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Derm.'99
コロモジラミ再び?
著者: 石崎純子1
所属機関: 1東京女子医科大学第二病院皮膚科
ページ範囲:P.172 - P.172
文献購入ページに移動 今年の1月,週に1回外勤している精神病院の病棟患者からコロモジラミが出た.アタマジラミ,ケジラミならわかるが,コロモジラミは見たことがなかった.明確な指示もできぬまま,病院の裏に行けば虫がいると聞き,とりあえず裏へ出てみた.たくさんの衣類が山積みにされ,一部の物はビニール袋に隔離されている.そのそばでひとりの年配のおじさんが,大きなたらいで衣類を煮立てていた.ビニール袋の中を見せてもらうと,紺色のジャージーのズボンに白い虫がうごめいているのが肉眼ではっきりと確認できる.襟元や袖口,あるいは腰のあたりを好むという.そういった縫い目の部分を見るとおびただしい数の卵がびっしりと並んでいる.別の白いズボン下のゴムの部分には血液と思われる茶色いカスが整然と付着していた.それらは糞であり,吸血するからそのような色になるのだという.管財の職員であるそのおじさんは昔経験があるのであろう,明らかに虫が付着している衣類にはスミチオンを噴霧した後煮沸して廃棄する,そうでない物は念のため煮沸のみ行うという方法をとっていた.病棟へ行くと,当の患者は入浴後,病院支給の新しい寝巻きを着せられて爽やかな顔をしていた.すでに痒みもないという皮膚には,掻破痕と色素沈着があるのみで特異な所見はみられなかった.後日,大滝倫子先生(九段坂病院)にお話を伺う機会を得た.全員の衣類を一斉にすべて取り替えるほか,衣類を大きなビニール袋に入れてそこにピレスロイド系の殺虫剤(家庭用のものでよい)をスプレーして10日間ほど密封しておく,アイロンをかけるのも有効と教えて頂いた.それほど強い虫ではなく,ヒトの血を吸えずに放置されれば,死んでしまうという.文献にも低温では活動できず,高温にも弱く,成虫は40℃で死ぬと書かれているが,繁殖するとものすごい.最近浮浪者の報告例もあり,re-emerging diseaseの一つとして認識しておきたい.
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