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文献詳細

雑誌文献

臨床皮膚科58巻5号

2004年04月発行

文献概要

Derm. 2004

診察室でも化粧を落とせない理由

著者: 小林美和1

所属機関: 1産業医科大学医学部皮膚科学教室

ページ範囲:P.159 - P.159

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半年に一度のペースで受診する物静かな女性がいる.目鼻立ちのはっきりした,きれいな人である.半年に一度しか来ないので受診のたびに問診表を書かされているのだが,厚く綴じ重ねられた問診表には毎回,眉の周りが赤い,とだけ記されている.確かに,両眉毛部の周辺に発赤があった.周辺に発赤,というよりむしろ眉毛を中心に眉毛より一回り大きな「まが玉型」の紅斑がみられる.臨床的にはアイブロウ(眉墨)の接触皮膚炎である.カルテを捲ると不特定の男性医師が診察しており,接触皮膚炎,ときに脂漏性皮膚炎の診断で治療されているが,化粧をしているため詳細不明,という趣旨の一言が必ず添えられている.化粧品による接触皮膚炎こそ女医の出番とばかりに,はりきって問診をとり,眉毛染めや眉マスカラ,育毛剤,マスカラ専用のリムーバーを使用していないことを確認した後,アイブロウだけでも一時的に止めてみることを提案した.ところが,絶対にアイブロウは落とせない,眉が薄いので眉を描かずには生活できない,だいいち以前受けた化粧品のパッチテストでは問題ないと前の先生が言ったではないか,と彼女は静かな口調で逆ギレしたのである.私も負けずに,診察のために診察室の中だけでも化粧を落としてくださいとお願いした.しかし,化粧を直す道具がないので今日はできない,とにかくアイブロウは落とせない,と理由をならべ,今日は塗り薬だけくれと言うのだ.結局その日は根負けして某ステロイド軟膏を処方したが,次回は必ず化粧を落として診察を受けるようにと約束して帰した.

 疑惑の眉は,ブラウンのやや太めで,眉頭から目じりよりやや内側の眉山を経て,大きな弧を描いている.いわゆるメークアップアーティストが描いてみせる「お手本眉」なのである.たしかに,眉にこだわる気持ちはよく分かる.しかし,べったりと塗られている様子で,しかも少し流行遅れな色と形であった.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1324

印刷版ISSN:0021-4973

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