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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科57巻5号

2003年04月発行

雑誌目次

特集 最近のトピックス2003 Clinical Dermatology 2003 1.最近話題の皮膚疾患

ラテックス・フルーツ症候群

著者: 冨高晶子 ,   松永佳世子

ページ範囲:P.11 - P.16

 ラテックスアレルギー患者がクリやバナナを摂取することで,喉,口,目の痒み,口唇や顔面の腫脹,蕁麻疹,気管支喘息様症状,アナフィラキシーショックを生じる即時型アレルギーをラテックス・フルーツ症候群と呼ぶ.ラテックスアレルギー患者の約半数に食物アレルギーが合併すると報告され,原因となる野菜・果物の報告は多岐にわたる.ラテックスアレルギーおよびラテックス・フルーツ症候群は,現時点では原因物質の接触・摂取を回避することが最良の予防策であるが,交差反応が報告されているすべての食物を回避することは難しい.当科において,複数のラテックスアレルギー患者を対象に,症状が誘発された野菜・果物における臨床症状を分類したところ,より重篤な症状を誘発する傾向のある野菜・果物はバナナ,クリ,アボカド,ソバであり,口腔内症状のみ,または刺激により症状が誘発されている傾向のあるものはメロン,トマト,キウイであった.本稿では筆者らの経験した症例を供覧するとともにラテックス・フルーツ症候群について解説する.

ブフェキサマク含有外用剤による重症の接触皮膚炎の2例

著者: 竹中祐子 ,   宍戸悦子 ,   小林里実 ,   桧垣祐子 ,   川島眞

ページ範囲:P.17 - P.21

 症例1は58歳,女性.右腰部の帯状疱疹に対しアンダーム(R)軟膏を塗布したところ,外用4日目より外用部とその周囲に紅斑が出現し,外用中止後も軀幹,四肢,さらに顔面へと拡大した.38.5℃の発熱と,外用部および顔面の紅斑上に小膿疱を伴った.症例2は78歳,女性.頚部,上肢の日光皮膚炎に対しデムコAローション(R)を外用したところ,2日目より外用部とその周囲に浮腫性紅斑が出現し,外用中止後も顔面,軀幹に拡大した.2例ともステロイド外用療法のみでは不十分で,プレドニゾロン30mg/日の内服を要した.ブフェキサマクによる重症の接触皮膚炎は,外用部位を越えて遠隔部位にも皮疹を生じ,外用中止後も皮疹の遷延,拡大をみること,全身倦怠感,発熱などの全身症状を伴うことが特徴と思われた.皮疹が遷延,広範囲に拡大する要因として,本剤の強い抗原性に加え,抗原物質が皮膚に長期残存することが考えられた.

Striaelike epidermal distension―下肢の急激な浮腫に伴って出現する皮膚症状

著者: 石黒直子 ,   川島眞

ページ範囲:P.22 - P.27

 短時間に起こる急激な浮腫に伴って下肢に生じる特異な皮膚症状を紹介し,解説した.1999年以降に同様の皮膚症状を呈する症例を4例経験し,2例は重度の神経性食思不振症を,残り2例は末期癌を基盤とした低栄養状態を認め,下腿,足背の浮腫の強い部分に皮膚の伸展方向とは垂直に生じる紅色ないしは紅褐色の線状皮疹を認めた.一部の皮疹は隆起性で,1例では水疱や潰瘍形成を伴っていた.生検を施行した2例の病理組織像では表皮の上1/2~全層の変性,壊死があり,表皮内へのリンパ球や好中球の侵入像,一部の真皮血管壁の腫脹や変性,血管周囲性にリンパ球や好中球などと赤血球の血管外漏出像を認めた.水疱は表皮内水疱を呈していた.elastica van Gieson染色では真皮の線維には異常はなく,蛍光抗体直接法では1例で表皮基底膜の一部にフィブリノーゲンの沈着を認めた.線状皮疹は浮腫が改善するとともに,約1か月後には色素沈着を残し軽快した.

成人の伝染性紅斑

著者: 戸倉新樹 ,   秦まき ,   橋爪秀夫

ページ範囲:P.28 - P.31

 成人のヒトパルボウイルスB19感染は種々の症状を引き起こす.皮膚科的には,成人の伝染性紅斑という形で外来を訪れるが,その診断は困難なことも多く,疑うことが診断の第一歩である.小児に比べ皮疹の程度が軽く,淡い対称性の四肢・頬部の紅斑でさえ疑診しなければならない.関節痛,発熱,頭痛,倦怠感,肝障害の頻度が高く,特に関節痛,浮腫は半数の症例で認められ,大きな診断の手掛かりとなる.医療従事者における流行は注意を要する.

RS3PE(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema)

著者: 古賀弘志 ,   河内繁雄 ,   斎田俊明

ページ範囲:P.33 - P.37

 RS3PE(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema)は,高齢者に突然,手背・足背のpitting edemaと関節痛が出現するリウマトイド因子陰性の症候群である.腱滑膜炎の所見が目立つため,あえて関節炎でなく滑膜炎(synovitis)とされた.少量のステロイドが著効し再発することはない.ステロイドに対する反応性が悪い場合や全身症状のある場合は,悪性腫瘍を合併している可能性を考えなくてはならない.

2.皮膚疾患の病態

ヒスタミンが関与しない蕁麻疹

著者: 秀道広

ページ範囲:P.40 - P.44

 蕁麻疹は,皮膚マスト細胞の急激な脱顆粒により引き起こされ,様々な病型において局所的なヒスタミン遊離が証明される.臨床的にヒスタミン受容体拮抗薬(H1拮抗薬)に抵抗性の症例が存在する理由としては,1つは拮抗薬の作用範囲を超えた高濃度のヒスタミンが遊離されている可能性が,もう1つは神経ペプチド,キニン,lipoxygenase産物などのヒスタミン以外の内因性物質がより重要な役割を演じている可能性が考えられる.

タクロリムス軟膏によるアトピー性皮膚炎の止痒機序―皮膚神経系因子の観点から

著者: 豊田雅彦

ページ範囲:P.45 - P.50

 免疫抑制外用剤タクロリムス軟膏のアトピー性皮膚炎患者に対する有用性,特に止痒機序について,皮膚神経学的側面よりステロイド外用剤との比較において検討した.タクロリムス軟膏の外用により,表皮内substance Pおよび神経成長因子レベルの低下,ケラチノサイトにおける神経成長因子およびその高親和性レセプター(Trk A)の発現減弱,および表皮内神経線維数の減少などが認められた.さらにマウス脊椎後根神経節を用いたカプサイシン刺激による神経節からのsubstance Pの遊離は,タクロリムスにより抑制された.以上より,タクロリムス軟膏のアトピー性皮膚炎における止痒機序には,ステロイド外用剤と異なる,皮膚神経系因子(神経分布,神経ペプチド,神経成長因子など)の調節作用を介する系も関与していることが明らかとなった.

Netherton症候群とSPINK5

著者: 小松奈保子

ページ範囲:P.51 - P.58

 Netherton症候群(NS)は魚鱗癬様紅皮症,アトピー素因,低成長,竹節状裂毛を特徴とする先天性疾患であり,serine protease inhibitorをコードするSPINK5を原因遺伝子とする.NSでは,SPINK5遺伝子の変異により角層におけるセリンプロテアーゼ活性の抑制機構が障害され,角質トリプシン様酵素活性が異常に上昇し,角質細胞の過剰な剝離が起こる.これにより皮膚のバリア機能は顕著に低下し,易感染性や体温調節障害など,他の魚鱗癬にはみられない特異な臨床症状を呈する.また,外用剤の経皮吸収も顕著に亢進するため,ステロイド軟膏によるCushing症候群や,タクロリムス軟膏による同剤の血中濃度の異常上昇などの医原性合併症が起こりうる.特に本邦では紅皮症を示さない軽症例が多く,アトピー性皮膚炎との鑑別が困難なことがあり注意が必要である.本稿では,本邦におけるNSの遺伝子変異と臨床症状の特徴を概説し,早期診断のポイント,および角層のトリプシン様酵素活性測定による補助診断法を紹介する.

PXE(pseudoxanthoma elasticum)の遺伝子異常

著者: 多島新吾

ページ範囲:P.59 - P.63

 Pseudoxanthoma elasticum(PXE)は皮膚症状,眼症状,心血管障害を示す優性あるいは劣性遺伝性疾患である.病理組織上,弾力線維の変性およびカルシウム沈着を認める.この所見より責任遺伝子は弾力線維にかかわる結合組織蛋白の遺伝子と考えられていたが,近年,細胞内物質輸送に関与する膜蛋白であるABCC6(MRP6)遺伝子に異常を認めることがわかった.ABCC6蛋白の機能あるいは何が基質になるかは現時点でよくわかっていない.おそらくABCC6の基質になる物質の輸送異常が生じ,そのためにその物質の代謝異常により正常な弾力線維を形成できず,カルシウム沈着を生じると考えられる.ABCC6遺伝子異常が弾力線維の断裂,沈着,あるいはカルシウム沈着とどのようにかかわっているか今後の問題である.

せつ・よう(癰)はなぜできる?:Panton-Valentine毒素産生黄色ブドウ球菌の役割

著者: 山崎修

ページ範囲:P.65 - P.69

 Panton-Valentine型ロイコシジン(PVL)は白血球に対して高い特異性を示す毒素である.フランスでの黄色ブドウ球菌の臨床分離株からはPVLは全体の5%以下しか検出されていないにもかかわらず,せつ(せつ)やせつ腫症など深在性皮膚感染症では93%に検出された.さらに,最近PVLの致死的なブドウ球菌性壊死性肺炎への関与も報告され注目されている.当科でのせつ・せつ腫症・癰(よう)から分離された黄色ブドウ球菌についてPVLを検索した結果,全体で21%,せつ腫症55.5%,せつ14.2%,癰0%の検出率であった.臨床的には基礎疾患のない若年者に多く,発赤の強いせつで,せつ腫症になりやすい傾向が認められた.

Blaschko線の今日的意義

著者: 若杉正司 ,   小野友道

ページ範囲:P.70 - P.74

 Blaschko線はAlfred Blaschkoにより提唱された概念である.多数の母斑性疾患あるいは後天性皮膚疾患がこのBlaschko線に沿って配列する.この線は皮膚の神経分節を示すデルマトームとは異なる.血管またはリンパ管の走行にも沿っていない.最近の知見によると,Blaschko線は皮膚を構成する表皮細胞および付属器細胞がこの線に沿って増殖,拡大することを示唆している.すなわち,1つの線に囲まれた細胞群は,発生のごく初期に分化した1個の細胞よりなるクローンであり,同様な性質をもつ細胞群であることを示している.このことはヒトの皮膚疾患を考えるうえで,皮膚の発生学からのアプローチ,つまりモザイクを視点に入れる必要があることを示唆している.このクローンの異なる可能性について,X染色体不活化,モザイク,エピジェネティックスの面から論じてみたい.

3.新しい検査法と診断法

Sjögren症候群診断基準(1999年版)の意義

著者: 臼田俊和

ページ範囲:P.76 - P.80

Sjögren症候群(SjS)は,スウェーデンの眼科医H. Sjögrenによって報告されたことに由来している.当初はRAとの関係が重視されていたが,ほかの膠原病・リウマチ性疾患との関係も知られるようになり,SjS単独と考えられる症例も多いことが明らかとなった.現在では,涙腺,唾液腺をはじめとする外分泌腺の慢性炎症性疾患であり,全身の系統的分泌障害を主徴とする臓器特異的自己免疫疾患と考えられている.SjSの診断基準としては,1977年に提示された厚生省基準が長く用いられてきたが,乾燥症状という前提条件があったため,診断に際しての混乱の1つの要因となっていた.1999年に新しく提示された改訂診断基準では,乾燥症状は無視できることになり,他覚的検査所見のみで診断可能となった.1999年改訂基準の特色と意義について述べた.

抗topoisomerase I抗体価と全身性強皮症の臨床的重症度および活動性について

著者: 佐藤伸一

ページ範囲:P.81 - P.86

 抗topoisomerase I(topo I)抗体は全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc),特に重症型に特徴的な自己抗体である.しかし抗topo I抗体陽性SScの約30%は軽症型である.従来,抗topo I抗体の力価は重症度や活動性を反映しないと信じられてきたが,この考えが本当に正しいかどうかを検討した.ELISAによる抗topo I抗体価は皮膚硬化,肺線維症,血管病変の程度と相関した.さらに抗topo I抗体価の経時的変化を検討したところ,経過中の抗topo I抗体価の上昇は皮膚硬化の悪化,新たな内臓病変の出現と相関した.逆に皮膚硬化が萎縮期に入り改善すると,抗topo I抗体価は低下した.初診時に抗topo I抗体価の低い軽症例では,経過中も力価の上昇はみられなかった.以上より,抗topo I抗体価は重症度を反映する指標であり,さらに経過中の力価の変動は疾患の活動性を反映することが明らかとなった.

皮膚科外来でできるEBウイルス検査法

著者: 山本剛伸 ,   岩月啓氏

ページ範囲:P.87 - P.93

 EBウイルス(EBV)感染は急性および慢性感染症のほか,造血系,上皮系あるいは間葉系腫瘍などさまざまな疾患と関連している.EBウイルスの感染様式には潜伏感染と溶解感染があり,発現するウイルス抗原が異なる.ウイルス抗原に対する抗体価検査は急性あるいは慢性感染症においては診断的価値が高い.潜伏感染したEBウイルスの同定にはin situ hybridizationを用いたEBウイルス関連RNAであるEBERの検出法が用いられる.腫瘍化への進行を把握し,予後を予測するには経過を追ってEBV DNAコピー数の測定が有効である.EBV感染細胞のクローン性増殖はEBV-TRを含むDNA断片のサイズが同じであることを証明する.また,造血系腫瘍においてはどのタイプの細胞に感染しているか検査する必要があり,末梢血リンパ球表面形質の解析,免疫染色が必要である.

爪白癬の分子生物学的診断と治癒判定

著者: 坪井良治

ページ範囲:P.94 - P.97

 近年,病原性真菌の同定法として分子生物学的手法が注目されている.われわれは真菌培養を行うことなく爪白癬の患者の爪甲病変部から直接RNAやDNAを抽出し,菌の同定と菌量の推定,ならびに治癒判定を行う方法を考案した.方法は,皮膚糸状菌由来のアクチン遺伝子を標的遺伝子とし,この配列に特異的なプライマーを作製して,得られた試料を基にLightCyclerシステムで定量的にcDNAを増幅した.その結果,この方法は定性的には従来の培養結果と一致し,かつ菌量の定量性も示された.この方法は短時間で完了でき,特異性と感度に優れ,しかも比較的廉価な方法として爪白癬の診断と治癒判定に将来有用である.

FDG-PETによるメラノーマ転移巣の描出

著者: 深川修司

ページ範囲:P.98 - P.102

 最近,新しい画像診断として,糖代謝を画像化したFDG-PETが注目されている.FDGの組織への取込みは腫瘍のviabilityを表しているため,FDG-PETは従来の形態画像診断法では評価困難な病変の診断や治療効果判定に有用である.メラノーマは転移の有無が治療方針の決定および予後にかかわるため,正確な病期診断が必要である.従来はCT,MRI,超音波,ガリウムシンチ,骨シンチなどにより判断してきたが,ガリウムシンチ,骨シンチは一般には普及しておらず,また診断能にも限界があった.そのような背景から欧米では早くからFDG-PETの有用性が認められており,悪性リンパ腫,肺癌,メラノーマなどの疾患で積極的に施行されている.日本国内では2002年4月よりメラノーマを含む12の疾患で適応が認められた.今後,普及は広がっていくだろうと思われる.

4.皮膚疾患治療のポイント

ケミカルピーリング治療指針

著者: 古川福実 ,   山本有紀 ,   松永佳世子 ,   古江増隆

ページ範囲:P.104 - P.109

 近年,美容皮膚科分野の不適切治療が問題視されつつある.ケミカルピーリングも同様で,日本皮膚科学会としての早急な解決策が望まれていた.そのような背景のもとに,日本皮膚科学会ケミカルピーリングガイドライン2001が作成された.その基本理念は以下の3点に要約される.

 1) ケミカルピーリングの作用機序は,創傷治癒機転による皮膚の再生が主なものであるため,皮膚科学に立脚した施術がなされなければならない.

 2) スキンケア,一般的外用療法,内服療法,生活指導などの総合的な治療あるいは処置行為のなかで最善と判断されたものから,単独あるいはほかとの併用法として選択されるべきである.

 3) 皮膚科診療技術を十分に習得した皮膚科専門医ないしそれと同等の技術・知識を有する医師の十分な管理下に行われるべきである.

陥入爪の簡単な保存的治療法―アクリル固定ガター法,人工爪,テーピングを中心に

著者: 新井裕子 ,   新井健男 ,   中嶋弘 ,  

ページ範囲:P.110 - P.119

 陥入爪はその原因,発生機序,爪の解剖構造に基づいた治療を行えば,保存的治療により簡単かつ確実に治癒に導くことが可能である.すなわち,アクリル樹脂固定によるガター法,アクリル人工爪法(sculptured nail),テーピングなどの単独および併用により,変形を残すことなく非侵襲的に治療が可能である.筆者らは主としてこれらの治療法を用いて過去23年間に451例の症例を治癒に導くことができた1~3).これらの簡単かつ有用な治療法,さらに爪の彎曲を矯正する超弾性ワイヤ,プラスチックネイルブレイス,爪のアイロン法なども併せて紹介する.

白斑のビタミンD3外用療法

著者: 前田亜紀 ,   片山一朗 ,   芦田美輪

ページ範囲:P.120 - P.124

 近年,海外でビタミンD3外用剤であるカルシポトリオールの外用と光線療法を組み合わせた白斑の治療が試みられ,半数以上の症例に効果があったという報告がされている.われわれも長崎大学附属病院皮膚科で白斑に対し,ビタミンD3軟膏の外用と紫外線,直接偏光赤外線を用いた治療を試みたところ,約1/3の症例に効果があった.以上の結果を踏まえ最近の文献的考察を加え検討した.

汎発性膿疱性乾癬治療ガイドライン2002

著者: 照井正 ,   田上八朗

ページ範囲:P.125 - P.130

 汎発性膿疱性乾癬の治療ガイドラインに基づく治療について解説する.汎発性膿疱性乾癬は発症頻度が低く,一施設内での治療効果の比較や病態の解明に関する研究は難しい.病因や病態に関する研究が進み,根治療法が開発されるまでには時間がかかることが予想されるので,現時点での治療の目標は患者のQOLの向上を図り,社会生活がほぼ支障なく送れることである.これを達成するには統一された診断基準と重症度分類を使って,より高い有効性とQOLの向上に役立つよう治療の見直しがされることが急務である.厚生労働省の研究班で行われた全国調査結果のもとに,昨年度“汎発性膿疱性乾癬治療ガイドライン2002”が完成した.今後,このガイドラインよる治療症例のデータが集積されることが望まれる.

塩酸ミノサイクリンによる間質性肺炎

著者: 井上光世 ,   橋本隆

ページ範囲:P.131 - P.134

 塩酸ミノサイクリンによる薬剤性肺臓炎について解説する.本症は現在まで約50例の報告があり,皮膚科領域ではざ瘡や水疱性類天疱瘡などに対して長期使用されることが多いためか比較的報告例が多い.急性発症する例は薬剤開始後数日~数週以内に,呼吸困難,乾性咳,発熱が出現し,聴診で捻髪音が聴取され,胸部単純X線写真で両側性スリガラス状陰影などの間質性陰影と,浸潤影などが認められ,PIE症候群ないしは好酸球性肺炎の像を呈することが多い.内服数か月後に慢性型として発症する場合,発熱を伴わない間質性肺炎の像を呈する.多くは予後が良く,薬剤中止後は速やかに改善するが,症状が激烈な場合ステロイド治療を要し,高齢者では時に死亡する場合があるため,発症後早期に本疾患を疑うことが重要である.

疥癬に対するイベルメクチンの効果

著者: 石井則久 ,   小茂田昌代

ページ範囲:P.135 - P.138

 疥癬の流行は皮膚科診療の枠を超え社会問題化してきている.現在,疥癬に保険適用のある薬剤はイオウ剤のみである.γ-BHCは皮膚科医の判断で外用しているのが現状である.最近,腸管糞線虫症に対して適応になったイベルメクチン(ストロメクトール(R))は疥癬にも有効であることが知られている.現在,疥癬に対する保険適用に向けた動きが盛んである.近い将来認可されると思われるが,高齢者に使用する機会も多いので,安全性を十分に確認して,適切な使用に向け,皮膚科医および他科の医師への教育が必要である.

皮膚科領域におけるPDTの治療成績

著者: 松本義也 ,   中瀬古裕乃 ,   小林美幸 ,   近藤千晴 ,   三笠聖美 ,   玉田康彦

ページ範囲:P.139 - P.143

 皮膚疾患治療における光線力学的療法(photodynamic therapy:PDT)は主に5-aminolevulinic acid(ALA)を用いる外用ALA-PDTが行われる.20%ALA軟膏を外用し,4~6時間密封遮光した後,エキシマダイレーザーを用いて630nmの光線を約100J/cm2照射する.日光角化症,Bowen病および表在型基底細胞癌には特に有効であり,1回のPDTにて日光角化症ではcomplete response (CR)率は73.0%,partial response(PR)率は15.0%,Bowen病ではCR50.0%,PR15.0%,表在型基底細胞癌ではCR75.0%,PR25.0%であった.角質増殖型の日光角化症やBowen病では200~300J/cm2にて全例CRであった.乳房外Paget病,菌状息肉症では皮疹の改善と腫瘍細胞や異型リンパ球の消失が認められた.難治性の手足の疣贅や尋常性ざ瘡の治療にも用いられる.ALA外用後,UVA照射により赤色蛍光を発するphotodynamic diagnosis(PDD)は腫瘍の局所診断に用いられ,乳房外Paget病では病巣範囲を,Bowen病などではPDT後の腫瘍の残存の有無を知るのに有用であった.

ケラトアカントーマは経過観察とすべきか?

著者: 武藤潤 ,   大畑恵之 ,   斎藤京 ,   上野和子

ページ範囲:P.145 - P.148

 ケラトアカントーマ(keratoacanthoma:KA)は,露光部,特に高齢者の顔面に好発する良性皮膚腫瘍である.その臨床像は非常に特徴的であり,中心臍窩を有する噴火口に似た角化性丘疹が急速に増大し,数か月後にはしばしば自然退縮する.しかしながら,KAと高分化型有棘細胞癌(squamous cell carcinoma:SCC)は病理組織像が類似し,鑑別が困難な場合が時にある.本稿では筆者らが経験した上口唇に生じたKAの症例を供覧するとともに,KAの治療方針について検討した.自験例のごとく臨床および病理組織像からKAと考えられてもSCCとの鑑別が難しい症例では,放置して自然退縮を期待する経過観察ではなく,SCCに準じて治療すべきであると考えた.

開業医でのストレスマネージメントの実際

著者: 細谷律子

ページ範囲:P.149 - P.155

 慢性・難治化した皮膚疾患の治療には,心理的配慮が必要なことが多い.なかでもアトピー性皮膚炎はその典型的な疾患である.成人患者に対する心理的治療を具体的に示しながら,皮膚科における心身医学についての考えを述べた.筆者の場合,患者に掻く,こする,叩くなどの行動が習慣化していることを気付かせることから心理的にアプローチしていく,気が付くだけで軽快する患者もいる.しかし,皮膚を葛藤や不安からの逃避の場として,これらの行為が強迫的に行われている場合,やめさせようとするとかえって皮膚に執着させ,行為を促進させてしまう.患者の心理社会的因子,養育環境(家族)を配慮すると同時に,患者のパーソナリティ,ライフスタイルの変換を目指した治療を,皮膚科的治療と並行して行うことが必要である.

糖尿病教室への皮膚科医の参加

著者: 坂本泰子 ,   町田秀樹

ページ範囲:P.156 - P.160

 糖尿病の治療には患者の自己管理が必要不可欠であり,その患者教育の場として“糖尿病教室”がある.教室は糖尿病専門医(内科医)が中心となってコメディカルの協力のもとに行われていることが多い.糖尿病の合併症の1つとして糖尿病性足病変(潰瘍,壊疽)があり,足の外傷,皮膚病をきっかけとして生じてくるため,フットケアに対する教育が必要である.足の皮膚病の教育とフットケアの指導を皮膚科が参加して担当し,実際の足の診察を行った.その結果,糖尿病患者では真菌感染症の有病率が高く,角化症も少なからず認められた.それらの患者では疾患の認識,理解が不足していると思われた.皮膚科医が糖尿病の教育,治療にかかわる有用性は高いと考えられ,積極的な参加が望まれる.

5.皮膚科医のための臨床トピックス

Saphenous vein graft donor site dermatitis

著者: 小松成綱 ,   中根宏 ,   坂井博之 ,   山本明美 ,   橋本喜夫 ,   飯塚一

ページ範囲:P.162 - P.164

 Saphenous vein graft donor site dermatitisは,冠動脈バイパス術などの血管バイパス術時に使用するグラフトとして大伏在静脈を採取した後に,術後瘢痕部に一致して生じてくる湿疹病変である.術後1か月以降から患肢下腿内下側の瘢痕周囲に生じる.ステロイド剤によく反応し,月~年単位で消退するが再燃する場合もある.組織学的にはsubacute dermatitisの像を呈し,静脈うっ滞に伴う所見は通常認めない.

皮膚疾患と血球貪食症候群

著者: 大塚幹夫

ページ範囲:P.165 - P.167

 血球貪食症候群(HPS)は高熱とともに肝脾腫,肝機能障害,血球減少症を生じる疾患であり,ウイルス感染,細菌感染,悪性リンパ腫,自己免疫疾患などさまざまな基礎疾患に合併することが知られている.ウイルス感染では日常診療で遭遇することの多い麻疹,風疹,ヘルペスウイルスで発症することもあり,また自己免疫疾患ではSLEや成人Still病の頻度が高い.これらの多くは経過中に血球減少を示すことがあり,HPS合併の早期診断を下すためにはHPSの病態に関する認識が不可欠である.

日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎相談システム

著者: 竹原和彦

ページ範囲:P.168 - P.169

 日本皮膚科学会・アトピー性皮膚炎治療問題委員会は,2000年7月より直通FAXおよびE-mailによる直接患者相談システムを開始した.2002年3月末までの総相談件数は計3670件に及んだ.個別の具体的相談内容としては,ステロイド外用薬の副作用に関するものが最多であった.また,この相談システムに端を発して,中国製アトピー性皮膚炎不正薬問題(非ステロイドと称して,最強ランクのステロイドを含有していた未承認薬の不正販売,詐欺的広告など)を明らかにし,厚生労働省へ要望書を提出した.このシステムは今後も継続される予定である.

アトピー性皮膚炎とアロマコロジー

著者: 針谷毅 ,   市川秀之 ,   池澤善郎

ページ範囲:P.170 - P.172

 心身のストレスはアトピー性皮膚炎(AD)の増悪因子の1つと考えられている.われわれはストレスによる皮疹増悪を緩和する方策として,鎮静系香料の曝露がAD患者に及ぼす影響を検討した.その結果,鎮静系香料曝露は皮疹改善補助効果を有するとともに患者のQOLの向上にもつながることが示唆された.

院内褥瘡対策チームと保険改正

著者: 立花隆夫

ページ範囲:P.173 - P.176

 褥瘡はその管理体制が整っていれば,患者の全身状態が悪くても発症予防が可能であるばかりか,手術による創閉鎖を行わずとも適切な保存療法により時間はかかるが必ず治癒する.そのためには,まず現場の主治医と担当看護師が,管理栄養士や理学療法士などと協力して個々の患者に即した褥瘡対策を実施するための体制作りが必要である.また,医療従事者全員が褥瘡の予防と治療に関する正しい知識と技術を修得するために,われわれ皮膚科医は対策チームの一員として褥瘡の予防と管理をこれまで以上に院内に啓発,指導していかねばならない.

ホルモン補充療法

著者: 谷口義実 ,   麻生武志

ページ範囲:P.177 - P.179

 ホルモン補充療法は卵巣機能の低下・欠落に伴い欠乏するエストロゲンを補充することにより,中高年女性の健康の保持・増進を目的としている.更年期症状,骨粗鬆症に対する臨床効果に加え,近年は皮膚の老化そのものに対する全身的な臨床効果が注目されている.卵巣機能の低下に関連した皮膚の加齢変化で代表的なものとしては,緊張性,弾力性,保水性の低下と皮膚の厚みそれ自体の減少がある.ホルモン補充療法はいずれの変化に対しても改善効果が認められる.皮膚に対する臨床効果は単に美容的側面に止まらず,閉経女性のQOLの向上にも関与している.

カラービデオスコープを用いた舌表面形態の観察

著者: 前田学

ページ範囲:P.180 - P.183

 2000年12月~2001年10月までの11か月間,県立岐阜病院皮膚科にて加療中の計514名の皮膚疾患患者および健常人50名の舌乳頭の形態的変化をビデオスコープにて観察した.対象は膠原病群138名〔Sjögren症候群(Sjs)43例,Sjs疑い18例,非Sjs膠原病群77例〕と非膠原病群(376例:湿疹皮膚炎群,他)で,その結果,糸状乳頭は高度異常(完全消失型:タイプⅣ),中等度異常(タイプⅢ),軽度異常(タイプⅡ),異常なし(正常型:タイプⅠ)の4型に分類可能であった.おのおの,28,87,237,167名にみられ,4型と茸状乳頭,ガムテスト異常(10ml未満),味覚異常,亀裂,歯圧痕,舌裏面静脈怒張,眼乾燥症状と口腔乾燥症状項目数,扁桃異常とは相関がみられたが,抗核抗体別の変化とは相関しなかった.茸状乳頭は扁桃腺異常,特に腫脹と有意に相関していた.ビデオスコープを用いた舌乳頭表面の観察では,糸状乳頭高度異常(完全消失)ないし中等度異常の異常(ⅣとⅢ型)を呈した場合にはSjsとする感度は76.7%であったが,特異度は28.7%と低値であった.ビデオスコープを用いた舌乳頭表面の観察はSjsないしその合併を示唆できる手段の1つとして有用と考えられた.

EBMとNBM

著者: 上出良一

ページ範囲:P.184 - P.186

 Evidence-based medicine(EBM)は“入手可能な範囲で最も信頼できる根拠を把握したうえで,個々の患者に特有の臨床状況と患者の価値観を考慮した医療を行うための一連の行動指針”とされる.Narrative-based medicine(NBM)は患者の語る“物語”,すなわちある事実をどう捉え,どう感じ,どう対処したかを基盤とした医療である.“物語”を“語る”という作業のなかで固定化された“物語”が再構築され,治癒というゴールがみえてくる.EBMの定義の後半はNBMである.傾聴から始まるNBMなくしてEBMは完結しない.

Active EBMのための統計学

著者: 幸野健 ,   谷口彰治

ページ範囲:P.187 - P.189

 EBMを理解し主体的に実践するには統計と疫学の知識が必須であり,それなしにはEBM文献は読めない.基本用語を概説した.

生物テロと医療機関の対応

著者: 嶋津岳士

ページ範囲:P.190 - P.192

 生物テロに対する医療機関の対応においては,対応計画の準備,指揮系統の一元化,情報の一元管理,職員の安全確保,地域内の組織との連携が原則となる.対応計画としては,除染設備や個人防護装備の整備に加えて,病院内での感染管理,治療薬やディスポ製品の備蓄,診断や検査の手順の確認,隔離の有無などの治療計画,院内各部署の連携体制の整備などを具体的に計画することが必要である.特に,事前に教育・訓練を実施して,すべての構成員に周知徹底することが重要である.同時に,地域としての対応体制を整えるために,消防,救急,警察,保健所,医師会や他の医療機関との連携体制を普段より整備しておくことが不可欠である.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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