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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科61巻9号

2007年08月発行

雑誌目次

原著

特異な皮疹を呈したangioimmunoblastic T-cell lymphomaの2例

著者: 新田悠紀子 ,   倉橋直子 ,   小池文美香 ,   大野稔之 ,   奥田容子 ,   黒木のぞみ ,   森谷鈴子 ,   寺澤晃彦 ,   鈴木伸明

ページ範囲:P.673 - P.678

要約 症例1:65歳,女性.1999年に血管免疫芽球型T細胞リンパ腫(AITL)を発症し,CHOP療法にて完全寛解した.2005年8月に,全身に葡行性花環状紅斑(EGR)様の環状紅斑が出現した.症例2:59歳,男性.2005年8月に発熱,全身のリンパ節腫脹,全身に細網状皮膚(CR)様の網状紅斑を認めた.症例1,2ともにIL-2Rが高値を示した.病理組織学的検索で皮膚は真皮の血管周囲にCD4,CD8陽性のリンパ球の浸潤を認め,リンパ節はAITLの像を呈した.症例1はEGR様の,症例2はCR様の非特異疹を呈したAITLと診断した.AITLは約50%に皮疹を伴うが,EGR様,CR様の皮疹を呈した報告はみられなかった.

症例報告

塩化ベンザルコニウムによる接触皮膚炎を生じた放射線皮膚潰瘍の1例

著者: 宇宿一成

ページ範囲:P.680 - P.682

要約 82歳,男性.肺癌に対して60Gyの放射線照射を受けた.照射部位である胸部に皮膚潰瘍を生じ,当科に紹介された.肉芽形成を目的に,水道水洗浄後フィブラスト®スプレーで治療したところ,痛みを伴う潰瘍周囲の紅斑を生じた.フィブラスト®スプレーによる接触皮膚炎を疑い,貼布試験を行ったところ,塩化ベンザルコニウムが強陽性を示し,本剤による接触皮膚炎を生じたものと考えた.フィブラスト®スプレーの使用を中止し,プロスタンディン®軟膏を用いて治療し,約半年後に潰瘍は上皮化した.難治性皮膚潰瘍の治療中には,使用した薬剤による接触皮膚炎に注意する必要がある.

急速に潰瘍形成を生じたチアマゾールによるMPO-ANCA関連血管炎の1例

著者: 石田和加 ,   濱田正明 ,   堀好寿 ,   中枝武司 ,   宮越将史 ,   酒井剛 ,   関谷政雄

ページ範囲:P.683 - P.686

要約 43歳,女性.Basedow病と診断され,チアマゾール(MMI)30mgの内服を開始された.約2か月後に両膝,両足関節の痛み,発熱が出現し,両下肢に紫紅色斑も出現し,急速に潰瘍化したため,入院した.皮膚生検では小血管のfibrinoid necrosisの所見を認め,MPO-ANCA高値から,MMIによるANCA関連血管炎と診断した.MMIを中止し,アイソトープ治療に切り替え,ステロイド治療を開始したところ,関節痛,発熱は消失し,皮膚潰瘍も植皮により上皮化した.

乳幼児期に軽快した非水疱性先天性魚鱗癬様紅皮症の1例

著者: 村田真希 ,   島田由佳 ,   川原繁 ,   奥田則彦

ページ範囲:P.687 - P.689

要約 生後0日,男児.出生直後より顔面・手掌を含む全身が潮紅を伴う薄いコロジオン様膜で覆われていた.水疱はなく,毛髪や耳介を含むその他の臓器に異常を認めなかった.病理組織像では,角層,顆粒層がわずかに肥厚し,顆粒変性はなく不全角化もほとんどなかった.生後数時間後より全身の落屑が生じ,日齢14頃までには四肢の鱗屑・軽い潮紅を残す程度に軽快した.1歳時のステロイドスルファターゼ活性は正常であり,特徴的な臨床所見,検査所見より,非水疱性先天性魚鱗癬様紅皮症と診断した.

掌蹠点状角化症の1例

著者: 山田和哉 ,   田村政昭

ページ範囲:P.690 - P.692

要約 39歳,女性.約20年前より手掌,足底に自覚症状を欠く点状の角化性小結節が多数出現した.手掌には粟粒大の角化性小結節が多発し,足底には加重部を中心とした過角化と半米粒大までの角化性小結節が多数みられ,一部の結節では中央が陥凹していた.病理組織学的所見では著明な角質増生と表皮の陥凹がみられた.角層は網目状の構造を呈し,不全角化はなかった.顆粒層は軽度増加していた.掌蹠点状角化症と診断し,高濃度タカルシトール軟膏を約3か月間塗布したが,皮疹に変化はない.

肺病変の急性増悪を伴ったLöfgren症候群の1例

著者: 小坂素子 ,   青木見佳子 ,   川名誠司 ,   手塚信吾 ,   高橋直人 ,   山口朋禎 ,   宗像一雄

ページ範囲:P.693 - P.696

要約 28歳,女性.下腿に結節性紅斑,膝関節と足関節の疼痛と腫脹,38℃台の発熱が2週間持続した.両側肺門リンパ節腫脹(BHL),ツベルクリン反応陰性,血清リゾチーム上昇,Gaシンチ,気管支肺胞洗浄所見より,サルコイドーシスの診断基準を満たした.さらに関節炎,結節性紅斑,BHLの所見よりLöfgren症候群と診断した.2か月後に咳,息切れを訴え,BHLと肺野病変の著明な増悪を認め,3か月後には眼病変も指摘されたため,プレドニゾロン(PSL)の投与を開始した.PSL投与後は自覚症状,検査所見ともに軽快し,経過は良好である.Löfgren症候群は欧米ではよくみられる病型であるが,本邦での報告は自験例を含めて9例と稀である.欧米では予後が良好で自然軽快することが多いため,ステロイドを投与することは少ないが,自験例は急速に肺病変が増悪し,眼病変も出現したため,ステロイド導入となった.

SLEの経過中に抗トポイソメラーゼ-Ⅰ抗体陽性の強皮症を発症したオーバーラップ症候群の1例

著者: 冨田郁代 ,   森田礼時 ,   白崎文朗 ,   長谷川稔 ,   佐藤伸一 ,   竹原和彦

ページ範囲:P.697 - P.699

要約 32歳,女性.3年前にSLEと診断され,プレドニゾロン(PSL)30mg内服を開始した.以後,漸減されPSL15mgとなっていたが,1か月前から手指の浮腫性硬化が出現し,急速に進行,同時にDLE(慢性円板状エリテマトーデス)様皮疹の増悪,抗dsDNA抗体上昇を認めた.上腕の組織で真皮全層の膠原線維の膨化と増生があり,強皮症とのオーバーラップとしてPSL30mgに増量し,症状,検査値ともに改善した.初診時には抗トポイソメラーゼ-Ⅰ抗体(Topo-Ⅰ)は陰性であったが,約1年半前の保存血清から陽転し,経時的な上昇が認められた.抗Topo-Ⅰ抗体の出現が強皮症の発症に先行していたことより,抗Topo-Ⅰ抗体をめぐる強皮症に特異的な免疫異常がその発症に強く関与していると考えた.

全身性エリテマトーデスの蝶形紅斑にレクチゾール®が著効した1例

著者: 服部令子 ,   林宏樹 ,   室慶直 ,   富田靖

ページ範囲:P.700 - P.702

要約 41歳,女性.2004年10月,顔面の蝶形紅斑,多関節痛,汎血球減少を認め,当院を紹介された.初診時,抗核抗体陽性,抗ds-DNA抗体陽性も確認し,全身性エリテマトーデス(SLE)と診断した.ステロイド薬内服治療にてSLEの活動性は落ち着いたが,顔面の蝶形紅斑のみ消退しなかった.レクチゾール®(ジアフェニルスルホン:DDS)を投与したところ,DDS症候群などの重篤な副作用を認めず,蝶形紅斑はほぼ消退した.

Hypertrophic lupus erythematosusの1例

著者: 大野祐樹 ,   金子健彦

ページ範囲:P.703 - P.706

要約 65歳,女性.初診3か月前頃より手背,踵,足趾背に隆起性角化性紅斑,顔面に紫紅色斑が出現した.病理組織像では,前者で過角化,表皮肥厚を認め,後者で表皮基底層の液状変性を認めた.蛍光抗体直接法ではIgG,IgMが基底層に線状に陽性,IgA,C3は一部の基底層に弱く陽性であった.抗核抗体640倍,抗DNA抗体80倍と陽性.特徴的臨床像と検査所見より,hypertrophic lupus erythematosusと診断した.経過中,WBC3,800/mm3と低下し,全身性エリテマトーデスの診断基準を満たした.プレドニゾロン20mg/日を内服開始したところ,皮疹は扁平化し軽快傾向を示したが,漸減により再燃した.

偽腸閉塞症状に対して酢酸オクトレオチドが有効であった全身性強皮症の1例

著者: 小林万利子 ,   鶴見純也 ,   川村由美 ,   濱崎洋一郎 ,   籏持淳 ,   山﨑雙次

ページ範囲:P.707 - P.710

要約 56歳,女性.1995年にRaynaud現象,1996年に手指の皮膚硬化が出現し,同年11月に当科を受診した.抗Scl-70抗体陽性,皮膚生検所見などより全身性強皮症(diffuse type)と診断した.肺線維症,肺高血圧症もみられ,末梢循環改善薬,プレドニゾロン少量内服で治療していたが,2002年より腹部膨満感,腹痛など偽閉塞症状が出現し,以後数回にわたりイレウス管留置,絶食による保存的治療を受けたが消化器症状の軽快,悪化を繰り返していた.2005年5月より1日7~10回の下痢を伴う腹部膨満感と,それによる摂食障害で6kgの体重減少を認めた.偽腸閉塞と診断し,酢酸オクトレオチド50μg/日の連日皮下注射を施行したところ,下痢回数の減少および腹部膨満感などの自覚症状の改善をみた.全身性強皮症による偽腸閉塞に対して,酢酸オクトレオチド皮下投与は有効な治療法の1つであると考えられた.

再発性多発性軟骨炎の1例

著者: 前田真紀 ,   小林信彦 ,   浅田秀夫 ,   宮川幸子

ページ範囲:P.711 - P.713

要約 66歳,男性.初診の約1か月前より左耳介の発赤,腫脹および両眼球結膜の充血があり,2005年1月初旬より発熱,全身倦怠感が出現した.左耳介の発赤部より軟骨を含めた皮膚生検で,真皮下層から軟骨周囲のリンパ球の密な浸潤を認めた.臨床症状および組織学的所見より,再発性多発性軟骨炎と診断した.プレドニゾロン30mg/日の内服により治療を開始した.開始後,発熱,左耳介の発赤,両眼球結膜の充血は速やかに消退した.現在プレドニゾロン10mg/日まで漸減しているが,再発を認めていない.

続発性皮膚形質細胞腫の1例

著者: 杉村亮平 ,   貞政裕子 ,   吉池高志

ページ範囲:P.714 - P.716

要約 72歳,女性.IgG-κ型多発性骨髄腫と診断された4年後,左上腕皮膚に腫瘤が出現した.組織学的には異型形質細胞腫の像を示し,免疫組織化学では,IgG(+),κ(+)で,多発性骨髄腫の皮膚転移による続発性皮膚形質細胞腫と診断した.多発性骨髄腫の皮膚転移は稀であり,本邦報告例をみると,皮膚転移巣の出現は多発性骨髄腫の進行を示唆し,概して予後不良といえよう.

放射線技師の右手に生じたBowen病の1例

著者: 村田明広 ,   松本義也

ページ範囲:P.717 - P.719

要約 53歳,男性.キャリア30年の放射線技師で,就業直後より胃透視の際に右手にX線の被曝を繰り返していた.1989年頃より右手背と指の伸側に角化性丘疹が生じた.初診時,右手背は丘疹とともに多形皮膚萎縮の皮疹を呈していた.丘疹からの生検により,Bowen病の病理組織学的所見がみられ,慢性放射線皮膚炎上に生じたBowen病と考えた.最初の5年間で被曝したX線の総吸収線量は概算で3.36Gyであった.少量の反復照射であっても25年後に皮膚悪性腫瘍の発症の危険性がある.

多彩な組織像を呈した隆起性皮膚線維肉腫の1例

著者: 若林麻記子 ,   藤井紀和 ,   山本佳名子 ,   植西敏浩 ,   段野貴一郎 ,   田中俊宏

ページ範囲:P.720 - P.723

要約 40歳,男性.左大腿内側に,径8×8cm,高さ10cmの悪臭を伴う,下床との可動性が良好な弾性硬の腫瘤が生じた.腫瘤の先端部は,びらんを伴った径3cm大の肉芽腫様腫瘤が突出していた.肉芽腫様部分の生検では,細胞密度の低い紡錘形から卵円形細胞,血管増生,myxoid areaを認めた.治療は二期的に行った.1回目の手術で腫瘤辺縁から3cm離し,下床は筋膜を含め切除を行い,人工真皮を貼付した.全切除標本の病理組織像では,隆起性皮膚線維肉腫に特徴的とされるstoriform pattern,honeycomb pattern,herringbone patternのほかに,myxoid area,xanthomatous areaなど多彩な組織像を認めた.2回目の手術で,下床の薄筋,内転筋の一部を含めて切除し,分層網状植皮術にて再建した.

歯肉に転移した心臓原発血管肉腫の1例

著者: 熊澤智子 ,   高原正和 ,   永江祥之介 ,   古江増隆 ,   土屋丹二 ,   中村稔 ,   中野修治 ,   原田実根

ページ範囲:P.724 - P.726

要約 62歳,男性.微熱と労作時の息切れを主訴に内科を受診し,MRで右心房内に突出する腫瘤が認められた.また,同時期より出現した歯肉の結節を生検したところ,血管肉腫であった.精査の結果,肺,歯肉に転移した心臓原発の血管肉腫であった.内科で化学療法が行われたが,初診から1年半後に死亡した.

Toxic shock syndromeの1例と当院経験例7例のまとめ

著者: 島貫美和 ,   石川博康 ,   井上あい ,   鈴木昌幸

ページ範囲:P.727 - P.730

要約 30歳,男性.発熱,嘔吐を主訴に当院救命救急センターを受診し,急速な血圧低下をきたし敗血症性ショック疑いにて入院した.翌日,皮疹につき当科を紹介された.日焼け様皮疹,結膜の充血,検査所見より,誘因不明の毒素性ショック症候群(TSS)と診断した.第5病日には全身の紅斑はほぼ消退し,第7病日より顔面を中心に落屑がみられ,第16病日より手足の落屑がみられた.当院では今回報告例と合わせ7例のTSS(2例のprobable TSSを含む)を経験している.女性にやや多く,平均年齢36歳,誘因別では咽頭炎が最多であった.皮膚症状は全例に出現し,発熱,消化器症状の出現後,血圧低下と前後して認められる傾向にあった.7例のうち6例で典型的な日焼け様紅斑がみられたが,1例では両腋窩・腹部主体に淡紅斑がみられるのみであった.

皮疹を契機に気管支・肺結核を発見した結節性結核性静脈炎の1例

著者: 鈴木琢 ,   皆見春生 ,   河谷清美 ,   角田裕美 ,   岡井隆広

ページ範囲:P.731 - P.733

要約 37歳,女性.肺結核疑いにて2年前にイソニアジドを予防投与された既往がある.初診2か月前より両下腿に皮疹が出現し,徐々に拡大した.初診時,両下腿に線状の索状硬結とその近傍に浮腫性紅斑を認めた.病理組織学的に,皮下脂肪織の比較的大きな静脈の周囲にリンパ球主体の炎症細胞浸潤,内腔に乾酪壊死を伴い多核巨細胞を含む類上皮細胞性肉芽腫を認めた.結核疹を疑い精査したところ,ツベルクリン反応強陽性,胃液PCR法にて結核菌陽性であった.胸部X線では左上肺野の小粒状影,胸部CTで左肺尖部の散布像を伴う多発小結節,気管支鏡で気管支/肺結核を認めた.以上より,気管支・肺結核を伴った結節性結核性静脈炎と診断した.4剤(INH,RFP,EB,PZA)併用療法が奏効した.

治療

肝斑に対するDH-4243(トラネキサム酸配合経口薬)の多施設共同無作為化比較試験

著者: 川島眞 ,   川田暁 ,   滝脇弘嗣 ,   水野惇子 ,   鳥居秀嗣 ,   林伸和 ,   乃木田俊辰 ,   秋吉栄美子 ,   吉原伸子 ,   渡辺千春 ,   山田美奈 ,   藤井啓子 ,   森俊二

ページ範囲:P.735 - P.743

要約 肝斑に対するDH-4243(トラネキサム酸配合経口薬)の有効性および安全性を,ビタミンC製剤を対照薬とする多施設共同無作為化比較試験により検討した.肝斑患者231例にDH-4243またはビタミンC製剤のいずれかの薬剤を1回2錠,1日3回毎食後に8週間経口投与し,色素沈着改善度をスキントーン・カラースケール,写真判定および画像診断などにより評価した.スキントーン・カラースケールによる色素沈着改善率は,DH-4243群60.3%,ビタミンC製剤群26.5%であり,両群間に有意な差が認められた(χ2検定:p<0.001).また,自覚症状改善度,写真判定および画像診断においてもDH-4243群で有意に高い改善効果が得られ,安全性に問題は認められなかった.以上より,DH-4243の肝斑に対する有用性が確認された.

色素沈着症に対するDH-4243(トラネキサム酸配合経口薬)の多施設共同オープン試験

著者: 川島眞 ,   川田暁 ,   滝脇弘嗣 ,   水野惇子 ,   鳥居秀嗣 ,   林伸和 ,   乃木田俊辰 ,   秋吉栄美子 ,   吉原伸子 ,   渡辺千春 ,   山田美奈 ,   藤井啓子 ,   森俊二

ページ範囲:P.745 - P.752

要約 顔面の色素沈着症〔肝斑,老人性色素斑(日光性黒子),炎症後色素沈着症〕に対するDH-4243(トラネキサム酸配合経口薬)の有効性および安全性をオープン試験により検討した.色素沈着症患者73例にDH-4243を1回2錠,1日3回毎食後に8週間または16週間経口投与し,色素沈着改善度をスキントーン・カラースケール,画像診断および患者の印象により評価した.スキントーン・カラースケールによる色素沈着改善度は,8週間投与では,老人性色素斑37.9%(11/29),炎症後色素沈着症14.3%(1/7),16週間投与では,肝斑80.0%(4/5),老人性色素斑44.8%(13/29)であった.老人性色素斑については8週間投与に比較して16週間投与で改善率が高かった.また,安全性において特に問題は認められなかった.以上より,DH-4243の各種の色素沈着症に対する有用性が確認された.

連載

アメリカで皮膚科医になって(16)【最終回】

著者: 藤田真由美

ページ範囲:P.754 - P.756

電子カルテ(Electronic Medical Record)

 以前,前連載「米国皮膚科医への道」で,アメリカの外来診療に欠かせないのが綿密なカルテ作成と書いたが,このカルテ制度が最近変わってきた.カルテは文書の保管に必須であるが,スペース,管理の問題,また最近のコンピュータ技術の発達により,カルテを電子化しようという動向が全国で急速に進んでいる.これによりデータは永久に保存され,また,最終的にはすべての病院のカルテや情報がネットワークを通じて得ることができるようになる.もちろん,個人情報の秘密は厳守され,医療機関など特定の場所や人物でないと情報が得られないような仕組みは必要だが.これによって,引っ越しをして別の土地へ移っても,旅行中に怪我や病気をしても,以前のカルテ情報(既往歴,手術,薬,アレルギーなど)が即座に入手でき,手早く適切な治療を受けることが可能となる.

 その始めの試みとして,コロラド大学皮膚科では,文書口述タイプ以外のカルテなどをスキャンしてみたが,手間がかかるのと,スキャンしても医師の汚い手書き文書は判読不能なことが多く,また文書でなく画像としてコンピュータに保存されるので容量をとることもあり,しばらくして中止となった.

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あとがき

著者: 塩原哲夫

ページ範囲:P.760 - P.760

 趣味にも世代差がある.オーディオはその最たるもので,こういうものに興味を惹かれるのは専ら50代以降の男性である.なぜだろうと考えていくうち,ある考えに思い当たった.われわれの世代がオーディオに興味をもった青年期,アナログはまさにその最盛期を迎えていた.しかし,80年代に登場したCDに代表されるデジタル化は,安価で一定の質の再生音を多くの人にもたらした反面,趣味としてのオーディオは急速にその熱気を失っていった.その結果,オーディオはそれ以後の世代の趣味となり得なくなってしまった.この現象はオーディオに限らない.どの分野でも,デジタル化される直前に最もエネルギーが高まり,デジタル化ととともにその熱気は急速に醒めていく.

 臨床医学において診断基準や検査法の確立は,まさにデジタル化に他ならない.皮膚科で言えば,検査法としてのデスモグレイン-1,3やDIHSの診断基準の確立などがそれに相当する.このようなデジタル化により,誰でも容易に一定の診断が可能になるため,臨床家にとって(デジタル化の手段としての)検査法や診断基準の確立は,一つの夢となる.その夢を現実のものとするまでの過程は苦しみもあるが,楽しさもある.しかし,それがいったん確立されてしまうと,その後の世代は,それを当然のこととして受け取り,そこに至る過程を全く考えなくなる.デジタル化される前のアナログの世界では多様性が許されるため,人々はその違いを討論する厳しさと楽しさを味わうことができる.われわれより前の世代の方々が,学会で口角泡を飛ばして議論していたことの多くは,このようなアナログの差違だったのではあるまいか? 夢を現実のものとした結果が,逆に未来の人々の夢を奪うとしたら,それは何と皮肉なことだろうか?

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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