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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科56巻5号

2002年04月発行

雑誌目次

特集 最近のトピックス Clinical Dermatology 2002 1.最近話題の皮膚疾患

肛囲溶連菌性皮膚炎

著者: 肥後順子 ,   岩本孝 ,   木藤正人 ,   小野友道

ページ範囲:P.9 - P.12

 肛囲溶連菌性皮膚炎(perianal streptococcal dermatitis:PSD)の小児20例の臨床像をまとめた.発症年齢は6か月から10歳,男児8例,女児12例で,女児に若干多かった.臨床像は肛囲の紅斑が主たる病変で,びらん,亀裂形成,落屑も一部にみられた.発熱を生じた6例中4例で咽頭溶連菌感染症を伴い,女児12例中5例で外陰膣炎を併発していた.肛門部の細菌検査にはA群溶連菌迅速診断法であるストレップAテストパックを用い,陽性所見を診断根拠としたが,本法により早期の治療開始が可能なため,有用な方法であると思われた.多形紅斑,蕁麻疹を伴っていた例ではPSDの治療によりそれらの症状も軽快した.また全体の半数にあたる10例はアトピー性皮膚炎患者であった.PSDは決して稀な疾患ではなく,この疾患を念頭において肛囲に目を向けることが重要であると考える.

フッ化水素酸含有しみ抜き剤による化学熱傷

著者: 安原尚昭 ,   藤本和久 ,   川原田晴通 ,   小坂祥子 ,   川名誠司

ページ範囲:P.13 - P.16

 症例1は62歳,男性,症例2は28歳,男性.いずれも木材の洗浄作業後に,右手指の紅斑,腫脹,激痛が出現した.使用していたしみ抜き剤を持参させ,低濃度のフッ化水素酸による化学熱傷と診断した.両症例とも骨破壊を起こさず,保存的治療で略治した.本剤は本来業務用であり,一般消費者は入手できなかったが,インターネットの普及に伴って個人でも購入できるようになり,今後,同様の症例が増加する危険性があり,注意が必要である.

Sebopsoriasis

著者: 中山樹一郎

ページ範囲:P.17 - P.19

 Sebopsoriasisは基本的には脂漏性皮膚炎と尋常性乾癬の境界型ともいうべき皮膚疾患であるが,その定義は確立されていない.臨床的には顔面・頭部に典型的脂漏性皮膚炎,躯幹・四肢に典型的乾癬がみられるものをいうが,頭部に限局した乾癬様の鱗屑局面をさす場合もある.日本語での疾患名はこれまで明確なものはないようであり,“脂漏性皮膚炎様乾癬”と提唱したい.治療は欧米では抗真菌剤の外用あるいは内服が勧められている.コルチコステロイドの外用も有効であるが,長期連用による特有の副作用がある.最近,本症に活性型ビタミンD3製剤であるタカルシトールクリームあるいはローションが極めて有用であることを見いだした.躯幹・四肢の乾癬に対するよりも,本症ではその治療効果の発現が速い.

Aeromonas壊死性軟部組織感染症

著者: 立山直 ,   松岡博史 ,   大西真 ,   林哲也 ,   瀬戸山充

ページ範囲:P.20 - P.25

 Aeromonas属のA.hydrophilaとA.sobriaは食中毒起因菌の1つに指定されており,下痢発症菌としての細菌学的研究は比較的よくなされている.しかしA.hydrophilaとA.sobriaが極めて致死率の高い壊死性軟部組織感染症(necrotizing soft tissue infection:NSI)を引き起こすことはあまりよく認識されておらず,NSIの発症メカニズムは現在までのところ不明である.類似の病態であるVi—brio vulnificusによるNSIは,肝硬変に特異的に多く発症し,消化器症状は軽度で,7割が死亡している.一方,AeromonasによるNSIは,肝硬変にも多く発症するが,ほかに白血病,胃癌などの悪性疾患患者にも発症し,血性下痢など激しい消化器症状を呈することが多く,ほとんどの症例が死亡している.急速に進行し,治療にほとんど反応せずに,病院に搬入後数時間のうちに死亡する症例もある.

VAHS

著者: 常深祐一郎 ,   玉木毅

ページ範囲:P.27 - P.31

 VAHS(virus-associated hemophagocytic syndrome)とは,全身性のウイルス感染症に伴って骨髄や網内系にて反応性に組織球が増殖し,血球貪食を行う病態である.末梢血中で血球減少が起こるほか,発熱,リンパ節腫脹,肝・脾腫,皮疹,肝機能障害,出血凝固異常などの全身症状を伴うことが多く,ときにDICなどを引き起こし重症化することもある.本稿では筆者らの経験した麻疹に伴うVAHSの症例を供覧するとともに,VAHSについて解説する.全身性ウイルス感染症は皮疹を伴うことが多いため,皮膚科にて診療を行うことも多い.軽度〜中等度の血球減少はしばしば認められるが,高度な血球減少を呈した場合,重症化する可能性もあるVAHSも念頭に置き,積極的に診断確定のための骨髄の評価を行う必要がある.

同種末梢血幹細胞移植後の皮膚症状

著者: 松村由美

ページ範囲:P.32 - P.36

 同種末梢血幹細胞移植は末梢血を造血幹細胞源とする造血幹細胞移植の一法であり,同種骨髄移植の代替法として定着しつつある.移植後に出現しうる皮疹としては,骨髄移植後と同様,移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD),eruptions of lymphocyte recovery,薬疹,治療関連毒性による皮疹,ウイルス疹が挙げられる.組織学的にこれらを鑑別することは不可能であり,臨床経過を併せて判断するしかないものの,鑑別困難な例が多い.免疫抑制剤の減量の有無,皮疹発症時期,末梢白血球数などが診断の参考になりうる.本稿では同種末梢血幹細胞移植後の急性GVHDの1例と,参考症例として同種骨髄移植後のeruptions of lymphocyte recoveryの1例を提示した.これらの鑑別の際に問題となるのは,治療が必要な急性GVHDを見落とさないことである.したがって,鑑別困難な例は急性GVHDと仮定して治療開始の判断をすることが肝要である.

2.皮膚疾患の病態

アトピー性皮膚炎とリモデリング

著者: 片山一朗

ページ範囲:P.39 - P.42

 気管支喘息においては,慢性化,難治化に至るプロセスを気道上皮の修復,再構築という観点からリモデリングという概念でとらえようとする考え方が提唱されている.アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)においても,非特異的な刺激や嗜癖的な掻破によるバリアー機能の破壊やアレルギー炎症などの慢性化に伴う表皮の増殖や真皮線維芽細胞の活性化がADの慢性化,難治化に関与している可能性も考えられ,そのような病態を皮膚のリモデリングと呼ぶことも可能かと考えられる.ADの病因論の歴史的な流れからはADが湿疹性の疾患であることより表皮ケラチノサイト,Langerhans細胞や血管内皮細胞,組織肥満細胞を中心に研究が進められてきたが,今後は皮膚全体のリモデリングの観点からも検討していく必要があり,真皮線維芽細胞の機能解析も重要な研究課題になると考えられる.

メンタルストレスと角層機能

著者: 傳田光洋

ページ範囲:P.43 - P.46

 メンタルストレスがバリアー機能低下を伴う皮膚疾患を悪化させる傾向があることについては,いくつかの疫学的報告がある.そこでメンタルストレスと皮膚バリアー機能との関連を調べた.飼育環境変化に伴い,ヘアレスマウスの血中コルチコステロン量が上昇し,テープストリッピング後のバリアー回復が遅延した.トランキライザー投与はこのコルチコステロンの上昇を抑制し,バリアー回復速度をもとのレベルに戻した.グルココルチコイドレセプターアンタゴニストの投与もストレスによるバリアー遅延を抑制した.さらに鎮静効果がある香料にもストレスに伴う皮膚バリアー回復遅延を抑制する効果が認められた.ヒトでもこの香料によるバリアー回復促進が観察され,同時に脳波計測からもこの香料の鎮静効果が確認された.これらの結果は心理的因子が皮膚バリアー機能に影響を及ぼすこと,それに対する嗅覚刺激などによるメンタルケアの有効性を示唆している.

Acute generalized exanthematous pustulosis

著者: 小鍛治知子 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.47 - P.52

 Acute generalized exanthematous pustulosis(AGEP)は,Roujeauらにより整理された疾患概念で,白血球増多,高熱,膿疱を伴う紅斑を間擦部中心に認め,膿疱性乾癬に類似した臨床像を呈する.多くの場合,抗生剤,抗真菌剤など感染症に対して用いられる薬剤が原因となり,数日の内服の後急激に発症する.この特異な臨床に対しRoujeauは経皮感作された薬剤に対する全身性の反応と考えたが,薬剤投与の原因となった感染症の存在が重要である.なぜなら,本症ではしばしばA群レンサ球菌やウイルス感染を併発しており,それらの感染が基盤にある個体に薬剤が投与された場合にのみ本症が発症する可能性があるからである.薬剤,感染各々単独でも間擦疹型の皮疹を生じることを考えると,両者は生体に極めて類似した免疫反応を生じやすく,それらが同時に加わった場合に高率にAGEP様の病態が生じるのかもしれない.

ロリクリン・ノックアウトマウス

著者: 須賀康

ページ範囲:P.53 - P.57

 ロリクリン遺伝子をジーン・ターゲッティングしたロリクリン・ノックアウトマウスは,生下時には発赤,光沢,透明感のある角化症様の表現型を呈するが,transepidermal water loss, dye perme—abilityなどによるバリアー機能の解析では正常コントロールとの差が明らかではない.しかしながら,角層の表皮細胞にテープ・ストリッピング,煮沸,超音波処理などの機械的なストレスを加えて解析を行うと,コントロールに比べて明らかにバリアー機能の障害を有することが判明した.このため,ロリクリンは外界からの機械的なダメージに対して身を守る役割を有する蛋白であると推定された.現在,作製されたノックアウトマウスを利用してロリクリンの遺伝子変異や発現異常を伴うさまざまな皮膚疾患が解析されており,すでにいくつかの興味ある情報も得られているので紹介する.

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)におけるデスモグレイン1の関与

著者: 天谷雅行

ページ範囲:P.58 - P.61

 伝染性膿痂疹およびその全身型であるブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)は,黄色ブドウ球菌の産生する表皮剥脱性毒素(exfoliative toxin:ET)により表皮に水疱形成が誘導される疾患である.ETの表皮剥脱活性は1970年以来認められていたものの,分子レベルの作用機序が不明であった.落葉状天疱瘡とSSSSの臨床および病理学的所見の類似性から,ETの標的蛋白が落葉状天疱瘡抗原であるデスモグレイン1であることが疑われ,実験的に証明された.表皮上層における細胞間接着に重要な役割をしているデスモグレイン1は,自己免疫の標的であるばかりでなく,黄色ブドウ球菌の外毒素の標的ともなっていたわけである.

メラノサイトの発生と再生

著者: 西村栄美

ページ範囲:P.62 - P.67

 メラノサイトの発生にかかわる分子の相互関係が最近明らかになり,MITF(microphthalmia-as—sociated transcription factor)転写因子を中心にメラノサイト系譜の発生メカニズムが統合的に理解されつつある.発生中のメラノブラストは遊走により皮膚に分布するようになる.この過程においてメラノブラストのカドヘリンの発現が微小環境に応じて量的質的に制御されており,周囲の細胞との選択的接着を介し遊走にかかわることを示した.最終的に局在部位ごとに異なるカドヘリンの発現パターンを示し4つの集団に多様化した.4つめの集団としてメラノサイトの幹細胞をマウス毛包のバルジ領域近傍に同定し,毛周期と同調して毛母と表皮に分化したメラノサイトを供給(再生)できることを明らかにした.さらに,バルジ領域が幹細胞progenyの細胞運命を優勢に決定していることを明らかにした.

SEREX法

著者: 室慶直 ,   尾之内博規 ,   岩井昭樹

ページ範囲:P.68 - P.70

 癌患者血清を用いて癌細胞由来のcDNAライブラリーをスクリーニングし,新たな癌抗原を同定しようとするSEREX法により,さまざまな癌抗原同定が進展している.これらの抗原は癌患者の免疫系が自己の腫瘍成分に反応して産生された抗体,つまりは広義の自己抗体により同定されており,癌免疫療法の有力なターゲット候補となっている.

3.新しい検査法と診断法

定量的軸索反射性発汗試験(QSART)

著者: 江石久美子 ,   竹中基 ,   ,   片山一朗 ,  

ページ範囲:P.73 - P.76

 アトピー性皮膚炎(AD)の発汗機能を検討するために,定量的軸索反射性発汗試験(QSART)を用いて成人AD患者前腕皮疹部と無疹部の発汗機能を調べた.QSARTは軸索反射性発汗に基づく検査法であり,より定量的に汗を測定することができる.AD患者18例,健常人40例に対しアセチルコリン(ACh)のイオントフォレーシス刺激後,発汗までの発現時間,発汗量(AXR),ACh直接刺激による発汗量(DIR)を測定した.AD患者は健常人より有意に発現時間の延長がみられ,AXRは有意に減少しており,どちらも皮疹部において顕著であった.一方,DIRはやや減少していたが,大きな低下は認めなかった.また,治療により発現時間およびAXRは改善傾向がみられた.このことより,ADでは節後性の交感神経機能低下が示唆された.

自己免疫性水疱症のリコンビナント蛋白免疫ブロット診断法

著者: 永田祥子 ,   橋本隆

ページ範囲:P.77 - P.83

 自己免疫性水疱症は免疫学的機構により表皮細胞間あるいは表皮基底膜部の接着が障害され水疱が形成される疾患で,いずれもその血清中にデスモソームあるいはヘミデスモソーム各種構成蛋白に対する自己抗体を認める.最近の分子生物学的研究の進歩により,各種の自己免疫性水疱症の抗原蛋白の解析が進み,診断への応用も可能になった.抗原解析には各種の免疫ブロット法ならびに免疫沈降法,さらに最近はこれらの抗原のリコンビナント蛋白を用いた免疫ブロット法,ELISA法が行われている.これまでに筆者らはその自己抗原に対してさまざまな大腸菌発現リコンビナント蛋白を作製し,これらを用いた免疫ブロット法を確立して診断に応用してきた.本稿では筆者らが今まで作製した各種リコンビナント蛋白を紹介し,その臨床応用について解説する.

メラノーマの新しいTNM分類・病期分類(AJCC,2001)

著者: 宇原久

ページ範囲:P.84 - P.89

 2001年にAJCCよりメラノーマの新病期分類が発表された.新分類は2002年のAJCC第6版より採用され,またUICCもこの新分類を受け入れるようである。主な変更点は,①Tの評価は主にtumor thicknessと潰瘍の有無によってなされ,T1以外はClarkのlevelを使用しない.T1:1.0mm以下,T 2:1.01〜2.0,T 3:2.01〜4.0,T4:>4mmとする.②Nは転移リンパ節の個数で評価し,リンパ節転移の確認が術前に臨床的になされたのか,sentinelリンパ節生検か予防的郭清後に病理組織学的に発見されたのかを分ける.③Mは肺転移を独立させ,血清LDH値を評価に反映させる.④病期I〜IIIでは,潰瘍が存在した場合は病期を悪いほうに移行させる.⑤衛星病変はin-transit転移と同様に扱いNに分類する.

Consensus Net Meeting on Dermoscopy 2000

著者: 斎田俊明 ,   小口真司 ,   宮嵜敦 ,   田中勝

ページ範囲:P.90 - P.96

 ダーモスコピー(DMS)はdermatoscopyなどとも呼ばれ,色素性皮膚病変の無侵襲な診断法として注目されている.DMSの用語の統一,所見の意義,診断の信頼性などを明らかにするために,インターネットを介した国際的な検討会がConsensus Net Meeting on Dermoscopy 2000(CNMD 2000)と名づけられて2000年夏から秋にかけて開催された.世界の40名のエキスパートが,イタリアの学会事務局から送信された108例の色素性病変のDMS画像を,今回提案された2段階診断法によって検討し,そのDMS所見と診断を返信した.このCNMD 2000の結果は2001年2月にローマで開催された第1回世界ダーモスコピー会議にて報告され,討議された.今回の2段階診断法にて90%以上の正診率でメラノサイト系病変か非メラノサイト系病変かが判別され,第2段階のメラノーマ検出についてはpattern analysis(2000)にて感度83.7%,特異度83.5%という優れた成績が得られた.

4.皮膚疾患治療のポイント

アナフィラクトイド紫斑のステロイド全身投与の適応

著者: 狩野葉子

ページ範囲:P.99 - P.102

 アナフィラクトイド紫斑へのステロイド全身投与についての考え方をまとめる.細菌感染などの先行症状が明確な場合,ステロイド投与は必ずしもfirst lineの治療として適応ではない.激しい腹痛がある場合には,ステロイド以外に奏効する薬剤がなく,ステロイド投与が適応となる.尿蛋白が1日1g以上の場合には積極的に腎生検を行い,その組織所見を確認したうえでステロイドの投与を決定する.尿蛋白が1g未満の場合でも特に紫斑の分布が広範囲で,かつ紫斑の持続期間が長い症例では,遅れて腎障害をきたす例が多いため,尿所見に注意してステロイドの投与を考慮しつつ経過をみていく必要がある.

Toxic epidermal necrolysis(TEN)の血漿交換療法

著者: 瀧本玲子 ,   高森建二

ページ範囲:P.103 - P.105

 Toxic epidermal necrolysis(TEN)は重症薬疹の一型であるが,その病態と治療法についてはいまだ一定の見解が得られていない.本稿ではTENに対する二重膜濾過法(double filtration plasma pheresis:DFPP)の有効性について述べる.発症早期のTENに対しては,一般的にはステロイドの全身投与が行われており,その有効性は高い.しかし,ステロイド治療にもかかわらず症状が進行していく場合には,血漿交換療法を施行すると,病状の進展は速やかに停止し,上皮化が促されるため,second choiceの治療法として考慮すべきである.特にDFPPは副作用もほとんどなく,高い臨床効果を示しており,期待できる治療法である.

乾癬のnarrow-band UVB療法

著者: 森田明理

ページ範囲:P.106 - P.111

 新たな波長特性を持つnarrow-band UVB(NB-UVB)やUVA 1(340〜400nm)などの紫外線を用いた治療が,ヨーロッパを中心として臨床応用されている.NB-UVBは先進諸外国で一般的な治療法となり,アジアの一部の国でも導入され,特に乾癬治療では使用頻度が高くなってきている.NB—UVBは,ピークだけでなく,ほとんどが311〜312nmに分布する非常に幅の狭い波長である.現在までに乾癬,アトピー性皮膚炎,多形日光疹,白斑,菌状息肉症などに有効性が認められている.乾癬の治療では,今までのUVB(broad-band UVB:BB-UVB)に比べ効果が優れること,またPUVAと同等の効果が得られることが明らかとなっている.ソラレンを用いないため,遮光などの生活の制限もなく,胃腸・肝障害などの全身の副作用もない.発癌性はBB-UVBやPUVAに比べ少ないというのがマウスの実験結果から推定されている.

皮膚腫瘍に対するALA外用PDTの実際

著者: 森脇真一 ,   星野優子 ,   山田知加 ,   高城倫子 ,   田中秀生

ページ範囲:P.112 - P.117

 近年,腫瘍選択的光感受性物質である5—aminolevulinic acid(ALA)外用剤を用いた光線力学療法(photodynamic therapy:PDT)が表在性皮膚腫瘍治療の1つの選択肢として注目されている.ALAを病変部に密封外用すると,数時間でプロトポルフィリンIX(Pp IX)に変換される.Pp IXはある波長の光線を照射すると励起され,基底状態に復帰する際に産生される活性酸素が腫瘍を壊死に陥らせる.本法は非侵襲的,非観血的で何度でも繰り返すことができ,整容的にも優れた安全性の高い治療法である.欧米ではすでに多くの症例で有用性が確認されているが,本邦ではまだその実績は少ない.筆者らは学内倫理委員会の承認を得て,表在性皮膚悪性腫瘍(扁平上皮癌,基底細胞癌,乳房外Paget病,Bowen病)あるいはがん前駆症(日光角化症)患者に対してALA外用PDTを開始した.皮膚腫瘍の中でも角化傾向の少ないもの,メラニン産生の少ないものは特に有効と思われた.光線照射中の熱感,疼痛のため約半数の症例で局所麻酔薬が必要であった以外には,特に副作用は認めなかった.皮膚腫瘍治療の第一選択はもちろん外科的切除であるが,高齢者,重篤な内科疾患を合併する場合,手術を拒否した場合には考慮してもよい治療法であると考える.

単純ヘルペスのpatient-initiated therapyとsuppressive therapy

著者: 本田まりこ ,   峰崎幸哲 ,   松尾光馬 ,   小松崎眞 ,   白木公康 ,   新村眞人

ページ範囲:P.118 - P.121

 欧米諸国では,年6回以上再発を繰り返す性器ヘルペス患者に対して,患者の精神的な苦痛を取り除くためや他人への感染を予防するため,または他の性感染症を防ぐためにも抗HSV薬の継続投与による抑制療法を推奨している.また,再発の前徴がはっきりしている患者や,または再発早期に治療を開始する目的で,患者にあらかじめ抗ウイルス薬を持たせておいて早く治癒させる方法(patient initiated therapy)が行われている.これらの方法は患者にとっては福音となり,チミジンキナーゼ活性および耐性株の出現率も抗ウイルス薬を一度も使用したことのない患者から分離されたウイルスと変わりはなく,安全性がみられ,有用であった.

Vbeamによる血管病変の治療

著者: 谷田泰男

ページ範囲:P.123 - P.128

 Vbeamはこれまでのダイレーザー治療と異なり冷却装置を持ち,皮膚表面を冷却し,これまでより強い出力でレーザー照射が可能である.また,発振波長595nmと長くなり,皮膚のより深い位置までレーザー光が到達可能となった.さらにパルス幅1.5〜40 msecと時間が長くなったことにより,これまでのレーザー治療で起きた水疱形成と紫斑形成がなく,照射直後より日常の生活が可能である.また3×10mmの楕円形のレーザー照射が可能であり,毛細血管拡張症の場合に病変部以外へのレーザー照射を避けることができるなど,旧型による治療と大きな違いがある.

術後早期入浴と術後創における消毒の検討

著者: 木村裕 ,   水芦政人 ,   角田孝彦

ページ範囲:P.129 - P.133

 最近,皮膚科外来小手術後の早期入浴はまったく問題がなく,むしろ創治癒によいことが報告されている.当科にても手術翌日からの早期入浴を試み,創の状態および早期入浴に対する患者の意識調査を行った.術後の経過に問題のあった症例は1例もなかった.アンケートの結果,高齢者では術後早期入浴に不安を持ち,望まない人がかなり多いことがわかった.
 近年,術後の創のポビドンヨード製剤(以下,PI剤)による消毒の是非について論議されている.そこで,術後創を二分し,片方を10%PI剤消毒,もう片方を生理食塩水外用とし抜糸時まで観察,PI剤消毒により創治癒の遅延がみられるかどうかを検討した.1例を除き両部位に差異はみられなかった.1例,PI剤消毒部位に発赤のみられた患者に対しPI剤のパッチテストを施行したところ,陽性となった.PI剤による接触皮膚炎に留意する必要はあるが,PI剤を用いても創の治癒が遅れるということは認められなかった.

腋臭症の治療

著者: 稲葉義方 ,   川島眞

ページ範囲:P.134 - P.137

 腋臭症は腋窩部のアポクリン汗腺からの分泌物が皮脂と混ざり皮表細菌によって分解されることで特有の臭いを生ずる.さらに衣類に付着する黄ばみや流れ出るほどの多汗を伴うことが多く,悩みをさらに増幅させている.最近では体臭を気にしすぎる傾向が若年者にみられ,腋臭が非常に軽度あるいはまったくないにもかかわらず深刻に悩んでいる場合もある.実際に臭いを確認できれば腋臭症と簡単に診断することができるが,軽症例では受診時に腋臭を確認できないこともあり,詳細な問診を行う必要がある.殺菌作用を有する薬物による外用療法が一般的な対処法であるが,外用剤は作用時間が短いうえ効果が不十分なことも多く,さらに長期間使用によって腋窩部皮膚に色素沈着を生ずることもあった.最近開発された外用剤について簡述する.また,根治的治療法としてはアポクリン汗腺・エクリン汗腺を一括して摘出する手術療法があるが,現在行われている種々の方法の中には不確実な方法もあることは十分に認識しておく必要がある.

レーザー脱毛の現況

著者: 乃木田俊辰

ページ範囲:P.138 - P.141

 レーザー脱毛の本格的研究は1995年頃より,ハーバード大学のAndersonらのグループにより開始された.彼らは永久脱毛の定義の新たな考え方として永久減毛の理論を提唱した.レーザー脱毛の標的器官はバルジ領域のstem cell,毛包下部の毛球部,皮脂腺開口部で,光エネルギーがメラニンに吸収され熱エネルギーに変換され,標的器官を熱変性させ脱毛が生じると考えられている.メラニン色素に対する吸収スペクトルを有するレーザー装置として,アレキサンドライトレーザー,ダイオードレーザー,Ndヤグレーザーが開発され実用化されてきた.レーザー脱毛を実施するにあたり,患者に脱毛の原理,副作用,効果などについての十分な説明を行い,インフォームドコンセントをとることが重要である.脱毛施術後のアンケート調査では,わき,ひざ下,ビキニラインでの満足度は非常に高い結果であった.

5.皮膚科医のための臨床トピックス

オピオイドペプチドを標的とした痒みの治療

著者: 高森建二

ページ範囲:P.145 - P.147

 痒みには知覚神経線維が刺激されることにより生じる痒みとオピオイドペプチド—オピオイドレセプター系の活性化により生じる痒みがある.後者の痒みは抗ヒスタミン剤,抗アレルギー剤が奏効しない難治性の痒みである.内因性オピオイドペプチドにはエンドルフィン,ダイノルフィン,エンケファリンなどがあり,それぞれμ—,π—,δ—レセプター(R)に結合して機能を発揮する.μ—Rとδ—Rは痛み抑制・痒み誘発に,κ—Rは痛み・痒みの抑制に関与している.
 本稿では難治性痒みの治療薬として開発が期待されるオピオイドレセプター拮抗薬による痒みの制御について考える.

サルモネラ胃腸炎と結節性紅斑

著者: 勝田倫江 ,   狩野葉子

ページ範囲:P.148 - P.150

 結節性紅斑の原因は多彩であるが,サルモネラ胃腸炎も原因となることがある.この結節性紅斑の臨床像は他の原因の結節性紅斑と違いはないが,関節痛が約半数に出現し,幼児や高齢者に多く認められる傾向がある.病理組織学的所見では皮下脂肪織に多くの巨細胞が認められ,サルモネラが細胞内寄生菌であるという特性との関連が考えられる.

乾癬患者友の会の現状

著者: 東山真里 ,   吉川邦彦

ページ範囲:P.151 - P.153

 乾癬は皮疹が露出部に生じ,難治であるため,患者,家族の精神的,社会的,経済的負担は医療者が考える以上に大きい.また治療においては,慢性疾患のため医師と患者間の信頼関係を築くこと,患者自身が疾患,治療,日常生活上の注意について理解し,積極的に病気に向き合うことが重要である.医療チームと患者または患者同士が,協力してよりよい治療と療養に取り組めるようにコミュニケーションを図ることを趣旨とした患者会の役割は大きいと思われる.設立3年目の大阪乾癬患者会の活動とともに,国内外の患者会についても最新の情報を紹介する.

日本紅斑熱の臨床

著者: 馬原文彦

ページ範囲:P.155 - P.157

 日本紅斑熱は紅斑熱群に属するリケッチア感染症で,マダニにより媒介される急性熱性発疹症である.病原体はRickettsia japonicaである.臨床的には,高熱,発疹,刺し口を3徴候とし,慈虫病と類似する症状を呈するが,詳細に観察すると異なる点も多い.本症は1999年4月から施行された感染症新法により第4類全数把握感染症に指定されており,徐々に疫学的なデータも蓄積されつつある.しかし,2001年に治療の遅れによる日本紅斑熱による初の死亡例が確認されるなど,第一線医師への警鐘が鳴らされている.媒介動物であるマダニ類の最近の研究から,日本紅斑熱以外の紅斑熱群リケッチア症の存在の可能性も指摘されている.

ラタノプロスト点眼薬による眼瞼部の多毛症

著者: 出光俊郎 ,   播摩奈津子 ,   杉山俊博 ,   山田酉之 ,   眞鍋求

ページ範囲:P.158 - P.160

 ラタノプロストはプロスタグランジンF2α(PGF 2α)のアナログで,緑内障治療薬として広く使用されている薬剤である.本薬剤の点眼により眼瞼の多毛,睫毛の長さ,太さの増大,眼瞼皮膚の褐色色素沈着,虹彩の色素沈着,結膜充血などが起こることが知られてきた.とりわけ外国人に比べて日本人では眼瞼周囲の多毛が目立つ傾向にある.ラタノプロストによる多毛の機序としては,毛嚢周囲の血流増加,毛母細胞や毛乳頭細胞への直接刺激作用などが想定されているが,いまだ解明されていない.ラタノプロストでは局所的副作用として眼瞼周囲の多毛が起こることから,本薬剤による多毛機序の研究が男性型脱毛症の治療に対して貢献しうるものと期待される.

「薬疹情報」と「薬疹ネット」

著者: 福田英三

ページ範囲:P.161 - P.163

 「薬疹精報」は,わが国の皮膚科学会あるいは皮膚科学会雑誌に報告された薬疹を集録し,薬剤別に分類した薬疹のデータブックである.1989年に創刊し,最新版は第9版で,1980〜2000年の21年間の情報が掲載されている.「薬疹ネット」は,わが国の皮膚科学会あるいは皮膚科学会雑誌に報告されず,カルテに埋もれてしまった薬疹,すなわち「未発表の薬疹」を,インターネットを利用して収集・検索するシステムである.2000年7月に開設・公開した.登録制のネットで,症例の信憑性を確保するため,対象を日本皮膚科学会会員に限った.2001年9月30日現在,登録医は924名である.

イベルメクチンによる疥癬の治療

著者: 大滝倫子

ページ範囲:P.165 - P.167

 イベルメクチンはマクロライド系化合物で,GABAを作動薬として働き,神経刺激を遮断して寄生虫を麻痺させ死滅させる.血液脳関門を通過しにくく,脊椎動物には安全とされる.GABA機構を持つ線虫,昆虫・ダニなどに有効で,動物用体外,体内寄生虫治療薬として用いられている.ヒトではオンコセルカ症などに,近年では病癬に経口薬として使われている.1回投与量は200μg/kg,普通の疥癬では1〜2回,角化型疥癬では1〜数回,投与間隔は1週間とする.角層には移行しない.幼児,妊婦,授乳中の婦人には投与しない.副作用は初回投与後に一時的瘙痒の増強,皮疹の増悪などがある.国内で糞線虫に対し近年中に発売される予定であるが,疥癬は適応症ではない.

強皮症のニトログリセリン軟膏外用療法

著者: 藤原浩 ,   伊藤雅章

ページ範囲:P.168 - P.169

 全身性強皮症の組織虚血成因説に基づきニトログリセリン軟膏外用療法を行い,その有用性を報告する.治療効果の判定はdurometerを用いて定量的に行った.

ペットボトル症候群と色素性痒疹

著者: 三橋善比古 ,   鈴木紀子 ,   青木武彦

ページ範囲:P.170 - P.172

 ペットボトル症候群とは,潜在的糖尿病患者が,糖分を含む清涼飲料水を多飲することによって生じる糖尿病性ケトーシスである.本症候群でみられる糖尿病は,抗インスリン抗体を持たないtype IIのNIDDMで,肥満した若年男性に好発し,糖尿病であるという自覚を持っていないことが特徴とされる.一見正常の太った青年が多量の清涼飲料水を摂取した後,口渇,全身倦怠感を訴え,ときに悪心,嘔吐,意識障害や腹痛を生じる.検査で高血糖とケトーシスまたはケトアシドーシスを示す.急に清涼飲料水を多飲するようになる誘因として,神経症や精神病的基盤,または受験や入社などによる精神的ストレスなどが重視されている.本症について概説するとともに,色素性痒疹の発症を契機に本症が発見され,治療によってケトーシスと色素性痒疹ともに軽快に導くことができた1例を報告する.

Derm.2002

専門はまわりによってつくられる

著者: 立花隆夫

ページ範囲:P.16 - P.16

 昭和56年に京都大学医学部皮膚科に入局して20年経つが,研修医として1年,医長として2年の計3年間,福井赤十字病院に出向した以外は大学病院に勤務している.最近では皮膚外科を専門として年間約350例の手術を行っているが,はたして20年前にこのような自分の姿を想像したであろうか?
 まわりの人は好きで皮膚外科をやっているのだろうと思っているようだが,答えは“ノー”である.私が京都大学に入局した当時は,形成外科が皮膚科と耳鼻科から分離,独立したとはいうものの,かなり親密な関係を保っており,転科することなく,もともと皮膚科に所属していた形成外科医に依頼して入院患者の手術を行っていた.そのため,手術室では皮膚科手術のみならず他の形成外科手術を自由に見学でき,また同じ病棟でもあったため,形成外科医に直接外科手技を指導してもらうなど,形成外科の世界を皮膚科医でありながら垣間見ることができたのは確かに幸運であった.しかし,本当に皮膚外科に興味があれば,その時点で迷うことなく形成外科に転科していたであろう.

皮膚硬化モデルかできるまで

著者: 山本俊幸

ページ範囲:P.19 - P.19

 われわれの教室では数年前,ブレオマイシンによる実験的皮膚硬化病変をマウスに誘導することに成功した.当時,西岡教授が厚生省の強皮症調査研究班の班長を務めておられた関係で,当時の片山助教授から仕事を与えられた.初めはヒトの末梢血単核球をブレオマイシンで刺激して,そこから線維芽細胞の増殖を刺激する因子が出されるかどうかを調べるin vitroの実験であった.ブレオマイシンは周知のとおりヒトにおいて肺線維症を引き起こすことのできる薬剤である.ブレオマイシンでヒト末梢血単核球を刺激するとさまざまなサイトカインが生産され,そのうちのいくつかはfibrogenic cytokineとして線維芽細胞の増殖を亢進させる.しかし,ヒトの強皮症をマウスで再現させるには,線維化だけでなく硬化を起こさせる必要がある.初めの仕事が一段落しかけた頃,マウスに直接ブレオマイシンを注射したらどうなるかと思い付き,早速やってみた.しかし,どのくらいの濃度で,どのくらいの期間打てばよいのかなど,まったく手探りの状態であった.しかも自分でもだめで元々と思っていたので誰にも相談もせず,毎日注射をうちながらマウスの背中を触ってみたがいっこうに硬くならず,「ああ,やっぱりだめだ」と思いつつ,結局マウスをそのまますべて捨ててしまっていた.当時,強皮症のほうの仕事と並行して,乾癬におけるスーパー抗原の関与の仕事もやっており,病棟,外来,その他の雑用やら症例報告の論文作成などの合間に実験をやっていたようなもので,深く考える時間などとれなかったし,深く考察するのも苦手で,さらに元々熱しやすく冷めやすいというか,物事に執着しないB型の性格も災いしてか,あまりしっかりとはできず,そうこうしているうちに関連病院へ出向することになったりで,結局そのアイデアは失敗に終わった.出向先は確かに大変忙しい病院ではあったが,大学と比べると,だいぶ時間にゆとりができたので,たまっていた論文作りや,それまでのデータの整理などを細々とやっていたある日,そういえば以前のブレオマイシンを注射した皮膚は組織をとっていなかったなあと思い出した.皮膚科医でありながら,組織学的に検討することさえもしていなかったのである.翌年大学に戻り,再び同じ実験にとりかかり,組織標本を作ってみると,そこにははっきりした硬化の像があった.だいぶ回り道をしてしまったが,その後の解析の結果,マウスに誘導された硬化病変は組織学的および生化学的にヒト強皮症と類似することが確認され,現在引き続きこのモデルを用いて皮膚硬化の病態の解析ならびに治療薬の評価を行っている.

膿痂疹性湿疹にはステロイド

著者: 藤原浩

ページ範囲:P.26 - P.26

 昨年(2001年)夏から秋にかけて,『皮膚病診療』誌では“とびひ”にステロイドを外用することの是非に関し盛んに議論されていた(編者のほくそ笑む顔が見えるような気がする).誌面を見る限り,ステロイド外用反対派の優勢ではあるが(これも編者の作為か),森先生の,もととなる湿疹を治すためにステロイド外用を行ったほうがよいとの意見で,一応の幕を見た感じである.
 各先生方の,経験に裏打ちされた意見,治療であり(細菌感受性などというin vitroデータでなく,治癒を指標にしたプロの観察によるもので,これこそがevidence-based medicineと呼ぶにふさわしいものであろう),それぞれの患者がよくなれば結果オーライではあるが,“難治”として患者を紹介される側として普段感じていることを少し述べたい.

原因は何ですか?

著者: 神田奈緒子

ページ範囲:P.46 - P.46

 外来で日々患者さんを診察していると,「この病気の原因は何ですか?」と聞かれることが多い.感染症など病因のはっきりしている疾患はよいが,蕁麻疹,湿疹など,病因の特定できない疾患については返答に苦慮する.「原因は特定できません」といって,説明しても納得して下さらない.こんなときの切札として「アレルギーです」,あるいは「ストレスです」というと,それだけで妙に納得して下さる方もいるが,それでは満足せず,さらに「何のアレルギーですか」,「どういうストレスですか」と追求する方もいる.紆余曲折したあげく,あまり意味がなさそうでもIgE RASTなどの検査をオーダーし,「これが陽性であっても原因とはいえませんが……」とお茶を濁すこととなる.何年か皮膚科医をしていると,医学が進歩しても,体内現象は解明しきれないことが多く,病気の原因が特定できないのはむしろ当然のことだと開き直りの境地に達するのだが,患者さんによっては,すべての病気には必ずはっきりした原因があって,それは必ず解明できるはずだという信念を持っている方も多く,こういう方々はなかなか説得しきれない.「この病気の原因は何ですか?」といわれたときの対処法マニュアルがほしいと思う今日この頃である.

高知県における日本紅斑熱事情

著者: 山本康生

ページ範囲:P.52 - P.52

 高知県における日本紅斑熱の患者発生は1983〜2001年の現在まで105例を数えます.そのうち95例は徳島県境に近い室戸市で発生し,その他の発生地区は奈半利町(室戸市のすぐ西)1例,北川村(室戸市の西)1例,高知市4例(うち3例は室戸市にて感染),春野町(高知市の南西)1例,宿毛市(1999年4月に開院した当院のある県西部)3例で,圧倒的に県東部の室戸市で発生しています.高知県は太平洋に面した東西に長い県で,豊かな自然に恵まれ,県東部の室戸市と県西部の宿毛市の自然環境はさほど異なるとは思えないのですが,なぜかこれまでの患者発生の頻度に違いがみられます.県東部の感染という点では,報告は稀ですが,creeping diseaseも県東部での発生で,県西部での報告はありません.これまで県西部に皮膚科専門医の常勤施設がなかったということはありますが,それだけでは十分に説明できないと考えています.
 高知県衛生研究所では県下のマダニ相調査の結果から,今後も患者発生の中心は室戸市であると推測しています.室戸市から宿毛市までの車での移動時間は約5時間かかり,マダニの宿主となる野生動物の移動も容易ではないと考えているところです.しかし,高知市,宿毛市,春野町の感染例は,それぞれ1998年,1999年,2001年に相次いで確認され,室戸市以外の地域にも拡がりをみせており,今後の発生に注意が必要です.

「光老化(しみ)外来」を始めてみて

著者: 川田暁

ページ範囲:P.83 - P.83

 私が皮膚科に入局したのは今から22年ほど前である.当時から老人性色素斑の患者がくると,特に悪性化することはないと説明して,無治療で帰っていただいていた.30代の女性などに“老人性色素斑”と説明すると,それだけで嫌な顔をされたことを思い出す.仕方なく「年齢とともに増えるしみです」と逃げていた.2年前から「光老化(しみ)外来」を始めて,老人性色素斑を主訴とする多数の患者を診察し,Qスイッチルビーレーザー,炭酸ガスレーザー,Intense Pulsed Lightなどで治療するようになった.そこで,この言葉を使うのをやめたいと思い,欧米の教科書を読んでみた。すると“日光黒子(solarlentigo)”という言葉のほうがよく使用されているのに気づき,現在では“日光黒子”という病名で説明している.
 また老人性血管腫も20代,へたをすれば10代後半から出現する.私自身も20代から何個か所有している.この言葉も語感が悪いので,ルビースポットという名前で患者さんに説明している.老人性疣贅は脂漏性角化症,老人性角化腫は日光角化症と言い換えている.老人性皮膚瘙痒症も皮膚瘙痒症といえばそれですむ.しかし老人性紫斑,老人性白斑,老人性脂腺増生症はどうしたらよいだろう.別の病名を考え,それで呼んだほうがよいのかもしれない.

いぼ剥ぎ(掘り)ダコ

著者: 江川清文

ページ範囲:P.89 - P.89

 私の右手第1指末節の背面外側寄り,爪の生え際とIP関節のちょうど真ん中あたりには,小さな結節がある.大豆の大きさと形で,ころっとした感じが何ともいえない.痛くも痒くもない.どころか,他の指で撫ると心地よく,何となく気持ちが和んでくる.表面はやや光沢を帯びて,少し薄れかけてはいるが紋理はまだ残っている.じっと見ていると,さまざまのことが思われて,飽きることがない.こんな小さな皮膚の変化が,過去や未来,思い出や夢,時々の出来事,考え方や生き方,決意,心の在り様にまでつながっていたり,それに勇気づけられたりするのは,なんとも不思議ではある.
 節くれだった手やひび割れた手,まめだらけの足,肘の傷痕,全身の小腫瘤.ややもすると,治療の対象とのみとらえがちなこれらの変化も,あるときは,人によっては,生産の喜びであったり,生きる支え,達成の喜び,人と人との絆,人生そのものであったりすることもある.それぞれにそれぞれの,自然科学的アプローチだけでは済まない,成り立ちの理由や意味や背景がある.

患者満足度

著者: 相馬良直

ページ範囲:P.96 - P.96

 患者は何を期待して医療機関を受診するのだろうか.以前は“病気がよくなること”を期待しているのだと,単純に考えていた.正しい診断を下して適切な治療方針を立て,それにより“疾患の治癒またはコントロール”を目指すというのが医師の務めであると思っていたし,それがうまくいけば患者は喜んでくれるものと信じていた.しかし困ったことに,患者が医師に期待するのはそのような単純なことではない.
 治療を希望せず,説明だけ聞けばよいと思ってくる人がいる.簡単な治療でよくなるならばいいが,ややこしい治療だったら面倒だからやりたくないと思っている人もいる.短日通院してでも治したいと思っている人もいれば,1回だけ診てもらうつもりでくる人もいる.セカンドオピニオンを求めてくる人もいるし,ある特定の治療のみを希望する人もいる.ときには,自分の話を途中でさえぎったりせずに時間をかけて全部聞いてくれて,「心配ありませんよ,大丈夫ですよ」といってくれるのだけを望んでいる人がいる.そうかと思うと,しゃべるのが面倒なのか,“黙って座ればぴたりと当たる”式の診療を望む人もいるし,病気の説明など聞いてもわからないので,とにかく早く治る薬をくれという人もいる.

難病との付き合い

著者: 森岡眞治

ページ範囲:P.121 - P.121

 3年間の米国留学から帰国したのは1985年の春だった.ボスの小川教授に帰国の挨拶を済ませ,白衣を羽織って病院内をふらふら歩いていると,院内の歩道橋の向こうから,両手を包帯でぐるぐる巻きにした少年が,担当医に付き添われて慌てて病室に戻ろうとしていた.よくみると,真っ白な包帯から鮮血が滴り落ちていた.後で聞くと,彼は劣性栄養障害型表皮水疱症で,癒着・変形した手指に対して指間形成術を受けた患者さんであった.術後経過がよく,ひとりで院内をうろついていて,転んだか何かして手を強打したために出血してしまった直後であった.このときには,私が水疱症の専門外来で,自己免疫性水疱症に加え表皮水疱症の患者さんたちとの付き合いが,またこの憎むべき水疱症との闘いが始まるとは夢にも思っていなかった.
 表皮水疱症は周知のように大きく4型に分けられる.そして,今や遺伝子解析が進み,コラーゲン,アンカリングフィラメント,ケラチンなど病型ごとに病的な構造蛋白とその遺伝子異常が明らかにされ,出生前診断も進んできている.しかし,現に診断を下された患者さんの予後は,特に劣性栄養障害型表皮水疱症では非常に厳しく,本人のみならずその家族にとっても,依然として過酷である.皮膚科医でも一度も経験しなくても済むことがあるような稀少難治の病気であるが,私は1985年から大学を辞して郷里に戻るまでの8年の間,実に多くの表皮水疱症の患者さんと出会い,この難病との付き合い方と闘い方を学んだ.語弊はあるが,単純型,接合部型,優性栄養障害型では,生じた水疱を我慢強く処置していけば,必ずトンネルから抜け出せて,病気と仲良く付き合っていくことができると私は思う.しかし,最重症型の劣性栄養障害型ではどうだろう.トンネルの出口はなかなか見えてこない.わずかではあるが,よい治療効果を見せて患者さんに納得してもらいながら,「がんばろうね」といってはみても,当然治癒には至らず,本当によくなったといえる全体像は現実には見えてこない.患児の瞳は頬のこけた特徴的な顔貌のために強調されているだけではなくて,とても澄んでいる.この澄んだ瞳で見つめられると,研究成果を実際の治療にもっと早く効果的に反映させられないものかと,何度となく歯がゆい思いをした.トンネルは長いけれど,その行く手を照らして先導する役目を臨床の皮膚科医は担わなければならない.とにかく,小さな臨床効果の積み重ねではあっても,医師自身が自信を持って患者さんに成果を示し,先頭に立ってこの難病に立ち向かわなければならない.大学を辞してなおも,当時の戦友からの相談,病状の報告を受ける現在,いまだ終戦は幻のようにも思える.研究の最前線にいる先生方には,少しでも早くこの厄介な難病の克服法を確立して,トンネルの出口を示していただきたい.

急性期病院での皮膚科医の将来

著者: 山田秀和

ページ範囲:P.122 - P.122

 ベッド数200床以上の病院にある皮膚科医の将来を考えてみた.このクラスでは皮膚科を開設していることが多い.研修指定病院であることも多い.この中には大学の附属病院なども含まれる.このクラスの病院は,経済的側面で見れば,急性期病院としての生き残りが必要となる.このためには入院患者が多く,外来受診者数が少ないほうがよく,紹介患者が多いほうがよくなる.在院日数は21日以下となるべきで,従来の各科のベッド回転率は97%以上にするとむしろ収益は下がってくる.当然,医師の定員は厳しくチェックされる.IT化が進むと,すべての物品のコストが計算され,手術室やその他すべての病院に最低必要な費用を各科で分担することになる(百貨店の中の百貨店が経営する専門店といったイメージか?治療に用いる道具が少ないから,経費が余りかからないので皮膚科はよいというのは定員1名の場合).このような枠組みの中で,皮膚科ではどのような技術が生き残りには必要だろうか?入院,手術を中心とする医療以外での生き残りは大変厳しい.つまり,外来患者は多いが低コストでは,労働としては厳しいものの,皮膚科の定員が増えることはない.入院が中心となろうが,アトピー性皮膚炎はタクロリムス軟膏が使われだし,ステロイド拒否症の患者が減少してから入院が減った.心臓のバイパス手術での入院期間が10日程度となっている(米国では3日)が,急性期病院では膠原病をゆっくり診ることができなくなるだろう.そうなると,水疱性疾患に対する透析治療や骨髄移植,悪性腫瘍の治療が主体とならざるを得なくなる(十数年前,日本に導入できなかった皮膚リンパ腫などに使われる対外循環光化学療法などはちょうどよかったのだが).当然,全身麻酔を必要とする手術が中心で,局所麻酔などの手術は日帰り外来レベルとなる.もしかしたら,外来患者が多い病院では皮膚科を外来部門として分離する考えも出てこよう.いずれにしろ,手術に習熟し,臨床手技の多くを手にしている皮膚科医が少人数で全力疾走しないと,大学以外では他科と対等な扱いを受けなくなる.もう1つの方法は,レーザーやフォトフェイシャルなどの美容皮膚科を取り入れることだろう.大学病院も,大学院大学定員や医学部の定員以外の教員,職員は,病院での実績に応じるように分配されるようになるであろうから,皮膚科の定員は少なくなるであろう.その中で,大学の皮膚科教室が皮膚科医の将来をどのように考え,大学に残る研究者以外の一般病院皮膚科専門医をどう育てるかを十分考える必要があると思われる.

忙しくて楽しい

著者: 小林里実

ページ範囲:P.133 - P.133

 3年前,留学の機会に恵まれ,アメリカで2年間皮膚免疫に関する研究を行うかたわら,回診などにも参加させていただいた.回診後のディスカッションに参加して,ある強い印象を得た.レジデントをはじめ皆が生き生きとディスカッションに参加し,活気があることである.この活気はどこからくるのか.臨床に携わるわれわれの日常はとにかく多忙である.日常診療とそれにまつわる業務に追われ,毎日が過ぎていく.これらの業務をこなしつつ,毎年まとまった数の医局業績を出すには,個人の生活時間を削るしかないのかと感じてしまう.もちろん,彼らも多忙であるに違いない.指導者の層を厚くしづらい,医者以外の人間が雇えないなどのシステムの違いもあろうが,加えて,多忙をエネルギーに換える雰囲気づくりの上手さの違いではないかと感じる.われわれは狭い世界で競っているために息がつまるのではないだろうか.机を並べて仕事をする仲間同士で競い合うだけでは,能率が悪く,個人のエネルギーをlossする.彼らは自分たちが1つのチームとして助言し合い,成果のみならず,多忙も失敗も当然のごとく分け合って,それを評価し合う.成果を共有し,次々と共同研究を生み出していく.アメリカ人は個人主義と思っていたが,個人を尊重しつつチームワークを組むのが実に上手い.“忙しくて楽しい”と思えるような雰囲気づくりは,医局員全員の責任である.それがディスカッションの雰囲気にも自然と現れるのか,ディスカッションを有意義に能率よく進める責任を,参加している全員が負っているように見えた.

医学教育

著者: 三橋善比古

ページ範囲:P.142 - P.142

 長く大学にいる関係で医学教育の末端を担っている.卒業してすぐに役立つ医師を養成するとかで,大学における医学教育は大きな変革の時を迎えている.模擬患者を使って診察を訓練するOSCE(オスキー)を実施したり,講義に対する学生の評価も行われている.どちらも私達が学生の頃にはなかったものである.もっとも,講義に対しての評価は内々では大いに行われていたものだが.
 医学教育について考えるとき,心に浮かぶことがある.学生のときの教室内のことである.それは3年生のときの教室の片隅で,ガラスの箱の中にぶら下がって私達を見守っていた全身骨格標本である.当初はインパクトがあり,薄気味悪いなどと思っていたが,そのうち意識にも入ってこなくなり,学年が上がって,その教室を離れた後も,卒業してもずっと思い出すこともなかった.医学教育を考えるようになって,ふいにこの人を思い出した.遺族と思われる人達が,1年に1度この骨の前で供養を行っていたことも思い出した.この人は医学部の先輩であったと聞く。何も語らずジッと見ているのみであったが,この人は骨の解剖学についてではなく,医学教育全般について大事なことを語りかけていたのではないかと思うようになった.

危ない逃げ道?

著者: 八木宏明

ページ範囲:P.147 - P.147

 近年,アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の悪化因子として精神的ストレスと心のケアの重要性がますますいわれるようになってきた.阪神大震災のときの精神的ストレスから皮膚疾患が急増した例が報告されている.私の教室でもアトピー性皮膚炎患者の不安度を測定したところ,活動性パラメーターとの間に相関が認められた.先頃のアメリカ中枢同時多発テロと炭疽菌問題の際には,はたしてどうであっただろうかと不謹慎とは思いつつも興味を持ってしまう.近年,医学部の学生にアトピー性皮膚炎患者が増加していると聞く.医学生のストレスはいかばかりかと……この方向にばかり思考が行ってしまうのはやはりかなり偏った医者になっているからであろうか.
 このように,皮膚疾患への精神科的な影響を調べる皮膚科医は多いのであるが,精神科的側面から皮膚疾患にアプローチされる精神科の先生があまり多くないのはなぜであろうか.約6か月間,300床ほどの規模の精神科病院に週1回の外勤として皮膚疾患の診療を行う機会があった.入院患者の皮膚疾患として最も多いものは真菌症であり,これは予想どおりであった.しかし予想外であったことは,自傷性皮膚炎などの私たちが精神科的疾患であると考えている症例がここでは非常に少ないということと,病院の性質として30代までの若年の患者も数多く入院しているのであるが,この6か月間で診察したアトピー性皮膚炎の患者は1名のみであり,極めて少ないということである.入院患者の多くは精神分裂病である.もちろん皮膚疾患をすべてストレスで説明しようなどとは思わないが,興味深い傾向であると感じ,このことを精神科の医師にお話しした.その先生によると,精神分裂病で入院するような患者では現代社会に生きる人々が抱えているような一般的にいうストレス,不安や葛藤は少なく,もしストレスがあったとしても異質なものではないかとのコメントであった.妄想が見えたり,幻聴があったり,精神分裂病患者は多くのストレス,不安を抱えているのではないかと思っていたので意外であった.確かに皮膚科で問題にしているストレスは,一般的にいう健常な精神状態の人における許容範囲内でのものであって,その延長線上に精神科疾患があるわけではなく,したがって精神科医の興味をそそる問題ではないのであろう.

過激な人妻

著者: 山本明美

ページ範囲:P.150 - P.150

 携帯電話に“迷惑メール”と呼ばれるものが頻繁に送られてくる.その多くが“出会い系サイト”とかいうものの案内である.対象は若い独身女性ばかりかと思いきや,なかに“過激な人妻との出会い”というのがあった.確かにこちらは人妻であり,ある意味では過激でもある.私の周囲には学生や若手医師に優しい教官が多く,“過激”な人材は稀である.
 本学では学生への講義には秘書が出席カードを配っており,一定の出席率をとっていない科目は試験を受けることができない.その日に欠席した友人の分のカードをねだる光景などもたまに見受けられる.最近,皮膚科の講義が2コマ連続であった日,終わって何時間もたってから,医局に1人の女子学生がやってきて,さっきの講義でカードを配っているときに,「席をはずしていて,もらいそこなった」といった.秘書は2コマともカード配りの時間にたまたまいなかったのか,と聞き返したが,そうだと主張する.さらに,誰の講義だったか,と尋問しても,先生の名前までは知らない,という.その場には実は1コマ目の講義をしたT講師が居合わせており,本当に出席していれば,この先生でした,といえるはずなのである.カードをわたせ,いやわたせない,と学生と秘書の押し問答が続いた.T講師はいたたまれなくなり,「いいからカードぐらいやれ」と秘書に命じた.それを見ていた私は学生にいった.「ちょっと待ちな.本当に講義に出てたっていうんなら,何の講義だったかいってみな」.学生は答えられない.「何の講義だったか一言もいえないんだったら,講義にでていたとは言えないでしょ.帰んな」といったら,学生は出ていった.私はそれでも憤りがおさまらず,「本当にもう,近頃の女子学生ときたら.私の頃はね,女子学生といえば皆まじめで,優秀だったのととこぼすことしばし.

専門領域に集中することの落とし穴

著者: 嵯峨賢次

ページ範囲:P.153 - P.153

 われわれ皮膚科医は皮膚科学を専門に学び,皮膚科専門の臨床医や皮膚科学の研究者を目指している.その目標を達成するために,皮膚科学の中にさらに専門領域を持ち,その分野を深く追究することの利点を多くの人達が述べている.皮膚科分野の中のある特定の狭い一部門を集中的に5〜6年以上も取り組めば,その道の専門家として認められるようになるのはそれほど難しいことではないに違いない.その分野の知識や技術は深まり,新しい知見も得られるであろう.臨床分野では専門領域に名声を持つ医師の下には多くの患者が集まる.専門分野の研究者は多くの研究費を獲得し,依頼原稿や講演依頼も多くなることであろう.専門家としての名声はますます高くなり,よいこと尽くめのように思える.
 専門領域に集中することはよいことばかりで,落とし穴はないのだろうか.長い間同じ分野の仕事を続けていると大胆な発想が出にくくなり,以前行った研究の延長線上の研究ばかりを行うようになるかもしれない.自分自身をある分野の専門家と意識するあまり,他の分野の事柄には興味を示そうとしなくなるかもしれない.このような状態が長く続くと,いずれは“専門バカ”と呼ばれる見識の狭い人間になってしまう恐れもある.

素人だからわからない

著者: 川端康浩

ページ範囲:P.154 - P.154

 昨今の医療全般に対する厳しい風潮を受けてか,当院にも医療安全管理対策室が設置された.初代室長には皮膚科玉置教授が就任され,私が対策室兼任医師に任命された.毎日届けられるincident reportに目を通していると,よくぞこれほど多くのincidentが生じるものだと驚くばかりである.もちろん,生命にかかわるような大事故につながるものはほとんどないのだが,こうした小さなミスの積み重ねやダブルチェックが機能しなかった場合を想像すると背筋の凍る思いである.
 われわれの日常診療の中でrisk managementとは何だろうかと考えてみる.それはとりもなおさず,これから行おうとする行為,現在置かれている状況,かかわっている人物(患者とは限らない.ときに医師,看護婦)がどの程度の危険性があるか認識することだろう.医療者・教育者である以上,リスクを回避してばかりはいられない.危険であってもあえてやらなければならないこと,状況は無数にある.とすれば,いかに各事象における危険度を認識し,危険性が高いと判断した場合には慎重な対応をとるかということが重要になってくる.Incidentの多くが危険性の認識不足によるということは歴然としている.

専門外?

著者: 籏持淳

ページ範囲:P.163 - P.163

 これまでに何度か「先生,あんなこともしているのですね」といわれたことがある.誉められているようだが,ちょっとひねくれてとると,何でも手がけてモチベーションがないともとれ,何か微妙な気分になる.このようにいわれるようになったのは,留学から帰り,その後もマトリックス関連の研究を続けてきたので,どうやらこの人はマトリックス,コラーゲンの分子生物学をやる人らしいと学会などで他大学の人などから思われるようになった比較的最近のことである.
 1991〜1993年に川崎医科大学より水島中央病院へ出向中,トマトを食べると蕁麻疹が出るという患者さんに遭遇した.その原因物質を知りたくていろいろ解析を加え,ある雑誌に症例報告したときに,それを読んで下さった某先生にいわれたことがある.また,私が研修医の頃から診させてもらっている聾を伴った先天性掌蹠角化症の家系があり,それが共同研究の末,ミトコンドリア遺伝子変異によることを明らかにし,Am J Med Genetという雑誌に報告したときや,1997年にVörner型掌蹠角化症の新しい遺伝子変異をある雑誌に報告したときにも,そうおっしゃて下さった先生のことを思い出す.

アトピー外来にて

著者: 高木肇

ページ範囲:P.164 - P.164

 「○○って,アトピーに効くんですか」,「知人に勧められて△△を始めたのですが,どう思いますか」,「何か私に合う化粧品はないでしょうか」…….アトピー外来を担当していると,1日に何度か耳にする言葉です.患者さんからのみでなく,他科の医師,医療関係者たちからも皮膚科医がしばしば聞かされる言葉でもあります.
 現在,医療に関する多くの情報が,新聞・テレビ・一般雑誌などでも提供され,ありとあらゆる情報か善悪に関係なく氾濫しています.各種報道に不安な患者さんたちは思わぬところから新しい情報を手にし,さらに不安になったり,いわゆる画期的(?)新療法に飛びついたりすることになります.私たちが注意をしていても,患者さんから初めて教えられる情報も多くあります.日々の診療で患者さんが我々に相談してくれるような関係がまず第一歩となります.

センチネルリンパ節生検で思うこと

著者: 鈴木正

ページ範囲:P.167 - P.167

 最近,皮膚悪性腫瘍の手術を計画するときに所属リンパ節をどう取り扱うか改めて考える機会が多くなってきた.数年前からわれわれの教室では,特に悪性黒色腫を中心に積極的にsentinel lymphnode(SLN)biopsyを行ってきた.当初は,単にSLNが同定できるか,どのような手技で行えば同定率を向上させることができるかということを目標にして,臨床的にリンパ節転移を有する症例も含めて,術中に色素を皮内に注入する方法で行ってきた.小型のリンパ節転移を有する症例では,そのリンパ節に色素が集まり同定可能であったが,巨大なリンパ節転移の症例の場合には,その結果の判断に悩むこともあった.その後,明らかな転移がない症例で,術前にRI法でガンマ—プローブを用いて数量的に,あるいはシンチカメラで画像としてSLNを同定するようになってきた.現在では,術前にRI法でSLNを同定し,皮膚表面にマークして,術中に色素法を行って術前にマークされた部位を中心に皮切を加えて検索するようにしている.もっとも,足底に原発巣のある場合にはほぼ決まった部位にSLNが存在するので,色素法だけでも高い同定率が得られている.
 将来的にはSLNに転移が認められるか否かでリンパ節郭清の適応を決定することができれば,SLN生検は極めて有用な方法といえる.そうなれば,予防的リンパ節郭清という名称は消滅するだろう.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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