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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科57巻6号

2003年05月発行

雑誌目次

カラーアトラス

顆粒細胞腫

著者: 石橋正史 ,   佐藤友隆 ,   永尾圭介 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.446 - P.447

 初 診:1999年8月11日

 主 訴:右耳前部の腫瘤

 既往歴・家族歴:特記すべきことはない.

 現病歴:1年前より右耳前部に腫瘤出現,以後漸次増大したため,当科を受診した.

 現 症:右耳前部に,20×15mm,淡紅色,ゴム様硬の自覚症状を欠くドーム状腫瘤を認めた(図1).表面に乾燥した痂皮,鱗屑を付着しており,下床との癒着は認めなかった.Eccrine poromaなどの付属器腫瘍を考え,生検を施行した.

原著

Ferguson-Smith型多発性ケラトアカントーマの女性例―本邦における多発性ケラトアカントーマのまとめと考察

著者: 伊藤圭 ,   加藤直子 ,   木村久美子 ,   柴田雅彦 ,   西谷道子

ページ範囲:P.448 - P.452

要約

Ferguson-Smith型の多発性ケラトアカントーマの37歳,女性例を報告する.過去10年間に4回の多発性の丘疹や結節の出現と消退を繰り返している.4回目のエピソードでは,皮疹は40個程度で,顔面,頚部,前胸部,両前腕などの露出部に主として分布していた.各個疹は組織学的に,表皮の偽癌性増殖とその中央に角栓を示し,ケラトアカントーマに合致していた.皮疹の分布,出現と消退のエピソード,組織学的特徴からFerguson-Smith型の多発性ケラトアカントーマと診断した.エトレチナートの内服療法により皮疹の消退をみた.本邦で報告されている多発性ケラトアカントーマの31例をまとめた.それらはFerguson-Smith型が13例,Grzybowski播種型が6例,局所多発型が12例であった.家族歴を有する例はFerguson-Smith型の7例のみであった.

成人麻疹―18例の検討

著者: 岩田貴子 ,   臼田俊和 ,   小寺雅也 ,   八代浩 ,   岩田洋平

ページ範囲:P.454 - P.458

要約

2000年10月~2001年10月までの1年間に,21例の入院を必要とした成人麻疹を経験した.そのうち,臨床所見,血液検査等のデータを追跡しえた18例につき検討した.症例は10~30代に限局しており,発症時期は3~8月に集中していた.皮疹は全例麻疹に特徴的な発疹であったが,二相性熱型,Koplik斑を認めたのは約半数であった.また,8割近くに軽度肝機能異常を認めた.近年,麻疹ワクチンの普及に伴い麻疹の集団発生が減少し,追加免疫の機会も減少している.そのために,異型麻疹や成人麻疹は今後増加傾向を示すものと考えられる.成人麻疹における合併症の一つとして肝障害があり,治療上注意すべきものと考えられた.

今月の症例

顔面と頚部に生じたzosteriform lichen planusの1例

著者: 岡博史 ,   鈴木洋介 ,   宮川俊一 ,   滝沢清宏

ページ範囲:P.459 - P.461

要約

45歳,女性.初診の約1か月前より右顔面から頚部に紅斑が出現,拡大してきた.皮疹は右三叉神経第Ⅲ枝領域と右頚部に帯状に分布していた.個疹は鱗屑を付着する爪甲大までの紅斑であり,一部癒合していた.病理像は表皮に過角化と顆粒層の肥厚がみられた.基底膜では液状変性を認め,真皮浅層にリンパ球と組織球より成る帯状の細胞浸潤がみられた.抗HCV抗体は陰性.薬剤の服用歴はない.金属パッチテストは陰性であった.

Congenital prepubic sinusの1例

著者: 仁熊利之 ,   篠田勧 ,   能宗紀雄 ,   米原修治 ,   和田知久

ページ範囲:P.464 - P.467

要約

26歳,男性のcongenital prepubic sinusの1例を報告した.生下時より恥骨前部正中,陰茎基部皮膚に瘻孔が存在していた.瘻孔造影にて,瘻孔は約1cmと浅く屈曲し,盲端となっており,膀胱との連続性は認められなかった.局所麻酔下,恥骨直上まで続く瘻孔を摘出した.病理組織像では,皮膚開口部付近では表皮に類似する重層扁平上皮に,深部では移行上皮あるいは粘液をもつ円柱上皮に覆われ,周囲には平滑筋を伴っていた.われわれの検索しえた過去19例について統計的考察を加え報告する.

症例報告

膿疱形成を伴った落葉状天疱瘡の1例

著者: 橋本隆 ,   八戸歩 ,   小林美幸 ,   矢野克明 ,   佐藤紘為 ,   玉田康彦 ,   松本義也

ページ範囲:P.469 - P.471

要約

79歳,男性.初診時,全身に鱗屑および痂皮を伴う比較的明瞭な紅斑局面がみられ,さらにびらん,膿疱も散在していた.水疱症,膿痂疹様湿疹,膿疱性乾癬などを疑い,胸部の膿疱および紅斑部より生検施行した.膿疱部の病理所見では角層下および真皮浅層に好中球浸潤,紅斑部においては顆粒層に棘融解像を認めた.さらに蛍光抗体法(直接法,間接法),天疱瘡抗原であるデスモグレイン1(Dsg1)およびデスモグレイン3(Dsg3)の組換え蛋白を抗原としたELISA法を施行した結果,膿疱形成を伴った落葉状天疱瘡と診断した.治療はプレドニゾロン30mg投与,ステロイド外用にて紅斑,膿疱およびびらんは徐々に改善した.

重症皮膚石灰沈着症を伴ったoverlap症候群の1例

著者: 正木太朗 ,   大橋明子 ,   山本麻由 ,   岩尾麻依子 ,   小野竜輔 ,   田中美奈子 ,   藤原規広 ,   市橋正光 ,   田村真吾

ページ範囲:P.473 - P.475

要約

34歳,女性.20年前にSLEと診断され治療を受けていた.10年前より皮下の石灰沈着が出現し,手指,前腕の硬化,開口障害も出現し,SLEと強皮症のoverlap syndromeと診断された.石灰化は頭部も含めほぼ全身の皮下に認め,その治療としては免疫吸着療法や,ステロイド剤,免疫抑制剤,水酸化アルミニウム,ジルチアゼム,エチドロン酸二ナトリウムなどの投与を行うも軽快傾向を認めなかった.病勢に伴いIgGの上昇を認めたため,γグロブリンの大量療法を施行した.また,ワーファリンの少量投与施行後,IgGは低下傾向を示したが,全身の石灰沈着は変わらない.

ビタミンA剤内服とステロイド外用剤が有効であった小児の毛孔性紅色粃糠疹

著者: 杉内利栄子 ,   高橋和宏 ,   相場節也

ページ範囲:P.476 - P.478

要約

8歳,女児.手足の荒れがひどく近くの皮膚科に通院していたが,改善しないため当科を受診した.両側の手掌,足底,膝にびまん性に角質の肥厚がみられた.膝より生検した病理組織学的所見は角層の肥厚と不全角化,表皮の乳頭腫症を示し,真皮浅層に血管周囲にリンパ球主体の炎症細胞浸潤を示した.臨床所見と併せて毛孔性紅色粃糠疹(PRP)と診断した.カルシポトリオール軟膏(ドボネックス軟膏(R))を1週間外用させたが増悪したため,パルミチン酸レチノール(チョコラA(R),3万単位)内服とdiflorasone diacetate(ジフラール軟膏(R))と10%サリチル酸ワセリン等量混合の外用に切り替えたところ,2週間で皮疹は著明に改善した.その後,この治療開始時に血中ビタミンA濃度が303ng/ml(正常値431~1,041)と軽度低下していることがわかった.

第1子出産1か月後に発症した瘢痕浸潤型皮膚サルコイドの1例

著者: 杉内利栄子 ,   高橋和宏 ,   相場節也

ページ範囲:P.480 - P.482

要約

33歳,女性.22年前に飛んできたトタンで額に外傷を負い近くの外科医に縫合された.その後,長年特に問題はなかった瘢痕が第1子を出産して1か月後より急に発赤し隆起してきた.病理組織学的に真皮に巨細胞を混じる類上皮細胞性肉芽腫が多数みられた.胸部X線上,明らかな両側肺門リンパ節腫脹(BHL)は認めず血清ACE値も正常であり,皮膚サルコイドと診断した.治療はトラニラスト(リザベン(R))300mg内服とステロイド外用剤を塗布したところ,約2か月で生じた症状は消退した.

塩酸リトドリンによる膿疱型薬疹の1例

著者: 松下貴史 ,   福井米正 ,   八十島邦昭 ,   新井裕一

ページ範囲:P.483 - P.486

要約

32歳,女性.19歳の時から外眼筋炎にてプレドニゾロンを30mg隔日で内服している.第2子妊娠28週より切迫早産のため,塩酸リトドリンの点滴を開始した.妊娠30週よりほぼ全身に膿疱を伴う紅斑が出現し,地図状舌・発熱も認めたためプレドニゾロンを30mg/日へ増量した.皮疹は軽快したがプレドニゾロン減量にて再燃し,妊娠33週には肝機能障害を認めたため,塩酸リトドリンを中止した.妊娠34週に男児を出産し,皮疹・肝機能障害は消退した.病理組織では表皮内に好中球からなる海綿状膿疱を認めた.塩酸リトドリンのパッチテスト陽性により膿疱型薬疹が強く疑われたが,疱疹状膿痂疹との鑑別を要した.

Acquired reactive perforating collagenosisの1例

著者: 山﨑典子 ,   峰咲幸哲 ,   新村眞人

ページ範囲:P.487 - P.490

要約

35歳,男性.糖尿病による慢性腎不全で血液透析を開始し,その4か月後より背部,前腕にそう痒を伴う角化性紅色丘疹が多数出現した.病理組織学的に真皮浅層より変性した膠原線維束が経表皮的に排出され,その上部には錯角化と好塩基性の変性物質塊が認められた.以上よりacquired reactive perforating collagenosisと診断した.発症原因として糖尿病によるmicroangiopathyと掻破による皮膚障害が考えられた.

結節性裂毛症の3例

著者: 中純 ,   三浦優子 ,   坪井良治 ,   渡部利枝子 ,   今井龍介 ,   小川秀興

ページ範囲:P.491 - P.494

要約

結節性裂毛症の3例を経験した.症例は25歳,男性,37歳,男性,14歳,男性.いずれも不適切なヘアケア実施後数年で頭頂部に粗毛が出現した.いずれも頭髪は乾燥し光沢に乏しく,頭皮から2~5cmのところに白色点状物が混在し,同部位で容易に切断された.走査電顕による観察では,肉眼で白色点状物にみえる部分に一致して毛皮質ケラチン線維束の交錯,つまりpaint brush fractureが認められ,後天性結節性裂毛症proximal typeと診断した.今回の3例は頻回のブラッシングなどの過度なヘアケアの中止により,約半年で症状の改善を認めた.結節性裂毛症について自験例の考察に加え,若干の文献的考察を行った.

びまん性神経線維腫内に巨大な血腫を形成した神経線維腫症1の4例

著者: 五十嵐努 ,   岩屋聖子 ,   福地修 ,   伊藤寿啓 ,   石地尚興 ,   上出良一 ,   新村眞人

ページ範囲:P.495 - P.499

要約

症例1:45歳,男性.左腰部のびまん性神経線維腫を強打後,急速に腫大したため受診した.Hbは4.8g/dlまで低下.約1週間後に腫瘤表面が壊死となり,凝血塊が大量に排出され,その後大きな皮膚潰瘍を形成した.症例2:70歳,女性.左腰部のびまん性神経線維腫を強打後,急速に腫大,壊死性潰瘍を形成したため受診した.凝血塊の掻き出しを行ったが,新たな出血はみられなかった.症例3:74歳,女性.外傷の覚えなく右顔面のびまん性神経線維腫の急速な腫大,疼痛を自覚したため受診した.保存的治療により腫瘤の増大はみられなかった.症例4:49歳,男性.外傷の覚えなく左腰部のびまん性神経線維腫が急速に腫大したため受診した.発症から約40日後,穿刺により暗紅色の血液が820ml排出された.これらを通じ腫瘍内出血を伴ったびまん性神経線維腫の取り扱いについて考えた.

帝王切開後に生じた皮膚子宮内膜症の1例

著者: 藤本篤嗣 ,   山上淳 ,   小菅治彦 ,   杉浦丹 ,   福積聡

ページ範囲:P.500 - P.502

要約

33歳,女性.6か月前より臍下部の腹壁正中部に圧痛を伴う2cm大の皮下腫瘤が出現.2年前に帝王切開の既往あり.皮膚生検組織で1~数層の円柱上皮細胞より構成される子宮内膜組織を認めた.皮膚子宮内膜症と診断し,全身麻酔下で腫瘤を摘出した.帝王切開後の皮下の瘢痕組織に生じたものと考えた.腹壁正中部に生じた皮膚子宮内膜症は病変が腹膜まで及んでいる可能性もあり,手術にあたり慎重な検討を要すると考えた.

Muir-Torre症候群の1例

著者: 西尾栄一 ,   山本敬三

ページ範囲:P.503 - P.505

要約

56歳,男性.2000年11月頃右胸部に小結節が出現し,徐々に増大してきたため2001年3月当科初診.初診時,同部に40×35mm大の有茎性の腫瘤があった.病理組織診にて脂腺癌と診断し,全切除した.また,腫瘤の下方と顔面に脂腺癌・脂腺腺腫・基底細胞癌があり,これらも切除した.同時期に結腸癌と前立腺癌が発見された.患者には4年前に結腸癌の既往があり,また父に胃癌,2人の姉にそれぞれ子宮癌と大腸癌の家族歴もあった.以上より,Muir-Torre症候群と診断した.

肛囲にPaget現象を伴った肛門管癌の1例

著者: 清水智子 ,   斎藤京 ,   小林昌和 ,   谷川瑛子 ,   茂松直之 ,   田中勝

ページ範囲:P.506 - P.508

要約

59歳,男性.初診の6か月前より排便時の出血に気付き,その後肛囲に腫瘤が出現した.初診時,肛門右側にびらん・小結節を伴う局面を認めた.肛囲局面には病理学的に表皮内および真皮に大型のPaget細胞を認めた.免疫組織染色を行い,本症例をPaget現象を伴った肛門管癌と診断した.GCDFP陰性,サイトケラチン7陽性,サイトケラチン20陽性であり続発性Paget現象と考えた.

皮膚浸潤を伴った浸潤性乳管癌の1例

著者: 松下貴史 ,   福井米正 ,   経田淳 ,   竹山茂 ,   原武譲二

ページ範囲:P.509 - P.511

要約

68歳,女性.1年前より右乳頭・乳輪部に皮疹が出現した.右乳頭・乳暈部に小豆大の紅褐色局面と,その直下に1cm大,弾性硬の皮下結節を認めた.皮疹部の部分生検にて,浸潤性乳管癌の診断であったため,非定型乳房切除術を施行した.病理組織像では乳頭直下に径15mmの腫瘍塊を認めた.乳管内に腫瘍細胞の増殖を認め,表皮直下まで腫瘍細胞が浸潤し,一部表皮内にも及んでいた.以上より,皮膚浸潤を伴った浸潤性乳管癌と診断した.乳頭部に限局した浸潤性乳管癌は非常に稀である.

診断に苦慮したspindle cell carcinomaの皮膚転移の1例

著者: 石川里子 ,   栗原みどり ,   大塚俊 ,   田端英之 ,   山崎雙次

ページ範囲:P.512 - P.515

要約

72歳,男性.2001年8月頃より頭部に紅色結節が多発した.病理組織学的にmalignant lymphomaを疑い血液内科入院,精査施行するも,骨髄穿刺にて異常所見を認めなかった.また,病理医よりmalignant melanomaの可能性も指摘されたため免疫染色を施行したが,s-100蛋白,HMB-45ともに陰性であった.入院後画像所見にて肺,脳内に腫瘤を認め,全身のリンパ節腫脹の所見を得たため,肺生検を施行した.その結果,spindle cell carcinomaと診断された.皮膚生検組織を再検討し,各種免疫染色の結果からspindle cell carcinomaの皮膚転移例と診断した.

足底疣贅様外観を呈したamelanotic melanomaの1例

著者: 山本瑞枝 ,   鬼頭昭彦 ,   谷岡未樹 ,   藤井秀孝 ,   立花隆夫 ,   錦織千佳子 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.516 - P.518

要約

56歳,女性.1か月前に左鼠径部の皮下腫瘤に気付き近医を受診した.生検にて悪性黒色腫のリンパ節転移と診断されたため,原発巣の検索と加療目的で当科を紹介受診した.左踵部にみられた黄色角化性の疣贅様病変を全切除生検した.病理組織所見および全身検索の結果から,無色素性末端黒子型黒色腫(amelanotic ALM StageⅢ:pT3aN1M0)と診断し,原発巣の拡大切除と左鼠径リンパ節郭清術を施行し,術後はDAV-Feron療法を6クール行った.術後8か月経過し,現在のところ再発,転移は認めていない.自験例は無色素性であり,その病変の大部分を占める表皮内黒子様増殖部に一致して均一な過角化を示したことが,臨床的に足底疣贅様外観を呈した原因と考えた.

Angioimmunoblastic T-cell lymphomaの1例

著者: 早川郁子 ,   中條園子 ,   川原繁 ,   瀧口哲也 ,   福島俊洋

ページ範囲:P.519 - P.522

要約

66歳,男性.1年前から全身のそう痒と,鼠径リンパ節腫脹が出現した.半年前から,顔・手背の結節と足関節背の索状腫瘤が出現し,1か月前から喉頭腫瘤による呼吸困難が生じた.LDH631IU/l,好酸球8,319/μl,γグロブリン35.7%,sIL-2R2,967U/ml.額の結節の生検組織像では明るい胞体を持つ免疫芽球様の異型リンパ球と多数の好酸球の浸潤が認められた.リンパ節では胚中心が減少し,小血管の増生と異型リンパ球の浸潤が認められた.皮膚結節のTCRCβ1遺伝子再構成バンド陽性.以上の臨床症状と検査所見,病理組織学的所見より,angioimmunoblastic T-cell lymphomaと診断した.エトポシドとプレドニンの内服により喉頭腫瘤と皮膚結節は縮小した.

日本紅斑熱の9例―DICと多臓器不全を併発し,集中治療室での全身管理を必要とした3症例を含む

著者: 本田えり子 ,   谷岡未樹 ,   本田哲也 ,   高垣謙二 ,   佐々木晃 ,   豊嶋浩之 ,   松原康博 ,   木村清志 ,   大田宣弘

ページ範囲:P.523 - P.526

要約

島根県弥山山系周辺で9例の日本紅斑熱を経験した.野山への立ち入りの既往,および臨床所見より日本紅斑熱または恙虫病と診断し,特異抗体による確定診断の結果を待たずに,ミノサイクリンの投与を始めた.発症後5~6日経過した3症例は,ショック状態に陥り,腎不全,呼吸不全,DICを併発していた.このため,集中治療室で全身管理を行い救命しえた.治療はミノサイクリン投与を第一選択とした.経過中,ミノサイクリンによる肝障害が生じた3症例では,レボフロキサシンの内服治療へ変更して順調に軽快した.9症例とも後遺症を残さず治癒した.間接免疫蛍光抗体法にて特異抗体の上昇を認め,全例を日本紅斑熱と確定診断した.

HIV感染症に伴ったpruritic papular eruptionの1例

著者: 戸田淳 ,   梅本尚可 ,   西田淳二 ,   木田絹代 ,   加倉井真樹 ,   出光俊郎 ,   中川秀己

ページ範囲:P.527 - P.530

要約

28歳,女性(ソープランド勤務).定期検診で抗HIV抗体陽性.初診の3日前にそう痒性皮疹が出現したため当科受診となる.初診時,体幹,四肢に粟粒大から小豆大までの淡紅色丘疹が多発,散在し,一部は毛包に一致した小膿疱が存在.末梢血リンパ球のCD4/CD8比は0.48,血中HIV抗体は陽性.丘疹の組織像では真皮の血管,付属器周囲性にCD8陽性Tリンパ球と好酸球が浸潤していた.H1ブロッカーとミノサイクリン内服で皮疹は速やかに消失した.

 本邦例を集計し,臨床統計的観察を試みるとともに,HIV感染に伴う好酸球性膿疱性毛包炎との異同についても考察した.

ケルスス禿瘡を含むMicrosporum canis感染症の兄妹保母例

著者: 宇宿一成

ページ範囲:P.531 - P.533

要約

自宅近辺の野良猫とよく遊んでいた5歳,男児に体部白癬を生じた.妹の1歳,女児にも頭部に粃糠疹を生じ,ステロイド外用によりケルスス禿瘡となった.その後,兄妹が通っている保育園の保母にも体部白癬を生じた.3名の原因菌株はいずれもMicrosporum canisであり,培養して得られた集落の性状は一致しており,同一の菌株によるものと考えられ,感染経路が推定された.ケルスス禿瘡をきたした女児例では,初診時に鱗屑のKOH直接鏡検で白癬菌を証明できなかったことから,ステロイド外用剤を処方したため,ケルスス禿瘡に至ったと考えられ,深く反省させられた.

治療

フェノール法を用いた陥入爪治療―アンケート調査に基づく有用性の検討

著者: 順毛直弥 ,   勝田倫江 ,   福田知雄 ,   塩原哲夫 ,   佐久間恵一

ページ範囲:P.534 - P.537

要約

陥入爪に対し,爪母を化学的に腐食させるフェノール法は,侵襲の少ない比較的簡便な治療法である.今回われわれは,陥入爪患者23例30か所にフェノール法を施行し,その有用性を検討すべくアンケート調査を実施した.その結果,本法は術前に認める疼痛の早期改善に優れ,10段階評価で術前7.0が術後翌日には2.2と著明改善し,1週間後には0.7となった.患者負担の少ない治療法との評価も得られ,満足度としては10段階評価で平均8.8と高い評価が得られた.本法は局所の炎症や感染を伴う症例にも施行可能で,適応症例を選ばないという利点を有する.また,再発は30か所中1か所のみであった.以上より,フェノール法は陥入爪に対し有用な治療法であり,特に炎症や感染所見の強い症例では第一選択となりうるものと考えられた.

トラフェルミン(フィブラスト®スプレー)が奏効した小児熱傷潰瘍の1例

著者: 吉成力 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.538 - P.540

要約

1歳,女児.卓上のコーヒーをこぼし,右肩から頚部にかけて深達性Ⅱ度熱傷を受傷した.壊死組織除去後,トラフェルミン(フィブラスト®スプレー)投与を開始し5週間で完全に上皮化した.本薬剤は血管新生,肉芽形成促進作用が強力であることから,小児熱傷潰瘍治療にも有効な手段と考えられた.

印象記

「第7回日本中国合同皮膚科学術大会」に参加して

著者: 中村晃一郎

ページ範囲:P.541 - P.543

 第7回日本中国合同皮膚科学会は,2002年12月6~8日まで中国南部の広東省にある広州市(会場:広東大夏)にて開催された.第1回の同学会が開催されてから10年目に当たる.今学会は日本側の組織委員会役員は,学会会長西川武二教授(慶応義塾大学),事務局長玉置邦彦教授(東京大学),学術委員長宮地良樹教授(京都大学)から構成された.中国側組織委員はMa Shengqing教授(北京医科大学第一医院),Jiabi Wang教授(Peking Union Medical College Hospital),Tiejun Zhu教授(北京大学人民病院)であり,両国の協力のもとに開催された.学会初日は,両国の委員の先生方が日中間の学問の交遊を祝辞され華やかな雰囲気の中で開会した.学会場はシンポジウム,一般演題発表の大会場,一般演題用の中会場2か所,ポスター展示場が用意され,その間には地元中国の企業展示コーナーが多数参列した.学会の応募演題数は一般演題78題,学術展示88題,CPC5題に及び,参加者は日中併せて400名を超え,会場は盛況であった.

 学会初日の招待講演ではCooper教授(米国),Fritch教授(オーストリア)がそれぞれ炎症性皮膚疾患,多型滲出紅斑について講演した.続いて特別講演で中川秀己教授(自治医科大学),Pingping He先生がアトピー性皮膚炎,乾癬の治療,病態について講演した.中川教授は免疫調節剤であるタクロリムスの日本での治療成績を,Pingping He先生は,中国での家族内発生乾癬患者におけるHLAタイピングの成績を発表した.HL4q31,HLA6p.21などがsusceptable geneであることなど中国における統計と,本邦での結果を比較すれば,さらに興味ある結果が得られるのではないかと考えられた.

連載

米国皮膚科医への道(2)

著者: 藤田真由美

ページ範囲:P.544 - P.545

米国医師国家試験(USMLE)

 アメリカで外国人医師が医師になるための最初のステップは,米国医師国家試験(United States Medical Licensing Examination:USMLE)を受けることである.以前はアメリカ人用と外国人用の別の国家試験があったが,最近はこのUSMLEに統一されている.この試験はStep1(基礎医学),Step2(臨床医学),Step3(臨床応用)から成り,研修の前にはStep1とStep2に合格していないといけない.Step3は州によるが,大抵は研修を1年済ませてから受けることになる.外国人の場合は,これらに加えてEnglish test(TOEFLのようなもの)と1998年からはClinical Skill Assessment(CSA,これは患者さんに扮した試験官相手の実地試験である.私は1996年に受けたのでこのCSA は必要なかった)とに合格するとECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates) certificateという証明書が発行され,臨床研修(インターン,レジデント)に申し込みができるようになる.これらの国家試験は,今はコンピュータ試験となり試験時間も短く年中いつでも受けられるようになったが,私が受けた1996年にはまだ従来通りの筆記試験で,年に2回しかなかった.アメリカで臨床医になろうと思ったのが1996年春,6月末までラボで実験し,8月にStep2を10月にStep1を受けることに決めた.これを逃すと1年待たないといけないからである.どちらも2日間にわたる試験で午前午後3時間ずつ約200問の問題(計12時間,約800問)を2日間で解き1つのステップが終了する.

 

 日本の医学部卒業後13年経ち,その間皮膚科臨床と実験に専念していた状態で医学知識全般を勉強し直すのは並大抵ではなかった.しかも英語でである.試験問題集を買ってはみたものの乏しい知識で英語の問題を1問1分ではとても解けそうになかった.心筋梗塞も高血圧も糖尿病も自分で治療したことがないのだから,素人に毛が生えたくらいの知識しかない.大学の近くにアメリカの予備校のカプラン校があり,6月頃門をくぐってみた.「外国人医師がたくさん来て勉強してますよ.」と受付嬢は言う.説明を聞いた後,カウンセラーの女性が無料の診断模擬試験を受けてみたらと勧めた.「まあ,ものは試し」と受けてみると内科はおろか小児科も産婦人科も精神科も解剖も生化学も……全くわからない.そういえば昔勉強したなと懐かしい記憶が蘇るものの,解答に結びつく記憶は深く封印されたままである.5者択一なのでとりあえず何かを塗りつぶして次に行く.2~3時間の模擬試験の後渡された結果は,何と正解率30%.これでは鉛筆をころがすのと大差はないじゃないか.ちなみに合格のための最低正解率は60%くらいだそうである.カウンセラーがにっこり笑い,「今から勉強したら大丈夫ですよ.来年のいつ試験を受けますか」と言うので,「今年の8月にStep2,10月にStep1」と言うとさすがに目が点になっていた.とにかくこうしちゃいられないとカプラン校に入ったのと同時に,日本に飛んで昔の教科書を一式持って来た.まず日本語で理解してから英語で実践だ.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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