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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科61巻10号

2007年09月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・1【新連載】

Q 考えられる疾患は何か?

著者: 加藤直子

ページ範囲:P.765 - P.766

症例

患 者:77歳,女性

主 訴:右手背の黒褐色の皮疹

既往歴:20歳時の事故のため右中指および環指が切断されている.長年,農業に従事していた.

家族歴:特記すべき事項なし.

現病歴:初診の7年前から右手背に褐色の斑が出現し,4年前から色調が濃くなり黒褐色調となった.数か月前から一部に浸潤を触れるようになった.

現 症:右手背のほぼ中央に径20×12mm大の黒褐色で光沢を有する局面を認める.一部には径7mm大でわずかに隆起する結節を触れる.局面の辺縁は不整で部分的に境界が不明瞭で,病変の途切れも認める.

原著

イヌ飼育者にみられたBartnella henselae感染症(猫ひっかき病)

著者: 峯垣裕介 ,   谷岡未樹 ,   松村由美 ,   是枝哲 ,   松吉徳久 ,   宇谷厚志 ,   宮地良樹 ,   松村康洋

ページ範囲:P.767 - P.770

要約 50歳台,女性.左上腕内側の抗生剤に反応しない疼痛と熱感を伴った腫瘤,および左手掌の孤立性膿疱で紹介受診した.腫瘤の切開により多量の排膿を認めた.一般細菌・抗酸菌・真菌培養は陰性で,病理組織のPAS染色およびZeihl-Neelsen染色も陰性であった.ペア血清で抗Bartnella henselaeIgG型抗体の急激な上昇を認め,Bartnella henselae感染症(猫ひっかき病)と診断した.患者はイヌを飼育しており,ネコとの接触歴はないことより,イヌを感染源としていると考えられた.昨今のペットブームもあり,Bartnella henselae感染症は増加している.動物と接する機会のある患者において,化膿性リンパ節炎の鑑別診断としてBartnella henselae感染症は重要である.

尋常性乾癬に対するマキサカルシトールローションの有効性および安全性の検討―マキサカルシトール軟膏との非盲検無作為割付比較試験(第Ⅲ相臨床試験)

著者: 中川秀己 ,   玉置邦彦

ページ範囲:P.771 - P.779

要約 マキサカルシトールローション(以下,ローション)の有効性および安全性をマキサカルシトール軟膏(以下,軟膏)と比較検討するため,尋常性乾癬患者を対象に1日2回8週間連続塗擦の並行群間比較試験を実施した.ローション群および軟膏群の最終時における全般改善率(2群間の差の点推定値および両側95%信頼区間)は,「被髪頭部」でおのおの95.2%,98.8%(-3.6%および-8.8~+1.6%),「体幹部,上肢または下肢」でおのおの89.2%,96.3%(-7.1%および-15.0~+0.8%)でローションの有効性は軟膏と同等であった.ローションの使用感は,被髪頭部で塗りやすさ,べとつき感ともに軟膏に対して有意に優った(p<0.0001).ローションの副作用はすべて軽度であり,本剤特有の新規および重篤なものはなかった.以上,ローションは尋常性乾癬患者に対して軟膏と同等の有効性を有し,被髪頭部などの有毛部位へ使用しやすく,安全な薬剤であることが確認された.

症例報告

鎖骨骨折術後に生じたtoxic shock syndromeの1例

著者: 林裕嘉 ,   森布衣子 ,   木花いづみ ,   内村英輝 ,   芦澤裕子

ページ範囲:P.781 - P.784

要約 29歳,男性.交通事故で右鎖骨遠位端を骨折した.観血的整復術を施行し,経過良好であった.術後3週目より突然の発熱,全身の紅斑,眼球結膜充血,下痢,血圧低下,BUN/Crの上昇,軽度意識混濁,血小板低下が出現した.症状および急激な臨床経過より,toxic shock syndromeが疑われた.創部に明らかな感染徴候はなかったが,術創を局所麻酔下で切開し,創部スメアグラム染色でグラム陽性球菌が検出された.創部デブリードマン,抗生剤投与に加え,ヒト免疫グロブリン投与,持続血液濾過透析を施行し軽快した.自験例における発症時,軽快後の各種サイトカインの変動からも,本症に対する持続血液濾過透析の有用性が示唆された.

セフポドキシムプロキセチルによる固定薬疹の1例

著者: 新石健二 ,   光戸勇

ページ範囲:P.785 - P.787

要約 33歳,男性.2005年7月に舌尖端のびらんと齲歯にて歯科医院を受診し,口腔内感染症に対して,セフポドキシムプロキセチルを内服した.内服直後,右下口唇に亀裂とびらんが出現した.同年9月下旬に,再度口腔内感染症に対して,セフポドキシムプロキセチルとセフジニルを内服した.内服後,再び右下口唇と口角に亀裂,びらん,色素沈着を生じたため,同年10月に当科を受診した.口唇・口角の皮疹に対しては,トリアムシノロンアセトニドと白色ワセリンの外用を行い,亀裂と色素沈着は消退した.セフポドキシムプロキセチルの内服テストにて,右下口唇にびらんを生じたので,セフポドキシムプロキセチルの固定薬疹と診断した.

塩酸エペリゾン(ミオナール®)によるnonpigmenting fixed drug eruption

著者: 筋師彩子 ,   水野可魚 ,   山本典雅 ,   岡本祐之 ,   堀尾武

ページ範囲:P.788 - P.790

要約 70歳,男性.塩酸エペリゾン(ミオナール®)を内服後4日目に両側肩甲部・腋窩・上肢に,ほぼ左右対称性に掻痒の強い,軽度鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑が出現した.薬疹を疑い,内服テストを施行したところ,内服後2日目に初診時とほぼ同一部位に掻痒を伴う紅斑が誘発された.皮疹は初診時,誘発時とも1週間以内に色素沈着を残さず消退した.以上より,本症例を塩酸エペリゾン(ミオナール®)によるnonpigmenting fixed drug eruption と診断した.

ステロイド局所注射による皮膚萎縮の2例

著者: 小坂素子 ,   青木見佳子 ,   森山マサミ ,   川名誠司

ページ範囲:P.791 - P.794

要約 症例1:43歳,女性.花粉症に対し,左上腕にステロイド皮下注射を受け,3か月後に注射部位の陥凹局面に気づいた.症例2:28歳,女性.腱鞘炎に対し,右手関節にステロイド局注を受けた.約2週後から注射部に萎縮が出現,近位側に向かって線状の萎縮が上腕まで進行した.2例とも病理組織学的所見は,脂肪細胞が全体に小型化,大小不同で不整形となり,脂肪細胞間にマクロファージの浸潤と毛細血管の増生も伴っていた.経過観察のみで消退傾向を認めた.症例1はステロイド局注による皮膚萎縮の典型と考えられたが,症例2は萎縮が線状に拡大する特異な臨床像を示した.ステロイド局注による線状の皮膚萎縮は,本邦では自験例を含めて6例の報告がある.

紅皮症を呈した落葉状天疱瘡の1例

著者: 太田知子 ,   磯貝理恵子 ,   大磯直毅 ,   川原繁 ,   川田暁 ,   深尾真希子

ページ範囲:P.796 - P.798

要約 77歳,男性.初診の4か月前,背部に紅斑が生じ,次第に全身に拡大し,紅皮症の状態になった.生検標本の蛍光抗体法直接法では表皮細胞間にIgGの沈着がみられ,ELISA法では抗デスモグレイン1抗体は150以上,抗デスモグレイン3抗体は12であった.紅皮症を呈した落葉状天疱瘡と診断した.寝たきりのため,適切な検査や治療がなかなか受けられなかったこと,入浴や清拭が十分にできず,黄色ブドウ球菌の感染を合併したため,紅皮症化したと考えた.

亜急性壊死性リンパ節炎を契機に発症したSLEの1例

著者: 青田典子 ,   福原麻里 ,   平原和久 ,   塩原哲夫 ,   福岡利仁

ページ範囲:P.799 - P.802

要約 36歳,男性.初診1か月前より全身倦怠感,頸部リンパ節腫脹を認めていたが,その約2週間後より39℃台の発熱とともに顔面,頸部,胸部に小豆大までの浸潤性紅斑が出現した.顔面の紅斑の組織では,毛囊上皮に液状変性を認めた.非露光部の健常皮膚でのループスバンドテストは陽性であった.リンパ節生検で好中球,ヘマトキシリン体の存在を欠く広範な壊死像がみられ,亜急性壊死性リンパ節炎(SNL)と診断した.リンパ節腫脹が出現した1か月前後より,汎血球減少と補体低下が急速に進行し,それとともに皮疹の著明な増悪がみられた.その後,尿蛋白量の増加と腎生検所見から,ループス腎炎と診断した.リンパ節腫大が先行し,それに遅れて全身性エリテマトーデス(SLE)の諸症状が顕在化してきたことから,SNLを契機に発症したSLEと考え,両者の関係について若干の考察を加えた.

著明な毛細血管拡張がみられた顔面の硬化性萎縮性苔癬

著者: 大西正純 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.803 - P.805

要約 77歳,女性.3年前より右頬部と上口唇に毛細血管拡張と点状の出血斑を伴う硬化性萎縮局面が出現した.病理組織学的に真皮層の弾性線維の減少,膠原線維の膨化増生,表皮の液状変性を認め,硬化性萎縮性苔癬(LSA)と診断した.自験例はLSAの発生部位としては稀な顔面に生じ,しかも自己免疫性甲状腺疾患を合併し,抗核抗体が陽性であったことが特異であり,LSAの自己免疫的な発症機序が示唆された.さらに,皮疹は著明な毛細血管拡張,出血斑を伴っていた.その原因として,真皮表皮境界部の高度な変性により血液,リンパ液のうっ滞が起き,自験例のような特徴的な臨床像を呈したと考えた.

タクロリムス軟膏が著効した男性外陰部に生じた硬化性萎縮性苔癬の1例

著者: 福田ちひろ ,   山本真里 ,   永田茂樹

ページ範囲:P.807 - P.810

要約 65歳,男性.初診の約1年前に冠状溝に紅斑が出現し,徐々に拡大しびらんがみられた.当科受診時,亀頭部から包皮にかけて境界明瞭な白色調の萎縮性硬化局面が認められ,冠状溝に紅斑,びらんが存在し,毛細血管拡張がみられた.臨床および病理組織学的所見より硬化性萎縮性苔癬(LSA)と診断した.タクロリムス軟膏の外用治療を行ったところ,灼熱感などの皮膚刺激症状を伴うことなく萎縮局面は著明に改善した.男性のLSAに対し,タクロリムス軟膏での治療報告例は海外では数例みられるが,本邦での報告はなく,自験例が第1例目と考えられた.タクロリムス軟膏がLSAに対し有用な治療法の1つになりうると考えた.

光線力学療法が有効であった日光口唇炎の2例

著者: 小泉直人 ,   井上和之 ,   花田圭司 ,   加藤則人 ,   岸本三郎

ページ範囲:P.811 - P.814

要約 症例1:60歳,男性.初診の約1か月前より右下口唇に疼痛を伴う紅斑とびらんが出現した.市販薬を塗布したが軽快しないため,当科を受診した.症例2:66歳,男性.2003年春頃より下口唇に紅斑が出現した.次第に亀裂,出血を認めるようになった.他院でステロイド外用薬を処方されていたが,軽快しないため,2003年12月に当科を受診した.いずれの症例も皮膚生検で日光口唇炎と診断し,光線力学療法(PDT)を施行した.症例1では80J/cm2,100J/cm2で2回照射,症例2では50J/cm2,80J/cm2,80J/cm2で3回照射した.両例とも著明な皮疹の改善と病理組織像で異型細胞の消失が確認され,症例1ではcomplete responseであると考えられた.整容面において,外科的な治療が行いにくい日光口唇炎の症例に対して,PDTは有用であると考えられた.

後頭部に生じたpilonidal sinus(毛巣洞)の1例

著者: 川上佳夫 ,   石川由華 ,   斉藤まるみ ,   大塚幹夫 ,   中村晃一郎 ,   金子史男

ページ範囲:P.816 - P.817

要約 14歳,男児.1年前より右後頭部に脱毛斑が出現し,徐々に拡大,6か月前から排膿を認めた.近医で抗生剤内服による加療を受けたが改善がなかった.創部細菌培養は陰性であった.病変部を切開したところ,内腔は不良肉芽で覆われ,数本の毛髪が観察された.病理組織学的にリンパ球,好中球,形質細胞,異物巨細胞の浸潤からなる肉芽組織であり,pilonidal sinus(毛巣洞)と診断した.頭部に発症したpilonidal sinusの報告は自験例と本邦,海外の報告を含め5例あるが,そのうち4例が後頭部に発症しており,臥床時の摩擦などによる外的刺激が毛髪の穿孔機序に関与している可能性が示唆された.

コレステロール結晶塞栓症の2例―病理組織学的検討を中心に

著者: 小山哲史 ,   長坂武 ,   松村都江 ,   陳科榮 ,   山崎一人

ページ範囲:P.818 - P.821

要約 症例1:63歳,女性.狭心症でPTCAを施行した.翌日より発熱,腹痛が出現した.足趾,足底に網状皮斑を認めた.症例2:72歳,男性.腹部大動脈瘤に対しY-graft置換術を施行した.半年後,急性心不全,急性腎不全を発症した.両大腿から足趾にかけて網状皮斑を認めた.両症例とも病理組織学的に網状皮斑部の真皮細動脈にコレステロール裂隙を認め,コレステロール結晶塞栓症と診断した.一般にコレステロール裂隙は真皮深層や真皮皮下境界部の小動脈に確認できるとされるが,2症例とも,真皮の中層細動脈まで確認できた.また,コレステロール裂隙周囲の細胞はCD68陽性で組織球であると確認した.

授乳中に囊腫状結節を呈した右腋窩副乳の1例

著者: 小林憲 ,   伊藤尚子 ,   伊藤治夫 ,   田中勝 ,   原田敬之 ,   相羽元彦

ページ範囲:P.822 - P.825

要約 29歳,女性.4か月前に第1子を出産し,授乳中である.2006年1月頃より右腋窩に腫瘤を自覚した.3月下旬より圧痛を伴うようになった.当科初診時,右腋窩に径10mm大,表面常色,皮表と癒着し下床と可動性を有する弾性軟の皮下結節を認めた.病理組織像では皮下脂肪織内にほぼ全周性に1~2層の上皮細胞に取り囲まれた,全分泌像を伴う囊腫構造を認めた.免疫組織化学的染色では管腔構造,囊腫壁の上皮細胞がEMA陽性であった.GCDFP-15は管腔構造内の内容物にわずかな陽性を示した.以上の所見より,アポクリン化生および囊腫状拡張を伴う正常乳腺組織と診断した.皮下のみに乳腺組織が存在し,皮下腫瘤として触知される場合,臨床像や組織像は多彩であり,副乳の診断が困難なことも多い.また,自験例のように授乳中に有痛性硬結を主訴とし,病理組織像にて授乳期乳腺を示した報告は稀である.

頭部に巨大腫瘤を伴った結節性硬化症の1例

著者: 渋谷佳直 ,   荒川智佳子 ,   水谷陽子 ,   清島真理子

ページ範囲:P.826 - P.828

要約 23歳,女性.3歳頃より,てんかん発作,軽度の精神発達遅滞があった.5歳頃,頭頂部の小結節に気づき,その後,結節は増大した.初診時には,同部に常色,手拳大で弾性軟の腫瘤を認めた.顔面の血管線維腫,隆起革様皮膚,葉状白斑,Koenen腫瘍がみられた.頭部腫瘤の病理組織は真皮内に膠原線維増生と血管の拡張・増生があり,血管線維腫の像を呈した.鼻周囲の血管線維腫に比べ,結合組織成分を多く含有していた.結節性硬化症患者に生じた頭部の巨大な血管線維腫の詳細な報告は少ない.

Tufted angiomaの1例

著者: 福井奈央 ,   落合宏司 ,   森脇真一 ,   清金公裕

ページ範囲:P.829 - P.831

要約 49歳,女性.2005年10月頃,右鼠径部の発赤に気づいた.その後,同部位が徐々に硬くなり,圧痛を伴うようになった.2006年3月当科初診時,右鼠径部に表面紫斑様で直径3cmの軽度圧痛を伴う皮下硬結がみられた.皮膚生検の結果,HE染色にて真皮内に毛細血管の集簇した胞巣を多数認め,いわゆるcannonball appearanceの像を呈したことから本症例をtufted angiomaと診断した.2か月後に全摘出術を施行したが,全摘出標本では真皮内の胞巣は生検標本に比べて縮小傾向にあった.

外傷後に生じたtrichoadenomaの1例

著者: 山内渉 ,   伊藤恵子

ページ範囲:P.832 - P.834

要約 75歳,男性.1年半前に転倒して右頬部に擦過傷を負い,同部より常色の少し盛り上がる皮疹が出現し,徐々に拡大してきた.当科受診時,右頬骨部に15mm大の半球状に隆起し,淡黄色,弾性硬で多房囊腫状の結節がみられた.病理組織で真皮内に多くの角質囊腫と充実性腫瘍細胞塊を認め,trichoadenomaと診断した.本邦での報告は10例のみで,今までに外傷後に生じた症例の報告はない.真皮内に角質囊腫が多発する疾患と鑑別した.

Bowen病を伴ったMerkel細胞癌の1例

著者: 山本佳名子 ,   藤井紀和 ,   藤本徳毅 ,   植西敏浩 ,   田中俊宏

ページ範囲:P.835 - P.837

要約 87歳,女性.2004年2月頃に右下顎の紅斑が次第に増大した.角化を伴う径10mm大の紅斑で,日光角化症を疑い,10月に切除した.病理検査,免疫組織化学検査にてBowen病を伴うMerkel細胞癌と診断した.治療は肉眼的にMerkel細胞癌の存在範囲が同定できないため,Bowen病の病変から1cm離して切除した.現在,術後2年が経過するが,再発を認めていない.自験例はMerkel細胞癌にBowen病の合併を認めたが,両者の間に組織学的移行像はなく,露光部位の顔面であることより,発症には日光の関与を考えた.

多臓器転移を認めたsyringomatous carcinomaの1例

著者: 若林麻記子 ,   藤井紀和 ,   柴田史子 ,   古田未征 ,   田澤隆広 ,   植西敏浩 ,   尾本光祥 ,   段野貴一郎 ,   田中俊宏 ,   松本圭司

ページ範囲:P.838 - P.841

要約 63歳,男性.1987年,プレス機で左手指を挟まれ骨折し,左中指PIP関節切断術を施行した.10年後,左示指基部に硬結が出現し,1999年11月の初診時,左示指基部に1.0×1.5cmの出血,びらんを伴う結節,さらに,その周囲に径4cm大の硬結を認めた.深部組織を含めた生検を施行し,syringomatous carcinoma (SC)と診断した.2000年1月,左示指,中指の切断と硬結部より1cm離した切除を施行した.その後,左腋窩リンパ節,肺,皮膚,脳転移が生じた.この間,多剤併用化学療法やタキソール®を施行したが,転移病巣に効果はなく,呼吸不全により永眠された.SCは局所の取り残しのない切除を行えば,予後は比較的良好な疾患と考えられている.しかし,自験例のように多臓器転移を認めた症例もあり,今後の症例の蓄積が必要と思われた.

臨床統計

北海道がんセンター皮膚科における転移性皮膚癌86例の検討

著者: 浜坂明日香 ,   加藤直子 ,   秦洋郎 ,   安川香菜 ,   鈴木宏明 ,   山城勝重

ページ範囲:P.843 - P.846

要約 過去11年間に当科で病理組織学的に転移性皮膚癌と確定診断した86例について,統計学的に検討した.転移性皮膚癌の原発巣は,多い順に乳癌,肺癌,腎癌,子宮癌であったが,当院全科の内臓悪性腫瘍の頻度は乳癌,肺癌,子宮癌,胃癌の順であり,腎癌は皮膚転移率が高かった.腎癌6例中4例は頭皮へ転移していた.転移性皮膚癌中,転移を契機に原発巣が発見された例が8例あった.また,delayed metastasisを16例認めた.皮膚転移発見後の平均予後は7.8か月と不良であった.

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あとがき

著者: 瀧川雅浩

ページ範囲:P.850 - P.850

 大学病院の機能がいろいろな意味で細分化し,それに伴い診療科も充実してきた.それに伴い,わが皮膚科学教室も居住スペースを提供することになった.困るのは,これまで保管されてきた,開学以来蓄積されてきたアナログデータの処遇である.移動するにも場所がなく,思い切って臨床写真,患者記録(病名など)はすべてデジタル化することにした.若い人にやらせるわけにもいかない側面があり,私自身ですべてやることに決めた.

 まず臨床写真であるが,すべてのスライドに目を通し,まず写真の質の悪いもの(ピンぼけ,色変わり),病名,カルテ番号など患者IDが記入されていないもの,スライドに記入した字が読めないものは廃棄.さらに同一患者で繰り返し撮影されてはいるが,その目的がはっきりしないものを除外.こうして,約半年かけて,必要なスライド約7万枚を残し,デジタル化することにした.市内の業者に一枚あたりのデジタル化の値段を見積もらせたところ,単なる画像の取り込みではそれほど高くないのであるが,病名,患者IDを画像に入れると目が飛び出るような値段である.また,患者のプライバシー保護の観点から誰に頼んでもよいというわけにはいかない.幸い,大学に出入りしている信頼のおける業者に他の業者の見積もりより安くやってもらうことになった.現在約3万枚終了したが,ふと気づいたのは,デジタル化したデータから特定の疾患あるいは個人の画像をとり出すことの煩わしさである.取り込んだスライドが一目でわかるようなアナログデータがいるということが判明した.他のデータのデジタル化も含め,当分やることに事欠かないようである.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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