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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科60巻8号

2006年07月発行

雑誌目次

連載

Dermoscopy Specialistへの道Q&A(第28回)

著者: 斎田俊明 ,   古賀弘志

ページ範囲:P.657 - P.659

Qどんなダーモスコピー所見が認められますか?診断は何でしょう

臨床情報

 69歳,女性.以前,顔面の基底細胞癌を治療された既往がある.約1年前,前額部に小さな結節が2個生じているのに気づいた.その後,少し増大してきたような気がする.

 初診時,前額の中央部と右側部に常色から淡黄白色調の小結節が2個認められた.表面は平滑で,中央部がわずかに陥凹している(図2).右側の大きさ2.5×2mmの結節を全摘生検した.

アメリカで皮膚科医になって(10)―From Japan to America:American Life as a Physician-Scientist

著者: 藤田真由美

ページ範囲:P.758 - P.759

 医療費報酬 (Medical Bill)

 さて,診察が終了しすべての書類が提出されると,保険会社は書類審査をした後,問題がなければ医療費を支払う.ところが,この医療費に関するトラブルは後を絶たない.なんといっても高いので,保険会社はなるべく払いたくないのが本音であろう.前回にも書いたように,事前に保険会社の承諾をとっていないと,どんなに正当な治療や処置であっても支払われなかったり,高額な治療は安いものに変えられたり,治療費支払いの上限が決まっていたり,必要性を証明する書類を請求したりして支払いを先延ばしにして手続きを煩雑にする,などいろいろある.ジョン・グリシャムの小説で映画にもなった「レインメーカー」では,マット・デーモン扮する新米弁護士が保険会社を相手に白血病のドニーのために裁判を起こす.ドニーは骨髄移植しか生きる道はないが,彼の入っていた保険会社は承諾してくれないのである.その後,保険会社の元秘書が,すべての請求をまず却下するよう社員教育されていた裏話を裁判にて暴露し,ドニー側は勝訴するが,その判決を聞く前にドニーは死んでしまう.

 アメリカの保険医療費は,病院と医師の両方に対して支払われ,病院施設料(ホスピタルフィー)は病院に直接支払われるが,医師医療費(ドクターフィー)は,コロラド大学ではUPI(University Physicians, Inc)という会社に支払われる.UPIは,大学病院とは全く別個の,大学病院医師のための会社であり,皮膚科だけでなく,全科の医師の医療費収入を管理している.このUPIから,コロラド大学へ一定額が入金され,グラント(研究助成金)やその他のお金と合わせた後,大学から毎月私のもとへ一定の給料が支払われるという仕組みになっている.そのUPIから毎月,電子メールで自分の外来の報告書(自分の診察した患者の名前,保険会社の情報,診察内容と請求金額,保険会社からの支払い)が送られてくる.はじめのころは,その診察料と処置料が高額なのにやはり驚いた.紹介患者の顧問診察料はレベル3(たいていの皮膚科診察はレベル1~5のうちの3である)で178ドル,再診料は68ドルか111ドルである.日光角化症に液体窒素を使えば,最初の部位は65ドル,2個目からは1個17ドルで,15個以上を治療すると一律302ドルとなる.しかし,もっと驚いたことには,この金額はドクターフィーで,ホスピタルフィーはなんとこの金額の約3~4倍という.確かに,医師1人に対し,レジデントとスタッフの数は3~4倍もいるし,病院の立派な建物を見ても,お金がかかっているのがわかる.しかし,保険会社は私の請求額(ドクターフィー)の約4~5倍を支払わないといけないなんて,どうりで保険会社が支払いを渋るわけだ,と妙に納得する.

原著

抗アレルギー薬を併用した標準的薬物療法がアトピー性皮膚炎患者の痒みとQuality of Life (QOL)に及ぼす影響に関する調査

著者: 川島眞 ,   原田昭太郎

ページ範囲:P.661 - P.667

要約 アトピー性皮膚炎の標準的薬物療法に経口抗アレルギー薬を連続あるいは間欠的に併用した場合の痒みとQOLに及ぼす影響を調査した.登録した1,183例中,塩酸オロパタジンが投与された1,094例について検討した.痒みの再発がなかった症例の割合は,連続投与群では間欠投与群に比べて有意に高かった.痒みのVASスコアにおいて,連続投与群は間欠投与群より有意に低く推移し,痒みがより抑制された.Rajka&Langelandの重症度分類では,連続投与群で4週目,間欠投与群で6週目から有意に重症度スコアが低下した.Skindex-16を用いたQOL調査では,連続投与群では感情面と機能面,間欠投与群では感情面で有意にQOLが改善した.ステロイド外用薬に関しては,連続投与群のほうがランクの低いステロイド外用薬への変更が多く認められた.以上のことから,経口抗アレルギー薬を連続して使用することにより,痒みの抑制効果および消失状態の持続が認められ,患者のQOLにも良好な影響を及ぼすことが示された.

今月の症例

鱗状毛包性角化症(土肥)の2例

著者: 堀内祐紀 ,   神田憲子 ,   檜垣祐子 ,   川島眞

ページ範囲:P.668 - P.671

要約 症例1:36歳,女性.半年前より側腹部に毛孔一致性で白色調の鱗屑を付着する小豆大の皮疹が出現し,徐々に増数した.症例2:50歳,女性.2か月前より,中央に黒点を有し鱗屑を付着する皮疹が背部に出現し,腹部,大腿にも拡大,増数した.病理組織所見は,いずれも毛包漏斗部が囊状に拡大し,その内部には角質が充満し,細菌と思われる顆粒状物質を含んでいた.また,毛包周囲には角質の肥厚を認めた.毛包内容の細菌培養にてcoagulase-negative Staphyloccocusが検出された.鱗状毛包性角化症(土肥)と診断し,2例とも塩酸ミノサイクリンの内服を開始したところ,3週間ほどで皮疹は軽快した.

症例報告

Osler病の1例

著者: 水野愛 ,   松下明子 ,   八木伸江 ,   水野立也 ,   丸山俊秀 ,   高森建二

ページ範囲:P.673 - P.676

要約 47歳,男性.20代より反復する鼻出血を認めていた.下血,吐血を主訴に緊急入院し,上部消化管内視鏡で,胃に潰瘍と毛細血管拡張を認めた.また,口唇,舌,口腔粘膜,右第3,4指尖,右第5指爪甲下に点状毛細血管拡張がみられた.病理組織学的には真皮上層の血管拡張と増生が特徴的であった.家族歴は不詳であったが,Osler病と診断した.

自己免疫性溶血性貧血を合併したepisodic angioedema associated with eosinophiliaの1例

著者: 宮本はるみ ,   寺澤直子 ,   小西啓介 ,   植田知代子 ,   園部正信

ページ範囲:P.677 - P.680

要約 71歳,女性.1か月前より両下腿に浮腫および蕁麻疹様紅斑が出現し,体重が5kg増加した.2003年5月,初診時血液検査ではWBC52,400/μl,好酸球48,732/μlと好酸球が著明に増加していた.左下腿の病理組織像では,真皮の浮腫と血管周囲に好酸球を主体とした炎症細胞浸潤を認めた.以上よりepisodic angioedema associated with eosinophiliaと診断した.その後,トシル酸スプラタスト300mg/日,フマル酸ケトチフェン2g/日にて症状は軽快した.しかし,7月下旬より貧血症状が出現し,血液内科にて自己免疫性溶血性貧血と診断された.Hbの低下と並行し,好酸球の上昇および体重増加の再燃も認めたため,プレドニゾロン(PSL)40mgを投与された.その後症状は軽快しPSL漸減中である.

慢性リンパ性白血病に合併した水疱性類天疱瘡の1例

著者: 紺野隆之 ,   木根淵智子 ,   冨田恭子 ,   三橋善比古 ,   近藤慈夫

ページ範囲:P.681 - P.683

要約 71歳,男性.1994年より慢性リンパ性白血病にて無治療で経過を観察中である.2003年12月頃より体幹を中心に紅斑が出現した.2004年3月には水疱もみられるようになった.体幹,四肢に米粒大から鶏卵大までの紅斑と,両前腕および両手掌に水疱を認めた.病理組織像は表皮下水疱で,蛍光抗体直接法では表皮真皮境界部にC3が沈着していた.抗BP180抗体陽性.慢性リンパ性白血病に合併した水疱性類天疱瘡と診断した.プレドニゾロン30mg/日内服で,水疱新生が治まらず,ニコチン酸アミド1,200mg/日,塩酸ミノサイクリン200mg/日内服の追加で水疱新生が抑制された.慢性リンパ性白血病は自己免疫性溶血性貧血,関節リウマチやSLEなどの自己免疫性疾患との合併があるが,水疱性類天疱瘡との合併はこれまで4例であり,稀な症例と考えた.

Hallopeau 稽留性肢端皮膚炎汎発型の1例

著者: 八町祐宏 ,   松原麻貴 ,   吉澤さえ子

ページ範囲:P.684 - P.686

要約 71歳,男性.初診5か月前より手指,手掌に紅斑,鱗屑が出現した.その後,両手第1・3・4指爪甲下に膿疱が出現し,爪甲が一部脱落した.瘭疽と考え,抗生剤で治療したが,体幹・四肢に膿疱を伴った鮮紅色の紅斑が広範囲に出現した.腹部膿疱の細菌培養は陰性.病理組織でKogojの海綿状膿疱を認めた.臨床像・組織像より汎発化したHallopeau 稽留性肢端皮膚炎と診断し,エトレチナート50mg/日およびベタメタゾン3mg/日内服で治療を開始し,皮疹の軽快をみた.

Narrow band UVB療法が有効だった慢性苔癬状粃糠疹の1例

著者: 三浦貴子 ,   尾山徳孝 ,   川上佳夫 ,   中村晃一郎 ,   金子史男

ページ範囲:P.687 - P.689

要約 3歳,女児.2歳頃から体幹,四肢に紅色から褐色の丘疹が出現し,ステロイド外用で加療されたが改善しなかったため,当科を受診した.丘疹の表面には粃糠様の鱗屑を付着しており,発熱やリンパ節腫脹はなかった.腹部の褐色丘疹の病理組織像では,表皮は不全角化を伴って肥厚しており,軽度の海綿状態とリンパ球の表皮内侵入を認めた.真皮上層では血管周囲にリンパ球を主体とする細胞が浸潤していた.浸潤細胞の明らかな異型性はなかった.以上より,慢性苔癬状粃糠疹と診断し,ステロイド外用療法にnarrow band UVB照射療法を併用したところ,皮疹は速やかに改善した.本疾患でnarrow band UVB照射療法が有効である可能性が示唆された.

色素沈着を契機に診断に至った特発性Addison病の1例

著者: 藤田靖幸 ,   松村和子 ,   村田純子 ,   吉田昌弘 ,   和田典男

ページ範囲:P.690 - P.693

要約 18歳,男性.初診の7か月前から口唇に色素斑を生じ,次第に拡大してきた.平坦で均一な色調の褐色~黒色斑が,口唇・口腔粘膜・舌に多発・融合していた.軽度の倦怠感を伴っていたが,明らかな体重減少・発熱・低血圧はなかった.血液検査にて血中ACTH高値,血中コルチゾール低値であった.色素斑からの皮膚生検では,著明なメラノサイトおよびメラニン色素がみられた.迅速ACTH負荷試験・連続ACTH負荷試験にて,いずれもコルチゾールは無反応であった.画像検査で副腎の腫大・石灰化はなく,特発性Addison病と診断した.Addison病の色素沈着は本症例のごとく初発症状になり,皮膚科受診から本症の診断に至ることもある.特徴的な色素沈着を診察した際には,注意深く診療を進めることが必要である.

難治性の高γグロブリン血症性紫斑病を伴ったSjögren症候群

著者: 菅野恭子 ,   小松成綱 ,   伊部昌樹 ,   橋本喜夫 ,   飯塚一

ページ範囲:P.694 - P.697

要約 68歳,女性.1996年からSjögren症候群の診断を受け加療されていた.1998年2月頃から下肢に紫斑が出現した.高γグロブリン血症,リウマチ因子陽性,クリオグロブリン陽性などの検査値異常がみられた.組織学的にleukocytoclastic vasculitisの像を認め,蛍光抗体法直接法では真皮血管壁にC3が沈着していた.IgA-κ型M蛋白を認め内視鏡検索の結果,胃アミロイドーシスも合併していた.メルファラン-プレドニゾロン療法(MP療法)1クールにて高γグロブリン血症,下腿の紫斑はいずれも著明に改善した.

Atypical benign fibrous histiocytomaの1例

著者: 森原潔

ページ範囲:P.698 - P.700

要約 30代,男性.約12年前から右大腿後面にドーム状の結節を自覚していたが,症状がないため放置していた.腫瘍は徐々に拡大し有茎性となってきたため当科を受診した.腫瘍は,核分裂像はほとんどないものの,異型な核を有する紡錘形細胞,組織球様細胞で構成されており,巨大な核をもつmonster cellsがみられた.腫瘍細胞の壊死した所見も認められた.以上の所見から自験例をatypical benign fibrous histiocytomaと診断した.

Atypical fibroxanthomaとの鑑別を要した有棘細胞癌

著者: 杉田和成 ,   西尾大介 ,   山田壮亮 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.701 - P.703

要約 80歳,男性.初診の3か月前より,右耳前部に紅色皮疹が出現.近医で排膿,抗生剤投与を受けた.当科初診時,右耳前部に径7mm大の境界明瞭なドーム状紅色結節があり,中央に痂皮が付着していた.病理組織学的に奇怪な核を有する類円形の腫瘍細胞が充実性に増殖し,免疫組織化学的にビメンチン陽性,AE1/AE3(ケラチン1~8,10,14~16,19)陰性で,atypical fibroxanthomaと思われた.しかし,腫瘍は一部ではあるが表皮から真皮へ連続性をもって増殖し,しかもシート状の胞巣を形成していた.中間径フィラメントの染色態度は上皮系腫瘍とは異なるものの,過去の同様の報告と照らし合わせ,有棘細胞癌と診断した.

腋臭症治療後の慢性放射線皮膚炎に生じた基底細胞癌の1例

著者: 坂元花景 ,   西村幸秀 ,   花田圭司 ,   奈良武史 ,   竹中秀也 ,   岸本三郎 ,   森島陽一

ページ範囲:P.704 - P.706

要約 83歳,女性.約50年前,腋臭症の治療目的で放射線照射を受け,両腋窩は多形皮膚萎縮症を呈していた.数年前より右腋窩に周堤状に隆起する潰瘍を伴った腫瘤が生じ,徐々に増大するため受診した.慢性放射線皮膚炎に生じた基底細胞癌と診断し,右腋窩の皮膚悪性腫瘍切除術,分層植皮術を施行した.文献的に,最近20年間とそれ以前の60年間の悪性腫瘍を生じた慢性放射線皮膚炎患者について検討した.その結果,照射の対象となった原疾患における良性疾患の割合は,約60%で変化していなかった.また,合併する悪性腫瘍のなかでは,基底細胞癌の割合が増えていることがわかった.

食道癌による顔面の転移性皮膚癌の1例

著者: 増田邦男 ,   白濱茂穂

ページ範囲:P.707 - P.709

要約 64歳,男性.化学療法中の食道癌患者の左頰部に,紅色丘疹が出現し次第に増大し,結節状になった.皮膚病変の組織像は食道癌と同様で,皮膚転移と診断した.また鼻腔内にも転移が認められた.皮膚転移巣は切除されたが,患者は3か月後に死亡した.食道癌の皮膚転移は稀だが,そのなかでは顔面,特に鼻尖部への転移が比較的多くみられる.

右母指への皮膚転移で発見された腎細胞癌の1例

著者: 石田祐哉 ,   是枝哲 ,   宮地良樹 ,   東新 ,   中村英二郎 ,   小川修

ページ範囲:P.710 - P.712

要約 66歳,男性.1年前より右母指に疼痛・腫脹などの炎症症状を繰り返していた.爪下に腫瘍を認め,グロームス腫瘍を疑われ当科を受診した.初診時,右母指爪下に易出血性の小豆大の赤褐色腫瘍を認めた.組織学的には淡明な細胞質をもつ上皮細胞が索状,胞巣状に増殖しており,転移性皮膚腫瘍が疑われた.腹部CTにより腎細胞癌と診断され,指尖部腫瘍は皮膚転移と診断し,腹腔鏡下左腎摘出術および指切断術を行った.腎細胞癌の場合には,皮膚転移もしくは他臓器転移が存在している進行例であっても,まず非治癒切除術を行った後に免疫療法を行っていることが少なくない.進行例でも原発臓器によっては手術が考慮されることは知っておくべきことである.

家族性悪性黒色腫の1例

著者: 下村尚子 ,   下村裕 ,   須山孝雪 ,   高塚純子 ,   伊藤雅章 ,   竹之内辰也 ,   高橋美千代 ,   田中正明 ,   清原祥夫

ページ範囲:P.713 - P.716

要約 17歳,女性.患者の母,母方のはとこ,母のいとこが,いずれも悪性黒色腫で死亡している.右下腿の黒色腫瘍が急速に増大してきたため当科を受診した.初診時,12×12mm大の不整形で軽度隆起性の腫瘍を認めた.画像検査では遠隔転移,リンパ節転移ともに認められなかった.拡大切除術およびセンチネルリンパ節生検術を行い,組織学的に悪性黒色腫(pT2aN0M0 stageIB)と診断し,術後DAV Feron療法を5クール施行した.また,四肢,体幹に褐色~黒色調の色素斑が散在し,計24個の切除を施行したところ,うち22個が悪性黒色腫であった.患者血清を用いた遺伝子解析では,CDKN2A,CDK4ともに変異はみられなかった.

下腿に生じた巨大平滑筋肉腫の1例

著者: 森志朋 ,   森康記 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英 ,   本庄省吾

ページ範囲:P.717 - P.719

要約 75歳,男性.約10年前より左下腿に腫瘤が出現していたが放置していた.以後,転倒などの外傷を繰り返していた.初診時,左下腿に14×13cm大の表面に凹凸不整の潰瘍局面を有する巨大腫瘤がみられた.病理組織検査で異型細胞が稠密に増殖し,索状から花むしろ状を呈し,一部は筋組織に連続していた.免疫染色ではα-SMA抗体染色陽性であり,平滑筋肉腫と診断した.

多彩な皮疹を呈し,PUVA-bath療法が有効であったCD8陽性菌状息肉症の1例

著者: 横内麻里子 ,   木村佳史 ,   谷川瑛子 ,   高橋愼一 ,   石河晃

ページ範囲:P.720 - P.724

要約 25歳,男性.12歳時より軀幹・四肢に鱗屑を伴う紅斑が出現し,徐々に増悪した.左上肢には血疱,潰瘍,痂皮を伴う紅斑局面を,体幹には鱗屑を伴い浸潤を触れる紅褐色局面を散在性に認め,下肢には色素沈着局面がみられた.画像上,内臓臓器には異常所見はなかった.病理組織像では真皮浅層から中層にかけて異型リンパ球の稠密な増殖があり,表皮内へ軽度浸潤していた.浸潤細胞は免疫組織学的に,CD8陽性,CD4陰性であり,TCRβ鎖,γ鎖遺伝子再構成を認めた.PUVA-bath療法およびステロイド外用療法が有効であり,潰瘍は色素沈着を残し軽快した.

精巣腫大にて発症し,皮膚浸潤をきたしたNK/T cell lymphomaの1例

著者: 北村華奈 ,   浅田秀夫 ,   小林信彦 ,   新関寛徳 ,   宮川幸子 ,   団野大介 ,   中村忍 ,   中峯寛和 ,   野々村昭孝

ページ範囲:P.725 - P.728

要約 57歳,男性.2004年7月頃より,左精巣の腫大を自覚していた.8月,MRIで両精巣腫大と右腎の径4 cmの腫瘤形成を認め,左高位精巣摘出術と腎生検の結果,NK/T cell lymphomaと診断され,化学療法を施行されていた.9月頃より軀幹,四肢に赤色丘疹,指頭大から貨幣大の紅斑が多発した.2か月後,紅斑は浸潤を伴い,一部に腫瘤を形成した.組織学的に,真皮上層から脂肪織にかけて異型リンパ球が密に浸潤し,核破砕物およびbean bag cellも散見された.一部で腫瘍細胞は血管中心性の浸潤パターンを示し,動脈壁の変性,壊死像を認めた.elastica van Gieson染色で内外弾性板の断裂および消失もみられた.異型リンパ球はCD56(+),CD3ε(+),TIA-1(+)を示し,一部はグランザイムB(+),一方,UCHL-1(-),CD4(-),CD8(-),CD20(-)であった.また,EBウイルス感染の検索ではin situ hybridizationでEBER発現が陽性で,抗体価は既感染パターンを示していた.

経過中に下肢に特異疹が出現した慢性骨髄性単球性白血病の1例

著者: 山城栄津子 ,   半仁田優子 ,   山本雄一 ,   中里哲郎 ,   野中薫雄

ページ範囲:P.729 - P.732

要約 53歳,男性.2003年5月に慢性骨髄性単球性白血病(CMMoL)と診断され,輸血のみの対症療法の経過中,下肢に自覚症状のない米粒大の丘疹,母指頭大の結節性病変が多発,急速に拡大した.組織学的には真皮から脂肪織にかけて密な核異型のある腫瘍細胞が浸潤し,表皮および真皮乳頭層には細胞浸潤はなかった.表面マーカー検索ではCD4,CD8,CD19,CD20すべて陰性で,myeloperoxidase染色が陽性であることよりCMMoLの特異疹と診断した.CMMoLの特異疹は1985年以降19例の報告があり,平均年齢67.4歳,皮疹出現後の生存期間は平均7.2か月,皮疹の性状は丘疹型が多く,分布は四肢,体幹などに多発する例が多い.自験例は下肢伸側に限局し,特異疹の中では稀な臨床像といえる.化学療法は行わず輸血のみ施行し,同年10月に敗血症で死亡するまで特異疹は不変であった.

ウサギから感染したArthroderma benhamiaeによる体部白癬

著者: 藤田繁 ,   望月隆

ページ範囲:P.733 - P.735

要約 45歳,女性.1か月前に購入したウサギが2週前に死んだ.4日前から左肩に,辺縁に膿疱,痂皮を伴う径4cm,ほぼ円形の境界明瞭な,そう痒を伴う浸潤性紅斑が生じた.紅斑の周囲にも毛囊炎様の膿疱が散在しており,中心治癒傾向は認められなかった.初診時の直接鏡検は陰性であった.再診時,直接鏡検で菌糸が認められ,真菌培養にて,ベージュがかった白色,粉状で,裏面は黄白色,辺縁は鋸歯状のコロニーが得られ,スライド培養でTrichophyton mentagrophytesと同定された.リボゾームRNA遺伝子のITS領域の制限酵素分析でArthroderma benhamiae(A. benhamiae)に一致する泳動パターンを示し,交配試験ではA. benhamiaeのAmericano-European race“-”株と同定された.

八丈島で感染・発症したMicrosporum gypseumによるケルスス禿瘡の1例

著者: 菊地伊豆実 ,   田沼弘之 ,   森本健介 ,   久米光 ,   川名誠司

ページ範囲:P.736 - P.739

要約 8歳,八丈島在住の男児.左前頭部に母指頭大の痂皮を伴う紅斑が出現した.近医にて,ケトコナゾールクリームとナジフロキサシンクリームを外用後,硫酸ゲンタマイシン軟膏の外用とし,セファクロルの内服に変更したが,改善しなかった.皮膚生検時に採取した組織片の培養より,Microsporum (M.)gypseumを分離しケルスス禿瘡と診断した.イトラコナゾール50mg/日の70日間内服で治癒した.患児が普段遊んでいる小学校のグラウンドの土壌を用いてhair-bait法を施行したがM. gypseumは検出されなかった.われわれの調べえた限りでは,今まで八丈島におけるM. gypseumによるケルスス禿瘡の報告はなく,自験例が第1例目であると思われる.

手掌黒癬の1例

著者: 瀧田祐子 ,   徳久弓恵 ,   山田健一 ,   武藤正彦

ページ範囲:P.740 - P.742

要約 18歳,男性.左手掌に自覚症状のない胡桃大の淡褐色斑を生じ,病変部の角層擦過KOH標本では,淡褐色の多隔壁菌糸が多数みられ,培養では黒色コロニーを形成,遺伝子解析でHortaea werneckiiと同定した.これまでに,本例を含め沖縄を中心に25例の報告があるが,山口県内では初めての報告である.

Infundibulocystic Basal Cell Carcinomaの1例

著者: 岡本武 ,   安齋眞一 ,   木村鉄宣

ページ範囲:P.744 - P.746

要約 80歳,女性.臨床的には,右大陰唇部に10×15×6mm大の無痛性で皮膚および下床との癒着がない皮内腫瘤があった.病理組織学的に腫瘍は,毛芽細胞様細胞の索状,篩状の増殖より成り,その中に毛包漏斗部上皮に類似した細胞より形成される囊腫が存在し,毛球や毛乳頭類似構造はなかった.また間質の線維成分の高度な増生はなく,腫瘍細胞巣と間質の間にムチン沈着による裂隙が存在し,fibroepithelial unitの形成はなかった.これらの所見より,この腫瘍をWalshとAckermanが報告したInfundibulocystic Basal Cell Carcinomaと診断した.

これすぽんでんす

岡本武・他論文「Infundibulocystic basal cell carcinomaの1例」を読んで

著者: 熊切正信

ページ範囲:P.747 - P.748

 岡本武・他論文「Infundibulocystic basal cell carcinomaの1例」を拝読し,本症例における診断名・考察につき違和感と疑義を覚えましたので,以下の点につき筆者の見解を述べさせていただきます.

熊切先生の見解への回答

著者: 岡本武 ,   安齋眞一 ,   木村鉄宣

ページ範囲:P.749 - P.750

 われわれの論文に対し熊切先生に関心を持っていただけたこと,そして,的確な指摘をしていただいたことに深く感謝いたします.

 まず,はじめに,WalshやAckermanが報告したInfundibulocystic basal cell carcinomaと診断するために必要な所見を整理してみます.

 本症例においては,部分的に(腫瘍胞巣辺縁において)毛芽細胞類似の細胞が索状および篩状に増殖し,一部に(毛包漏斗部に繋がる近位部に)毛芽細胞とは違う,有棘細胞の細胞質を持つ細胞が増殖しています.後者の部位でも腫瘍と間質の間にムチンが沈着し,fibroepithelial unitを形成していませんでした.腫瘍の全体構築は境界明瞭ですが,毛球,毛乳頭に類似する所見はなく毛包漏斗部類似の嚢腫があることより,この病変は上部毛包分化の所見をもっています.このような特徴をもつ上皮性新生物をWalshとAckermanはinfundibulocystic basal cell carcinomaと紹介しているので,私たちはこの腫瘍をInfundibulocystic basal cell carcinomaと診断しました.

臨床統計

水疱性膿痂疹から分離された黄色ブドウ球菌のホスホマイシン感受性および治療経験―2004~2005年の統計

著者: 佐藤ミカ ,   荒田次郎 ,   山崎修 ,   岩月啓氏

ページ範囲:P.752 - P.756

要約 2004年7~10月および2005年7~10月の水疱性膿痂疹59例に対して細菌培養同定を行い,同時にホスホマイシン(FOM)に対する感受性を調べた.培養の結果,MSSA群(他菌の混合を含む)が30例(50.8%),MRSA群(他菌の混合を含む)が29例(49.2%)であった.コマーシャルの検査センターでのディスク法の検査にて,MSSA群のFOM感性菌26例(44%),FOM耐性菌4例(7%).MRSA群のFOM感性菌20例(34%),FOM中間のもの1例(2%),FOM耐性菌8例(14%)という結果を得た.セフジニルあるいはトシル酸スルタミシリンの内服を基本に加療し,経過に応じてFOMの内服を追加併用した結果,水疱性膿痂疹に対してはFOMの併用は臨床的には有効であると思われた.しかし,その一方で,皮膚以外の臨床材料から得られたMRSAはFOM耐性菌が多数であるという報告があり,両者の分離菌のpopulationには違いがあるのではないかと考えられた.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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