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文献詳細

雑誌文献

臨床皮膚科59巻5号

2005年04月発行

Derm.2005

患者さんの涙

著者: 植木理恵1

所属機関: 1順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター皮膚科

ページ範囲:P.92 - P.92

文献概要

順天堂医院で脱毛症外来を長らく担当していますが,診察中に患者さんに泣かれてしまうことがあります.完治して手を取り合って泣いてしまったこともありますが,全頭型・汎発型で義髪(かつら)が不要なくらい良くなってきたところで再発してしまったとき,何年も熱心に通院しているのに何回も繰り返してしまい,治療することに疲れてしまったときなど,自分の力のなさ(治療技量や円形脱毛症の発症機序の解明に尽くしていない点など)を強く感じつつ,患者さんを慰め,それでも治療する意欲や,円形脱毛症を患っているからといって,何ら社会的に劣るようなことはないと励ましたりします.実は,初診の患者さんが問診中に涙があふれてきてしまうことが一番多いのです.脱毛症が激しく,今後どうなるのか不安が強く思いつめていることもありますが,結構患者さん方から「皮膚科に行ったが,ストレスのせいだからあきらめなさいといわれ,私が悪いようにいわれた」,「いきなり治らないといわれ,2回目からは頭も診てくれない」,「他の患者さんがいるところで処置された」とか,また幼児の患者さんの母親からは,「あなたの性格,しつけが悪いから,子どもが円形脱毛症になるんだ,と医師や看護師から怒られた」などと訴えがあります.診療する側の思いやりや円形脱毛症への理解が不足していることから,患者さんやご家族の不安が増したり,憤りが生じるようです.ですから私から,「今までどんな治療を受けたことがあるのですか?」とごく普通に問われたときに,さまざまなことが思い出され,涙が込み上げてしまうようです.治療に難渋することも多い疾患ですが,皮膚科医のほうから患者さんを拒絶してはいけないと思っています.

 円形脱毛症はまれではない難治性疾患ですが,隠す方法がないわけではありません.だからといって,隠せばいいじゃないの,と診療中に安易に思わないでください.長年,義髪をつけ普通に生活している方でも,「お棺に入ったときにかつらが取れてしまったらどうしようと心配なんです」と笑顔の老婦人など,治りたいと強く願っています.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1324

印刷版ISSN:0021-4973

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