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Derm.2002
皮膚硬化モデルかできるまで
著者: 山本俊幸1
所属機関: 1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科環境皮膚免疫学
ページ範囲:P.19 - P.19
文献購入ページに移動 われわれの教室では数年前,ブレオマイシンによる実験的皮膚硬化病変をマウスに誘導することに成功した.当時,西岡教授が厚生省の強皮症調査研究班の班長を務めておられた関係で,当時の片山助教授から仕事を与えられた.初めはヒトの末梢血単核球をブレオマイシンで刺激して,そこから線維芽細胞の増殖を刺激する因子が出されるかどうかを調べるin vitroの実験であった.ブレオマイシンは周知のとおりヒトにおいて肺線維症を引き起こすことのできる薬剤である.ブレオマイシンでヒト末梢血単核球を刺激するとさまざまなサイトカインが生産され,そのうちのいくつかはfibrogenic cytokineとして線維芽細胞の増殖を亢進させる.しかし,ヒトの強皮症をマウスで再現させるには,線維化だけでなく硬化を起こさせる必要がある.初めの仕事が一段落しかけた頃,マウスに直接ブレオマイシンを注射したらどうなるかと思い付き,早速やってみた.しかし,どのくらいの濃度で,どのくらいの期間打てばよいのかなど,まったく手探りの状態であった.しかも自分でもだめで元々と思っていたので誰にも相談もせず,毎日注射をうちながらマウスの背中を触ってみたがいっこうに硬くならず,「ああ,やっぱりだめだ」と思いつつ,結局マウスをそのまますべて捨ててしまっていた.当時,強皮症のほうの仕事と並行して,乾癬におけるスーパー抗原の関与の仕事もやっており,病棟,外来,その他の雑用やら症例報告の論文作成などの合間に実験をやっていたようなもので,深く考える時間などとれなかったし,深く考察するのも苦手で,さらに元々熱しやすく冷めやすいというか,物事に執着しないB型の性格も災いしてか,あまりしっかりとはできず,そうこうしているうちに関連病院へ出向することになったりで,結局そのアイデアは失敗に終わった.出向先は確かに大変忙しい病院ではあったが,大学と比べると,だいぶ時間にゆとりができたので,たまっていた論文作りや,それまでのデータの整理などを細々とやっていたある日,そういえば以前のブレオマイシンを注射した皮膚は組織をとっていなかったなあと思い出した.皮膚科医でありながら,組織学的に検討することさえもしていなかったのである.翌年大学に戻り,再び同じ実験にとりかかり,組織標本を作ってみると,そこにははっきりした硬化の像があった.だいぶ回り道をしてしまったが,その後の解析の結果,マウスに誘導された硬化病変は組織学的および生化学的にヒト強皮症と類似することが確認され,現在引き続きこのモデルを用いて皮膚硬化の病態の解析ならびに治療薬の評価を行っている.
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