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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科57巻12号

2003年11月発行

雑誌目次

カラーアトラス

Lichen aureus

著者: 樹神元博 ,   横山小名美 ,   伊崎誠一

ページ範囲:P.1050 - P.1051

 患 者:26歳,女性

 初 診:2001年9月5日

 既往歴・家族歴:特記すべきことはない.

 現病歴:初診の5年前より,左膝に皮疹が出現した.放置していたが軽快せず当科を受診した.

原著

神経ボレリア症を伴ったライム病の1例

著者: 山田由美子 ,   池田雄一 ,   佐藤恵美 ,   中根宏 ,   橋本喜夫 ,   飯塚一

ページ範囲:P.1052 - P.1055

 35歳,男性.左側腹部のマダニ刺咬に気付き自分で除去した.その2週間後から同部位に紅斑が出現し徐々に拡大するも,無治療にていくぶん消退傾向がみられた.さらにその1か月半後には左顔面神経麻痺および左握力の低下を認め当科を受診.EIA法による血清診断でボレリア抗体が検出され,紅斑部でのPCR法ではボレリアの特異的バンドが検出された.ステロイド,抗生剤の投与により紅斑は消退し,神経症状も軽快した.

今月の症例

臀部肉芽腫(granuloma glutaeale)の1例

著者: 山田正子 ,   広門未知子 ,   福永有希 ,   掛水夏恵 ,   山川有子 ,   菅千束 ,   相原道子 ,   佐々木哲雄 ,   池澤善郎

ページ範囲:P.1057 - P.1059

 13歳,女児.本例では排泄物による汚染と刺激が原因もしくは悪化因子と考えられた.本症は乳児,老人はもとより,寝たきり生活を余儀なくされている身体障害者,さらには一般的な生活を送っている者であっても,排泄物の失禁状態などの状況下であれば発症しうるものと考えられた.治療は,その病因および悪化因子を除去することが肝要と思われた.

症例報告

パンとアセチルサリチル酸の同時投与で生じた食餌依存性サリチル酸誘発性アナフィラキシーショック

著者: 高田智也 ,   松本喜美 ,   池田光徳 ,   小玉肇

ページ範囲:P.1062 - P.1064

 51歳,男性.5年前よりパンを食べた後や,バファリン(R)内服後に膨疹が出現することがあった.パンもしくはバファリン(R)の単独経口投与,およびいずれかの経口投与後に運動負荷を加えた試験では症状の出現を認めなかったが,パンとバファリン(R)の同時投与により,全身の膨疹,血圧低下および意識障害をきたした.本症例は食餌依存性サリチル酸誘発性アナフィラキシーショックの1例であると考えた.食餌依存性サリチル酸誘発性アナフィラキシーショックでは,サリチル酸が発症の準備状態を誘導し,食餌性アレルゲンが特異的IgEを介して肥満細胞からの脱顆粒を増強するのではないかと考えた.

SLEに発症したカルバマゼピンによる重症型薬疹―HHV-6とCMVの抗体価の変動が認められた1例

著者: 秋田洋一 ,   玉田康彦 ,   松本義也 ,   星野晃 ,   佐橋功

ページ範囲:P.1065 - P.1067

 32歳,女性.1998年にSLEを発症し,2001年5月頃より,会話中に突然の眼球運動が出現したため,当院神経内科にてSLE脳症の疑いでカルバマゼピン(テグレトール(R))を投与された.投与後9日目頃より,発熱とともに,顔面のびまん性の紅斑と体幹と四肢の紅斑と丘疹が出現し,肝機能障害と末梢血中に異型リンパ球が認められた.左下腿紅斑部の病理組織学的検索にて薬疹の像を呈し,パッチテストおよび薬剤添加リンパ球刺激試験を施行したところテグレトール(R)に陽性を示した.各種ウイルス抗体価の検索では発症当初,抗HHV-6IgG抗体価と抗CMV IgM抗体価の上昇を認めたが,皮疹の改善とともに低下した.多臓器障害を伴う重症型薬疹と診断し,テグレトール(R)の内服中止とステロイドおよびγ-グロブリンの投与にて,2週間後に全身の皮疹は消退し肝機能もほぼ正常化した.

カルバマゼピンによるdrug-induced hypersensitivity syndromeの1例

著者: 平原和久 ,   狩野葉子 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.1069 - P.1072

 40歳,女性.2001年7月27日より自律神経失調症のため,カルバマゼピン内服を開始した.23日後より高熱が出現し,その2日後には全身に皮疹を認め来院した.初診時,高熱と,ほぼ全身の淡い浮腫性の紅斑,異型リンパ球の出現を件う白血球の増多,高度の肝障害を認めた.drug-induced hypersensitivity syndrome(DIHS)を疑い薬剤を中止し,ステロイドの投与はあえて行わず補液のみで経過をみたところ,一過性の増悪は認めたものの,皮疹,肝機能は速やかに軽快した.発症19日目にHHV-6IgG抗体価の著明な上昇と,末梢血中にHHV-6DNAを検出した.軽快後のカルバマゼピンのDLSTは強陽性を示し,カルバマゼピンによるDIHSと診断した.初診時血清IgG値の低下を認めたことから,DIHSの発症における免疫不全の関与と,ステロイド投与の是非について考察した.

上部・下部消化管出血,腎炎を伴ったアナフィラクトイド紫斑

著者: 津福久恵 ,   大西善博 ,   吉永英司 ,   石橋明 ,   多島新吾

ページ範囲:P.1073 - P.1075

 28歳,男性.感冒様症状に続いて,下肢と手関節部に紫斑が出現し,関節痛と激しい腹痛を伴った.組織学的所見は,leukocytoclastic vasculitisの像であった.胃・十二指腸・大腸に広範囲に点状紅斑とびらんを認めたため,プレドニゾロン30mg/日の内服と,血液凝固XIII因子で治療を開始したが反応しなかっため,ソルメドロール(R)500mg/日(3日間)のハーフパルス療法を行ったところ著効した.しかし,尿検査で蛋白と沈さで硝子円柱が持続したため腎生検を施行したところ,紫斑病性腎炎の所見であった.プレドニゾロン40~20mgまで漸減し,抗血小板薬(ペルサンチン(R))との併用で腎症状は1か月で軽快した.

Lichen purpuricus(aureus)の2例

著者: 脇田加恵 ,   齊藤典充 ,   太田幸則 ,   太田幸宏

ページ範囲:P.1078 - P.1081

 症例1,16歳,男性.約1か月前より左下腿に暗褐色調で部分的に黄褐色調を呈し,浸潤を触れる病変が出現.組織学的にリンパ球および組織球の稠密な浸潤と赤血球の血管外漏出を認め,lichen purpuricusと診断した.症例2,75歳,女性.下腿の静脈瘤の治療歴があり,それと同側下腿に母指頭大のわずかに浸潤を有する黄褐色調の色素沈着局面を認め,組織像は症例1とほぼ同様であった.静脈瘤の存在からSchamberg病との鑑別を要したが,それに典型的な点状出血のないことよりlichen aureusと診断した.過去10年間における本症報告例についてまとめるとともにlichen purpuricus(aureus)の位置付けについて若干の考察を加えた.

早期診断した再発性多軟骨炎

著者: 川上佳夫 ,   山崎啓二 ,   中村晃一郎 ,   金子史男

ページ範囲:P.1082 - P.1085

 51歳,男性.初診3週間前に右耳介の発赤,腫脹が出現.その1週間後には左眼球結膜の充血と両手指,両膝の関節痛が出現した.抗生剤および消炎鎮痛剤の内服を行うも改善せず,再発性多軟骨炎(RP)を疑い,初診時より1週間後に耳介部の生検を行い,同時にプレドニゾロン30mg/日の内服を開始した.その後症状は速やかに改善し,病理組織学的所見で軟骨周囲に炎症細胞の浸潤を認めたためDamianiとLevineの診断基準に基づきRPと診断した.血清Ⅱ型コラーゲン抗体は陰性でHLA-DR-4陽性であった.プレドニゾロン減量中に症状の再燃を認めたが,コルヒチン1mg/日を併用後は症状も改善し,現在プレドニゾロン15mg/日で経過観察中である.

ケルズス禿瘡様皮疹を呈した尋常性天疱瘡の1例

著者: 長澤由美 ,   栗原みどり ,   大塚俊 ,   山崎雙次

ページ範囲:P.1086 - P.1088

 38歳,男性.初診約2か月前より頭部にびらん,排膿が生じた.近医にて加療されるも増悪したため当科を紹介された.頭頂部にびらん,排膿,痂皮,脱毛を認めた.臨床的にケルズス禿瘡を疑ったが,入院後四肢中心に指頭大までの弛緩性水疱および口腔内びらんが出現した.頭部および水疱部生検所見ではいずれも棘融解を認め,DIF所見にて表皮細胞間にIgG,C3が沈着していたため尋常性天疱瘡と診断した.治療はPSL60mg/日,シクロフォスファミド75mg/日にて皮疹が改善した.頭部に限局して初発した尋常性天疱瘡について若干の考察をした.

Behçet病に伴った深部静脈血栓症

著者: 田島麻衣子 ,   武藤潤 ,   江守裕一 ,   大畑恵之 ,   岩田憲治 ,   小澤雅邦

ページ範囲:P.1090 - P.1092

 54歳,女性.半年前より口腔内アフタ,下肢の有痛性紅斑が出没していた.左下肢に,突然,腫脹・発赤・疼痛が出現し,静脈造影にて左大腿~腸骨静脈の深部静脈血栓症と診断した.ヘパリンとウロキナーゼによる抗凝固・線溶療法を施行し軽快,ワーファリン内服と弾性ストッキングによる圧迫療法を施行中である.下肢の紅斑の組織は血栓性静脈炎に合致し,外陰部潰瘍の既往もあることから,不全型Behçet病が基礎疾患として考えられた.

サイトメガロウイルス単核症の1例

著者: 片山美玲 ,   東直行 ,   青木見佳子 ,   義澤雄介 ,   川名誠司

ページ範囲:P.1093 - P.1095

 33歳,男性.初診の約1か月前より四肢に2~3日持続する紅斑が出現した.その後拡大し,末梢血中に異型リンパ球,肝機能障害,発熱も出現した.皮疹は境界不明瞭な淡い紅斑であり,病理組織学的に真皮浅層の血管周囲に好中球を混じた小円形細胞浸潤像を示した.サイトメガロウイルス(CMV)IgM抗体陽性と上記臨床症状,および個疹が2~3日持続したことより,蕁麻疹様紅斑を伴ったCMV単核症と診断した.

抗酸菌感染症における薬剤誘発性の好中球性皮膚症

著者: 中島英貴 ,   池田光徳 ,   山本康生 ,   小玉肇

ページ範囲:P.1096 - P.1098

 55歳,女性.右大腿骨骨髄炎と左無気肺を併発しており,さらに頚部と鼠径のリンパ節腫脹が出現した.リンパ節の培養からMycobacterium intracellulareが検出され,全身性非結核性抗酸菌症と診断した.INH,RFP,EBの三者併用は無効で,スパラ(R)を追加投与したところ,発熱とともに全身に膿疱と滲出性紅斑が出現した.スパラ(R)の投与中止後皮疹は消退したが,内服誘発試験により膿疱が再燃したため,acute generalized exanthematous pustulosisと考えた.骨髄炎,肺,リンパ節の病変が残存するため,クラリス(R)の投与に変更したところ,少数の膿疱が出没していたが,2か月後には膿疱がみられなくなり,これらの病変も著明に縮小した.クラリス(R)投与中の膿疱は,Herxheimer反応類似の機序で出現したと考えた.

Hyperkeratosis of nipple and areolaの1例

著者: 福田英嗣 ,   ,   芝原真理子 ,   日野治子

ページ範囲:P.1100 - P.1103

 31歳,女性.3か月前より,乳房に下着が擦れそう痒感があった.掻破しているうちに同部に発赤,滲出液が出現したため,2001年11月20日に当科を受診した.湿疹二次感染の診断のもと抗生剤の内服およびステロイド剤の外用を行った.数日で乾燥傾向があり,褐色の丘疹と色素沈着へと変化した.その後もステロイド剤の外用を継続したが皮膚病変の消褪がなかったため,炎症の軽快した後に褐色丘疹を生検した.組織所見は表皮に過角化,乳頭腫症,真皮上層には血管周囲に炎症細胞浸潤があり,臨床と併せ,hyperkeratosis of nipple and areolaと診断した.治療はステロイド剤の外用を継続していたところ色素沈着を残すのみとなった.本症は報告例が少なく,本邦報告例について文献的考察を加え報告した.

デキサメサゾン・脱脂大豆乾留タール軟膏外用が奏効した硬化性萎縮性苔癬の1例

著者: 宇宿一成

ページ範囲:P.1104 - P.1105

 70歳,女性.1999年10月ごろから外陰部にそう痒感を伴う脱色素斑を認め,自己治療していたが,改善なく脱色素斑が徐々に拡大するため2002年10月7日当科を受診した.外陰部にびらんを伴う白斑を認めた.病理組織学的には表皮肥厚と基底層の空胞変性,真皮上層の浮腫と膠原線維の膨化,均質化を認めたことより,硬化性萎縮性苔癬(LSA)と診断した.デキサメサゾン・脱脂大豆乾留タール軟膏1日2回外用にて4週後にはほぼ正常の外観を呈するようになった.この軟膏に含有されるステロイドは最も抗炎症活性の低いグレードV(GV)に分類される0.1%デキサメサゾンであり,外陰部に外用するうえでの安全性も高く,LSAに対して有用な外用剤であると考えた.

背部に生じた脂腺母斑の1例

著者: 服部尚生 ,   安藤浩一

ページ範囲:P.1106 - P.1108

 生後1か月,男児.在胎31週で二卵性双生児として出生した.呼吸窮迫症候群のためNICU入院後,右背部に幅3cm,長さ9cmの紅色脱毛局面を認めた.皮膚生検にて,真皮上層に成熟した皮脂腺が多数みられた.以上の臨床像,病理組織学的所見より,脂腺母斑と診断した.脂腺母斑の発症部位について,過去の報告では,頭頚部発症例は90%近くを占めていた.しかし,軀幹発症例は数%とわずかであり,背部に生じた本症例は比較的稀な例と思われた.脂腺母斑症候群の合併については,神経学的に異常を認めなかったが,経過観察を要すると考えられた.

眼窩後壁の骨欠損,髄膜脳瘤,眼球突出を合併した神経線維腫症1の1例

著者: 草間美紀 ,   黒坂良枝 ,   小松崎眞 ,   石地尚興 ,   上出良一 ,   新村眞人

ページ範囲:P.1109 - P.1111

 43歳,女性.家族内に同症なし.生下時より全身にカフェ・オ・レ斑がみられた.生後8か月頃,ハイハイの際,右上下肢の動きが不自然であることに気付いたが,診断がつかぬまま放置されていた.3歳頃,左上下眼瞼から耳前部にかけて軟らかい腫瘤が出現し,びまん性神経線維腫と診断され,部分切除術を受けた.その後も腫瘤は増大し,次第に眼球突出を認めるようになった.神経学的には,知的障害はなく,意識は清明,不随意運動,病的反射は認めない.右上肢および下肢の筋力低下を認めるが,明らかな麻痺はない.左眼の視力はほとんどない.画像検査では,眼窩後壁に骨欠損がみられ,髄膜脳瘤を伴う.また左大脳半球は側脳室が囊腫状に拡大し,視神経は低形成で痕跡状である.神経線維腫症1では,稀に眼窩骨欠損に伴い拍動性眼球突出がみられ,眼窩の再建術が行われることがある.本症例では,患者の年齢を考慮し,再建術は施行しなかった.

小型の先天性色素性母斑から発症した小児の悪性黒色腫

著者: 太田智秋

ページ範囲:P.1113 - P.1115

 7歳,女性.出生時より存在した頭頂部の色素斑が,3~4か月前よりびらん・痂皮を形成するようになった.組織学的に複合母斑の構築を呈していたが,表皮真皮境界部に明らかに大きな細胞質と異型の核を有する淡明な細胞を認め,核分裂像を伴っていた.真皮内の母斑細胞にも一部でクロマチンの豊富な核を呈する集団があったが,明らかな細胞異型や核分裂像などは認めなかった.免疫組織化学的には,これらの細胞群はいずれもS-100蛋白,HMB-45に陽性を示したため,先天性色素性母斑の悪性化と診断した.10歳未満の小児の悪性黒色腫は比較的少なく,そのなかでも頭部の小型の先天性色素性母斑から発症する例は稀であるが,悪性黒色腫の前駆病変として注意が必要である.

表皮囊腫より発生した有棘細胞癌の1例

著者: 太田智秋 ,   木下眞人

ページ範囲:P.1116 - P.1118

 23歳,男性.約1か月前より生じた頚部の皮下腫瘤.病変は18×14mmの囊腫様結節で,組織学的にも,表皮より連続して真皮内に上皮性の壁を有する囊腫の存在を認める.囊腫壁は表層部でほぼ正常皮膚表皮構造を呈しているが,中層から深部にかけては肥厚した重層扁平上皮構造を呈するとともに,極性を喪失し異型性を有する角化細胞が多数の同心円様角化珠を形成しつつ増殖する.一部では境界不明瞭で真皮内に向けて箒状の微小浸潤を示す像を認める.これらの所見から,本症例は表皮囊腫より発生した有棘細胞癌と判定した.表皮囊腫の悪性化は稀だが,たとえ発症後短期間でも,あるいは比較的小さくてもその可能性について注意を怠ってはならないと考えた.

20年の経過で増大したeccrine porocarcinomaの1例

著者: 延山嘉眞 ,   堀和彦 ,   大森一範 ,   新村眞人

ページ範囲:P.1119 - P.1122

 症例は36歳,男性.16歳頃より下腿に腫瘤が出現した.初診時,40×35mmの表面にびらん,痂皮を伴う広基性腫瘤があった.病理組織像は全体像の辺縁は明瞭で,腫瘍の浅層は表皮と連続し,深層が脂肪織に達していた.一部に核異型がみられ,多数の分裂像がみられた.以上の病理組織所見は良性とされるeccrine poroma with bowenoid changesに一致する.しかし,腫瘍中層と深層の胞巣は大きさと形が不規則であり,胞巣の辺縁が不規則に入り組んでいる点がeccrine poroma with bowenoid changesの診断基準を満たしていないので, eccrine porocarcinomaと診断した.発症から初診までの20年間の経過中に遠隔転移がないことから当初より悪性度の低い腫瘍であったのか,当初は良性で経過中に悪性化したのか,どちらの可能性も考えられる.

乳管癌に伴った乳房Paget病の1例

著者: 櫻庭一子 ,   水嶋淳一 ,   石黒直子 ,   川島眞 ,   山崎喜代美 ,   小原孝男

ページ範囲:P.1123 - P.1125

 62歳,女性.2000年10月頃,左乳頭にそう痒を伴う黒色斑が出現し,徐々に拡大して黒色調が増したため,翌年3月に当科を受診した.初診時,左乳頭に角化を伴う径8mmの黒色斑を認めた.ダーモスコピーでは中央にgray blue veilと周囲にbrown globulesを認めた.病理組織像では表皮内に胞体の明るい異型細胞,真皮上層に多数のメラノファージを認めた.真皮下層の乳管上皮内にも異型細胞を認め,連続切片において表皮と連続する乳管上皮内に腫瘍細胞を認めた.抗BRST-1抗体による免疫組織染色では,表皮内と乳管上皮内の腫瘍細胞は陽性を呈し,ともに乳癌細胞の性質を有する同一の細胞と考えられた.治療としては乳房部分切除術と術後に放射線療法を行い,再発,転移を認めない.

脂腺上皮腫が発生母地と考えられた脂腺癌の1例

著者: 鈴木布衣子 ,   三宅亜矢子 ,   木花いづみ ,   中野政男

ページ範囲:P.1126 - P.1128

 66歳,女性.幼少時より存在する左側頭部の小結節が4か月前より増大してきた.径2cm,広茎性で黄色調,表面中央部は平滑,両端が顆粒状易出血性の腫瘤を認めた.組織学的には,異型性のある基底細胞様細胞が表皮と連続性に分葉状に帽状腱膜直上まで増殖していた.腫瘍巣の中央では胞体が明るく泡沫状で核も大型の細胞を認め,これらは脂肪染色陽性を示した.一部では異型性を認めない脂腺上皮腫様の部分もあり発生母地と考えられた.拡大切除の後,電子線照射,化学療法を施行した.術後8か月経過するが再発・転移は認めていない.脂腺上皮腫は放置すると悪性変化をきたす可能性があり,早期に切除することが望ましいと考えた.

冷却シートによる一次刺激性皮膚炎

著者: 宇宿一成

ページ範囲:P.1129 - P.1130

 4歳,女児.熱発に対して前額部に冷却シートを貼付したところ,翌朝疼痛を伴い水疱形成を混じる紅斑を生じた.冷却シートおよびそれに含まれる植物成分の精油を用いたパッチテストは陰性だった.発熱と発汗により角質バリアーが障害されたために生じた冷却シートによる一次刺激性皮膚炎と考えた.1週間のストロングクラスのステロイド外用で略治した.冷却シートの安全性に対して皮膚科的に検討する必要があると考えた.

連載

Clinical Exercises・124―出題と解答

著者: 古川福実

ページ範囲:P.1103 - P.1103

出題と解答:古川福実(和歌山県立医科大学)
247 慢性砒素中毒の皮膚症状として比較的特徴的なものはどれか?

A:色素斑

B:角化症

C:Bowen病

D:基底細胞癌

E:有棘細胞癌

米国皮膚科医への道(8)

著者: 藤田真由美

ページ範囲:P.1135 - P.1135

 レジデント教育(Residency Training)

 今回は,皮膚科研修の概略について述べようと思う.以前にも述べたように,アメリカの専門医は専門分野のプロという認識が非常に強い.一般医の相談役としてその上に位置付けられているために質の高さが求められ,教育内容も一般医教育の後に2~3年の専門教育が必要とされる.皮膚科の場合は一般研修が1年で済む代わりに,皮膚科研修期間は3年となっている.皮膚科研修内容については,各大学のプログラムによって質,量ともに多少特色があるのはもちろんであるが,アメリカ教育の一つの特色として,基本的な教育方針やレベルがある程度一貫していることが挙げられる.これには,ABD(American Board of Dermatology:アメリカ皮膚科専門医認定会)の貢献が大きいと思われる.ABDは,アメリカ皮膚科医の教育,研修の高水準を保つことを目的としている.レジデントの教育指針を提起し,各プログラムの教育内容を毎年検討し,各レジデントの教育内容とその評価についても毎年検討する.レジデントは毎年,70~80項目にわたって評価され,その通知表はABDに提出される.また毎年ABD主催の皮膚科研修医向けの全国一斉テスト(皮膚科専門医試験の予備テストのようなもの)があり,国内の同期皮膚科研修医の中での自分のランキングが知らされる.さらに,ABDは研修医卒業後の専門医資格試験の管理,その後の研修と教育,10年毎の専門医更新試験の管理も行っている.

 私が研修を行ったワシントン大学皮膚科では,表のように2か月ごとに6つのローテーションを廻る.皮膚科一般研修は大学病院,ハーバービュー病院(公立病院),VA(Veterans' Administration:在郷軍人)病院で行われ,小児皮膚科研修はこども病院で,皮膚外科と皮膚病理は大学病院の中で行われる.ほかの大学のプログラムでも,大学病院,公立病院,VA病院での研修は軸であるが,小児皮膚科,皮膚外科,皮膚病理は単独のローテーションになることもあるし,ほかのローテーションの中に組み込まれていることもある.各病院にそれぞれの特色があるため,その研修内容もおのずと異なってくる.大学病院は,臨床,研究,教育を目的とし,患者さんも病気も多少人種差があるものの,日本と大きな違いはない.

治療

掌蹠・腋窩多汗症に対する水道水イオントフォレーシスによる入院短期集中治療の検討

著者: 後藤一美 ,   丸山友裕

ページ範囲:P.1131 - P.1133

 掌蹠・腋窩多汗症患者10例に対して,入院の上,水道水イオントフォレーシスを行った.治療期間は約2週間,治療時間は各10~20分,1日1~3回連日施行した.効果判定は患者の自己評価に基づいて行った.手掌では,10例中著効6例,有効2例,やや有効2例,足底では,7例中著効1例,有効4例,やや有効2例,腋窩では,3例中著効2例,やや有効1例であった.また,各部位の全対象患者において無効例は認められず,本療法の有用性が示唆された.

印象記

第102回日本皮膚科学会総会・学術大会

著者: 高橋健造

ページ範囲:P.1137 - P.1139

 第102回日本皮膚科学会・学術大会が2003年5月23日(金曜日)~25日(日曜日)の3日間にわたり,順天堂大学医学部皮膚科学教室教授であり順天堂大学の学長でもある小川秀興教授を会頭に,浦安市舞浜の東京ベイホテル東急と東京ベイNKホールにて開催された.浦安市は東京駅,羽田・成田空港からのアクセスが便利で都内と変わらぬ時間で到着できるうえに,東京ディズニーランドや新しくオープンしたディズニーシーに隣接する.この町に大きな附属病院を持つ順天堂大学ならではのローケーションである.

 ここ数年の皮膚科学会総会は2001年度に第100回を迎えたことや新しい世紀にかけての変わり目にもあたり,日本皮膚科学会の歴史や先人たちの仕事の総括などの,記念行事や歴史的な講演やシンポジウムが目立つ構成が多かった.今年の第102回学術総会は従来の皮膚科学会総会の姿に戻り,「新世紀の皮膚科学―夢と挑戦,Dermatology in new century-new vistas, new challenges」をメインテーマに,21世紀これからの日本の皮膚科学の夢,そして挑戦すべき課題とはどんなものであるかを熱く語りかけてくる,そんな小川会頭の願いのこもった学会構成が感じられた.学会期間は天候にも恵まれ,学会会場にほど近いディズニーランドやディズニーシーへ行った同伴家族には大変評判が良く,また息抜きに行った若い参加者たちも半日で日焼けして帰ってくるほどであった.学会会場である東京ベイホテル東急の2階フロアには,ベビーシッター用に広い部屋が確保されており,年々若い女性の比率の高くなる皮膚科学会の会員にとっても大変好評であった.これからの学会開催には必須のサービスであるかと思われる.地の利の良さとこれらサービスのためか,家族連れで参加する学会員の数が例年に比しても特に多かったように見受けられた.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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