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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科62巻5号

2008年04月発行

雑誌目次

特集 最近のトピックス2008 Clinical Dermatology 2008 1. 最近話題の皮膚疾患

複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome)の皮膚症状

著者: 荒木絵里 ,   西川深雪 ,   谷岡未樹 ,   宮地良樹 ,   宇谷厚志

ページ範囲:P.8 - P.12

要約 複合性局所疼痛症候群(CRPS)は外傷などを契機に主に四肢に発症する,進行性の慢性疼痛性疾患である.進行すれば耐えがたい痛みに加え,不可逆的な廃用障害が起こり,ADL (activity of daily living)の低下を招く.CRPS発症の予測は困難であり,皮膚生検や静脈採血程度の侵襲も誘因となりうる.発症後は可能な限り早期に治療を開始することが重要とされている.われわれは,強皮症様の皮膚変化を呈した症例,および進行性の斑状の皮膚萎縮を主訴に受診してCRPSと診断された症例を経験した.CRPSは浮腫,皮膚色・皮膚温・発汗の異常,皮膚・毛・爪の萎縮など多様な皮膚所見を呈するため,これらが診断の契機となる場合がある.したがって,皮膚科医も診断のポイントを熟知し,CRPSの疑いのある症例については迅速に麻酔科・ペインクリニックへのコンサルトを行うべきである.

タクロリムス軟膏による酒皶様皮膚炎

著者: 入澤亮吉 ,   藤原尚子 ,   坪井良治

ページ範囲:P.13 - P.16

要約 近年,タクロリムス軟膏による酒皶様皮膚炎の報告が相次いでいる.特に長期連用患者に多く発症し,臨床症状はステロイドによる酒皶様皮膚炎と酷似する.組織学的には毛包周囲の炎症性細胞の浸潤,類上皮細胞肉芽腫およびその周囲の毛細血管拡張を示し,ステロイドによるものと異なり表皮の萎縮を伴っていなかった.長期連用に伴う局所免疫能の低下に起因する毛包内での微生物叢の変化が一因と思われた.一般に酒皶様皮膚炎はステロイドを顔面に使用することにより生じる医原病と定義されるが,タクロリムス軟膏によっても同様症状が惹起されることから,定義に若干の変更が必要と考えられた.

類天疱瘡の最近の話題―抗p200類天疱瘡と抗ラミニン332粘膜類天疱瘡

著者: 橋本隆

ページ範囲:P.17 - P.21

要約 最近,類天疱瘡に類似する疾患概念として,抗p200類天疱瘡と抗ラミニン332(ラミニン5,エピリグリンとも呼ばれる)粘膜類天疱瘡が知られるようになった.抗p200類天疱瘡は,主に,尋常性乾癬に水疱を示す症例や小水疱型類天疱瘡の臨床症状をとる症例にみられる新しい型の自己免疫性水疱症である.真皮抽出液を用いた免疫ブロット法で200 kDa抗原と反応するが,この抗原の性質はいまだ明らかとなっていない.

 抗ラミニン332粘膜類天疱瘡は口腔内や眼の粘膜の水疱・びらん性病変を示し,喉頭病変も高率にみられる.失明に至ったり,呼吸困難をきたす症例もある.血中にIgG抗表皮基底膜部抗体を示し,この抗体は免疫沈降法や免疫ブロット法による検索で,ラミニン332のα3,β3,γ2の各種のサブユニットに反応する.最近,胃癌をはじめとする各種の内臓癌を高率に合併することが知られるようになった.

輸入皮膚感染症

著者: 石井則久 ,   関根万里 ,   渡辺朋美 ,   朝比奈昭彦

ページ範囲:P.22 - P.26

要約 交通機関の発達により,人,動植物,物の流通が頻繁になっている.それに伴い,日本に「輸入」される皮膚感染症も増加している.輸入皮膚感染症は熱帯地方の感染症が多いが,本邦では診療する機会が少ないため,診断・治療に遅滞が生じることがある.初診時の問診アンケートなどに,外国人であれば出身国や既往歴・家族歴を,日本人であれば海外渡航歴などの項目を追加する.また,インターネットなどで世界の感染症の情報を常に更新しておくことも必要である.

日本における黒癬

著者: 平良清人 ,   安里豊 ,   山本雄一 ,   細川篤 ,   上里博

ページ範囲:P.29 - P.33

要約 黒癬は熱帯,亜熱帯に多くみられ,Hortaea werneckiiにより起こる表在性黒色皮膚真菌症である.病変は主に手掌,手指に多く発生し,ときに足蹠にも生じる.日本での黒癬の分布は,沖縄県が最も多く,九州,四国,本州でも発生しており,今までの報告では石川県が北限である.最近では,地球温暖化に伴い黒癬が北上する可能性も懸念されている.また,H. werneckiiは眼内,血液,脾臓膿瘍から分離された報告もあり,黒癬は単に皮膚のみに限局する表在性真菌症ではなく,全身性疾患を引き起こす日和見感染症としてとらえ直す必要がある.

2. 皮膚疾患の病態

アトピー性皮膚炎におけるフィラグリンの異常

著者: 秋山真志

ページ範囲:P.36 - P.40

要約 アトピー性皮膚炎の発症には,多様な病因が絡んでおり,その病像は,多岐にわたる増悪因子が複雑に相互作用して作り上げていると考えられている.アトピー性皮膚炎患者の一部は,角層のバリア機能障害を基礎として発症していると予想されていた.2006年,英国人において,表皮バリア関連蛋白の一つで,顆粒層のケラトヒアリン顆粒の主成分であるフィラグリンの遺伝子変異がアトピー性皮膚炎の重要な発症因子であることが示され,フィラグリン遺伝子変異による皮膚バリア機能異常がアトピー性皮膚炎発症と深く関係していることが認知された.2007年,われわれはヨーロッパ以外では初めて,日本人においてフィラグリン遺伝子変異を同定した.さらに,われわれの同定した東洋人に固有のフィラグリン遺伝子変異は,日本人におけるアトピー性皮膚炎の重要な発症因子であることを示した.

乾癬性関節炎の病態と治療―生物製剤が効くのか

著者: 谷口敦夫

ページ範囲:P.42 - P.45

要約 乾癬性関節炎(PsA)は多彩な臨床所見を呈し,多くは慢性に経過するうちに骨破壊を生じる疾患である.現在,日本ではメトトレキサート,スルファサラジン,シクロスポリンなどを用いた治療が行われている.しかし,これらの薬物の有効性を示すエビデンスは少なく,有効性も弱いと考えられている.PsAの病因はいまだ不明である.しかし,病変部の免疫学的な解析によりTNFαが重要であることが指摘されている.このことは,最近報告されたPsAに対するTNF阻害薬の有効性によっても裏付けられている.TNF阻害薬であるエタネルセプト,インフリキシマブ,アダリムマブは,いずれも良質な臨床研究によって末梢関節炎に対する有効性のみならず,骨破壊抑制や身体障害度の改善効果を有することが確認されている.脊椎病変や骨びらん以外の骨病変への有効性,長期効果について今後の検討が必要である.

皮膚血管炎および血管炎を伴わない血管炎類似疾患

著者: 陳科榮

ページ範囲:P.46 - P.50

要約 皮膚血管炎は組織学的に真皮小血管の血管炎と皮下組織の筋性動静脈炎とに分けることができる.それぞれの組織診断基準について提示した.真皮の血管炎は主に細静脈炎であり,Henoch-Schönlein紫斑病や原因不明の皮膚限局性のものが多い.皮下組織の動脈炎を呈する疾患は皮膚型結節性動脈炎が多いが,他の疾患にもみられる.真皮小血管と皮下組織の筋性小動脈がともに侵される疾患は,ANCA関連血管炎などの全身性血管炎疾患にみられる.血栓性静脈炎は組織学的に動脈炎と間違えられやすい.下腿筋性動静脈の区別は,内弾性板の有無よりも血管壁の構造と弾性線維の多さで評価する.血管炎類似疾患は炎症性細胞浸潤による血管の破壊像はみられないが,多様な原因による閉塞性病変または出血性病変を生ずるため,血管炎と同様の臨床所見を呈する.しかし,両者の治療法はまったく異なる場合もあるので,決め手となる病理組織所見によって診断する必要がある.

線維芽細胞の機能は皮膚の部位により異なる―創傷治癒の観点より

著者: 高橋健造 ,   安田正人 ,   石川治 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.51 - P.56

要約 ヒトの皮膚は,頭部・顔面・口唇・軀幹・掌蹠など体の部位により異なる形態や生化学的な特性を呈し,各部位に適した機能を果たす.この部位による皮膚の違いは,毛包や脂腺などの多寡や表皮角化細胞の特徴などにより説明されてきたが,最近になり真皮線維芽細胞もその生化学的な特性を変化させていることが明らかとなってきた.

 われわれは,この真皮線維芽細胞の部位特異的な形質を明らかにするため,主に軀幹・掌蹠・口腔粘膜の線維芽細胞が発現する細胞外基質および接着因子の遺伝子発現,ならびに増殖能を比較検討した.その結果,軀幹由来の線維芽細胞では,フィブロネクチンやインテグリンα5β1,carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule (CEACAM)-5が特異的に発現するなど,部位による線維芽細胞の生化学的な違いが明らかとなった.さらに口腔粘膜に由来する線維芽細胞の高いbFGFへの感受性も明らかとなり,それぞれの部位での創傷治癒に対する反応性の違いも示唆される結果を得た.

制御性T細胞と皮膚疾患

著者: 小野昌弘

ページ範囲:P.57 - P.61

要約 通常のT細胞は細胞性免疫の中心的細胞として免疫反応を誘導し,病原体を排除するが,病的免疫反応である自己免疫反応なども引き起こしうる.一方で,一部のT細胞は,広範な免疫反応を抑制する機能を持つように分化することが知られている.このような免疫調節性T細胞の中で,転写因子FoxP3により機能が制御されるCD4+制御性T細胞(naturally occurring regulatory T cells:Treg)が現在最もよく解析され,理解が進んでいる.実際にTregの先天的欠損は,自己免疫病・アレルギー疾患・炎症性腸疾患の原因となる.また,通常の自己免疫疾患においても,Tregの異常が病態に関与していることが明らかになりつつある.一方で,悪性腫瘍においては,有益な抗腫瘍免疫反応を抑制することでTregが病態進行に寄与するという知見が積み上がってきている.こうした疾患の病態におけるTregの役割を明らかにすることは,Tregを制御することを通じた免疫制御という新しい治療につながる可能性がある.

3. 新しい検査法と診断法

食物依存性運動誘発アナフィラキシーの運動負荷試験

著者: 森田栄伸 ,   河野邦江 ,   松尾裕彰

ページ範囲:P.64 - P.67

要約 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)は食物アレルギーの一病型で,食物抗原に対するIgEを介した即時型反応である.しかし,原因食物を摂取しただけでは症状は再現されず,運動などの二次的な要因が必要であり,確定診断は容易ではない.このため,原因食品を同定するため運動負荷試験が行われている.負荷試験の方法は現在一定のものはなく,また再現性も必ずしも高くない.本稿では,島根大学医学部附属病院で行っている小麦による運動負荷試験の実際を紹介する.

Drug-induced hypersensitivity syndrome(DIHS)におけるウイルス検査―何をどのタイミングで依頼するか

著者: 藤山幹子 ,   橋本公二

ページ範囲:P.68 - P.71

要約 Drug-induced hypersensitivity syndrome (DIHS)は重症薬疹の一型であるが,経過中にヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)を中心とするヘルペスウイルスの再活性化を伴い,種々の要因が複合して病態を形成する.DIHSにおけるウイルス検査は必須であるが,臨床の場でそれほど頻繁に検査することは難しい.HHV-6では再活性化前後でIgG抗体価の検査を,サイトメガロウイルスでは病態に応じて抗体価や抗原血症検査などを行うことが必要である.

血管炎の検査法―特に画像診断

著者: 川名誠司

ページ範囲:P.72 - P.75

要約 血管造影で観察できる動脈は大動脈,中動脈,そして一部の小動脈であり,対象となる血管炎は大動脈炎症候群,側頭動脈炎,Behçet病(血管型),結節性多発動脈炎などである.大血管ではCT angiography,MR angiographyによる血管三次元画像が普及しつつある.小血管レベルの血管炎は血管造影では描出できず,単純X線撮影,CT,MRIなどの画像検査が血管閉塞などに付随して生じる臓器の二次的形態変化や合併症を観察する目的で施行される.対象は,顕微鏡的多発血管炎,アレルギー性肉芽腫性血管炎,Wegener肉芽腫症などである.静脈に関しては比較的大きな静脈が罹患するBehçet病が画像検査の対象となる.これらの血管炎の画像について実例を示した.

基底細胞癌の高周波エコー所見

著者: 宇原久 ,   林宏一 ,   古賀弘志 ,   斎田俊明

ページ範囲:P.76 - P.79

要約 基底細胞癌(basal cell carcinoma:BCC)の約半数の症例には,高周波(30または15MHz)エコーで多数の高輝度斑が認められる.この所見は病理組織学的に病巣内の石灰化に起因するが,腫瘍胞巣内部の角化やアポトーシスあるいは壊死に陥った腫瘍細胞の集塊も関係している可能性がある.特に石灰化を反映する多発性の綿花状高輝度斑はBCCに特徴的な所見であり,悪性黒色腫(malignant melanoma:MM)には認められない.ただし,多発性の高輝度斑はtrichoepithelioma(trichoblastoma)にも認められるため,石灰化を伴いやすい毛包系腫瘍とは鑑別できない.

皮膚T細胞性リンパ腫のリンパ節病変評価とPET/CT

著者: 浅越健治

ページ範囲:P.81 - P.86

要約 皮膚T細胞性リンパ腫(cutaneous T-cell lymphoma:CTCL)を中心とする皮膚リンパ腫の病期決定上,リンパ節の評価は皮膚病変の評価に次いで重要である.理学所見,画像検査を参考に診断価値の高いリンパ節を選択して生検し,病理組織学的に評価する必要がある.画像検査のうち,PET/CTは全身のスクリーニング,空間的評価,質的評価を同時に行える有用な検査であり,FDGの取り込みの程度がリンパ節病変の組織学的評価とある程度相関することが示されている.超音波検査も質的診断に有用で,簡便かつ非侵襲的なことが利点である.生検したリンパ節は分割して診断に必要な検査をもれなく行う.病理組織学的にはDutch systemおよびNCI-VA分類に基づいて分類し,CTCLの新病期分類(ISCL/EORTC,2007)に反映させる.

4. 皮膚疾患治療のポイント

乾癬の光線療法と外用療法のcombination therapy―安全に対する新たな見解

著者: 森田明理

ページ範囲:P.88 - P.92

要約 乾癬治療において,第一選択薬である外用ステロイド・ビタミンD3,第二選択薬である低用量シクロスポリン,光線療法(ナローバンドUVB・PUVAバス)を重症度や,皮疹,病型に従って治療すれば,寛解導入は比較的容易となった.このように多岐にわたる治療方法が可能となった現在,安全性に関しても十分な配慮をしなければならない.ビタミンD3外用薬は,ステロイド外用薬と違い,皮膚萎縮・毛細血管拡張・感染症の誘発などの副作用を認めず,寛解期間は長いというメリットがあるが,副作用として局所の刺激感,高カルシウム血症があり,特に高カルシウム血症のリスク因子は十分に理解する必要がある.光線療法を含め,新たにビタミンD3との併用療法を始める際には,高カルシウム血症に注意する必要がある.名古屋市立大学医学部附属病院での解析を含め,安全性が高く,効果の得られる乾癬治療の提案をしたい.

皮膚科医が展開するフットケアとネイルケア

著者: 加藤卓朗

ページ範囲:P.94 - P.97

要約 足と爪の治療とフットケア,ネイルケアを区別し,皮膚科医の役割を考察した.皮膚科医は日常診療で患者数の多い,足と爪の疾患の診断と治療を担当している.リスクの高い患者の脚の切断を防ぐために複数の科が連携・協力して行うチーム医療においても,足と爪の専門的な評価,早期病変の診断と治療を担っている.狭義のケアを日常,医療,美容に分けた.自宅などで健康な足や爪に行う日常のケアでは,爪切りの可否の判定,注意点の指導,トラブル発生時の対応などが期待される.病院スタッフが行う医療的ケアは評価(アセスメント),指導・教育,実際の行為に分類できるが,皮膚科医の役割は多い.美容的ケアにも議論すべき問題が多い.日本にはない外国の治療やケアの専門的な理論や手技に関しては,皮膚科医が学び診療に応用する,取得した専門家と連携するなどの方策もある.

天疱瘡の口腔内病変に対するシクロスポリン含嗽療法

著者: 松岡晃弘 ,   矢島健司 ,   渡部秀憲 ,   川上民裕 ,   相馬良直

ページ範囲:P.98 - P.101

要約 シクロスポリン内用液含嗽療法は,扁平苔癬や天疱瘡による難治性口腔内病変に対して,その有効性が報告されている.筆者らは,78歳の女性の天疱瘡患者の,ステロイド内服治療に抵抗する口腔内病変に対し,ネオーラル®内用液含嗽療法を行い,その良好な治療効果を確認した.含嗽時に口腔内灼熱感と疼痛がみられたが,粘膜症状の改善とともに軽減した.その他の副作用はなく,シクロスポリンの血中濃度も測定感度以下であった.シクロスポリン内用液は天疱瘡に対する保険適用がなく,含嗽という投与形態も認められていないため,天疱瘡に対するシクロスポリン内用液含嗽療法は安易に行ってよい治療法ではない.しかし,適切に使用すればほとんど副作用はなく,高い効果が期待できることから,ステロイド増量や免疫抑制薬内服が困難な患者に対しては,十分なインフォームド・コンセントを得たうえで,試みてもよい治療法であると思われた.

壊疽性膿皮症に対する顆粒球除去療法

著者: 大熊慶湖 ,   池田志斈

ページ範囲:P.102 - P.105

要約 壊疽性膿皮症(pyoderma gangrenosum:PG)は,その発症に活性化された好中球の関与が示唆される破壊性炎症性疾患である.治療としては,一般的に副腎皮質ホルモンや免疫抑制薬の投与が行われるが,反応性が乏しいことも多い.顆粒球除去療法は,合併疾患である潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)での有効性が知られており,またUCにたびたび合併するPGへ応用される可能性が出てきている.筆者らは,治療に苦慮した難治性壊疽性膿皮症に顆粒球除去療法を適用し,きわめて良好な結果を得た.副腎皮質ホルモンや各種免疫抑制薬の併用においても抑えられなかった潰瘍病変は本療法後にすべて上皮化し,血液学的検査においても著明な改善を認めた.また,各種炎症性サイトカインを測定したところ,治療前後におけるIL-8,G-CSFの低下が観察され,これらサイトカインが壊疽性膿皮症の病態生理に関与している可能性が示唆された.

ナローバンドUVBによる白斑治療

著者: 菊池かな子

ページ範囲:P.106 - P.108

要約 紫外線治療は難治性皮膚疾患に以前から用いられており,PUVA療法が40年近くの歴史とその効果から現在でも世界中で汎用されている.ナローバンドUVB (NB-UVB)は中波長紫外線領域に含まれる非常に幅の狭い波長(311±2nm)の紫外線で,PUVA治療と比較し,生活制限が少なく,照射プロトコールも容易なため,急速に世界中で普及しつつある.当初は乾癬をターゲットとしていたが,尋常性白斑でも有効性が確立されつつある.東京大学皮膚科学教室では2002年より尋常性白斑についてNB-UVB療法を開始しており,その有効性を確認している.Njooらは特に広範囲の尋常性白斑ではNB-UVBが第一選択治療であることを提唱している.ごく最近,イギリスのYonesらはランダム化した二重盲検試験でPUVAを対照として,尋常性白斑に対してNB-UVBが有意に有効であったと報告している.Manらによる長期観察で,紫外線が関与するとする悪性黒色腫,有棘細胞癌の発生率の増加は認められなかった.

円形脱毛症のステロイドパルス療法

著者: 乾重樹 ,   中島武之 ,   板見智

ページ範囲:P.109 - P.112

要約 1999年8月から2006年6月にステロイドパルス療法を行った重症型円形脱毛症139例を解析した.改善度を著効(脱毛面積の75%以上で硬毛発毛),有効(同50%以上),無効(同50%未満)とすると,全体で著効率47.5%,有効率59.0%であった.発症から6か月以上経過した症例では著効率15.8%,有効率31.6%であったが,6か月以内の治療例では著効率59.4%,有効率69.3%で早期治療の重要性が示唆された.6か月以内の治療例の著効率は,治療時の脱毛面積が50%未満では88.0%ときわめて有効であったのに対して,6か月以上の経過例での著効率はそれぞれ15.4%で有意差が認められた.以上より,発症から6か月以内で,かつ脱毛面積が50%以下の段階での治療開始が最も推奨される.

プロペシア®診療の実際

著者: 宮倉崇 ,   坪井良治

ページ範囲:P.113 - P.116

要約 わが国で男性型脱毛症の治療にフィナステリド(プロペシア®)が使用されるようになって2年が経過した.プロペシア®はテストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)への変換を抑制することで薬理作用を発揮する.内服は1日1回で有効である.1mg錠の1年間内服でやや改善以上が約6割で認められ,3年間の継続内服では,やや改善以上の割合が約8割と報告されている.プロペシア®の内服加療は保険適応外ではあるが,今までの外用剤にはない高い有効性を示しており,男性型脱毛症患者にとって大きな福音となる.副作用に関しては,頻度は少ないが肝機能障害が報告されているので注意が必要である.

イベルメクチンの有効性と限界

著者: 大滝倫子

ページ範囲:P.118 - P.122

要約 2006年より疥癬に経口薬イベルメクチンが保険適用され,医療側にも治療を受ける側にも多くの利点をもたらした.しかし,用法,用量などに問題点も多い.投薬対象は確定診断のついた疥癬患者である.幼小児,妊婦,授乳婦,髄膜炎や肝障害のある場合には投薬しない.1回投与量は200μg/kgである.投薬時間は空腹時とされているが,食後のほうが吸収率が2.6倍と高く,安全性,効果の点でも優れるという報告がある.投薬回数は普通の疥癬で1~2回とされるが,卵に効果がなく,健常人でも2回の投薬が必要である.高齢者の治癒率は2回でも75%と低く,角化型疥癬ではさらに数回の投薬を必要とする.難治例には外用薬の併用が有効である.投薬間隔はヒゼンダニの生活環からみて1週間がよい.角層には移行しないためか爪疥癬には効果がない.副作用は初回投与後に一時的な掻痒の増強,皮疹の増悪などがある.最近Stevens-Johnson型薬疹の報告もある.

性器ヘルペスの再発抑制療法

著者: 本田まりこ

ページ範囲:P.123 - P.125

 性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)1型または2型により,性器に有痛性の1ないし多数の小さい水疱や浅い潰瘍性病変を認める疾患である.2型感染の場合,頻回に再発することが多く,患者のQOLを低下させているだけでなく,性感染症の蔓延化にも結びついている.2006年9月に本邦でも承認された性器ヘルペス再発抑制療法は,少用量の抗ウイルス薬を毎日内服することにより,その再発頻度を減少させ,HSVに感染していないパートナーへの伝播の減少,ヒト免疫不全ウイルス感染者の性器ヘルペス病変部からのウイルス排泄量の減少や血中ウイルス量の減少が認められている.本治療法は1年間継続し,中止後2回の再発を持って再投与するかどうか検討することが勧められているが,筆者らの経験から少なくとも2年間は必要であると考えている.

イミキモド外用薬による尖圭コンジローマの治療

著者: 川島眞

ページ範囲:P.127 - P.130

要約 尖圭コンジローマ(condyloma acuminatum:CA)は,ヒト乳頭腫ウイルス6型,11型による性感染症(sexually transmitted disease:STD)で,他のSTDと同様に近年増加傾向にある.その治療として外科的療法が主に行われてきたが,最近,本邦においてCA治療薬としてイミキモド外用薬が発売された.イミキモドは局所において,インターフェロン-αの産生を促してウイルス増殖を抑制し,細胞性免疫応答を賦活化し,ウイルス感染細胞を傷害して,CAを治癒に至らしめる免疫反応調整薬である.本邦における5%イミキモドクリームを用いた臨床試験では,16週間の外用で63.6%のCA完全消失率が得られた.副作用は83.6%でみられ,紅斑,びらん,表皮剝離,疼痛が多かった.臨床試験成績を紹介し,本剤の特徴,使用上の注意点,将来への期待について述べた.

5. 皮膚科医のための臨床トピックス

従来の「パーカーブルーブラックインク」に代わる「パーカーブラックインク」・KOH法

著者: 帖佐宣昭 ,   江良幸三

ページ範囲:P.132 - P.134

要約 皮膚真菌症の診断において,苛性カリ(KOH)直接鏡検検査は重要であり,菌の検出を容易にするのに従来からパーカーブルーブラックインク(Parker-super-Quink permanent-blue-black-ink:Parker BB)を加え汎用されていた(パーカーブルーブラックインク・KOH法:Parker BB・KOH法).しかし,1995年までにつくられた製品だけが使用可能で,現在市販されているParker BBでは染色できず利用できない.当科では現在市販されているパーカーブラックインク(Parker-Quink black-ink)をKOH液に加えて使用し(パーカーブラックインク・KOH法:Parker B・KOH法),癜風,カンジダ症などをはじめ皮膚真菌症において菌要素がきれいに青染されることを確認している.筆者らが行っているParker B・KOH法は,従来のParker BB・KOH法と比較しても遜色なく,菌要素がきれいに青染され,実地診療上,真菌の直接鏡検検査としてきわめて有用である.

病棟往診における携帯型小型顕微鏡

著者: 古田淳一

ページ範囲:P.135 - P.136

要約 病棟に往診する際,鏡検する環境に恵まれないためにそれを省き,結果として診療の質が低下していることがあった.携帯に便利な小型顕微鏡を入手して使ったところ,日常臨床の実用に耐えうるものであったので紹介する.疥癬と白癬の診断,Tzanck試験には問題なく使用できた.カンジダはバックグラウンドが汚いと見づらいが,たいていは診断できる.

強皮症肺動脈性肺高血圧症に対する新規治療―エンドセリンレセプター拮抗薬とPDE5阻害薬

著者: 濱口儒人

ページ範囲:P.137 - P.139

要約 全身性強皮症をはじめ膠原病に合併する肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)は,予後を規定する内臓合併症の1つである.これまでのPAH治療には限界があり,満足な結果が得られることは少なかった.最近,エンドセリン受容体拮抗薬であるボセンタンとPDE5阻害薬であるシルデナフィルがPAHに有効であることが明らかにされ,PAHに対する治療戦略に新たな選択肢が加わった.どちらも経口投与が可能であり,肺血管選択性に優れ,急性効果に加え慢性効果も有している.このことは,われわれ臨床家にとって朗報である.一方,どちらも新規の薬剤であり,予想されない副作用が生じる可能性もある.実際,本邦ではボセンタンによる肝障害の頻度は欧米よりも多い印象がある.したがって,有効性に加え,長期にわたる安全性に関しても今後症例を蓄積し,さらなる評価が必要と考えられる.

非アルコール性皮膜CavilonTMを用いた尋常性白斑のメーキャップ法

著者: 谷岡未樹 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.140 - P.142

要約 尋常性白斑は皮膚科外来において頻繁に遭遇する疾患であるが,その治療法に決定的なものはなく,治療に難渋することも多い.そのため,尋常性白斑のメーキャップにさまざまな隠蔽化粧品が開発されてきた.それら化粧品の進歩により白斑を目立たないようにカバーすることが可能になってきている.さらに,メーキャップにより尋常性白斑患者のQOLが上昇することが知られている.しかし,メーキャップの欠点として,汗や水刺激によりカバーがとれてしまうことが挙げられており,患者のQOLを損ねている.本稿では,カバーを長持ちさせる工夫として非アルコール性皮膜CavilonTM(3M社)を使用する方法を紹介する.

油症の現況

著者: 吹譯紀子 ,   内博史 ,   柴田智子 ,   上ノ土武 ,   古江増隆

ページ範囲:P.143 - P.145

要約 カネミ油症が発生してから40年が経過しようとしているが,油症患者の多くは依然として油症の症状に苦しんでいる.油症研究治療班では長年データの蓄積と治療法の確立に努めており,近年も新たな知見が得られている.①比較的少量の血液からダイオキシン類を測定することが可能となり,測定値を項目に含む新たな診断基準を作成した.②油症特有の皮膚症状は現在でも患者の約3割に存在し,少数ながら重症例も認められる.③油症患者において骨・関節疾患が正常人に比べて増加している可能性があり,今後詳しく検討する.④油症に対する有効な治療法の確立のために,漢方薬やコレスチミドの内服による臨床試験を行っている.油症研究は患者のみならず,近年社会的に関心が高まりつつあるダイオキシンに曝露されている一般の人々の間でも関心が高まりつつあり,今後の発展が期待される.

院内感染―市中感染型MRSAの出現と今後の感染対策

著者: 飯沼由嗣

ページ範囲:P.146 - P.148

要約 市中感染型MRSA(community-acquired MRSA:CA-MRSA)は,特徴的な病原因子であるPVL(Panton-Valentine leukocidin)を保有し,主に皮膚・軟部組織感染症を起こす.感受性が比較的良好であり,メチシリン耐性遺伝子も病院感染型MRSA(hospital-acquired MRSA:HA-MRSA)とは異なるタイプを示す.欧米では,PVL陽性CA-MRSAが,市中感染起炎菌として猛威をふるっており,さらには院内感染起炎菌としても頻度が上昇してきている.わが国では,PVL陽性CA-MRSAの頻度は低いが,とびひ(伝染性膿痂疹)由来黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの頻度の上昇が報告されている.従来,主に院内で感染伝播すると考えられてきた耐性菌であるが,市中での伝播蔓延に適した株による市中感染が発生してきており,これまで以上に標準予防策の徹底やハイリスク患者に対する積極的なスクリーニングが必要と考えられる.

病理診断依頼書の書き方

著者: 三浦圭子

ページ範囲:P.149 - P.151

要約 病理組織診断が皮膚科領域の疾患の病態の解明において大きな比重を占めることは周知の通りである.病理組織標本の作製から病理組織診断までの工程をすべて皮膚科で行う施設が今でもあるかもしれないが,大部分の施設では検体と依頼書を病院内の病理部や検査会社の病理部門に提出し,組織標本とレポートをのちに受け取るというプロセスを踏んでいる.病理診断によってより良い診療を達成するために,本稿では病理診断の依頼書を書く際の留意すべき事項と検体処理の注意点,術中迅速診断の適応,病理医との付き合い方について述べる.

専門医認定制度と自由標榜制

著者: 伊藤隆

ページ範囲:P.152 - P.154

 皮膚疾患は他科医が診療している比率が高く,自由標榜制の下では皮膚科専門医の存在意義が薄れかねない.専門医と標榜科の関係,岐阜県における皮膚科標榜の実態,医師と患者に行ったアンケートの結果などから,皮膚科専門医のあり方を考えた.皮膚科専門医が患者からも他科の医師からも信頼され,必要とされるためには,皮膚疾患診療の専門家としてばらつきのない,高い質を維持することが重要であろう.そのためには,専門医資格更新制度を改める必要があると考え,「参加単位」と「評価単位」および「認定指導病院」の制度の導入を提唱した.

皮膚科専門医制度の現状と課題

著者: 伊藤雅章

ページ範囲:P.155 - P.157

要約 皮膚科専門医制度は,昭和41(1966)年発足以来,40年以上の歴史があり,現在,皮膚科専門医数は約6,000人である.これまで研修カリキュラム,研修施設,資格申請要件,認定試験,資格更新要件などが整備され,皮膚科専門医制度は充実してきている.しかし,研修施設や指導医の基準あるいは更新要件のあり方などに改善の余地があり,また最近の日本専門医認定制機構や日本がん治療認定医機構などの活動に鑑みて,皮膚科専門医制度のいっそうの充実を図る必要がある.皮膚科専門医取得後に特定の分野に特化した指導専門医の認定も始まった.

皮膚悪性腫瘍指導専門医とは

著者: 斎田俊明

ページ範囲:P.158 - P.160

要約 がんは今なお日本国民の死因の首位を占めており,社会的関心も高い.がん診療をめぐっては,国の施策や専門医制度に関し,最近,大きな動きがみられている.2007年度に「がん対策基本法」が制定され,がん診療連携拠点病院などの指定,整備も進められている.他方,がん関係の専門医制度については,がん治療認定医機構が発足し,2007年度から「がん治療認定医」の認定を開始した.臨床腫瘍学会も「がん薬物療法専門医」の認定を開始している.そのなかで,日本皮膚科学会は「皮膚悪性腫瘍指導専門医制度」を発足させ,2007年度から認定作業を開始した.日本の皮膚科医は,これまで皮膚腫瘍については診断から各種治療法に至まで,第一線に立って担当してきた.皮膚悪性腫瘍のすべてを熟知した皮膚科医が果たす役割は,今後さらに高まるものと考えられる.

美容皮膚科・レーザー指導専門医とは

著者: 古江増隆

ページ範囲:P.161 - P.162

要約 わが国における美容皮膚科診療は,日本美容皮膚科学会を核としながら,ここ数年の間に急速に拡大しつつある.美容皮膚科領域への社会ニーズの増大・多様化とともに,皮膚科女医の増加という現象は,美容皮膚科領域を学問的にもしっかりとした形で大きく前進させ,もって皮膚科全体の飛躍と専門性の向上を推し進めるとともに,その社会への還元を図るべきとの意見が8年ほど前から湧出してきていた.数年にわたる検討の結果,2007年より日本皮膚科学会美容皮膚科・レーザー指導専門医制度が発足した.本制度の紹介と美容皮膚科診療の問題点について概説した.

Derm.2008

とびひ事件

著者: 吉成康

ページ範囲:P.41 - P.41

 わが家の長男の話ですが,長男は生後間もないころから顔面の湿疹がひどく,顔面や体にはいつも搔破痕ができていました.乳児脂漏性皮膚炎またはアトピー性皮膚炎と考えキンダベート®軟膏の外用を開始し,これによりしばらく良い状態を保っていました.もうすぐ1歳になる7月のある暑い時期に,額から頭頂部にかけて点状の痂皮が付着するようになり,強いかゆみを伴っていました.暑さのために湿疹が悪化したのだろうと考え,キンダベート®軟膏をいつもより多く塗ってみましたが,一向によくなりません.でもまあそういうこともあるだろうと考え,そのまま様子をみていました.ある日,妻が長男の10か月健診に行ってきました.私が仕事から帰ると,「健診に行ったら,先生が長男を見た瞬間,額を指さして『あっ,ここにとびひがあるね』といわれ,セフゾン®細粒を処方された」とのこと.よく見ると,付着している痂皮はやや黄色調であり,周囲の皮膚は少し赤く腫れぼったい感じでした.「そうか,とびひなのか,そう言われればそうかもしれない.まあでも湿疹にちょっと二次感染したぐらいかな,セフゾン®を飲めば少し良くなるかもね」などと妻に話していましたが,びっくりしたことに,セフゾン®細粒を内服して翌日には,ちょっと良くなるどころか,完全に治っていました.昨日までなんとなく不機嫌っぽかった息子の顔も笑顔になっていました.セフゾンの効果に驚くとともに,あれは湿疹ではなく伝染性膿痂疹であったかと考えを改めました.

皮膚科としてのアピール

著者: 松本賢太郎

ページ範囲:P.41 - P.41

 管理診療会議などでの各科別稼働額表をみたときに,皮膚科は一人あたりの診ている患者数は一番多いくらいなのに,売り上げはというと最下位を争うくらいであるのにはやりきれなさを感じます.手術件数やMRIなどの画像検査が多くなると多少は額が高くなりますが,それでも他科に差をつけるほどにはなりません.皮膚科診療においては処置点数がなかなかとれない構造上は,現時点ではどんなにあがいても仕方ないと開き直っていますが,勤務医の先生方は会議の場でどのような心境でしょうか.今のところは周囲からの皮膚科の現状に対する理解はあるものの,今後,皮膚科の立場や存在は,次第に薄いものになってしまうのではと,特に私のところのような2人で診療している皮膚科では心配になります.何か他科の先生にインパクトを与えられるものはないかと探してみるのですが,診療上もその機会が頻繁にあるわけではありません.上腕の発赤が蜂窩織炎としての抗生剤治療で良くならず紹介受診,浸潤が強く皮膚リンパ腫を疑い,結果はNK cellリンパ腫であったこと.ウテメリン®の薬疹疑いでは,症状と経過の矛盾と陰部のびらんからクロマイ®腟錠が原因薬と考えられたこと.カポジ水痘様発疹症でしょうか,いや痂皮性膿痂疹です.専門科の診察はさすがに違うとアピールできる出来事は,日常的にはあまり多くはないかもしれませんが,日々診療技術・能力の研鑽を重ねてアピールしていくことが,皮膚科の地位向上(?) にもかかわることと思うこの頃です.

爪切りの話

著者: 青島有美

ページ範囲:P.12 - P.12

 外来で,よく患者さんの足の爪を切っています.周りの皮膚科医に聞いてみると,初診時には真菌検査のために爪を削ることはあっても,その後も爪を切るという人はあまりいないようです.

 目的は白癬で厚くなった爪を少しでも薄くして治療効果を高めるためであったり,爪の正しい切り方を教えるためであったりします.初診時には,まず真菌検査用に爪を少し削り,苛性カリで検体が溶けるのを待つ間に爪を切ります.そして,今度は顕微鏡を覗いている間に,患者さんに靴下と靴を履いていてもらうと,比較的スムーズに診察が進みます.

皮膚科の疾患はわかりにくい?

著者: 河内繁雄

ページ範囲:P.21 - P.21

 「皮膚科の疾患はわかりにくい」「難しい漢字が多すぎる」「病名を聞いてもイメージがわかない」.いずれも医学部学生諸君の感想である.確かに若い頃の自分を思い返してみても,同じような感想を抱いていた.「尋常性疣贅」「扁平苔癬」「菌状息肉症」確かに字面をみてもイメージはわきにくいし,尋常性などという言葉はいかにも古めかしい.先輩医師に聞いたところによると,古い時代の皮膚科の大御所には文人も多く,漢文や漢詩に造詣の深い先達がドイツ語を翻訳した際に,こういった難しい漢字を当てたためだという.皮膚科用語の意味や語源を探ることは愉しみの一つではあるが,現代の若者には,いささか時代がかったイメージは払拭しきれないのかもしれない.

衛生説

著者: 橋爪秀夫

ページ範囲:P.26 - P.26

 ちょっと意外なことだが,と同期の友人が切り出した.患者の前で“指導”されたことを不服として,若い医師が,突然登校拒否ならぬ“通勤拒否”を起こしたらしい.詳しい事情はわからないが,全く唐突なことで驚いたという.なんとなく他人事ではすまされないような危機感をもった.人間関係を結ぶことが不得手である若者が増加していると聞く.もしかしたら,医療の世界にもこのような若者たちが増えているのかもしれない.

 近年の恐るべきコンピュータの発達は,コミュニケーションの形態を大きく変えてしまっている.隣に座っているのに,メールで会話するという嘘のような話がすでに現実となっているのだ.社会もこの恩恵によって,人を介さないシステムが主流となりつつある.一方,いくら世の中が進んだとしても,医療や教育の世界では人との接触は不可欠だ.特に皮膚科のような小所帯では,患者さんはもとより,上司,看護師,他科の医師やコメディカルと上手くやることが,仕事を円滑にする大きな鍵となっているような気がしている.

新医師臨床研修制度の思わぬ影響

著者: 柴垣直孝

ページ範囲:P.50 - P.50

 卒後新臨床研修制度が始まり3年が経過し,地方大学では皮膚科教室だけでなく他科教室への入局者が減少している.山梨県でも勤務医の医師不足は深刻で,その影響は日常診療にも及んでいる.私が4年前より週1日非常勤医として皮膚科診療にあたっている公立病院では,1年前よりついに病院内の全常勤医が4名にまで減少した結果,入院患者の受け入れ,当直体制が機能しなくなってしまい,存続の危機に立たされている.また,外来診療も私の担当曜日には内科医2名,外科医1名,脳外科医1名の常勤医のほか,小児科,眼科,泌尿器科,耳鼻科の非常勤医が勤務しているのみである.近くには大きな病院がないため,当然,日頃大学病院ではあまり遭遇しないような疾患の依頼や診療を行う機会が多くなる.ムカデ咬症,マダニ咬症,マムシ咬症,カミキリモドキによる水疱性皮膚炎,蜂刺症によるショック,重度の接触皮膚炎などは皮膚科領域であるので対応できるが,そのほかにも外傷による切創,交通事故による挫滅創,他科で手術した創部の処置,指の骨折,痛風,壊疽した指の切断依頼もあった.おかげでこの数年で臨床医(救急医?)としての腕はめきめきと上達し,外来患者数も徐々に増加している.また,患者さんともずいぶん親しくさせていただくようになった.大学を卒業して20年,長年研究畑を歩んできた私にとって,臨床医としてかつてないほど多様な患者さんを診察している今が,一番充実している.地方の勤務医不足は,私にとっては良い方向に働いているようである.同様の経験をされている先生もさぞ多いことと推察している.このように地方の皮膚科医は,専門領域を極めるだけでなく,診察する疾患の裾野を広げてゆくことも大切であると考えている.

原典を読むことの重要性―Hypereosinophilic syndromeの診断基準を例として

著者: 乾重樹

ページ範囲:P.61 - P.61

 Hypereosinophilic syndrome(HES)の症例報告では,Chusidら1)のクライテリア,①末梢血中の好酸球数が1,500/μl以上の増加が6か月以上持続あるいは6か月以内に死亡,②寄生虫感染,アレルギー性疾患などの好酸球増加をきたす基礎疾患のエビデンスがない,③好酸球浸潤による症状や徴候(肝脾腫,基質性心雑音,うっ血性心不全,中枢神経異常,肺線維症,発熱,体重減少,貧血)の存在,が診断基準としてよく引用される.しかし,臓器障害が進展していく可能性がある疾患で,診断基準が満たされるのを確認するため1,500/μl以上の好酸球増多を6か月以上観察するというのは実際的ではない.多くの症例報告でも,この「6か月」は満たさなくてもよいとされる.では,どうしてこのような診断基準を設定したのだろう? そこでChusidらの原典を読んだところ,彼らはeosinophilic leukemiaなど他の診断名で報告されている過去の文献や彼ら自身の過去の症例のなかからHESとしてよい症例をretrospectiveに抽出した.上記クライテリアは,このretrospective studyへの組み入れ基準として記載されたものであり,実際の患者さんをprospectiveに診断するための基準,もしくはその後,診断基準として用いるべきものとして提唱されているわけではなかった.診断基準として採用されるようになったのは,Chusidらの報告の3年後,NIH(国立衛生研究所)からのHESのprospective study2)でこの基準が踏襲されてからと思われる.ただし,好酸球については,persistentな1,500/μl以上の増多を基準としているものの,「6か月」の区切りはない.近年では,異常Tリンパ球によるIL-5の過剰産生3)やFIP1L1-PDGFRαの融合遺伝子4)の関与が報告され,異常Tリンパ球,融合遺伝子の有無や骨髄所見などを組み合わせたフローチャートによる新たな分類も提唱されている5).原典を読むことの重要性を教えてくれる好例である(日本語の総説としては松村到:BIO Clinica22:628,2007が詳しい).

皮膚科医とアシンメトリー

著者: 古村南夫

ページ範囲:P.71 - P.71

 左右対称の皮疹というと,アトピーガイドラインが思い浮かぶ.皮疹の対称性でメラノーマが除外される.皮疹分布が左右対称なら内因性だが,非対称で血管神経の異常がなければ外因の病歴を熱心に聞いてしまう.

 米国留学中は,建築の市民大学講座を受講していた.昔は建築工学関係の仕事に就きたかったので熱心に勉強した.インテリアデザイン(decorating)の基本を尋ねられ面食らった.日本で考える,配色,照明などの設備,壁の材質,質感,吹き抜け,広さ,天井の高さ,採光,眺望などどうでもよい.まず中心を決め,左右対称に飾ることが基本だと.部屋に左右対称で飾れるものを探せばレンガ造りの暖炉がある.なければ立派な窓で代用.窓を飾れなければテーブルの中心に花を飾り中心を拵えなさいと.本場のリビングルームと日本の洋間の根本的な違いが左右対称性と初めて悟った.完璧な左右対称の洋風床の間がなくてはならないのだ.

皮膚科医が「診る」ということ

著者: 菅谷誠

ページ範囲:P.80 - P.80

 先日,「やけどが2か月治らない」という患者が初診で来ました.救急外来に電話したところ,「やけどは消毒しちゃ駄目ですよ.水道水で洗って下さい.消毒したら治らないですよ」と言われ,ずっと指示に従っていたそうです.診ると,明らかに二次感染を起こしていました.抗生物質の内服と局所消毒で1週間で上皮化しました.さて,電話で対応した医者はどうして診てもいない病変の処置を指示できたのでしょうか? この対応した医者が皮膚科医でないことを祈ります.ここで潰瘍に対する消毒の是非について議論するつもりはありません.皮膚科医が「診れば」,消毒が必要かどうかは明らかだと思うからです.

 臨床経験が10年も過ぎると,「毎回同じ処置(いわゆるdo処方)のために毎月来てもらうのは何だか悪いな」と感じることがあります.しかし,ステロイド外用中の患者に異型白癬や毛囊炎を発見するたびに「やっぱり診ておいてよかった!」と思います.頻回の受診を嫌がり,薬を多く要求する患者がいることも事実ですが,毎回診察だけで処方をしていない患者に「月一回でいいから診てください.先生に診てもらうだけで安心できます」と言われたこともあります.現在の保険制度では,皮膚科医が「診る」ことに格別の点数を与えられていませんが,皮膚科医自身がその重要性を忘れてはならないな,と思います.

病院なんかに行ってる場合じゃあない

著者: 冨田浩一

ページ範囲:P.108 - P.108

 数年前のある土曜日のこと,自宅に勤務先の救急外来から連絡が入った.

 「救急外来で皮膚科の患者さんが入院させろと騒いでいますが…」.行ってみると,確かに見覚えのある膿疱性乾癬の患者さんで,皮疹の悪化と関節痛で身動きがとれないとのこと.

柿の葉

著者: 林伸和

ページ範囲:P.117 - P.117

 先輩方から勧誘されて皮膚科医になって,すでに20年近くが経っている.今では新人を勧誘するようになって久しい.私が皮膚科医になった理由はいろいろある.一番印象に残っているのは,学生時代に皮膚科の研究会を手伝いに行き,その後に宴会で会食に参加したときのことである.東京は湯島天神の近くの,私の苗字と同じ名前の懐石料理の店であった.学生はいろいろな先生と接するようにとの配慮からか,私の前には北海道大学の大河原教授が座っておられた.大河原教授は,前菜の下に敷かれた柿の葉を見ながら,「柿の葉は,紅葉すると緑,赤,茶などの色が複雑に混じって,独特の風合いをもつようになる.二枚と同じものはなく,色は刻々と変化し,同じ状態を保存することもできない.その美しさは,自然のつくる芸術である.この色合いを理解するものに皮膚科医になってもらいたい」と,学生の私を相手に熱く語られた.

 皮膚科医の診断には,視診が大切であることは当然であり,色から得られる情報は多い.紅斑を伴う疾患では,色が病勢を察知する最も重要な因子になる.鮮紅色に始まり,紅色,暗紅色,赤褐色,褐色と日々変化する色が,症状や治療効果を判断する最大の根拠となる.同じ赤でも,扁平苔癬やDLEにみられる独特な灰赤色や紫赤色,固定薬疹の紅斑などは独特の色調から生検の必要性を判断する.メラニン色素に関係する疾患でも,太田母斑の青色や青黒色は真皮内メラノサイトーシスを反映し,老人性色素斑の褐色は表皮のメラニンであり,母斑細胞母斑や基底細胞癌の黒色は,真皮直下や基底層の多量のメラニンを反映している.褥瘡では,白色期,黄色期,赤色期,黒色期と色で潰瘍の深さや病期を表現し,色調から治療方針が決まってくる.

育てるということ

著者: 水川良子

ページ範囲:P.117 - P.117

 子育てをしていると,“育てる”ということの難しさを痛感することが多い.

 “育てる”という言葉には,①成長させる,養育する,②教え導く,しこむ,③おだてる,煽動する,といった意味があるとされる.成長させるにしろ,教え導くにしろ,一朝一夕になせることではない.幸い医局の後輩たちはみな優秀で,“育てる”よりも“育つ”タイプの人材ばかりだが,わが子たちに接していると,いたたまれないような時もある.一方で,学ぶべきことも多いと思うのだ.やるべきことをやらない場合にも,本人はやらなければいけないことを頭ではキチンと理解できているのだが,それを他人に指摘され指導されるとやる気がなくなるようだ.親や大人にとって当たり前であることが子どもには当たり前ではないし,「自分だったらこうするのに」と言うことは,親子でさえも言われる側の心を閉ざしてしまう.やらないのは,トラウマあるいはそれに近い状況をヒトは無意識に避けるからだと,以前に読んだことがある.負の記憶というものは心に潜伏し,結果として “やらない” あるいは “先延ばしする” 選択肢を選んでしまうらしい.“やる気が出るように叱ってよ”と要求されるのだが,これがまた難しい.親子ゆえかもしれないが,“育てる”とは容易なことではない.育てる側も育つこと,変わることが必要なのだろう.優秀な後輩に恵まれて,私自身は普段は育てることの難しさを全く感じずにすんでいるが,私の上司たちは,きっと苦労した(ている)に違いない.

抗マラリア薬

著者: 谷川瑛子

ページ範囲:P.122 - P.122

 2006年,機会あってイギリス,アメリカで臨床の現場を体験することができた.そこで目のあたりにしたのは,抗マラリア薬の膠原病症状への有効性である.

 ロンドン大学St Thomas’ Hospital, Lupus research unitの外来では,毎日約50~60名の患者が受診する.膠原病,なかでもSLE患者に対する治療に注目してみた.以前からSLEの全身または皮膚症状に抗マラリア薬(クロロキンまたはハイドロキシクロロキン)が有効であることは世界的によく知られていた事実であるが,実際どの程度有効であるかについて,薬剤を投与したことのない私には正直全くわからなかった.

検査データの信用性

著者: 藤本学

ページ範囲:P.130 - P.130

 臨床検査はいうまでもなく現代の医療に欠かせないものですが,あまり信用しすぎると落とし穴にはまることがあります.文字がいったん活字になると,あたかも真実であるような錯覚を与えることがあるのと同様に,検査データもコンピュータや伝票の上に載ると,それは正確なもので誤りなど存在しないように感じられてしまうことがあります.一例を挙げると,ELISAにおける自己抗体の陽性・陰性の判定で,正常上限をわずかに超えているような場合(例えば20以下が陰性の場合で測定値が22とか23というような場合)に自動的に陽性と判定されてしまうことはよく経験されます.しかし,これを何の疑いももたずに陽性と判断して重要な所見の一つに入れてしまうと,診断や治療の方向性などに大きく誤った影響を及ぼしてしまうこともあります.

 シアル化糖鎖抗原(KL-6)は間質性肺炎の血清学的マーカーとして有用で,皮膚科においても膠原病(強皮症や皮膚筋炎など)の診療等でしばしば測定されています.先日,皮膚科と他科のオーダーが重複してしまい,KL-6を同一患者の同一検体で2回(つまりduplicateで!)測定してしまうことが起きました.もちろんこれは許されない失態であり恥ずかしい限りですが,奇妙なことに,出てきた2つの数値には300 U/ml近い開きがあったのです.前回の値は約1,900 U/mlであり,今回の値の一方の数値をとれば「やや増悪」,もう一方の数値をとれば「やや改善」であり,正反対の解釈になってしまいます.われわれの施設だけなのかもしれませんが,KL-6は測定値が約10%はばらつくのだそうです.つまり,数値が1の位まで表示されるとそれはすべて正確なような気がしてしまいますが,有効数字は2桁程度であるわけで,1.9×103U/mlと表示するほうが現実に即しているといえるかもしれません.

新潟大学パッチ診療のご紹介

著者: 伊藤明子

ページ範囲:P.134 - P.134

 最近は,大きな学会に参加するほかには近隣の県の先生との交流もなく,少し寂しく感じる.井の中の蛙にならないよう,これでいいのかな?と試行錯誤の毎日.そこで全国の皆様に,新潟大学のパッチテスト(以後パッチ)診療についてご紹介をしてみようと思う.

 外来パッチは毎週3~6件.そのほか,病棟には「パッチ班」という3名の皮膚科医で構成される診療チームがあり,週に1~4件,クリパスに従い入院パッチを担当している.風雪で天候も悪いなか,フェリーや新幹線,列車,高速バスで来院される遠方からの患者さんも多く,週に何度も通えない場合や,治療もしながら一度に多数の検査物質を貼らざるをえない場合などが適応となる.外来でパッチに関与しない医局員も交替でチームを組む(3か月ごとに班替えの発表があり,小学校のクラス発表のときのように一騒ぎ)ので,ほとんどの医局員がパッチに携わる機会を得る.

皮膚科の醍醐味

著者: 長谷川稔

ページ範囲:P.142 - P.142

 皮膚科医になって15年が過ぎますが,数ある診療科のなかで皮膚科を選択して本当に良かったと思います.血液検査,画像検査などますます検査が複雑化しているなかで,検査に頼らずとも,皮膚症状を診るだけで即時に大半の疾患を診断したり,治療することのできるのが皮膚科だと思います.皮膚科医は,特に診断能力が問われますが,これは勉強はもちろん大事ですが,その疾患を以前に診たことがあるかどうかという経験が何より大事になってきます.また,これまで診たことのなかった疾患を初めて診断したときは,非常に感慨深い気持ちになります.

 皮膚病変から内臓疾患を診断できた場合には,皮膚科の重要性を再認識させられます.今から10年くらい前ですが,頭の疣状丘疹を主訴に来られた方を診察する機会がありました.高齢男性でしたので,脂漏性角化症と説明して液体窒素療法をしようとしましたが,納得していただけません.何となく,顔面の肌が黒ずんでいるのも気になりましたので,全身を診せてもらいました.すると,腋窩,鼠径部などの間擦部や乳暈部に,特に強い色素沈着と角質増殖による皮野の著明化,乳頭状増殖がみられ,全身に色素沈着がみられました.悪性黒色表皮腫が頭に浮かびましたので,すぐに教科書で調べたところ,典型的な症状であり,間違いないと思われました.皮膚生検で確認する一方で,胃に腫瘍がある可能性が高いと説明し,すぐに内科で上部消化管内視鏡を受けていただいたところ,進行胃癌が発見されました.残念ながら,手術にもかかわらず患者様は間もなく亡くなられましたが,皮膚症状からすぐに胃癌を発見したことには驚いたらしく,最後までとても感謝されたことが印象的でした.

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あとがき

著者: 瀧川雅浩

ページ範囲:P.164 - P.164

 冬になると枯れ枝にやってくるさまざまな鳥を見るのが楽しい.この時期,わが家の庭には,メジロ,シジュウカラなど色とりどりの鳥が群れをなして飛来する.夏は葉が茂っていて見えないが,落葉した枝から枝に飛び移りながら,虫を食べている姿がよく見える.

 今から約30年前,チャンスがあってWashington DCで開催されたFederationに参加した.学会場のホテルの中庭で,親しい内科の教授としゃべっていたときのことである.突然,木の枝に止まっている青い鳥を指しながら,「ヒロ,あれがブルージェイだよ」と教えてくれた.そのあと,彼は延々とバードウォッチの醍醐味をしゃべりだしたのである.バードウォッチャーはひそかに,しかも思いがけぬところにいるのである.その後,Cardiffで,「Shell(石油のShellです)guide to the birds of Britain and Ireland」というカラーイラスト付きのバードウォッチャーの手引きをたまたま見つけた.暇に任せ,Cardiffのあちこちを歩いてバードウォッチをした.日本に帰ってきて,同じようなガイドブックを見つけ,バードウォッチ用の双眼鏡も買った.専門家についてやっているわけではないので,いわゆるdifferential diagnosisのコツはわからないが,それでも本を見ながら庭や公園に飛んでくる鳥を眺めていると楽しい.ただ,このバードウォッチャーはバードウォッチャーの風上にも置けぬ点が二つある.一つは大のハト嫌いなのである.Cryptococcusを持っている点と,個人的には家の周辺に住み着いて夜昼なくぽっぽ,ぽっぽと鳴く公害に憤慨(糞害)したことがあるのである.もう一つは,冬の鴨鍋が大好きで,加茂川あたりの青首(まがも)を見ると涎が出てくるのである.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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