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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科59巻6号

2005年05月発行

雑誌目次

連載

Dermoscopy Specialistへの道Q&A(第14回)

著者: 斎田俊明 ,   古賀弘志

ページ範囲:P.469 - P.471

Qどんなダーモスコピー所見が認められますか?

診断は何でしょう

臨床情報

 70歳,男性.2年前,右足外側に紅色の小結節が生じているのに気づいた.その後,徐々に増大してきた.

 初診時,右足外側縁部に,大きさ27×24×6mmの有茎性の暗紅色結節が認められた(図2).表面は乳頭状を呈し,弾性やや軟に触知する.

アメリカで皮膚科医になって(2)―From Japan to America:American Life as a Physician-Scientist

著者: 藤田真由美

ページ範囲:P.576 - P.577

大学職員(Faculty)

 レジデントやフェローを終えて大学に正式な職員として採用されるとファカルティ(faculty)と呼ばれる身分になる.この中にはAssistant Professor, Associate Professor, Professor, Chairmanすべてが含まれる.このファカルティ同士は,日本のような上下関係はなく,Chairmanを除くとすべて同等の身分である.私のように職員になって数年以内の人はAssistant Professor,5~8年で審査に通ればAssociate Professor,さらに5~8年で次の審査に通ればProfessorと呼ばれる.Chairmanは教室の代表のようなもので,臨床,研究を含めて教室全体の運営にかかわる.これらのファカルティは皮膚科のような臨床の科ではさらにphysician-educator(MDを持ち,臨床をしながら学生,レジデントの講義を受け持つ), physician-scientist(MDやMD/PhDを持ち,臨床をして講義を受け持ちながら,さらに研究もする), researcher(PhDを持ち研究のみをする)の3つのトラックに分けられ,雇用時の条件(給料や仕事内容)や雇用後の審査の基準も異なる.現在,コロラド大学皮膚科では,physician-educatorが9人,physician-scientistが7人(私も含めて),researcherが4人であるが,さらに来月からresearcherが2人増える予定である.このようにアメリカの医学部の構成は,学生,研修生(レジデント/フェロー),ファカルティ,ディーン(医学部長)と比較的簡単であるが,それが故に研修生(レジデント/フェロー)とファカルティの間のギャップは大きい.私も自分がファカルティになるまでは,こんなに違うとは認識していなかった.給料はもちろん何倍にもはね上がるし,仕事の内容も責任も全く異なるのである.

 アメリカでは,前回にも述べたように大学の教室が教室員の面倒を見ることはないので,ファカルティとしての生活は独立と自由がある代わりに責任と重圧も大きい.ファカルティ同士は上下関係のない横並びの同業者なので,入りたてのAssistant Professorであろうが長年大学にいる有名教授だろうが,お互い一国一城の主であることに変わりはない.自分の采配で収入(外来診察,グラント,ラボ立ち上げ金など)と支出(自分の給料,人件費,学会費,実験費など)のすべてを管理する.さらに,外来診察の回数(週1~5日),種類(一般外来,専門外来の種類),患者数(自分の外来開始時間,終了時間,予約患者の数と予約の入れ方),実験室のプロジェクトと実験室の規模などをすべて自分勝手に(まさに自分で何をしてもいいのである)決めないといけないので,自分の能力が把握できていない初期の頃は正直言ってとまどった.すべてが決まっている「おまかせコース」もつまらないかもしれないが,全部自分で細部にわたって決めるのも骨が折れるものである.また,給料も身分や年齢によって一定の金額が提示されるわけではなく,個人の能力や可能性(どれだけお金を稼げるか)によってだいたいの値段が見積もられ,雇用時の交渉によって最終的に金額が決定される.いったん金額が決まると大学から勝手に給料が支給されるなどという甘いことはなく,その額を自分で稼がないといけない仕組みになっている.稼ぐといっても私たち医師にできることは患者さんを診るか,グラント(研究費)を取ってくるかである.外来診察による収入もまた医師全員一律ではなく,実際に診療で得た収入から病院の場所代を差し引いたものが自分の給料に入ってくる.月末になると,大学病院から自分の外来の収支報告(個々の患者の名前,保険会社の種類,診療内容,請求金額,収集金額,病院に払われた額,給料に入った額など)が送られてきて,給料に入る金額の少なさに愕然とする.いわば私たちファカルティは大学病院の一室を借りて開業しているようなものである.週に3日ほど外来をするか,それより少なくても皮膚外科医のように手術をしたり美容皮膚科医のように処置をするとあっという間に自分の給料をカバーするだけ稼ぐことができるのであるが,私のように週1日(研究の時間を十分にとるために外来は週1日だけと決めた),しかもあまり儲からない皮膚内科外来をしている人は,給料のかなり部分を他から稼がないといけない.私の場合,まだラボの立ち上げ金が残っていて,グラントも取れだしたところであるが,研究のグラントが取れなくなったり少なくなると,その分外来を増やしたりお金の儲かる処置を増やしたり(急にレーザー外来をしたりする)して食いつなぐというのは,ざらにある話である.また,医療をしない研究だけのラボでは,まさに金の切れ目が縁の切れ目で,ある日突然人員削減やラボ自体の消滅などということが起こる.これと対照的なのが,自分の定めた給料以上を容易に稼ぐ皮膚外科医や皮膚病理医などで,余った金額から教室費を差し引いた金額がボーナスとして年に2回支給される.まさに実力主義のアメリカである.

原著

表皮に異型性のある角化細胞が出現する良性疾患の病理組織学的検討―縁取りサイン

著者: 村澤章子 ,   木村鉄宣

ページ範囲:P.473 - P.476

要約

 ウイルス性疣贅,尋常性乾癬,慢性単純性苔癬,結節性痒疹,扁平苔癬,再生上皮(潰瘍や水疱性疾患などに伴う)では,病理組織標本上,表皮基底層1層あるいは基底層とその上2~3層にわたり,角化細胞がクロマチンに富み,密に配列する所見がみられ,顕微鏡弱拡大像では,これらの細胞が表皮を縁取り,囲んでいるようにみえる.われわれはこの所見を縁取りサイン(frame sign)と命名した.縁取りサインは,表皮の角化細胞の増殖・分裂が亢進しているために出現する所見である,とわれわれは推測している.病理組織診断上,縁取りサインを呈する良性腫瘍や炎症性疾患を認識しておくことは,特に悪性腫瘍との鑑別に重要である.

今月の症例

石油ベンジンによる化学熱傷の1例

著者: 米澤理雄 ,   服部ゆかり

ページ範囲:P.477 - P.479

要約

 72歳,女性.ペースメーカーの電池交換術施行後,左腋窩に疼痛を伴う境界明瞭な紅斑びらん局面を形成した.皮疹部は術前に石油ベンジンで脱脂,70%エタノール清拭,イソジン消毒されていた.消毒開始後数分ののちに左腋窩に限局した疼痛が出現していたため,使用された消毒薬による化学熱傷を疑い,石油ベンジン,70%エタノール,イソジンの貼布テストを施行した.石油ベンジン10分間の貼布にて疼痛と24時間後の紅斑びらん局面の形成が認められた.よって腋窩に流入した石油ベンジンが揮発せずに貯留したために起きた化学熱傷と考えた.健常人で同様のパッチテストを行ったところ,10分間の接触にて紅斑,びらん局面を形成した.

HHV-8の感染を確認しえたHIV陰性古典型Kaposi肉腫の1例

著者: 水野万利子 ,   村松重典 ,   池嶋文子 ,   池田志斈

ページ範囲:P.480 - P.483

要約

 83歳,男性.神奈川県出身.初診の約3年前,左足背に紫紅色斑が出現した.同部位の一部が徐々に隆起してきた.初診時,左下腿から足背に境界明瞭な紫紅色斑が散在し,一部は隆起し,局面および腫瘤を形成していた.病理組織所見では真皮内に腫瘍細胞巣がみられ,腫瘍を形成する細胞は紡錘型であった.腫瘍細胞巣内は多数の血管腔と裂隙が認められた.免疫組織学的染色としてfactorⅧとCD34を施行した.いずれもKaposi肉腫の所見に一致した.患者の病変部組織および血液サンプルよりDNAを抽出し,PCR法を施行したところ208bpにバンドが検出された.このバンドに対してシークエンスを検討したところ,HHV-8の塩基配列に一致した.患者は治療を拒否したため,治療は施行できなかった.初診より3年後の再診時,右下肢へ病変が拡大していた.その後も患者は治療を望まず,2004年8月現在,Kaposi肉腫は両上肢,体幹へも拡大している.

症例報告

BCG接種後に生じた壊疽性丘疹状結核疹の1例

著者: 山本純照 ,   宮川幸子

ページ範囲:P.484 - P.486

要約

 6か月,女児.2003年7月14日にツベルクリン反応を施行され,陰性のため7月16日にBCGを接種された.8月15日頃から接種部位に発赤,腫脹が生じ,以後四肢伸側,下顎部にも頂点に膿疱を伴う紅色丘疹が多発した.右上腕の褐色痂皮を伴う紅色丘疹から生検し,表皮から真皮上層の楔状の変性壊死,真皮中層の乾酪壊死およびLanghans型巨細胞を認めた.Ziehl-Neelsen染色では好酸菌は陰性であった.また,生検した組織を用いた培養検査では結核菌の発育は認めず,PCR法による結核菌DNAの検出も行ったが陰性であった.ツベルクリン反応は10×12/17×19と陽性であった.以上より自験例をBCG接種後に生じた壊疽性丘疹状結核疹と診断し,投薬せずに経過を観察した.初診から約6週間で軽度の瘢痕を残して治癒した.

指輪装着部位に一致して2か所に相次いで生じた手白癬の1例

著者: 重枝明子 ,   繁益弘志 ,   原田敬之

ページ範囲:P.487 - P.489

要約

 64歳,女性.左環指の18金製指輪装着部位に一致して生じたそう痒を伴う皮疹に気づいたため,数日後,右環指にその指輪をはめ換えたところ同様の皮疹が出現した.初診時,左環指基節骨部背面に,境界明瞭で,落屑を伴う紅斑が認められ,その辺縁には小水疱も混在していた.右環指基節骨部にはその腹側にやや軽症ながらほぼ同様の皮疹が認められた.パーカーインク加苛性カリを用いた直接鏡検法にて,両側環指の鱗屑よりそれぞれ分節胞子と菌糸が検出され,培養によりいずれもTrichophyton rubrumと同定した.皮疹は抗アレルギー薬内服と塩酸ネチコナゾール軟膏外用にて約2週間で鏡検・培養ともに陰性化し,約2か月で臨床的にも治癒した.自験例における手白癬発症過程について若干の考察を行った.

旋尾線虫幼虫Type-Xによるcreeping eruptionの1例

著者: 川瀬正昭 ,   赤尾信明 ,   名和行文 ,   影井昇 ,   渡辺直熙 ,   新村眞人

ページ範囲:P.490 - P.493

要約

 77歳,女性.1999年6月25日,左膝蓋にそう痒を伴う紅色小丘疹を生じた.同丘疹が左大腿へ蛇行しながら移動した後,再び左下腿へ下行し線状紅斑を形成した.7月6日に当科を受診し生検を行ったが虫体をとらえられず,さらに左下腿から左膝蓋を経由して左足背に移動して同部に5日間停滞した.その先端の浸潤の触れる紅色丘疹を7月25日に生検した.患者は1999年3月に生ホタルイカを摂食していた.病理組織像で真皮浅層に虫体断面がみられ,その形態学的特徴により旋尾線虫幼虫Type-Xと同定した.旋尾線虫幼虫の切片を用いた蛍光抗体間接法で抗体は陰性であったが,食道腺質部に加え筋組織に対しても陽性が認められた他の患者血清を用いての酵素抗体法(IgG)では陽性であった.また,ドロレス顎口虫抽出抗原を用いたmicroplate ELISA法にてIgG抗体の陽性所見を得た.

リン酸オセルタミビルとイミペネム使用後に生じた多形紅斑型薬疹

著者: 三谷直子 ,   山田正子 ,   相原道子 ,   池澤善郎

ページ範囲:P.494 - P.496

要約

 67歳,女性.B型インフルエンザと診断され,リン酸オセルタミビル(タミフル (R))を5日間内服,イミペネム(チエナム (R))を8日間点滴静注された.リン酸オセルタミビル終了2日後から痒みを伴う多形紅斑型中毒疹が出現し,抗アレルギー薬内服とステロイド薬外用にて約10日で軽快した.リン酸オセルタミビルに対するスクラッチパッチテストは陽性であったが非特異反応を疑った.リンパ球幼若化試験は303%と陽性であった.イミペネムに対する検査は行うことができなかったが,オセルタミビルによる薬疹を強く疑った.

Ashy dermatosisの1例

著者: 青木重威 ,   羽尾貴子 ,   鎌田英明

ページ範囲:P.497 - P.499

要約

 8歳,男児.初診の約2年前から四肢を主体に色素斑が出現していた.徐々に数が増加したため当科を受診した.薬剤の内服を含め誘因はない.四肢を主体に小豆大から爪甲大の不整形で平坦な灰青色の色素斑を認め,病理組織所見では基底層にメラニン色素の増強と,その一部に液状変性を呈し,表皮内に多数のリンパ球が浸潤していた.真皮上層では小円形細胞を主体とする稠密な細胞浸潤を認めた.臨床所見と組織像よりashy dermatosisと診断した.特に治療は行わずに経過観察していたところ,初診より約4年後に一部を残して自然消褪した.色素性扁平苔癬との鑑別に苦慮した.

持久性隆起性紅斑の1例

著者: 堀和彦 ,   浦野和民 ,   上出良一

ページ範囲:P.500 - P.502

要約

 48歳,男性.初診の1年前より四肢伸側,臀部に自覚症状のない紅斑が出現し徐々に拡大した.近医でステロイド内服,外用にて治療されたが,寛解と増悪を繰り返していた.初診時,臀部,下腿に自覚症状のない浸潤を触れる融合性の紅斑,出血性の局面を認め,色素沈着,血疱も混在していた.また,肘頭,膝蓋にこうい浸潤を触れる局面があり,一部結節を認めた.関節症状,眼症状などはなかった.病理組織像にて真皮乳頭層に高度の浮腫,真皮全層にわたる核破壊を伴った好中球の浸潤,赤血球の血管外漏出を認めた.蛍光抗体直接法は陰性であった.持久性隆起性紅斑と診断し,diaminodiphenyl sulfone(DDS)75mg/日より開始し,皮疹は著明に改善した.

ハーブ類摂取の関与が示唆されたgeneralized morphea-like systemic sclerosisの1例

著者: 浅野祐介 ,   水川良子 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.503 - P.506

要約

 36歳,男性.関節痛に続発して頬部,軀幹,四肢にびまん性の色素沈着と境界明瞭な皮膚こう化局面が出現した.組織学的所見では真皮膠原線維の増生と結節状膨化が確認され,generalized morphea-like systemic sclerosisと診断した.有機溶媒曝露歴は明らかではなかったが,発症1か月前から当院入院までの約半年間,5種類のハーブを含む健康食品を摂取しており,関連性が示唆された.健康食品のハーブそのもの,あるいはそれに含まれる不純物によって,肺・腎臓の線維化が生じることが知られており,皮膚でもこうした線維化が起こりうると考えられた.

新生児皮下脂肪壊死症の1例

著者: 芳賀貴裕 ,   奥山隆平 ,   松永純 ,   相場節也

ページ範囲:P.507 - P.508

要約

 生後5日目の男児.吸引分娩により出生した.生後5日目に背部の紅斑に気づき,当科を受診した.初診時,背部の中央よりやや右側に,波動を触れる紅斑を認めた.5日間抗生剤を投与したが,反応しないため生検し,皮下脂肪の壊死と異物反応の像を認め,新生児皮下脂肪壊死症と診断した.生検の際に,淡黄白色の泥状内容物を十分に排出し,皮疹は1週間と比較的早期に治癒した.

小児腹壁遠心性脂肪萎縮症の1例

著者: 松本万里絵 ,   永井弥生 ,   遠藤雪恵 ,   大西一徳 ,   石川治

ページ範囲:P.509 - P.511

要約

 24歳,女性.生後間もない頃より右臀部に陥凹病変があり,9歳頃まで拡大した.以後変化がなかったが,初診5か月前よりひきつれる感じを自覚し,当科を受診した.初診時,右臀部から大腿に境界明瞭な皮膚の陥凹を伴う淡紅色斑があり,陥凹部の生検組織像では脂肪小葉の萎縮,減少がみられた.無治療で経過観察中である.本症は通常小児期に発症し,成人までには軽快,治癒する疾患である.自験例が成人期になって自覚症状を生じた原因は不明であるが,組織学的にも炎症細胞浸潤はみられず,進行は停止した状態であり,非可逆的な病変を残したと思われた.本邦報告例について,文献的考察を加え報告した.

Diaper area granuloma of the agedの1例

著者: 河田守弘 ,   小林美幸 ,   玉田康彦 ,   松本義也 ,   高間弘道

ページ範囲:P.512 - P.514

要約

 73歳,男性.低酸素脳症,四肢麻痺にて寝たきり状態で,おむつを使用しており,下痢を繰り返していた.1年前より肛囲に皮疹を認め,ステロイド薬の外用を行ったが軽快しなかった.肛囲に米粒大までの紅色扁平丘疹が敷石状に集簇して認められ,同部位の生検組織像では表皮の肥厚,軽度の細胞間浮腫,真皮のリンパ球,組織球の浸潤を認めた.以上よりdiaper area granuloma of the agedと診断した.病変部の清潔に留意したところ皮疹は速やかに軽快した.

肝動脈塞栓術によって生じた慢性放射線皮膚炎

著者: 小林麻衣子 ,   原弘之 ,   鈴木啓之

ページ範囲:P.515 - P.517

要約

 43歳,男性.肝細胞癌にて肝右葉切除術施行前後に,腫瘍部および再発部に対して通算7回にわたり肝動脈造影と肝動脈塞栓術(TAE)を施行した.6回目の施行後から約1か月経て背部にそう痒を伴う皮疹が出現.皮疹出現より1か月後の初診時には脱色素斑や紅斑が混在する境界明瞭な長方形の紅褐色斑を認め,X線照射部に一致した皮疹からTAE後に生じた放射線皮膚炎と診断した.

炎症性腸疾患に伴った壊疽性膿皮症の3例

著者: 桜井直樹 ,   マーギットニンデル ,   鳥居秀嗣

ページ範囲:P.518 - P.521

要約

 炎症性腸疾患に伴う壊疽性膿皮症を3例経験した.症例1:45歳,女性.潰瘍性大腸炎にて加療中であった.四肢・軀幹に手掌大を超える潰瘍が多発した.ステロイドおよびミノマイシン内服にて改善した.症例2:35歳,女性.潰瘍性大腸炎にて加療中であった.四肢・軀幹に鶏卵大までの有痛性紅斑が多発した.ステロイド増量にて軽快した.症例3:25歳,男性.Crohn病にて加療中であった.両大腿部・ストマ周囲に膿疱・びらんが出現した.ステロイド外用にて軽快した.炎症性腸疾患に伴った壊疽性膿皮症について若干の文献的考察を含めて報告する.

臀部慢性膿皮症に合併した多発性有棘細胞癌の1例

著者: 谷村心太郎 ,   加藤直子 ,   田村あゆみ ,   山中快子 ,   近藤雅嗣 ,   皆川英彦 ,   中村凖之助

ページ範囲:P.522 - P.524

要約

 47歳,男性.20歳頃から両側臀部の囊腫様病変に細菌感染と排膿を繰り返していた.初診の3か月前から仙骨部皮膚に腫瘍が出現し,急速に増大したため当科を受診した.初診時,両側臀部から肛囲の皮膚に隆起性でこうい囊腫様構造と多数の切開瘢痕などを認め,仙骨部右側にカリフラワー様腫瘤と,仙骨部左側に中央が潰瘍化する丘疹を認めた.組織学的に有棘細胞癌と診断し,仙骨部の腫瘍と丘疹,両側臀部の膿皮症およびその瘢痕部分を含めて根治手術を行った.

34歳時に発症した基底細胞癌の1例―若年発症例の検討

著者: 吉田隆洋 ,   大塚勤 ,   鶴見純也 ,   鈴木利宏 ,   籏持淳 ,   山﨑雙次 ,   斉藤浩

ページ範囲:P.525 - P.527

要約

 38歳,女性,主婦.21歳から9年間,屋外勤務の多い保育士として勤務していた.初診の4年前より,左鼻翼部に直径約2mmの自覚症状のない黒色斑に気づいたが放置していた.以後徐々に増大したため近医を受診,当科を紹介された.臨床的に基底細胞癌を疑い,組織学的所見により基底細胞癌と診断した.基底細胞癌の発生母地となる遺伝性あるいは先天性疾患はなかった.治療として拡大切除術を行った.術後3か月の現在,再発は認めていない.当科における過去10年間の症例と,過去の報告例をもとに,基底細胞癌の発症年齢と発生部位について検討した.その結果,40歳未満での発症が比較的まれであること,発症年齢にかかわらず顔面への発生が多いことがわかった.

Malignant spiradenomaの1例

著者: 田村あゆみ ,   加藤直子 ,   谷村心太郎 ,   山中快子

ページ範囲:P.528 - P.531

要約

 67歳,男性.5年前から出現した前胸部の多発性のspiradenomaの一部から,malignant spiradenomaを発生した.組織学的に真皮から皮下脂肪織内に結合織被膜に囲まれた大葉状,小葉状,索状,管状構造などを形成する多彩な上皮性腫瘍胞巣の増殖を認めた.一部には壊死と多数の核異型や核分裂像を認めた.本邦報告15例を詳細に検討し,多発型は単発型に比べて転移率が高いことが判明した.そのためmalignant spiradenomaの母地となるspiradenomaも,多発型の場合には積極的な全摘出術が望ましいと考えられた.

背部弾性線維腫の1例

著者: 石渕裕久 ,   田村敦志 ,   青山久美 ,   岡田悦子 ,   石川治

ページ範囲:P.532 - P.535

要約

 63歳,女性.4年前に背部痛が出現し,初診の2か月前に右上背部の腫瘤に気づいた.臨床像とMRIの所見より背部弾性線維腫と診断し,摘出した.腫瘤は組織学的に細胞成分に乏しい線維性結合織と,これに混在する脂肪織からなり,elastica van Gieson染色で線維性結合織内に小球状,ないし紐状物質が黒褐色に染出された.本症は日本人,特に沖縄地方での報告例が多く,比較的まれな疾患である.

背部皮下に生じたelastofibromaの1例

著者: 日向麻耶 ,   尾藤利憲 ,   高井利浩 ,   上田正登 ,   錦織千佳子

ページ範囲:P.536 - P.539

要約

 46歳,男性.約2年前,右肩甲骨下方の皮下腫瘤に気づいた.腫瘤は徐々に増大し,作業時に違和感を感じるようになったため,当科を受診した.部分生検では診断確定に至らず,MRIを施行し,elastofibromaが疑われた.外科的に切除し,病理学的にelastofibromaと診断された.本症は,過去に特定地域での集中発生,家族性発症などの報告がなされているが,皮膚科領域での報告は少なく,その本態についても不明な点が多い.今回,本例における診断,治療について最近5年間の報告例を詳細に検討し,文献的考察を加えて報告する.

洞機能不全症候群および網膜色素線条を伴った弾力線維性仮性黄色腫の1例

著者: 山本純照 ,   宮川幸子

ページ範囲:P.540 - P.542

要約

 60歳,女性.2002年2月に洞機能不全症候群のためペースメーカーを留置している.小児期から両側頸部に半米粒大までの黄白色丘疹が集簇性に生じ以後拡大した.50歳台には両側腋窩にも同様の皮疹が出現した.皮疹の病理組織学的所見では,真皮中層から深層にかけて糸くず状に断裂した線維を認め,elastica van Gieson染色で茶褐色に,von Kossa染色で顆粒状黒色調を示す石灰沈着を認めた.臨床像および病理組織学的所見から弾力線維性仮性黄色腫と考えた.全身検索の結果,眼底検査にて網膜色素線条を認めた.両側の橈骨動脈は触知しなかった.以上より心血管病変および眼病変を伴う弾力線維性仮性黄色腫と診断した.家族内に同症を認めない.

Multiple miliary osteomas of the faceの1例

著者: 宮川真輝 ,   内山麻理子 ,   中島静香 ,   繁益弘志 ,   原田敬之 ,   西本明

ページ範囲:P.543 - P.545

要約

 62歳,女性.約5年前より左頬部に常色小丘疹が出現し,徐々に多発し,右頬部にも認められるようになったため,2003年7月3日に当科を受診した.家族歴は特になく,うつ状態にて通院加療中であった.来院時,両頬部に半米粒大の常色丘疹が多発し,ときどきそう痒感がある.CTでは,両側頬部の皮膚に骨化病変と考えられるhigh density areasを多数認めた.超音波検査では,acoustic shadowを伴う石灰化と同じ輝度の小結節を認めた.血清カルシウム,リンは正常範囲であった.左右頬部の常色丘疹をそれぞれ生検した.病理組織学的には左右ともに,真皮浅層から下層にかけて脂肪髄を伴った類円形の骨様構造が認められた.若干の文献的考察を行った.

肝こう変に合併したarteriovenous hemangiomaの2例

著者: 松永亜紀子 ,   鄭柄貴 ,   高井利浩 ,   上田正登 ,   錦織千佳子

ページ範囲:P.546 - P.549

要約

 肝こう変に合併したarteriovenous hemangioma (AVH)の2例を経験した.症例1は56歳,男性.右眉毛内側に拍動を触れる紅色腫瘤を認めた.組織所見で動脈様血管と静脈様血管からなる腫瘍塊を認めた.既往にアルコール性肝炎があり,精査の結果,肝こう変を合併していた.症例2は65歳,男性.左内眼角部に紅色腫瘤を認めた.肝機能障害があり,C型肝炎からの肝こう変を指摘されている.肝こう変とAVHの関連について文献的に考察した.

外傷性浅側頭動脈瘤の1例

著者: 岩下みゆき ,   二宮嘉治 ,   大倉隆昭 ,   堀之薗弘 ,   矢口均 ,   松熊晋 ,   早稲田豊美

ページ範囲:P.550 - P.552

要約

 52歳,男性.初診3か月前に木の棒で左側頭部を殴られ,その1か月後,皮下腫瘤が出現し,増大したため自衛隊中央病院を受診した.受診時,左側頭部に拇指頭大の拍動を触れる腫瘤を認め,動脈造影にて左浅側頭動脈前枝の動脈瘤と診断した.病理組織学的には動脈瘤内に血栓を認め,壁の内弾性板が消失しており仮性動脈瘤であった.本邦皮膚科領域における浅側頭動脈瘤の報告例は12例であり,男女比は9:3,平均発症年齢は35歳,外傷の既往がある症例は73%,仮性動脈瘤は81%であった.浅側頭動脈はまれに頭蓋内の動脈や眼動脈の側副路になっていることがあるので,確認のためには動脈造影が必要であり,動脈瘤を摘出する際はいつでも開頭できるよう準備したほうがよいと思われる.

色素性乾皮症バリアントの2例

著者: 金親香子 ,   宇谷厚志 ,   中村康博 ,   小林孝志 ,   新海浤 ,   森脇真一

ページ範囲:P.553 - P.555

要約

 症例1:69歳,男性.顔面多発皮膚腫瘍で受診した.症例2:90歳,女性.露光部皮膚腫瘍で受診した.2例とも,小児期より露光部に褐色色素斑を多数認め,光線テストでは最小紅斑量は正常で,培養皮膚線維芽細胞を用いた不定期DNA合成能および紫外線感受性試験も正常であった.症例2でカフェイン添加後の紫外線感受性の増強を認め,色素性乾皮症バリアントと診断した.症例1では感受性増強はなく,色素性乾皮症バリアント疑診例と診断した.わが国では色素性乾皮症においてバリアントは2番目に頻度が高く,また皮膚悪性腫瘍の発生頻度も高い.しかし,色素性乾皮症バリアントは光線過敏が明らかではなく,学童期以降に多発する茶褐色色素斑で来院する.そのため本疾患を念頭においての早期診断が重要である.

臨床研究

市中獲得型MRSA感染症―家族内伝播と鼻腔内保菌について

著者: 義澤雄介 ,   小坂素子 ,   川名誠司

ページ範囲:P.559 - P.562

要約

 近年,健常人(特に小児)に感染症を起こす市中獲得型MRSA(CA-MRSA)感染症が増加し,問題となっている.われわれは2003年夏季にCA-MRSA感染(伝染性膿痂疹,SSSS)を発症した患者と,その家族内における感染状況,および治療後の鼻腔内保菌について検討した(3家族,患者5例を含め合計10例).その結果,たとえ感受性がある抗菌薬で治療されていても,内服投与ではMRSAの鼻腔内保菌の解決に至らず,再発を予防できないことが推察された.また,家族内におけるMRSA感染が経時的に連鎖していることが観察され,家族内での伝播の可能性が考えられた.CA-MRSA感染患者を診た場合,患者本人だけでなく,同居している家人も治療の対象とし,特に治療後には無症候性の家人を含め全員の鼻腔内保菌を確認し,保菌者には適切な鼻腔内処置や含嗽指導を行うことが必要と考えられた.

治療

歯科用電動注射器を用いて無痛麻酔を試みた小児口腔内粘液囊腫の1例

著者: 文森健明 ,   中野俊二 ,   中野拓 ,   右田博文 ,   橋本隆

ページ範囲:P.564 - P.567

要約

 10歳,女児.初診の2週間前に右下口唇粘膜側の結節に気づいた.漸増したため当院を受診した.口唇粘膜部にドーム状に隆起した径7mmの柔らかい腫瘤を認め,典型的な口唇粘液囊腫と診断した.治療には炭酸ガスレーザーメスを用い,切除後7日目に略治した.切除時,麻酔を含めてできうる限り無痛となるよう外用麻酔と歯科用電動注射器による浸潤麻酔を併用した.初めに前処置の歯科用表面麻酔薬,安息香酸エチル(ハリケーン (R))を2分間注射部位に外用塗布した.さらに,歯科用2%リドカイン(8万倍エピネフリン含有)カートリッジと33G極細針装着の電動注射器で麻痺粘膜部から浸潤麻酔を行った.電動注射器の薬液流入速度は極めて緩徐であるため,手圧に比べ組織内圧を急速に上昇させず,注入時の痛みが軽減できる.また,組織間に十分浸潤するため,少量の薬液量で広範囲の麻酔が可能となり,安全性が高い.痛みをほとんどあるいは軽度しか感じさせない局所麻酔は,安定した手術への導入面からも有益な方法と考えた.

天疱瘡の口腔粘膜病変に対するシクロスポリン内用液による含嗽の有効性

著者: 越後岳士 ,   稲沖真 ,   竹原和彦

ページ範囲:P.568 - P.572

要約

 症例1:58歳,女性.胸腺腫を合併した腫瘍随伴性天疱瘡.口腔粘膜病変はプレドニゾロン内服に抵抗性で,胸腺腫に対する化学療法により肺炎を併発していたため,シクロスポリン内用液(cyclosporine oral solution:CyA-OS)による含嗽を併用し粘膜病変は改善した.症例2:70歳,男性.マントル細胞リンパ腫(MCL)を合併した尋常性天疱瘡.MCLに対するrituximab-CHOP療法と皮膚・粘膜へのステロイド外用にていったん改善していたが,MCLの治療中,口腔粘膜病変が再燃したため,CyA-OSによる含嗽を行い改善した.天疱瘡の口腔粘膜病変の治療において,高齢者や感染症の合併など全身的な免疫抑制療法の強化が困難な症例に対して,CyA-OSによる含嗽療法は極めて有用な治療法であると考えられた.

印象記

「皮膚リンパ腫国際会議」に参加して

著者: 島内隆寿

ページ範囲:P.574 - P.575

2005年2月3~5日,ドイツ・ベルリンで行われたInternational Symposium on the Biology and Immunology of Cutaneous Lymphomaに参加しました.関西国際空港で浜松医科大学の瀧川教授と合流させていただき,当教室戸倉,筆者の3人でベルリンへと向かいました.恥ずかしながら筆者がヨーロッパを訪れるのは初めてのことであり,なおかつ日本を発つ日は記録的な寒さであったため,現地の寒さを覚悟していました.パリ・シャルルドゴール空港で3~4時間待ち,ベルリン・テーゲル空港にようやく着いたのは現地の夜9時頃だったでしょうか.しかし,空港からタクシーに乗るときもそれほどの温度差は感じませんでした.ベルリンの壁崩壊から15年が経ち,ベルリンは再び首都の座に返り咲いたのですが,歴史的建造物が多い中,近代的でモダンな建築物が急ピッチで建設されているのを見ると,確実に世界に恥じないドイツの首都“Berlin”へと進んでいる印象でした.

 さて,この国際会議はEORTC Cutaneous Lymphoma Study GroupとInternational Society for Cutaneous Lymphoma (ISCL),そしてEuropean Society of Dermatological Research (ESDR)の共催で毎年,Charit病院で開催されています.この病院はペスト患者の治療のために建てられたというのですから,その歴史の長さは創立30年ほどの産業医科大学出身の私からは想像できないものです.KochやVirchowといった医学史に残る人物の記念碑があるその古い敷地内の,200人ほどが収容できる比較的狭い講堂内で行われていました.研究者達でギッシリと埋め尽くされた学会会場内で繰り広げられる内容は,まさに皮膚リンパ腫の免疫学的,分子生物学的研究から診断そして治療に至るまで,最新かつ高度な知見で,活発に議論されていました.それは毎年アメリカで開催されるSociety for Investigative Dermatologyのリンパ腫部門よりも内容は濃いのではないでしょうか.日本で最も大きな皮膚リンパ腫の学会といえば皮膚リンフォーマ研究会,現在の皮膚悪性腫瘍学会のリンフォーマ部門になりますが,正直圧倒的なレベルの差を感じました.と同時に冒頭での日本とベルリンの温度差はむしろここに存在したとでも申しましょうか.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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