icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科61巻7号

2007年06月発行

雑誌目次

原著

タクロリムス軟膏が奏効した難治性口唇扁平苔癬の1例―扁平苔癬の粘膜病変に対するタクロリムス軟膏の外用の考え方

著者: 伊東秀記 ,   松尾光馬 ,   井上奈津彦 ,   中川秀己

ページ範囲:P.481 - P.484

要約 61歳,男性.6か月前から下口唇に痂皮,白苔を付着するびらん,疼痛を伴う粘膜疹が出現した.臨床および病理組織学的に扁平苔癬と診断した.ステロイド外用は無効であったが,タクロリムス軟膏を外用したところ,3週間でびらんおよび粘膜疹は略治した.ステロイド外用薬が無効な口唇部扁平苔癬に対し,タクロリムス軟膏は試みる価値があると考えた.扁平苔癬の粘膜病変に対するタクロリムス軟膏の外用について,作用機序および粘膜病変に使用する際の留意点について考察した.

今月の症例

ハム製造業従事者に発症した類丹毒の1例

著者: 坂井博之 ,   飯塚一

ページ範囲:P.486 - P.488

要約 32歳,男性.ハム製造工場勤務.初診の1週間前に,素手で豚肉の処理中に右手背に軽微な擦過傷を負った.受傷2日目に同部に紅斑,腫脹が出現し,中心治癒傾向を示しながら徐々に遠心性に拡大してきた.生検皮膚片からの細菌培養でErysipelothrix rhusiopathiaeを検出し,類丹毒と診断した.アモキシシリン1,000mg/日の経口投与2週間で皮膚症状はほぼ消失した.類丹毒の皮疹部から原因菌を培養により検出同定することは困難とされており,貴重な症例と考え,報告した.

症例報告

むだ毛脱色剤使用でハイドロキノン塗布部に色素沈着をきたした1例

著者: 玉渕尚宏 ,   菊地克子 ,   渡部晶子 ,   相場節也

ページ範囲:P.490 - P.492

要約 46歳,女性.左右の膝部,外果部の色素沈着に対して約1年間2%ハイドロキノン製剤を使用していた.両下肢の毛に対して市販のむだ毛脱色剤を使用したところ,ハイドロキノンを塗布していた場所に色素沈着を生じた.初診時,左右の膝部,外果部に境界明瞭な黒褐色の色素沈着を認めた.約1か月後,色素斑は薄くなり,縮小した.ハイドロキノンは,強力な美白剤であるが,不安定で酸化されやすい.そのため,使用したむだ毛脱色剤により酸化され,黄色のベンゾキノン,あるいは黒色のキンヒドロンに変化したために生じた色素沈着であると考えた.

オイラックス(R)の香料による接触皮膚炎の1例

著者: 奥野公成 ,   角田孝彦

ページ範囲:P.493 - P.495

要約 57歳,男性.初診の1か月前より右足に掻痒感を伴った皮疹が出現し,徐々に拡大してきた.近医皮膚科で処方された外用薬,市販薬を使用するも軽快せず,当科を受診した.初診時,右足に鱗屑を伴った紅斑を認めた.パッチテストを行ったところ,オイラックス(R)とその添加物の香料で陽性であった.香料による接触皮膚炎と考え,それまでの外用薬を中止し,吉草酸ベタメタゾン外用を行ったところ,軽快した.

バシトラシン含有軟膏外用による即時型アレルギーの1例

著者: 荻田あづさ ,   青木見佳子 ,   川久保恵 ,   山形健治 ,   川名誠司

ページ範囲:P.496 - P.499

要約 39歳,女性.アトピー性皮膚炎に対し,入浴後,バシトラシン含有外用剤(ドルマイコーチ(R)軟膏)を外用したところ,その20分後に蕁麻疹,血圧低下,呼吸苦,冷汗,腹痛が出現し,他院に緊急搬送されステロイド点滴にて改善した.バシトラシン含有外用剤による即時型アレルギーを疑い,ドルマイコーチ(R)軟膏as isと成分別分離プリックテストを施行したところ,バシトラシン含有外用剤とバシトラシンに陽性であった.バシトラシン外用によるアナフィラキシーと診断した.海外では23例が報告されているが,本邦ではバシトラシン含有製剤が少なく,同製剤によるアナフィラキシーの報告は今までにない.

糖尿病を合併した柑皮症の1例

著者: 北村洋平 ,   籏持淳 ,   濱崎洋一郎 ,   山﨑雙次 ,   相川薫 ,   藤澤崇行

ページ範囲:P.500 - P.502

要約 46歳,女性.既往に糖尿病あり,食事療法中であった.2005年5月頃に全身皮膚の黄色調を指摘されていたが,同年9月頃より本人も全身の黄染に気付いたため近医を受診し,精査目的のため当科を紹介され,受診した.初診時,全身皮膚は黄色調を呈しており,手掌,手背で顕著であった.眼球結膜の黄染なし.β-カロチン528μg/dl(正常87μg/dl以下)と異常高値を示した.糖尿病により,β-カロチン転換障害をきたしたか,あるいは脂質代謝障害が引き起こされて発症したと考えた.

ネフローゼ症候群に合併した連圏状粃糠疹の1例

著者: 内田敦子 ,   土居敏明 ,   難波倫子

ページ範囲:P.503 - P.505

要約 31歳,女性.ネフローゼ症候群の治療中に,円形の落屑性局面が体幹を中心に次々に出現するようになった.病理組織学的に不全角化を伴わない角質増生,顆粒層の減少,有棘層の菲薄化がみられ,臨床症状と併せて連圏状粃糠疹と診断した.ネフローゼ症候群の改善と尿素軟膏の塗布により,皮疹は約2か月後には軽快した.本疾患は,悪性腫瘍や結核に合併することが多く,消耗性疾患のデルマドロームの一型と考えられている.

下垂体腺腫による糖尿病にみられた色素性痒疹の1例

著者: 康村綾子 ,   庄司道子 ,   山下伸樹 ,   山城将臣

ページ範囲:P.506 - P.509

要約 50歳,男性.口渇感や倦怠感が出現し,1か月後,前胸部に皮疹が出現し,近医で糖尿病が判明し,精査のため当院を紹介された.前胸部および後頸部に左右対称性に強い(R)痒を伴う網状紅斑を認め,その周囲には紅色小丘疹や小水疱が散在していた.病理組織は,角層下に好中球,好酸球を含む水疱を認め,基底層は軽度の液状変性を呈し,真皮上層の脈管周囲性に小円形細胞や好酸球の浸潤を認めた.また,末端肥大様顔貌で,頭部MRIで下垂体腫瘍の存在が判明した.ミノサイクリン100mg/日の内服では改善がなく,DDS75mg/日に変更したところ,1か月後に色素沈着になった.下垂体腫瘍摘出後,血糖値は正常化し,DDSの内服は不要になった.下垂体腫瘍による糖代謝異常が関与した色素性痒疹と考えた.

肉芽腫性乳腺炎に伴った結節性紅斑の1例

著者: 三原清香 ,   曽我部陽子 ,   永井弥生 ,   田村敦志 ,   石川治

ページ範囲:P.510 - P.513

要約 35歳,女性.初診2か月前より発熱,右乳房に疼痛を伴う皮下硬結が出現した.近医にて抗生剤投与,切開排膿を受けるも改善せず,当科初診の4週間前より四肢の紅斑も出現した.初診時,右乳房上方から乳頭部にかけて鶏卵大の硬い皮下硬結を触知し,四肢には圧痛と浸潤を伴う紅斑が散在していた.乳房の病理組織では類上皮細胞や巨細胞を混じた肉芽腫構造がみられたことより肉芽腫性乳腺炎と,下腿の紅斑は脂肪小葉間の稠密な細胞浸潤があり結節性紅斑とそれぞれ診断した.プレドニゾロン20mg/日内服により結節性紅斑は速やかに消退し,乳房の腫瘤も縮小したが完全には消失していない.肉芽腫性乳腺炎に伴う結節性紅斑はこれまでに7例の報告をみるのみである.

二重の環状紅斑を呈したSjögren症候群の1例

著者: 宮田聡子 ,   増澤幹男 ,   勝岡憲生

ページ範囲:P.514 - P.517

要約 32歳,女性.初診の8年前より右頰部に紅斑が出現し,外用療法で略治となったが,その約4年後に同部位に紅斑が再び出現した.右頰部に3cm大で鱗屑を付着し,堤防状に隆起する環状の紅斑と,その外側に環を閉じない弧状の紅斑が存在し,二重のリングを呈していた.口腔乾燥症状があり,唾液腺造影にて腺内にびまん性に点状・斑状陰影を認めた.抗核抗体320倍,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体ともに陽性,高γグロブリン血症を認め,Sjögren症候群(SjS)と診断した.紅斑は,組織学的に血管周囲性に稠密なリンパ球浸潤があり,SjSの環状紅斑と診断した.治療は,紅斑に対してステロイドおよびタクロリムス軟膏の外用を行い無効であったが,ジアフェニルスルホン(DDS)内服にてほぼ消失した.

ステロイド内服,PUVA療法および活性型ビタミンD3外用の併用が奏効したgeneralized morphea

著者: 間山淳 ,   鳴海博美

ページ範囲:P.518 - P.521

要約 77歳,男性.初診の5か月前から腹部および腰部に皮膚硬化局面が出現した.急激に拡大してきたため,当科を紹介され受診した.初診時,腹部・腰部および下肢に境界明瞭な光沢を有する皮膚硬化局面が多発し,部分的に辺縁に紅斑を伴っていた.自己抗体はすべて陰性であった.長年にわたるシンナー曝露歴があったため,generalized morphea-like systemic sclerosisとの鑑別を要したが,四肢末梢部の皮膚硬化や内臓病変などはみられず,generalized morpheaと診断した.病変の拡大が比較的進行性であったため,ステロイド内服と外用PUVA療法を併用したところ,拡大が止まり辺縁の紅斑が軽快した.既存の硬化部は著変なかったが,活性型ビタミンD3軟膏外用の併用にて徐々に皮膚硬化は軽快した.

Crohn病に併発した肉芽腫性口唇炎の1例

著者: 濱谷詩織 ,   幸田紀子 ,   上出良一 ,   中川秀己

ページ範囲:P.522 - P.524

要約 31歳,男性.1年前から下痢と血便があり,他院でCrohn病を疑われ,メサラジンを内服している.3か月前より生じた口内炎と口唇から鼻唇溝の硬性浮腫を主訴に,当科を紹介受診した.口唇上部からの皮膚生検組織像で,真皮浅層から中層の皮脂腺や血管周囲にリンパ球と組織球よりなる肉芽腫を認めた.血中ACE値や胸部X線所見は正常であった.臨床像と病理組織像から肉芽腫性口唇炎と診断し,メチルプレドニゾロンの内服を開始したところ,約1週間で口唇の腫脹は軽快,消化器症状も改善した.その後,投与量を漸減し中止した.しかし,口唇腫脹は順調に軽減する一方,下痢と血便が再燃した.大腸内視鏡で敷石像と縦走潰瘍が認められ,Crohn病と確定診断された.

緊満性水疱を形成した粘膜苔癬の1例

著者: 竹内淳子 ,   青木見佳子 ,   新見やよい ,   庄村江里子 ,   山田浩之 ,   瀬戸皖一 ,   川名誠司

ページ範囲:P.525 - P.528

要約 81歳,女性.4か月前より口腔,口唇に疼痛が出現した.口腔内に白色線条,紅斑,びらん,緊満性水疱を認めた.白色線条部では苔癬型組織反応を認めた.水疱部では粘膜上皮下に好酸球浸潤を伴う水疱を認め,lichen planus pemphigoidesとの鑑別を要したが,蛍光抗体直接法・間接法ともに陰性であったこと,粘膜苔癬に典型的な白色角化局面上に水疱が存在していたことから,bullous lichen planusと診断した.

ゾニサミドによるdrug-induced hypersensitivity syndromeの1例

著者: 米本広明 ,   中村友紀 ,   織田眞理子 ,   太田真由美 ,   石地尚興 ,   中川秀己

ページ範囲:P.529 - P.532

要約 30歳,女性.くも膜下出血の術後よりゾニサミド内服を開始した.内服34日目より躯幹に皮疹が出現し,その後39℃台の発熱が出現した.ステロイド全身投与を開始したが,肝機能,凝固機能が急激に悪化したため,血漿交換療法を施行したところ,全身状態の改善がみられた.その後,肝機能の悪化がみられるもステロイドパルス療法を行い改善した.以後,ステロイド漸減するも皮疹,肝機能の再燃はみられなかった.経過中HHV-6IgG抗体価の上昇,DLST陽性,パッチテスト陽性であったためゾニサミドによるdrug-induced hypersensitivity syndromeと診断した.

多彩な皮膚症状を呈した不全型Heerfordt症候群の1例―ブドウ膜炎と顔面神経麻痺を伴ったサルコイドーシス

著者: 吉田和恵 ,   石原幸子 ,   畑康樹 ,   能勢由紀子

ページ範囲:P.533 - P.536

要約 58歳,女性.瘢痕浸潤,皮下型,結節型およびびまん浸潤型の皮膚サルコイドを生じ,皮膚生検は非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫像であった.血清リゾチーム高値.ツベルクリン反応陰性.初診時は眼・肺病変はなかったが,経過中にブドウ膜炎,右肺門・縦隔リンパ節腫大,肺胞浸潤影が出現し,経気管支肺生検で非乾酪壊死性肉芽腫が証明された.初診6か月後に左顔面神経麻痺を発症したが,ステロイド投与で軽快した.初診時より微熱が持続し,ブドウ膜炎,顔面神経麻痺を合併したが,耳下腺腫脹は明らかでなかったことより不全型Heerfordt症候群と診断した.

血液疾患患者に発症した水痘再感染の2例

著者: 渡辺拓 ,   梶田裕子 ,   久原友江 ,   石田奈津子 ,   玉田康彦 ,   渡辺大輔 ,   松本義也

ページ範囲:P.537 - P.540

要約 症例1:56歳,女性.慢性骨髄性白血病の治療のため骨髄移植後に水痘を発症.症例2:71歳,男性.悪性リンパ腫のため化学療法を受けた後に発症.どちらも体幹,四肢に紅暈を伴う弛緩性水疱が散在したが,帯状疱疹様の疼痛は認めなかった.全身症状は軽度であった.症例1はウイルス抗体価の推移と皮疹の性状により水痘再感染と診断した.症例2はLAMP法によるウイルスDNA検出と皮疹の性状により水痘再感染と診断した.骨髄移植,化学療法により水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫が発症レベルまで低下したため,水痘再感染が起こったと考えた.

Aneurysmal fibrous histiocytomaの1例

著者: 上田厚登 ,   島田浩光 ,   前山泰彦 ,   安元慎一郎 ,   橋本隆 ,   岩崎宏

ページ範囲:P.541 - P.543

要約 34歳,男性.左上腕外側に1.4×0.7cm大の楕円形で,辺縁からなだらかに隆起する黒色の結節を認めた.臨床的にエクリン汗孔腫,血管腫,基底細胞癌,悪性黒色腫が考えられた.病理組織学的には表皮直下から脂肪織にまで及ぶ結節状の病変で,増生する細胞は,線維芽細胞,組織球から構成され,免疫組織化学染色ではvimentinに陽性を示した.aneurysmal fibrous histiocytomaと診断した.

皮表と連続性がみられたアポクリン混合腫瘍の1例

著者: 小野藤子 ,   塚原菜々子 ,   小林康隆 ,   太田有史 ,   竹内紋子 ,   中川秀己

ページ範囲:P.545 - P.547

要約 73歳,男性.数年前より左頰部に自覚症状の乏しい皮内結節が出現し,徐々に増大してきた.初診時,約1cm大の白色調の腫瘍を認め,皮内から皮下にかけて約3cm大の石様硬の硬結を触知した.組織学的には,皮表と連続し拡張した毛包様構造が真皮内で囊腫構造を形成していた.囊腫壁より生じた腫瘍索は,断頭分泌をみる2層性の汗腺様構造,角化物を入れる囊胞,未熟な脂腺への分化を示し,間質には線維芽細胞や脂肪細胞の増殖がみられ,アポクリン混合腫瘍と診断した.一般的に皮膚混合腫瘍は表皮との連続はないとされるが,毛包,脂腺,アポクリン腺は毛芽由来の産物であることを考えれば,皮表と連続性のある毛包構造からアポクリン混合腫瘍を生じてきても矛盾しないと考えた.

腋窩部潜在性Paget病の1例

著者: 吉田益喜 ,   川原繁 ,   川田暁

ページ範囲:P.548 - P.550

要約 72歳,男性.約4年前より外陰部に紅斑が出現し,近医で湿疹として外用治療されていた.4か月前から陰囊部の皮疹部がやや隆起し拡大してきたため,来院した.当初,臨床的に両側腋窩には病変はみられなかったが,陰部,両側腋窩の皮膚生検組織像では陰部と左腋窩にPaget細胞を認めた.ALAで診断しえた右腋窩は臨床的に病変のない潜在性Paget病と考え,陰部病変と併せ,二重複乳房外Paget病と診断した.

有茎性腫瘤を形成した外陰部Paget癌の1例

著者: 若松伸彦 ,   刀川信幸 ,   柳原誠 ,   望月隆 ,   竹田公信 ,   竹田公英

ページ範囲:P.551 - P.553

要約 85歳,男性.初診の3か月前に家人が陰囊部の結節に気付くが,放置されていた.結節はその後徐々に増大・隆起し,出血も伴うようになった.受診時,陰囊下面に1.0×1.5cmの有茎性の腫瘤が認められた.所属リンパ節の肥大はなく,全身検索で転移のないことを確認したのち,結節の下床にあった紅斑とともに,辺縁10mmの正常部を含めて切除した.組織学的には腫瘍細胞は表皮から毛包周囲性に表皮に浸潤していた.ジアスターゼ消化性のPAS,アルシアンブルー,CEA,GCDFP-15染色では陽性,S-100蛋白は陰性で,Paget癌と診断した.

腋窩に生じた進行期乳房外Paget病の1例

著者: 横内麻里子 ,   小林昌和 ,   稲積豊子

ページ範囲:P.554 - P.557

要約 70歳,女性.初診の数年前より右腋窩に自覚症状のない紅色局面が出現し,徐々に増大した.初診時,右腋窩に径約8cmの紅色局面を認め,局面内に径約5cmの易出血性紅色腫瘤が存在した.直下に連続して鶏卵大のリンパ節を触知し,右上肢の浮腫が著明であった.表皮から皮下織にかけてPAS,CEA染色陽性の胞体が明るく大型の核をもつ異型細胞が密に浸潤していた.右腋窩リンパ節腫大,癌性胸膜炎も認め,進行期乳房外Paget病と診断した.電子線治療を施行し原発巣は消退したが,病勢は緩徐に進行した.low-dose FP療法4クール,低用量タキソテール(R)療法2クール,UFT(R)内服を行ったが,全身状態が悪化し,初診より11か月後に死亡した.

黄色ブドウ球菌による壊死性筋膜炎を合併した慢性骨髄増殖性疾患

著者: 坂本恵利奈 ,   山根孝久 ,   加茂理英 ,   金島広 ,   中前博久 ,   高起良 ,   日野雅之 ,   今西久幹 ,   石井正光 ,   朴勤植

ページ範囲:P.558 - P.561

要約 74歳,女性.慢性骨髄増殖性疾患でヒドロキシウレアとプレドニゾロンによる治療中に右手背から前腕にかけて腫脹と疼痛が出現,急速に増悪し,重症軟部組織感染症と診断され,入院した.入院当日にショック状態,多臓器不全に陥ったが,デブリードマンを含む外科的処置,デイコプラニン投与を行い,改善した.起因菌として壊死組織より黄色ブドウ球菌が同定された.壊死性筋膜炎と診断し,再度デブリードマンを行い,遊離植皮手術を施行したところ,皮膚生着を認め良好な経過であった.しかし,緑膿菌肺炎を合併し永眠した.壊死性筋膜炎は死亡率が高く,血液疾患治療中も稀だが合併の報告があり,早期の診断,起炎菌同定,抗菌薬選定,外科的処置と全身管理が重要である.

治療

健康成人の人工的乾燥皮膚における保湿剤の有用性

著者: 川島眞 ,   沼野香世子 ,   石崎千明

ページ範囲:P.563 - P.568

要約 健康成人の前腕部に作製した人工的乾燥皮膚におけるヘパリン類似物質含有製剤(ヒルドイド(R)ローション:HL),尿素製剤(尿素ローション)およびワセリンの保湿効果を,ランダム化比較試験で評価した.試験薬は1日1回3日間連続して対象部位に塗布し,経日的に角層水分量および経表皮水分喪失量を測定し,皮膚乾燥度を評価した.HL塗布部位は,無塗布部位に比べ角層水分量が有意に改善し,薬剤間比較においても尿素ローションおよびワセリン塗布部位に比べ有意に高い角層水分量を示した.尿素ローションおよびワセリン塗布部位は,有意ではないが角層水分量の改善傾向を示した.また,いずれの保湿剤とも皮膚乾燥度の改善傾向を示したが,経表皮水分喪失量については改善効果を示さなかった.以上より,今回試験した保湿剤は,乾燥皮膚の生理学的機能異常を改善することが示唆され,なかでもHLは,他剤よりも優れた保湿効果を有することが示唆された.

連載

アメリカで皮膚科医になって(14)

著者: 藤田真由美

ページ範囲:P.570 - P.571

健康診断(Annual Physical Examination)

 前回,病気の医療相談のことを書いたが,今度は人間ドックや健康診断についての質問がきた.そろそろドックに入ろうと思うが,いろいろなコースがあるのでどれを選んだらよいか,という.内視鏡は上からも下からもしたほうがいいのか,脳ドックもしたほうがいいのか,などと続く.エッ,患者が検査を決めるの? 脳ドックって何? 思わず答えに窮してしまった.自慢ではないが,私は日本にいたときは健康だったのと忙しかったのとで,ほとんど医者にみてもらったことはなかった.まさに医者の不養生である.若かったのでドックに入った経験もない.また,こちらに来てからは,医者としても患者としてもアメリカ医療にすっかり慣れてしまっているので,日本での状況が全くつかめない.早速コンピュータで検索してみると,なるほど,日帰りコース,一泊コース,レディースコースにオプションと,旅行のパンフレットのように盛りだくさんである.脳ドックも,CT,MRI,MRAなどがあり,しかも安い.脳の検査が10万円以下でできるなんて,アメリカでは考えられない.心臓ドックでは冠動脈造影CTなどが入っている.さすが,至れり尽くせりの日本のサービスである.医学知識のある私でさえどのコースを選ぶのか考えるくらいであるから,一般の人が迷うのもうなずける.

 そこで,ここはまず人生の先輩である両親の経験をきいてみてから考えることにした.ちなみに私の母親は70代後半,父親は80歳であるが,二人とも大病もなく,元気に暮らしている.彼らによると,毎年,自治体による住民健診の通知が来て,それに行っているとのこと.診察,血液検査,尿検査を主とする成人病検診と,胃X線,便検査,Pap検査,マンモグラフィー,胸部X線による癌検診があるとのこと.これらの検診で十分だから人間ドックには行っていないという.両親曰く,この検診は70歳以上は無料で,最近になって二人とも無料になったと喜んでいたところ,父親が80歳になった今年は母親にしか通知が来なくなった,という.確かに80歳にもなると,今さら異常を見つけても予後や寿命はあまり変わらない,ということらしいが,まだまだ元気いっぱい,もうしばらく人生を楽しむ予定の父親にとってはたいそう不満なことだったらしい.さっそく抗議に行ったとのこと.そこで,80歳以上には通知がないけれども希望があれば受けられることがわかり,安心すると同時に,その場でちゃっかり今年の分を受けてきたという.元気で生きることに対してこれくらい貪欲だと,長生きしそうだ.

--------------------

あとがき

著者: 天谷雅行

ページ範囲:P.574 - P.574

 1998年5月,国際研究皮膚科学会(IID)のサテライトシンポジウムとして水疱症に関する国際会議がザルツブルグで行われた際,私が完成して間もなかった天疱瘡血清診断薬としてELISA法の内容を発表したときのことである.講演終了後,あるアメリカ人が真っ先に手を挙げて質問に立った.どんな質問が来るのかどきどきしながら内容を聞こうとしても,何を言っているのかよくわからない.どう答えていいのかもわからない.そのとき初めて,“conflict of interest”「利益相反」という単語を知ることとなった.要するに,講演の最後に,本研究で開発したELISA法はMBL社が製造販売し,今では世界中どこでも入手可能ですと,親切心でふれたのが問題となった.発表者が会社とどのような関係があるのかを前もって宣言をしていない,発表者が会社を通して何らかの利益を得る立場であるならば,発表者の結論はバイアスがかかっている可能性があるので,そのことを聴衆は知っておく権利があるというのである.これは私たちの文化からすると違和感のある概念であった.当時 “conflict of interest”のことが話題になったときに,必ずしもすべての欧米人が同じ感覚を持っていたわけではなく,あるヨーロッパ人は「これはアメリカ的な発想だ」と批判めいたことを言っていた.それから約9年が経っている.現在では,主な英文誌はほぼ例外なく,投稿規定の一つとして“conflict of interest”の項目があり,否が応でも告知しなければならない.現在においても,どこまでが利益相反で,どこからが利益相反でないのか,明確に判断することは容易ではない.しかし,利益相反があるにもかかわらず告知せずいることが,イノセントでなく悪意と解釈される可能性があるという国際感覚が徐々に広がっているのも事実である.本誌でも6月号から「利益相反」が投稿規定の一項目として加えられ,「利益相反」を明記することになった.皮膚科領域の邦文雑誌としては初めての試みと思われる.ご意見のある方は,ぜひ編集室までご一報をお願いしたい.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?