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文献詳細

雑誌文献

臨床皮膚科59巻6号

2005年05月発行

文献概要

連載

アメリカで皮膚科医になって(2)―From Japan to America:American Life as a Physician-Scientist

著者: 藤田真由美1

所属機関: 1コロラド大学皮膚科

ページ範囲:P.576 - P.577

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大学職員(Faculty)

 レジデントやフェローを終えて大学に正式な職員として採用されるとファカルティ(faculty)と呼ばれる身分になる.この中にはAssistant Professor, Associate Professor, Professor, Chairmanすべてが含まれる.このファカルティ同士は,日本のような上下関係はなく,Chairmanを除くとすべて同等の身分である.私のように職員になって数年以内の人はAssistant Professor,5~8年で審査に通ればAssociate Professor,さらに5~8年で次の審査に通ればProfessorと呼ばれる.Chairmanは教室の代表のようなもので,臨床,研究を含めて教室全体の運営にかかわる.これらのファカルティは皮膚科のような臨床の科ではさらにphysician-educator(MDを持ち,臨床をしながら学生,レジデントの講義を受け持つ), physician-scientist(MDやMD/PhDを持ち,臨床をして講義を受け持ちながら,さらに研究もする), researcher(PhDを持ち研究のみをする)の3つのトラックに分けられ,雇用時の条件(給料や仕事内容)や雇用後の審査の基準も異なる.現在,コロラド大学皮膚科では,physician-educatorが9人,physician-scientistが7人(私も含めて),researcherが4人であるが,さらに来月からresearcherが2人増える予定である.このようにアメリカの医学部の構成は,学生,研修生(レジデント/フェロー),ファカルティ,ディーン(医学部長)と比較的簡単であるが,それが故に研修生(レジデント/フェロー)とファカルティの間のギャップは大きい.私も自分がファカルティになるまでは,こんなに違うとは認識していなかった.給料はもちろん何倍にもはね上がるし,仕事の内容も責任も全く異なるのである.

 アメリカでは,前回にも述べたように大学の教室が教室員の面倒を見ることはないので,ファカルティとしての生活は独立と自由がある代わりに責任と重圧も大きい.ファカルティ同士は上下関係のない横並びの同業者なので,入りたてのAssistant Professorであろうが長年大学にいる有名教授だろうが,お互い一国一城の主であることに変わりはない.自分の采配で収入(外来診察,グラント,ラボ立ち上げ金など)と支出(自分の給料,人件費,学会費,実験費など)のすべてを管理する.さらに,外来診察の回数(週1~5日),種類(一般外来,専門外来の種類),患者数(自分の外来開始時間,終了時間,予約患者の数と予約の入れ方),実験室のプロジェクトと実験室の規模などをすべて自分勝手に(まさに自分で何をしてもいいのである)決めないといけないので,自分の能力が把握できていない初期の頃は正直言ってとまどった.すべてが決まっている「おまかせコース」もつまらないかもしれないが,全部自分で細部にわたって決めるのも骨が折れるものである.また,給料も身分や年齢によって一定の金額が提示されるわけではなく,個人の能力や可能性(どれだけお金を稼げるか)によってだいたいの値段が見積もられ,雇用時の交渉によって最終的に金額が決定される.いったん金額が決まると大学から勝手に給料が支給されるなどという甘いことはなく,その額を自分で稼がないといけない仕組みになっている.稼ぐといっても私たち医師にできることは患者さんを診るか,グラント(研究費)を取ってくるかである.外来診察による収入もまた医師全員一律ではなく,実際に診療で得た収入から病院の場所代を差し引いたものが自分の給料に入ってくる.月末になると,大学病院から自分の外来の収支報告(個々の患者の名前,保険会社の種類,診療内容,請求金額,収集金額,病院に払われた額,給料に入った額など)が送られてきて,給料に入る金額の少なさに愕然とする.いわば私たちファカルティは大学病院の一室を借りて開業しているようなものである.週に3日ほど外来をするか,それより少なくても皮膚外科医のように手術をしたり美容皮膚科医のように処置をするとあっという間に自分の給料をカバーするだけ稼ぐことができるのであるが,私のように週1日(研究の時間を十分にとるために外来は週1日だけと決めた),しかもあまり儲からない皮膚内科外来をしている人は,給料のかなり部分を他から稼がないといけない.私の場合,まだラボの立ち上げ金が残っていて,グラントも取れだしたところであるが,研究のグラントが取れなくなったり少なくなると,その分外来を増やしたりお金の儲かる処置を増やしたり(急にレーザー外来をしたりする)して食いつなぐというのは,ざらにある話である.また,医療をしない研究だけのラボでは,まさに金の切れ目が縁の切れ目で,ある日突然人員削減やラボ自体の消滅などということが起こる.これと対照的なのが,自分の定めた給料以上を容易に稼ぐ皮膚外科医や皮膚病理医などで,余った金額から教室費を差し引いた金額がボーナスとして年に2回支給される.まさに実力主義のアメリカである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1324

印刷版ISSN:0021-4973

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