icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科60巻5号

2006年04月発行

雑誌目次

特集 最近のトピックス 2006 Clinical Dermatology 2006 1. 最近話題の皮膚疾患

Arthroderma benhamiaeによる白癬

著者: 望月隆 ,   河崎昌子 ,   安澤数史

ページ範囲:P.8 - P.12

要約 Trichophyton (T.) mentagrophytesはT. rubrumに次いで高頻度に分離されるありふれた皮膚糸状菌(以下白癬菌)であるが,最近までこの菌の有性世代の1つであるArthroderma (A.) benhamiaeは本邦には分布しないとされていた.しかし,1996年以降,本菌の分離例が相次いで報告されている.本菌は多くは女性,若年者の体部白癬から分離され,そのほとんどにペット(ウサギ,モルモットなど)が関与していたと考えられる.また,家族内発生例も少なくない.皮疹は顔面,手などの露出部に単発あるいは少数個出現するが,一般に炎症所見が強く,中心治癒傾向が明確でなく,貨幣状湿疹と誤診されやすい.幼小児の頭部ではケルスス禿瘡になる例が知られている.治療は他の白癬菌による白癬に準じて行うが,治療中に白癬疹を合併して一過性に増悪する例がある.

タキサン製剤による強皮症様皮膚硬化

著者: 伊藤宗成 ,   簗場広一 ,   中川秀己

ページ範囲:P.13 - P.18

要約 タキサン製剤投与により,強皮症に類似した皮膚硬化をきたした2例を報告する.2例ともに転移性乳癌に対しタキサン製剤を投与され,皮膚硬化に先行して著明な浮腫を認め,半年から1年の経過ののちに四肢遠位端を中心に皮膚硬化を認めた.病理組織学的にも真皮全層に及ぶ線維化と膠原線維束の膨化,血管周囲の単核球を主とした細胞浸潤を認め,臨床経過,組織像ともに全身性強皮症と類似していた.しかし,免疫学的異常やRaynaud現象などの全身性強皮症に特徴的な症状を欠いていた.この皮膚硬化は,薬剤投与中止後も遷延する傾向があった.タキサン製剤がこの病態形成に深く関与している可能性が高いが,いまだ報告例が少なく,その機序は不明である.しかし,この病態は患者のQOLを著しく損なうおそれがあり,今後タキサン製剤の普及に伴い遭遇する機会も多くなると考えられる.

Postmenopausal frontal fibrosing alopecia

著者: 植木理恵

ページ範囲:P.19 - P.22

要約 Postmenopausal frontal fibrosing alopeciaは炎症性の瘢痕性脱毛症でlichen planopilarisに属する疾患であるという考えが主流である.臨床症状はきわめて特徴的で,更年期女性の前頭に帯状の脱毛が両耳前部にかけ対象性に存在し,脱毛部皮膚は蒼白でやや萎縮性である.脱毛部生え際の毛孔には丘疹や棘状苔癬様皮疹が観察されることが多い.病理像は,毛狭部周囲のリンパ球浸潤と毛包周囲の線維化である.現在のところ,毛の再生するような確立された治療法はなく,脱毛の拡大を防ぐ程度の治療報告にとどまっている.

Hermansky-Pudlak syndrome

著者: 鈴木民夫

ページ範囲:P.23 - P.26

要約 Hermansky-Pudlak症候群(HPS)は,眼皮膚白皮症,出血傾向,そして全身組織へのセロイド様リポフスチン顆粒の沈着を3徴とする世界的にも稀な常染色体劣性遺伝性疾患である.最近,ポスト・ゲノムプロジェクトの1つとして,メンブレン・トラフィックを切り口とする研究が脚光を浴びており,HPSは“メンブレン・トラフィック病”の代表的疾患として,稀な疾患でありながら細胞生物学的,あるいは分子遺伝学的に注目されている.今回,症例を紹介しながらHPSについて解説する.

アナフィラクトイド紫斑の臨床像を呈するパルボウイルスB19感染症

著者: 狩野葉子 ,   佐久間恵一 ,   早川順 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.27 - P.30

要約 ヒトパルボウイルスB19(PVB19)は小児の伝染性紅斑を発症させるウイルスとして知られているが,成人では小児と異なり多彩な臨床症状をもたらす.皮膚症状としては風疹様の紅斑,多形紅斑,蕁麻疹,点状紫斑,papular-purpuric“gloves and socks”syndrome,アナフィラクトイド紫斑などが認められる.近年,このPVB19DNAやウイルス由来の蛋白が皮膚病変部の血管内皮細胞に検出されることが報告され,血管の炎症に関与することが明らかになってきている.

2. 皮膚疾患の病態

薬剤性過敏症候群(DIHS)の新しい展開

著者: 藤山幹子 ,   橋本公二

ページ範囲:P.32 - P.35

要約 薬剤性過敏症候群(DIHS)はヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の再活性化を伴う薬疹である.最近,HHV-6の再活性化に一致して生じる種々の病態が明らかになってきている.本稿では,HHV-6の再活性化が関与してDIHSで生じる合併症や検査値の推移について解説する.また,HHV-6の再活性化を予測することのできる臨床所見,検査所見についても述べる.

皮膚潰瘍の治癒機転における表皮真皮相互作用

著者: 山口裕史

ページ範囲:P.37 - P.43

要約 各種細胞は隣接細胞および外部刺激によるさまざまな影響を受けており,皮膚においては表皮と真皮構成細胞による上皮間葉系相互作用は恒常性維持および部位特異的な組織再生のために必要である.例えば,手掌足底(掌蹠)型皮膚は機械的刺激に強い特異性を持つが,真皮線維芽細胞が表皮の形質を誘導できることを示した.さらに糖尿病性足潰瘍(壊疽)および膠原病関連疾患(強皮症,結節性動脈周囲炎,関節リウマチおよび皮膚筋炎)による骨の露出した難治性皮膚潰瘍は,創部への骨髄露出および閉鎖療法を駆使して創床を管理し,良好な肉芽組織形成を促した後に,表皮移植で治癒可能なことを報告した.真皮成分を含む従来の植皮では必要となる血管吻合や再血流を要さずに生着が認められるため,表皮成分のみの移植は優れているばかりでなく,真皮表皮相互作用により部位特異的な(少なくとも従来の植皮に認められるような人工的でない自然な)治癒が可能であると思われる.

抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体症候群

著者: 松下貴史 ,   竹原和彦

ページ範囲:P.44 - P.48

要約 アミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl-tRNA synthetase:ARS)に対する自己抗体は多発性筋炎/皮膚筋炎(polymyositis/dermatomyositis:PM/DM)に特異的であり,本抗体陽性例では間質性肺炎(interstitial pneumonia:IP)を高率に合併する.当科および他施設の患者血清にて免疫沈降法を行ったところ,抗ARS抗体は皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)患者の29%(16/55例),多発性筋炎(polymyositis;PM)患者の22%(2/9例),筋炎を伴わないIP患者の25%(7/28例)に検出された.DM患者にみられた抗ARS抗体は,抗Jo-1抗体3例,抗PL-7抗体4例,抗PL-12抗体3例,抗EJ抗体6例であった.詳細に検討しえたDM患者35例を抗ARS抗体の有無で解析すると,抗体陽性例では陰性例に比べてIP(94% vs 23%)と発熱(64% vs 10%)が有意に高率に認められた.また,抗体陽性例ではステロイド薬内服治療に加え,他の免疫抑制剤の併用を高頻度(87% vs 26%)に要した.抗ARS抗体はこれまでIPを伴うPMに特異的と考えられてきたが,筆者らの解析からはDMにおいてもIPを伴う症例で高率に検出されるものと考えられた.

道化師様魚鱗癬の原因蛋白ABCA12について

著者: 秋山真志

ページ範囲:P.49 - P.54

要約 道化師様魚鱗癬(harlequin ichthyosis)は,出生時より全身の皮膚が非常に厚い板状の角層に覆われ,著明な眼瞼外反,口唇の突出開口を認める最重症型の先天性魚鱗癬であり,患児は生後1~2週間以内に死亡する例が多く,最も重篤な遺伝性皮膚疾患の1つである.筆者らは2005年,この道化師様魚鱗癬の病因蛋白がATP-binding cassette (ABC) transporterの1つであるABCA12であることを世界に先駆けて同定した.さらに筆者らは,ABCA12が表皮の顆粒層細胞に強く発現し,層板顆粒に存在すること,ABCA12は層板顆粒を介したセラミドなどの脂質の輸送に働いていることを明らかにし,正常ABCA12の遺伝子導入により患者培養表皮細胞の表現型の改善に成功した.ABCA12の機能障害は,角層のバリア機能に重要な角層細胞間脂肪層の形成不全をきたし,本症の原因になっていると考えられる.

ケモカインからみたリンパ腫

著者: 島内隆寿 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.56 - P.60

要約 皮膚T細胞性リンパ腫の中心的疾患である菌状息肉症,Sézary症候群,そして本邦に多い成人T細胞性白血病/リンパ腫細胞は,皮膚ホーミングレセプターであるCLA,CCR4を強く発現している.筆者らは成人T細胞性白血病/リンパ腫患者の末梢血中CD4+細胞,および皮膚腫瘤中の腫瘍細胞を分離・培養し,その培養上清中のTARC,MDC値を測定した.その結果,腫瘍細胞であるCD4+細胞はCCR4を発現するとともに,そのリガンドであるTARC,MDCをも産生していることが判明した.成人T細胞性白血病/リンパ腫の腫瘤形成の要因として,CCR4とTARC,MDCによるautocrine/paracrine chemotaxisが1つのメカニズムであると推測される.

3. 新しい検査法と診断法

皮膚悪性腫瘍におけるFDG-PET検査の有用性

著者: 勝浦純子 ,   窪田泰夫

ページ範囲:P.62 - P.66

要約 FDG-PET検査の特徴は,糖代謝を反映した機能画像を得ることができる点である.すなわち,悪性腫瘍では腫瘍細胞の糖代謝能が亢進しているため,FDG集積の多寡を評価することは,腫瘍の局在診断のみならず,悪性度評価,病期診断,および治療効果の判定などに有用といわれている.本邦でも2002年4月より10種類の悪性腫瘍に対して保険診療が承認された.これまでに皮膚悪性腫瘍に対するFDG-PET検査の有用性を検討した報告は比較的少ないが,その有用性と限界について紹介し,当科で実施しえた基底細胞癌と有棘細胞癌の症例検討も加えて概説する.今後,悪性黒色腫以外の皮膚腫瘍に対するFDG-PET検査の有用性が積極的に検討されることを切望する.しかしながら,われわれ皮膚科医もFDG-PET検査の有用性と限界,あるいは費用対効果などについて十分認識したうえで実施することが大切であろう.

MLPA法による色素細胞腫瘍の鑑別診断

著者: 高田実

ページ範囲:P.67 - P.70

要約 色素細胞腫瘍の病理組織診断は難しく,熟練した皮膚病理医の間でも診断のコンセンサスが得られないことがしばしばある.この問題を解決するためには,形態学という主観的判断基準を補う客観的な指標が必要である.最近開発されたmultiplex ligation-dependent probe amplification (MLPA)法は,ホルマリン固定・パラフィン包埋組織から抽出した少量のDNAを用いて1回の反応で約40種類の癌関連遺伝子のコピー数の増減を解析できる.この方法を用いて解析すると,大多数のメラノーマは多発性のコピー数異常を示すが,色素細胞母斑やSpitz母斑では異常はほとんど認められない.MLPA法は染色体の数的異常に関する客観的な情報を提供する比較的簡便な方法であり,色素細胞腫瘍の病理組織診断の補助診断法として有用と考えられる.

A群溶血性レンサ球菌抗原迅速検出キット

著者: 清島真理子

ページ範囲:P.73 - P.77

要約 A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)は皮膚科領域では伝染性膿痂疹,丹毒,蜂窩織炎,壊死性筋膜炎,劇症型A群溶連菌感染症の原因となるとともに,咽喉頭炎,扁桃炎から猩紅熱を引き起こし,リウマチ熱,急性糸球体腎炎を続発する可能性があり,早期診断および治療を必要とする.A群溶連菌感染症の診断には病変部位からの本菌の証明および抗体価上昇の証明が必要であるが,培養,抗体価測定は時間を要するため迅速診断には役立たない.咽頭ぬぐい液を用いたA群溶連菌抗原迅速検出キットによる本菌の検出は細菌培養と比較して感度96%,特異度89%を示し,10分以内に検査の判定が可能である点を考え合わせると有用性が高い.しかし,適切な検体採取,抗菌薬の影響,共通抗原をもつ他菌の存在,キットの感度,保菌者の可能性などの点を十分考慮して正しく評価する必要がある.

BP230 ELISA法の開発について

著者: 吉田まり子 ,   濱田尚宏 ,   安元慎一郎 ,   橋本隆 ,   天谷雅行 ,   橋本公二

ページ範囲:P.79 - P.82

要約 水疱性類天疱瘡はヘミデスモゾームに存在する230kDa水疱性類天疱瘡抗原(BP230)と180kDa水疱性類天疱瘡抗原(BP180)に対する自己抗体を示す自己免疫性水疱症であり,高齢者に好発する.正常ヒト表皮抽出液を用いた免疫ブロット法で多くの水疱性類天疱瘡患者血清はBP230と反応し,BP180と同様に水疱性類天疱瘡病変の診断に重要である.現在まで,各種リコンビナント蛋白を用いた研究の結果から,水疱性類天疱瘡患者血清はBP230蛋白上の多くのエピトープに反応することが判明した.今回,筆者らはBP230のN末端部とC末端部の全長をカバーする2種の大腸菌発現リコンビンナント蛋白を用いたenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA法)を開発し,水疱性類天疱瘡患者血清中のBP230に対する自己抗体を特異的かつ高感度に検出できることを示した.今後,従来から施行されている蛍光抗体法,免疫ブロット法に加え,BP230とBP180のELISA法を組み合わせることにより,より確実に,より簡便に水疱性類天疱瘡を診断できると考えた.

色素性乾皮症の新しい診断法

著者: 森脇真一

ページ範囲:P.84 - P.89

要約 色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum:XP)の確定診断のために,長年施行され成書にも記載されている細胞融合法による相補性試験は,検査の迅速性,簡便性,感度という面では必ずしも優れた方法ではなかった.数年前からそれらの欠点を補った新しいXP診断確定のための検査法として,プラスミド宿主細胞回復能を指標にしたXP相補性試験が一般的に行われるようになった.レポーター遺伝子として紫外線照射したルシフェラーゼ発現ベクターを使用し,XPが疑われる患者細胞内で人工的にDNAを修復させる.その能力がXP各群の発現遺伝子導入により上昇(相補)するかどうかを判定すればXPE群,XPバリアント以外のXP相補性群の確定が可能となる.本法は簡易,迅速かつ感度の高いXP検査法の1つであり,現在では海外を含め,XPのlaboratory diagnosisを行っている施設ではルーチンなものとなっている.

4. 皮膚疾患治療のポイント

TIMEの観点からの皮膚潰瘍・褥瘡治療

著者: 石川治

ページ範囲:P.93 - P.97

要約 Wound bed preparationとは,生体自体の治癒能力および治療効果を高めるための創治療法の概念であり,その目的は難治性の慢性創傷を急性創傷の治癒過程へと導くことにある.TIMEは治癒が進まない慢性創傷の臨床所見と,その背景にある細胞レベルでの異常,および治療とその効果について述べたものであり,実際に局所治療を行ううえで有用なチェックリストといえる.特に,TIMEの1つであるmoisture imbalance(不適切な水分バランス)の概念は,創の湿潤環境保持を推奨するmoist wound healingの概念を越える優れた概念である.

コレステロール結晶塞栓症によるblue toe syndromeの治療―腰部交感神経節ブロックを含めて

著者: 落合豊子

ページ範囲:P.98 - P.102

要約 コレステロール結晶塞栓症(CCE)は腎臓に多発し,腎障害が予後を規定する因子となるが,下肢,足趾に生じた場合は安静時痛を伴って網状皮斑,チアノーゼ,潰瘍を生じblue toe syndromeと呼ばれる.CCEは,近年報告例が増加しているが,その治療については確立されたものがない.本症では血圧や心不全のコントロールなどの補助療法を行いながら,可能ならば抗凝固薬療法を中止する.そして腎機能の改善と皮膚の虚血性変化に対し,副腎皮質ステロイドやHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の内服,LDLアフェレーシス,血漿交換などを選択し,下肢の疼痛や難治性潰瘍を呈する症例についてはプロスタグランディンE1製剤の静注や腰部交感神経節ブロック治療などの適応を検討する.blue toeの有無は患者のQOLを左右する重要な因子であり,皮膚科医は循環器科や麻酔科と連携して,全身症状に留意しながら治療にあたることが望まれる.

Narrowband UVB療法の適応と限界

著者: 鳥居秀嗣

ページ範囲:P.103 - P.107

要約 UVB領域の中でも特に311nm付近の紫外線は,不必要な紅斑反応が少ないため高いエネルギーを照射することが可能で,乾癬に対して極めて有効であり,narrowband UVB(以下,NBUVB)療法として近年注目を浴びている.NBUVB療法は従来のオクソラレンの併用を必要とするPUVA療法と効果が大きく変わらないわりには,オクソラレンを必要としない分簡便であり,副作用も少なく,発癌のリスクも小さいとされている.乾癬を対象に開発された本療法は,白斑やアトピー性皮膚炎,菌状息肉症などをはじめとして,その適応を急速に広げつつある.今後,疾患ごとの特性に応じた照射法や,長期の副作用に対する注意点などをEBMに基づいて検証していく必要がある.

イベルメクチンによる疥癬の治療ガイドライン

著者: 石井則久 ,   朝比奈昭彦

ページ範囲:P.108 - P.112

要約 イベルメクチン内服薬が疥癬に対して一般医療で使用可能になった.それに合わせて「疥癬診療ガイドライン」が作成された.皮膚科医にとっては疥癬の正確な診断が重要で,ヒゼンダニの検出方法を熟知する必要がある.また,臨床症状や疫学的流行状況なども的確に把握する.治療には外用薬が用いられてきたが,イベルメクチン内服薬は使用が簡便で,医療費や人件費の削減につながる.しかし,安易な使用は疥癬の適切な診断がないがしろになる.皮膚科医は疥癬の正確な診断と適切な治療を知ることが必要である.

ウイルス性疣贅のビタミンD3外用療法

著者: 江川清文

ページ範囲:P.113 - P.117

要約 近年,活性型ビタミンD3誘導体の外用薬が開発され,表皮細胞の分化誘導作用や過増殖抑制作用,炎症細胞抑制作用,アポトーシス誘導作用や腫瘍細胞の増殖抑制作用などの非カルシウム作用が乾癬や掌蹠角化症などの治療に応用されている.ウイルス性疣贅はヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)感染による良性腫瘍,一方,乾癬は炎症性角化症という病因論的には異なるカテゴリーに属する皮膚疾患であるが,角化細胞の増殖活性亢進や分化異常など,病態論的には類似する部分が多い.最近,筆者らは,この類似性に着目して活性型ビタミンD3誘導体軟膏のウイルス性疣贅への応用治療を試み,その有効性を報告した.単純塗擦よりも密封包帯法(occlusive dressing technique:ODT)でより有効性は高いようである.

蕁麻疹・血管性浮腫の治療ガイドライン

著者: 秀道広

ページ範囲:P.119 - P.124

要約 蕁麻疹・血管性浮腫は3つのグループ,13の病型に分けられる.明らかな誘因なく自発的に膨疹が出没する「特発性の蕁麻疹」の治療は対症的な薬物療法が中心で,第2グループである「特定刺激ないし負荷により皮疹を誘発することができる蕁麻疹」は,Ⅰ型アレルギーによるものを含めて薬物療法の効果が低く,皮疹出現の原因,誘因を回避することがより大切である.特発性の蕁麻疹にはヒスタミンH1拮抗薬の継続,変更,増量を行い,十分効果が得られなければH2拮抗薬をはじめとする補助的治療薬を併用する.それでも症状が強く,QOL障害も大きい場合はプレドニゾロン換算量5~15mg/日のステロイドを追加する.生命にかかわる,あるいはいたたまれないほどの症状には,程度に応じて救急,救命的治療が必要なこともある.第3のグループの「特殊な蕁麻疹または蕁麻疹類似疾患」も,各病型の特性を踏まえて他のグループに準じて治療する.

掌蹠腋窩多汗症の治療―水道水イオントフォレーシスを中心に

著者: 丸山友裕

ページ範囲:P.125 - P.130

要約 精神性発汗の異常亢進である掌蹠多汗症に対する治療として実用的ものは,①塩化アルミニウム液の外用,②水道水イオントフォレーシス,③ボツリヌス菌の局所注射,④胸腔鏡下胸部交感神経切除術(ETS)などがある.抗コリン剤や精神安定剤,漢方薬などの内服の有用性は低く,あまり実用的とは考えられない.現在,わが国ではETSが積極的に行われているが,非可逆性の代償性発汗に苦しむ人も多い.そこで,保存的治療として主に水道水イオントフォレーシスを第一選択で行い,効果不十分な症例に対して適応を慎重に検討したうえでETSを行うことを提案した.腋窩多汗症に対しては腋臭症との鑑別や合併の有無を確認のうえ,治療方針を決める必要がある.腋窩多汗症の治療は上記の保存療法のほか,超音波メスによる吸引などもある.

マラセチア感染症の病態と治療

著者: 坪井良治 ,   田嶋麿美

ページ範囲:P.133 - P.136

要約 マラセチア(Malassezia)は,1996年,Guéhoによる再分類やその後のSugitaらによる新菌種の報告などで11菌種に分類されている.鱗屑から直接,菌由来DNA配列を検出することによりマラセチアの同定が可能になったことから,健常人や各種皮膚疾患において複数の菌種が同一部位に定着し,病態に関与していることが明らかになってきた.これまでの研究結果から,癜風やマラセチア毛包炎はマラセチア感染症といえるが,脂漏性皮膚炎はマラセチアが発症に深く関与した疾患であり,アトピー性皮膚炎では増悪因子の1つであると考えられる.また,痤瘡,酒さ様皮膚炎,ステロイド外用薬長期使用中の皮膚炎にも関与している.これらのマラセチア感染症や関連疾患に対して,ケトコナゾール外用薬やイトラコナゾールの内服を,感染症に対しては単独で,関連疾患に対しては従来治療に上乗せする形で投与すると著明に症状が改善することを報告した.

乾癬のクリニカルパス

著者: 東山真里 ,   中村敏明 ,   荻堂優子 ,   横見明典

ページ範囲:P.137 - P.142

要約 1996年以来,クリニカルパス(以下,パス)は医療の標準化や効率化,チーム医療,インフォームド・コンセントなどの機能を目的に導入されつつある.当院では尋常性乾癬の入院患者数は増加傾向にあり,平均在院日数が長いことが問題に挙げられる.早期退院は,患者の職場復帰などの社会的観点からも重要である.われわれは入院期間を3週間に設定し,治療期間を急性期(1週目),急性期(2週目),寛解・維持期(3週目)に分類した光線療法,軟膏療法と内服療法(エトレチナート)を組み合わせたパスを2002年に考案し運用している.退院目標を,症状の改善とセルフケアの確立,外来での継続治療への円滑な移行と設定した.尋常性乾癬の入院治療におけるパス導入による治療効果,患者の満足度,在院日数について検討した.結果は,パスの導入は満足度の向上,在院日数の短縮につながり治療効果は導入前とほぼ同等であった.

マムシ咬傷に遭遇したら

著者: 井上安見子 ,   水上晶子 ,   加藤正幸 ,   土田哲也

ページ範囲:P.143 - P.146

要約 マムシ咬傷は全国で年間約3,000例発生し,1,000~1,500例に1例の割合で死亡例がみられる1).主な治療には,局所処置,マムシ抗毒素血清とセファランチンの投与があるが,マムシ抗毒素血清投与の有用性についてはさまざまな意見があり統一した治療方針がない.しかし,マムシ咬傷は重症化することがあり,マムシ抗毒素血清投与が毒素を中和する唯一の薬剤であること,その副作用である血清病が重症化することが稀であることから,可能な限り投与するべきであると考えられる.

5. 皮膚科医のための臨床トピックス

経皮ペプチド免疫療法―ベンチサイドからベッドサイドへ

著者: 瀧川雅浩

ページ範囲:P.148 - P.151

要約 経皮ペプチド免疫療法は強力な抗原提示細胞であるLangerhans細胞を利用した新しいコンセプトに基づく免疫療法である.角層剝離によりLangerhans細胞は活性化され,その部位に抗原特異的ペプチドを塗布することにより,所属リンパ節,脾臓に細胞障害性T細胞(CTL)が誘導される.したがって,経皮ペプチド免疫療法は感染症の予防や癌の治療に有効と考えられる.

慢性皮膚潰瘍のmaggot治療(MDT)

著者: 大浦紀彦 ,   三井秀也 ,   市岡滋

ページ範囲:P.152 - P.155

要約 創傷治療において,壊死組織や生理活性の低い組織を除去し,創底を清浄化させることが不可欠である.近年,欧米で注目を集めているのが,非侵襲的で無痛かつ選択的に壊死組織を除去するハエの幼虫(maggot)を使ったmaggot debridement therapy(以下MDTと略す)である.これは感染制御と創傷治癒促進効果を同時に併せもつ.創底が血流があり,感染・壊死組織を伴った潰瘍が適応となる.6~10匹/cm2になるようにガーゼを使用して創面へmaggotを付着させる.創周囲をドレッシング材を使用して準密閉し,交換は2回/週で行う.従来の治療法と比較してもMDTは安価であり,耐性菌をつくることもなく,副作用もないので,今後,臨床現場で広く認知されていくと思われる.

乾癬性ぶどう膜炎

著者: 酒本亜紀子 ,   嵯峨賢次

ページ範囲:P.157 - P.159

要約 近年,乾癬に合併するぶどう膜炎の報告が増加し,乾癬性ぶどう膜炎という新しい概念が提唱されている.その病態は,前房蓄膿を呈する重症の前部ぶどう膜炎で,再発性で難治性の疾患である.発症機序として,HLA-B27,好中球機能異常,IL-8などの関与が推測されている.治療に抵抗性で再発性であり,眼科医による診察と治療,経過観察が必須である.皮膚科医は乾癬患者の日常診療において,その発症に注意して本症を早期に発見する必要があると考える.

コエンザイムQ10(CoQ10)

著者: 山本順寛

ページ範囲:P.160 - P.162

要約 コエンザイムQ10はミトコンドリア内でのATP合成に不可欠であるが,体内にはユビキタスに存在し,その理由は優れた抗酸化作用と考えられている.体内で生合成されるが,組織内濃度は加齢とともに減少する.皮膚でも同様であり,皮膚の老化の重要な原因の一つと考えられている.コエンザイムQ10入りのクリームは皮膚の抗シワ作用で注目を集めている.また,肌のつやが出る,疲れにくくなる,風邪をひかなくなるなどの効果が実感でき,かつ安全なサプリメントとしても人気となっているが,科学的なデータの蓄積が望まれている.

皮膚stem cellによる再生医療

著者: 大河内仁志

ページ範囲:P.163 - P.165

要約 皮膚stem cellによる再生医療は,皮膚科領域のみならず皮膚以外の領域にも応用可能なことから注目されている.皮膚科領域においてはすでに培養表皮が熱傷などの治療に臨床応用されている.培養真皮も治験の段階にあり,今後,血管新生を促進するような工夫や付属器を伴った培養皮膚の開発が望まれる.まだ動物実験段階であるが,培養表皮細胞と培養毛乳頭細胞の混合移植による発毛誘導の開発も行われている.一方,表皮にも真皮にも脂肪組織にもそれぞれ多能性幹細胞の存在が示唆されているので,その多能性を生かして骨・軟骨細胞や筋細胞,神経細胞に分化させて治療に使う基礎研究が進められている.特に脂肪組織由来の間葉系幹細胞は採取が容易なため,今後,骨髄由来の細胞と同様に血管新生をはじめとして広く利用される可能性がある.

機能性化粧品の現状

著者: 川島眞

ページ範囲:P.166 - P.168

要約 日本香粧品学会において,化粧品機能評価法検討委員会が設置され,抗老化(シワ改善)剤,美白剤,サンスクリーン剤そして安全性について,各専門委員会での検討が行われ,評価法の案が作成された.これまでの化粧品の有効性評価法と異なり,プラセボを対照として二重遮へい法にて客観的な基準で有効性を証明することを要求している.近い将来,これらの評価基準をクリアした製品が,機能性化粧品という新たなジャンルの化粧品として,これまでの効能表現を越えて,予防のみではなく改善効果を謳って登場してくることが期待される.

悪性黒色腫の新しい血清マーカー―glypican-3とSPARC

著者: 影下登志郎 ,   福島聡 ,   尹浩信 ,   西村泰治 ,   中面哲也

ページ範囲:P.169 - P.172

要約 悪性黒色腫(メラノーマ)の新しい血清マーカーとしてglypican-3(GPC3)とSPARCを同定した.GPC3はヘパラン硫酸プロテオグリカンファミリーに属する糖鎖修飾が強いGPIアンカー蛋白であるが,肝細胞癌とメラノーマに特異的に発現している.血清GPC3はメラノーマの約40%で検出されるが,健常人では検出されない.一方,SPARCはシステインに富む酸性分泌蛋白で,メラノーマに高頻度に発現している.血清SPARCはメラノーマの約30%で検出されるが,健常人ではほとんど検出されない.両者は早期メラノーマにおいても検出され,いずれかが陽性を示す症例は0期88%,Ⅰ期48%,Ⅱ期71%である.両者を併用することで早期メラノーマが血清学的に診断可能になる.

奇形症候群のデータベース

著者: 大橋博文

ページ範囲:P.173 - P.175

要約 奇形症候群の診断支援データベースとしてUniversity of the Ryukyus-Database for Malformation Syndromes (UR-DBMS;琉球大学成富教授開発)を紹介し,実際の診断方法を例示した.また,疾患に関する遺伝情報ならびに診断後のケア(合併症の早期発見・予防,特に小児においては発達支援),社会福祉資源への連携,そして本人・家族への遺伝カウンセリングといった包括的なケア(遺伝診療)に役立つ情報データベースとしてOnline Mendelian Inheritance in Man(OMIM)とGeneReviewを紹介した.

手足口病に伴う急性脳炎・脳症

著者: 市山高志

ページ範囲:P.176 - P.178

要約 手足口病は日常診療でしばしば遭遇するウイルス性発疹症である.エンテロウイルス属が原因であり,コクサッキーウイルスA16,エンテロウイルス71によるものが多い.コクサッキーウイルスA16に比し,エンテロウイルス71は多彩な神経系合併症をきたしやすい.脳幹脳炎を含む急性脳炎,髄膜炎,急性小脳失調症,脊髄炎,ミオクローヌスなどが報告されている.これら神経系合併症は後遺症を含め予後不良の転帰をとることがあり,早期診断・早期治療が重要である.手足口病に続発する神経系合併症は2~5病日に発症することが多い.意識障害,不随意運動,歩行障害など,多彩な神経症状で発症する.早期診断のポイントとして,①見当識障害,何となくボーっとして元気がないなどの軽微な意識障害を見逃さないこと,②頭痛,嘔吐は頭蓋内圧亢進症状の可能性があるので注意することである.

学齢期アトピー性皮膚炎と不登校・ひきこもり

著者: 片岡葉子

ページ範囲:P.179 - P.181

要約 学齢期アトピー性皮膚炎(AD)に合併することのある不登校の意味,対処のポイントについて述べた.ADは強い瘙痒のために生活リズムを崩しやすく,またその外観を気にして欠席の原因になりやすい.しかし,不登校は単にADの結果というだけでなく,両者の心理社会的背景が共通で,ADがあることによって悪循環を形成していることが少なくない.その場合にはADに対する皮膚科的治療と並行して,背景の心理社会的問題に取り組むことが,AD,不登校両者の問題解決に有効である.ADに合併する不登校の問題を解決するためのポイントとして,受容・共感的態度をもった初診面接の重要性,不登校合併の認識に始まる的確な情報の収集,適切な皮膚科治療による苦痛の早期緩和,全人的な問題の把握・対応,教育施設を併設する入院療法の意義,他職種との連携の6点を提示した.

Derm.2006

皮膚科診療と器械

著者: 須山孝雪

ページ範囲:P.12 - P.12

皮膚科は他科に比べ,医療器械を要せず診断・治療に臨んできたように思う.もちろん必要な患者には血液検査やCTなどの画像検査は施行されているだろうが,皮膚科外来に訪れる大多数の患者は視診や触診で診断をされ,外用や内服などの保存的治療,もしくは液体窒素やドライアイス,局所麻酔下に行われる簡単なデイ・サージャリーで診療を終える.

 大学病院で皮膚外科を中心に診療しているためか,最近はいくつかの器械を使うようになった.7,8年ほど前にダーモスコープを使い始めたころは,慣れないせいか抵抗があったが,今では黒っぽい腫瘍には条件反射のようにゼリーを塗って,スコープを覗いている.わかりにくいものもあるが,血管腫や血腫,基底細胞癌などは診断がつくことが多い.たまたまいただく機会があり,私物としても所有しているが,買うと10万円ほどするものらしい.ドップラー血流計も下肢の血流を診るのみでなく,術前に動脈皮弁のデザインを行うに際し有用であるため,病棟にも置いてあるが聴診器型の安価なものは個人購入した.この辺までは購入意欲の湧く金額の器械だが…….

塗らなくていい外用薬

著者: 加藤則人

ページ範囲:P.18 - P.18

数年前から秋が深まると皮膚が乾燥して痒くなり,クリスマス辺りには貨幣状湿疹がいくつもできるようになった.病院では患者さんのために暖房を強くしているので,なおさら皮膚が乾燥しやすくなる.仕事から帰って,入浴後に全身に保湿剤を塗ってさらに湿疹にステロイドを塗れば,その夜は痒みを感じずに眠れる.しかし,翌日の昼過ぎにはまたムズムズと全身が痒くなってきて,午後の外来では「先生も湿疹ですか?」と患者さんにいわれて初めて,スネをポリポリ搔きながら診察している自分に気付く始末.帰りが遅くなった日など,面倒になって薬を塗らないでいると痒みのために寝付けない,という日々が毎年4月半ばまで続く.この経験をしたことで,「毎晩塗り薬を全身に塗るのって本当に大変だなー」とつくづく感じ,何年もの間休みなく薬の外用を続けている患者さんには,心の底から敬意の念をもちつつ外用の指導をするようになった.「1日2回塗って下さいね」というのは簡単で,1日1回の外用よりも効果があるというエビデンスが数多くあることもわかってはいるが,仕事や通学に忙しい日々を送っている患者さんには「顔だけなら朝も塗れますか?」「休みの日だけでも朝晩塗りましょうか」と弱気な外用指導になってしまう.

 EBMは,決して文献検索の結果に従って画一的にマニュアル化された診療を行うということではなく,文献検索で得られたエビデンスに関する認識を医師と患者が共有して,医師の医療上の経験およびそれ以外のさまざまな人生経験,患者の価値観や生活を洞察する力を統合して診療方針を決断する手段である.ならば私の弱気な外用指導もギリギリ許してもらえるのではと願いつつ日々の診療をしている.今冬の痒みは例年に増して強く,後厄を迎えた私の肌は着々と老化しているようだ.お湯をかけるように薬をさっと皮膚に流すと湿疹のところにだけ薬が結合して吸収され効果を発揮する,塗らなくていい外用薬の登場を待ち望んでいる.(〒602-8566 京都市上京区河原町広小路梶井町465)

嘘も方便?

著者: 生駒晃彦

ページ範囲:P.22 - P.22

私は決して美容に興味がないわけではない.QOLを良くする医療にかかわりたいと思っており,痒みの研究をさせていただいているのも原点はその気持ちからである.美容もQOLの観点から意義ある分野だと思う.個人的には歳とともに出てくるシワやシミもその人の味わいでありいいものだと思うが,多くの女性は少しでも若く見られたいようである.容姿が若々しくなることで気持ちが晴れやかになり,その人に活力を与えるのであればいいことである.しかし,それは自分を見て誰かが美しいと思ってくれることを期待しているからであって,もしこの世の中に自分一人しかいなくて自分の容姿を評価してくれる人が誰もいなければ,若々しくありたいと思うであろうか? それを逆手に取るわけではないが,シミなどの相談をされるご婦人がたには,いつもある“処置”を施すことにしている.「先生,このシミ,なんとか取れないですかねぇ?」とくれば,顔を近づけてそのシミをよく見てからこう言う.「はいはい,確かによく見るとありますねぇ.でも言われるまで全然気がつきませんでしたよ.それにしても○○さん,実にきれいなお肌でいらっしゃる.」すると決まってこういう反応が返ってくる.「あらやだ.先生,そんなお世辞を言わないでくださいよ.」そこで真顔でだめ押しをする.「実際のご年齢よりもずっと若く見えますねぇ.ぜひ自信をもってください.」ご婦人がたは嬉しそうにケタケタ笑う.患者に嘘をついてはいけないと思う.でも,美しいか否かに嘘も真実もない.美しいと思えば美しいのである.この話をすると妻がこう言った.「わたしにもそう言ってよぉ」……なぜだか妻には言いにくい.(〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町54)

医学と統計にまつわる瞬篇4題

著者: 幸野健

ページ範囲:P.35 - P.35

1. 平均値の世界と実相

 「患者に薬剤Aを投与したがIFN-X量には変化がなくIL-Y量は有意に低下した」といった論文がある.これを信じて,自分の患者に薬剤Aを投与すると,どの患者でも「IFN-Xは変化がなくIL-Yは下がっている」のだと思ってしまう.

 だが,元の研究の生データを眺めてみると,「ある患者ではIFN-Xは不変どころか低下,別の患者では非常に上昇,不変の患者などいない.ある患者ではIL-Yは低下どころか上昇,しかし,確かに非常に低下した患者もいる」というのが実相だったりする.平均値だけで「わかったつもり」になると誤解してしまう.個々の患者でどのような事象が起こっているのかはわからない.われわれにできるのは,「研究結果」という集団の確率的傾向性から類推することだけである.標準偏差や誤差(示されていればだが)から想像力を働かせてデータのバラツキという実相を認識しない限り,われわれは延々と「だまし絵」の世界に住むことになる.

土地土地の皮膚病

著者: 米田耕造

ページ範囲:P.43 - P.43

この文章を書いているのが,2005年10月17日です.昨年の12月に秋田大学から香川大学医学部皮膚科に赴任しました.毎週月曜日は外勤日です.高速道路を走って,愛媛県と香川県の県境近くまでも行きます.大学への帰途,自分自身に向かってつぶやきました.「今日も出会うことができなかったな」と.「あっそうか.ここは秋田じゃないんだ.」

 そうです.秋田では,毎年秋風が吹くようになると,必ずその患者さんに出会っていました.1999年から6年弱秋田にいましたが,初めてその患者さんを見た日のことは,今でも鮮明に覚えています.1999年の秋,少し肌寒くなる頃,私の外来にその患者さんが,腰掛けて,「先生,これなんだすか?」と秋田弁で,尋ねてきました.上半身胸部から腹部にかけて,幅数ミリの線状隆起性紅斑がぐるぐると,まさに“とぐろ”を巻いて蛇行していました.隆起性紅斑の一方の端は鮮やかな紅色で,反対側の端は茶色くなっています.ところが,私の隣でシュライバーとしてコンピューターの入力を手伝ってくれていた地元出身の若い女医さんは,特に驚くわけでもなく,患者さんに「最近シラウオを食べなかった?」と尋ねました.患者さんは,「うん.夏の終わりから,毎晩食べてるだべ」と答えています.女医さんは「シラウオを生で食べるとそんな病気になるのよ」と患者さんに話しています.その一連のやりとりの間,私はまったく無言でした.女医さんと患者さんの話を聞いていて,おぼろげながら理解したことは,「これは,クリーピング・ディジーズらしいけど,秋田ではよくある病気なんだ」ということでした.

とっつきにくいが有用な心療内科的対応

著者: 羽白誠

ページ範囲:P.54 - P.54

皮膚科の外来をしていると,「いつになったら治るのですか」「このぬり薬は全然効きません」などという不満を必ずといっていいほど頻繁に耳にします.なかには「早くからだを這っている虫を退治してくださいよ,先生!」というのもあるでしょう.不満を聞くと,医師としてあまりいい気持ちになれないのは人間だから当然のことだと思います.しかし視点を変えてみると,不満を言われるということは「この先生には言っても聞いてくれそう」という期待が少しは患者さんにあるのです.いわゆる恐い先生には不満を言うことすらできませんね.おそらく黙って帰ってしまいます.もし不満を聞いたら,それを生かすのが心療内科的な対応の一つです.虫退治はあとでお話するとして,通常の不満は会話が少ないところから発生します.忙しい診療で話なんかしていられないというのもごもっともです.しかし,ほんのちょっとした対応で不満が解消される場合もあるのです.「いつになったら治るのですか」に対して,患者さんの目を見ながら「この病気はね,いまのところ完治は難しいのですよ.でもね,いまあるお薬でできるだけのことをしようと私も思っているのですよ」と,若干申し訳なさそうな顔をして患者さんに説明します.その際に病気を理解しているかどうかの確認も行います.「このぬり薬は全然効きません」に対しては,患者さんの目を見ながら「ぬり薬をどこに一日何回塗っていますか」と使用方法を確認して,「ぬるときにすりこんでいませんか」「チューブの先で直接ぬっていませんか」など少し細かくぬり方を聞いてみます.ただし,外用薬は内服薬に比べてコンプライアンスが悪いので,できるだけシンプルに使い方を指導します.怖くて薬が使えなかったという患者さんには「一部分だけ使ってみませんか」といった提案をします.では,這っている虫退治はどうすればよいでしょうか?「精神科に行きなさい」と言ってしまうと怒ってしまい,精神科には行かずに他の皮膚科を転々としてしまいます.これはやや難しいですが,「まず虫が這って気持ち悪いでしょうから,その気持ち悪さをやわらげることからしてみませんか」「それから虫の退治を考えましょう」と言います.「そのためには精神病のお薬がごく少量でよく効くんですよ」と説明して処方をします.内服までこぎつけたら,あとはそう難しくありません.このように治療意欲を高める工夫に,心療内科的対応がとても役に立ちます.しかしながら,治療意欲を高める工夫がなされていない診療が多いと思うのは私だけでしょうか.(〒543-0035 大阪市天王寺区北山町10-31)

心は衰えるものなのか?

著者: 高橋毅法

ページ範囲:P.60 - P.60

年を経るとともに,初心を自身の片隅に留めおくことの苦しさが強まる.この戒めの難しさは昔から警告されており,唐の時代にはすでに詩のなかに出ている「初心不可忘」は世阿弥の花鏡に馴染み深い文として出ている.「しかれば当流に万能一徳の一句あり/初心忘るべからず/この句三ヶ条の口伝あり/是非の初心忘るべからず/時々の初心忘るべからず/老後の初心忘るべからず」.時々に経験する疾患に対して,過去から積み上げた学習は別物として,初めてのときと同様の新たな経験をしているとの切実な心情が必要である.その心組みこそが,疾患を主とし患者を従とする見方ではなく,疾患を有する個々の患者さんの人格を認めることに導き(医師になりたての緊張した臨床では無意識にできていたことなのに),そうでなければ医師としての本質を見失う.医学に対応させた解釈はこんなところだろうか? しかし,誰でもわかっており,できれば初心をもち続けたいと誰でも思っているが,どうしたらできるのだろうか? 人間の記憶は時とともに抗いがたく減退するもので,当時の気持ちも一緒に連れていかれる.では,医師としての心は果たして衰えるものなのか? 努力とは無縁の次元で,腫瘍による悲惨な死に対して本人や家族と同等の実感をもつことはできないが,雑念に甘えて腐っていくことへのきわめて辛い抵抗はできる可能性がある.興味をもつこと,模索すること,反省すること,自分を信じること,人のために泣くこと.「されば,この道を究め終りて見れば,花とて別には無きものなり.」(〒305-8575 茨城県つくば市天台1-1-1)

今日の記載皮膚科学

著者: 竹内常道

ページ範囲:P.71 - P.71

アトピー性皮膚炎の患者さんを診察していると,穏やかな皮疹であるにもかかわらず,皮疹の生じた部位によっては治りにくいものがあることに気がつく.上肢伸側や下顎下縁,耳介後部や後頸部などがそれで,いずれも体をよじるか,合わせ鏡でも使わなければ自分で見ることはできない.そのため,皮疹を見落としやすいばかりか軟膏も塗りにくく,痒みを激しく感じなくなった皮疹が治りにくいのであろう.このようなときには,気がつかずに残っている皮疹のあることを教え,「見えにくい部位なので自分一人で塗ろうとせず,時には家族の方に塗っていただくのも良いですね」とお話ししている.

 このように,皮疹はそこに正確に軟膏が塗られなければ治っていかず,手探りで塗っていてもそれほど良くはならない.背部の瘙痒疹で困っている患者さんに,患者さんがもっているのと同じ軟膏を塗ってみたら,「それまでの辛さが軽くなった」と言われたことがあった.飲み薬は飲み忘れなければよいが,軟膏は皮疹に適切に塗られなければ十分には効かない.遷延したり難治な湿疹病変を診たら,「痒いときにだけ,塗ってはいませんか?」とお尋ねしたり,軟膏を実際に塗って差し上げたりしている.

医療費

著者: 高橋英俊

ページ範囲:P.71 - P.71

今,日本では医療費削減の旗印のもと,年々患者さんの医療費負担が増してきている.以前から乾癬外来を受け持っている関係から数多くの乾癬患者と接してきて感じていることは,活性型ビタミンD3剤はそれほどでもないが,シクロスポリンを使用する機会が徐々にではあるが減ってきている点である.これは決して重症の患者さんが減ってきているわけではない.投与したくても高額な治療費となるため,患者さんのほうから拒否されることが多いからである.確かに,毎回の処方で2~3万円の治療費を払うことは並大抵のことではない.したがって,新規にシクロスポリンを処方する際には職業を聞き,身なりを見つつ頭の中で大体の年収を想定し,シクロスポリンについて切り出すことが多い.そして,説明を受けて飲んでみようかと思ってもその金額に驚き迷っている場合には,だまされたと思って1か月飲んでみては,とまるで相手の財産をねらう詐欺師のような調子で語ってしまうことがある.ちなみに最近処方した患者さんは,お坊さんと会社のお偉いさんであった.

 しかし例外があった.それは生活保護の患者さんである.彼らは医療費が全額補助されているため,シクロスポリンを処方しても何ら問題はないのである.このようなことを書いてはお叱り受けるかもしれないが,年齢,身なり,生活状況などを目の当たりにして,なぜこの人は生活保護の給付を受けられたのだろうかと,いささかの疑問を感じたことがあるのは小生だけなのだろうか? 決して生活保護制度が悪いとは思わないが,税金を納めているにもかかわらず高額医療のためシクロスポリン内服を我慢し,皮疹はひどい状態にもかかわらずいつも明るく振る舞っている患者さんを見ると,何か釈然としないものがある.考えてみれば小生の家庭においても,3人の子供は第二世代の比較的新しい抗アレルギー薬を内服しているが,小生と家内は薬価が10分の1の第一世代の抗ヒスタミン薬を使っている.こんなことをふと思ったのも,抗ヒスタミン薬で少し頭がボーッとしているせいなのだろう.(〒078-8510 北海道旭川市緑が丘東2条1丁目1-1)

大阪の患者さん

著者: 森脇真一

ページ範囲:P.78 - P.78

最近,長年勤務していた静岡から大阪に転勤となった.そして同じ日本であるのに,地域によって患者さんのキャラクターに大きな違いがあるのに改めて驚かされた.

 静岡の患者さんは,ゆったりと落ち着いて受診される方が多かった.医師の指示に,何ひとつ文句を言わずに従う方がほとんどであった.静岡では時間がゆっくりと進んでいた.広い土地,澄んだ空気,そして温暖な気候のせいだろうか.

日中皮膚科学会もう一つの楽しみ

著者: 菊池かな子

ページ範囲:P.89 - P.89

この増刊号は2006年4月発行予定とのこと,あるいは第9回日中皮膚科学会の演題募集は終了しているかも知れませんが,ちょっと紹介させていただきます.

 第7回,第8回と事務局を務めさせていただき,下見を含めてこの5年で4回中国に行ってきました.もともと私は神奈川県在住で,高校,大学は東京であったので横浜中華街は通学経路に近く,学生時代はかなり頻繁に通っていました.特に中国茶は大好きで,今でも多種類揃えて毎日飲んでいます.もちろんこの原稿もお茶を飲みながら(福建省産の大紅袍,岩茶)書いています.ご存知のように中国茶は種類豊富で,龍井茶のように日本の緑茶に似ているさっぱり系から,プーアール茶のようにかなり癖のある黒茶系までかなり味に幅があり,まず飽きがきません.龍井茶の場合,新茶を楽しむというのも日本茶と似ています.季節も同じくらいですね.第8回のあった昆明は雲南省にあり,ここはプーアール茶の産地として知られています.横浜中華街もそうですが,中国の茶小売店ではたいてい試飲ができるようになっており,気に入った茶を選ぶのは楽しいものです.

情報操作≠ムンテラ

著者: 門野岳史

ページ範囲:P.90 - P.90

この情報過多の世の中,自らの体験より得られる情報量は些少で,ほとんどの情報はメディアなどの他者に頼らざるをえない.新聞はまだしも週刊誌,ましてやインターネットとなると,そこで得られた情報の信憑性ははなはだ心許なく,他人からの伝え聞きも話半分にしておく必要がある.とはいえ自分が知らないことは無尽蔵であり,仕事や日常生活でのさまざまな局面においてその道の人の助言は欠かせないものである.卑近な例では何か商品を購入する場合,これには情報操作という側面があり,うっかりすると売り手の言いなりになって物を買う羽目になる.それなら,自分で勝手に選べばという話になろうが,あやふやな知識で適当に物を買ってもなかなかうまくいかない.中途半端な知識ではその分野の全体像が見えていないため,結果として生兵法は大怪我の元となる.

 最近,医師の患者に対する説明義務がよく問題にされ,患者主体の医療が求められている.これは患者さんに正確な病状を伝え,治療の選択肢を示し,自ら決断してもらうものだと理解している.医師なら誰でも患者さんに病状説明および治療の選択肢について説明することが多々あろう(いわゆるムンテラ).できるだけ主観を交えないよう複数の治療の選択肢を示すのであるが,今でも多くの場合は「先生にお任せします」もしくは「先生はどれがいいと思いますか?」となるため,あらかじめどの治療法を推奨するか決めておかないといけない.自分で治療法を選ぼうとする人も,説明すればするほどどの方法を選んだらよいのか迷ってしまい,最終的にはこちらからの誘導により治療法が決まることも多い.また,患者さん一人一人に応じて話す内容を吟味する必要があり,厳しめに病状を説明したり,逆にあまり悲観的にならないよう留意することもある.そういった意味でムンテラは情報操作の性格を帯びるし,必要悪の側面ももつが,だからといってその重要性が損なわれるわけではない.自分の病気のことをよく調べている患者さんは確かに増えてきている.しかし,いかに医療情報が世の中に氾濫しているとはいえ,これらの情報を統合して医療技術とともに患者さんが理解し納得ができるよう提供するのは医師の役目にほかならないと考えるし,そうありたいと思う.(〒113-8655 東京都文京区本郷7-3-1)

医学書籍

著者: 田村敦志

ページ範囲:P.90 - P.90

最近は皮膚科関連の書籍も年を経るごとに加速度的に増加して,学会の書籍コーナーは色とりどりでとても華やかになった.学会そのものにも教育講演的な内容が増加して,学ぶための環境はかなりのレベルまで整ったように感じられる.書籍には良いものがたくさんあるが,次々に新しいものが出版されるので,ちょっと欲しいものがあっても,もう少し待てばもっと安くて良いものが登場するのではないかといつも躊躇してしまう.まるで,テレビやパソコンなどの家電製品を買うかどうか迷っているときの心境だ.なかにはDVDの動画付きの優れものもあり,ハイテク技術を利用して,まさに手取り足取り親切なご指導である.将来,あらゆる手術を収録したビデオライブラリーから,インターネットを通じて欲しいビデオをダウンロードで購入し,慣れない手術や難しい手術の前日に動画を見て予習する時代がやってきそうな勢いである.少しだけ残念なのは,大部分の書籍が広い範囲を網羅したものか,あるいはメジャーな疾患を扱ったものであるため,内容的に類似しているものが多いことである.国内向けの本では購買者の数が限られるため,そうなるのはやむを得ないかもしれないが,例えばAckermanの著書「Neoplasms with Eccrine Differentiation」,「Neoplasms with Apocrine Differentiation」,「Neoplasms with Sebaceous Differentiation」などのように,マイナーな疾患をやたら詳細に記載したオタク的な本も登場して欲しいと思う.日本にもこのようなマニアックな本を書きそうな先生はいますよね……そうです.先生,あなたです.頑張ってください! 応援しています.(〒371-8511 前橋市昭和町3-39-22)

日頃の所感

著者: 池田高治

ページ範囲:P.131 - P.131

私は現在,和歌山県立医科大学皮膚科学教室に4年間大学院生として在籍した後,膠原病診療を内科学的な面から研鑽するべく,京都大学医学部免疫・膠原病内科に出向させていただいています.

 いざ内科に来てみると,なかなか皮膚科にいてはみられない症状を診察することになり,改めて膠原病の症状の多彩さに驚かされます.また,診断困難であったのに皮膚症状から診断できた症例などもあります.

いざという場合に

著者: 小出まさよ

ページ範囲:P.136 - P.136

私の勤務する病院では,年1回大掛かりな災害医療訓練が行われる.当日職員はトリアージ,軽症,中等症,重症などの班に割り振られ,赤十字のヘルメットをかぶり,それぞれのゾーン別に色分けされたベストを着用する.模擬患者になるのは看護学生たち.ガラスの破片が突き刺さるなどの特殊メイクをして本番さながらの彼らは,熱演のあまり本当に過呼吸を起こしてしまう人が出るほどである.

 皮膚科医は例年軽症班に配属されることが多く,主に多くの外傷の処置にあたってきた.ところが今年は医師数の減少のためか中等症班に配属された.次々に運び込まれるいかにもひどそうな外傷や,胸痛,煙を吸った呼吸苦などなど.限られた検査でどれを優先させるべきか,どんな応急処置が適当か,訓練とはいえ結構緊張した時間を過ごした.

皮膚の“現象”から思いめぐらすこと

著者: 浅越健治

ページ範囲:P.142 - P.142

皮膚疾患では,その疾患独自の病態や患者の遺伝的背景にもとづいて,種々の刺激により興味深い随伴症状や現象が引き起こされます.何々現象とか徴候と呼ばれるものは数多く,人の名前が付いたものだけでもKoebner,Auspitz,Nikolsky,等々たくさんあります.一度確立してしまえば当り前になってしまいますが,何気なく見逃してしまいそうな症状を,普遍的な現象として捉えるには眼力が必要です.現在では近代的検査法が次々と導入されて病態が解明されるとともに,新たな皮膚疾患の診断法や治療法が開発されてきています.私が皮膚科医になってからのおよそ15年でもその進歩はめざましく,皮膚科はいっそう楽しくなってきています.しかし,目で見て違いをばっちり見抜く力,そして考える力がその基盤として必要なのは言うまでもありません.

 Koebner現象は1876年にHeinrich Koebnerが記載したのが始まりだということです.最近私が研修に行った施設では,AGR129マウスという免疫抑制マウスを用いて乾癬の病態を研究していました.このマウスに乾癬患者の無疹部皮膚を移植すると,数週間で臨床的にも組織学的にも乾癬にきわめて類似した病巣が形成されます.この反応には移植した皮膚の中に常在するTリンパ球が必須で,さらにTNF-αをブロックすることで抑制されます1).これも一種のKoebner現象で,皮膚移植というtraumaticな操作が病変を形成させるのではないでしょうか.そしてそのkey factorがサイトカインの異常だけでなく,乾癬の無疹部の皮膚に常在するT細胞であることは意外でした.固定薬疹でもそうであるように,皮膚に常在するT細胞はいろいろな皮膚疾患で重要な役割をなしているのかもしれません.余談ですが,最近このモデルを使って,形質細胞様樹状細胞とインターフェロンαが乾癬の病態に深く関与することも証明されています2)

皮膚科医の新しい役割

著者: 松浦浩徳

ページ範囲:P.151 - P.151

薬疹の頻度は皮膚科外来患者の2%程度といわれており,比較的ありふれた疾患といえる.薬疹への対応は人によりさまざまだと思うが,処方されている薬剤について聴取し,これまでの薬疹の報告や,内服開始から皮疹出現までの期間などと照らし合わせる.さらに皮疹も評価したうえで被疑薬の検討や薬疹としての重症度を判断する.次に,絞り込んだ被疑薬の中止ないしは変更を主治医に依頼し,軽症と判断すれば外来で外用や内服による治療を行う,というのが一般的であろう.しかし,新しいタイプの薬剤の開発により,こういった対応がそぐわない例も多くなってきた.例えば,肺癌治療薬のゲフィチニブ(イレッサ (R))である.承認と同時に処方が急増したため,痤瘡様皮疹など多彩な皮膚症状を経験された先生方も多いのではないだろうか? この薬剤の場合,副作用として皮膚症状の頻度は高いがその他の重篤な副作用が少なく,症例によっては劇的な治療効果をもたらすために,副作用が通常の皮膚症状だけであれば内服はそのまま継続となる.つまり副作用としての皮膚症状が存在しても,使用を続ける薬剤なわけである.私自身も,皮疹が広範囲な場合や,患者さんの苦痛が強ければ主治医に休薬を依頼するが,通常は対症的に治療しながら経過を観察している.皮膚の症状がコントロールできる範囲内であれば,治療効果のほうを優先するのが患者さんの利益になると考えているためである.もちろん十分コントロールできていれば問題ないのだが,市中の病院で皮膚症状に対する十分な治療を受けずに治療を継続している患者さんを診察したこともある.聞いてみると「肺癌にはよく効いているのだから,皮膚の症状ぐらい我慢しなさい」と主治医に言われたとのこと.皮膚科医としては皮膚症状を軽く見られているようで内心穏やかではない.しかし,よく考えてみれば,私自身皮膚科の領域では学会報告をしても,他科の医師に役立つようにその情報や対処法を丁寧に説明したことや公開したことはないのだ.つまり,その主治医を責める資格は自分にはないのだった.今回たまたま,製薬会社がゲフィチニブの皮膚障害管理のパンフレットを作成する際に監修の一人として参加する機会を得た.幸いにして,完成したパンフレットは肺癌治療医に参考になると好評だったようであるが,それ以上に患者さんの利益につながる仕事ができたことはうれしかった.この経験から,新しい薬剤の皮膚症状の情報およびその対処法を,実際に処方している他科の医師に提供し,啓蒙することも皮膚科医の新しい役割ではなかろうかと考えるようになった.さらに,このような役割を果たしてゆくことは,結果的に皮膚科医の存在意義を増すことにもつながるのではないだろうか.(〒700-8558 岡山市鹿田町2-5-1)

うじの話

著者: 古賀千律子

ページ範囲:P.155 - P.155

 “うじ”といえば衛生害虫に属するハエの幼虫のことであり,「うじが湧く」イコール「不衛生」というイメージをもっている方が大半であろうと思う.実際,うじの湧くところは生ゴミや動物の屍体,排泄物など腐敗したものの上であり,成虫であるハエはサルモネラや赤痢菌,赤痢アメーバや各種の寄生虫,およびポリオウイルスを伝播することが知られる.また,最近ではO157や鳥インフルエンザウイルスの伝播の報告もある.

 まさに親子ともども“病原虫”なわけで,うじが生きた人間に湧いているのを実際に見ると,見た目がグロテスクなばかりか“毒”か何かをつけられているような感覚に陥り,早急に排除したくなる衝動に駆られる.実は先日,実際に生きた人間の足にうじが湧いた症例を経験した.その患者さんは認知症で,家庭ゴミを収集する趣味があり,自分の部屋にゴミを集めては溜めていた.家族も,いうことを聞かない母にあまり干渉せず,好きなようにさせていたとのことであった.当然ゴミからはうじが湧き,ハエが部屋中を飛び回っていた.その方は抗カルジオリピン抗体陽性で,下腿潰瘍があり,その治療で当院を受診されていたのだが,ある日「丸1週間1度も処置をさせてくれなかった」と家族が患者を連れてきた.処置をしようとガーゼを剝ぐってみると,なんとクリーム色の潰瘍面が波打っているではないか.よく見ると,それは長さ3~4mmほどのうじがひしめき合っている状態だったのである.知識不足でうじが潰瘍下に迷入していくのではないかという不安が湧いてきて,夢中でうじを取り除いたのだが,取り除いた後の潰瘍面をみると,うじがついていなかったほうの潰瘍面に比べて壊死組織の付着も少なく,その後の上皮化も比較的早かった.後で調べてみると,うじは新鮮な組織に迷入することはなく,壊死物質を消化酵素で溶かしながら液体を啜って栄養分にするらしい.これで潰瘍面のデブリードメントが行われたことになる.しかもそのアルカリ性の消化酵素が殺菌作用としても働くらしい.また,うじの蠕動運動が肉芽促進にプラスに働きかけ,上皮化も促進されるとのことである.実はこれはオーストラリアを中心に行われているMaggot Debridement Therapy (MDT)そのものであり,その起源は数千年前に遡る.現代では正式に潰瘍治療法として確立されている.もちろん治療で使用するのは医療用の無菌うじで,日本でも2005年4月に医療用のうじを飼育販売するJapan Maggot Companyが設立され,輸入うじよりも比較的安価で購入できるようになった.患者の了解さえ得られれば,禁忌例もなく,副作用もないため,特に抗生剤が効きにくいような症例などに試してみる価値はあるのではないかと思う.衛生害虫として忌み嫌われるハエの幼虫“うじ”ではあるが,医療が進んだ現代において,MDTが再評価されてきているのをみると,先人の知恵,侮れないと痛切に感じた.(〒807-8555 北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1)

最近経験した皮膚筋炎2症例

著者: 川内康弘

ページ範囲:P.159 - P.159

皮疹をもとに関連する全身病の存在を診断すると,患者さんや紹介(他科)医からは感謝,称賛され,ある意味で皮膚科医冥利に尽きる瞬間であるが,現実には皮疹は多彩・変化自在で,正しい診断を下すのは容易ではなく,私などは誤診や見逃しを繰り返しているのではないかといつも危惧している.しかし,多彩な皮疹を生じる全身病のなかでも,皮膚筋炎は比較的定型的な皮疹を呈することが多く,皮疹から診断のつきやすい全身病の一つである.

 この何か月かの間に2例の新患を診る機会があった.1例目は,近所の皮膚科,内科で「湿疹」といわれ,薬を塗っているが治らないといって来院された患者さんで,診察すると,手足や背部に典型的な皮膚筋炎の皮疹のほかに見事な「彫りもの」があった.若い頃からのヘビースモーカーで,この数か月咳嗽と血痰があるとのことで,早速胸部レントゲンを撮ると,素人の私でもわかる肺門部結節影と無気肺像があった.残念ながら進行した小細胞癌で,入院から4か月ほどで亡くなられたが,入院のときは「○○組」と大書した花輪や花束が個室を埋めていて,受け持ち医と一緒にビビリまくったが,幸い初診時に「先生は,わての皮疹を見るなり膠原病どころか癌も言い当てた名医でんなあ」との絶大な信頼を得ていたので,事なきを得た.この患者さんは,組長クラスの偉い方で,死を自覚しながらも終始気丈にふるまい,病院にも迷惑をかけないよう気を遣い,組のこともきれいに済ませてから亡くなられた.一度,入院中に,博多出張で2~3日病院を留守にしたことがあり,帰ってからそのことを伝えると,「なんや,前もって言っといてもらったら,ウチの若いモンに中州で世話させましたのに……」といわれ,こちらとしては苦笑いするしかなかったが,「いったいどんな世話?」と少し想像してしまったのを覚えている.2例目は,神経内科ですでに皮膚筋炎と診断され,プレドニン(R)を1日10mg服用していたが,あるとき萎縮性紅斑が急性増悪し,全身真っ赤に腫れて,痛みと痒みで夜も眠れないとのことで当科を紹介受診した患者さんである.外来でのステロイド外用は全く効果がなく,プレドニン(R)を30mgまで増量したがこれも効果なし.入院してもらい,きっちり外用すると多少落ち着いたが,やはり勢いは止まらない.セカンドチョイスとして,DDS75mgを内服してもらうと,幸いこれが著効して紅斑,腫脹は速やかに消退して色素沈着となり,自覚症状もきれいさっぱりなくなった.患者さんに感謝されたことはもちろんだが,もともと診ていたベテランの神経内科医がわざわざ電話をかけてきて「皮膚筋炎の患者は何人も診ているが,いままでレクチゾール(R)なんて薬は知らなかった.ほかの内科医も知らないと思うので,こんなに効くなら神経内科の雑誌に報告してくれ」と言われたのは,やはり皮膚科医冥利につきる瞬間であった.(〒305-8575 茨城県つくば市天王台1-1-1)

予知能力?

著者: 夏秋優

ページ範囲:P.162 - P.162

そもそも野生動物には,微妙な気象の変動などを敏感に察知して気候や環境の変化を予想する一種の予知能力が備わっているが,人間の場合,便利な生活に慣れてしまって動物としての予知能力は随分と低下(退化)しているだろう.それでも,急に妙な胸騒ぎがしたり,脈絡もなく思い出したことが,その直後に現実のものとなった場合に,「あれは虫の知らせだったのか」などと言うことがある.おそらくこれは,日々の体験に基づいて養われる一種の「勘」のようなものなのだろう.1回や2回なら誰にでも経験があるのではないかと思うが,私の場合,これが頻発しているような気がするので,もしや自分は超能力者か(!?),とさえ思うことがある.

 例えば,最近外来に来られなくなった患者さんをふと思い出して,「あの人はその後どうされているのかな」と気になった翌日に,なぜか久々にその患者さんが外来に現われる,とか,ちょっと経過が気になって次週に来院予定の患者さんのカルテを調べているときに,まさにその人から病状の変化や予約変更に関する電話がかかってくる,といったことがしばしば起こるのである.また,ふと手に取った皮膚科専門雑誌をパラパラと眺めていて,「ふーん,こんな病気があるのか」と感心していると,その翌日にその病気の患者さんが外来に現われてビックリすることもたびたびあった.

皮膚科医は研究をするべきか?

著者: 原田和俊

ページ範囲:P.168 - P.168

教授のご好意によりアメリカで研究生活を送る機会を得ることができた.貴重な体験をさせて貰えてとても感謝している.留学先は米国スタンフォード大学皮膚科に所属する研究室であった.この研究室のボスはKhavari教授という皮膚科臨床医であるものの,研究活動の主力であるポスドクはほとんどが医師免許をもたない基礎研究者であり,大学院生もすべてPhDコースに在籍し基礎研究者をめざす学生であった.皮膚科の研究室でありながら実質的には基礎医学の研究室と何ら変わらず,研究者たちはすべての時間を研究に費やしていた.

 翻って日本ではどうだろうか? 私が所属する皮膚科の研究室は,当然であるが研究はすべて皮膚科医が行っている.病棟で重症患者の治療をし,外来で患者の診察をする間のほんの少しの空き時間や,すべての仕事が終了した夜間や休日に実験が行われている.

陪席医の一日

著者: 杉田和成

ページ範囲:P.172 - P.172

やはり教授診を間近でみることのできる陪席医を経験することは有意義だと思います.具体的には,臨床,病理診断だけでなく,問診に始まり皮疹を観察するやり方,処方,必要な検査を的確にオーダーする等々です.しかしながら,診察時間内に教授診の難しい臨床や病理を理解するのは不可能です.教授診前日までには,処方内容や病理組織をチェックする,さらに難しい症例,貴重な症例があればそれらに関する文献を読み,また患者検体の解析結果もそろえておかなければなりません.

 いよいよ診察が始まれば,教授自ら処置,注射をし,時間が許せば生検,切除までもされる.また,皮膚症状に合わせた微妙な処方内容の変更も勉強になります.そういう診察医としての姿勢や手技,知識を大いに学んでいます.診察中,教授から「アトピーに合併した○○は何例くらいあった?」などと聞かれることもあるし,答えられるように準備しておかなければなりません.診察が終われば,夜は患者リンパ球の表面マーカー解析や培養が待っています.また,貴重な症例があれば論文も書かなければなりません.こうして陪席医の一日が終わるのですが,夜の研究は半分楽しみながらやっているのも事実です.

色あせないもの

著者: 吉益隆

ページ範囲:P.175 - P.175

私は2005年5月までの2年間,Case Western Reserve Universityがあるオハイオ州クリーブランドで留学生活を送った.クリーブランドは五大湖の一番南にあるエリー湖に面している.春から夏の季節は過ごしやすいが,冬は極寒で,外へ出れば息をするのも苦しいほどであった.クリーブランドはスポーツや文化の盛んな町である.アメフトではブラウンズ,メジャーリーグではインディアンズ,バスケットボールではキャバリアーズなどアメリカ三大スポーツのすべてのホームチームがあり,またクリーブランドオーケストラなど,全米でも有名なオーケストラもある.そのオーケストラを何度か聴きに行ったことがある.世界中から有名なピアニストなどプロの演奏家を招き,クリーブランドオーケストラと一緒に演奏するのである.冬の凍えそうな寒い夜でも,老若男女を問わず音楽好きのアメリカ人はドレスアップをし,定期的に開催されるオーケストラを楽しみに聴きに来ている.毎回,演奏が終わると全員が立ち上がり拍手喝采である.「ブラボー!」がホールのあちこちから連呼され,盛り上がりは最高潮である.その場で演奏したピアニストやオーケストラもすばらしいが,200年ほど前にベートーベンが作曲したクラシックの曲などが,今でも多くの聴衆を魅了する.色あせることのないこの輝きとはなんだろうと思った.ほんの一握りのものだけが世紀を超えて残り,そして高く評価されるのである.

 ジャンルは違うが,医学ではどうか.現代医学は日進月歩の進化を遂げているが,その背景には昔の医人の施した功績の積み重ねが基盤としてある.われわれの地元,和歌山出身の華岡青洲は200年前にマンダラゲ(真っ白な大きな花)を用いて,世界で初めて全身麻酔による乳癌の手術を成功させた.そのマンダラゲの花は現在,和歌山医大のシンボル(学章)となっている.自分がしている仕事や研究が果たして,100年後や200年後はどのように医学に貢献できるであろうか.自然淘汰される生物種のように消えていくかもしれないし,何らかの形で残っているかもしれない.“今は昔”になるのは間違いないが,未来の医療者や研究者たちの仕事につなげていけるような,色あせることのない仕事をしたいものである.(〒641-0012 和歌山市紀三井寺811-1)

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?