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文献詳細

雑誌文献

臨床皮膚科60巻5号

2006年04月発行

文献概要

Derm.2006

塗らなくていい外用薬

著者: 加藤則人1

所属機関: 1京都府立医科大学大学院医学研究科皮膚病態制御学

ページ範囲:P.18 - P.18

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数年前から秋が深まると皮膚が乾燥して痒くなり,クリスマス辺りには貨幣状湿疹がいくつもできるようになった.病院では患者さんのために暖房を強くしているので,なおさら皮膚が乾燥しやすくなる.仕事から帰って,入浴後に全身に保湿剤を塗ってさらに湿疹にステロイドを塗れば,その夜は痒みを感じずに眠れる.しかし,翌日の昼過ぎにはまたムズムズと全身が痒くなってきて,午後の外来では「先生も湿疹ですか?」と患者さんにいわれて初めて,スネをポリポリ搔きながら診察している自分に気付く始末.帰りが遅くなった日など,面倒になって薬を塗らないでいると痒みのために寝付けない,という日々が毎年4月半ばまで続く.この経験をしたことで,「毎晩塗り薬を全身に塗るのって本当に大変だなー」とつくづく感じ,何年もの間休みなく薬の外用を続けている患者さんには,心の底から敬意の念をもちつつ外用の指導をするようになった.「1日2回塗って下さいね」というのは簡単で,1日1回の外用よりも効果があるというエビデンスが数多くあることもわかってはいるが,仕事や通学に忙しい日々を送っている患者さんには「顔だけなら朝も塗れますか?」「休みの日だけでも朝晩塗りましょうか」と弱気な外用指導になってしまう.

 EBMは,決して文献検索の結果に従って画一的にマニュアル化された診療を行うということではなく,文献検索で得られたエビデンスに関する認識を医師と患者が共有して,医師の医療上の経験およびそれ以外のさまざまな人生経験,患者の価値観や生活を洞察する力を統合して診療方針を決断する手段である.ならば私の弱気な外用指導もギリギリ許してもらえるのではと願いつつ日々の診療をしている.今冬の痒みは例年に増して強く,後厄を迎えた私の肌は着々と老化しているようだ.お湯をかけるように薬をさっと皮膚に流すと湿疹のところにだけ薬が結合して吸収され効果を発揮する,塗らなくていい外用薬の登場を待ち望んでいる.(〒602-8566 京都市上京区河原町広小路梶井町465)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1324

印刷版ISSN:0021-4973

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