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文献詳細

雑誌文献

臨床皮膚科56巻5号

2002年04月発行

文献概要

Derm.2002

危ない逃げ道?

著者: 八木宏明1

所属機関: 1浜松医科大学皮膚科学教室

ページ範囲:P.147 - P.147

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 近年,アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の悪化因子として精神的ストレスと心のケアの重要性がますますいわれるようになってきた.阪神大震災のときの精神的ストレスから皮膚疾患が急増した例が報告されている.私の教室でもアトピー性皮膚炎患者の不安度を測定したところ,活動性パラメーターとの間に相関が認められた.先頃のアメリカ中枢同時多発テロと炭疽菌問題の際には,はたしてどうであっただろうかと不謹慎とは思いつつも興味を持ってしまう.近年,医学部の学生にアトピー性皮膚炎患者が増加していると聞く.医学生のストレスはいかばかりかと……この方向にばかり思考が行ってしまうのはやはりかなり偏った医者になっているからであろうか.
 このように,皮膚疾患への精神科的な影響を調べる皮膚科医は多いのであるが,精神科的側面から皮膚疾患にアプローチされる精神科の先生があまり多くないのはなぜであろうか.約6か月間,300床ほどの規模の精神科病院に週1回の外勤として皮膚疾患の診療を行う機会があった.入院患者の皮膚疾患として最も多いものは真菌症であり,これは予想どおりであった.しかし予想外であったことは,自傷性皮膚炎などの私たちが精神科的疾患であると考えている症例がここでは非常に少ないということと,病院の性質として30代までの若年の患者も数多く入院しているのであるが,この6か月間で診察したアトピー性皮膚炎の患者は1名のみであり,極めて少ないということである.入院患者の多くは精神分裂病である.もちろん皮膚疾患をすべてストレスで説明しようなどとは思わないが,興味深い傾向であると感じ,このことを精神科の医師にお話しした.その先生によると,精神分裂病で入院するような患者では現代社会に生きる人々が抱えているような一般的にいうストレス,不安や葛藤は少なく,もしストレスがあったとしても異質なものではないかとのコメントであった.妄想が見えたり,幻聴があったり,精神分裂病患者は多くのストレス,不安を抱えているのではないかと思っていたので意外であった.確かに皮膚科で問題にしているストレスは,一般的にいう健常な精神状態の人における許容範囲内でのものであって,その延長線上に精神科疾患があるわけではなく,したがって精神科医の興味をそそる問題ではないのであろう.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1324

印刷版ISSN:0021-4973

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