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アメリカで皮膚科医になって(8)―From Japan to America:American Life as a Physician-Scientist
著者: 藤田真由美1
所属機関: 1コロラド大学皮膚科
ページ範囲:P.532 - P.533
文献購入ページに移動 保健会社によって治療法が変わる
(Medical Decision Affected by Insurance)
以前にアメリカの医療保険は多種類あることを説明したが,同じ保険会社でも多種の保険があり,個々の保険によってカバーする診療内容,検査,薬,手術が異なるし,カバーする金額も異なる.ある保険会社のある保険では,この治療法をカバーするけれども,別の保険や別の保険会社ではカバーしない.この保険制度を無視して医療を行うと,莫大な医療費が保険でカバーされないので大変なことになる.投薬の場合には,保険がきかないと電話がかかってきて,別の安い薬に変えないといけなかったり,必要性を証明する書類を書かないといけなかったりする.
これが実際に患者さんの医療にどう影響するかを,実例をもとに検討しよう.私は乾癬外来をもっているので,重症の乾癬患者さんを診る機会が多い.これらの患者さんは,外用薬,光線療法では治療しきれないので,内服や注射が必要になる.例えばメソトレキセートを処方するとしよう.処方量にもよるが,だいたい1か月30~40ドルになる.保険Aでは,投薬1種につき,患者負担は10ドル(1,000円ちょっと)であるのに対し,保険Bでは,10~20%であったりする.保険Bのほうが毎月の保険料の掛け金は少ないことが多い.メソトレキセートを1か月30ドルとした場合,保険Aでは10ドルの支払い,保険Bでは3~6ドルの支払いとなる.保険Bのほうが毎月の掛け金は少なく,メソトレキセートの患者負担額も安く,お得のように思える.では,この患者がメソトレキセートが効かなかったり,副作用が出たり,また長期投与されていて他の薬に変える必要が出てきた場合はどうだろう.例えばシクロスポリンを投与するとしよう.これは1か月400ドルぐらいの薬である.保険Aの患者は10ドルの支払い,保険Bの患者は40~80ドルの支払い,と立場は逆転する.さらに,今流行の注射薬エンブレルの場合,保険会社の対応,患者負担額はまさに多種多様である.この薬は1か月2,500ドル近くかかるのであるが,保険Aの患者はそれでも10ドルの支払いで済み,保険Bの患者は250~500ドルの支払いとなる.こうなると,保険Aのほうが掛け金が少し高くても高額医療のときの患者負担が少なく,安心して最新の高い治療を受けられるということになる.さらにメディケア(老人医療)では20%負担なので,この注射薬エンブレルの場合,500ドル(5万円近く)が持ち出しとなり,第2の保険をもっていない老人にとっては夢の薬となってしまう.また,ある保険では,患者さんが別の内服薬(メソトレキセートやシクロスポリンなど)でも治らなかったり副作用が出てだめだったという証明がないとエンブレルの処方は認められなかったり,さらにひどくなると,エンブレルは保険会社のデータベースに入っていないので,有効性を証明する論文を提出せよなどと言ってくる.これらの障害により,治療法を変更して別の内服薬を投与しないといけないことが往々にしてある.メディケアの場合,エンブレルのような注射薬は20%負担だが,メソトレキセートやシクロスポリンのような内服薬は全額自己負担であるため,今度は患者さんのほうが高いシクロスポリンよりも安いメソトレキセートを処方してくれと言う.
(Medical Decision Affected by Insurance)
以前にアメリカの医療保険は多種類あることを説明したが,同じ保険会社でも多種の保険があり,個々の保険によってカバーする診療内容,検査,薬,手術が異なるし,カバーする金額も異なる.ある保険会社のある保険では,この治療法をカバーするけれども,別の保険や別の保険会社ではカバーしない.この保険制度を無視して医療を行うと,莫大な医療費が保険でカバーされないので大変なことになる.投薬の場合には,保険がきかないと電話がかかってきて,別の安い薬に変えないといけなかったり,必要性を証明する書類を書かないといけなかったりする.
これが実際に患者さんの医療にどう影響するかを,実例をもとに検討しよう.私は乾癬外来をもっているので,重症の乾癬患者さんを診る機会が多い.これらの患者さんは,外用薬,光線療法では治療しきれないので,内服や注射が必要になる.例えばメソトレキセートを処方するとしよう.処方量にもよるが,だいたい1か月30~40ドルになる.保険Aでは,投薬1種につき,患者負担は10ドル(1,000円ちょっと)であるのに対し,保険Bでは,10~20%であったりする.保険Bのほうが毎月の保険料の掛け金は少ないことが多い.メソトレキセートを1か月30ドルとした場合,保険Aでは10ドルの支払い,保険Bでは3~6ドルの支払いとなる.保険Bのほうが毎月の掛け金は少なく,メソトレキセートの患者負担額も安く,お得のように思える.では,この患者がメソトレキセートが効かなかったり,副作用が出たり,また長期投与されていて他の薬に変える必要が出てきた場合はどうだろう.例えばシクロスポリンを投与するとしよう.これは1か月400ドルぐらいの薬である.保険Aの患者は10ドルの支払い,保険Bの患者は40~80ドルの支払い,と立場は逆転する.さらに,今流行の注射薬エンブレルの場合,保険会社の対応,患者負担額はまさに多種多様である.この薬は1か月2,500ドル近くかかるのであるが,保険Aの患者はそれでも10ドルの支払いで済み,保険Bの患者は250~500ドルの支払いとなる.こうなると,保険Aのほうが掛け金が少し高くても高額医療のときの患者負担が少なく,安心して最新の高い治療を受けられるということになる.さらにメディケア(老人医療)では20%負担なので,この注射薬エンブレルの場合,500ドル(5万円近く)が持ち出しとなり,第2の保険をもっていない老人にとっては夢の薬となってしまう.また,ある保険では,患者さんが別の内服薬(メソトレキセートやシクロスポリンなど)でも治らなかったり副作用が出てだめだったという証明がないとエンブレルの処方は認められなかったり,さらにひどくなると,エンブレルは保険会社のデータベースに入っていないので,有効性を証明する論文を提出せよなどと言ってくる.これらの障害により,治療法を変更して別の内服薬を投与しないといけないことが往々にしてある.メディケアの場合,エンブレルのような注射薬は20%負担だが,メソトレキセートやシクロスポリンのような内服薬は全額自己負担であるため,今度は患者さんのほうが高いシクロスポリンよりも安いメソトレキセートを処方してくれと言う.
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