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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科57巻8号

2003年07月発行

雑誌目次

カラーアトラス

顔面の充実性囊腫状汗腺腫(solid-cystic hidradenoma)

著者: 村澤章子 ,   飯豊深雪

ページ範囲:P.658 - P.659

 症 例:54歳,男性

 初 診:2002年1月29日

 主 訴:右下眼瞼の腫瘍

 家族歴:特記事項はない.

 既往歴:52歳時,甲状腺機能亢進症,糖尿病,高血圧

原著

Poroid cell neoplasm76例の病理組織学的検討

著者: 村澤章子 ,   木村鉄宣

ページ範囲:P.660 - P.666

 当科で過去にporoma(PO),hidroacanthoma simplex(HS),dermal duct tumor(DDT),hidradenoma(HA)と診断した76例の病理組織学的検討を行った.混在型は計33例(43%)であり,PO+DDTが20例,PO+HSが3例,HA+DDTが3例,PO+HAが1例,PO+HS+DDTが5例,PO+HA+DDTが1例であった.非混在型は計43例(57%)で,PO25例,HA12例,HS6例,DDTはなかった.混在型が43%と高頻度にみられたこと,また4型を構成する腫瘍細胞はporoid cellとcuticular cellで共通していることから,4型を個々の独立した疾患として捉えるよりも,Ackerman1)が提唱したようにporoid cell neoplasmとして一括して考えることが妥当であると思われた.そして,4型はそれぞれ臨床的および病理組織学的に特徴があり,poroid cell neoplasmの4亜型として位置付けることがよいと思われた.

汗孔腫(poroma)25例の病理組織学的検討

著者: 村澤章子 ,   木村鉄宣

ページ範囲:P.667 - P.671

 汗孔腫(poroma)25例の病理組織学的検討を行った.上皮成分では,腫瘍細胞の性状は,poroid cellとcuticular cellはすべての腫瘍に存在し,clear cellは4例に存在した.そしてporoid cellが主体の病変が19例,cuticular cellが主体の病変が4例であった.管腔の形態は,エクリン型の管腔が18例,アポクリン型の管腔が7例であった.アポクリン型の管腔では,7例中6例に断頭分泌像がみられた.また,メラニン沈着が18例にみられた.間質成分では,浮腫が8例,肉芽組織が8例,膠原線維の増生が4例にみられた.またメラニン沈着が19例にみられた.随伴所見では,上皮成分では,腫瘍細胞の壊死が3例,多核巨細胞が2例,毛包漏斗部嚢腫様構造が1例,個細胞角化が1例,棘融解像が1例,脂腺細胞様細胞が1例に,また間質成分では,出血が11例,血栓が2例,石灰沈着が1例にみられた.

今月の症例

顎部に巨大な硬性下疳を生じた1例

著者: 石上剛史 ,   浦野芳夫 ,   飛田泰斗史 ,   藤井義幸 ,   長江浩朗 ,   原田浩史 ,   宇都宮正裕

ページ範囲:P.672 - P.674

 49歳,男性.初診の約1か月半前に顎部に虫刺され様の皮疹が出現,徐々に拡大し中央が潰瘍化してきた.初診時,顎部ほぼ正中部に約5×4cmの暗赤色浸潤性局面とその中央部に約3×2cmの潰瘍を認めた.両側下顎リンパ節は腫脹し,軀幹,四肢には自覚症状のない米粒大までの紅色皮疹,紅斑を多数認めた.梅毒血清反応陽性,免疫組織学的にTreponema pallidumを認めた.アモキシシリン投与にて顎部,軀幹,四肢の皮疹,リンパ節腫脹は速やかに軽快した.近年,性行為の多様化に伴い梅毒の病態が変化している.自験例では顎部に巨大な硬性下疳を認め,さらに1期疹と2期疹が同時に出現した.このように典型的な皮疹や経過をとらない例もあり日常診療において注意が必要である.

症例報告

オメプラゾール内服後のH. pylori除菌療法中に発症した薬疹の1例

著者: にし出武司 ,   櫻根幹久 ,   古川福実

ページ範囲:P.675 - P.678

 48歳,男性.父と姉にペニシリンアレルギー歴がある.近医にて十二指腸潰瘍のためオメプラゾール,胃散剤を1週間処方された.続いてHelicobactor pylori(H. pylori)除菌目的でアモキシシリン,クラリスロマイシン,ランソプラゾールを処方され,その翌日より紅斑丘疹と発熱を生じ,皮疹は急速に拡大した.ステロイドパルス療法およびステロイド漸減によって皮疹は軽快した.パッチテストではオメプラゾール,ランソプラゾール,アモキシシリンで陽性を示した.この薬疹の発症には,この3剤が関与していると考えられる.H. pylori菌の除菌療法において各薬剤の投与量は通常量の倍量以上であり,副作用の頻度も高く重症化することも予想され,実施の際には注意を要すると思われる.

Propylthiouracil長期内服による蕁麻疹様血管炎の1例

著者: 森次龍太 ,   金子高英 ,   矢口直 ,   玉井克人 ,   花田勝美 ,   石亀昌幸

ページ範囲:P.680 - P.682

 27歳,女性.1994年より甲状腺機能亢進症のためpropylthiouracil(PTU)を内服.1997年4月頃より紅斑・膨疹出現.発熱,関節痛を伴う.血液生化学検査ではp-ANCA陽性.膨疹は24時間以上続き,皮膚生検像では,leukocytoclastic vasculitisの像を呈した.PTUの内服を中止したところ,皮疹軽快,p-ANCA低下傾向を示した.PTU内服による皮膚血管炎本邦報告例の文献的考察を併せて行った.

ミトコンドリア遺伝子異常による糖尿病にみられた色素性痒疹様皮疹の1例

著者: 妹尾明美 ,   山崎宏枝 ,   米井泰治 ,   多田譲治

ページ範囲:P.683 - P.686

 19歳,女性.母親に35歳時発症ミトコンドリア糖尿病があった.高校生時の学校検診で低身長と難聴があり.1999年4月前胸,背部に網状の紅斑と色素沈着,乳房下に単房性膿疱を生じ,膿疱部の皮膚生検では角層下膿疱,組織好酸球症をみた.検査では血糖330mg/dlと高値,HbA1cは12.3%,尿中ケトン体4+でインスリン注射にて血糖コントロールを行った.皮疹に対してはミノマイシン100mgを投与し,著明に炎症がとれ濃褐色の色素沈着を残した.背部に多毛も混在した.発達知能検査にて言語性IQ80,動作性IQ59,全IQ66と低下を認めた.色素性痒疹は若い女性のダイエット時や糖尿病のケトーシスに合併すると言われるが,ミトコンドリア遺伝子異常による糖尿病との合併の報告はない.本例は色素性痒疹様であるが組織学的には異なっており,その機序は不明であるが色素性痒疹様皮疹として報告する.

全身性エリテマトーデスに伴ったreticular erythematous mucinosisの1例

著者: 樹神元博 ,   山本卓 ,   伊崎誠一

ページ範囲:P.687 - P.690

 47歳,女性.35歳時より全身性エリテマトーデスとして近医で治療されていた.経過良好であったが,2001年9月ごろより明らかな誘因なく顔面および背部に皮疹が出現した.血液データと併せて全身性エリテマトーデスの再燃・増悪が疑われて当科を紹介され受診した.初診時,両頬部に紅斑,背部に浸潤を触れる紅色局面を認めた.病理組織学的に真皮におけるムチンの沈着と小円形細胞の浸潤を認めた.以上より自験例をreticular erythematous mucinosisと診断した.自験例およびその他の報告例よりループスエリテマトーデスと本症との関連が示唆された.

経過中にループス胸膜炎およびループス腎炎を伴ったMCTD―抗Sm抗体価が病勢を反映した1例

著者: 小村一浩 ,   中條園子 ,   早川郁子 ,   古荘志保 ,   中屋来哉 ,   吉村光弘 ,   川原繁

ページ範囲:P.692 - P.694

 40歳,男性.初診時皮膚症状と軽度の筋力低下を認め,経過中にループス胸膜炎およびループス腎炎を合併した混合性結合組織病(MCTD)の1例を経験した.内臓病変の出現とともに抗U1RNP抗体価が上昇,抗Sm抗体も陽転し,ステロイドパルス療法で軽快すると抗U1RNP抗体価が低下,抗Sm抗体も陰性化した.このようにMCTD患者のなかには初め内臓病変の合併がなくても,経過中に多臓器の病変を伴うことがあり,抗U1RNP抗体,抗Sm抗体などの自己抗体の変動が病勢の指標として有用と考えられた.

著しく基底膜の肥厚したDLEの1例

著者: 山中知佳 ,   喜瀬美香 ,   庄司昭伸 ,   小林裕美 ,   石井正光

ページ範囲:P.695 - P.697

 19歳,男性.13歳の時に右顔面に自覚症状のない皮疹が出現し徐々に拡大.初診時,右顔面に皮疹中央部が萎縮傾向を示す暗紅色調の局面を認めた.これらの臨床よりdiscoid lupus erythematosus(DLE),morpheaを疑った.皮疹病理組織学的所見では基底膜は著しく肥厚しlupus band testにてこの部分に一致してIgG,IgM,IgA,C3,C4,C1q,フィブリノーゲンの沈着を認めた.また真皮上層の浮腫および真皮中下層には均質化した膠原線維の増生を認めた.これらの所見はDLE,morphea,lichen sclerosus et atrophicusなどの混在が考えられた.以上のことから著しく基底膜の肥厚したDLEと診断した.また,1969年Christiannsonらが報告したannular atrophic plaques of the faceと臨床的,組織学的所見において類似性が認められた.

熱傷を契機に発見された晩発性皮膚ポルフィリン症

著者: 山下利春 ,   大森房之 ,   嵯峨賢次 ,   神保孝一

ページ範囲:P.698 - P.700

 63歳,男性.畑で草木を燃やした2~3日後より,熱傷の自覚のないまま前腕伸側に浮腫性紅斑局面が出現し消退しないため,皮膚科を受診した.生検組織像は第I度熱傷に相当する真皮の浮腫と血管拡張像で,真皮血管周囲にPAS陽性物質の沈着を認めた.臨床検査所見では,血清鉄高値,HBs抗体陽性,尿中ウロポルフィリンおよびコプロポルフィリン高値を認め,晩発性皮膚ポルフィリン症(porphyria cutanea tarda:PCT)と診断した.皮疹自体はステロイド軟膏外用により徐々に消退した.これまで日光過敏症や易外傷性はなく,焚き火による熱傷様皮疹を契機に発見された PCT は稀であると考え報告する.

慢性臀部滑液包炎の1例

著者: 吉田益喜 ,   上埜剣吾 ,   松下記代美 ,   川田明 ,   手塚正

ページ範囲:P.702 - P.704

本論文は抹消されました。

Fournier壊疽から拡大した壊死性筋膜炎の1例

著者: 永井弥生 ,   森田崇弘 ,   田村芳美 ,   関原正夫 ,   井野正剛 ,   豊田愛子

ページ範囲:P.705 - P.708

 55歳,男性.右臀部,陰嚢の疼痛,全身倦怠感,呼吸困難を主訴に受診.関節リウマチにてステロイド内服中,糖尿病あり.初診時,下腹部から陰嚢,右大腿に発赤腫脹があり,陰嚢では壊死組織が固着していた.CTにて臀部から陰部にかけて皮下組織内のガス像を認めた.陰嚢内より多量の膿汁流出がみられ,広範囲デブリードマンと右睾丸摘出術を施行,抗生剤投与などを行い全身状態が改善後,肉芽形成を待って植皮術を施行した.細菌培養ではB群溶連菌および黄色ブドウ球菌が検出された.陰部に生じる壊死性筋膜炎はFournier壊疽として知られているが,自験例はFournier壊疽から広範囲に壊死が拡大したものと思われた.若干の文献的考察を加え報告した.

マンソン孤虫症の1例

著者: 山中快子 ,   小玉和郎 ,   菊池敏郎 ,   中村裕之 ,   野中成晃 ,   清水宏

ページ範囲:P.709 - P.711

 74歳,女性.九州出身.馬肉や淡水魚の生食歴あり.初診の3週間前に側腹部の無症候性の腫瘤に気付いた.摘出術にて白色の長さ約10cmのヒモ状の虫体を摘出,摘出虫体の形状および病理組織学的に条虫に特徴的な石灰小体も認められたことから,マンソン孤虫と同定した.

リベドを呈したサルコイドーシスの1例

著者: 戸田素子 ,   小林誠一郎 ,   原藤玲 ,   石河晃 ,   天谷雅行 ,   飯塚秀子 ,   佐藤慎二

ページ範囲:P.712 - P.715

 46歳,女性.微熱,四肢末梢の痺れ,疼痛,両下肢の浮腫を訴え受診した.両下肢に淡紅色~紫紅色のやや不明瞭なリベドおよび爪甲大の紅斑を認めた.組織学的に血管周囲を中心とした類上皮細胞性肉芽腫,および血管壁のフィブリノイド変性を認めた.神経筋電図検査では末梢神経障害の所見を得た.病理組織学的所見,BHL(+),両眼の虹彩炎と眼底の血管炎の存在より,自験例をサルコイドーシスと診断した.リベドは血管周囲の病変による局所性循環障害によって,神経症状は末梢神経におけるサルコイド結節の形成,もしくは血管炎によって生じたと考えた.リベドを呈したサルコイドーシスの報告例は少ないが,リベドを呈し,神経症状を伴う症例をみたとき,サルコイドーシスも鑑別の一つとするべきと考えた.

両前腕に発症した多発性汎発型グロムス腫瘍

著者: 細木美和 ,   奥村えりな ,   尾崎元昭 ,   橘充弘 ,   三村六朗

ページ範囲:P.718 - P.720

 74歳,女性.約40年前に左手背に皮下腫瘤が出現するも放置していた.約3年前よりほかの部位にも皮下結節が出現し,徐々に増大してきたため当科を受診した.両前腕,両手背に淡青色で下床と可動性のある直径3mm~2cmの皮下結節が15個孤立性に多発している.組織学的には拡張した血管腔の周囲に数層のグロムス細胞が存在し,glomangiomaの像を呈していた.被膜や神経線維は標本内に認められなかった.

Fibroma of tendon sheathの1例

著者: 武藤潤 ,   斎藤京 ,   大畑恵之 ,   平吹明子

ページ範囲:P.721 - P.723

 43歳,男性.左第1趾基部に,1×2cm大,弾性硬で下床とやや癒着し半球状に隆起する皮下結節を認めた.臨床所見よりgiant cell tumor of tendon sheathを考えたが,MRIで腫瘍がT1強調像,T2強調像ともに筋組織よりも低信号を示し,造影効果が微弱であったことから,fibroma of tendon sheathの術前診断となった.全摘出術を施行し,病理組織学的に線維性被膜を有する境界明瞭な腫瘍で,硝子化・膨化し,かつ増生した膠原線維束間に紡錘形の線維芽細胞様細胞が散在していた.軟部腫瘍の診断と進展度の評価におけるMRIの有用性につき考察する.

Muir-Torre syndromeが疑われたsebaceous adenomaの1例

著者: 福田英嗣 ,   櫻井真奈美 ,   Andres Le ,   日野治子 ,   石坂和博

ページ範囲:P.724 - P.726

 69歳,男性.発症時期不明であるが,右鎖骨上窩のイボ状,やや黄色調結節が3か月前より拡大したため来院した.初診時,同部位に18×14×2mm大で,表面が細顆粒状の広基有茎性腫瘤が単発していた.組織所見では,腫瘍は小葉に分かれ辺縁は円形から楕円形の細胞で核は小型で細胞質は少なく,異型性はない.内側は明るく泡沫状の細胞質を持った細胞からなる.大部分は明澄細胞でsebaceous adenomaと診断した.また,自験例は尿管癌・前立腺癌が7年後に発症し,Muir-Torre syndromeも疑われたが,その是非について考察した.

脂腺母斑より生じたtrichoblastomaの3例

著者: 八代浩 ,   臼田俊和 ,   木村多美 ,   小寺雅也

ページ範囲:P.727 - P.731

 脂腺母斑は出生時より発生する母斑であるが,二次的に基底細胞癌(BCC)を主とする種々の悪性腫瘍が発生すると報告されていた.しかしながら,近年では脂腺母斑に生じたBCCは良性腫瘍のtrichoblastomaと考えるべきであると報告されており,過去の報告例の多くもBCCではなくtrichoblastomaとして把握するほうが適当ではないかと見直されている.今回,われわれは脂腺母斑より生じた3例のtrichoblastomaを経験した.そのうちの1症例は11歳の男児例であり,若年層より発生することも踏まえると臨床的に悪性であるBCCとは考え難く,良性であるtrichoblastomaとして捉えたほうが考えやすいと思われた.

右半身に発生した多発性神経鞘腫の1例

著者: 福田英嗣 ,   Andres L ,   日野治子

ページ範囲:P.733 - P.736

 35歳,女性.15年前に右側頚部,右鎖骨下に結節が出現し他院にて切除,神経鞘腫の診断を受けた.その後,同様の結節が右前額,右肩,右大腿部に出現して1か月前より増大傾向があり,右耳後部にも生じ,痛みがあった.肩以外の部位では,下床と可動性のない痛みを伴う弾性硬の皮下腫瘤があり,肩では可動性があった.組織所見では腫瘤は皮下に存在し,線維性の被膜で囲まれ,構成細胞は紡錘形の核と好酸性の細長い細胞質を有していた.一部では浮腫が強い部分もみられた.右大腿部は嚢腫様構造を伴っていた.右前額はAntoni A,右肩はAntoni A優位でAntoni B混在,右大腿はAntoni B優位でAntoni A混在であった.自験例は右半身にのみ多発した神経鞘腫であり,神経線維腫症2型(NF2)との異同や発症機序についても考察した.

生検後,消退したMerkel細胞癌の1例―本邦における自然消退例のまとめ

著者: 伊藤圭 ,   加藤直子 ,   木村久美子 ,   柴田雅彦 ,   菅原弘士

ページ範囲:P.737 - P.740

 78歳,女性.初診の1か月前から左頬部に3×2cm大の暗赤色腫瘤が出現した.Incisional biopsyを行ったところ,組織学的に,真皮網状層から皮下脂肪層に単核球細胞の増殖を認めた.免疫染色で腫瘍細胞は核周囲にボタン状のサイトケラチン20陽性所見を呈し,Merkel細胞癌と診断した.また,腫瘍巣周囲にはCD4,CD8陽性Tリンパ球の浸潤が同比率で認められた.生検の2週間後,腫瘍は消退した.根治手術標本には腫瘍細胞は全く存在せず,CD8陽性Tリンパ球の浸潤を認めた.術後10か月が経過する現在も再発および転移は認められない.本邦で報告されている生検後,あるいは自然に退縮したMerkel細胞癌の18例をまとめた.平均年齢は76歳,発症部位は上腕の1例を除き,頬部を主とする顔面であった.

上口唇に生じたmucoepidermoid carcinomaの1例

著者: 鈴木布衣子 ,   木花いづみ ,   栗原誠一

ページ範囲:P.741 - P.743

 32歳,男性.5年前より出現し,徐々に増大傾向にある上口唇の結節を主訴に来院した.初診時,赤色口唇に径5mm,白色で表面凹凸を呈し軽度隆起する結節を認めた.組織学的に腫瘍は粘液産生細胞,嚢腫様構造に富み,核異型は軽度で,well differentiated typeのmucoepidermoid carcinomaと診断した.本腫瘍は唾液腺由来の腫瘍で,多くは耳下腺,顎下腺,口蓋にみられる.口唇発生例は比較的稀であるが,若年者の口唇部の腫瘍をみた場合,本症も鑑別診断に入れるべきと考えた.

頭部に生じた血管肉腫の1例―結節病変に対するrIL-2の術前投与について

著者: 江守裕一 ,   稲積豊子 ,   木村俊次

ページ範囲:P.744 - P.746

 67歳,男性.初診の約半年前から左前頭部に暗赤色斑を認め,その数か月後には,斑の中央部に隆起性病変が出現した.皮膚生検後,血管肉腫と診断し,recombinant interleukin-2(rIL-2)の局注を行い,病変部が縮小したところで拡大切除および全層植皮術を施行した.術後5か月経過した時点で,植皮部に暗紅色斑が出現した.斑の生検後,血管肉腫の再発と診断し,rIL-2の局注を再開し,2週間連日投与にて斑は消失した.病理組織学的には出血を伴い,異型内皮細胞が管腔形成傾向を示していた.これらの異型細胞は第VIII因子関連抗原が陽性を示した.自験例では,結節病変の縮小および再発病変の消失に対して,rIL-2局注が効果的であった.

連載

米国皮膚科医への道(4)

著者: 藤田真由美

ページ範囲:P.747 - P.748

 サブインターンシップ(Sub-internship)

 専門科での4か月の実習の後,いよいよ入院患者を第一線で治療することになる.一般内科は4チームに分かれ,各チームは指導医1人,シニアレジデント1人,レジデント(1年目のレジデントなのでインターンともいう)2人,医学生やサブインターン2~3人で構成される.無論,サブインターンは一番下っ端である.チーム全体で当直するため各チーム4日に1度の当直が回ってきて,指導医以外は病院に泊まって全入院患者の世話をする.新患は当直チームの患者となり,多い時は,1晩に15人の新患が2人のレジデントに順次振り分けられる.その中で教育的な意義のある4~5症例は医学生やサブインターンの実習として私たちに任せられ,問診,診察,検査,診断,治療のすべてを受け持つ.日本のポリクリのような見学ではなく,医学生やサブインターンも実戦力として鍛えられる.手技も動脈血採血はおろか,胸水穿刺,腹水穿刺,脊髄液穿刺なども手取り足取り教えられて自分でできるようになる.また,ICU(内科集中治療室)の患者も能力に応じて任される.医学部というより医学職業訓練校のようであり,医学部卒業時には医師として実戦に出て行けるように訓練される.

 病棟の1日は朝8時の指導医回診から始まる.入院患者に週末はないので,当然この回診は土日も含め毎日ある.自分の受け持ち患者の状態と人数から逆算して8時に間に合うように6時か7時に病院へ行き,各患者の容態を把握し当直医からの報告を確認し,自分なりのプランを立てる.回診では各患者の枕元で指導医に対してプレゼンテーション(報告)をするのであるが,外国人の私にはこれが大苦労であった.この報告では病歴,所見,検査,診断,治療計画に対してすべての情報を網羅しつつ一定の形式に沿って5分以内に,またICUの患者では頭の先から足の先までを系統立てて10分以内に言わないといけない.アメリカ人でも機関銃のように早口で息継ぎをしないでやっと時間内に言い終えるのであるから,これは英会話の不得意な私にとってはほとんど不可能な要求であった.特に数字は苦手であった.所見は必ず血圧,脈拍,呼吸数,体温と始まり,挿管している場合には人工呼吸器の設定や動脈血の所見を加え,血液検査は末梢血から始まり血液生化学,肝機能,特別検査と順次まくしたてないといけない.初めのうちは途中で何度も舌がもつれ,この数値読みだけで3,4分もかかる.シニアレジデントが呆れ顔で,実習をするよりも「ESL(English as a Second Language:外国人向けの英語指導クラス)で勉強してきたらどうか」と言う.長い話し合いの後で私の熱意に負けた彼は,模範症例集と検査数値の紙の山を私に渡して,「毎日お経のように声を出して読みまくること」と言い,またテープに模範の報告の仕方を録音してくれた.このお経読みを続けて1か月,ようやく皆に迷惑をかけないレベルにまで上達した.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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