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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科52巻5号

1998年04月発行

雑誌目次

特集 最近のトピックス1998 Clinical Dermatology 1998 1 最近話題の皮膚疾患

成人溶連菌性膿痂疹

著者: 西嶋攝子 ,   名村章子 ,   河合修三

ページ範囲:P.7 - P.12

 溶連菌による成人の膿痂疹の典型例とアトピー性皮膚炎(AD)に合併した非典型2例を供覧した.最近ADに合併して溶連菌による特異で重症の膿痂疹が増加しているとの報告が散見される.全国的に溶連菌による感染症がそれほど急激に増加しているか否かは疑問であるが,特定の施設での増加が観察されている.溶連菌と黄色ブドウ球菌(黄色ブ菌)の薬剤感受性には明らかな相違があるが,本来皮膚科領域感染症の原因菌は,主として黄色ブ菌であるため,黄色ブ菌の中でも耐性ブ菌に有効な薬剤選択は,溶連菌感染の増加につながる可能性がある.ADに溶連菌感染が増加している理由は明らかにされていないが,AD特有の皮膚症状あるいは皮膚の状態が,溶連菌の生着と増殖を容易にしているのかもしれない.

MRSAによる伝染性膿痂疹の臨床的,細菌学的,分子疫学的検討

著者: 加藤千草 ,   水嶋淳一 ,   石黒直子 ,   川島眞 ,   志関雅幸 ,   戸塚恭一 ,   内山竹彦 ,   五十嵐英夫

ページ範囲:P.14 - P.17

 1996年夏に,都内某保育園で流行したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による伝染性膿痂疹8例を検討し報告した.臨床的には一見,痂皮化途上にあると思わせる乾燥性のびらんと小水疱を特徴とした.細菌学的検討では,検出されたMRSAは薬剤感受性パターンが全例同一で,検討しえた7例では全例コアグラーゼI型,ファージI・III・V・雑群,表皮剥脱素B産生株であった.またパルスフィールドゲル電気泳動法による検討でDNAの切断パターンも一致し,同一菌株による水平感染であることが確認された.治療経過としては,当初メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)の膿痂疹と考えたものの中で,セフェム系が無効で一見痂皮化途上にあると思わせる皮疹が拡大するとともに小水疱を新生して遷延する症例があり,これらではMRSAが単独で検出され,MRSAの膿痂疹の臨床的特徴と考えられた.

アトピー性皮膚炎患者にみられる重症の角結膜病変について

著者: 檜垣祐子 ,   高村悦子 ,   川島眞

ページ範囲:P.18 - P.21

 アトピー性皮膚炎に合併する重症な角結膜病変のために視力障害を来す例が報告されている.過去5年間に当院では春季カタルに類似し,しかもより重症の角結膜病変を有する症例を22例経験した.このうち特に,角膜への血管侵入と混濁を認め,瞼結膜の肥厚や瘢痕化を伴うものや結膜の石垣状乳頭増殖に角膜潰瘍,プラークを伴うものが予後の点から重要であるが,この中に眼瞼皮膚炎のコントロールが不十分な症例があり,角結膜病変の増悪因子の一つとなっていると考えられた.すなわち眼瞼皮膚炎により眼瞼が固く腫脹,肥厚するため,閉瞼不全などの異常を来す結果,涙液の交換が不十分となり,乾燥,異物の貯留などによる上皮障害が起きる可能性が考えられる.したがってこれらの患者に対し,眼科医と密に連携し,増悪因子となりうる眼瞼皮膚炎に対し,適切な外用療法を行いコントロールすることが重要であると再認識された.

Chronic actinic dermatitis

著者: 木ノ内基史 ,   高橋英俊 ,   山本明美 ,   橋本喜夫 ,   飯塚一

ページ範囲:P.23 - P.27

 Chronic actinic dermatitis(CAD)は,特発性の慢性光線過敏症で中高年の男性に頻発する.自験11例もすべて男性で,受診時はすべて40歳以上であった.いずれも日光裸露部を主体に持続性の湿疹病変を認めたが,9例では非裸露部にも病変を認めた.光線テストではすべての症例でUVBのminimal erythema dose(MED)測定部に異常反応を認め,1例を除き短縮していた.CADは近年注目を集めている慢性光線過敏症の一型であるが,いまだその疾患概念,病因の解明や治療については問題点があると思われ,これらについて触れた.

海洋生物による皮膚疾患—ハブクラゲとウンバチイソギンチャクによる刺傷を中心に

著者: 仲本昌一 ,   上里博

ページ範囲:P.29 - P.33

 日本の南端に位置する沖縄県では,海洋性危険生物による刺傷が多くみられる.特に腔腸動物のハブクラゲとウンバチイソギンチャクは皮膚病変に加えて,重篤な全身症状が伴うことがある.ハブクラゲによる刺傷は最も頻度が多く,死亡例もみられる.皮膚病変は瘢痕を残す例や再発例もあり,全身管理や局所病変への対応を熟知しなければいけない.ウンバチイソギンチャクによる刺傷は,全身症状のみならず局所病変の強い壊死のため深い潰瘍形成や激痛を訴える.それら疾患の原因生物ないし臨床的特徴および治療について解説した.

Subgaleal linoma—自験9例の臨床および組織学的検討

著者: 田村敦志 ,   石川治 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.35 - P.38

 前額部の脂肪腫は皮下脂肪織内ではなく骨膜上に発生することが多く,subgaleal lipomaと呼ばれている.我々は過去5年間に9例の本症を経験した.いずれも,前頭筋と骨膜との間に発生し,9例中6例は内眼角よりも内側の正中付近に生じており,好発部位と考えられた.下床との可動性は臨床的に4例で可動性ありと判定されたが,術中所見では全例,下床の骨膜に固着しており,通常の表在性脂肪腫のように容易に摘出できるものではなかった.摘出標本の組織像では5例が通常の脂肪腫であったが,3例がfibrolipoma,1例がangiomyolipomaであり,脂肪腫の組織学的variantの頻度が高かった.subgaleal lipomaは本来脂肪織のない部位に発生すること,組織学的に成熟脂肪細胞以外の間葉系成分の増殖を伴う例が少なくないことから,極めて過誤腫的性格の強い腫瘍と考えられた.

強皮症および関連病態と悪性腫瘍

著者: 菊池かな子

ページ範囲:P.39 - P.42

 汎発性強皮症は膠原病の中では,多発性筋炎/皮膚筋炎に次いで悪性腫瘍の合併が高い.特に,高齢男性に初発した場合は,悪性腫瘍の合併に留意する必要がある.強皮症類縁疾患である好酸球性筋膜炎は比較的稀な疾患であるが,最近血液系悪性腫瘍のparaneoplastic syndromeとしての側面が強調されている.

2 皮膚疾患の病態

炎症性皮膚疾患とIL−1 receptor antagonist

著者: 照井正 ,   平尾哲二

ページ範囲:P.45 - P.49

 IL−1 receptor antagonist(IL−1 ra)はIL−1の作用を抑制するnatural antiinflammatory cytokineの一つであり,表皮角化細胞もIL−1 raを産生することが知られている.しかし,生体でどのような役割を果たしているか,まだ十分に明らかにされていない.私たちは炎症性皮膚疾患,おもに乾癬とアトピー性皮膚炎患者の病変部と対照非病変部からテープストリッピング法を用いて採取した角層中に含まれるIL−1αとIL−1raを測定した.すでに,健常人皮膚において,非露光部である上腕内側に比べて,露出部である顔面でIL−1raのIL−1αに対する比が高い値を示すことが報告されているので,部位別に比較検討した.その結果,病変部角層中のIL−1raのIL−1αに対する比の上昇は,乾癬ばかりでなくアトピー性皮膚炎をはじめとする他の機序で発症する炎症性皮膚疾患でもみられた.また,この比は治療とともに低下した.このように,IL−1raのIL−1αに対する比の上昇は炎症性皮膚疾患の病変部に共通してみられる現象であることが分かった.

皮膚炎症のリモデリングと線維化

著者: 安部正敏 ,   石川治 ,   黒沢元博 ,   天野博雄 ,   神戸直智 ,   五十嵐康 ,   宮地良樹 ,   木戸博

ページ範囲:P.50 - P.56

 ケロイドや創傷治癒過程,初期の全身性強皮症の病変部位には肥満細胞が増加する.この事実は,アレルギー遅発反応後のリモデリングの場や線維化疾患病変部において,肥満細胞が線維芽細胞の増殖あるいは細胞外マトリックスの構築や機能に影響を及ぼす可能性を示唆するものと思われる.これらの機序の一側面を検討するため,ヒト培養線維芽細胞とヒト培養肥満細胞を用いた検討を行った.その結果,肥満細胞との共生培養において線維芽細胞の増殖能は亢進したが,I型コラーゲン産生量は不変であった.また,肥満細胞をIgEで刺激すると線維芽細胞の増殖能は著明に亢進した.他方,肥満細胞由来のメディエーターは線維芽細胞の増殖能,I型コラーゲン産生量および細胞外マトリックスに対し様々に作用した.以上より皮膚炎症のリモデリングと線維化疾患において,肥満細胞およびそのメディエーターが関与する可能性が示唆された.

自己免疫の動物モデル

著者: 佐藤伸一

ページ範囲:P.57 - P.62

 B細胞の抗原レセプターを介するシグナルの閾値を適正に設定することは,B細胞の外来抗原に対する反応や自己抗原に対するトレランスを制御する上で必須である.CD 19およびCD 22はB細胞に特異的に発現するシグナル伝達分子である.In vivoでこれらの分子の機能を解析した結果,CD 19はB細胞のシグナルを増強し,一方CD 22は抑制することが明らかとなった.また,CD 19をより多く発現するCD 19トランスジェニックマウスおよびCD 22の発現を欠くCD 22ノックアウトマウスでは,ある種の自己抗体の産生が見られた.これはCD 19およびCD 22がB細胞の抗原レセプターを介するシグナルを変調させることによって,本来その働きが抑えられている自己反応性B細胞を活性化させたためと考えられた.また,これらのマウスは,さらに詳細に自己免疫の機序を調べるのに有用な新しい自己免疫の動物モデルになりうると考えられた.

Bowen病とヒト乳頭腫ウイルス

著者: 三石剛 ,   川島眞 ,   佐多徹太郎

ページ範囲:P.65 - P.70

 Bowen病の病変から種々の検索法でヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の検出を試み,HPVの型を同定し,その結果を述べた.HPV検出法としてコンセンサスPCR法は簡便であり,その型別には1)PCR産物を制限酵素で処理し,その切断パターンによる方法,2)PCR産物を直接シークエンス反応で解析する方法,3)PCR産物をpGEMT-Vectorに連結させ大腸菌JM 109株に組み込み,クローニングし,シークエンス反応で解析する方法を用い,さらには4)組織切片内で視覚的にHPV DNAの局在を確認するin situ hybridization法を用いる.われわれの検討では手指および外陰Bowen病の病変から高率にHPVが検出され,それらのHPVはすべてが粘膜型のhigh riskまたはintermediate risk群に属する型であった.粘膜型のHPVが手指および外陰Bowen病の発症因子の一つとして重要な役割を果たしていることが示唆された.

Epstein-Barrウイルスと皮膚リンフオーマ

著者: 大塚幹夫 ,   岩月啓氏 ,   金子史男

ページ範囲:P.71 - P.76

 Epstein-Barrウイルス(EBV)は日本人では成人のほぼ100%が感染しているウイルスであるが,近年造腫瘍ウイルスとして注目されている.EBVが関連しているリンパ腫はB細胞性,T細胞性,NK細胞性のものなどが知られ,細胞の起源にかかわらずかなり広い範囲のリンパ腫に関連していると考えられる.われわれは皮膚原発の悪性リンパ腫を中心に,皮膚病変を有するリンパ腫およびリンパ球増多症を対象としてEBV関連の有無を検索してきた.その結果,1)組織的にangiocentric lymphomaと診断されるリンパ腫,2)皮下脂肪織炎様の臨床,組織像で発症し,cytophagic histiocytic panniculitisとの異同が問題となるような皮下リンパ腫,3)小児のおもに顔面に壊死を伴う丘疹,水疱を多発してくるリンパ球増多症の症例でEBVが高率に検出された.

3 新しい検査法と診断法

血管腫のMRI診断—3種類の特徴的なMRI所見,およびshort inversion time inversion recovery(STIR)法の有用性について

著者: 倉持朗 ,   池田重雄

ページ範囲:P.79 - P.86

 皮膚血管腫に対しMRIを施行し,血管腫の種類によって,MRI画像は,描出される形態の特徴と内部構造の相異から,次の3グループに分類できた.〔group A〕はvenous racemous hemangiomaなどのグループで,全体が類円形で,内部signalが不均一であり,T1 low,T2 high,STIR highの大小顆粒状・不規則樹枝状の小構造が集籏したもので,Gd-DTPAにより不均一な造影効果を示すもの.〔group B〕は,strawberry markで,中期までの(a)は,微細な顆粒が集籏したT1 low,T2 high,STIR highの類円形のmassで,造影効果を示すもの.また消退期の(b)は,脂肪織の信号と類似しながら造影効果を残すもの.〔group C〕は,cirsoid angiomaで,T1,T2両者で点状のno(low)signalが集籏するmassで,造影効果を欠くもの.これらの画像は,各々の血管腫の特徴,すなわち〔group A〕=血管拡張(主に静脈性)+slow-flow,〔group B(a)〕=腫瘍性増殖(主に血管内皮・毛細血管性)+slow-flow,〔group C〕=血管拡張(主に動脈性)+high-flow,と相関していた.Cavernous lymphangiomaは,画像上group Aに類似していたが,Gd-DTPAでの造影効果がないことにより鑑別された.また脂肪抑制画像の一つであるSTIR法は,血管腫の描出に極めて有用であった.

皮膚疾患のlinkage analysis

著者: 宮村佳典 ,   河野通浩 ,   富田靖

ページ範囲:P.87 - P.91

 近年,従来の手法では原因を同定することが困難であった遺伝性疾患において,多くの疾患遺伝子が解明されつつある.その多くが患者家系を用いてlinkage analysis(連鎖解析)により疾患遺伝子座位を決定し,その領域をクローニングして候補遺伝子を挙げていき,それら候補遺伝子のうち,異常をもつ遺伝子,つまり疾患遺伝子を見つけ出すポジショナルクローニングと呼ばれる方法を用いている.近年,皮膚科領域でも本法は盛んに行われており,Hermansky-Padluk症候群やChediack-Higashi症候群はこの方法で疾患遺伝子が同定された.また,乾癬などの遺伝様式がはっきりしない疾患についても遺伝子座位を発見するため,努力が続けられている.本稿では,ポジショナルクローニングという一連の遺伝子解析法のfirst stepである連鎖解析の基本的な考え方を紹介する.

皮膚科における遺伝相談のトピックス—モザイクの遺伝

著者: 三橋善比古

ページ範囲:P.92 - P.95

 遺伝相談は,家系図を作成して遺伝関係を明らかにするところからはじまる.したがって,古典的メンデル式遺伝や多因子遺伝などの遺伝型式をよく知っておく必要がある.しかし実際は,これらに当てはまらない例もある.これらのうち,本稿ではモザイクの遺伝に注目して最近の知見をまとめた.すなわち,X染色体性モザイク,unstable pre-mutation, paradominant inheri-tance,接合後突然変異,戻りモザイク現象をとりあげ,例をあげて解説した.これらの遺伝現象のうち,あるものは分子遺伝学的手法を用いて証明され,またあるものはまだ仮説の域を出ていない.しかし,皮膚科領域の遺伝相談において,モザイクの臨床と遺伝を知ることは重要である.

4 皮膚疾患治療のポイント

アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用剤の使い方

著者: 中村晃一郎 ,   湧川基史 ,   福中秀典 ,   林伸和 ,   古江増隆 ,   玉置邦彦

ページ範囲:P.99 - P.102

 ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎(AD)の治療において中心的な役割を担っており,ADの長期コントロールに必要不可欠な薬剤である.しかし,近年成人型ADの顔面の難治性紅斑,頸部色素沈着などの難治性皮膚病変の出現が社会問題となっており,ステロイドを危惧するなどの極端な意見も報じられている.ステロイドの副作用を警戒するあまり,ステロイドを外用しなかったり,弱すぎるステロイド外用療法のみを行えば,ADの皮疹を鎮静化することができず患者の満足を得られない.我々はADのステロイド治療法として,まず十分なステロイド外用を行い,次に弱いステロイド剤,保湿剤を用いることによって,長期的なADのコントロールを心がけている.ステロイド外用剤のもつ副作用を把握し,有効にステロイド外用剤を投与することが,ADの皮疹のコントロールに必要と思われる.

脱ステロイド療法の総括—方法と限界

著者: 清水良輔

ページ範囲:P.103 - P.107

 アトピー性皮膚炎(以下AD)の難治化とそれに伴って起こるステロイド依存症・恐怖症という概念が現代のADの病態・治療を考える上で重要である.ステロイド依存,脱ステロイド,そしてリバウンド現象という一種の“どん底体験”をきっかけに,心理社会的な増悪要因やその受け止め手としての人格特性,またその人格特性をはぐくんだ家族システム等に気づいたり,それらを自覚せずとも疾患の極端な増悪が生活をいったんストップしてしまう結果となることで,自然に本人や家族に行動の変容をもたらすことが脱ステロイドでADが良くなる最大の理由であると思われる.我々皮膚科医はステロイドの適正使用を再検討すべきであるし,そういう病態に陥りやすい患者サイドの心理的要因にもっと配慮すべきと思われ,脱ステロイドを行うにも心理治療という枠組みのなかで行うことが最も重要である.

アトピー性皮膚炎における保湿剤の使い方

著者: 井上奈津彦 ,   上出良一

ページ範囲:P.108 - P.112

 生体の水分バリアは,表皮細胞構築と角質層,皮脂膜などで構成されている.中でも角質細胞間脂質であるセラミドの減少が,アトピー性皮膚炎に特徴的なdry skinの成因に関与しているとして,注目されている1).アトピー性皮膚炎はアレルギー性炎症という側面と,このdry skinが関与するバリア機能低下という非アレルギー的側面を有する.このことから治療法も二面性を持たせることが合理的であると考えられてきた.つまりアレルギー性の炎症から起こる湿疹・皮膚炎には,抗原の除去とともに抗アレルギー剤,ステロイド外用剤が有用であり,dry skinには増悪因子の除去と,保湿剤が必要となる.保湿剤の中から臨床上よく使用される,尿素軟膏,ヒルドイド軟膏®,ワセリン,保湿入浴剤についてそれぞれの特徴とアトピー性皮膚炎における使い方を概説した.

Red faoeの漢方療法

著者: 森松進 ,   関太輔 ,   諸橋正昭

ページ範囲:P.114 - P.117

 成人型アトピー性皮膚炎,特に顔面の紅斑が強い,いわゆる顔面紅斑型のものに対して,サーモグラフィーを用いた漢方方剤の選択を行っている.漢方医学的に適応となる漢方薬をある程度絞り込んだ後,試験的に漢方薬を内服させ内服前後の顔面の皮膚表面温度をサーモグラフィーを用いて測定,表面温度に低下傾向のみられるものを投与している.成人型アトピー性皮膚炎にみられる顔面紅斑,ほてりに対する漢方治療,またわれわれが現在行っているサーモグラフィーを用いた漢方方剤の選択方法およびその臨床効果について報告する.

脂漏性皮膚炎の抗真菌外用療法

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.118 - P.121

 脂漏性皮膚炎は,脂漏部位および間擦部位に好発する皮膚病変で,dandruff(フケ症)も脂漏性皮膚炎の前駆症状と考えられている.そのため,フケ症も含めると脂漏性皮膚炎患者はかなりの数になる.本症はステロイドによく反応するが,治療を中止すると容易に再発を繰り返すため,副作用が少なく,かつ根治的治療法が求められていた.一方,Malassezia furfurは健康人に普遍的に存在する酵母様真菌であるが,近年この真菌に抗菌活性を有している抗真菌剤が脂漏性皮膚炎に有効であることが報告され,ステロイド外用と比べ再発率,または再発までの日数,あるいは副作用発現率の点で優れていることが報告されるようになった.したがって,今後脂漏性皮膚炎に対する第1選択薬はM.furfurに抗菌活性を有する抗真菌剤となる可能性が高く,特にフケ症の治療には,抗真菌剤を含有したシャンプーの使用が便利であると思われる.

掌蹠膿疱症治療のポイント

著者: 冨樫きょう子 ,   橋本明彦

ページ範囲:P.123 - P.128

 慢性感染病巣の除去は掌蹠膿庖症の有効な治療で,扁桃病巣に次いで歯科の病巣治療が重要と考えられている.金属アレルギーが原因と考えられる症例も報告されており,歯科治療時には口腔内アレルゲン金属の除去も考慮しなければならない.また,掌蹠膿疱症の患者に,糖尿病や甲状腺疾患の合併が多いことも指摘されており,これらの合併症に注意し,適切な治療を行うことが必要である.我々は,掌蹠膿疱症患者29例について歯科に病巣の精査を依頼し,27例に根尖病巣を有するか,齲蝕または歯周疾患で抜歯を必要とする歯を認めた.金属アレルギーを認めたものは29例中14例で,口腔内金属の分析でアレルゲン金属を含有する修復物を認めたものが5例,認めないものが7例,2例は分析中である.歯科の病巣治療を行い,現在までに7例が著明な改善をみている.改善した7例のうち1例はアレルゲン金属の除去も行った.29例中5例に糖尿病の合併を認め,甲状腺疾患の合併は1例であった.歯科治療で改善した7例のうち1例は糖尿病で,食事療法も症状の改善に関与した可能性が考えられた.

小児と日光浴

著者: 市橋正光

ページ範囲:P.129 - P.133

 太陽紫外線はヒト皮膚に日焼け(サンバーン)を誘発し,同時に表皮細胞の遺伝子DNAを損傷する.精度の高い修復活性やアポトーシスによる選別で遺伝子に突然変異を生じることは少ない.しかし,子供の頃から繰り返すサンバーンにより細胞増殖に関わる複数の遺伝子に変異が生じ,がん細胞となる.また紫外線は一時的に免疫を抑制する.さらに,疫学的にも子供の頃の日光曝露や強い日焼けが老人の皮膚がんの大きな誘因であることも明らかにされている.一方,健康に不可欠と考えられた小児の日光浴も,血清中活性型ビタミンD3濃度に関しては不要とのデーターがある.子供の頃から,上手に遮光し,無駄な日焼けをしないことが,成人,老人になっても若々しい健康な皮膚を保つ秘訣である.

爪真菌症の新しい内服療法—抗真菌薬の間欠療法・パルス療法・短期投与療法

著者: 比留間政太郎

ページ範囲:P.135 - P.139

 新しい内用抗真菌薬(フルコナゾール,イトラコナゾール,テルビナフィン)の登場によって,爪真菌症(onychomycosis)の治療が,従来よりもより容易になったことは確かである.爪真菌症においては,原因菌の検索のほか,1)爪の内部における薬物の動態の検索,2)QOLへの影響,3)治療に要する費用なども考慮されるようになった.また,内服方法については間欠療法・パルス療法・短期投与法などが考案され,治療成績も上がったようである.副作用としては,肝機能障害,薬物の相互の副作用,薬疹などが問題となる.今後は,各投与法における,投与量,投与間隔,投与期間などの更なる検討が必要である.なお,爪真菌症の病状は,手足の美容について問題を起こすだけでなく,引いては患者に精神的負担を与え,QOLの問題ともなる.したがって,医師は爪真菌症の治療に積極的に取り組むことが必要である.

インターフェロンγによる疣贅の治療

著者: 白浜茂穂 ,   羽根田牧

ページ範囲:P.141 - P.144

 難治性の疣贅にインターフェロンγ(IFN—γ)の局所投与を行い良好な結果を得た.患者は25歳男性で手指背,および22歳の男性で右足底.それぞれ罹患期間は5年と3年で,様々な治療に抵抗を示した.疣贅の治療としてricombinant IFN—γを局所投与した.週1〜2回の投与回数で計7〜10回で略治した.疣贅はウイルス性疾患であるが,有効な抗ウイルス剤はなく,液体窒素療法,ブレオマイシンの局注,ヨクイニンエキス錠の内服,ポドフィリンチンキの外用などが行われている.いまだに確定的なものがなく,しばしぼ治療に難渋する症例に遭遇する.様々な治療に抵抗を示す例においてIFN—γの局所投与治療は試みてよい治療法の一つであると考えられた.

全身性エリテマトーデスの免疫吸着法による血漿交換療法

著者: 古川福実 ,   大橋弘幸

ページ範囲:P.146 - P.151

 重症全身性エリテマトーデス(SLE)に対してステロイドのパルス療法や免疫抑制剤の併用やいくつかの血液浄化法が用いられ有効な成績をあげている.血液浄化法は,1)パルスを含めた通常のステロイドや免疫抑制剤による治療に抵抗性で,特に重症な腎症状,中枢神経症状,肺出血などを伴った症例,および2)副作用のため十分量のステロイドを使用できない症例などが対象となっている.中でも免疫吸着法は選択的に病因物質を除去する方法で,抗DNA抗体高値を示す活動期のSLEに対してプレドニゾロンや他の免疫抑制剤との併用療法として有用で,二重濾過膜法に比べ,より特異的な治療であることが明確になりつつある.

皮膚筋炎の予後因子

著者: 土田哲也

ページ範囲:P.152 - P.156

 皮膚筋炎の予後因子を,間質性肺病変,悪性腫瘍などの直接的予後因子,および皮膚症状,抗核抗体などの間接的予後因子とに分けて,それぞれの関連を含めて考察した.間質性肺病変例の中で,生命的予後を最も規定する臨床型は急性進行群であるが,それは組織学的にdiffuse alveolar damageに対応する.そして,筋症状軽度,CK低値,Jo−1抗体陰性で急性進行性間質性肺病変を生じる予後不良の一群が存在する.また一方では,筋症状の軽度な皮膚筋炎の中には予後良好な一群も含まれる.悪性腫瘍合併は成人皮膚筋炎の死因として最も多数を占め,皮膚症状との関連では水疱形成と婦人科的悪性腫瘍合併との関連が注目されている.抗核抗体の中には,皮膚筋炎の臨床的特徴と相関がみられるものがある.

菌状息肉症の治療

著者: 河井一浩 ,   皆川正弘

ページ範囲:P.157 - P.161

 菌状息肉症の治療には,外用療法,PUVA療法,放射線療法等の局所療法およびBRM療法,化学療法等の全身療法が用いられる.実際の治療法は病期分類に基づいて選択するが,患者の背景とQOLも考慮する必要がある.

陥入爪の短時間フェノール法

著者: 村下理

ページ範囲:P.163 - P.166

 陥入爪の外科的治療法には従来より行われている楔状切除法や術後の外観を配慮する爪床形成法などがあるが,術後の疼痛や手技の煩雑さなどの欠点がある.フェノール法は手技が比較的簡便で術後の疼痛が少ない長所があり,広く一般に受け入れられつつある治療法である.しかし他の外科療法と同様の爪再生抑制効果を得るために長時間のフェノール焼灼が行われている.そのために創部の治癒が遷延し,完治するまで3〜4週間かかってしまうのが大きな欠点である.筆者はフェノールの作用時間を短くすることにより1週間以内に治癒させている.この方法では爪甲の再生率は増加するものの,陥入爪の症状の再発はほとんど認められていない.爪甲の再生率は今後の本法の改良により改善が期待できる.本法は外来診療における陥入爪の外科的治療の第1選択になり得ると思われる.

炭酸ガスレーザーの皮膚疾患への応用

著者: 橋本透

ページ範囲:P.167 - P.172

 炭酸ガスレーザーは,大部分が組織中に含まれる水分に吸収され著明な熱効果を現す.皮膚科領域では組織を蒸散する目的でdefocused beamで用いられており,各種の皮膚良性腫瘍の治療に適応がある.我々は,既に汗管腫,毛細血管拡張性肉芽腫,眼瞼黄色腫,脂漏性角化症,labial melanosisに炭酸ガスレーザー治療を行い良好な結果を得ている.いずれも切除に比し術中の出血は少なく,簡便で術後の疼痛もほとんどない.また本法は,粘液嚢腫,静脈湖などの口腔病変に対しても極めて有用である.炭酸ガスレーザーは,他のレーザー機器に比し安価で,日常的なこれら病変に対して推奨される治療法であろう.

組織伸展法による皮膚形成術

著者: 竹之内辰也 ,   須山孝雪 ,   伊藤雅章

ページ範囲:P.173 - P.177

 大きな皮膚欠損を再建するための組織伸展法は,内部からバッグを拡張させるinternal expansionと,体外から創縁を牽引するexternal expansionに大別される.前者としては,従来行われてきた長期間留置のtissue expansionに加えて,早期伸展を目的とした短時間expan-sionも行われている.後者としては,術前に伸展を得るためのpresuturingや,MIAMI STAR,Sure-ClosureTMといった牽引器具を利用した伸展法が普及してきている.これらにはそれぞれ一長一短があり,目的とする皮膚欠損の大きさ,部位,患者の年齢や状態などを考慮した上での治療法の選択が必要である.若干の自験例を含めて,主に早期伸展法につき概説した.

5 皮膚科医のための臨床トピックス

寄生虫感染とアレルギー疾患

著者: 藤田紘一郎

ページ範囲:P.181 - P.183

 寄生虫は高次な異物認識・免疫応答機構を備えた宿主に対して安定な寄生状態を確立するためhost-parasite間で種々の適応戦略を試みてきたものと思われる.その過程で,寄生虫は宿主側の防御機構であるIgE産生応答を逆手に利用し,非特異的IgE抗体産生を通じて,ヒトのアレルギー反応を抑制してきたものと思われる.筆者は寄生虫の分泌・排泄液から宿主にIgE抗体を誘導する物質を精製した.この物質が生きた寄生虫と同様にIgE-MAPの活性や肥満細胞の脱顆粒を長期間にわたって抑制するための方策が今後に課せられた課題である.

ダニと人間

著者: 上村清

ページ範囲:P.184 - P.186

 皮疹とかゆみをもたらすイエダニ,サシダニ類や,ツメダニ類,シラミダニ,クロバーハダニ,ハマベアナタカラダニ,疥癬を起こすヒゼンダニ,志虫病を起こすツツガムシ類,日本紅斑病,Q熱,エーリキア症,ライム病,ダニ脳炎,バベシア症などを起こすマダニ類,ダニアレルギーを起こすヒョウヒダニ類などに関する最近の話題を紹介した.

日焼けサロンと皮膚障害

著者: 松尾光馬 ,   上出良一

ページ範囲:P.187 - P.189

 全国大学附属病院と日本臨床皮膚科医学会東京支部会員を対象に,人工的タンニング装置に起因する健康障害のアンケート調査を行った.119名の健康障害患者が報告され,男女比はほぼ1:1,10代と20代が8割近くを占めた.障害の内容としてサンバーン様症状,色素性病変,疼痛,掻痒,乾燥,光線過敏症,眼障害,その他がみられた.人工的タンニングに対して否定的な意見が約8割を占めた.皮膚科医としてUVA照射による人工的タンニングの危険性を一般に啓蒙していく必要がある.

レジオネラ感染症

著者: 西野武志

ページ範囲:P.190 - P.192

 Legionella Pneumophilaによる感染は,本菌によつて汚染された水が,冷却塔,蒸気発生装置,シャワーヘッド,噴霧吸入装置などの様々な機器により飛散した小さな水の粒(エロゾール)として空気中に拡散され,これに大量暴露されたヒトが感染するものと考えられる.レジオネラ感染症には,レジオネラ肺炎(在郷軍人病)と軽症で予後が良好なポンティアック熱の2つの病型が存在する.L.pneumnophilaは細胞内増殖性細菌であるので,その治療には細胞内によく移行するマクロライド系抗生物質のエリスロマイシン,リファンピシン,テトラサイクリン系抗生物質のミノサイクリンなどが使用される.

体圧分散寝具の特徴とその使用方法

著者: 真田弘美 ,   須釜淳子

ページ範囲:P.193 - P.195

 褥瘡は圧迫が原因で発生する.したがって,患者の骨突起部位の圧管理として体圧分散寝具の導入は重要な意味をもつ.体圧分散寝具は,接触面積を拡大または圧を再分配することによって,患者に減圧を提供する寝具であると定義され,使用方法により,上敷,代替,特殊ベッドに分類される.特殊ベッドは体圧管理においては理想的ではあるが,費用や維持管理において問題があり,使用時期や患者が限定される.代替と上敷の場合は,体圧の他に寝ごこち,体位変換のしやすさおよび患者の治療目標から,寝具の素材と圧分散のしくみを決定し,選択する.

イエローレターの読み方

著者: 望月眞弓 ,   上田志朗

ページ範囲:P.196 - P.198

 緊急安全性情報(イエローレター)は医薬品等に関する緊急かつ極めて重要な安全性情報を伝達するために配布される.これを受けた医療関係者は,迅速にその内容を診療に適用することが大切である.

Derm.'98

皮膚科の中の—Ph. D. の苦悩

著者: 瀬尾尚宏

ページ範囲:P.12 - P.12

 癌という病気の免疫学的に最も注目すべき点は,癌細胞の排除に関係する免疫反応がなぜ起こらないのかということです.ところが近年の癌免疫学研究は癌の免疫治療を目指した細胞障害性T細胞の癌細胞認識機構の研究がほとんどで,この重要な命題を無視したものとなっています.これにはそれなりの理由があるわけですが,私の研究を例にお話ししようと思います。免疫反応というのは癌でも感染症でもそうですが,初期に円滑に反応が起こるかどうかが決定されます.マウスに癌細胞を移植した時は移植後5日目から7日目に免疫抑制反応が起こります.ところが,1)担癌初期に得られる癌組織は直径2〜3mm程度で,どんなにたくさんのマウスを使っても癌組織からのリンパ球抽出操作はリンパ球が居るか居ないか判らない抽出液を居ると思って行う盲目操作となり,少ない癌浸潤リンパ球を培養して増やし何とか研究することになります(研究の曖昧性).2)やっとリンパ球が取れたと思って喜んでいるのも束の間,もともと癌細胞は免疫反応が起こりづらい細胞ですから,あらゆるアッセイの結果の値は,常に低いものとなります(結果の信頼性の欠除).3)やっとある程度の結果が出て論文を書き投稿すると,こんどはコメントに「抽出したばかりの細胞ではどうなるか」など,あなたならどうやってたくさんのリンパ球を得るの?と逆質問したくなるものばかりであります(公表の困難性).以上が癌免疫研究をした者ならだれでも経験する障壁であります.しかしながら常日頃からこの研究なくしては真の癌免疫治療はありえないと考えている偏屈者の私は,日々癌組織と格闘するのであります.

神々の黄昏

著者: 山西清文

ページ範囲:P.21 - P.21

 数年前になりますが,厚生省の研究班で表皮水疱症の研究を分担させて頂く機会がありました.当初,水疱症については研究実績もなく,どのように研究を進めるべきか,考え込んでいたときに,先天性表皮水疱症単純型(EBS)の孤発例と考えられる若い女性の患者さんが受診されました.EBSでは,すでにケラチンK14,K5の変異が幾つか報告されていましたので,ご本人,ご家族と相談のうえ,早速,ケラチン遺伝子変異の解析を実施しました.K14の偽遺伝子に悩まされましたが,なんとかK14,K5遺伝子の塩基配列をシーケンスできるようになり,最終的に,K14に新規突然変異を見いだしました.患者さんはその後結婚し,第1子を出産されましたが,そのお子さんは生後3日目より水疱が生じており,母親と同じ遺伝子変異を認めることから,K14遺伝子がこのEBS家系の責任遺伝子であることは確実です.そして現在,患者さんは妊娠9週,胎盤の絨毛組織をもちいて第2子の遺伝子診断が可能です.
 この症例を契機に,私は先天性皮膚疾患の遺伝子変異と病態に興味を抱くようになったわけですが,誰しも平均6個程度はどこかの遺伝子に変異があるらしく,疾患を発症するか否かは“神々”の気まぐれに左右されているようにも思えます.このように,生命現象は,いまだ謎めいて不可解ですが,そのなかに合理性を見いだそうとするのがサイエンスで,ときには,われわれの知恵で“神々”に一ぱい食わせることができるかもしれません.

1週間の命

著者: 上田正登

ページ範囲:P.56 - P.56

 2月の下句,一人の青年の死を看取った.メラノーマの患者で,こちらに来られた時には既に転移巣があった.約2年間のつき合いであった.死の1週間前に突然急速に貧血が悪化した.肝臓の転移巣からの腹腔内出血と判明,放射線科医による血管造影下の塞栓術が効を奏し小康状態となった.この日より家族による泊り込みの看護が始まる.DICも併発しており高度の貧血は持続的に続いた.彼の意識は常に清明であり,自分の病気の状態については十分理解していたにもかかわらず,諦めを口にせず,治りたいという強い気持ちを表に出した闘いに見てとれた.時期も長野オリンピックが華やかに開催されており,スピードスケートのゴールドメダリストの活躍を喜こびながらも,同い年の自分がおかれた状況に悔し涙を流し,自分自身が最も好きだったスキーではジャンプ陣の大逆転劇に心を鼓舞されたという.この間,多量の血液と血液製剤が投与された.投与を止めれば彼の命はそれと同時に絶えるのである.最期は肺出血による呼吸不全であった.
 そして病理解剖を終えてひと息ついた時に頭に浮かんだ事は,これから生じるであろう医療費をめぐる愉快とは言い難い種々の問題であった.症状詳記を書いてレセプトを提出しても大幅に減点され,それに対して再審査請求を書く.それでも減点は復活せずに,次は病院の保険委員会等でお叱りを受けることとなる.医療費削減の必要性も重要性もよく理解できるのだが….とにかく憂うつな気分である.

乾癬の治療——臨床皮膚科医からの雑感

著者: 澤村大輔

ページ範囲:P.62 - P.62

 皮膚科の日常診療をある程度の期間行っていると,皮膚科医ならば必ず乾癬の患者さんの主治医となっているはずであり,必ず困ったことや痛い目にあっているのではないかと思う.私も同様で,乾癬の患者さんを入院させて思いきり戦い皮疹をなくして退院,勝ったと思っても3か月後に入院前より悪化して来院されるとか,チガソン®を内服して頂いて皮疹は軽快したが,正常の皮膚の菲薄化,口唇炎,爪囲炎などで患者さんから止めてくれと言われたり.
 乾癬の治療として,シクロスポリン内服やビタミンD3外用療法など新しい療法が出てきているが,その即効性,経済性などから日本中すべての患者さんについて見れば,頻度はステロイド外用が一番多いと思う.いくらステロイドの副作用を説明しても,患者さんが強く希望されることもある.どうも,一所懸命,皮疹をすべて寛解させようと頻回に来院し外用剤をたくさんもらっている真面目な患者さんが,ひどいように感じる.特に,若い女性や女の子などは,ステロイドがどんどん強くなり,皮疹の範囲も逆に拡がっているような気がする.一方,ある程度“達観”した中高年の男性などは,来院するのは半年に1回,外用するのも週1〜2回,新しい治療が出ましたなどと言っても,“それ本当に効くの?”とのってこない,そういう患者さんがひどくないのである.確かに,初めからそういう乾癬のタイプかもしれないが,ステロイド全盛のこの時代,乾癬を寛容し人生の伴侶として認めることも患者さんにとってはプラスになることもあるのかもしれない.もちろん,だからと言って,私自身ステロイド療法を否定しているわけではない.また,多くの皮膚科医が,乾癬の脱ステロイドに必死に取り組んでいるのもよくわかる.乾癬は,むずかしいのである.

喫煙と掌蹠膿疱症

著者: 堀口大輔

ページ範囲:P.70 - P.70

 学生時代の皮膚科のポリクリ,その後皮膚科の医局に入局してからの研修医時代を通じて,山田瑞穂前浜松医大皮膚科教授がどんな患者さんが来ても「たばこをやめなさい.あんなものが皮膚にいいわけがないでしょう.」と話されるのを聞いて愛煙家の私はいつも小さくなっていたものでした.でも私は最近は少々しわやしみは出来たものの,いわゆる皮膚病というものには縁がないもので,患者さんにも禁煙を勧めたことはなかったのです.ところがこの5年ぐらいの間に外来を受診した掌蹠膿疱症の患者さんのほとんど(女性は100%)が喫煙者(多くは1日20本以上のヘビースモーカー)であり,さすがに禁煙を指導するようになりました.しかし禁煙しただけではこの難治な病気は治るものではなく,いろいろな薬剤を使ったり,中には耳鼻科に頼んで扁桃摘出をしてもらったりしておりました.そんなある日,外来の看護婦さんの一言,「先生,そういえば掌蹠膿疱症のデパートの店員さん.ストレスでたばこ吸いすぎたらきれいになっちゃったって言ってましたよ.」あれだけいろいろやって治らなかったのにわからんものです.

患者を診るということ

著者: 五十嵐泰子

ページ範囲:P.76 - P.76

 皮膚筋炎の診断のもと26歳の男性が入院してきた.一見明るく,人なつこい青年であった.病状,治療内容などを説明し,プレドニゾロン60mg/日の内服を開始した.皮膚筋炎自体はプレドニゾロンに反応し,症状,検査所見ともに軽快傾向であったが,もともとの神経質な性格にステロイドの影響もあってか,しばらくして精神状態が不安定となり,うつ状態に陥ることもあった.精神科に相談するとともに,主治医であった私は,患者の不安を少しでも取り去ろうと,毎日1時間近くいろいろな話をし,患者とよい関係を築く努力をした.ある日,突然右手から前腕にかけて疼痛を伴った紅斑,腫脹が出現した.血小板第4因子,β-トロンボグロブリンの上昇もみられ,血栓性静脈炎を疑ってリマプロストアルファデクスの内服を開始した.徐々に症状は軽快したものの,ステロイドの長期内服による血栓形成を防ぐため,リマプロストアルファデクスはそのまま継続にした.入院して2か月が過ぎた頃,患者の入院に対するストレスが強くなり,激しいうつ状態に陥ったため,プレドニゾロン45mg/日の時点で退院とした.
 その後,精神状態に波はあるものの全体的に経過は良好であったが,退院の10か月後,患者からリマプロストアルファデクスの内服はずっと行っていなかったと告白された.入院中突然右手から前腕にかけて出現した紅斑,腫脹は,入院のストレスや家族への不満などから患者自身が壁に握り拳を打ち付けた結果であり,自然に治ると思ったというのだ.精神面にはかなり注意を払っていたつもりであったが,そのことに全く気づかなかった私は,自分の未熟さを実感するとともに,病気だけでなく患者を診る難しさを痛感した.

たかがイボ,されどイボ

著者: 本多章乃

ページ範囲:P.133 - P.133

 ヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma virus;HPV)は,少し前まではいぼウイルス程度にしか認識されていませんでしたが,その後婦人科領域で子宮頸癌からそのDNAが検出されるようになって,俄然注目を浴びるようになり,皮膚科領域でもbowenoid papulosisから16型が検出されたのにつづき,Bowen病からも16型,34型,58型などが同定されています.研究も進んで現在80型まで登録され,その型によって特異的細胞変性効果があることは周知の通りです.と,ここまでは学術的な話ですが,実際にいわゆるいぼ・尋常性疣贅の患者さんを治療して感じることは,随分と治療に対する反応に差があるということです.毎週きちんと通院してもらって液体窒素療法を施行し,角化が強ければスピール膏を貼布して削り,時にはグルタールアルデヒド溶液を塗布しても,なかなか目に見えては良くならないことがあります.誰がどうみても2型関連(2,7,57型)のHPV感染によるごく普通のcommon wartであってもです.そんな時,私は患者さんに「このいぼは根性がありますね.」などと言うのですが,半分冗談で半分は本気です.同じ日本人にもいろいろな人がいるように,やはりウイルスもDNAをもつひとつの生き物ですから,同じ型といっても性格?の差があるのではないかと思うのです.現在のところ,いぼに対する決定的な治療法はありませんが,いずれ1滴つければいぼウイルスが全滅するような特効薬ができることでしょう.少し寂しいような気もしますが.

外用剤のショックはこわい

著者: 佐藤俊樹

ページ範囲:P.144 - P.144

 患者さんは62歳女性.仙骨部の慢性放射線潰瘍に対してrotation flapで被覆したが,flapの先端に壊死が生じてしまった.植皮術を予定し,壊死にて生じた潰瘍面に対して各種消毒薬および外用剤を用いて創面の清浄化を図っていた.ある日,創部およびその周囲に紅斑,丘疹が生じた.外用剤による接触皮膚炎を考え,パッチテストで陽性であった薬剤を中止,変更した.しかし,徐々に体幹,四肢にも紅色丘疹および膨疹様紅斑が出現し,何となくおかしいと感じていた.パッチテスト判定の8H後の15:00,突然上腹部痛が生じ,顔面蒼白となった.5分ほどで症状は軽快したが,16:30,全身に膨疹が多発した.強ミノC®とサクシゾン®を静注.19:30,洗面所で倒れているのを発見.脈拍78/min,血圧106/68mmHg,顔色不良で嘔気を伴い,膨疹も多数みられた.蕁麻疹にしてはおかしいと思いつつ静脈カテーテルを留置し,ソル・コーテフ®の静注を行った.21:00,突然血圧が44/30mmHgと下降した.このときようやくアナフィラキシーショックであることを理解した.循環器内科医師をcallし,エホチール®をone shot静注,イノバン®の持続静注を開始.ショックの原因を潰瘍処置に使用した薬剤と考え,創部を洗浄した.ソル・メドロール®も持続静注した.イノバン®のみでは血圧100台を維持できず,エピネフリン持続静注も併用した.翌朝,ようやく血圧が安定し,夕方にはカテコラミンを終了,翌々日にステロイドも終了した.原因は,DLSTなどにより,処置に使った皮膚潰瘍治療薬と外用抗生剤と考えた.なんとか救命しえたが本当にこわくて冷や汗をかいた.この経験から,外用剤によるショックは徐々に症状が現れることがわかった.数々のサインがありながら見落としていた恥ずかしい経験ではあるが,他山の石として注意してほしい.

正常?異常?

著者: 須藤一

ページ範囲:P.151 - P.151

 最近,診察をしていて気づいたことがあります.毎日たくさんの患者さんを診ていて今更こんなことを言うのもどうかと思われるのですが,やっと正常なところと異常なところ(病気?)の違いがわかるようになってきました.腫瘍や感染性疾患ならば,「ここがちょっとあやしい!」などと思うのですが,炎症性疾患では,ひとりひとりの肌の微妙な違いもあり,さまざまな正常がわからなければ,異常すらわからないようなのです.あるエピソードです.中年のご婦人が外来にやってきて,「先生,顔が赤くなってしまったのですが…….」「どこですか?」「ここです,いつもより赤いんです.」と言われます.そこをよくみても全く正常に見え,(私はあなたの知り合いでもないし,いつもより赤いっていわれてもなあ……と思いながら)「それじゃあ,薬を出しておきますね.」などというやりとりをし,その1週間後,再び彼女がやってきて,「先生,すごくよくなりました.」「あー……,そうですか…….」(よくよくみても,全く変わっていないように見えるんだけどなあ?)というようなことがありました.しかし最近になって,患者さんの言っていることは確かに正しくて,正常なところは正常だし,異常なところはやはり異常なのだとやっとわかってきました.皮膚の診療は見た目の勝負です.どこが正常なところでどこがどう異常なところかわからなければ,治療も始まりません.しかし,皮膚科医の眼で異常なところを鋭敏に判別できれば,それがどんな原因でそうなったのかを判断できますし,治療をする上でも非常に役に立ちます.これからもなおいっそう“皮膚科医の眼”を研ぎ澄まして診療に研究に励みたいと思います.

色素性痒疹とダイエット

著者: 寺木祐一

ページ範囲:P.156 - P.156

 色素性痒疹に関してはこの特集号の「[臨床皮膚科—最近のトピックス』でも2回ほど取り上げられているが,日本人が記載した数少ない皮膚病の中でも皮膚科医を引きつけるユニークな疾患だからであろう.色素性痒疹の原因は未だ完全に解明されたわけではないが,近年ダイエットとの関連を示す症例が多数報告されており,少なくともダイエットは発症誘因の一つとして疑いはなさそうである.
 さて2年ほど前に読んだ月刊の「文藝春秋」に興味ある記事がでていた.その記事は確か“日本におけるダイエット史”といったような題であったことを記憶しているが,その記事によればダイエットの指導が本来なされるべき医師などの手を放れて民間の手に下ってきたのが丁度1970年前後だとのことであった.すなわち今日タレントなどをはじめとする“私のダイエット法”なる類の本が盛んであるが(数年周期で大ヒットする本があるようだ),その記念すべき第1号がその年あたりに出版された弘田美枝子(筆者ぐらい以上の)年代の者は知っている歌手である)による確か“ミエコのダイエット”なる本だそうで,これを契機として続々とその手の本が出版され,世にダイエットブームをわき起こし今日に至っている.周知のように色素性痒疹が初めて報告されたのが奇しくも1971年であり,単なる偶然ではないであろうとこの記事を読みながら驚いた.1970年というと大阪で万国博覧会も開催された年で戦後の高度成長も佳境に入り,世は豊満の時代になりつつあり,ダイエットの需要も増してきたものと想像する.以前,長島先生に昔は色素性痒疹のような症例はなかったのですかと尋ねたことがあるが,昔はあまりなかったようだとおっしゃっていたように覚えている.昔はダイエットなどをする余裕のある時代ではなかったので,本当にこの疾患はあまりみられなかったのかもしれない.疾患も世につれてという例であろう.

漢方薬処方に際し

著者: 桧垣修一

ページ範囲:P.166 - P.166

 昨今各種皮膚疾患に対する西洋薬の治療薬,治療技術および診断技術等の進歩に著しいものがある.また,漢方薬が薬価収載後頻用され,古くから和漢薬が有名な富山でも各医療機関で使用されている.
 小生なりに今まで漢方と細菌に関する基礎研究を行ってきたが,臨床の場で漢方薬投与に際し思うことを簡単に述べてみたい.まず薬局あるいは他の医療機関で漢方薬を既に服用している患者が意外と多いことである.問診で見落としがちになるが,同一漢方生薬内服量が過度にならぬように気をつけねばならない.このためには主要漢方薬の構成生薬程度はおおよそ把握する努力がいる.次に投薬期間の問題がある.医師は漠然と同一剤を長く処方するきらいがあると言える.患者側もそれで納得しがちだが,西洋薬と比較して曖昧という指摘もある.臨床効果の判定の難儀さもあるが,各皮膚疾患ごとの効果判定までの投与期間の設定や処方の変更も時に必要であると言える.昨今漢方薬の副作用の報告が増加してきている.せいぜい軽い胃腸症状程度と思いがちであるが,TEN型薬疹の報告や柴胡剤の重篤な副作用も指摘される今日,漢方薬も西洋薬同様の副作用の認識で対処していくべきである.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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