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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科58巻5号

2004年04月発行

雑誌目次

特集 最近のトピックス2004 Clinical Dermatology 2004 1.最近話題の皮膚疾患

毒棘を持つ淡水魚

著者: 和田康夫

ページ範囲:P.11 - P.14

毒棘を持つ魚はほとんどが海水魚である.しかし淡水魚の中にも毒棘を持つものがある.毒棘を有する淡水魚として,世界的にはナマズ類とエイ類の一部が知られている.わが国には毒棘を持つナマズ類として,ギギ科4種,アカザ科1種が生息する.これらの淡水産ナマズによる刺傷例の報告はほとんどない.今回,筆者が自ら体験したアカザ刺傷について報告する.日本には淡水エイは生息していない.しかし,アクアリウムショップで淡水エイが販売されており,今後は輸入個体による刺傷例にも注意が必要と考えられる.

格闘技競技者に流行しているTrichophyton tonsurans感染症

著者: 望月隆 ,   河崎昌子 ,   田邊洋 ,   石崎宏

ページ範囲:P.15 - P.19

近年,高等学校柔道部員やレスリング部員など,格闘技競技者の間に多発しているTrichophyton tonsurans感染症について解説した.本菌による体部白癬は顔,耳,項頸部,肩,腕など,スポーツ活動中に小外傷を受けやすい部位に好発する.指頭大から鶏卵大までの鱗屑を付ける環状の紅斑が単発あるいは散在するが,中心治癒傾向がなく,湿疹様,あるいはバラ色粃糠疹様で白癬を疑いにくい例もある.頭部白癬はblack dot ringwormが多いが,症状のない無症候性キャリアも多く存在し,これらがともに感染源になると推察される.また頭部白癬と体部白癬はしばしば合併する.治療は,体部白癬は抗真菌薬の外用,頭部白癬は内服が有効で,短期間で症状は消失するが,再発例が多い.現在流行している菌株は従来わが国で散発的に分離されていた菌株と異なるクローンであることが分子生物学的に明らかになった.

Hydroxyureaによる皮膚症状

著者: 吉田和恵 ,   齋藤昌孝 ,   天谷雅行 ,   田中勝

ページ範囲:P.20 - P.23

Hydroxyurea(HU)はDNA合成を阻害する代謝拮抗剤であり,高い奏効率に加えて他の抗癌剤と比べ重篤な副作用が少ないため,骨髄増殖性疾患に広く用いられている.HUの一般的な副作用としては骨髄抑制が有名であるが,長期投与により10~35%に皮膚症状が認められるとされる1).主な皮膚症状としては,皮膚の乾燥,皮膚萎縮,脱毛,粘膜皮膚および爪甲の色素沈着,扁平苔癬,皮膚潰瘍,手指関節の紅斑などが報告されている.HUによる皮膚症状はいずれもHUを比較的長期投与した患者に認められ,HU中止により軽快傾向を示すが難治である.これらの皮膚症状には特異的な所見が乏しく,見逃されていることも多いと考えられる.HUを長期投与されている患者に難治な皮膚症状をみた場合,HUの関与を疑うことが肝要である.

皮膚サイトメガロウイルス性潰瘍

著者: 岸本三郎

ページ範囲:P.24 - P.27

サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)感染のうち,特にAIDS,臓器移植,長期の化学療法やステロイド療法を受け,免疫不全状態の患者に合併するCMV特異疹である皮膚サイトメガロウイルス性潰瘍を概説した.本症はCMV感染の初発症状であることが多く,遅れて汎発性感染を起こす可能性が高いため,通常の病理組織検査,CMV抗体を用いた免疫組織検査およびCMV抗原血症検査を早期に行うとともに,抗CMV剤による先行療法の必要性を強調した.また,皮膚サイトメガロウイルス性潰瘍の形成機序を考察し,創部での骨髄由来のCD34+前駆細胞からのproinflammatory cytokineによるCMVの再活性化により,皮膚サイトメガロウイルス性潰瘍部がCMV抗原血症を引き起こす源である可能性を述べた.

Gefitinib (IRESSA (R))による薬疹

著者: 佐藤八千代 ,   日野治子

ページ範囲:P.28 - P.32

Gefitinib(IRESSA(R))は上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)で,肺癌の治療薬として2002年7月に承認された.臨床試験やこれまでの報告では,ざ瘡や皮膚乾燥,爪囲炎などの皮膚副作用が指摘されている.当科でも9例のgefitinibによると思われる皮膚症状を経験した.近隣の施設にgefitinibによる皮膚副作用についてのアンケートを行い9施設から回答を得た.全体で38例の皮膚副作用例があった.症例は女性に多く,発疹の臨床はざ瘡様発疹が最も多く,脂漏性皮膚炎,乾皮症,爪囲炎がそれに続いた.発疹出現までの期間は2週間以内が多かった.gefitinibによる皮膚副作用の発生機序はまだ明確ではないが,他のEGFRを標的とした治療でも同様の副作用があることから,その薬理作用自体によると考えられている.

2.皮膚疾患の病態

日本人の白皮症の解析

著者: 鈴木民夫 ,   稲垣克彦 ,   富田靖

ページ範囲:P.34 - P.38

眼皮膚白皮症(oculocutaneous albinism:OCA)は,主に眼と皮膚の色素細胞内におけるメラニン色素合成の低下あるいは消失により,皮膚・毛髪・眼の色素が欠乏または欠損する遺伝的(通常は常染色体劣性遺伝)疾患群である.われわれは日本人OCA患者75例を遺伝子診断によりサブタイプに分類した.その結果,OCA1型(チロシナーゼ関連型):35例(47%),OCA2型(P遺伝子関連型):6例(8%),OCA4型(MATP遺伝子関連型):18例(24%),Hermansky-Pudlak症候群1型:1例(1%)であった.OCA4型は,現在までのところトルコ人1例およびドイツ人5例の報告があるのみであり,黒人にはその頻度が少ないようだが,日本人にチロシナーゼ陽性型OCAとしては,最も頻度の高いタイプであった.どのタイプも白髪,金髪さらには淡褐色の髪を持つ患者を含み,臨床症状から患者のサブタイプを推定することは難しかった.

コリン性蕁麻疹における汗アレルギーと自己免疫の関与

著者: 堀川達弥 ,   福永淳

ページ範囲:P.39 - P.43

コリン性蕁麻疹は発汗時に出現する点状の膨疹を特徴とする蕁麻疹であるが,その発症には発汗時に末梢神経より分泌されるアセチルコリンが深く関連していると考えられてきた.近年になりコリン性蕁麻疹では汗アレルギーの存在があることが発見され,汗の排出障害などに伴って汗管より漏出した汗によって肥満細胞からの脱顆粒が起こり,蕁麻疹が発症するのではないかという仮説が提示された.われわれも汗の皮内反応を行い,コリン性蕁麻疹の約半数には強い汗アレルギーがみられることを確認した.このような症例では好塩基球からの汗による脱顆粒は著明で,アセチルコリンの皮内注射にて衛星膨疹がみられることから,汗管から漏出した汗によって肥満細胞の脱顆粒が起こって膨疹を形成するという仮説を支持するものであった.一方で,コリン性蕁麻疹患者の残りの半数では汗アレルギーは弱く,自己血清の皮内反応が陽性となり,自己免疫性蕁麻疹同様に自己免疫が関与すると考えられるサブタイプが存在する.このようにコリン性蕁麻疹には多様性があり,単一ではないと思われる.コリン性蕁麻疹のそれぞれのサブタイプについて臨床的および検査上の特徴について述べる.

水痘再感染

著者: 木花光

ページ範囲:P.44 - P.47

近年,高齢者の水痘の報告が散見されるが,ほとんどは再感染と考えられている.悪性腫瘍,感染症,自己免疫疾患,糖尿病などの基礎疾患を有する例がほとんどであるが,基礎疾患のない例もある.高齢で,しかも基礎疾患を有するにもかかわらず,20~30歳台の成人水痘に比べて発熱などの全身症状が軽度なことが特徴的である.皮疹の数も少ないが,皮疹の新生が続き治癒が遷延することはある.水痘再感染と汎発性帯状疱疹との鑑別は,帯状の皮疹部が明瞭であれば容易であるが,不明瞭な場合は困難となろう.水痘再感染では早期より血中抗体価が高値であるのも鑑別点になりうる.水痘の終生免疫が維持されるためには,不顕性再感染を繰り返すことが必要とされてきている.少子化,核家族化により不顕性再感染の機会が減少しており,さらに長寿化も急速に進行しているので,今後高齢者の水痘再感染の増加が予想される.

毛周期の制御分子

著者: 板見智

ページ範囲:P.49 - P.53

毛器官は生涯にわたり毛周期と呼ばれる再生と退縮のプロセスを繰り返す生体唯一の組織である.この毛周期は上皮系毛細胞と毛乳頭細胞の相互作用により進行する.近年,主に遺伝子改変マウスの表現型から,胎生期における四肢や歯牙形成にかかわる数多くの細胞増殖因子や転写因子が,毛器官の発生と再生にも重要な役割を果たすことが明らかになってきた.一般的には胎生期の組織形成にかかわる分子が組織再生にもかかわると考えられているが例外も多く,例えば男性ホルモンレセプター,ビタミンDレセプター,STAT3やHairlessなどの転写因子の欠失は,毛器官形成には異常を生じないが毛周期の進行に異常をきたす.毛周期にかかわるシグナル伝達機構が明らかにされてきたことで,成長期と休止期誘導という全く逆の作用を有する男性ホルモンの作用機序も一部は解明された.

高齢者のアナフィラクトイド紫斑病

著者: 富山勝博 ,   伊藤雅章

ページ範囲:P.54 - P.58

高齢者のアナフィラクトイド紫斑病(AP)におけるほかの年代の同症との違いを明らかにするため,当科のAP症例を年代群間で比較,検討した.高齢群では,多様な感染症が発症や増悪に関与していた.また,関節症状や腹部症状が少ない一方で,腎障害の合併が多く,半数に紫斑病性腎炎が認められた.これら高齢群の腎炎合併症例では,有意な血清IgA濃度の上昇が認められた.紫斑については,ほとんどがステロイドや免疫抑制剤を使用せずに軽快した.

アトピー性皮膚炎の動物モデル

著者: 島田眞路

ページ範囲:P.60 - P.63

アトピー性皮膚炎はTh2サイトカイン産生やIgE血症に伴って発症する皮膚炎であり,この条件を満たす動物モデルがいくつかある.本稿ではマウスモデルに絞り解説した.

 第一は自然発症モデルであり,Nc/Ngaマウスに代表されるものである.このマウスは上記の条件をすべて揃えているが,興味深いのはSTAT6ノックアウトマウスでも症状が変化しない点である.STAT6ノックアウトマウスではTh2サイトカインは消失し,IgEも低値にもかかわらず皮疹は発症するのである.第二のモデルは塩原モデルに代表される抗原反復塗布マウスモデルである.喘息を伴うGehaモデル,食物抗原で皮膚炎を起こすSampsonモデルを紹介した.Th2サイトカイン過剰発現モデルはIL-4のChanらのモデル,IL-18の水谷モデルを紹介した.最後にIgEトランスジェニックマウスによる皮膚炎モデルを紹介した.IgEとAD発症の関連についてはまだまだ研究が必要である点を強調した.

3.新しい検査法と診断法

慢性蕁麻疹の自己血清皮内テスト

著者: 秀道広 ,   亀好良一

ページ範囲:P.66 - P.71

明らかな誘因なく皮疹の出没を繰り返す慢性蕁麻疹には,自己血清を皮内注射することにより紅斑と膨疹を生じるものがある.自己血清による皮内反応では滅菌ガラス真空採血管を用いて血清分離し,そのうちの50μlを皮内注射して30分後の紅斑と膨疹の大きさを測定する.判定の方法としては膨疹の直径を評価の対象にする報告が多いが,われわれは紅斑の直径を生理食塩水およびヒスタミンにより生じた反応の大きさと比較する方法を採用している.なお,本来なら皮内テスト実施2日以上前よりH1拮抗薬の投与を中止する必要があるが,陽性対照(ヒスタミン)および陰性対照(生理食塩水)をとれば,ヒスタミンH1受容体拮抗薬内服中でも自己血清に対する皮膚の反応性は評価することができる.最近,コリン性蕁麻疹,アスピリン(非ステロイド系消炎鎮痛薬)不耐症で自己血清の皮内注射に反応する例があることが報告されつつある.

皮膚画像診断法

著者: 大畑恵之

ページ範囲:P.72 - P.79

皮膚科で用いる画像診断のうち,皮膚エコーとMRIについて,その基本原理,使用の意義,検査・診断の実際,正常構造および代表的な皮膚疾患,特に腫瘍性病変の所見についてまとめた.皮膚エコーは,その簡便性,非侵襲性,および画像検査で最も解像度が高いという点,またMRIは,特に軟部腫瘍において,周囲組織との解剖学的な関連性が詳細にわかる点や,信号パターンにより質的診断がある程度可能となる点から,皮膚腫瘍の術前診断には有用と思われた.今後,日常診療において広く普及されるためには,皮膚疾患に特定された新たな保険点数の設定および導入も必要と考えられた.

皮膚腫瘍に対する光線力学診断

著者: 森脇真一 ,   青島有美

ページ範囲:P.80 - P.83

生体内に光感受性物質を投与した後,励起光照射により発生した蛍光を検出するという手法を用いた光線力学診断(photodynamic diagnosis:PDD)が,近年,癌の局在診断法の一つとして注目されている.皮膚科領域においては,腫瘍蓄積性の高いアミノレブリン酸(ALA)の自家調製外用剤を使用したPDDの有用性が多くの施設から報告されている.健常部を含んだ病変部あるいは病変が存在した部分に,20%ALAを数時間密封外用した後に励起光線を照射し,赤色蛍光の範囲を解析することにより,治療前の病変の評価や治療後の残存病変や再発のチェックを行うことが可能となる.本法は非侵襲的で簡易な方法であり,何度でも繰り返し施行可能である.最も良い適応疾患は,肉眼的に境界不明瞭な日光角化症,Bowen病,基底細胞癌である.乳房外Paget病の局在診断に対しても,従来のマッピングに替わる有用な手段として期待されている.

ELISAによる天疱瘡自己抗体価測定法

著者: 天谷雅行

ページ範囲:P.84 - P.88

天疱瘡は表皮細胞間接着因子であるデスモグレインに対する自己免疫疾患である.抗原の三次元構造を正しく反映した組換え蛋白が,昆虫細胞を用いるバキュロウイルス発現系により作成された.その組換え蛋白を抗原としたELISA法が開発され,血清中の抗デスモグレインIgG自己抗体を特異的に,かつ高感度に検出することが可能となった.本ELISA法は2003(平成15)年7月より血清学的診断薬として保険収載され,日常診療において稀少難治性疾患の一つである天疱瘡の診断がより迅速に確実に下せるようになった.また,血清中の抗体価をELISA法によりモニタリングすることにより病勢の客観的評価が可能となった.

4.皮膚疾患治療のポイント

難治性皮膚潰瘍に対するサイトカイン供給法としてのサクションブリスターによる表皮移植法

著者: 十一英子 ,   立花隆夫 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.90 - P.94

難治性皮膚潰瘍の治療として,吸引水疱(suction blister:SB)を用いた表皮移植を行い,特に上皮化を促進して良好な結果を得た.水疱蓋が生着した症例だけでなく,生着しなかった症例でも,創面の状態が改善され上皮化が促進された.SB植皮には,単に表皮を移植し生着を目指すというだけでなく,ケラチノサイトから産生されるTGF-α,PDGF,bFGF,VEGF,IL-1,IL-6など創傷治癒に重要なサイトカイン供給法としての意味があると考えられる.SB植皮の実際の手技,応用した症例の結果を述べるとともに,その有用性について考察する.

乾癬のシクロスポリン療法におけるTDM(therapeutic drug monitoring)に基づく治療方針の検討

著者: 梅澤慶紀 ,   小澤明

ページ範囲:P.96 - P.100

乾癬のシクロスポリン(CyA)療法において,用法・用量のモニタリングとして,トラフレベル値の測定が行われてきた.トラフレベル値の臨床意義は,治療効果の指標というよりは副作用の指標として測定されていた.CyAのマイクロエマルジョン製剤(ネオーラル(R))では,吸収のバラツキが少ないとされ,血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)に基づくより有用な治療法の確立が可能となると期待される.乾癬におけるCyA療法は,乾癬の有用な治療方法の一つとしてほぼ確立されているが,腎毒性の問題などもあり,より有用な,しかも安全な治療法を確立する必要がある.乾癬に対するCyA療法を“薬剤モニタリング”という面から検討を行うことにより,患者個々に合った用量,用法の設定が可能になる.また,移植とは異なった皮膚科独自のCyA療法の確立が可能になると思われる.

ケミカルピーリングの組織傷害―非観血的皮膚悪性腫瘍治療への展望

著者: 古川福実 ,   山本有紀

ページ範囲:P.101 - P.106

皮膚悪性あるいは良性腫瘍の治療は外科的治療が基本であり,ケミカルピーリングによる治療は第二選択の一つの手段として考えるべきである.しかし,高齢化社会に伴って皮膚腫瘍の患者は増加傾向にあり,非観血的治療の必要性は今後ますます増えてくると予想される.フェノールやTCAを用いたケミカルピーリング治療は,①保存的治療のなかでは日光角化症,表在性基底細胞癌やBowen病に対して治療効果が高いこと,②特別な器械や道具が必要ではなく簡便に行えること,③治療時の疼痛が少ないこと(冷却で対応できる),④治療後の自宅での処置が不必要なこと,などという長所をもち,実施可能な治療法であると考える.本稿では,グリコール酸を含めたケミカルピーリング後の組織変化や今後の検討すべき課題についても言及した.

全身型金属アレルギーにより惹起される汗疱状湿疹に対する金属除去療法―金属制限食および歯科金属除去について

著者: 足立厚子 ,   堀川達弥

ページ範囲:P.107 - P.112

金属アレルギーには,接触アレルギー以外に食品中や歯科金属などに含まれる微量金属が全身的に吸収されて皮疹が惹起される全身型金属アレルギーがある.さまざまな形態の発疹がみられるが,最も頻度が多いのは汗疱状湿疹である.診断にはパッチテスト,および可能な場合,金属内服テストを併用して金属の関与の有無および金属アレルゲンを検索する.治療はその金属との接触の回避を徹底し,軽快しない場合,該当金属を含有する食品の摂取制限もしくは該当金属を含有する歯科金属の除去を行う.ただしパッチテスト陽性すなわち全身型金属アレルギーではないこと,厳格な金属制限食は微量元素欠乏をきたすことがあるので避けること,無効な場合速やかに金属制限食を中止することなど注意が必要である.ミノサイクリンやアンタビュース内服による金属のキレートやクロモグリク酸ナトリウム内服による腸管での吸収抑制も有効な場合がある.

Eccrine hidrocystomaの1%硫酸アトロピン眼軟膏外用の試み

著者: 村田朋子 ,   神田憲子 ,   石黒直子 ,   川島眞

ページ範囲:P.113 - P.117

Eccrine hidrocystomaの3例に1%硫酸アトロピン眼軟膏の外用を試みたところ,良好な結果を得た.症例は60歳,57歳,79歳のいずれも女性.数年前より両眼囲,頬部,口囲に夏季,発汗時に隆起し,寒冷時に軽快する多発性の小結節を認めるようになった.病理組織学的に真皮浅層から中層に嚢腫を認めた.嚢腫壁は2層から数層の扁平ないし立方形の上皮細胞から構成されていた.以上よりeccrine hidrocystomaと診断し,片側顔面の結節部に1%硫酸アトロピン眼軟膏の1日2回の外用を開始したところ,外用側のみ3~4日後には縮小,扁平化を認め,外用の継続により軽快した状態を維持でき,患者の高い満足度を得た.1例で誤って眼内に軟膏が入り散瞳を認めたが,外用中止のみで2~3日で軽快した.眼科受診でも眼圧の上昇はなかった.そのほか,特に問題なく,患者の外観に対する心理的ストレスの緩和という点で今後考慮すべき治療法と考えた.

Livedo reticuralis with summer ulcerationsに対するニコチンパッチ療法

著者: 森徹 ,   三砂範幸 ,   成澤寛

ページ範囲:P.118 - P.121

ニコチン製剤(ニコチンガム,ニコチンパッチ)は現在,禁煙補助薬として一般的に用いられている.近年ニコチン製剤の使用によりBehçet病のアフタ,潰瘍性大腸炎,壊疽性膿皮症,Buerger病の潰瘍に効果がみられた症例,皮膚温の上昇や末梢の血流量の増加,血管新生の促進といった報告が散見される.また,近年livedo reticularis with summer ulcerations(LRSU)はlivedo vasculopathyとの異同が議論されている.自験例のLRSUも循環不全が基盤にあると考え,ニコチンパッチ(ニコチネル(R)TTS(R))を単独もしくは他剤と併用した.治療後,数日のうちに明らかな自覚症状および他覚症状の改善を認めた.本薬剤は経皮吸収されるものであり,全身の副作用も少なく有効な治療法の一つであると考えたため紹介する.

口腔粘膜慢性GVHDに対する口腔内PUVA療法の試み

著者: 檜垣祐子 ,   矢田佳子 ,   安藤菜緒 ,   川島眞 ,   溝口秀昭

ページ範囲:P.122 - P.124

造血幹細胞移植後の口腔粘膜慢性GVHD(graft-versus-host disease,移植片対宿主病)によるびらん性扁平苔癬様の病変に対する口腔内PUVA療法について紹介した.本症は口腔粘膜の疼痛が強く,食餌摂取が困難になるなど,患者の苦痛は少なくない.しかしGVHD自体のgraft-versus-leukemia効果が期待されることもあり,皮膚粘膜病変に対しては必ずしも積極的な全身的免疫抑制療法の強化の適応にならないため,皮膚粘膜症状の改善を目的とした局所療法が望まれる.筆者らの行っている口腔内PUVA療法は,ライトガイドを装着したELC404型スポットUVランプを用いたオクソラレン(R)軟膏外用PUVA療法で,口腔内の粘膜病変部に選択的に照射することが可能である.本治療法によって口腔内の粘膜病変が改善することが期待でき,全身的な免疫抑制療法の追加治療として,また免疫抑制剤の減量に結びつく可能性のある治療として試みられるべき治療ではないかと思われる.

小児アトピー性皮膚炎に対する0.03%タクロリムス軟膏治療

著者: 川島眞

ページ範囲:P.125 - P.128

16歳以上のアトピー性皮膚炎患者での治療薬の一つとして,0.1%タクロリムス軟膏が登場してから4年以上が経過した.その有用性については本邦のみならず欧米でも十分に高い評価を得ており,また欧米では小児での適応も取得している.よって,本邦でも小児用製剤が待望される状況であったが,2003年に0.03%タクロリムス軟膏が承認され,2歳以上の小児に使用可能となった.そこで,本外用剤の小児での使用における留意点を,臨床試験データを交えながら解説した.特に,刺激感,感染症,腎障害,紫外線発癌の可能性の有無などについて述べた.

爪白癬のイトラコナゾールパルス療法

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.129 - P.133

爪白癬に対するイトラコナゾールパルス療法の至適用法用量を探る目的で,400mg/日3サイクルと200mg/日3サイクル,6サイクルについてランダム化二重盲検並行群間比較試験を行った.評価は6カ月目の著効率で判定し,その後同意の取れた患者については48週間のフォローアップを行った.その結果400mg/日3サイクルが有意に優れ,また,副作用の発現率も3群間で差がみられなかった.さらに,1年のフォローアップ後において400mg/日3サイクル群では24週目の治癒が3例であったものが17例に増加した.また,48週目までの爪甲中濃度-時間曲線下面積(AUC)は,400mg/日3サイクルは他のパルス療法に比べ有意に高く,総投与量が同じである200mg/日6サイクル投与の倍以上であった.以上より400mg/日の3サイクルでは,投与終了後も長期にわたって薬剤が爪に残存し,臨床効果と相関することが示された.

5.皮膚科医のための臨床トピックス

診断時に尋常性乾癬の予後を疫学・統計から推定する

著者: 酒井利恵

ページ範囲:P.136 - P.139

尋常性乾癬の診断時の臨床情報を用いて,長期的な転帰に関係する予後因子を同定することを目的とする研究を行った.尋常性乾癬を対象に一斉調査をした.調査できた症例(169例)に対して,不変ないし悪化に関係すると考えられる因子10項目と5つの治療の有無を,ロジスティック回帰分析で検討した.有意であった3項目を用いたインデックスは,年齢が40歳未満であれば1点で,40歳以上なら0点,性別は男性なら1点で女性なら0点,そしてBMIが25以上ならば1点で25未満なら0点を与え,それらを合計したものとした.これにより,患者は,インデックスの点数が高いほど不変ないし悪化の割合が高い傾向がみられた.この結果は,疾患の理解と今後の臨床試験の患者選択や個々の患者への治療法選択に役立つが,今後さらなる疫学・統計を利用した研究が必要である.

男性型脱毛症の新しい治療

著者: 坪井良治

ページ範囲:P.140 - P.144

男性型脱毛症の治療,特に外用療法と内服療法について概説した.フィナステリドは本邦でも発売の可能性があるⅡ型5α-還元酵素阻害薬である.毛包でのテストステロンの活性化を抑制することにより軟毛化を抑制する.海外では1mg/日の連日内服により半数以上の症例で写真判定で「有効以上」の効果が報告されている.外用剤(育毛剤)については,ミノキシジル(リアップ(R)),ペンタデカン酸グリセリドとサイトプリンの配合剤(毛髪力イノベート(R)),t-フラバノン(サクセス(R)),塩化カルプロニウム(フロジン(R),カロヤン(R))について述べた.今後,男性型脱毛症の薬物治療が本格化するに従って,皮膚科医は男性型脱毛症の診断と治療について正確な知識を持つことが求められる.

セラピーメイク

著者: 今西宣晶 ,   小林照子 ,   中嶋英雄

ページ範囲:P.145 - P.147

外観の色や形の障害が,他の身体的障害と大きく異なる点は,症状のほとんどが,他人がどのように自分を見,自分のことをどう思っているかという心の悩みに起因することである.したがって,色や形の障害を治療する真の目標はこの心の障害を緩和し取り除くことである.医学的治療やカウンセリングもその重要な手段となるが,化粧も実は非常に有効な手段なのである.セラピーメイクは化粧のもつポジティブな心理作用を利用し,単に病変部をカムフラージュするだけではなく,その人がもつ魅力的な部分を引き出すようなメイクを行い,その人の積極的な社会生活への復帰を促し支援する活動である.化粧を通してこのような活動を行う者をわれわれはメイクセラピストと呼んでいるが,医学的治療を行う医師や心を扱う臨床心理士らと連携し,おのおのの治療限界を補完し合うことで患者のQOLがより向上するものと考えられる.

医療連携型電子カルテシステム

著者: 三原一郎

ページ範囲:P.148 - P.152

要約

医療連携型電子カルテとは,ITを利用し,患者の診療情報を複数の医療機関の間で共有できるシステムである.山形県鶴岡地区医師会では,医療連携型電子カルテシステム「Net4U」を約2年間にわたり,実際の医療現場で運用している.医療情報を共有することで,「医療連携(チーム医療,役割分担)の推進」「医療の透明性(情報公開,説明責任)の確保」「重複投薬,重複検査の回避」「医療の効率化」などに効果があることを実証できた.しかし,全国的に普及するには,解決すべき問題も多い.「投資に見合う診療報酬上の利点がない」「手間がかかる」「セキュリティが未整備である」「医師に意欲やスキルが乏しい」などがある.今後の普及のためには,地域医療IT加算など,診療報酬上の利点になるような施策がぜひとも必要であるが,医師側にもITを積極的に活用しようという姿勢が必須である.

コクラン共同計画

著者: 幸野健 ,   谷口彰治

ページ範囲:P.153 - P.156

コクラン共同計画とは,医療関係者,医療政策決定者,患者の合理的決断に資する目的で,過去の膨大な臨床試験情報からシステマティック・レビューを作成・発表している国際的プロジェクトであり,世界最大のEBM支援組織である.その権威は国際的に認知されており,各国の診療ガイドラインや医療政策に与える影響は大きい.傘下にコクラン・スキングループが結成され活発な活動を展開しつつある.(以下EBMの基本用語は太字とした)

アトピー性皮膚炎女性患者のQOLと化粧

著者: 有川順子 ,   羽柴早由里 ,   大城喜美子 ,   川島眞

ページ範囲:P.157 - P.159

アトピー性皮膚炎(AD)は標準的な治療に加え,心理的側面からのアプローチも重要とされている.AD女性患者に化粧指導を行い,心理テスト(QOL26,GHQ30,STAI)とVASを用いて前後での心理的変化を調査したところ,化粧に対する高い満足度が得られ,不安,緊張の緩和に有用であることが示唆された.AD患者のQOL向上に,化粧は高い意義をもたらすと思われた.

レーザー照射によるnonablativeなしわ取り方法

著者: 八木宏明 ,   瀧川雅浩

ページ範囲:P.161 - P.163

要約

従来,しわ取りではケミカルピーリングやレーザーピーリングなどのablative(侵食的)な方法が主流であった.近年,麻酔を使わずに皮膚表面を瞬間的に冷却しながらレーザーを照射することで,角質や表皮を傷つけないnonablative(非侵食的)な方法が開発され,この原理に基づいた装置が欧米を中心に製品化されてきている.われわれが使用している半導体レーザー装置TERABYTE 2000 typeB(R)は,国産初のnonablativeなレーザーしわ取り装置である.半導体レーザーを使用し,連続発光が可能であるため,痛みを感じない程度の低いエネルギーでも効果が得られる.光老化モデルマウスに対する実験と,健常人ボランティアによる照射試験により効果が確認できた.

皮膚疾患特異的QOL尺度Skindex-16

著者: 檜垣祐子

ページ範囲:P.164 - P.166

医療の分野では,近年quality of life(QOL)が重視されるようになり,その評価はアウトカムリサーチの主たる指標ともされている.臨床の場におけるQOLは,患者の主観的な幸福感を評価しようするものであることから,測定のためには自記式の多項目質問表を用いることが多い.Skindex-16は皮膚疾患患者のQOLを測定するための皮膚疾患特異的QOL評価尺度で,筆者らが作成した日本語版は原作(英語)との言葉の同義性および尺度としての妥当性が確認されている.Skindex-16日本語版の作成過程,その活用法について紹介した.

円形脱毛症の新しいタイプ(ADTAFS)

著者: 川村真樹 ,   相場節也

ページ範囲:P.167 - P.170

円形脱毛症のなかで,急性びまん性に脱毛して全頭脱毛に至るがすぐに生えて治癒する例が経験されることがあるが,過去には詳しい記載がなかった.それらに共通する特徴をまとめ,acute diffuse and total alopecia of the female scalp(ADTAFS)として分類した.ADTAFSの最大の特徴は共通する臨床経過と予後が良好ということで,その経過とは,平均3カ月で全頭脱毛に至るが,それと同時期に新しい終毛が生え始め,平均6カ月で略治に至るというものであり,当科経験例では12/14例が治癒した.さらに,生検組織で他の病型と比較し,より多くの好酸球浸潤の所見や,女性優位を認める.ステロイド全身投与でもびまん性脱毛の進行は止まらないが,一方,ステロイド外用のみにても治癒に至り,現時点では,治療法の違いで経過および予後に差は生じず,予後良好な病型と思われる.

遺伝子治療の現状―おとり型核酸医薬など

著者: 玉井克人 ,   金田安史 ,   中邨弘重 ,   森下竜一 ,   中野創 ,   花田勝美 ,   板見智 ,   片山一郎

ページ範囲:P.171 - P.174

NFκBは多くの炎症性遺伝子発現を誘導する転写因子である.最近われわれは,NFκBを標的としたおとり型核酸医薬としてNFκBデコイDNA軟膏を開発し,重症アトピー性皮膚炎に対する臨床応用を進めている.その結果,NFκBデコイDNA軟膏はアトピー性皮膚炎の重症顔面病変に対して特に有効であることが明らかとなりつつある.しかし,四肢・体幹に対する有効性を得るためには,高分子DNAの皮膚への浸透性を高める工夫が必要である.また,難治性遺伝性皮膚疾患に対する遺伝子治療研究も精力的に進められており,近い将来には新しい治療方法が確立されると期待される.

Derm. 2004

診察室での携帯電話

著者: 川内康弘

ページ範囲:P.19 - P.19

この頃はずいぶん携帯電話の普及率が上がってきているようで,街に出るとあちこち携帯電話で話している,またはメールを打っている人たちを見かける.病院・診療所内でもまたしかり,であり,待合室のみならず診察中に患者さんの携帯電話の着メロが鳴り響くことは日常的風景となりつつある.経験的には,男性よりも女性の携帯電話が鳴ることのほうが多いような気がする.大部分の人は,「今取り込み中で,後でかけ直す.」とすぐに電話を切ってくれるが,なかには平然と長電話を始める人もいて,やはり世の中いろんな人がいるものだ,とかえって感心してしまう始末である.多くの病院では,携帯電話が医療機器に影響を与えるという理由で見舞客には携帯電話のスイッチを切るよう要請しているが,外来患者に対しては携帯電話の使用を制限しているところは少ないようである.一方,私が勤務している大学病院では3年ほど前から,医師の呼び出しをそれまでの院内ポケベルから院内PHSに切り替えている.PHSはポケベルに比べると,電話のある場所まで行かなくても好きなときに電話がかけられるというメリットがある反面,かかってきた電話にはその場で出なくてはならないというメリットともデメリットともつかない面がある.視点を医療者から患者さん側に変えてみると,医師である私自身も診察中にPHSにかかってきた電話に出てしまい,診察を何度となく中断していることを思い返す.もちろん,この場合は現在患者診察中であることを相手に告げて,なるべく早くPHSを切るようにはしているが…….このように携帯電話の使用に関してはお互い様ということもあり,また,個人的には,日本では公共の場所での携帯電話使用より,公共の場所での喫煙を早く全面禁止にして欲しいとも考えており,診察室で患者さんの携帯電話が鳴り出すことにことさら目くじらを立てるつもりはない.ニキビで受診した高校生の着メロ(最近では「着うた」が流行りだとか)を聞いて,知っている曲だとまだ自分も世の中の動きについていけているかな,とふと安心したりもできるし…….(〒305-8575 つくば市天王台1-1-1)

大学シンドロームX

著者: 橋本喜夫

ページ範囲:P.32 - P.32

インスリン抵抗性を基盤として高血圧,肥満,糖尿病,高脂血症といった個々の症状は軽度でもそれが集まると「死の四重奏」といわれる動脈硬化危険因子が起こる病態を「シンドロームX」と呼ぶそうである.要するに個々のパンチはジャブでもそれが重なるとKOパンチにつながるという疾患概念でもある.

 大学病院の生活にも「死の四重奏」がある.これを「大学シンドロームX」と名付けよう.たとえば,診療,研究,教育,会議(学会)であろうか.前二つは以前からあったことで,医者はそれが仕事であるので仕方がない.問題は教育である.一貫性のない,そして私のように性善説を信じていない日本人には向いているとは思えない新医学教育カリキュラムへの一方的変更が基盤にある.そしてその新カリキュラムに奪われる時間は誰も補填してはくれないし,評価もしてくれない.私は当教室でも二番目くらいにイエスマンなので,文句を言わずに行ってはいるが,態度が悪い学生や,医者以外ではとても使いものにならない医学生がくるとこの国の行く末を憂うとともにどっと疲れがでる.それから会議.知らないうちに○×委員会に入らされている.いずれにしても必要のない会議が多すぎる.お役所様の意向で,何でも会議を開催したという事実が必要らしい.

EmpiricistとNerd

著者: 小宮根真弓

ページ範囲:P.64 - P.64

留学中のことである.‘皮膚科医にはnerdが多い'と昔から言われている,ということを聞いた.nerdとは,学問ばかりしていて実際に役に立たない人物のことだという.確かに学問には,学問のための学問という側面があって,現実の社会に役立つという点に無関心な部分がないとはいえない.特に皮膚科では知識ばかりはあるが実際に役に立たない医者が多いということであろうか.一方で,empiricistという言葉にも出会った.辞書を引くと,1)経験主義者,2)経験ばかりに頼るひと,3)やぶ医者,とある.医者にとって経験は非常に重要なものであるが,単にそればかりに頼っている医者はやぶ医者であるということだろうか.

 学問と,臨床経験はともに医師にとって重要な,車の両輪のようなものである.どちらかに重心をおきすぎると,某国ではnerdとかempiricistとか言われてしまうのだろう.学問的背景があり,しかも実際に役立つ知識を蓄積し,そのバランスを保っていることは,実は非常に難しいことなのかもしれない.医学自体,もともとはempiricalなものであったのが,近代科学の進歩に伴い,科学的な背景を得て発展してきたように,医師個人としても,臨床経験に根ざした科学的知識の発展を目指すことは一つの大きな目標である.

メラノーマ自動診断の研究の行き着く先は?

著者: 田中勝

ページ範囲:P.79 - P.79

悪性黒色腫のダーモスコピー像を画像解析の研究対象として扱い始めてすでに3年が過ぎようとしている.理工学部とも共同で画像処理,特徴量抽出,線型判別分析,ニューラルネットワークなどを用いた自動解析プログラムにより,悪性黒色腫と色素細胞母斑のみならず,基底細胞癌,脂漏性角化症,血管病変などを診断できるようになることを目標としている.まだまだ開発途上ではあるが,サーバー上に悪性黒色腫とクラーク母斑の自動解析プログラムを置き,遠隔自動診断も一部現実のものになった.実際のサイトのアドレスを示すので試しにダーモスコピー画像を送ってみていただければ幸いである(http://dermoscopy.soft.ics.keio.ac.jp/).もちろん,適応疾患の拡大と診断精度の向上が次の課題であるが,そのさらに先には,どのような展開が考えられるだろうか? ダーモスコピーの色素性皮膚病変診断における重要性が叫ばれて久しいが,意外に普及しない理由はいくつか考えられる.一つにはダーモスコピーという器具が特殊であり,高価な割に保険診療で認められていない点,もう一つは,実際にある程度の診断ができるようになるためには一通りのトレーニングが必要,という点である.このようなダーモスコピーの特殊性を何とかしてクリアし,誰もが一般的に使えるまでに広めたいと考えている.もちろん,高精細画像をみて最終診断をするのは皮膚科医に限られると思うが,その段階に至る前に手遅れになるケースが後を絶たないため,もっとプリミティブなレベルでのスクリーニングが必要であると考える.その一つは,みのもんたによる,「みなさん,足の裏にシミはありませんか? あったら皮膚科を受診しましょう」でもよいのだが,何らかの数値的な指標を突きつけられないと,人間なかなか医療機関を受診しないものである.そこで,安価な携帯用のダーモスコピーを作成し,世界中にばらまくというのはどうだろうか? 携帯電話にこのアタッチメントを付けて簡易型ダーモスコピーとし,誰もが簡単にダーモスコピー撮影を行い,当科ホームページ上で自動スクリーニングを行えたら,と夢を見ている.携帯電話に精通した子供たちが,簡単に家族中の色素斑一次スクリーニングをやってくれて,「おじいちゃん,これは怪しいという判定が出たから早く皮膚科に行ってみてもらいなよ」と言ってくれる時代になればいいな,とひそかに期待している.(〒160-8582 新宿区信濃町35)

DNA損傷の修復に関連した皮膚疾患

著者: 照井正

ページ範囲:P.94 - P.94

以前から紫外線によるDNA損傷とその修復に興味を持っていた.学内の学位審査の過程で文献を調べていたところ,DNA損傷とその修復は多岐にわたること,また,その経路に関与する分子の解析が進んでいることが分かった1).これらのDNA損傷の修復過程の異常によりさまざまな疾患が生じることが解明され,それらを総称してしてchromosomal breakage syndromeと呼ぶ報告もある2).その中には乳癌や大腸癌のほかにいくつかの遺伝性皮膚疾患が含まれる.色素性乾皮症(XP)をはじめとする光線過敏症をきたす疾患や血管拡張を皮膚症状とする疾患,早老症として扱われてきた疾患がある.

 紫外線により生じるピリミジンダイマーや(6-4)光産物はnucleotide excision repair(NER)で修復されるが,XP variant以外のXPはNERに関与した分子に異常があり,NERが正常に行われず,光線に対して過敏であり,後に皮膚癌を生じる.NERの一つであるtranscription-coupled repair(TCR)に関与するCSAとCSAはCockayne症候群(CS)に関与する.CSはXPと異なり,皮膚癌の増加はみられない.その他のDNA損傷修復として,放射線や抗癌剤などで生じるdouble strand breaks (DSBs)の修復にあたるhomologous recombination (HR)とendo-joining (EJ)がある.DSBsを修復する過程で,蛋白リン酸化酵素であるATMとATRが中心的な働きをする.ATMはataxia telangiectasia (AT)の責任遺伝子がコードする蛋白である.また,DSBsの存在するDNA損傷部位にいち早く結合するNMR complexの構成成分であるMre11とNSB1はそれぞれATの類似疾患であるAT-like disorder(ATLD)とNijmegen breakage syndrome(NSB)の責任遺伝子がコードする分子である.また,その作用機作は不明であるが,HRにはDNA二重らせんを解きほぐすhelicaseがいくつか関与している.ある種のhelicaseに異常が起こると光線過敏をきたすRothmund-Thomson症候群 やBloom症候群,あるいは早老症の一つであるWerner症候群が発症する.DNA損傷修復に関与する分子の異常により発症する皮膚疾患の多くは悪性腫瘍が生じやすいので3),今後,それらの疾患の発症機序とともに発癌機序も明らかにされることを期待している.

大学病院の医師(皮膚科医)不足

著者: 渡辺力夫

ページ範囲:P.95 - P.95

地方の大抵の大学病院は,皮膚科医(もちろん他科の医師も)不足に悩んでいるのではないかと思います.私が所属する講座も例外ではありません.

 原因として,医学部学生定員数の削減,大都市志向型医師の増加が挙げられます.また,研修医スーパーローテーションの導入,国立大学病院の独立法人化,何の解決にもなっていない医療制度改革などによる,大学医師への負担増加や見えない将来に対する不安もあると思われます.将来縮小されうる,あるいは衰退するかもしれない講座に誰も所属したいとは思いません.研修医なら将来的に“はずれ”が少ないと思われる大都市の有名大学病院を選択,中堅医師なら早めに開業して独立しようと考えても当たり前なのかもしれません.この号が発行される頃には研修医のスーパーローテーションが開始されており,基本的に2年間は皮膚科入局者がいなくなります.また,せっかく皮膚科医を志す研修医がいたとしても内科や外科をローテーションしているうちに,それらの科に取り込まれてしまう可能性すらあるのです.今後,ますます医師不足が進行していくことは明らかです.

医師の責任

著者: 白方裕司

ページ範囲:P.106 - P.106

近頃責任感に欠ける医師が多いと思われる.ときどき“何ということでしょう!”とまで形容したくなるようなことをよく耳にするようになった.ある内科の開業医の話であるが,入院患者を抱えているにもかかわらず自宅が10kmも離れているとか,患者の容体が悪化していることを承知しておりながら携帯を鳴らしても出ないとか,急変した患者を総合病院に紹介するのを看護士に押しつけるとか,昔ではとうてい考えられなかったことが実際に行われている.これはモラルの問題か,はたまた人間性の問題か,医師としての責任感に欠けていると思う.この8年間,培養皮膚の臨床応用に携わってきた.他人の皮膚を使用する同種移植は手術時の余剰皮膚を使用するので,“失敗しても次があるさ!”と気楽に培養することができる.しかし,自己培養皮膚移植となると話は違ってくる.患者様から採取した皮膚から細胞を培養するわけであるから,“培養は失敗しました.”ではすまされない.従って,万が一にでも失敗は許されないわけであるから非常に神経を使う.出生前診断を行っているある高名な先生に事情を聞いたことがある.やはり,この先生も胎児の皮膚を採取するには非常に神経を使い,2時間かけて患者とじっくり話をしたうえで行うということだ.責任の問題もあるので,自分自身で行っているとのことである.私の場合もしかり,初代培養はすべて自分でしている.実験助手のひとに培養を行ってもらうことも一時考えたが,培養できなかったときにそのひとに責任を転嫁することはできない.後輩を引きずり込むことも試みたが,実際には長続きせず,今でも自分で行っている.そろそろ真剣に跡継ぎを確保しておかないと大変なことになるなと思いながら今日も細胞とにらめっこしている.(〒791-0295 愛媛県温泉郡重信町大字志津川)

金属パッチテスト

著者: 安部正敏

ページ範囲:P.117 - P.117

誰もいない! いつも満員を誇る関連病院の朝の待合室.誤診だらけで口先医者の私なんぞでも慕ってくださる患者さんが多いのが嬉しい.しかし,ついにヤブ医者がバレたか? 溢れ出る涙をぐっと堪え診察室に入る.すると,呼んでもいない男がだしぬけに私の前に現れた.男は無言で黒色の手帳を見せる.えっ!? 誤認逮捕? 冤罪? 今朝の寝坊によるスピード違反なら,現行犯逮捕のはずだが…?

 「実は先生に診ていただきたい者がおります.」なんだそんなことか! 全身の力が抜ける.しかしこの後,この刑事は恐ろしいことを言い出した.「これから診ていただく男は数回の逮捕歴をもつ凶悪犯です.拘留のたびになにかと病院にかかりたがります.われわれも無視できず受診させますが,この男はやれ検査だ! 処置だ! と要求します.しかし,検査の結果に不満だったり,病気が治らないと出所後その病院に対しお礼参りをします.また,拘留が原因で病気になったなどと医師から言われますと警察内でも派手に暴れまわりますから検査や処置は絶対に止めて下さい.そして警察の責任を匂わせないように! 病気の説明も大雑把にして,原因を言わないこと.治療は副作用がなく,絶対治る薬を….」 そんならオマエが診ろ! と言いたいが,私とて国家権力に反抗できぬ気弱な小市民である.刑事が去った.今にも逃げ出しそうな若き女性看護師をリラックスさせるべく,「電球スタンドと土瓶に茶碗.あとカツ丼を用意して」などと言うと,血相を変えた刑事が戻ってきた.冗談が通じないのか?

強い薬,弱い薬

著者: 神戸直智

ページ範囲:P.128 - P.128

生まれ育った群馬を離れ京都へと移り,言葉も違う土地でやっていけるだろうかと一抹の不安を感じながら迎えた最初の外来患者さんは,清楚な着物姿の初老の女性であった.優雅な物腰で診察室の扉を開けるなり彼女は,「せんせぇ(注:アクセントは冒頭の「せ」),かゆいどすえ」と訴えた.着物の裾を割って診察させていただくと,下腿は粃糠様落屑を伴って乾燥し,訴えを裏付けるように掻破痕が散在していた.皮脂欠乏性皮膚炎との診断を確認し,「皮膚が乾燥して痒みが生じる病気ですよ」と説明を加え,「乾燥を予防するためにピンクの大きなチューブに入った薬を,症状の強い部位には強い薬である緑の小さなチューブを使って下さい」と説明した.こうして,最初に迎えた患者さんは,自分が京都に越してきたという事実を強烈に印象づける一方で,皮膚科を訪れる患者さんの訴えはそれほど変わらないかなと安心感も与えてくれた.

 しかしながら,彼女の症状はいっこうに改善せず,毎週のように私の外来を訪れ,この着物の女性は京都での初めての馴染みの患者さんとなった.そして,診察室の扉を開ける上品な仕草さも,「せんせぇ,かゆいどすえ」という訴えも,変わることはなかった.腑に落ちないのは,保湿剤としてヘパリン類似物質含有軟膏を処方しているにもかかわらず,いつ診察させていただいても肌はさざ波状に落屑を付し,見事に乾燥していることだった.あまりにも症状が改善しないので,ある日,「ピンク色の大きなチューブの薬はきちんと塗っていますか?」と尋ねてみた.すると彼女は毅然とした態度で,「せんせぇ,強い薬がよう効きしませんのに,弱い薬が効きますか?」と逆に諭されてしまった.彼女に言わせれば,「強い薬をいくら塗っても症状が改善しないので,弱い薬は塗る気もせずほとんど使っていない.しかし,先生が処方してくれる薬を断るのも悪いので,家にたくさん置いてある」とのこと.

バリエーションの科学的評価

著者: 松江弘之

ページ範囲:P.133 - P.133

先日外来で,亀頭部,冠状溝に多発する尖圭コンジロームの40歳代男性の患者さんを診察した.患者さんには,通院が必要なことを説明し,液体窒素で多発する尖圭コンジロームの一部に治療を行った.1週間後の再診時には,治療を行っていないところも含めてきれいに治癒し,患者さんに大変感謝された.ご存じのように,尖圭コンジロームは自然治癒がある疾患であり,同様の経験がある先生も多いと思う.患者さんから見ると私は名医に見えたかも(?)しれないが,実はこの患者さんの免疫力がすばらしかっただけである.一方,実験室では,担癌マウスをつくって動物実験をするとき,担癌状態にならずに移植癌細胞が拒絶されるマウスに時に遭遇し,そのマウスには悪いが“どうして拒絶されちゃうの”と頭痛の種となることがある.

 最近,癌治療の現場で,種々の樹状細胞療法の臨床試験が行われている.今のところ,フェーズIIIまで進んでいる臨床試験は少なく,本当にこの治療法が生存期間の延長などに貢献するかの治療効果の評価については,その報告が待たれるところではあるが,劇的に効いた症例も報告されている.もし,その治験が統計学的に有効性が証明されない場合は,その患者さんの癌になぜ効いたかの科学的証明がされない限り,癌は自然消退することがあると片付づけられるかもしれない.それは,街角の易者さんにみてもらって,あなたは “日頃の行いがよいからです”あるいは“先祖の供養を行っているからです”などと言われて,そうかもしれないと思うに等しい.

能登の皮膚疾患

著者: 田邉洋

ページ範囲:P.139 - P.139

落ち着きのない性格が災いし,奉職してからあちこちを渡り歩きました.各地方の風習,食習,生活習慣を体験しましたが,皮膚疾患にも地方色があり,いわばご当地皮膚病とも言うべき疾患がそれぞれの地にありました.今回は石川県で見聞きした皮膚疾患のお話です.

 ①あまめ

 毎年1月2日に能登の門前町に「あまめはげ」という行事があるのを御存知でしょうか.秋田県男鹿地方の「なまはげ」は全国区で有名ですが,その能登版ともいえます.鬼面や天狗面をつけた有志が各家庭を訪問し,「怠け者はおらんかー」と精勤奨励と家内安全を祈る奇習です.その「あまめ」とはerythema ab igneのことで,「あまめはげ」とは北国の冬に暖房具に当たり過ぎて発生する「ひだこ」を鬼が剥離し(あまめを剥ぐ=あまめはげ),不精者を戒めるのが原義です.本家「なまはげ」は「なもみ剥げ」が訛ったもので,「なもみ」も「ひだこ」を指します.

リーディングプロジェクト(オーダーメイド医療)

著者: 森康記

ページ範囲:P.144 - P.144

ついに世界に先駆けて国家的プロジェクトが始動した.それは文部科学省リーディングプロジェクト(個人の遺伝情報に応じた医療のプロジェクト),別名「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」である.これは東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターが中心となり,全国の協力機関より血液サンプルを収集し2008年までに30万人分の解析を予定する,という一大プロジェクトだ.具体的には,患者の同意後に採血し,血液中の遺伝子多型解析,発現情報解析,タンパク解析を行い,さらに国際ハプロタイプ計画への貢献が行われることとなる.対象皮膚疾患は「悪性腫瘍」「アトピー性皮膚炎」「薬疹(特に過敏性症候群)」「ケロイド」だ.私どもの施設は幸運にも協力機関に選定され,職員のなかからメディカルコーディネーターを選抜し,視聴覚教材を備えた特別室で協力患者への説明と同意を得るシステムを作った.他科領域での対象疾患は「糖尿病」「狭心症,心筋梗塞」「関節リウマチ」「花粉症」「骨粗鬆症」などあらゆる疾患を網羅している.

 このプロジェクトは,薬の効果の発現の差,副作用の発現の差は,実は遺伝子が支配しているという知見に基づいている.日本の年間30兆円と言われる医療費のなかで,なんと5兆円が副作用対策に使用されているという事実より,医療コストの削減は現在において重要課題である.今までは画一的に化学療法を施行してきたが,これからは個々の患者に最適の薬剤を提供することが必要である,ということだ.例えば,悪性黒色腫の患者の DAV-Feron療法において,同日にスタートしても汎血球減少症のため1か月入院する人,発熱もなく10日で早々に退院する人など個体の反応は千差万別である.過敏性症候群をみると,同じ薬を服用しても薬疹を起こす人,起こさない人がいて,さらに人によってなぜHHV-6のような弱毒ウイルスを活性化させてしまうのかと,常々疑問に思っているがいまだ明確にされていない.加えてケロイドの発生も,もはや「体質」で片付けられない時代に来ている.

美容医療初心者の心得?

著者: 八木宏明

ページ範囲:P.152 - P.152

これまでどちらかというと美容医療無関心派の一人であった私が,医局の人手不足のあおりを受けてレーザー照射によるシワ取りの臨床試験を行うことになった.本号の中に掲載されているように多くの女性被験者に協力していただいた.被験者のほとんどは30歳代後半~50歳代である.某企業による新成人へのアンケートよると30歳代以上の女性はオバサンと呼んでも差し支えないようであるので,ここからはあえてそう呼ばせていただくことにする.大学の倫理委員会の規定で,被験者をポスターにより公募することになった.やや大きく印字した「無料」という文字が功を奏したのか,問い合わせが殺到した.これが私のオバサン騒動記の始まりであった.ポスターには「対象は顔面のシワ」と明記してあるのにもかかわらず首や手背,極端な例では妊娠線にやってほしいと頼む人がいた.何より妊娠線はシワの一種と考えている女性がいることに驚いた.週末にやってほしいと頼まれるのはやむをえないが,「従業員4人で受けるので,お店に出張して来て欲しい.」とか,いったい何のお店だったのだろう? お化粧を落としてきてもらいますと説明したとたんに,「それでは辞退します.」とか,スッピンはそれほど怖いものでしょうか? 締め切り終了後の申し込みに丁重にお断りしたら「XX先生の紹介なんですが…」とか,公募に紹介なんてあるのでしょうか? 必然的に電話連絡の段階で,ある程度の淘汰がなされて,比較的性格の良い人が残ったような気がしないでもないが…

 実際の試験では,頻繁に比較写真を提示するなどして被験者のモチベーションを維持することに努めた.なかに1名,いわゆるオバサン性格の人がいた.ほかの被験者のシワが改善していくなかでその人はなかなか改善しなかった.性格と改善には相関がある,などと本気で考えていたのであるが,オバサンの執念か最後の段階になって目に見えて改善してきた.ただし,本人は効果に納得がいかない様子で,来院するたびに第一声が「全然良くならない.」であった.最終的な比較検討結果で著明改善であったと説明しても,やはり納得できない様子であった.

診察室でも化粧を落とせない理由

著者: 小林美和

ページ範囲:P.159 - P.159

半年に一度のペースで受診する物静かな女性がいる.目鼻立ちのはっきりした,きれいな人である.半年に一度しか来ないので受診のたびに問診表を書かされているのだが,厚く綴じ重ねられた問診表には毎回,眉の周りが赤い,とだけ記されている.確かに,両眉毛部の周辺に発赤があった.周辺に発赤,というよりむしろ眉毛を中心に眉毛より一回り大きな「まが玉型」の紅斑がみられる.臨床的にはアイブロウ(眉墨)の接触皮膚炎である.カルテを捲ると不特定の男性医師が診察しており,接触皮膚炎,ときに脂漏性皮膚炎の診断で治療されているが,化粧をしているため詳細不明,という趣旨の一言が必ず添えられている.化粧品による接触皮膚炎こそ女医の出番とばかりに,はりきって問診をとり,眉毛染めや眉マスカラ,育毛剤,マスカラ専用のリムーバーを使用していないことを確認した後,アイブロウだけでも一時的に止めてみることを提案した.ところが,絶対にアイブロウは落とせない,眉が薄いので眉を描かずには生活できない,だいいち以前受けた化粧品のパッチテストでは問題ないと前の先生が言ったではないか,と彼女は静かな口調で逆ギレしたのである.私も負けずに,診察のために診察室の中だけでも化粧を落としてくださいとお願いした.しかし,化粧を直す道具がないので今日はできない,とにかくアイブロウは落とせない,と理由をならべ,今日は塗り薬だけくれと言うのだ.結局その日は根負けして某ステロイド軟膏を処方したが,次回は必ず化粧を落として診察を受けるようにと約束して帰した.

 疑惑の眉は,ブラウンのやや太めで,眉頭から目じりよりやや内側の眉山を経て,大きな弧を描いている.いわゆるメークアップアーティストが描いてみせる「お手本眉」なのである.たしかに,眉にこだわる気持ちはよく分かる.しかし,べったりと塗られている様子で,しかも少し流行遅れな色と形であった.

ヘリコバクター・ピロリは皮膚科医にとっても興味津々?

著者: 櫻根幹久

ページ範囲:P.166 - P.166

皮膚科医の私が,ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)という菌に関わって,かれこれ7年が過ぎようとしているが,いまだ迷宮(前教授の松中成浩先生と古川福実先生にそのややこしい迷路を授かった)に入ったまま,なかなか光がさしてこない.もしかしたら,出口はないのかもしれない.もしそうなら,出口の扉がないのだと知りたい.迷って,諦めようとするとどこからか聞こえてくる.何人かの患者さんから,感謝された言葉がどうしても頭から離れない.『胃内視鏡のおかげで早期胃癌がみつかったよ.内科にいくきっかけをつくっていただきありがとう』,『先生,除菌後,皮膚もよくなってきたよ』と手を握られた.やはり医者として患者の笑顔は,心がなごむ.

 ピロリ菌は,胃癌のハイリスク群と考えられているが,この菌が胃癌発生のすべてを規定しているわけではなく,日本に約6000万人いると言われるピロリ菌感染者の危険因子を明らかにしなければならず,皮膚疾患が因子として関連ありかどうか疑問がでた.私達は,内科と協力して,50歳以上の皮膚そう痒症,多形慢性痒疹など全身にそう痒を有する皮膚疾患で,特異H.pylori-IgGが陽性者に同意を得て,胃内視鏡をおこなった.結果,102人中5人(4.9%)に早期胃癌がみつかった.これは,一般的に行われている検診と比べるとかなり高い率になる.そうなると,皮膚疾患と消化器疾患がピロリ菌となんらかのつながりがあるのかと疑ってみたくなる.今のところ,答えは,『わかりません』である.

論文の寄り道

著者: 中西元

ページ範囲:P.174 - P.174

岡山大学に入局し,乾癬を中心とする炎症性角化症に興味を持ち,表皮の角化の異常をきたす疾患の病態を考えるうちに,一度,皮膚角化細胞の分化についての基礎的な研究をしたいと考えるようになりました.周囲の先生方の御尽力で,この3年間ほど臨床と離れ米国ノースカロライナ州にあるNational Institute of Environmental Health ScienceのAnton Jetten博士のもとで基礎研究者として働く機会を得ました.これほどの長い期間,ただ研究をすることに専念したのは私にとって初めての経験であり,また,世界のさまざまな国から来た基礎研究者と一緒に仕事をする機会もはじめてでした.そうしたなかで今までの私の研究への取り組み方についていろいろと考えさせられることもありました.例えば,実際に手を動かして実験をする前に,どのような仮説を考えて,どのような実験をデザインするのが良いのか,どのようなコントロールを用意するのが適切なのかよく考えなければならないということなど,研究者として未熟であった私にとって学ばなければならないことがたくさんありました.同僚であったほかの研究者に比べて,私の論文の読み方がそれぞれの論文について,また,その分野を網羅してなかったという点について,実にいい加減であったと考えさせられたこともありました.自分が研究している分野や興味のある分野で新たに論文が出ていないか検索し,論文を熟読し,新しく報告された事実が自分たちの研究を進めるうえでヒントにならないか,あるいは自分たちの研究と類似して競合していないかなどを日々考えなければならないのは,私にとって初めは大変なことでしたが,次第にそうした作業にも少しずつ慣れてゆきました.

 一年ほどたった頃,ある同僚の研究者が今週は図書室に行けなかった,とぼやいているを聞きました.私のいました研究所はNational Insititutes of Healthの一施設でほとんどすべての雑誌がon-lineで読め,私自身は実際に図書室にいって本物の雑誌を手に取ることがほとんどなくなってました.そういう状況でしたので,どうして図書室に行かなければならなかったのか聞くと,彼はこう答えました.On-lineで,ある範囲の検索した論文やいつもみるjournalばかりを見ているより,時には,見るつもりのなかった雑誌を手にして論文を読むのは新鮮で,予想を超えて,自分の知識を広げることができると思うんだと.10歳も年下で,博士号をとったばかりの研究者でしたが,その持てる知識を増やしたいという好奇心と探求する姿勢に当時感銘を受けました.日本に帰り,寄り道して論文を読むどころか,読むべき論文も読む暇がないほど忙しくなりましたが,時には彼の言葉を思い出して,新しい知識の習得にいつまでも積極的でありたいと考えてます.(〒700-8558 岡山市鹿田町2-5-1)

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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