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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科61巻2号

2007年02月発行

雑誌目次

原著

慢性蕁麻疹,多形慢性痒疹におけるHelicobacter pylori菌の関与の検討(第1報)―除菌治療の有効性

著者: 石黒直子 ,   明石玲 ,   武村朋代 ,   成田千佐子 ,   上松ふみ ,   清水悟 ,   川島眞

ページ範囲:P.109 - P.115

要約 2004年10月以降に当科を受診した慢性蕁麻疹患者73例,多形慢性痒疹患者14例について便中のHelicobacter pylori抗原をELISA法にて測定した.陽性率は慢性蕁麻疹22/73(30.1%),多形慢性痒疹では10/14(71.4%)であった.陽性であった前者のうち13例,後者のうち7例については除菌治療の有効性を検討した.除菌治療としては,アモキシシリン750mg/回,クラリスロマイシン400mg/回,ランソプラゾール30mg/回を1日2回,7日間の内服とした.有効性の判定については治療前後の皮膚症状の推移を用いた.結果は,慢性蕁麻疹では有意な症状の改善はみられなかったが,多形慢性痒疹では皮膚症状のスコアが治療後に有意に低下し,軽快例では除菌終了3~14日後と比較的早期から効果がみられたことから,その発症機転におけるHelicobacter pylori菌の関与が強く疑われた.

今月の症例

尋常性乾癬の皮疹上に生じたLaugier-Hunziker-Baran症候群の1例

著者: 岡本奈都子 ,   山本瑞枝 ,   白銀康祐 ,   森脇真一 ,   尾崎元昭

ページ範囲:P.117 - P.120

要約 58歳,男性.40歳頃,尋常性乾癬を発症した.47歳頃より指腹・口唇・口腔粘膜に黒褐色斑,爪甲に色素線条が多数出現した.同時期より,乾癬の皮疹上に一致して同様の色素斑が多発するようになった.指腹の黒褐色斑の病理組織像では,表皮基底層にメラニンが増加し,真皮上層にメラノファージが散見していた.また,右下腿の浸潤性紅斑上に生じた黒褐色斑の病理組織像においても,尋常性乾癬の組織像の中に同様の変化を認めた.消化管ポリープはなく,本症例を尋常性乾癬の皮疹上に生じたLaugier-Hunziker-Baran症候群と診断した.発症には乾癬の炎症や掻破などの外的刺激の関与が推察された.

症例報告

フロンによる凍傷の1例

著者: 笹田昌宏 ,   松井美萌

ページ範囲:P.122 - P.124

要約 33歳,男性.空調設備に液化フロンのHFC-134aを注入中,誤って配管から漏出した液化フロンを手で止めようとして約30秒間,液化フロンを浴び受傷した.受傷直後に患者本人がマッサージを行わず流水中に患部をさらす形で急速融解を行い,当科を受診した.受診時の臨床所見では,右手全指の背側に紅斑と緊満性水疱とを認め,強い疼痛を伴っていた.治療は,ステロイド薬の経口投与,およびプロスタグランディンE1の点滴を行い,受傷後2週間で上皮化して治癒した.

接触皮膚炎との鑑別を要したpruritic urticarial papulesand plaques of pregnancyの1例

著者: 馬場俊右 ,   森康記 ,   渡部大輔 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.125 - P.127

要約 30歳,妊娠8か月の初産婦.受診の数日前から腹部を中心に掻痒を伴う紅斑が出現した.腹部には以前から,妊娠線予防クリームを塗布していた.当初接触皮膚炎を疑ったが,使用負荷試験,皮膚生検により,最終的にpruritic urticarial papules and plaques of pregnancyと診断した.抗ヒスタミン薬と外用ステロイド薬で治療したが,掻痒感が強かったため,内服ステロイド薬を併用し,皮疹と掻痒感は速やかに軽快した.

ラット咬傷によりアナフィラキシー反応を生じた1例

著者: 島田信一郎 ,   影山葉月

ページ範囲:P.128 - P.131

要約 31歳,女性.動物実験中,ラットに左第1指を咬まれた.まもなく同部位周囲に紅斑・腫脹が出現し,急速に顔面・体幹・上肢に拡大し,同時に呼吸が困難になった.ラットの唾液・尿によるプリックテストが陽性で,これらに含まれる抗原が即時型アレルギーを誘引したと推察された.げっ歯動物によるアナフィラキシーはしばしば経験するが,動物研究のほか近年のペットブームを踏まえると今後参考になると考え,報告した.

梅による口腔アレルギー症候群の1例

著者: 北畑裕子 ,   岡田知善 ,   鈴木啓之

ページ範囲:P.132 - P.134

要約 53歳,女性.モモ,梅,グレープフルーツの摂食でアレルギー歴がある.黒酢に漬けた梅を摂食した直後より,全身に膨疹が出現し,次いで呼吸困難と血圧低下もみられ当科を受診した.サクシゾン®の点滴と酸素投与で症状は速やかに消退した.IgE RASTではリンゴ,オレンジ,シラカンバ,ヒノキが陽性であった.プリックテストでは梅(黒酢漬け),梅干,モモ,リンゴ,オレンジで陽性であった.黒酢は陰性であった.既往に梅以外のバラ科の果実でもoral allergy syndrome (OAS)を生じており,花粉症もあるため両者の共通抗原により生じたOASと考え,検討した.

Acute generalized exanthematous pustulosisの1例―免疫組織学的検討を含めて

著者: 太田まゆみ ,   町田秀樹 ,   堀部尚弘 ,   大島昭博 ,   八木宏明 ,   橋爪秀夫

ページ範囲:P.135 - P.138

要約 44歳,女性.右膝関節痛に対して,エトドラクを内服した翌日,右肘窩に掻痒感を伴う紅斑が出現し,急速に四肢・体幹に拡大した.3日後には紅皮症状態となり,発熱,全身倦怠感を自覚した.プレドニゾロン30mg/日の全身投与を開始し,2日後に皮疹は色素沈着を残さず消失した.皮疹部浸潤細胞は,90%以上がCD3陽性T細胞で,CD4陽性細胞が優位であり,またgranzyme Bを発現するものもみられた.表皮細胞の一部がHLA-DRを発現していた.細胞傷害活性をもつCD4陽性細胞が表皮DR陽性部分に浸潤することによって,臨床的小膿疱が形成されると考えられた.

塩酸シプロフロキサシンによるoverlap Stevens-Johnsonsyndrome-toxic epidermal necrolysisの1例

著者: 福岡美友紀 ,   小西朝子 ,   西村陽一

ページ範囲:P.139 - P.142

要約 79歳,男性.感冒様症状のため近医を受診し,抗生剤および総合感冒薬を処方される.投与後10日目より発熱,呼吸困難,全身の紅斑および表皮剥離,口腔粘膜や陰部のびらんが出現した.overlap Stevens-Johnson syndrome (SJS)-toxic epidermal necrolysis (TEN)と診断し,発症早期にステロイド療法を行い,呼吸器症状および皮疹の改善をみた.SJSおよびTENにおけるステロイド療法について考察を加えた.

ヒドロクロロチアジドによる光線性白斑黒皮症の1例

著者: 村田朋子 ,   神田憲子 ,   檜垣祐子 ,   川島眞

ページ範囲:P.143 - P.146

要約 54歳,男性.単心室症,慢性心不全のため,2002年10月14日よりヒドロクロロチアジド(ダイクロトライド®)25mg/日の内服を開始した.2003年5月頃に手背,眼囲に紅斑が出現し,その後色素沈着となった.6月には顔面にも色素沈着を生じ,さらに色素脱失も混じるようになり,8月19日に当科を受診した.UVAのMED(最小紅斑量)は3.7J/cm2と低下がみられ,光線性白斑黒皮症を疑い,9月22日よりヒドロクロロチアジドを中止した.約2週間後にMED,皮疹とも改善傾向を示した.ヒドロクロロチアジドによる光線過敏症の結果,白斑黒皮症を生じる機序について考察した.

感染を契機に全身に汎発化したHailey-Hailey病の1例

著者: 岩﨑純也 ,   三重野英樹 ,   武藤潤 ,   小松威彦 ,   黒田啓 ,   多島新吾

ページ範囲:P.147 - P.150

要約 73歳,男性.40年前よりHailey-Hailey病に罹患し,腋窩部・鼠径部の皮疹に対しステロイド外用薬を使用していた.2005年3月末より高熱とともに体幹から両上下肢にかけて膿疱を混じる角化性紅斑が出現した.腋窩・鼠径部に悪臭を呈するびらん・亀裂を伴う局面もみられた.3日間アジスロマイシン500mg/日を内服したが,その2日後に紅皮症化した.4か所の皮膚生検所見は表皮基底層直上から表皮上層にかけての棘融解と表皮裂隙中の好中球の集簇を認めた.これらの所見から,汎発化したHailey-Hailey病に敗血症を合併したと考えられたため,ペントシリン®主体の抗菌薬加療を行ったところ,皮疹および全身症状の軽快をみた.

皮膚病変から診断しえたPOEMS症候群の1例

著者: 佐久間優 ,   水谷建太郎 ,   渡辺大輔 ,   玉田康彦 ,   松本義也 ,   三浦和久 ,   原一夫

ページ範囲:P.151 - P.154

要約 64歳,男性.3年前より両下肢にしびれと浮腫が出現し,その1年後より胸腹部・前腕・大腿・手指に暗紅色丘疹が多発してきた.腹部よりの生検にて真皮内に拡張した血管が増生し,拡大した管腔内に乳頭状に毛細血管の増生したglomeruloid hemangioma (GH)を認めた.また,間質細胞の胞体内には好酸性粒状物質が散在していた.精査により多発神経炎,肝脾腫,M蛋白血症,多毛,白色爪甲などの皮膚症状を認め,POEMS症候群と診断した.POEMS症候群にみられる皮膚病変のなかでもGHは特異的であり,その診断的価値が高いと思われる.

塩酸ミノサイクリンが有効であった蛇行性穿孔性弾性線維症の1例

著者: 日高良子 ,   西村啓介 ,   袴田新 ,   磯田憲一 ,   黒川一郎 ,   水谷仁

ページ範囲:P.155 - P.157

要約 30歳,男性.Down症.21歳より四肢伸側に無症候性皮疹が出現し,徐々に拡大した.初診時,四肢の伸側に半米粒大の角化性丘疹が線状,馬蹄状から環状に配列し,その周囲に紅斑をめぐらし手掌大の局面を形成していた.丘疹に囲まれた中心部は網目状に萎縮し,色素沈着と軽い瘢痕局面を形成していた.丘疹の病理組織像は表皮構造に取り囲まれた真皮上層部の好塩基性凝集塊で,蛇行性穿孔性弾性線維症(EPS)と診断した.塩酸ミノサイクリン内服により,丘疹,紅斑は色素沈着となり,良好な結果が得られた.蛇行性穿孔性弾性線維症について発症機序,治療中心に若干の考察を加え報告する.

特発性後天性全身性無汗症の1例

著者: 林周次郎 ,   籏持淳 ,   五月女聡浩 ,   木根淵明 ,   橋壁道雄 ,   山﨑雙次

ページ範囲:P.158 - P.161

要約 42歳,男性,塗装業.2004年5月より仕事中の体動時に,発汗低下と体温上昇を自覚した.発汗試験(Minor変法)で顔面,四肢の一部には発汗を認めたが,他の部位では発汗が低下していた.無汗部の病理組織学的所見では汗腺に器質的変化はなく,汗腺周囲にリンパ球浸潤を認めた.無汗をきたす他の基礎疾患は存在せず,特発性後天性全身性無汗症(IAGA)と診断した.副腎皮質ステロイド薬の内服により発汗障害は著明に改善した.過去30年における本邦の特発性後天性無汗症の報告例を集計し,若干の考察を加えて報告する.

舌潰瘍から診断された多発性骨髄腫に伴う全身性アミロイドーシスの1例

著者: 影山葉月 ,   島田信一郎 ,   谷岡書彦 ,   古谷隆一

ページ範囲:P.162 - P.165

要約 76歳,女性.多発性骨髄腫に罹患中,舌潰瘍を生じ,病変部の精査から全身性アミロイドーシスと診断され,診断後約1年6か月で死亡した.舌潰瘍部の病理組織標本において粘膜下層を主体に,また死亡後の剖検でも多数の内臓臓器で顕著なアミロイド沈着が認められた.原発性および多発性骨髄腫に合併するアミロイドーシスでは,平滑筋・横紋筋,血管壁,結合組織をはじめとする間葉系組織が侵されやすいが,自験例の剖検においても同所見であった.また,自験例のように他の皮膚変化に乏しいアミロイドーシスでは,消化管と連続し同様の病態を呈している舌病変を見逃さないことが特に重要と考えられた.

転移性皮膚石灰沈着症の1例

著者: 高橋亜由美

ページ範囲:P.166 - P.168

要約 60歳,男性.7年前から慢性腎不全のため透析治療中.2年前から二次性副甲状腺機能亢進症を指摘されていた.左手第2指に疼痛を伴う腫脹が出現し,指腹に網状の紫紅色斑を認めた.病理組織学的に真皮に塊状のvon Kossa染色陽性沈着物を認め,転移性皮膚石灰沈着症と診断した.生検後,色素沈着を残して紫紅色斑は消退,指腹の腫脹も軽快した.症状出現後約2年の現在まで,皮膚潰瘍は生じていない.

Nanta骨性母斑の1例

著者: 岩﨑純也 ,   黒田啓 ,   小林真己 ,   小松威彦 ,   多島新吾

ページ範囲:P.169 - P.171

要約 65歳,女性.左眉毛部に生じたNanta骨性母斑の1例を経験した.臨床的には徐々に増大してきたということ以外,明らかな自覚症状を認めず,通常の母斑細胞性母斑の診断にて単純切除を行った.組織学的には真皮上層から皮下脂肪織にかけて母斑細胞巣を認め母斑細胞の下部には骨様組織を認めた.毛包の破綻像,嚢腫様構造,異物肉芽腫などは認めなかった.

Desmoplastic malignant melanomaの1例

著者: 尾上智彦 ,   小野藤子 ,   簗場広一 ,   長井泰樹 ,   堀和彦 ,   幸田公人 ,   上出良一 ,   中川秀己

ページ範囲:P.172 - P.175

要約 61歳,女性.他医にて右頬部紅褐色病変を生検され,悪性黒色腫を疑われ,当科を紹介された.病理組織学的には紡錐型の異型細胞が胞巣を形成せず,孤在性に増殖しており,真皮浅層の一部に褐色顆粒を有する細胞を認めた.免疫組織化学染色で,腫瘍細胞はS-100蛋白陽性,vimentin陽性,MelanAは真皮浅層で陽性,HMB45陰性,cytokeratin陰性,CD34陰性,desmin陰性,EMA陰性であった.電顕所見では腫瘍細胞にメラノソームを認めなかった.以上より,desmoplastic malignant melanomaと診断した.本邦報告例30例をまとめ,若干の検討を加えた.

播種状に小結節を認めた非Hodgkinリンパ腫

著者: 種瀬朋美 ,   佐藤貴浩 ,   横関博雄 ,   福田哲也 ,   西岡清

ページ範囲:P.176 - P.178

要約 54歳,男性.全身のリンパ節腫脹,盗汗,乾性咳嗽に続いて,四肢体幹に軽度隆起する小豆大暗紫紅色結節が出現した.両側肺門リンパ節腫脹,LDH223IU/l,s-IL2R 2,520IU/l.皮膚病理組織学的所見で表皮向性,真皮にCD4陽性異型リンパ球の浸潤を認めた.頸部リンパ節および皮膚組織にてT細胞受容体 Cβ鎖再構成が陽性であった.リンパ節原発非Hodgkinリンパ腫(peripheral T cell lymphoma, unspecified)の診断でCHOP療法を施行した.皮疹は一時消退したが再燃した.

全身性エリテマトーデス患者に生じたPasteurella皮膚感染症

著者: 光谷純郁 ,   福田直純 ,   原弘之 ,   鈴木啓之 ,   荒島康友

ページ範囲:P.179 - P.181

要約 32歳,女性.全身性エリテマトーデス(SLE)の治療のため,プレドニゾロンを1日12.5mg内服中である.飼い猫に右手から前腕にかけて掻傷および咬傷を多数負った.その数時間後に発熱を伴って発赤,腫脹が生じた.右腋窩リンパ節が軽度腫脹している.右上肢の単純X線で骨髄炎の所見はない.臨床検査にて,細胞性免疫の低下を認めた.滲出液からの培養でPasteurella multocidaを検出した.第3世代セフェム系抗生剤投与により軽快した.

ネコから感染したMicrosporum canisによる体部白癬の母子例

著者: 角谷廣幸 ,   角谷孝子 ,   望月隆

ページ範囲:P.182 - P.185

要約 ネコを飼い始めてから,6歳女児の右胸部と35歳母親の右腋窩に落屑性紅斑が1個ずつ生じた.母親の皮疹のみ軽度の痒みを伴った.母子の落屑のKOH法では,それぞれ菌要素が多数密集してみられた.ネコでは全身に落屑を伴う脱毛斑が多発して,その脱毛斑辺縁の体毛より白癬菌が分離された.母子,ネコから分離された菌は3例とも形態学的所見とPCR-RFLP法の所見と合わせてMicrosporum canisと同定した.母子ともにネコから感染したと考えた.M. canis感染による白癬は近年減少傾向にあるといわれているが,顕著な減少傾向はみられないという地域もあり,また多彩な臨床症状を呈するので,日常診療において,なお注意が必要である.

多彩な皮疹を呈した続発性皮膚アスペルギルス症の1例

著者: 小野紀子 ,   稲本伸子 ,   鈴木幸男 ,   石井恵美 ,   森永正二郎 ,   陳科栄

ページ範囲:P.186 - P.189

要約 75歳,男性.基礎疾患にB型肝炎,間質性肺炎,慢性リンパ性白血病,糖尿病あり.間質性肺炎の急性増悪に対するステロイドパルス療法3回施行後より体幹・四肢に紅色結節,皮下結節などの多彩な皮疹が出現した.皮疹出現とほぼ同時期に喀痰よりAspergillus fumigatusが検出されており,胸部CT像では右肺背部に浸潤影を認めていた.病理組織像にてY字に分枝する菌糸を多数認め,組織培養にてA. fumigatusが分離され,続発性皮膚アスペルギルス症と診断した.各種抗真菌薬を投与するも皮疹は軽快せず,全身状態が悪化し,死亡した.

後頭部に発症し組織学的に酸性ムコ多糖類の沈着を認めた巨大な血管拡張性肉芽腫の1例

著者: 竹田公信 ,   渡辺晴二 ,   田邉洋 ,   望月隆 ,   柳原誠 ,   石崎宏 ,   中出忠宏 ,   金原武司

ページ範囲:P.190 - P.193

要約 29歳,男性.3か月の経過で左後頭部に38×30×25mmの腫瘤に成長した血管拡張性肉芽腫.腫瘤は有茎性,弾性軟,易出血性の暗赤色腫瘤で,病理組織学的には腫瘍中層から上層の間質に酸性ムコ多糖類の沈着を認めた.金沢医科大学皮膚科で経験した30例の血管拡張性肉芽腫を組織学的に検討したところ,腫瘍上層に酸性ムコ多糖類の沈着を認めたものは2例であった.また,巨大化した原因として,慢性的な機械的刺激により血管拡張性肉芽腫の表面に肉芽組織および瘢痕形成の過程が繰り返し生じたためと考えた.

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あとがき

著者: 塩原哲夫

ページ範囲:P.196 - P.196

 プロ野球選手の米大リーグへの流出が止まらない.マスコミは,彼らに魅力的な環境を提供できない日本のプロ野球界を非難する.しかし,歴史を振り返ってみれば,良い環境は必ずしも人を育てないことがわかる.創成期のプロ野球機構は大学野球にも人気で水を開けられ,お世辞にも魅力的な組織とは言い難かった.しかしそんな貧弱な組織に参入した人々は,大リーグに負けない組織にしようとする情熱にあふれ,その後の隆盛を築いたのである.

 何故こんな話題で書き始めたかというと,昨今の研修医の動向にも同じ傾向が感じられるからである.彼らはホームページなどの情報をもとに,研修先として条件の良いところを検討して決めているらしい.結果として,多くの研修医は大都市の有名病院,大学に流れることになる.地方の大学はこのような人材の流出を止めることができず,プロ野球界同様の悲哀をかこつことになる.このような人材の流出は地方の医療を荒廃させ,長年にわたり維持されてきた日本の医療システムの多様性の喪失につながる,と考えられている.人材が集中する側にとっても,この状況は必ずしも喜んでばかりはいられない.条件が良いからとか,人気があるからといった理由で集まってくるような人材は,自らの組織に要求するばかりで,決してその組織を自分で良くしていこうという努力はしないからである.そういう人材が組織の多数を占めるようになれば,早晩その組織は弱体化していく.与えられ過ぎた人は,決して与える人にはなれない.ソニーが大学生の人気企業のトップになった時,現在の姿は予想されたのである.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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