文献詳細
文献概要
Derm.2006
嘘も方便?
著者: 生駒晃彦1
所属機関: 1京都大学医学部皮膚科
ページ範囲:P.22 - P.22
文献購入ページに移動私は決して美容に興味がないわけではない.QOLを良くする医療にかかわりたいと思っており,痒みの研究をさせていただいているのも原点はその気持ちからである.美容もQOLの観点から意義ある分野だと思う.個人的には歳とともに出てくるシワやシミもその人の味わいでありいいものだと思うが,多くの女性は少しでも若く見られたいようである.容姿が若々しくなることで気持ちが晴れやかになり,その人に活力を与えるのであればいいことである.しかし,それは自分を見て誰かが美しいと思ってくれることを期待しているからであって,もしこの世の中に自分一人しかいなくて自分の容姿を評価してくれる人が誰もいなければ,若々しくありたいと思うであろうか? それを逆手に取るわけではないが,シミなどの相談をされるご婦人がたには,いつもある“処置”を施すことにしている.「先生,このシミ,なんとか取れないですかねぇ?」とくれば,顔を近づけてそのシミをよく見てからこう言う.「はいはい,確かによく見るとありますねぇ.でも言われるまで全然気がつきませんでしたよ.それにしても○○さん,実にきれいなお肌でいらっしゃる.」すると決まってこういう反応が返ってくる.「あらやだ.先生,そんなお世辞を言わないでくださいよ.」そこで真顔でだめ押しをする.「実際のご年齢よりもずっと若く見えますねぇ.ぜひ自信をもってください.」ご婦人がたは嬉しそうにケタケタ笑う.患者に嘘をついてはいけないと思う.でも,美しいか否かに嘘も真実もない.美しいと思えば美しいのである.この話をすると妻がこう言った.「わたしにもそう言ってよぉ」……なぜだか妻には言いにくい.(〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町54)
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