められ,しかも多彩である.発症頻度の高い皮膚病変としては壊疽性膿皮症,結節性紅斑,肛門病変,口腔粘膜病変などがある.これらの病変の出現は消化管の連続病変として,また,広範囲な消化管病変による吸収障害に基づくものなどがあるが,大部分は腸管病変と同様の病態で発現すると考えられている.炎症性腸疾患の病因は未だ確立したものはないが,基本的には腸管粘膜における免疫機構の破綻があげられている.特に潰瘍性大腸炎では自己免疫的機序が,Crohn病ではT細胞と単球・マクロファージ系細胞の異常を中心とする過剰な免疫反応が注目されている.皮膚病変はこれらの病態と密接に関連して発現してくると考えられる.

思春期後痤瘡

著者: 相澤浩

ページ範囲:P.21 - P.25

 痤瘡は青春のシンボルともいわれ思春期に好発するとされるが,最近思春期後に発症する難治性女性痤瘡患者が増加している.このような患者は月経前に症状が増悪することが多いとされるため,筆者らはその内分泌動態を検討した.まず男性化徴候を伴わない思春期後発症痤瘡患者を健常女性を対照に,血中アンドロゲン値を測定した.結果はfree testosterone(FT)は35%,de—hydroepiandrosterone sulfate(DHEA-S)は44%,dihydrotestosterone(DHT)は54%と高率に異常高値を認めた.また臨床症状と血中FTとDHT値は正の相関関係を認めた.この結果より思春期後の難治性痤瘡病態は血中アンドロゲン動態が重要と考えられ,男性化徴候の一症状と考えられた.女性痤瘡患者の高アンドロゲン血症が卵巣,副腎のどちらが関与しているか検討するためにデキサメサゾン抑制試験を施行し,その高アンドロゲン血症の由来は主に副腎にあることが証明された.更に月経周期異常を有する思春期後発症痤瘡患者の血中ホルモン動態を検討し,その病態が多嚢胞性卵巣(PCO)と関連があるかを検討した.月経不順合併例では月経正常例よりLHの基礎値の高値とLH-RH試験においてLHの反応亢進と更なるFT, androstenedione(△4A)の高値を認め,PCOと密接な関係があることが示唆された.よって月経不順を伴った難治性痤瘡を診察する際には,超音波断層検査を含めた婦人科的診察も考慮する必要があると考えられた.

肥満細胞症の新しい捉え方

著者: 黒沢元博 ,   神戸直智 ,   天野博雄 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.27 - P.31

 肥満細胞に関する基礎的機能解析の進歩に伴い,肥満細胞症は,肥満細胞機能解析の臨床面からのモデルとして,関心が寄せられている.肥満細胞症には,色素性蕁麻疹などの皮膚を主体とする病態の他,病変が全身に及ぶ全身性肥満細胞症が存在する.1991年に,血液学的異常の程度による分類がMetcalfeにより提唱されたが,この分類は予後を判定する上で有用である.肥満細胞症の臨床症状は,肥満細胞から放出されるメディエーターの作用による.診断は,血中,尿中の肥満細胞由来のメディエーターの増加と肥満細胞特異顆粒に存在するトリプターゼおよびキマーゼを,免疫組織化学的手法を用いて証明することによる.

Pseudolymphoma of the skin

著者: 菊池新

ページ範囲:P.33 - P.38

 Pseudolymphomaとはリンパ節外臓器のリンパ球増殖性病変を呼び,臨床的,病理学的に悪性リンパ腫との鑑別が問題となるが,通常反応性で良性の疾患としてとらえられている.皮膚におけるpseudolymphomaの概念は未だ確立されていないのが現状で,自然消褪ないしは悪性化への潜在性などの臨床的特徴やリンパ瀘胞様構造の有無,浸潤細胞の形態などの病理学的所見からも様々な名称が提唱され,さらに近年,浸潤細胞の表面マーカー,遺伝子再構成所見にも多様性があることが知られるようになってきた.我々皮膚科医にとって重要なことはpseudolymphomaをいかに診断し,いかに治療(経過観察を含め)するかということであるが,本稿では最近我々がいくつかの実験的手法を用いて検討したpseudo—lymphomaの生物学的特徴を紹介し,最近の知見について述べた.

2 皮膚疾患の病態

アトピー性皮膚炎モデルマウス

著者: 松田浩珍 ,   紺野克彦

ページ範囲:P.41 - P.45

 アトピー性皮膚炎(atopic dematitis,以下AD)は,小児に好発し現在もなお増加傾向にある難治性の慢性皮膚疾患である.その発症には遺伝的関与だけでなく,環境因子もまた深く影響していることが指摘されている.しかし,詳細な病因は未だ不明のままであり,病態解明と根治療法の確立には,本疾患のモデル動物の開発は必須と考えられる.我々は,NC/Ngaマウスが,いわゆるconventiona工環境下において,臨床上,ADに酷似した皮膚炎を自然発症することを突き止めた.血漿total IgE値は,皮膚炎の発症とその病状の悪化に比例しながら上昇した.皮膚病変部では,表皮の過形成,マスト細胞の増加と活性化,好酸球の浸潤と活性化,リンパ球およびマクロファージの浸潤などが認められ,ADの所見とほぼ同じであることが判明した.すなわち,NC/Ngaマウスは少なくとも高IgE血症を伴うADのモデルとなり得ると考えられる.

表皮バリア破壊による皮膚免疫の変調

著者: 西島貴史

ページ範囲:P.47 - P.52

 皮膚の急性のバリア破壊が皮膚免疫に引き起こす影響を,マウス接触過敏反応の惹起前に耳翼の皮膚バリアを破壊する系で検討した.アセトン払拭法での脂質除去によるバリア破壊とテープストリッピングによる物理的バリア破壊を惹起前に施行し耳翼腫脹反応の増強することを明らかにした.皮膚バリアの破壊によりハプテン浸透量の増加だけでなく,表皮細胞の感作T細胞刺激能が亢進していた.表皮細胞の表面抗原解析により,バリア破壊によりランゲルハンス細胞のMHCクラスIIとICAM−1,B7-2発現量が増加していた.表皮細胞の産生するETAF活性を測定すると,バリア破壊をした表皮細胞では産生量が増加しており,その活性はIL−1αとTNF—αからなっていると考えられた.よって皮膚バリア破壊により表皮内のサイトカイン産生量が増加し,ランゲルハンス細胞が成熟するため耳翼腫脹反応が増強されることが示された.

皮膚の生理的老化:光老化との差異—表皮および真皮結合織について

著者: 辻卓夫

ページ範囲:P.53 - P.57

 皮膚の生理的老化の所見と光老化との差異について最近系統的に行ったBhawanらと筆者らの研究結果から次のことがわかった.①角層の厚さの増加,表皮細胞の大きさ・配列の不規則性とapoptosis様細胞の出現は生理的老化で認められたが,光老化ではその程度または数が増していた.②表皮のfoot-like projectionの減少,an—choring fibrilの減少,真皮膠原細線維の太さの縮小およびヒアルロン酸の減量は生理的老化でみられ,光老化でその程度または数は更に減じていた.③基底層のメラニン量,真皮のエラスチン量は生理的老化で減少し,光老化で逆に増加をみた.このほか皮膚のcollagenに特異的な架橋(HHL)が生理的老化で増加,光老化で減少していたこと,およびsolar elastosisの異常弾性線維に大型コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(versican)が多量に蓄積していたことなど,最近の興味ある報告を紹介した.

自己免疫性脱毛の機序

著者: 古川福実

ページ範囲:P.59 - P.63

 脱毛症の原因は様々であるが,円形脱毛症や自己免疫性疾患にみる多くの脱毛症には,免疫異常が関与している.このような免疫異常を背景とする脱毛症,すなわち自己免疫性脱毛の機序は未だ不明である.その解明のためには,SLEのモデルマウスのような優れたモデルの存在が望まれる.現在のところ,C3H/HeJ,MRL/lpr,MRL/+,NC,NZB/KNマウスなどがモデル候補として研究されている.C3H/HeJマウスは,加齢に伴う脱毛,MRL/lprマウスは,ループスエリテマトーデスにみられる脱毛,MRL/+マウスは強皮症,NCマウスは自己免疫性疾患あるいはアトピー性皮膚炎,NZB/KNマウスは自己免疫性脱毛のモデルになりうるのではないかと予想される.

遺伝性棘融解性疾患—ダリエ病,ヘイリー・ヘイリー病

著者: 多田讓治 ,   荒田次郎

ページ範囲:P.65 - P.69

 棘融解性皮膚疾患は自己免疫性水疱症と遺伝性棘融解性疾患(ダリエ病,ヘイリー・ヘイリー病)に大別され,前者の病因については近年その詳細が明らかとなった.一方,後者は,以前からその病変部の電顕的観察,培養による検討,そして,最近ではdesmosome構成蛋白に関する検討がなされてきた.われわれは,表皮角化細胞の接着構造構成成分(desmoglein, plakoglobin, E—cadherin)に対する抗体を用いて,遺伝性棘融解性疾患の病変部,非病変部におけるそれらの局在を蛍光抗体法,免疫電顕法により検討した.それらは非病変部では正常ヒト表皮と同じように細胞膜上に存在したが,棘融解細胞ではdesmo—glein, plakoglobinは細胞質にびまん性に局在した.E-cadherinはその抗体により異なる分布が認められた.この結果から,遺伝性棘融解性疾患はdesmosomeの解離が第一であると考えられるが,そのtriggerおよび機序を説明するには至っていない.

新しい角化異常—ロリクリンとVohwinkel症候群

著者: 山本明美

ページ範囲:P.71 - P.75

 辺縁帯は角化細胞の最終分化に際して形成される細胞膜の裏打ち構造である.これはトランスグルタミナーゼが,表皮角化細胞の発現する数種の蛋白質どうしの間に架橋をつくることにより形成される.この際まずインボルクリンとシスタチンαが最初の枠組となり,後から他の前駆体,エラフィン,ロリクリン,small proline-richprotein(SPRR)等が架橋すると考えられている.主成分のロリクリンはグリシンループと呼ばれる特徴的な構造を多数持ち,両末端にはグルタミンとリジンが豊富なよく保存された領域をもつ分子である.最近Vohwinkel症候群においてロリクリン遺伝子の変異が同定された.本症は常染色体優性遺伝性の,手指・足趾の絞扼を伴う掌蹠角化症と四肢関節部背面の角化性皮疹を臨床的特徴とする極めて稀な疾患である.まず連鎖解析から本症が1番染色体の長腕q21のマーカーと連鎖していることが判明した.ここには表皮分化と関連するロリクリンをはじめ,数種の蛋白の遺伝子がクラスターとして存在する.免疫電顕的観察から本症ではロリクリンが核内で異常な凝集を起こし,辺縁帯に架橋されないことが示唆された.患者ロリクリン遺伝子の塩基配列決定により,コドン230〜231領域に1個のグアニンの挿入が見つかった.これによりフレームシフトが起こり,ロリクリン分子のC末側が完全に誤ったアミノ酸で置き変わり,さらに正常より22残基延長することになる.今回の発見はロリクリンの重要な機能を示唆するものでもある.

3 新しい検査法と診断法

アトピー性皮膚炎は増えているか

著者: 杉浦久嗣 ,   内山賢美 ,   尾本光祥 ,   佐々木一夫 ,   上原正巳

ページ範囲:P.79 - P.81

 一定地域(滋賀県大津市)における乳幼児アトピー性皮膚炎の有病率を調べるために,341例の4か月児,339例の10か月児,および341例の3歳児の検診を行った.検診は乳幼児アトピー性皮膚炎が最も活発となる春(4月と5月)に行った.乳幼児アトピー性皮膚炎の発生率は,4か月児30%,10か月児31%,および3歳児20%であった.この調査結果を20年前に京都で行った調査と比べたところ,乳幼児アトピー性皮膚炎の有病率はこの20年間でほとんど変化していなかった.

全身性エリテマトーデスに見られる水疱の分類

著者: 石川治 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.82 - P.86

 エリテマトーデス患者に水疱性皮疹が生じることは比較的稀で,その頻度は0.04〜4.5%とされている.現在,広義の水疱性エリテマトーデスは発症機序により次の3型に分類されている.1型;液状変性が水疱に進展したもの,2型;ジューリング疱疹状皮膚炎や水疱性類天疱瘡(BP)など,他の自己免疫性水疱性疾患を合併したもの,3型;ジューリング疱疹状皮膚炎様組織所見を示し,VII型コラーゲンに対する自己抗体が証明されるもの(狭義の水疱性エリテマトーデス).しかし,皮膚所見のみから水疱性皮疹を鑑別することは必ずしも容易でなく,病理組織所見,蛍光抗体直接法および1M NaCl溶液処理splitskinを基質として行う蛍光抗体間接法,さらに可能ならばイムノブロットの所見の結果を総合的に考慮して診断することが大切である.

カポジ肉腫とHHV8

著者: 佐多徹太郎

ページ範囲:P.87 - P.91

 ヒトヘルペスウイルスの8番目として,AIDS関連カポジ肉腫組織からカポジ肉腫関連ヘルペスウイルスが発見され,カポジ肉腫に共通な病因と考えられている.カポジ肉腫以外ではbody-cavity-based lymphoma(primary effusionlymphoma)やCastleman病との関連が高い.本邦のカポジ肉腫例でも高率に陽性である.健常人の精液中にも検出されることから,性行為感染症の一つではないかと考えられている.遺伝子断片の発見から現在までのデータをまとめた.

白癬菌の新しい同定法

著者: 望月隆

ページ範囲:P.93 - P.96

 白癬の病巣からは従来の方法では種レベルの同定が困難な白癬菌が稀ならず分離される.これらの同定の困難な分離株について,ミトコンドリア(mt)DNAの制限酵素断片優の多型性re—striction fragment length polymorphisms(RFLP)ならびにrandom amplification ofpolymorphic DNA(RAPD)の泳動パターンの検討を行った.その結果,これらの方法はいずれも白癬菌の同定に有用と考えられた.また本稿ではmtDNAの制限酵素分析ならびにRAPDの手技と特徴について解説した.

4 皮膚疾患治療のポイント

難治性アトピー性皮膚炎の免疫抑制療法

著者: 川島眞

ページ範囲:P.99 - P.103

 従来のステロイド外用剤および保湿剤による外用療法と抗アレルギー剤の内服療法に反応が乏しい,アトピー性皮膚炎の難治例の増加が指摘されている.そのような治療抵抗性のアトピー性皮膚炎を対象として,移植免疫抑制剤であるシクロスポリンA,タクロリムス(FK−506)の内服あるいは外用療法が試みられている.近年,明らかにされてきたアトピー性皮膚炎におけるアレルギー炎症のメカニズムから考え,これらの免疫抑制剤がステロイドとは異なった機序で効果を発揮することは十分に予想され,また事実臨床試験からも高い効果が認められつつある.しかし,乳幼児期に発症し慢性に経過し,完治に至ることは困難なことも多い疾患であることを考慮すれば,当然リスクとベネフィットの比に重きを置いた評価をせねばならず,その検討は現在慎重に進められている.また,アトピー性皮膚炎の「難治例」の多くはステロイド外用剤に対する恐怖感から十分な治療が行われていない例であることも注意すべきであり,将来治療の現場で使用可能になった場合にも,対象患者の選択は厳密に行われねばならない.

アトピー性皮膚炎のダニ対策―特殊防ダニ布団の使用経験を中心に

著者: 岡田茂 ,   山本憲嗣 ,   田中洋一 ,   片山一朗

ページ範囲:P.105 - P.109

 アトピー性皮膚炎(AD)患者の生活指導において,皮膚と長時間接触する寝具のダニ抗原を減らすことは重要である.今回,われわれは中等症以上のAD患者18名を二重盲検法により,東レ社製の特殊防ダニ布団と汎用の布団の各2つのグループに分け,1年間使用しその有効性を検討した.1)1年後のダニ抗原量Der I(Der fI+Der pI)を比較すると,特殊防ダニ布団が汎用の布団に比べ明らかに少ない傾向にあった.汎用の布団は特殊防ダニ布団に比べ,ベッドマットや床など周囲の環境に大きく影響される傾向にあった.2)1年後のアンケート調査では,特殊防ダニ布団は1年間にわたり掻痒感の軽快が持続したのに対し,汎用の布団では3〜6か月しかその効果が持続しなかった.寝具を中心に,防ダニ対策に関する教室のデータと最近の知見とを報告した.

アトピー性皮膚炎―民間療法をどう考えるか

著者: 竹原和彦

ページ範囲:P.111 - P.114

 不適切な民間療法によって著しい増悪をみたアトピー性皮膚炎の症例が急増しており,社会問題ともいえる現況を呈している.民間療法が盛んとなった背景の中心には,誇張されたステロイド外用薬についてのマスコミ報道があり,昨今の医療不信がこれに結びついていると考えられる.今日特に問題となる民間療法は,企業化し営利を目的として運営されているものであり,これらは巧妙な戦略のもとに展開されている.したがって皮膚科医も民間療法の企業戦略をある程度理解した上で,日常診療に当たり患者への説明を行う必要がある.現状では民間療法によってもたらされた社会的弊害は大きく,これらの治療を正当に評価する基準の確立や,法的ないし行政的規制の強化が望まれる.

色素性痒疹のミノサイクリン療法

著者: 早川和人 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.116 - P.119

 色素性痒疹の治療には以前より種々の薬剤が試みられてきた.このうちDDSは従来からその有効性について評価が確立しており,最も多く用いられてきた.しかしDDSは副作用が比較的多く見られる他,中止後の再発を抑制しえないことが指摘されるようになってきた.最近になりミノサイクリンが本症の治療薬としてよく使用されるようになり,ミノサイクリンはDDSに比し中止後の再発が少ないこと,副作用が少ないことなどから現在本症の治療の第一選択薬になりつつある.ミノサイクリンは比較的安全な薬剤と考えられるが,稀に重篤なアレルギー性薬疹の報告も見られ,注意を要する.なお本症における作用機序については種々の推測がなされているが,未だ明らかではない.

糖尿病のフットケア

著者: 河盛隆造 ,   田中逸

ページ範囲:P.121 - P.125

 糖尿病性足病変は胼胝や鶏眼から潰瘍,壊疽,シャルコー関節にいたるまで多彩である.
 基本的病態は,①末梢神経障害による温・痛覚低下と自律神経障害による皮膚毛細管の血流障害,発汗低下,②血管障害による血行不良,③易感染性,④足に加わるずり力の4者である.これらの要因が複合的に作用するため些細な病変からでも重症化しやすく,容易に難治化する.したがって,発症予防と異常の早期発見,早期治療が重要である.それ故,足の観察,局所の清潔と外傷予防,靴下や中敷きの使用,足に合った靴を履き,異物のチェックをかかさない,異常を発見した際はただちに医師に報告することなど,患者自身が毎日行うフットケアについて十分な指導を行うことが必要である.

強皮症に対する経中心静脈PGE1持続点滴静注法

著者: 水谷仁

ページ範囲:P.126 - P.127

 強皮症に対する新しい効果的な治療法の一つとして我々が行っているPGE1持続点滴静注法を紹介した.本法は炎症が消失し,硬化が著明に残った硬化期の強皮症に対してのみ適応がある治療法で,鎖骨下静脈より挿入した中心静脈カテーテルよりPGE1を80μg/日持続的に6週間以上投与する方法である.本法の効果は一時的な血管拡張にとどまらず,潰瘍の改善,器質的な皮膚,軟部組織の線維化の改善と関節可動域の著明な改善が認められた.特筆すべき副作用は認められなかったが,長期入院とカテーテル挿入,ポンプの装着という侵襲があることが課題の一つである.

慢性円板状エリテマトーデスの治療

著者: 土田哲也

ページ範囲:P.128 - P.133

 慢性円板状エリテマトーデス(DLE)の治療方針はDLEの考え方と直結する.DLE型皮疹を有するエリテマトーデス(LE)は,全身症状の観点からみた診断名としてはCLE(cutaneouslimited LE),ILE(intermediate LE),およびSLE(systemic LE)のいずれでもありうる.自験70例の臨床的検討を行った結果,DLE型皮疹を有するLEがSLEであることを強く規定するのは播種状DLE型皮疹であることと,急性型皮疹の併存をみることであると考えられた.一方,CLE,ILE,SLEにみられるDLE型皮疹の異同については結論を出せなかったが,LE皮疹のスペクトラムとしての考え方の中でDLE型皮疹も捉えていく考え方を提示した.実際的な治療については,DLE型皮疹を有するCLE,ILE,SLEのそれぞれにおいて,副腎皮質ステロイド外用・内服,DDS内服,金療法を中心に治療方針を述べた.

酒皶の漢方療法

著者: 三原基之

ページ範囲:P.134 - P.137

 近年の欧米の文献によれば酒皶は皮疹のうえから4期に分けられている.第1期は顔面の反復性,発作性一過性紅斑(潮紅)であり,第2期は第1期と同じ部位に生じる持続性紅斑と毛細血管拡張である.第3期は第2期の皮疹に丘疹と膿疱が加わり,第4期は鼻瘤の形成である.一方,漢方でいう瘀血の病態の重要な皮膚粘膜症状として顔面の発作的潮紅と毛細血管拡張がある.ここに酒皶の患者が瘀血の個体を有する根拠がある.酒皶に対する漢方療法として従来より防風通聖散,黄蓮解毒湯,清上防風湯などが使われているが,これらは駆瘀血剤ではない.筆者は前述の理由から酒皶に駆瘀血剤を投与して,良好な結果をえている.具体的には桃核承気湯,桂枝茯苓丸,当帰芍薬散,加味逍遥散などを頻用しているが,著効を示す場合は1〜2週間で紅斑は著明に改善する.2週間投与して効果がなければ他剤に変えるべきである.

発毛,育毛に関する最近の話題

著者: 太田幸則 ,   勝岡憲生

ページ範囲:P.139 - P.142

 脱毛症の治療としては内服,外用療法,理学療法,局所免疫療法などが現在試みられている.実地診療で稀ならず遭遇する円形脱毛症についても多因子の関与が想像され,その病態生理は未だ十分に解明されていない.近年さまざまな皮膚疾患についてT細胞を中心とする免疫学的アプローチが多くなされ,円形脱毛症に関しても浸潤リンパ球を介した局所反応としての新しい知見が集積されつつある.本稿ではそれらの中で接触過敏反応による発毛の誘導,シクロスポリン内服療法などについての最近の報告を紹介するとともに,筆者らの教室で得られたデータをあわせて,脱毛,発毛機序におけるT細胞関与の可能性につき検討した.

色素沈着の外用療法

著者: 船坂陽子 ,   市橋正光

ページ範囲:P.144 - P.147

 肝斑等に対する外用療法としては,欧米では皮膚科医の処方による,4%以上の高濃度ハイドロキノンやアゼライン酸,あるいはビタミンA酸等との併用により短期間で治療効果を上げようとする傾向にある.本邦ではこれら薬剤は市販されていないが,美白化粧品としてアルブチン,コウジ酸,ビタミンC,油溶性甘草エキス等を含有した製品が開発され,医師の処方箋なく容易に入手できる.ハイドロキノン等に比して副作用が極めて少なく,比較的安心して長期間使用できる反面,その治療効果という点においてはやや劣るようである.

顔面腫瘍の手術法

著者: 臼田俊和

ページ範囲:P.149 - P.153

 顔面腫瘍の積極的な手術は,皮膚悪性腫瘍の早期発見と患者のQOL改善の双方にメリットがあると考えられる.顔面腫瘍の手術では,再発の防止と整容面の両者を調和させることが必要であるので,皮膚外科学的アプローチの充実と皮膚病理組織学専門家との連携が,ますます重要なものとなっている.

腋臭症―最近の手術法

著者: 小川豊

ページ範囲:P.155 - P.158

 腋臭症手術の適応は,1)腋窩から1m離れても臭く本人家族が手術を希望する場合,2)臭いはそれほど強くないが下着の黄変や湿潤が強い場合,3)臭いは2)程度だが放置すれば劣等感など精神的影響が危惧される場合,などである.手術はRigg法に準じ,腋窩中央に長さ4cmの紡錘形皮膚切除を行い,これよりアポクリン腺組織を腋毛の範囲で鋏を使って剪除する.剪除の深さは真皮下端から腋窩筋膜のレベルまでで解剖学的には1.7〜3.7mmまでの深さの層である.手術手技のポイントは,1)ガーゼを介して皮膚をはさみ反転してできるだけ浅層までアポクリン腺組織を除去すること,2)紡錘形皮膚切除の幅は縫合閉鎖時適度の皮膚緊張を持つこと,3)止血を完全にすること,4)術後の圧迫,安静を厳重に行うこと,である.術後の腋毛脱落が高いほど手術効果は高い.しかし勢除があまり浅層にまで及ぶと皮膚壊死を起こす.皮下組織とアポクリン腺組織が除去されて皮膚すなわち表皮,真皮だけが残存した状態が目標となる.

悪性黒色腫の新しい化学療法

著者: 神保孝一

ページ範囲:P.159 - P.163

 悪性黒色腫の化学療法として多くの薬剤が最近試みられている.しかし,その方法は従来通り,DTICである.最近開発された薬剤としてtelnozolomide,dibromotalcitol,taxol,bryostatinが挙げられる.殊にtemozolomideは経口可能なDTIC改良剤として開発され,今後の有用性が期待される.他の薬剤はいずれもこれら薬剤に対する併用薬剤であり,女性ホルモン剤のtamoxifen,また免疫不活剤であるインターフェロン(IFN),インターロイキン2(IL−2),腫瘍壊死因子(TNF)が試みられている.

5 皮膚科医のための臨床トピックス

HHV−6,−7と突発性発疹

著者: 武田和彦 ,   山西弘一

ページ範囲:P.167 - P.169

 ヒトヘルペスウイルス−6,−7(HHV−6,−7)はそれぞれ1986年,1990年に発見されたヒトにおける6番目,7番目のヘルペスウイルスである.最近,共に突発性発疹の原因ウイルスであることが明らかにされた.また,それらウイルスゲノムの全塩基配列や突発性発疹の合併症についての報告も相次ぎ,基礎的,臨床的立場から,HHV−6,−7感染の全体像が明らかにされようとしている.

ドライアイ—皮膚科との関連

著者: 坪田一男

ページ範囲:P.171 - P.173

 ドライアイはさまざまな皮膚科疾患と関連するが,その中でも最も重篤な症例がスチーブン—ジョンソン症候群である.角膜上皮のステムセルが障害されるとともに涙液が完全に消失し従来は治療不可能とされてきた.最近,東京歯科大学眼科では,角膜上皮のステムセル移植と涙液の自己血清による補充療法を組み合わせることによって,従来治療が不可能だった重症ドライアイであるスチーブンージョンソン症候群や眼涙天疱瘡のオクラーサーフェスの再建を行えるようになってきた.

プリオン

著者: 鈴木尋之

ページ範囲:P.175 - P.177

 スクレイピーの感染因子として提唱されたプリオンは,現在ではクロイツフェルト・ヤコブ病,ウシ海綿状脳症などのプリオン病の感染因子として広く受け入れられている.プリオンの構成成分は蛋白質(プリオン蛋白質:PrP)と考えられており,感染動物にも正常動物にも存在している.両者は同一の遺伝子によりコードされているが,二次構造に差があり,また感染型PrP(PrPSc)はコア蛋白質(PrP27-30)を持つなど,正常型PrP(PrPC)とは異なる性状を示す.PrPScの増殖にはPrPCが必要であることが示されている.近年,ウシ海綿状脳症とヒトの新型クロイツフェルト・ヤコブ病との関係が注目されている.

「らい予防法」の廃止と皮膚科医の役割

著者: 中嶋弘 ,   石井則久 ,   杉田泰之 ,   宮本雅人

ページ範囲:P.178 - P.179

 わが国におけるらい対策の根幹を成してきた「らい予防法」は,約90年の長い歴史を経て,この度,やっと廃止になった.これに伴い,①ハンセン病は普通の細菌感染症となり,届出の義務は不要となった,②らいは一般用語のみならず,医学用語,法律用語においてもハンセン病と呼ばれることになった,③新たに発生する患者については,一般の医師により外来を中心に,保険診療が行われることになった.しかし,現実には皮膚科医が診療することが多いと思われる,④関係諸団体,医療関係者などは,一般市民に対してハンセン病の正しい知識を啓蒙し,偏見,差別,人権侵害を払拭するように努める義務がある.

総合診療における皮膚科医の役割

著者: 平憲二 ,   福井次矢

ページ範囲:P.180 - P.182

 総合診療の意義とその皮膚疾患への取り組みを説明し,総合診療における皮膚科医の役割に言及する.

皮膚科とインターネット

著者: 谷口芳記 ,   磯田憲一

ページ範囲:P.183 - P.185

 医療におけるコンピュータ利用が盛んになってきているが,皮膚科でもコンピュータの利用が活発になってきた.コンピュータのネットワークであるインターネットについて電子メールを用いるメーリングリストと画像,文章,音声,動画などが扱えるWorld Wide Webについて最近の状況について概説した.インターネットは今後,研究,診療,教育面でさらに利用が考えられる分野と思われる.

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顕微鏡は調節して使っていますか?

著者: 持田耕己

ページ範囲:P.15 - P.15

今回上記タイトルについて書かせていただくのは,何を隠そうわたくし自身がある時点まで正しい調節法およびその原理を知らなかったためです.そうして同じ輩が少なくないように感じたためです.それではどのように調節したらよいのでしょうか?
 まず調節の目的ですが,単純に言って視たい部分にのみ光線を当てることにあります.これは水平方向のみでなく,垂直方向についてもあてはまります.さてその実際ですが,とりあえず標本にピントを合わせます.そうして両眼の視力差を接眼レンズで調節します.その後光源の絞りを絞り込みます.そうすると視野内周辺に絞りの陰が出現します.その時集光器の位置が適していないと,陰の辺縁がぼやけて見えます.そこで集光器の位置を調節します(多くの場合は昇りきった状態でOK).これで垂直方向での調節は終了です.次にこれらの陰で織りなされるスポットが視野の中央にくるように調節します.この後は絞りを徐々に開いて行き,絞りの陰がちょうど消失する所まで開き,それ以上余計な範囲に光が当たらないようにします.以上で終了です.対物レンズには個体差がありますので,厳密には上記作業を各対物レンズで視るごとに行う必要がありますが,普段の使用ではそこまでやる必要はありません.しかしながら,学会発表や投稿に用いる写真を撮る時は面倒でも施行してみてください.

本誌報告症例の裏話

著者: 田中稔彦

ページ範囲:P.38 - P.38

 症例は本誌第47巻第1号に報告した18歳の女性.主訴は右足第2趾の難治性潰瘍.右足は全体的に“温かく,腫れぼったい感じ”であり,カルテには「局所熱感と腫脹あり」と記載した.生検を行い,少し奇妙だなと思いながらも病理診断は肉芽腫性炎症とした.非定型好酸菌症か深在性真菌症等の診断を考え,地方会レベルの発表演題ができたと,組織材料からの培養結果を不謹慎ながら心待ちにしていた.患者さんにしつこく「自宅か職場で熱帯魚は飼っていないか」尋ねたが否定されて些か不満であった.患者は潰瘍部に疹痛を訴え,早期の根本治療を望んでいたが,培養結果がなかなか出ないため治療に踏み切れず,主治医の気持ちは焦るばかりとなった.入院後約1か月が過ぎた頃,同僚が生検組織標本を改めて詳細に検討し,当初我々が肉芽腫と考えていた真皮内の結節状の細胞集塊は,一部管腔を形成することから血管内皮細胞の増殖ではないかと指摘し,教科書を漁ったところ動静脈瘻に伴う反応性の血管増殖であるpseudo-Kaposi's sarcomaの診断が目にとまった.そうして改めて患者を見直してみると,足背の静脈は怒張し拍動を触れ,そこを流れる静脈血の酸素分圧は動脈血程度に上昇していた.血管造影を行うと足背部に見事な動静脈瘻が描出された.感染症による局所熱感と思われたものは血流増加による皮膚温上昇であり,腫脹と思われていた右足は,骨の成長促進によって実際に左足より大きかったのである.初診時に臨床所見を正確に観察していれば,もう少し早く診断できたであろうにと大変悔やまれた症例であった.

私と漢方薬の出会い

著者: 荒浪暁彦

ページ範囲:P.63 - P.63

 患者は20歳女性,アトピー性皮膚炎.数年来全身にvery strongクラスのステロイド剤を外用していたが,自己判断で中止したところ増悪.初診時は全身潮紅し,汚ない痂皮,びらんに覆われ,全身リンパ節腫脹,肝機能障害(GOT・GPT 3桁)を伴っていた.ステロイド剤は断固拒否するため,入院させ抗生剤,抗アレルギー剤の投与と白色ワセリンの外用をしてみたが改善しない.本人が漢方薬を試してみたいと言うので,専門書を調べ,リンパ節腫脹を伴う皮膚炎ということで,柴胡清肝湯を飲ませたところ,驚いたことに皮疹が改善してきたばかりか,1週間で,ずっと続いていたリンパ節腫脹がほぼ消失し,肝酵素も正常値になってしまった.西洋薬は何も変更しておらず,その変貌ぶりからは,柴胡清肝湯が効いたとしか思えなかった.以後,漢方薬でこれほど劇的に著効を示した症例はない.まさにbiginer's Iuckであった.この経験が引き金となり,私は本格的に東洋医学を学び始めた.それまで私は,漢方薬はあやしいとか,たまに効くこともあるくらいにしか思っていなかったが,薬が効かないのは医師の処方が悪いわけで,古来より伝わる東洋医学独特の診療法を学び,薬の性質を正しく理解し,陰陽虚実を間違わなければ西洋医学に勝るとも劣らないものであることが解ってきた.実際処方が合えば,何をやっても治らなかった慢性蕁麻疹や帯状疱疹後神経痛が,数日の内服でケロリと治ったり,アトピー性皮膚炎などは明らかに内服後改善する例がある.何よりも患者さんが喜ぶ.私は,最初に漢方薬の著効例に出会えたこと,西洋医学と東洋医学が同時に学べ実践できる日本に生まれたこと,またわが静岡県熱海市には,皮膚科漢方の大家がいらっしゃることを感謝して止まない.

ステロイドの投与間隔

著者: 玉木毅

ページ範囲:P.109 - P.109

 患者さんは26歳女性.SLEからPSS,PMと順次発症していったオーバーラップ症候群で数々の示唆に富む興味ある症例であった.SLEとPSSのオーバーラップとなった後に熱発と筋症状を示し,PM合併の診断のもとリンデロン®4mg内服にて解熱し筋脱力等の症状も寛解し,ステロイドを漸減していった.ところが2.5mgと2mgの交互投与とした時点で,再び熱発するようになった.感染症の合併か原病の再燃かと思案しながらベッドサイドで患者さんの話を聞いていた時のことである.温度板上では毎朝の検温で熱発していることになっていたのだが,話をよく聞いてみると夜中の3時頃に必ず悪寒がするのだと言う.患者さんの「夜の薬がここで切れるのでは?」という言葉に「そんな話は聞いたことがないな」と思いつつ,軽い気持ちで夕食後の内服を就眠前にずらしてみた.翌朝温度板を見ると,前日と同じように朝の検温で熱発していたので,「やっぱり関係なかったな」と思いながら患者さんの所に行ったところ,「今日は,朝6時頃に寒気がしたんです.」と言う.ちょうど内服をずらした時間の分だけ悪寒の出る時刻がずれたのでこれはと思い,思いきって(3錠−1錠−1錠)と投与していたパターンを崩し,(2錠−1錠−2錠)としたところ,翌日から熱発はピタリと止まってしまった.内服薬を毎食後投与というのは普段何気なく行っていることであるが,ちょっと考えると毎食後というのは時間的には均等な投与ではない.朝食と昼食の間は4〜5時間しかないのに,夕食と翌朝の朝食の間は12時間以上空くこともある.この症例はたまたま非常に微妙なステロイドの量加減で熱発が左右されるという珍しいケースで,通常はここまで考える必要はないのだろうが,こういうこともあるのだなと考えさせられた経験であった.

焼身自殺はやめて

著者: 岡田理

ページ範囲:P.119 - P.119

 「皮膚科の先生,焼身自殺の人が運ばれてきましたので,すぐ来てさい.」ICUの婦長さんからの電話である.「またか」と,医局に重苦しい空気が流れる.ICUへ行ってみると全身黒こげの若い女性が救急部のスタッフの治療を受けている.両親から話を聞くと,うつ病で治療中であったが,死にたい死にたいと何度も口にしていたとのこと.やけどの状態を説明すると,治療はいりませんから死なせてあげて下さいと懇願される.両親の要求をそのまま実行しようものなら大きく叩かれる昨今である.結局,懸命の治療にもかかわらずこの患者は20日後に亡くなってしまった.このようなことが繰り返される度に“焼身”自殺を止める策はなかったのかと思うのだが.昨年1996年の1年間で,5名の焼身自殺患者が当院に搬送されてきた.そもそも秋田県は人口当たりの自殺者の数が全国でも1〜2位を争うほど多い県である.北国の秋田では容易に灯油が入手できるので,焼身という手段が選択されているのであろう.救急蘇生の技術が発達した昨今では,どんな熱傷患者でもショック期を脱することが可能となっている.一命を取りとめた後は死ぬより辛い痛みが待ち受けている.また,形成外科がなく,救急部のスタッフの極めて少ない当院では,重症熱傷の治療に皮膚科が全面的に関わるので,医局員の少ない当科には大きな負担となっている.もちろんこうした患者の治療にも多額の医療費が使われているのが現実である.このような悲劇をなくすために,焼身自殺の悲惨さを広く知らしめることはできないものだろうか.皮膚科医,救急科医,精神科医などが協力して一大キャンペーンを行って頂ければありがたい.「焼身自殺はやめましょう,もしするなら他の方法でお願いします…」とは言えないが.

焼き加減は,well-doneで

著者: 橋本透

ページ範囲:P.125 - P.125

 5年前,レーザーから連想するものはレーザーカラオケ,レーザーディスクという楽しいものであった.しかし,4年前,外来での炭酸ガスレーザーとの出会いが,私のレーザーに対するイメージを一変させた.レーザーは,つらく,恐しく,臭いものに変わったのだ.当時,外来にはなぜかしら炭酸ガスレーザー装置が置いてあった.その新兵器を外来診療に用いるよう教授,助教授から命を受けた私は,文献を調べ,無数にある適応疾患の中から脂漏性角化症と汗管腫を選択し,おそるおそる治療を開始した.脂漏性角化症は,蒸散する時間が長く,コンピューターに用いるマイクロクリーナーを用いて非煙しても外来中ひどい臭いに包まれ,ナースやクラークから文句が出た.文句が出ても,治療効果が上がれば言い訳の一つもできるが,真皮まで蒸散し,瘢痕をつくってしまうのがこわくて,いつまでたっても腫瘍は除去できず,その時点では,いかに液体窒素による冷凍凝固術がすばらしいかを痛感した.汗管腫に関しては,誤ってレーザー光を眼球に照射してしまわないか,若い女性に瘢痕を形成してしまわないかと考え,これも結局あまり治療効果が上がらなかった.やはり,炭酸ガスレーザーは難しく有用ではないとの結論を出そうとした時,“神”(教授,助教授)は,私にこうささやいた,“well-done”.この言葉を信じ,もう一度炭酸ガスレーザー治療をしてみるとなかなか良い治療成績であった.今では,炭酸ガスレーザーは,外来診療において隆起性病変,とりわけ汗管腫,眼瞼黄色腫,化膿性肉芽腫に第一選択の治療法であると考えている.治療に際しては,生食ガーゼでふきながら蒸散した範囲,深さを確認しながら“well-done”したのは言うまでもない.

潰瘍は一日にして成る

著者: 神田憲子

ページ範囲:P.133 - P.133

 出張病院での出来事.皮膚科は眼科,脳外科,泌尿器科との混合病棟で,時々褥瘡や薬疹,足白癬などでコンサルトされる.ある金曜日,左足が発赤している患者を診てほしいと看護婦に頼まれた.コントロール不良の糖尿病で,白内障の手術のため眼科に入院しているという.左第4趾間が浸軟しており,足背から下腿にかけてびまん性に熱感を伴う紅斑を認めた.足白癬から蜂窩織炎が生じたものと考え,ペニシリン系の抗生物質点滴と趾間の消毒,下腿のアクリノール湿布を指示した.土,日の間は同様の処置を続けてもらい,週明けに診ればよいか,などと軽い気持ちでいた.月曜日に再診すると,下腿の紅斑は軽快していたが,趾間はびらんとなり,第5趾から足背にかけて著しい発赤,腫脹を認めた.特に第5趾は紫紅色調を呈し,明らかに循環障害を起こしていた.随時血糖は500台,CRP20と高値で,蜂窩織炎の増悪と考え,急遽皮膚科に転科した(抗生剤がヒットしなかったこともあるが,患者は病識がなく甘いものを隠れ食いしていた).
 処置は連日ヒビテン浴と抗生剤外用,感受性のあったセフェム系の点滴,ミノサイクリン・消炎鎮痛剤の内服を,血糖に関しては内科医の指導のもとに頻回の速攻型インスリン注射を行った.数日でCRPは正常化し,血糖も200台に落ちついた.第5趾の腫脹は軽快し,色調も淡紅色調となり,ようやく危機は脱した.しかし第4趾間には深さ約1cmの潰瘍の形成がみられ,上皮化までに1か月以上を要した.土,日に面倒くさがらないで病棟に様子を診に行っていれば……と今でも悔やまれる.

イボを治すということは

著者: 上田英一郎

ページ範囲:P.142 - P.142

 皮膚科外来診療において難治性の疾患はいくつかありますが,とりわけ足底疣贅(plantarwarts)の治療に苦慮されている先生方は大勢いらっしゃると思います.私も研修医時代,足底に米粒大の疣贅を発見し,外来診療の終わった処置室で液体窒素凍結療法を続けていました.しかし,患者の立場に立った(痛くなったらすぐ手をゆるめる)治療では一向に治らず,その疣贅は1年以上も存在していました.そんな折り,新村眞人教授(慈恵医大皮膚科)による本学学生のためのHPVに関する講義が行われ,私は2年目の研修医として拝聴させていただきました.この講義は毎年行っていただいており,前年度も聞かせていただいたのですが,この年は1年間難治なイボを持つ患者の立場でじっくりと聞かせていただきました.新村先生は,講義の最後にイボ地蔵の写真とともにイボの暗示療法について説明され,私は先生のお話をうかがっているうちになぜか「治るかもしれない……」という気持ちになりました.すると不思議なことに2週間ほどして私のイボは消えてしまったのです.1年前にも同じ講義を聞いていたのですが,その時はさまざまな治療法があるということを知識として得ただけでした.このことより,イボの暗示療法は患者さんを暗示にかけるのではなく,「この先生の言うことを聞いていたら治るだろう」という安心感を持ってもらうことではないかと感じました.この安心感は,医師として信頼されているということを意味しているのでしょうが,そのためには科学者として正しい理論に基づく豊富な知識と.人としての優しさが必要であると私は思います.

Spitz母斑か,悪性黒色腫か?

著者: 涌井史典

ページ範囲:P.163 - P.163

 Spitz母斑と悪性黒色腫の鑑別は臨床的にも病理組織学的にも非常に困難なことがあり,しばしば両者の診断に苦労されたご経験がおありのことと思います.今回私たちも両者の鑑別に苦慮した症例を経験しました.
 患者さんは14歳の女子で,1年半前より右足内側縁に9×9mmの表面に鱗屑を伴い,紅暈を有する黒色結節が認められたそうです.前医で全切除し,病理組織学的に色素性Spitz母斑と診断されました.この症例につきconsultationを受け,実際顕微鏡で観察してみますとSpitz母斑なのか黒色腫なのか非常に診断に迷いました.そこで当教室で色素性腫瘍の鑑別の際に行っているホルマリン固定パラフィン包埋未染色標本の螢光法的観察と同一切片にHMB-45免疫染色を施してみますと黒色腫を示唆する所見がえられ,cytofluorometryによる細胞核DNA量分析ではaneuploid patternであり,悪性腫瘍の所見にあてはまりました.これらのことからこの症例を結節型黒色腫と確認診断しました.

ショック療法

著者: 辛島正志

ページ範囲:P.173 - P.173

 折にふれて想い出す症例がある.そのかたは43歳の女性で,重症の類天疱瘡であった.睡眠すら全くとれないほど痒みは強く,ステロイド内服しても,紅斑と水疱は日増しに増えていく.抗体価も数万倍のオーダーで推移する.当時入局6年目で病棟医長をしていた私は,健保で認可されたばかりの血漿交換療法を併用することにした.早速,透析室と交渉してベッドを確保し,業者に連絡して器材を揃えた.ICU研修医時代,透析は数多くこなしていたが,今回は業者の方で回路の組み立てをしてくれ,医者はカテーテルの挿入くらいをすればよいので,楽である.初回の血漿交換を無事に終え,患者さんも痒みが減ったと喜んだ.血漿交換を続けたが,症状は一進一退であった.免疫抑制剤もすでに併用している.パルスもした.それでも水疱はまだ出来る.抗体価もまだ高い.考え悩んだが,他に治療は思いつかない.ならば,血漿交換とともに突き進むしかない,と私は考えた.幸い患者さんに合併症もなく,血漿交換は続けられた.1か月たった頃,それは起こった.その日の血漿交換も終りかけた時である.患者さんが急に「痒くなった!」と叫び,四肢にみるみる蕁麻疹が広がった.血圧は下がり,アナフィラキシー・ショックである.落ち着いて対処して事なきを得たが,なぜショックを起こしたのか解らなかった.使用した器材や点滴はいつもと同じである.いつもと違うのはこの日に限って,朝のプレドニゾロンを内服していなかったことぐらいである.それよりも,もう血漿交換はできないかもしれない,これからどうやって治療すればいいのかという思いで一杯であった.ところが,翌日から皮疹が消え始めたのである.抗体価もどんどん下がった.まるでショックの時に抗体産生細胞が消滅したかのように.もしくは体のリセットボタンが押されたかのように.

ダニとの攻防

著者: 畑康樹

ページ範囲:P.177 - P.177

 当教室の真菌を扱うようになって早3年が経とうとしている.諸先生方に教わり,真菌の同定,ならびに培養,保存等に従事しているが,ある夏,ダニの大発生にみまわれ,大切な真菌の数多くを失ってしまった.ダニに汚染された真菌は一見しただけで独特の所見を呈し,これを顕微鏡で覗くとおぞましい,おどろおどうしたダニの輩がおいしそうに培地ならびに真菌の上を闊歩しているのが見える.そんなに不潔にしているわけでもないのにと思っていても,これまでこんなにダニにやられたことはないという先生方の視線は痛かった.しかし,ある学会で某教授がその施設でもその年ダニの大発生があり,苦慮しているとのお話をされているのを聞いてほっとしたのを覚えている.
 さて,以降我々は 1)スクリュウキャップからシリコン栓に代える,2)恒温器の中を大掃除し,ダニアースを噴霧,3)ダニに汚染された検体をいち早く発見し,始末する,などの対策を練って,ダニ防止に日夜励んでいる.1)により十分な酸素の供給ができなくなり真菌が死んでしまわないか,2)のダニアースの成分(ペルメトリン,サリチル酸フェニル)により真菌が影響を受けないだろうか等の不安はあったものの,現在のところダニの大発生からは免れている.しかし,単発性の発生は臨床材料を扱う点,不可避であり,油断は禁物で,今後もダニとの戦いは当分続きそうである.

漢方治療への近道

著者: 荒浪暁彦

ページ範囲:P.182 - P.182

 アトピー性皮膚炎治療は,我々皮膚科医にとって最大の関心事の一つである.主体はステロイド剤外用であるが,どうしても強いステロイド剤から抜け出せず,慢然と外用を続けてしまう症例がある.このような症例に,どのような治療をすれば良いかいつも悩んでいた.ある重症アトピー性皮膚炎に柴胡清肝湯が著効したことがきっかけで,私は漢方薬を使い始めた.簡単な教科書には,湿潤性皮疹には消固散,乾燥性皮疹には温清飲等々書かれており,その通り処方したがほとんど効かない.やはり漢方薬は役に立たないと,しばらくの間見切ってしまっていた.
 そんな折,たまたま漢方の大家の診療を見学する機会を得た.先生は,どの患者も必ず腹部を触わる.いわゆる腹診である.漢方の専門書には,必ず1つの漢方薬に対応して腹証の解説がしてある.本に従い見よう見まねでやってみると確かに改善率が上がる.西洋医学者にとってこれら漢方独特の診察法は奇怪なものである.しかし,例えば漢方常用処方解説には,「漢方薬を学ぶ場合に初めから近代西洋医学の立場で批判しながら研究したのでは漢方薬を正しく理解することは難しい.白紙になって漢方に取り組むことが必要である.」と書いてある.その通りだと思う.私のような未熟者でも古典に従って漢方薬を処方すると,その効果に驚く.皮疹の性状のみで判断していても効果は上がらないと思う.私は最初,漢方薬を馬鹿にしていたが,今は西洋薬と双壁を成す治療手段であると考えるようになった.これからもっともっと東洋医学的処方法を学んでいきたい.それが漢方治療の近道だと確信する.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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