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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科61巻13号

2007年12月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・4

Q 考えられる疾患は何か?

著者: 橋本隆

ページ範囲:P.1029 - P.1030

症例

患 者:75歳,女性

主 訴:全身の紅斑,水疱,びらん性皮疹

既往歴:約1年前より慢性腎不全のため透析中.現在,狭心症で治療中.67歳時,大腸癌の手術.74歳時,甲状腺良性腫瘍の手術.
家族歴:特記すべき事項なし.

現病歴:約5か月前から,特に誘因なく腹部と背部に紅斑性皮疹が出現し,紅斑は四肢にも拡大,一部融合し環状を示すようになった.そう痒感,疼痛などの自覚症状はなかった.その後,水疱,びらんが出現し,軽快しないため当科を受診した.

現 症:全身に紅斑ないし水疱,びらん性皮疹を認めた.腰背部には環状を呈する紅斑(図1),水疱,血疱およびびらんがみられた(図2).特に機械的刺激を受けやすい膝,足部に水疱,びらん面を形成しており,一部,萎縮性瘢痕もみられた(図3).口腔粘膜,外陰部には異常を認めなかった.

今月の症例

指尖に生じたglomangiomaの1例

著者: 篠田愛 ,   新井貴子 ,   長山隆志 ,   森啓之 ,   大西誉光 ,   渡辺晋一

ページ範囲:P.1032 - P.1034

要約 58歳,女性.5~6年前より右小指の爪甲遊縁に小結節が出現し,徐々に増大するとともに疼痛も出現した.右小指の爪甲遊離縁から指尖部にかけて,淡青色のドーム状に隆起する直径4mm大の小結節を認めた.爪甲からは腫瘍部は暗赤色に透見された.結節は表面に軽度の鱗屑を伴い,弾性やや軟に触知された.glomus tumorを疑い全切除し,単純縫縮した.組織は大小の血管腔を入れたglomus細胞の敷石状の増殖からなる胞巣であった.

症例報告

アトピー性皮膚炎に合併した減汗性コリン性蕁麻疹の1例

著者: 永瀬浩太郎 ,   三砂範幸 ,   古場慎一 ,   三浦由宏 ,   成澤寛

ページ範囲:P.1036 - P.1038

要約 18歳,男性.小児期よりアトピー性皮膚炎と気管支喘息の既往があった.普段から運動時の発汗が少ないことを自覚していた.初診の半年前より運動時,入浴時や精神緊張時に掻痒を伴う小型の膨疹が出現するようになった.検査所見ではIgEが高値で,温熱負荷試験,メサコリン負荷試験が陽性であった.さらに発汗計やヨード・澱粉反応を用いた発汗能評価を行ったところ,発汗量の減少を認め,減汗性コリン性蕁麻疹と診断した.治療は,オキサトミド内服を行い改善を認めたが,発汗の変化はなかった.コリン性蕁麻疹と減汗症およびアトピー性皮膚炎の関連について考察した.

卵巣癌の姑息的手術後に改善がみられた皮膚筋炎

著者: 石田正 ,   水川良子 ,   塩原哲夫 ,   塩川滋達 ,   岩下光利

ページ範囲:P.1039 - P.1042

要約 60歳,女性.初診の2週間前に露光部と手指関節背部の紅斑を認め,近医で皮膚筋炎を疑われ紹介受診した.初診時,左鎖骨上窩リンパ節を触知し悪性腫瘍が疑われたため,ステロイドを投与せずに精査を進めたところ,転移を伴う卵巣癌が発見された.姑息的に子宮付属器切除術を行った直後より,CK値と両上眼瞼の浮腫,四肢の浮腫性紅斑の改善を認めた.しかし,筋症状に変化なく皮膚症状も寛解には至らず,ステロイド投与を必要とした.悪性腫瘍の手術後に改善したとする皮膚筋炎の報告は多いが,ステロイドが投与されている例も多く,詳細は不明である.自験例と教室例での検討では,手術に伴う侵襲や麻酔などの因子が症状の改善に関与している可能性が示唆された.

骨髄異形成症候群を合併したBehçet病

著者: 上野真紀子 ,   湊原一哉

ページ範囲:P.1043 - P.1046

要約 82歳,女性.陰部潰瘍と口腔内アフタを認め,陰部潰瘍辺縁の病理組織学的所見からBehçet病が疑われた.初診時に汎血球減少を認め,骨髄穿刺の結果,骨髄異形成症候群と診断された.過去の骨髄異形成症候群とBehçet病の合併例の特徴から,Behçet病の症状発現には好中球機能異常や免疫異常のほか,局所の細菌感染がかかわっている可能性を推測した.また,Behçet病を「好中球性皮膚症」と考え,Sweet病や壊疽性膿皮症と同じスペクトラムで捉えることにより,Behçet病の病態解明につながる可能性がある.

市中感染型MRSAによる皮膚軟部組織感染症に続発したprobable toxic shock syndromeの1例

著者: 若林俊輝 ,   義澤雄介 ,   川名誠司

ページ範囲:P.1047 - P.1049

要約 21歳,女性.初診1週間前から咽頭痛と微熱を認め,その後,頸部から始まり全身に拡大する皮疹と39℃台の発熱を認めた.ショック症状はなかった.顔面では落屑性紅斑,体幹・四肢では径1mmの小膿疱と混在する粟粒大の紅斑を播種状に認め,舌は赤色のイチゴ状を呈した.左腋窩には鳩卵大の皮下膿瘍を認め,エンテロトキシンB産生性MRSA感染が確認された.また,胸部CT検査では多発する結節陰影と胸水貯留が認められた.敗血症性肺塞栓症を合併したprobable TSSと診断し,スルバクタム/アンピシリン(SBT/ABPC)とシベレスタットナトリウム水和物により治療を行い,改善した.

MRI所見が合致しなかったG群溶連菌による壊死性筋膜炎の1例

著者: 五味方樹 ,   満山陽子 ,   堀田隆之 ,   福田知雄 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.1051 - P.1053

要約 78歳,男性.左下腿から足背に著明な熱感,腫脹が出現し,足背にも広範な紫斑局面が拡大した.さらに呼吸困難を伴ったため,緊急入院となった.皮膚所見からは壊死性筋膜炎が疑われたため,初診時および第11病日にMRIを施行した.しかし,筋膜,筋層に病巣の波及を認めず,また抗生剤投与で速やかな全身状態の改善が得られたため,当初は壊死性筋膜炎を否定し,蜂窩織炎として加療した.全身状態はその後も安定していたが,足背の壊死が徐々に進行したため,壊死性筋膜炎と診断し,切開,テブリードマンを施行した.血液,局所培養からはG群溶連菌が検出された.MRIは壊死性筋膜炎と蜂窩織炎の鑑別に有用であるとされているが,自験例ではMRI所見と臨床的重症度には乖離がみられ,これが壊死性筋膜炎の診断を遅らせる原因となった.

初診時に悪性リンパ腫が疑われた下口唇硬性下疳の1例

著者: 田村舞 ,   山上淳 ,   小菅治彦 ,   田中勝

ページ範囲:P.1054 - P.1056

要約 35歳,男性.2か月前より生じた下口唇の結節と左頸部の腫瘤を主訴に来院した.下口唇の結節は径9mmで,中央部にびらんを伴っていた.左頸部には腫大したリンパ節を触れたが圧痛がなかったため,初診時に悪性リンパ腫を疑い,リンパ節生検を検討した.しかし,術前検査で梅毒血清反応が陽性を示し,病理組織学的に粘膜固有層全層に形質細胞を主体とした稠密な細胞浸潤を認めたため,陰部外下疳と診断した.アモキシシリン投与にて皮疹,リンパ節腫脹とも略治した.無痛性の頸部リンパ節腫脹を伴う口唇部の結節では,梅毒も念頭に置く必要性を再認識した.

TNF-α阻害薬による真性皮膚結核の1例

著者: 浅野祐介 ,   狩野葉子 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.1057 - P.1060

要約 73歳,女性.関節リウマチ(RA)に対し,tumor necrosis factor (TNF)-α阻害薬を使用した.約3か月後より,38℃の発熱とともに左前腕に蜂窩織炎様の症状が出現した.その後,同部位の中央は自壊し,皮膚生検・抗酸菌培養・PCR検査により,皮膚結核と診断し,抗結核療法にて軽快した.TNF-α阻害薬は難治性のRAやCrohn病(CD)に対し非常に高い有効率を示し,使用頻度が増している薬剤である.一方,抗TNF-α阻害薬使用患者では結核の発症率が有意に高いことが指摘され,しかも自験例のように高熱や強い炎症症状を伴うなど,非典型的な症状を呈しやすい.今後TNF-α阻害薬使用患者が多くなるにつれて,非典型的な皮膚結核が増加していく可能性がある.

軀幹を中心に間擦部にも紫斑を呈したパルボウイルスB19感染症の1例

著者: 田村舞 ,   舩越建 ,   植田晃史 ,   諏訪部寿子 ,   五味博子 ,   川久保洋 ,   大嶋寛子

ページ範囲:P.1061 - P.1063

要約 7歳,女児.初診の4日前に頸部,両腋窩部,側腹部,両下肢に軽度の掻痒感を伴う紅斑と紫斑が出現した.近医で抗アレルギー薬およびステロイド外用薬にて加療されたが,その3日後に39℃台の発熱を認めたため,来院した.大腿後面の紫斑性丘疹の病理組織学的所見では,真皮血管周囲性のリンパ球を主体とする細胞浸潤と赤血球の血管外漏出,血管内皮細胞の膨化が認められた.蛍光抗体直接法では,免疫グロブリンの沈着はなく,C3は一部の血管壁に沈着していた.白血球および血小板が減少しており,抗ヒトパルボウイルスB19IgM抗体は,皮疹出現後5日の時点では陰性であったが,9日目には高値を示した.四肢間擦部の紫斑を呈したときもHPV B19感染症を考慮する必要があると考えた.

光線過敏症を伴ったHIV感染症の1例

著者: 伊藤なつ穂 ,   伊藤泰介 ,   八木宏明 ,   橋爪秀夫 ,   浦野聖子

ページ範囲:P.1064 - P.1067

要約 73歳,男性.約2か月前より露光部位を中心に浸潤性紅斑が出現した.臨床症状,最少紅斑量(MED)の低下,病理組織学的所見などからchronic actinic dermatitis (CAD)と考えられた.約半年後,抗HIV-I抗体検査,HIV-RNA定量検査でHIV感染者であることが判明し,さらにカリニ肺炎を併発したことからエイズと診断した.

 HIV感染患者のCAD合併例は,国内での報告は稀であるが,海外では数多く報告されている.光線過敏症状を呈したHIV感染症ではすでに進行した例が多く,原因不明の光線過敏症状をみたときには,常にHIV感染症も鑑別疾患として念頭に置くことが必要である.

96%小児広範囲熱傷例に対する瘢痕拘縮形成術の経験

著者: 鳥谷部荘八 ,   今井啓道 ,   藤山幸治 ,   館正弘 ,   山田敦 ,   澤村武

ページ範囲:P.1068 - P.1070

要約 適切な四肢のリハビリテーションと2回の瘢痕拘縮形成術を行った96%小児広範囲熱傷症例を経験した.一般的に熱傷後瘢痕拘縮においては,拘縮解除の皮膚欠損に対して,植皮術を要することが多い.本症例のごとく高度広範囲熱傷症例においては,恵皮不足が大きな問題になる.しかし,早期リハビリテーションと可能な限りリハビリテーションを妨げないような手術を行うことにより,関節拘縮を予防し,機能低下は現在のところ認められない.現在本邦では,広範囲熱傷に対して同種皮膚移植を中心とした植皮術によって,救命率は以前に比べ高いものとなった.しかしながら,救命後の諸問題,特に瘢痕拘縮解除後の皮膚欠損部への恵皮不足が,今後の熱傷治療の課題であると,本症例を通じて改めて明らかとなった.

先端肥大症との鑑別を要したpachydermoperiostosisの1例

著者: 新谷ちひろ ,   谷岡未樹 ,   是枝哲 ,   宇谷厚志 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.1072 - P.1074

要約 26歳,男性.既往歴,家族歴に特記すべきことはない.17歳頃より両手足の肥大を自覚した.以後,肥大は進行し,24歳時,顔面皮膚の肥厚に気づいた.先端肥大症を疑われ,当院を紹介された.指趾は太く,ばち状指を呈していた.骨X線では両側橈骨の遠位端に骨膜性骨肥厚像がみられた.太鼓ばち状指,皮膚の肥厚性変化,および骨膜性骨新生の3徴を認め,基礎疾患を有さないため,完全型特発性pachydermoperiostosisと診断した.本症は加齢とともに特徴的な症状が揃うため,本症と診断されるのに時間を要し,自験例のごとく皮膚科を受診する場合も多いため,正確に診断するための十分な知識が必要と考えられる.

シリカ肉芽腫の1例

著者: 西井倫子 ,   尾本陽一 ,   高木恵美子 ,   黒川一郎 ,   水谷仁 ,   西村啓介

ページ範囲:P.1075 - P.1077

要約 35歳,女性.28年前に転倒し,前額部を打撲し瘢痕治癒した.1か月前より瘢痕部に自覚症状のない38×25mm大,皮膚との可動性良好で,境界明瞭,弾性硬,表面平滑な皮下腫瘤が出現した.腫瘤中央部の生検では真皮中層から深層の非乾酪性類上皮肉芽腫で多核巨細胞を中心に周囲に組織球浸潤が認められた.肉芽腫内にガラス状の光沢を有する不整形の物質が多数確認でき,それらは偏光顕微鏡では重屈折性を示した.自験例はシリカ肉芽腫と診断したが,病理組織学的・臨床所見よりサルコイドーシスと鑑別が重要であった.

Pencil-core granulomaの1例

著者: 石川めぐみ ,   沖正直 ,   岩本拓 ,   川村龍吉 ,   柴垣直孝 ,   松江弘之 ,   島田眞路

ページ範囲:P.1078 - P.1080

要約 4歳,男児.母親が右頬部の皮下腫瘍に気づいた.初診時,右頬部に約8mm大で青色調を呈する弾性硬の皮下腫瘍が認められた.問診にて約1年前,同部位に鉛筆を刺した既往があった.全身麻酔下にて切除術を施行したところ,摘出された組織片は,約15mm長の円筒形の結節と筋組織まで続く20mm長の線維性索状組織であった.円筒形の結節を半割したところ,内部に10mm長の鉛筆芯を認めたため,pencil-core granulomaと診断した.

放射線被曝後に生じた多発基底細胞癌の3例

著者: 戸田さゆり ,   橋本康志 ,   水野寛 ,   高路修

ページ範囲:P.1081 - P.1084

要約 症例1:66歳,男性.広島市内で原子爆弾に被爆後48年を経過して,顔面に基底細胞癌(BCC)が多発した.症例2:71歳,男性.同様に広島市内で原子爆弾に被爆後52年を経過して,顔面・軀幹にBCCが多発した.症例3:81歳,女性.子宮癌に対する放射線療法の36年後に,照射部位にBCCが多発した.放射線被曝後のBCCは,近年報告が増加しており,照射線量の比較的少ない場合に長期の潜伏期間を経て生じる.自験3例においても,放射線被曝が腫瘍発生の誘因となっていると考えた.被曝歴のあるBCC症例では,複数か所に発生する可能性を考え,注意深く経過観察する必要があると考えた.

足底に生じたBowen病の1例

著者: 本間英里奈 ,   青柳哲 ,   保科大地 ,   秦洋郎 ,   柴田雅彦 ,   松村哲理 ,   清水宏

ページ範囲:P.1085 - P.1088

要約 38歳,男性.3年前に小黒色斑が出現し徐々に増大したため,受診した.右足底にわずかに隆起する11×7mm大の黒褐色病変を認めた.臨床的に悪性黒色腫や色素性病変を疑った.ダーモスコピー所見ではscaly surface,small brown globules,homogeneous pigmentationを認めたほか,一部にparallel ridge patternを認め,悪性黒色腫と鑑別を要した.全摘後の病理組織では,表皮細胞の極性の乱れと表皮全層にわたる異型表皮細胞の増殖,多数の異常角化,核分裂像,clumping cellsを認め,典型的なBowen病の像を呈した.足底において黒褐色病変を診た際,Bowen病も念頭に置いて鑑別すべきと考えた.

外陰癌術後に生じたacquired lymphangiomaの1例

著者: 近藤亨子 ,   増井友里 ,   金子健彦

ページ範囲:P.1089 - P.1091

要約 77歳,女性.63歳時に外陰扁平上皮癌に対し広汎性外陰摘出術,両側リンパ節郭清術を施行された.術後より下肢に浮腫あり.65歳頃より外陰部に外方に突出する小結節が多数出現した.病理組織像では真皮乳頭層から真皮浅層にかけて1層の内皮細胞をもつ拡張した大小種々の管腔構造を認めた.免疫組織化学染色ではD2-40陽性,第Ⅷ因子陰性であり,acquired lymphangiomaと診断した.自験例は外陰癌術後2年と短い期間で皮疹が出現したことが特徴的であった.術後や外傷後に発症する良性腫瘍であることから,低侵襲でQOL改善を重視した治療を選択すべきと考えた.

多発性皮膚平滑筋腫の1例

著者: 福井奈央 ,   東耕一郎 ,   森脇真一 ,   清金公裕

ページ範囲:P.1092 - P.1094

要約 70歳,女性.既往歴に糖尿病,高脂血症,子宮筋腫がある.15年前より左上肢に7個の自覚症状のない小結節に気付き,最近,小結節が右上肢,前頸部にも出現してきた.液体窒素による凍結療法は無効であった.初診時2006年11月,左肘頭周囲,右上肢,前頸部に赤褐色,弾性硬の小結節が多発していた.皮膚生検組織のHE染色では,真皮上層から中層にかけて比較的境界明瞭な線維性腫瘍を認めた.特殊染色では,α-SMA,Desmin,Vimentin陽性,Masson trichrome染色では赤色,elastica van Gieson染色では黄色に染色された.以上より,多発性皮膚平滑筋腫と診断した.

皮膚生検で確定診断を得たintravascular diffuse large B cell lymphomaの1例

著者: 荒川智佳子 ,   渋谷佳直 ,   水谷陽子 ,   清島真理子 ,   小山賀継 ,   小杉浩史

ページ範囲:P.1095 - P.1098

要約 69歳,女性.2か月間続く発熱と全身倦怠感を訴え,末梢血検査で汎血球減少,LDH高値,可溶性IL-2レセプター高値を示した.胸腹部CT所見では少量の両側胸水と脾腫がみられた.骨髄病理所見は過形成と巨核球系,赤芽球系の異型を示したが,リンパ腫細胞を認めなかった.腹部および下腿の淡い紅斑の病理組織像では真皮下層~皮下組織内の毛細血管内にリンパ腫細胞の集簇がみられ,血管内悪性リンパ腫(IVL)と診断した.

書評

―著:斎田俊明―ダーモスコピーの診かた・考えかた

著者: 大原國章

ページ範囲:P.1034 - P.1034

 本書はダーモスコピーについて日本語で書かれた3冊目の本である.著者はこの方面での世界的な第一人者の斎田俊明教授で,『臨床皮膚科』に「Dermoscopy Specialistへの道:Q & A」として2004年4月から2006年12月まで連載されたものに補筆し,さらに総論と用語解説・文献,所見の記載法,血管所見の一覧模式図を加えてある.索引も含めて190頁の,比較的ハンディな体裁となっている.

 既刊2冊も加えてこれら3冊の性格づけを大学受験になぞらえてみると,1冊目(金原出版)は教科書,2冊目(秀潤社)は参考書・副読本,3冊目の本書はレベルアップ・自習用の問題集に相当する.

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あとがき

著者: 天谷雅行

ページ範囲:P.1102 - P.1102

 私たちの学術活動の成果は,論文という形で,最終的に学術雑誌に報告される.現在の紙媒体での発表,報告の基礎はいつごろからあるのであろうか.紀元前3000年頃,エジプトにおいて書写材料として,パペルス革が使用されたが,このパペルスは,ペーパーである「紙」の語源となった.紀元前(179~176年)の前漢時代には,世界最古の紙が発見されている.1450年,グーテンベルグにより金属活版印刷が開発され,印刷技術の基礎が確立された.以来500年以上続いている,紙媒体による情報伝達方法が,今変わろうとしている.電子化の波である.論文の執筆方法に関しても,手書きの時代から,ワープロの時代へと変遷している.今では,誰もが当たり前のようにワープロを使用し,『臨床皮膚科』においても,手書き原稿の投稿を見ることはなくなった.すでに,海外雑誌の多くは電子化され,紙媒体と電子ジャーナルの二つの形を提供している.ただ,実際に私も含めて多くの人が,目的とする論文を検索により見つけたら,プリントアウトしてから,読んでいる.論文を読むという行為では,圧倒的に紙媒体のほうがよい.しかし,紙にできないことが,いくつかある.一つが動画であり,音声である.インタビューひとつにしても,表情,声のトーンなど,文字に落とせない情報は多々ある.ハリー・ポッターの魔法の世界では,アルバムの中の両親がほほえみ,手を振り,動いていた.細胞生物の領域では,ひとつの分子の細胞内動態がムービーで提供されている.細胞質内から核内へのある分子の移行など,ムービーは恐ろしく説得力がある.もう一つは,さまざまの質の違う情報を後ろに隠すことができ,必要に応じて引き出すことができる.クリックひとつで,皮疹の拡大像,全体像が見られたり,病理組織においても,スライドを自由に動かすことができ,弱拡大から強拡大まで自由に行き来し,しかも特染まで見ることができるようになるかもしれない.さて,20XX年の『臨床皮膚科』では,……….乞う,ご期待.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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