文献詳細
文献概要
これすぽんでんす
「皮下脂肪肉芽腫症の1例」を読んで
著者: 滝脇弘嗣1
所属機関: 1徳島大学医学部皮膚科
ページ範囲:P.330 - P.330
文献購入ページに移動村山・湊原論文『皮下脂肪肉芽腫の1例』1)を興味深く拝読しました.筆者はかつて恩師とともにWeber-Christian病(WC)の本邦報告例を集計しましたが,脂肪肉芽腫という病理組織像以外にキーポイントとなる共通点が少ないうえ,さまざまな背景因子や検査異常が混合して,一疾患としてまとまりがないことに気づきました.恩師は「WCは独立疾患でなく,さまざまな原因による反応性皮膚病変の1つである」と碣破されました2).欧米での「脂肪織炎」研究の流れでも,RookやFitzpatrickの教本ではWCの診断名を便宜的に残していますが独立性は認めておらず,最近の総説3)やシンポジウム4)になると,WCやRothman-Makai症候群(RM)は誤ったカテゴリーとして削除されております.また,かつてWCと診断されていた30例を再検討したところ,結節性紅斑(EN)が多く,その他も原因不明の脂肪織炎ではなかったとの報告もあります5).
村山・湊原論文では,全身に多発した皮下結節の組織像と,全身症状の欠如,ASO値の上昇から,この症例を溶連菌感染を契機とした皮下脂肪肉芽腫(RM)と診断しています.付図をみると軽度のlobular panniculitisがありますが,同時に軽い細胞浸潤を伴った小葉間結合織の線維化・肥厚という,晩期のseptal panniculitisを示唆する所見も明瞭にみられます.再燃時の臨床的特徴はENと一致しているようですし,好中球浸潤が小葉内にみられたという組織所見も,上述の論文5)ではむしろENの急性期所見として提示されています.筆者の経験でも,septal panniculitisを主所見とするが,小葉内にも部分的な脂肪細胞の壊死や細胞浸潤を伴うENは決してまれではありません.ENの1割にlipophagiaがみられるとの指摘もあります5).ENは上肢や軀幹,まれには顔面に生ずることもあり3),溶連菌感染が誘因として有名なこと3)から考えても,この症例はENと診断できるのではないでしょうか.たとえ「RM」であったとしても,近年の脂肪織炎の分類や,WC・RMの診断名(独立性)の是非に対する著者の考えを提示せず,20年前に書かれた総説を引用してWCとRMの関係を語るだけ,というのは2004年の症例報告としてはいかがなものでしょうか.同月号の編集後記によると,編集委員3名で1論文を査読する,とのことですが,委員の間でそのような議論がなかったのかと不思議に思い,投稿させていただきました.
村山・湊原論文では,全身に多発した皮下結節の組織像と,全身症状の欠如,ASO値の上昇から,この症例を溶連菌感染を契機とした皮下脂肪肉芽腫(RM)と診断しています.付図をみると軽度のlobular panniculitisがありますが,同時に軽い細胞浸潤を伴った小葉間結合織の線維化・肥厚という,晩期のseptal panniculitisを示唆する所見も明瞭にみられます.再燃時の臨床的特徴はENと一致しているようですし,好中球浸潤が小葉内にみられたという組織所見も,上述の論文5)ではむしろENの急性期所見として提示されています.筆者の経験でも,septal panniculitisを主所見とするが,小葉内にも部分的な脂肪細胞の壊死や細胞浸潤を伴うENは決してまれではありません.ENの1割にlipophagiaがみられるとの指摘もあります5).ENは上肢や軀幹,まれには顔面に生ずることもあり3),溶連菌感染が誘因として有名なこと3)から考えても,この症例はENと診断できるのではないでしょうか.たとえ「RM」であったとしても,近年の脂肪織炎の分類や,WC・RMの診断名(独立性)の是非に対する著者の考えを提示せず,20年前に書かれた総説を引用してWCとRMの関係を語るだけ,というのは2004年の症例報告としてはいかがなものでしょうか.同月号の編集後記によると,編集委員3名で1論文を査読する,とのことですが,委員の間でそのような議論がなかったのかと不思議に思い,投稿させていただきました.
掲載誌情報