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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科61巻6号

2007年05月発行

雑誌目次

今月の症例

全身びまん性に丘疹を認めた硬化性粘液水腫の1例

著者: 三井田博 ,   山本洋子 ,   渡辺修一

ページ範囲:P.395 - P.398

要約 73歳,女性.1997年10月頃より,硬い丘疹が両手背より出現し,徐々に全身に拡大した.2001年6月初診時,頭部から下腿まで全身に丘疹の集簇と皮膚硬化がみられ,特に顔面は獅子様顔貌を,体幹は象皮病様の様相を呈していた.病理組織学的所見で,真皮全層に膠原線維の著明な増生と線維芽細胞の増加を認め,アルシアンブルー染色,コロイド鉄染色陽性物質がみられた.甲状腺機能異常はなく,IgGλ型のM蛋白血症を合併していた.骨髄所見に異常を認めなかった.以上より,硬化性粘液水腫と診断した.同症の本邦報告例25例中,全身に症状がみられる症例は9例みられたが,これらのなかには,丘疹・結節よりも皮膚硬化のみの病変が広範囲である症例が6例含まれている.自験例は全身にびまん性に丘疹が分布し,特異な臨床像を呈したと思われた.

症例報告

肝膿瘍に続発した電撃性紫斑病の1例

著者: 石田祐哉 ,   福岡美友紀 ,   道上学 ,   西村陽一

ページ範囲:P.400 - P.402

要約 70歳,女性.意識障害にて緊急入院した.CTにて肝膿瘍を認め,肝膿瘍ドレナージおよび抗生剤投与を開始した.しかし,入院3日目に両側指趾末端に紫斑が出現してきた.血液検査にて播種性血管内凝固症候群(DIC)を認め,さらに紫斑は急速に黒色壊死に進行した.急性感染症に続発したDICおよび電撃性紫斑病(PF)と診断した.PFに対してはプロスタグランジン製剤の点滴および各種外用療法を行い,DICには抗凝固療法を開始した.最終的には,壊死部のデブリードマンのみで,患指を温存することができた.

角層下膿疱症の1例

著者: 新石健二 ,   光戸勇

ページ範囲:P.403 - P.406

要約 58歳,女性.2000年頃より腋窩に膿疱とびらんの形成を繰り返していた.2006年7月,胸部から上腕にかけて,これらの症状が急速に増悪してきた.水疱は数時間で膿疱に変化,一部は融合した.経過とともに膿疱は破れ,びらんが環状に拡大した.発熱,白血球増多はみられなかったが,軽度のかゆみを訴えた.組織学的には,好中球を主体とした角層下膿疱で,Kogojの海綿状膿疱は認めなかった.膿疱内容の細菌培養は陰性,膿疱部位のPAS染色では真菌成分は染色されなかった.蛍光抗体直接法・間接法は,陰性所見であった.角層下膿疱症と診断し,抗アレルギー薬の内服,ステロイド外用薬にて治療を行い,症状は軽快した.その後,再発は認めていない.

両手と右下腿に多発した環状肉芽腫の小児例

著者: 武市拓也 ,   岩田貴子 ,   富田靖 ,   渡辺昭洋

ページ範囲:P.408 - P.410

要約 2歳1か月,男児.初診時,両手掌,右全指腹に計9個の紅色局面が出現した.その後,右下腿に盛り上がった環状紅斑もみられるようになった.生検組織では中央部に膠原線維の変性を伴い,組織球が柵状に配列する肉芽腫であった.過去の報告例で,小児の指腹,手掌に多発した症例はきわめて少なく,本症例は臨床的に稀である.

健常な30歳女性の下腿に発症したacquired reactive perforating collagenosis

著者: 浅野雅之 ,   出口雅敏 ,   相場節也

ページ範囲:P.411 - P.413

要約 30歳,女性.約1年前から両下腿にかゆみのある皮疹が出現し,次第にその個数が増えていた.前医でプロピオン酸クロベタゾールローションを3か月間投与されたが奏効しなかった.初診時,両下腿伸側面に径2~7mmの,中心部に角栓ないし痂皮を伴う暗赤色結節が多発していた.採血検査では,一般末梢血・肝・腎機能・空腹時血糖値・HbA1cや甲状腺機能などは正常範囲内であった.家族に同症なく,既往歴にも特記すべきことはない.皮膚生検により,角栓を付着し穿孔した表皮から真皮深層にかけて,好塩基性に変性した真皮間質の経表皮排出を認め,reactive perforating collagenosisと診断した.病変部の一部に吉草酸ジフルコルトロン軟膏を塗布させたところ,外用しなかった部位の個疹も含めてまもなく消退した.皮疹消退後2年間経過したが,糖尿病などの発症はない.

ブフェキサマク外用後に生じたacute generalized exanthematous pustulosisの2例

著者: 松田里恵 ,   浦野芳夫 ,   山下理子

ページ範囲:P.414 - P.416

要約 症例1:55歳,女性.汗疹様の皮疹にブフェキサマク含有市販外用薬を数回塗布した.3日後に発熱,好中球増多,全身の紅斑,小膿疱が多発した.以前より非ステロイド系市販外用薬の使用歴があった.病理組織学的に角層下膿疱を認めた.スクラッチパッチテストでブフェキサマク陽性であった.症例2:18歳,女性.アトピー性皮膚炎にブフェキサマク含有市販外用薬を塗布した数日後に発熱,全身の紅斑,小膿疱が多発した.好中球が増多し,ASLOは軽度上昇していた.病理組織学的に角層下膿疱を認めた.スクラッチパッチテストでブフェキサマク陰性であった.症例1はブフェキサマクが原因と考えた.症例2はブフェキサマクだけでなく溶連菌感染の関与も疑われた.acute generalized exanthematous pustulosisの原因としてブフェキサマク外用にも注意が必要である.

十二指腸潰瘍のHelicobacter pylori除菌療法後に著明な軽快をみた持久性隆起性紅斑の1例

著者: 井村倫子 ,   伊藤明子 ,   坂本ふみ子 ,   青木宣明 ,   伊藤雅章

ページ範囲:P.417 - P.420

要約 44歳,男性.初診1か月前から後頸部・左前腕部に,軽度の圧痛と掻痒を伴う境界明瞭な浸潤性紅斑が出現した.皮膚生検で持久性隆起性紅斑と診断した.皮疹出現と同時期に近医内科でHelicobacter pylori陽性の十二指腸潰瘍の診断を受け,アモキシシリン,クラリスロマイシン,ランソプラゾールの3剤による除菌療法を行ったところ,皮疹は著明に改善した.除菌による皮疹抑制の機序は不明であるが,H. pyloriの除菌が何らかの形で皮疹の軽快に関与したと思われた.

Sjögren症候群に合併したsclerosing panniculitisの2例

著者: 寺尾美香 ,   石田勲 ,   中村敏明 ,   片山一朗

ページ範囲:P.421 - P.424

要約 症例1:65歳,女性.両下腿の浮腫と有痛性紅斑あり.症例2:73歳,男性.左下腿の浮腫と疼痛あり.2症例とも組織所見では脂肪細胞の変性と葉間結合織の増生がみられ,sclerosing panniculitis (SP)と診断した.また精査の結果,両症例ともSjögren症候群(SjS)を合併していた.SPの原因として静脈還流障害が知られているが,症例1では軽度の小伏在静脈の還流障害,症例2では静脈還流障害はみられず,SjSをはじめとする膠原病も原因の1つになりうると考え,報告する.

尋常性天疱瘡に合併した全身性強皮症の1例

著者: 水谷陽子 ,   長澤智佳子 ,   渋谷佳直 ,   清島真理子 ,   長縄吉幸

ページ範囲:P.425 - P.428

要約 73歳,女性.2000年12月より難治性の口腔内びらんが出現し,当院歯科口腔外科を受診した.血液検査では抗デスモグレイン(Dsg)1抗体24.1,抗Dsg3抗体129.41,抗核抗体(セントロメア型)320倍と上昇していた.病理組織像は基底層直上に裂隙を形成し,蛍光抗体直接法では粘膜上皮細胞間にIgGの沈着がみられた.尋常性天疱瘡と診断され,プレドニゾロン,DDSで現在も治療中である.2006年1月よりRaynaud症状,手指のしびれ,皮膚硬化,関節痛が出現したため,当科を紹介された.抗セントロメア抗体26.7と上昇し,前腕伸側皮膚の病理組織像は表皮の萎縮,真皮膠原線維の膨化,汗腺の上方への偏位を認め,尋常性天疱瘡に合併した全身性強皮症と診断した.両者の合併報告例は少なく,稀な1例と考えられた.

炎症性線状疣贅状表皮母斑の2例

著者: 武村朋代 ,   石黒直子 ,   川島眞

ページ範囲:P.429 - P.431

要約 症例1:25歳,女性.2歳時に,右下腿に掻痒を伴う角化性結節が出現した.右下腿から外果にかけて爪甲大までの角化性結節が多発し,線状に配列する.skin abrasion,電気焼灼術後ステロイド外用や局注を行ったが,再燃したため,筋膜直上で切除縫合術を行い,その後再燃はない.症例2:35歳,男性.初診の約8年前より左上肢に掻痒を伴う紅色結節が出現した.左拇指球から前腕内側に角化性の結節が多発し,線状に配列する.ビタミンD3軟膏は無効で,ステロイドテープ貼布は一部に有効であった.難治な部位は脂肪織を含め切除した.術後4か月で再燃はない.症例1,2の病理組織像では角質増殖,表皮肥厚があり,症例1では真皮全層,症例2では真皮中層までの血管・付属器周囲性に炎症性細胞浸潤を認めた.炎症性線状疣贅状表皮母斑で,種々の治療に抵抗性の場合には,細胞浸潤のレベルを考慮し,真皮深層ないし皮下組織を含めた外科的切除が治療の選択肢の1つになると考えた.

食道癌を合併したBazex症候群の1例

著者: 朴紀央 ,   谷岡未樹 ,   是枝哲 ,   高橋健造 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.433 - P.436

要約 70歳,男性.2年ほど前より両側手掌,足蹠の紅斑と肥厚を自覚していた.近医でのステロイド外用薬に不応であった.後天性掌蹠角化症の診断で,全身検索により食道癌が判明した.初診1か月後より鼻,耳介にも過角化性の紅斑を生じ,Bazex症候群と診断した.Bazex症候群では悪性腫瘍を合併するため,掌蹠の過角化が保存的治療に反応しないときは内臓悪性腫瘍も念頭に置いて診療する必要がある.

男性頭部に生じたproliferating trichilemmal cystの1例

著者: 内田敦子 ,   中塚伸一 ,   小阪博

ページ範囲:P.437 - P.440

要約 60歳,男性.左側頭部の腫瘤が増大してきたため来院した.病理組織学所見では,腫瘍は中心部に著明なtrichilemmal keratinizationと,辺縁部への有棘細胞様腫瘍細胞の増殖を示し,proliferating trichilemmal cystと診断した.免疫組織学的には腫瘍胞巣の外層の一部にKi-67陽性所見を認めた.proliferating trichilemmal cystは有棘細胞癌,外毛根鞘癌との鑑別が問題となっており,その鑑別について検討した.

背部に生じたグロムス腫瘍の1例

著者: 佐藤寛子 ,   有馬礼人 ,   南野道子 ,   藤沢康弘 ,   中村泰大 ,   高橋毅法 ,   大塚藤男

ページ範囲:P.441 - P.443

要約 73歳,男性.初診の1年半前に右背部に自発痛を伴った結節が出現した.初診時,右下背部に径4mm大の弾性軟な自発痛を伴った紫紅色結節あり.組織所見は,脂肪織に結合織性の被膜によって境界された腫瘍で,腫瘍細胞は円形の核と好酸性の胞体を有していた.免疫組織化学染色ではvimentin,α-SMA,HHF-35が腫瘍細胞に陽性,S-100蛋白が腫瘍内の間質に陽性であった.以上より,背部に生じたグロムス腫瘍と診断した.背部での発症は珍しく,本邦では自験例を含め14例を数えるのみである.背部の有痛性腫瘍をみたとき,頻度の高い平滑筋腫などとともに本症も念頭に置くべきと考える.

子宮平滑筋肉腫の皮膚転移の1例

著者: 鈴木高子 ,   磯貝理恵子 ,   川原繁 ,   川田暁

ページ範囲:P.444 - P.446

要約 55歳,女性.44歳時,子宮平滑筋肉腫のため,子宮全摘出術を受けた.術後11年目に肺転移がみられ,化学療法を受けた.翌年4月頃から左腋窩に皮下結節を触知し,徐々に増大してきた.左腋窩の中央に小指頭大のやや硬い境界明瞭な皮下結節がみられた.病理組織学的に皮下脂肪組織内に境界明瞭な腫瘍細胞塊がみられ,卵円形から短紡錘形の核をもった腫瘍細胞が浸潤していた.免疫組織化学染色ではデスミン染色,α-SMA染色が陽性であった.以上の所見から,子宮平滑筋肉腫の皮膚転移と診断した.自験例では原発巣発見から皮膚転移までの期間が11年と長く,稀な症例と考えた.

頤部に生じた梅毒性フランベジア

著者: 甲斐裕美子 ,   森田博子 ,   井上千津子

ページ範囲:P.447 - P.449

要約 45歳,男性.初診の約2か月前,頤部に痤瘡様皮疹が出現し,徐々に増大し,腫瘤状となったため,当科を受診した.頤部に1.5cm大,2cm大のドーム状に隆起し,多数の膿栓を伴う弾性軟の腫瘤を2個認めた.梅毒血清反応はRPR法128倍,TPLA2,143,TPHA20,480倍と高値を呈し,病理組織学的に真皮全体に密な形質細胞を主体とした細胞浸潤を認めた.梅毒2期疹である膿疱性梅毒疹,特にその皮疹の性状より梅毒性フランベジアと診断した.アモキシシリン1,500mg/日の内服により,10日目には皮疹は扁平化した.

播種性血管内凝固症候群を合併したツツガムシ病の1例

著者: 山田和哉 ,   田村政昭

ページ範囲:P.450 - P.452

要約 81歳,男性.初診の数日前より全身倦怠感,食欲不振を自覚していた.外出時に,路上に倒れていたところを発見され,救急車にて当院へ搬送された.初診時,顔面,躯幹および四肢に小豆大までの淡紅色斑が播種し,右頸部には刺し口と思われる小指頭大の軽度落屑を付す浸潤性淡紅色斑がみられた.ツツガムシリケッチア抗体価陽性であり,ツツガムシ病と診断した.同時に播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併していた.塩酸ミノサイクリン,メシル酸ガベキサートなどを投与し,軽快した.ツツガムシ病はテトラサイクリン系抗生剤が著効するが,治療が遅れるとDICを併発し,致死的となる場合があり,注意が必要と思われる.

滋賀県で発生したツツガムシ病の1例

著者: 井岡奈津江 ,   沖守生

ページ範囲:P.453 - P.456

要約 58歳,女性.2003年11月8日より37℃台の発熱,両頸部リンパ節腫脹,全身に2~3mm大の紅斑が出現し,翌日,当院救急外来を受診した.血液検査にてAST75IU/l,ALT52IU/l,CRP7.3mg/dlと軽度上昇していた.2日後,当科を受診し,家が林に近く草むしりをしていたこと,右大腿後面に約5mm大の黒色痂皮を認めたことより,ツツガムシ病の可能性を考えた.抗ツツガムシ抗体(Gilliam型)はペア血清で4倍以上の上昇を認め,ツツガムシ病と診断した.塩酸ミノサイクリン150mg/日を16日間内服し,解熱した.紅斑は消退し,AST,ALT,CRPは正常化した.滋賀県でのツツガムシ病の報告は,われわれが調べた限りでは3例目だった.

畜産業従事者の顔面に生じたTrichophyton verrucosumによる体部白癬の1例

著者: 若松伸彦 ,   望月隆 ,   河崎昌子

ページ範囲:P.457 - P.460

要約 43歳,女性.畜産業従事者の右下顎に単発したTrichophyton verrucosumによる体部白癬を経験した.病巣は当初,湿疹様であり,ステロイドを外用していたが拡大した.再診時,皮疹はクルミ大の中心治癒傾向の明らかでない浸潤性紅斑であった.治療はケトコナゾールクリームなどの外用療法のみで約2か月後に治癒した.菌は病巣よりセロファン粘着テープ法で採取した鱗屑を,スキムミルク添加マイコセル平板培地を作製し,これに接種して分離した.

重症カンジダ性爪囲爪炎を伴った慢性口腔カンジダ症の1例

著者: 橋川恵子 ,   大山文悟 ,   名嘉眞武国 ,   楠原正洋 ,   橋本隆

ページ範囲:P.461 - P.464

要約 25歳,男性.15歳頃より口腔内の白苔を慢性的に繰り返していた.2年前より右拇指爪の混濁が出現し,1年前より左小指にも発症し,徐々に爪の変形・破壊が進行した.近医で抗菌薬を含め種々の加療を受けていたが,効果はなかった.初診時,右拇指爪は両側爪郭に軽度の肉芽腫性変化・びらんを,左小指は爪の著しい変性と肉芽腫性変化を認め,いずれも爪囲炎を伴っていた.爪部の真菌培養でCandidaを検出し,口腔内にも鵞口瘡が確認されたため,イトラコナゾール1日200mgのパルス療法を行い,良好な結果を得た.

Mycetoma様の皮疹を呈した原発性皮膚放線菌症の1例

著者: 片野典子 ,   秋田洋一 ,   渡辺大輔 ,   玉田康彦 ,   松本義也 ,   原一夫 ,   岩淵英人

ページ範囲:P.465 - P.467

要約 67歳,女性.脳梗塞の既往があり,左足装具装着部に潰瘍が出現してきたが放置していた.当科受診時,左第4趾と左足底の角化性局面に潰瘍と痂皮形成がみられ,mycetomaや扁平上皮癌を考えた.生検により真皮から皮下組織に菌塊を認めた.菌の培養は施行しなかった.菌塊はGram染色陽性の桿菌で,PAS染色,Groccot染色陽性,および菌糸の形態,菌塊周辺の好酸性棍棒状物質の存在と合わせ,actinomycosisと診断した.内臓病変はなく,装具の圧迫部位に潰瘍が生じていることから,口腔内容物や便から感染した原発性皮膚放線菌症と考えられた.

治療

エナント酸テストステロン局注が奏効した外陰部硬化性萎縮性苔癬の1例

著者: 相澤浩

ページ範囲:P.469 - P.471

要約 55歳,女性.外陰部の掻痒を伴う白色硬化性の局面を主訴に受診した.組織学的に硬化性萎縮性苔癬と診断し,外陰病変部に1ml中にエナント酸テストステロン250mgを含有するテストビロン・デポー(R)の皮下注射を,4か月間で計8回(エナント酸テストステロン総量1,000mg)施行した.治療後には自覚症状の掻痒の改善と著明な色素脱出の改善を認めた.組織学的には真皮上層の浮腫の消失,膠原線維の増生を認め,副作用は生じなかった.本症に対するテストステロンの皮下注療法は,その副作用を考えると慎重な観察が必要であるが,本症の治療法の1つになりうると考えられた.

連載

アメリカで皮膚科医になって(13)

著者: 藤田真由美

ページ範囲:P.472 - P.472

日本からの医療相談(Medical consultation from Japan)

 アメリカに来てからも,日本にいる知人や友人などから医療相談をされることがたまにある.先日も,胃癌の弟さんを持った友人から,治療や予後について一般情報を教えてほしい,と依頼があった.昔,内科インターンで鍛えた知識の見せ所,と思ったが,平生勉強していないことについて,しかも人の命にかかわる発言をするのは医者として責任重大であるので,ネット検索をしてから答えることにした.しかし,最近は本当に便利な世の中になったものだ.以前は古い教科書を大事に保管し,古くなっていく知識を長年使ったり,図書館に行って調べたりしていたものだが,今はコンピュータさえあれば最新の情報が即座に手に入るようになった.教科書,雑誌,ニュース,辞書,テレビの情報も瞬時に全世界に流れる.日本の地震ニュースの直後に友人に安否の電話を入れたら,アメリカの私からの電話が日本の友人からの電話よりも早く,大層驚かれたこともある.

 さて,この医療相談だが,これによって日本とアメリカの医療制度の違いを気づかされることがたまにある.ある日,別の知人から,3か月にわたる足のしびれについて電話相談があった.質問は,「何科を受診したらよいか」とのこと.「主治医にまず簡単に診察してもらって目安をつけてから専門科に行ったら」と答えると,主治医制度は日本ではまだないから訊いているんだ,という.そうだった,失礼しました,と難問をぶつけられた私は真剣に考えねばならない.はてさて,多分神経内科だろうけれど,糖尿などがあると内分泌内科かな,いや,腰痛(本人は長時間の机仕事のせいで,関係ないという)があるから整形外科か,はたまた血栓か,などと考えて随伴症状などをきいてみる.ここで面白いのは,人によって反応が2種類あることである.「しびれ以外の症状は全くないし,あっても昔からだから,全く関係ない(一体,他の症状はあるのかないのか?).」というタイプと,「そういわれればその症状がある気がする.」とすべての症状を肯定して悲観するタイプとである.何はともあれ,こちらは問診症状のみを元に診断しないといけないのに症状が不確かだと診断のしようがない.最後には,「とりあえず神経内科に行ってみては」と一番確率の高い病名に落ち着く.電話の向こうの友人は「でも,間違った科に行くと医者に冷たくあしらわれ,あっちこっちの科にたらい回しになる」と言うが,こちらもこれ以上は助けようがない.

書評

―著:岡田正人―レジデントのためのアレルギー疾患診療マニュアル

著者: 森本佳和

ページ範囲:P.407 - P.407

 本書の著者である岡田氏はニューヨークで内科研修,Yale大学でリウマチ・アレルギー臨床免疫科のフェローシップを修了され,米国の内科学・リウマチ学・アレルギー免疫学の3つの専門医をもっておられる.その後,フランスの大学関連病院にて8年間の臨床および医学教育の経験をもたれ,現在は聖路加国際病院に勤務しておられる.アレルギーは,日本-米国-ヨーロッパで大きな違いのみられる医療分野の1つである.アレルゲンに対する減感作療法ひとつを比較しても,あまり一般的に行われない日本,皮下投与による減感作療法を中心とする米国,舌下投与による減感作療法を積極的に取り入れるヨーロッパ,という具合である.これら異なる医療地域をトップレベルの医療機関で実際に臨床医療を経験してこられた岡田氏が書かれた書物であり,その価値は高い.

 さて,本書を手にし,ページをめくると,そのギッチリと詰め込まれた内容に手に汗をかく思いさえする.内容は新しく,多くのエビデンスをもとに著者である岡田氏の経験や知識に触れることができる.米国におけるアレルギー免疫学の専門臨床トレーニング(フェローシップ)は最低2年間であり,筆者自身その教職にあるが,本書にある内容を身につけて実践できれば,アレルギー疾患に関してはそれで十分ではないかとさえ感じさせられる.

―総編集:金澤一郎,北原光夫,山口 徹,小俣政男―内科学

著者: 井村裕夫

ページ範囲:P.424 - P.424

 「教科書も進化する」というのが,医学書院の新刊『内科学Ⅰ・Ⅱ』を手に取ったときの第一印象であった.図表を数多く入れて理解を助けていること,系統ごとに「理解のために」という項を設けて,基礎研究の進歩,患者へのアプローチ,症候論,疫学,検査法などをまとめていること,疾患ごとの記載でも疫学を重視し,新しい試みを導入していること,などであろう.膨大な内科学の情報を2巻に凝縮した編集の努力も大変なものであったと推測される.その意味で,新しい内科学教科書の1つの型を作り上げたといえよう.

 序文にもあるように,内科学は医学の王道であるといってもよい.病気を正確に把握し,できるだけ患者に負担をかけない,侵襲の少ない方法で治療するのが,医学の究極の目標だからである.この目標を達成するためには,基礎研究の成果を活用することが不可欠である.内科学こそは臨床医学のなかでも最も生命科学に基礎を置いた分野であり,その理解なしに診療にあたることは困難である.本書ではそのような配慮が十分になされているといえる.

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あとがき

著者: 伊藤雅章

ページ範囲:P.476 - P.476

 日本皮膚科学会認定「指導専門医」制度がこの4月から始まりました.「皮膚悪性腫瘍指導専門医」と「美容皮膚科・レーザー指導専門医」です.この準備段階のことは本誌60巻12号のあとがきで紹介しましたし,詳しい規則・規則施行細則,修練指針や必要な研修実績のことはすでに日皮会誌に公示されています.しかし,なぜ「指導専門医」が必要なのかという理由はなかなかわかりにくいかもしれません.この制度を作ろうという要因はいろいろありましたが,なかでも皮膚がん治療の問題が最も重視されました.特に,皮膚科学会とは無関係に「がん化学療法」の専門医を作るという動きがあり,もしそうなると,皮膚がんを理解していない化学療法医が皮膚がんを治療したり,皮膚科専門医による皮膚がん治療が制約を受けたりする可能性が危惧されたわけです.悪性黒色腫はもとより,SCC,BCCやPaget病などありふれた皮膚がんでも,一般医による誤診や誤った治療が日常茶飯事であり,皮膚疾患を知らない他科の医師が診療すべきでないと,皮膚科専門医であれば誰でも考えているはずです.皮膚がんを扱うには皮膚科専門医であることが必要条件であると思うわけです.しかしながら,われわれがそう考えて,皮膚科専門医であれば皮膚がんを治療できると主張しても,社会的動向から皮膚科専門医が弱い立場に追い込まれる可能性もあります.そこで,皮膚科専門医を基盤として皮膚悪性腫瘍治療のサブスペシャリティ分野を設け,皮膚科学会としてその専門家(=皮膚悪性腫瘍指導専門医)を養成して,社会にアピールしようというわけです.

 組織としては,日本皮膚悪性腫瘍学会・日本皮膚外科学会・日本臨床皮膚外科学会で活躍する皮膚科専門医の先生方を中心に,日本皮膚科学会が運営する方式です.今年になって,日本癌学会・日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会と全国がん(成人病)センター協議会が「日本がん治療認定医機構」を発足し,一応,各領域の専門医取得を前提とするようですが,まだ内容もはっきりせず,これからの状況です.一方,美容皮膚科・レーザーの分野でも,皮膚や皮膚疾患に詳しい皮膚科専門医がピーリングやレーザー治療をすべきという考えに基づいています.しかしながら,いずれの制度も充実するまでにこれから5年,10年を要するものと思われますし,指導専門医になった方々の活躍も重要かと思います.本誌に掲載される論文をみても,皮膚疾患を診療できるのはやはり皮膚科専門医だと思いますし,それが患者さんにとっても有益であるのは無論のことで,医療経済的にもきわめて良いことだと思います.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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